司馬遼太郎著「コロニーを行く」(三)

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ージオン公国軍
ということばを、この時期、地球出身者で構成されるティターンズ将兵たちは
毛嫌いするほどにきらった。「きゃつらは正規軍ではない。女狐めが私心をはさ
んで勝手に残党どもの幼女をかついでいるだけである」という考えであった。
敵は、アステロイド・ベルトからくる。このため、敵を、
ー流浪の残党集団
とよんだ。シロッコも、アステロイド・ベルトからくるあたらしい勢力のことを
残党どもとよんでいる。
とにかく今後の態勢だけはととのえねばならぬとおもった。
シロッコは独断でハマーンとの会見をし、それを餌にしてジャミトフ・ハイマン
をつり上げるべくジュピトリスからPMX−003ジ・オを発進させた。もちろ
ん、手なずけることに成功しつつあるレコア・ロンドも同行させてある。
会見場所であるハマーンのグワダン艦内でシロッコはジャミトフと会った。ジャ
ミトフは、
ーゼダンの門が落ちたとき、お前の姿をみなかったな。
と皮肉をいった(中略)
ジャミトフ・ハイマンという政治屋は、普通の意味では大政治家といっていい器量
をもっていた。人物眼も、政略の才もあった。シロッコはジャミトフによって地球圏
へと召還され、つぎつぎに厚遇してバスクとならぶほどの権威をあたえられたのだが、こ
のときの場合は「政治屋」としての自負を強烈にもっているジャミトフはシロッコに
対してやや懐疑の念をもっていた。しかし結局は己の才覚でコントロールできるだろ
うという結末におちついてしまうあたりにジャミトフ・ハイマンという男の不覚があ
ったとみていい(中略)
とにかく、多少の言葉をかわしたあと、
「まあいい」
と返答され、シロッコはだまった。同時に扉がひらき、黒衣に身をつつんだ女狐があ
らわれた。その自信に溢れる姿をみたジャミトフは、
「青酸ガスの準備がよほど遅れているとみえるな、ハマーン」
と、露骨な皮肉を吐いた。だがハマーンは威にも介しない。

805通常の名無しさんの3倍:03/05/02 14:29 ID:???
>>802
そうですか・・半年後ですか。残念です。
大変ですね。スレタイ自分も考えてみます。
「引力に魂をひかれたティターンズなど、おそれるにたらん」
と、ジャミトフにハマーンは悠然と言いはなった。
ー大した鼻息だ。私に組する最後の機会をあたえてやろうと思ったのだがな。
と、ジャミトフは返答をかえす。
「そちらこそ私につけばいいものを。お前はどうなのだ?シロッコ」
シロッコへハマーンは振った。
「地球の引力に魂を引かれた人間が、宇宙の民を率いていけないという君の
意見は正しい」
と、シロッコは答えた。露骨に顔を歪めるジャミトフの心中は手に取るように
シロッコにはわかっている。一応の誠意はみせておかねばならない。
「しかし私は、ジャミトフ閣下に忠誠を誓っている。この自分の血でな」
シロッコはそういうと、ふところに手をいれた。拳銃を取り出し、ハマーンに
銃口をむける。ジャミトフへ、しいてはのちに掌握せねばならぬティターンズ
将兵へのカモフラージュのために、演技をしてみせねばならないのだ。
残党の頭目ハマーンを自分は殺そうとしてみせた。だが、おもわぬ手違いで総帥
閣下がハマーンの手によってあえない最後をとげてしまった。そういう政治的政略
を本物の正義へと仕立てるための演技であったが、シロッコがまったく意図してい
ないところから、その人物はきた。
扉がひらくと同時に、クワトロの銃撃がシロッコの肩を撃ちぬいた。そのシロッコ
の危機を感じたサラは搭乗しているPMX−002ボリノーク・サマーンの腕部ビーム
ガンを会談部屋の方向へむけて撃った。
艦内にいたカミーユがまったく理解できないまま、ボリノーク・サマーンの腕部ビーム
が会談部屋をつらぬいた。もしサラをともにグワダンへ連れてこなかったなら、シロッコ
の命はジャミトフ、ハマーンとともにクワトロに消されていたことだろう。シロッコの見込んで
いた強化人間の少女はかれの危機をすくった。
ボリノーク・サマーンを飛び出したサラは銃声をきいておどろいた。もしや、パプティマス様が。
動揺をおさえきれないまま会談場所へむかうと、負傷した肩をおさえながら出てくるシロッコの
姿を発見した。サラは安堵した。このシロッコの態度が演技であるとも知らずに。
シロッコはサラに、ジャミトフ閣下がやられたと伝え、すぐにグワダンより脱出すると言い、格納庫へ
とむかった。

グワダンを脱出したシロッコはジ・オの回線をひらいた。よびかけるのは
シロッコである。
シロッコは自ら手をくだした張本人であるにもかかわらずごく自然に言い放った。
「聞こえるか。全ティターンズ艦隊」
と、シロッコは、深刻な事態がおこったということをティターンズにむけて演説し
はじめた。「これは、総帥ジャミトフ・ハイマン閣下の遺言である。ジャミトフ閣
下は、ハマーン・カーンの手によって暗殺された。ただちにグワダンを叩け。これ
は閣下の弔い合戦である!」
といった。
その言葉につづくかのように、ティターンズとアクシズが戦闘を開始した(中略)
当のジャミトフ暗殺の張本人とされてしまったハマーンは敵の目をひくべくキュベレイ
で戦闘中のグワダンを発進した。ハマーン出撃を確認したシロッコはレコア・サラに
狙いはハマーンのキュベレイのみだと言い、全力でジ・オを砲火うずまくグワダン近辺
へとむかわせた。その後ろにサラとレコアがつづく。
元エゥーゴで現在シロッコのジュピトリス内でかれのMSをあたえられているレコア・
ロンドは、寝返り者だとガディに揶揄されたこともあったが、齢(とし)は見た目より
もずっと若い23歳でしかない。少女のころからゲリラ活動をとおして戦場ですごして
きた彼女は、一般の女性が経験する女の幸せというものを思春期にあまり経験せずに今日
まできた。およそ幸せというのがどのようなものであるかがよくわからないまま、エゥーゴ
にいた頃はクワトロと付き合ったりもしたが、満たされるほどの幸福を彼女はまったく感じる
ことができなかったばかりか、クワトロ本人もレコアに対して冷たすぎた。

彼女はひたむきなほどに自分に素直で、およそ型に縛られることがなかったばかりか、
女性にしてははっきりとしたセックス観をもっていた。居場所という言葉をレコアは
よくカミーユやファに対して口にしているが、要は安息の場所・安息できる男が欲しか
ったのであろう。レコアが理想としていた男は、ただ単に抱くことがうまく、調子のいい
ことをいってのけるだけのカッコイイ男ではなく、彼女の心をつかみ、その琴線に直接的な
手触りでふれてくれる男性であり、事実クワトロとの行為は、身体の触れ合いでしかなかっ
たことを、パラス・アテネのコクピットからシロッコの搭乗するジ・オをじっと見ているレ
コアは実感しているのである。
シロッコと出会ってその言葉や行為を見、かわしたとき、レコアはかつてジャブローでうけ
た思い出したくもない古傷が癒えてゆくような、そんな心地よさを感じることができた。そ
の安らぎは、レコアがようやく得ることができた「居場所」であったとレコアは信じている。
そのかけがえのない居場所をまもるためにレコアは今、パラス・アテネを駆り、戦うのだ。
散開したレコアは狙いをハマーンのキュベレイへとメガビーム砲をかまえ
た。かまえて撃とうとした瞬間、片腕が撃破された。レコアにはまったく
わからない。
もう一方のサラも、あらぬ方向からボリノーク・サマーンの片腕をやられて
いた。しかしシロッコはハマーンの手口をみぬいている。
すぐに反応し、ジ・オの機体を神技のごとく回避してのけた。
(ついに本気をだしてきたか)
とおもったが、手をぬいて勝てる相手でもなく、木星帰り特有のニュータイプ
能力で、ファンネルのうごく先を読み、ビームライフルの銃口をむけ撃ち落した。
ハマーンはいよいよ己の力を発揮し、すさまじいプレッシャーをシロッコにむけて
くわえた。負けじとシロッコも怨念にも似た思念を放出して対抗する。
Zガンダムで戦場を駆けていたカミーユもその圧倒的な力を感じることができた。
ジ・オとキュベレイは強大なエネルギーを放出しながら静止している。レコアには
まったく理解できないことであったが、サラは察していた。そこにつっ込んでくる
機体が一機。カツのGディフェンサーだということはサラは瞬時にわかった。ビーム
砲の狙いはパプティマス様のジ・オにむけられている。防がなければパプティマス様が
あぶない。
思ったのと同時に、サラはボリノーク・サマーンをうごかしていた。放たれたビームは
コクピットに直撃した。カツにとってはまったく予期していなかったことだろう。ボリノ
ーク・サマーンが爆発すると同時に、シロッコとハマーンは我にかえった。
(貴様か!サラをやったのは!)
シロッコは、ハマーンとの戦闘に全神経を集中させていたあまり、サラの
ことを放っておいたことにどうしようもない怒りをおぼえ、不愉快であった。
なぜサラを殺したのか、とおもった。
怒りにまかせてGディフェンサーを血祭りにあげるべく激進したが、かれの
目の前にサラの亡霊があわられ、なんと自分を殺した張本人たるパイロット
に優しい言葉をなげかけ、頭を抱き、逃げてと言うのである。なんというこ
とであろう。サラは相手のパイロットを、自分がそのパイロットに殺されて
も悔いもしなければ、慈愛すらしめすのか。
(サラはまちがっている。私はサラをまちがわせたこいつを殺さねばならない)
と思いかえした。ビームライフルの狙いをGディフェンサーにあわせる。ところ
が、目の前にレコアのパラス・アテネがとびだしてきた。自分でGディフェンサー
を葬ってシロッコにこたえようとしたのか、それともGディフェンサーのパイロット
であるカツをかばおうとしたのか、おそらくそのどちらの要素もレコアにはあったの
であろう。
(それにしてもこれは計算違いだな)
と、シロッコはおもった。Zガンダムが駆けつけてくるのと同じくして
エゥーゴのMS部隊が来て、さらに背後から死んだと思っていたクワトロ
の百式がビームを放ちながらこちらの空域へむかってくるのをみて、かれ
はジュピトリスへの帰還を決意した(中略)
(いかん。サラのことをまだひきずっている)
帰還中、シロッコはおもった。失ってはじめてわかったが、そういう感傷
にふける自分はシロッコからすれば女々しき精神であると思えるために、
このような事態でも鉄のように鋼のように鋭利で動じない態度でいなけれ
ばならない。自分の傑作MSはあの小僧の手によって失われてしまったが、
これからが正念場だとシロッコはおもっていた。
814通常の名無しさんの3倍:03/05/02 22:40 ID:XKB9/UwJ
ギレンザビに天才が持ついやらしさを感じつつ

保守
シロッコはジュピトリスへと戻ると、
「ハマーンとの談判は決裂した。諸君、さわぐことなく、わが命あるまで待機せよ」
と簡単にそのことを言い渡し、そのあと一室に入って通信回線をひらいた。通信先は
かつて自分がつかったことのある、今はむさくるしいゴーグル野郎が座上している大型
戦艦ドゴス・ギアである。この艦にはティターンズのなかでも生え抜きのMS部隊が搭載
されており、隊長はヤザン・ゲーブル大尉であった(中略)
「ヤザン大尉」
シロッコは映像通信先の士官に、画面上から要請した。
「ああ、すまない。ヤザン大尉を呼んでくれ」
といった。ヤザンが、誘われるようにして画面先にあらわれた。痩せ型で下あご
が岩のようにがんじょうそうな、みるからにしんの強そうな男である。
ー話がある。内密の話だ。
と、シロッコは真剣な面持ちでヤザンにむかって語りかけ、
「非常の事態になった」
と、グワダン艦内でおきた事件とこれからのティターンズの展望を話し、
「ジャミトフ閣下のことはもう知っていると思うが、要するにこれからのことだ。
ここまで事態が切迫してきた以上、もはや誰かがティターンズを掌握し、残党ども
とエゥーゴを討つ以外に手はない」
といった。シロッコにすればこの虎狼のような荒くれ者をなっとくさせ、政戦とも
に今後協力させてゆかねばどうにもならないと思っている。
ーただ一つ、勝つための手段がある。
といった。
「どんな手だ」
「わたしのもとへ、ドゴス・ギアのMS部隊をもってヤザン大尉がジュピトリス
へくることだ」
それ以外にない。要するにバスク陣営からこちらへ組せよということであった。
「足下のもとへか?」
ヤザン・ゲーブルは、画面先のシロッコへ目をみはった。シロッコのジュピトリス
へ自分のMS部隊をねこそぎもってゆく、それと同時に目障りのバスクを消し、
ティターンズの実権をこのパプティマス・シロッコのもとへ移行をする、それ以外
に現状を変える術はない、とシロッコはいうのである。
「左様」
シロッコの面貌に決意がみなぎっていた。ヤザンが諾(うん)といえばこの場でシロ
ッコの野望は一歩完成に近づく。
(この男は、本気だ)
ティターンズ掌握のために、である(中略)
(よし。賭けてみるか)
と、ヤザンがおもったのは、バスクなどという無能のもとにいるよりも
よっぽど立身の可能性があり、シロッコ以外にたよる存在がいないとい
う現実からの判断であった。そのことは画面先のシロッコのこの毅然と
した態度がなによりも雄弁に物語っている。
「わかった」
と、ヤザンはするどい目をぎらつかせながらいった。
「すべて了解した。いまは是非もない。おれは足下のもとに組みしよう」
ヤザンは、シロッコに協力することを誓った。
シロッコは謝し、すぐにバスクを葬るための策をヤザンに説明しはじめた。
この瞬間からかれの決戦への行動がはじまったといっていいであろう。ジュピ
トリスのMS部隊がドゴス・ギアを背後より襲う。ゴーグル野郎は新しい強化
人間のテストにかかりきりになるであろう、その襲撃のさいにはレコア・ロンド
をもって撃たせることとしている。ヤザン大尉は体よくこの挙を傍観しておいて
いただきたい。と詳細を話し、
「見事葬ったあとは全力をあげてエゥーゴと残党どもを倒す」
と、戦いへの決意をのべ、さらにヤザンとの回線を切ったあと全ジュピトリスクルー
に布告すべくブリッジにむかった。
818:03/05/03 11:51 ID:???
>>805
復帰は1月ごろになるんじゃないかと思われます。いろいろ物入りな時期だし。
スレタイ、よろしくです。

816、チョト失敗しますた。
今日、明日の保守よろしく。


819通常の名無しさんの3倍:03/05/05 16:35 ID:xGX/7+Mt
とりあえず緊急浮上させます。
鯖落ちのドサクサに紛れて落ちて欲しくはないので。
シロッコは、敵味方の戦力の測定をした。敵はエゥーゴとジオンを僭称する残党
集団であり、質はエゥーゴ、残党集団は数はそれなりに揃っている。
「しかし、アーガマとハマーンの主力のほかはすべて烏合の衆だ。かれらにティターンズ
を圧倒する力などない」
と、質で評価しようとした。
味方は、ジュピトリスを中核としたシロッコ直卒の精鋭部隊である。そのほか巡洋艦アレキ
サンドリアのガディ・キンゼー少佐の部隊、ヤザンのMS隊にチャン・ヤーをはじめとした
生え抜きの船乗りたちを有し、あと残党集団も独自のうごきをみせており、これらのうごき
によっては、コロニーレーザー争奪は三つ巴の様相を呈する。
が、火力は敵よりもはるかにすぐれており、とくに量産型マークUともいえるRMS−154
バーザムはエゥーゴの主力量産型MS・MSA−003ネモを上回る性能をもち、また大量の
MSマラサイの配備によって機体数からもエゥーゴを上回っており、それにコロニーレーザー
を包み込むように取り囲んでいるいまの状況で死力をつくして戦えばたとえ思わぬ打撃をうけ
ようとも負けるようなことはあるまい。
「要は、敵を絶望のふちにまでたたきおとしてしまうことである」
と、シロッコはおもった。
戦争は、単に戦争であってはならない。
大いなる政治構想と目的が必要であろう。それには全ティターンズ
をあげて死闘し、死闘のかぎりをつくし、残党どもとエゥーゴを完膚なきまでに
たたきのめし、エゥーゴと残党どもへの信頼を失墜させることであった。
この戦いを、おそらく全スペースノイドやアースノイド、ルナリアンらは注目す
るであろう。その勢力の代表はアナハイムと連邦政府そのものであった。一大企
業アナハイム・エレクトロニクスは親エゥーゴ的傾向をもち、連邦政府は現在こ
そエゥーゴ寄りであるが、かつては積極的なティターンズ支持であった。この勢
力をふくめた各支持勢力をひきこんで最終的にはティターンズ支持勢力とし、そ
の支持基盤を根こそぎこちらのものにするためには戦勝が不可欠である。
「この一戦で勝利さえできればたとえ後世、叛乱部隊、違憲行為と一時的に記録
されたとしてもその汚名を拭うことができる」
と、シロッコはおもった。

(たとえ勝利をあげることができなくても)
と、シロッコは、この戦争の意義について考えつづけた。
ー美にはなる。
ということであった(中略)
「美ヲ済(ナ)ス」それが木星圏にて覚醒をとげたニュータイプとしての道
である、とシロッコはおもっている。
ー考えてもみよ。
と、シロッコはおもう。いまこの宇宙の大変動期にあたり、オールドタイプ
や道をあやまったニュータイプの成りそこないがことごとくエゥーゴの空論
や残党どもの旧世紀的な陳腐すぎる独裁体制に身をまかし、打算に走り、あ
らそって新時代をひらくというおもいこみをもって革新者をよそおい、理解
をわすれ、革新者の道をわすれ、やるべきことをやらなかったならば、後世
はどうなるのであろう。
ーそれが人類の革新たるニュータイプが成したことか。
と、おもうにちがいない。その程度のものがニュータイプかとおもうであろ
う。知己を後世にもとめようとするシロッコは、いまからの行動はすべて「後
世」という観客のまえでふるまう行動でなければならないとおもった。
さらにまた。
ニュータイプとはなにか、ということを、時勢に奢ったエゥーゴや残党どもに
知らしめてやらねばならないと考えている。机上の空論のような理想におぼれた
あげく、相手を虫けらのように思うに至っている残党どもやエゥーゴの連中に、
ズタズタにされた虫けらというものが、どのような性根をもち、どのような力を
発揮するものかをとくと思いしめてやらねばならない。
ブライト・ノア中佐のアーガマは、アクシズの軌道修正に成功したあと激闘を
展開しているグリプス2の空域へと全力でむかっていた(中略)
まず、戦力が圧倒的にすくないエゥーゴとしてはアーガマ参戦なくして勝つこ
となど不可能にちかい。が、先のメールシュトローム作戦で奪取に成功したコロ
ニーレーザーを護衛するラーディッシュ以下のエゥーゴ艦隊はティターンズ、ア
クシズ双方を相手にせねばならぬため、思うように戦局の打開がはかれず苦戦し
つづけていた。
「とても艦隊戦ができるような、十分な戦力などどこにもなかった」
と、ブライト・ノアは後年語っている。
ブライトにとって期待すべき存在は、亡きブレックス准将の数すくない
理解者であった男である。
その指揮官は、ブライトと同じ一年戦争以来の連邦軍属であるヘンケン・
ベッケナーである。
ヘンケン・ベッケナー、階級は中佐。
たたき上げの軍人で、はやくから宇宙において前線勤務をし、一年戦争に
おいてはフジ級巡洋艦スルガ艦長としてア・バオア・クー会戦に参加、のち
ブレックス・フォーラ准将をたすけて反地球連邦政府組織エゥーゴの重要
メンバーになった。連邦軍属であったという点でも、ブライトとは仲がいい(中略)
ヘンケン・ベッケナーというのは軍人としては優秀な船乗りで、豪快な性格と
戦場の空気や統率を熟知しているという点で有能な人物であったが、ただ一つ
女性への接し方をしらず、また普段のかれからは想像することすらできないほ
どの可愛らしさをもち、それがクルーたちにとっては愛敬として好印象をあた
えたのだが、好意を寄せていたエマ・シーン中尉に対しては上手くいかないこ
とばかりであった。
エマは、ヘンケンからの正直すぎる言葉と真正面からのアプローチに困惑して
いたようだが、エマははたしてヘンケンに好意を抱いていたのかというと、ヘン
ケンにはすこし気の毒だが、それほどの熱意はなかったのではないかとも思える。
エマは恋愛よりも「仕事」を重視する女性であった。
「君が赤ちゃんを産めんようにでもなったら・・」というヘンケンの台詞があるが
それに当惑しているエマをみるかぎり、好きな男性というよりは「尊敬すべき上官
です」といったほうが妥当ではないのか(しかしこんな言葉を口にするヘンケンは
本当に愚直すぎる男ではある)
むろん、これは筆者の推測にすぎないが。

ヘンケン・ベッケナーは、不吉な予感を感じモニターを凝視した。
(マークUが・・・)
よくみると被弾しているようにみえる。苦戦しているようだ。このエマの危機
が、ラーディッシュ艦長ヘンケンにとって最後の行動をさせうる要因となった。
「ラーディッシュ前進!目標はマークUだ!」
と、ヘンケンは迷いながらもクルーたちの声にうごかされついに決断した。
マークUはもはや満身創痍である。ヤザンのハンブラビの猛攻撃に、エマのマー
クUの片腕が撃破され、これで終わりだと意気込むヤザンのハンブラビを覆うかの
ようにヘンケン座上のラーディッシュがすすんできて、隕石のうえに乗っている
エマのマークUをかばった。そのヘンケンの行為をエマは無茶です、撃沈されてし
まいますとつたえたが、ヘンケンは本気でエマの盾となる覚悟でいた。
エマ中尉が無事ならばそれでよかった。自分が心から愛した女性をかばって死ぬこと
ほど、ロマンに満ちた男子の行動はないであろう。
マークUの盾となった戦艦ラーディッシュの砲門は、ヤザンの搭乗するRX−139・
ハンブラビめがけて一斉にひらかれた。しかし一発もハンブラビに命中せず、たくみに
回避しつつヤザンのハンブラビがラーディッシュに迫りくる。勝利の女神は
ヤザンに微笑みかけていた。
エマの叫びと同時に、ハンブラビが連続して放ったビームがラーディッシュ艦橋をつら
ぬき、ヘルメットを吹き飛ばされたヘンケンは空気漏れのつづく艦橋で、必死でマーク
Uのうつっているモニターをさがした。ようやくマークUが無事であることを確認した
ヘンケンは安堵したかのように事きれた。
エマは言葉をうしなった。目の前で、ラーディッシュがしずんでゆく。しかし犠牲者は
これだけではなかった。
もう一人の犠牲者は、専用の可変MS・NRXー055バウンド・ドッグ搭乗の
ジェリド・メサ中尉である。その執拗な攻撃は、カミーユのZガンダムに取りつき、
怨念にも似た憎悪をむきだしにし、とりついている。果てしなくつづいてきたカミーユと
ジェリドの口論も、ついに終わるときがきたのか、カミーユはZガンダムのビームライフル
を瞬時に連続して撃ちだし、その二発目のビームの勢いにジェリドのバウンド・ドッグ
は吹っ飛ばされ、不幸にも沈みゆくラーディッシュのもとへとまっさかさまにとんで
いったのだ。最後の台詞すら明確なかたちでのこせず、遺恨を抱いたままジェリドは
ラーディッシュの撃沈に巻き込まれて宇宙の塵となった。
このとき、シロッコは泣き叫びながら宇宙にビームを撃ちはなつカミーユの存在
を感じている。不愉快であった。
「生の感情丸出しで戦うなど、これでは人に品性を求めるなど絶望的だ。やはり
人はよりよく導かれねばならん。指導する絶対者が必要だ」
傍らにいたレコア・ロンドが問う。「この戦いが終われば、人は変わるのでしょうか」
「変えるのだよ。それをやるのはレコア、君かもしれない」
完全に帰服しているのがよくわかる。ならばよりいっそう、自分を慕う目の前の女
にも働いてもらわねば。
「ともに、戦おう」そう言ってから自らの専用機、「神の意志」PMX−003ジ・オ
に乗り込むべくとんだ。レコアも、PMX−001パラス・アテネにとぶ。
レコアは完全にシロッコのものとなっている。
このMSは、シロッコ自らが設計した重MSで、全宇宙でただ一機しかないMS
であり、いわば最強のニュータイプ専用機ともいえるMSであった。最高レベル
のMS設計能力をシロッコは有していたが、試作したMSのうちPMX−002
ボリノーク・サマーンはサラの死とともにうしなわれており、いまはレコアの
パラス・アテネとこのジ・オが残るのみである。
「ジ・オ」という名は、シロッコがつけた。このMSは見た目は大型だが、性能
といい、加速性といい、性能面でこれにおよぶ機体はないとシロッコは自負している。
アクシズは、シロッコのジュピトリスを目標にした。残党どもと呼称されて
いるアクシズ・ジオンがもっている膨大な量産型MS・ガザCが、ハマーン
のキュベレイ指揮のもとになだれのごとく出撃した。
ジ・オのビームが、ガザCを撃墜した。シロッコが迫ってくる、敏感に感じ
とったハマーンはジ・オとパラス・アテネをあいだを駆けぬけた。それを追う
レコアのパラス・アテネ。
シロッコは眼前に迫りくるガザCの蜂のごとき群れをみた。しかしつぎの瞬間
に巨大なビームエネルギーがガザCを包みこみ、つぎつぎに爆発し、機体の破
片が散って、すさまじい光景が展開された。
これはエゥーゴの攻撃だ、ということは、シャアが来たのか。ハマーンがまず
感づいたのと同じく、シロッコも気がついていた。感情丸出しの少年と、地に
堕ちるであろう輝き失せた彗星の登場である。
829:03/05/05 23:03 ID:???
疲れたのでまた明日にでも。
830通常の名無しさんの3倍:03/05/05 23:11 ID:???
ひそかに>>745に期待するROM
831通常の名無しさんの3倍:03/05/06 12:53 ID:???
保守あげ
832通常の名無しさんの3倍:03/05/06 13:19 ID:???
何だか、富野の文体に似ている要素が無くも無い気がする
しかし、言うまでもなく富野は圧倒的な悪文だと言う点が決定的に違う(w
百式のメガ・バズーカランチャーがキュベレイのファンネルですぐ撃破され、
「そんな子供だましのようなMSで、このジ・オと対等に戦えると思っているのか!シャア!」
と百式のビームライフルの射撃をかわしつつ、言いはなち、かるくあしらいつつ、
ビームライフルを撃ち、わざと相手の神経を逆撫でするように百式の機体スレスレに
ビームをかすめさせる。百式のクワトロ(シャアというべきであろうが)は焦りを
かくせない。
敵MS・百式をなめるかのように、ジ・オのモノアイがにぶくひかった。機体の機動性
にくらべると、その輝きはあまりにも鈍重である。
シロッコはまっさきにエゥーゴの切り札となっているコロニーレーザー
の機能をうしなわせるためジ・オをむかわせた。
このいつ発射されてもおかしくない巨大コロニー砲内での戦闘は、シロッコ
にとっても緊張をかくせなかった(中略)
この男は、
「シャアは臆している。シャアは臆している」
と思い、悠然とコロニーレーザーの一部分をビームサーベルで切断した。
発射筒の一つが、爆発した。潰させはすまいとシャアの百式、ジ・オを
追う。シロッコにいわせれば、
「無駄なことを。まだ本気で私とハマーンが倒せるとでもおもっているのか」
という思いがあった。
やがて敵の百式が、なにも知らずに接近してきたところを、
死ににきたか!シャア!
と、発射筒の影からいきおいよく飛びだしビームライフルでなぐり
つけて、百式を突き飛ばした。さらにビームライフルを即座に放つが、
一発目ははずれ、二発目が百式の脚の裏をかすめた。さらにシャアの不幸
がかさなる。キュベレイがビームサーベルを振るって百式のビームライフル
を持つ腕を軽快に斬りおとし、斬られたビームライフルを持つ腕ががむなしく
虚空にビームを撃ち上げるとともに、ツキのなさすぎるシャアの百式はあろう
ことか発射筒の部分に機体をのめりこませてしまった。破片が百式の全身に
まみれる。
連携しているわけでもないのにハマーンと共同戦線を張っているおかしさはシロッコ
にとって笑止なことではあったが、それはいい。今はこの、傲慢をきわめつくして今日
の事態を招いた張本人、シャア・アズナブルを倒すことだ。よくよく考えればおかしい
ことだ。なぜクワトロなどという偽名を今だにもちいているのであろう。やはりこの男
も、地球の引力に魂をしばられているオールドタイプにすぎないのだ。
「道を誤ったのだよ!貴様のようなニュータイプの成りそこないは、粛清される運命なのだ!
わかるか!」
ジ・オのビームライフルをはなつ。ビームは百式の片脚を撃ちぬいた。だがシャアはなおも
あきらめないのか、
「まだだ!まだ終わらんよ!」
と、落日の英雄にありがちな捨て台詞をのこしてコロニーレーザーの奥へととんでいった。
乗り捨ててある百式の姿と、奥へむかおうとするハマーンのキュベレイをみたシロッコは、
「自らの手でシャアをやろうというのか。面白い女だな」
と、自らも座興を楽しむべくジ・オを降りることにした。
836通常の名無しさんの3倍:03/05/06 23:37 ID:???
>>1さん頑張って(^^)/~~
Zも終盤だな。
劇場がその座興の舞台となった。むろん、役者はそろっている。その
主演男優はまぎれもない、クワトロ・バジーナこと、シャア・アズナブル
であった。
ハマーンはスポット・ライトを中心にいるシャアにむけてなにやら喋って
いる。どうやら含むところがあるようだが、と思ったところを、両者に名指し
で呼ばれて、シロッコは含み笑いをした。芝居もなにも、こんな陳腐すぎる
芝居にくらべれば、私のほうが数段すぐれている。
「私は歴史の立会人にすぎんから、そうも見えるか。が、シャアよりは冷静だ」
よき場所にそろったものだ。ここで主演男優の仮面を剥いでおかねばならぬ。一見
すぐれた人物のようにみえるシャアが、じつは無責任なただの卑怯者だと後世に
記憶させるために。
ところがシロッコの意図とはちがい、シャアのほうはしごく冷静であった。この赤い
彗星とよばれ、ブレックスの後継者とされたこの貴公子は、平静を装っていたのでは
なく、しんから冷静な態度でいた。
「私が冷静でないだと?」
「そうだよ。貴様はその手に世界を欲しがっている」
黙っているシャアの姿を観客席から見下ろしながら、シロッコはシャアの本音をあばき
だした。自分が勝者となれば、この場面は永久に歴史に記憶され、シャアは卑怯者・偽善者
のレッテルを貼られつづける。シロッコは戦後の自分を夢想できるほどの余裕をもっていた
のだが、当のシャアには焦りなどはなかった。それをいうなら、貴様とてそうだろう、ハマーン
とてそうだろう。およそ実力者がそれを思わぬなど、ありえぬ。野心が行動の原動力となり、人を
あつめる。この言葉はそっくりそのまま、自分にも当てはまるのだ。それに気がついていない貴様
こそ、足元がみえていない愚かものではないか。
シャアのすごさは、汗すら表面に出していないところであった。これほど、
自分の弱点をつかれても平然としていられる男はまれであろう。
ハマーンはまだシャアに執着している。これほどシャアに執着するとは、もしや
シャアに捨てられた女なのか、とシロッコはおもった。
およそ愛情と憎悪は紙一重ともいえる。愛がふかいほど、憎しみもつよくなる。愛憎
という言葉がそれである。シロッコのおもうところ、女ほどその愛憎のつよい生き物
もおるまい。愛情と同じくらいの憎しみをぶつけることは、自分の気持ちを正確に相手
に表現することなのだ。自分は間違っていない、相手が間違っていたのだ、その間違い
を正したい、なぜなら、自分は本気だったのだから。
シロッコは理由がわかったような気がしたが、つぎの瞬間には内心、冷や汗をおぼえた。
ハマーンがシロッコに銃口をむけたのだ。よもや、私の考えていたことを読んだのか。
「この小うるさい見物人を倒してな」
なんとかしてシャアを引き込みたいような口ぶりだが、そんな純粋なハマーン(シロッコ
からみれば健気な)に冷や水を浴びせるように、主演男優は口をひらく。
「ハマーン。私はただ、世界を誤った方向へもってゆきたくないだけだ」
暗にハマーンを批判しているが、ハマーンも自説をまげる気など到底ない。
「では聞くが、ザビ家を倒し、ティターンズを排除した世界で、お前はいったいなにを
しようというのだ」
銃口をむけているが、殺す気などハマーンにはまったくない。それを見ぬいているから
こそ、シャアも減らず口をたたくのだろうと、シロッコは観察しながら思う。おもしろい
光景だった。
「私が手を下さなくとも、ニュータイプへの覚醒で人類は変わる。そのときを待つ」
言い終えて、浮かんでいる銃をとろうとした主演男優に、ハマーンは銃を放つ。
威嚇でしかないところがおもしろい。負傷させてもいいのに、それをあえてしないの
である。甘いとシロッコはおもった。だから男の道を歩もうとする女は失敗する。
「私に同調してくれなければ排除するまでだ」
シロッコのほうに視線をむけて、
「そのうえでザビ家を再興させる。それがわかりやすく、人に道を示すことになる」
「また同じ過ちを繰り返すと気づかんのか!!」
「世界の都合というものを洞察できない男は、排除すべきだ」
シロッコは拍手を送りたい気持ちになった。素晴らしいではないか。感動的ではないか。
今までみたどんな人間関係、どんな演劇やテレビドラマでも再現されたことのない、
わかりやすすぎる愛憎劇が目の前で繰り広げられている。面白いではないか、健気で
はないか、かつて愛し合った男女がたがいの主義主張のちがいから決裂し、いまは敵対
し、しかも女のほうはなおも相手に是正をせまり、男は自らに執着するゆえにこれをあし
らう。まったく噛みあわない二人、これはよきドラマだ。
(高視聴率まちがいなしだな)
もしテレビで放映されれば確実だ、とシロッコは考えていたのだが、とある一声が劇場に
こだまし、一瞬でシロッコは不愉快になった。劇場に銃をむけてあらわれたこの人物が、
シロッコの運命を決めてしまうなどと、シロッコ自身予想することすらできなかったであ
ろう。
840:03/05/07 00:34 ID:???
明日早いんで、一旦切り上げます。疲れますた。
>>832
御大の小説は本当に読みにくいですね・・・・
読み返そうとおもいましたが、諦めてしまいました。
>>836
クライマックス近し。創作部分がほとんどを占めてます。
その一言が嬉しいです。やる気が出ます。
841通常の名無しさんの3倍:03/05/07 00:55 ID:???
>>1
力作だ。何がすごいって話の筋が破綻なく成立してるし(w
842通常の名無しさんの3倍:03/05/07 01:13 ID:???
       (  _,, -''"      ',             __.__       ____
   ハ   ( l         ',____,、      (:::} l l l ,}      /      \
   ハ   ( .',         ト───‐'      l::l ̄ ̄l     l        │
   ハ   (  .',         |              l::|二二l     |  ハ 面  .|
       ( /ィ         h         , '´ ̄ ̄ ̄`ヽ   |  ハ 白 │
⌒⌒⌒ヽ(⌒ヽ/ ',         l.l         ,'  r──―‐tl.   |  ハ い │
        ̄   ',       fllJ.        { r' ー-、ノ ,r‐l    |  ! ぞ │
            ヾ     ル'ノ |ll       ,-l l ´~~ ‐ l~`ト,.  l        |
             〉vw'レハノ   l.lll       ヽl l ',   ,_ ! ,'ノ   ヽ  ____/
             l_,,, =====、_ !'lll       .ハ. l  r'"__゙,,`l|     )ノ
          _,,ノ※※※※※`ー,,,       / lヽノ ´'ー'´ハ
       -‐'"´ ヽ※※※※※_,, -''"`''ー-、 _,へ,_', ヽ,,二,,/ .l
              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄       `''ー-、 l      ト、へ
843通常の名無しさんの3倍:03/05/07 05:16 ID:???
1さんマンセー!
ここはシャア板1の良スレじゃあ!
保守age
844通常の名無しさんの3倍:03/05/07 05:25 ID:???
うるせぇよ>1
845通常の名無しさんの3倍:03/05/07 05:58 ID:???
 ゴメンよ、このスレの力作小説? は司馬調を完コピ? して
富野文体をリライトしてるの?
 つまり、司馬さんの文章をそのまま借用しているのか
司馬さん的な文体で語ってるだけなのか
 司馬小説を読んでないオレには、イマイチそこが分からない。
846:03/05/07 19:40 ID:???
>>845
まず、SSに関してですが完全なオリジナルというわけではないです。
ですが元の文体をコピーしてそのまま引用しているというわけでもないです。
定義がしにくいですけど、司馬さん的な語り方・自分の解釈・引用部分を当てはめた
(総合?)SSだと思ってください。
富野小説に似ているということですけど、言われてから気がつきました。ほとんど意識
してなかったんで。
>>843
チョト褒めすぎかも。
>>841
シロッコを観客の立場においてみました。最後がくどくなったかな。
劇場にあらわれたもう一人の俳優に、すさまじいプレッシャーを感じたのだ。
ハマーンもそれを感じている。シャアがみると、その俳優ーカミーユ・ビダンー
は全身から赤い、強烈な波動を放出しているのがわかった。
ハマーンを狙撃したあと、カミーユは喋りはじめた。
(主役交代か。しかし、なんとも気に食わぬ少年だ)
観客席の影に隠れながらシロッコはおもう。銃を取り出して様子をうかがった。
「本当に排除しなければならないのは、地球の重力に魂を引かれた人間たちだろ!
けど、そのために大勢の人間が死ぬなんて、間違ってる!!」
シャアはカミーユの背後にまわり、銃をかまえている。悪意をもった見方をするならば、
万が一のときはカミーユを盾にして・・・という考えもあったかもしれない。
あらたな主役の主張に反撥する観客。
「愚劣なことをいう」
「生の感情を出すようでは俗人を動かすことはできても、我々には通じんな」
主役がかえす。
「人の心を大事にしない世を世界をつくって、なんになるんだ!!」
これだから自分がニュータイプだと思いこんでいるヤツはこまる。演技をするならもっと
高度な演技をするべきだ。これでは評価のしようもない。愚かしいと思うシロッコであった
が、つい芝居がかかった反論を口にしてしまった。
「天才の足を引っ張ることしかできなかった俗人どもになにができた!つねに世の中を動か
してきたのは、一握りの天才だ」
癖が出てしまった。自分が理解できない俗人に対して、シロッコはつねにそうであった。相手
の意見をやりこめてしまう。心底から自分を完全なニュータイプ(天才)だとおもっているシロ
ッコの癖であった。しかし、主役の少年はまだ自分の考えがわからないのか、
「違う!」
と、自分の考えを曲げない。もはや主役を降りたシャアですらとめられなくなっていた。
「ちっぽけな感傷は、世界を破滅に導くだけだ!少年!」
シロッコの誤算は、この自分の本音ともいうべき考えを堂々とカミーユに述べて
しまったところであろう。少年はこのときに、自分が本当に、全能力をかけて倒す
べき敵は、パプティマス・シロッコであると認識した。しかしシロッコはまったく
この生意気な少年を埒外においていた。冷静さをうしない、憎悪が先にたち、カミ
ーユ・ビダンというエゥーゴ最強のニュータイプに対する正確な認識ができていな
かった。
我慢できなくなったシロッコは観客席から身をあらわして舞台のうえの役者たちを
狙撃しようとしたが、立ち上がると同時に劇場の扉がひらき、銃撃がきた。ファ・
ユイリィである。ハマーンもとっさに身を床に伏せた。
(ぬかった。もう一人脇役がいたとは・・・・)
邪魔さえ入らなければあの少年を撃ち殺すこともできただろうに、惜しいことだ。
(だが、まだ劇は幕を降ろしていない。本当の開幕はこれからだ。今はさしずめ、
休憩といったところか)
主演のいなくなった劇場をみてシロッコはおもった。もちろん、すぐ追いかけねば
ならない。
コロニーレーザーを脱出すべく、シャアは破損している百式に乗り込み
すぐにでも外に出ようとしたが、その百式をハマーンのキュベレイが追う。
キュベレイをファのメタスとともに翔びゆくZガンダムが狙撃する。
「構うな!脱出しないと、コロニーレーザーの発射に巻き込まれる」
言い終わると同時に、シロッコのジ・オが猛然とビームライフルを放ってく
る。百式に取りつこうとしたジ・オをZガンダムがさえぎる。
ー勝てる。
という自信が、シロッコを完全に支配していた。相手が子供のような俗人な
らなおさらであろう。そのMS、Zガンダムに乗っているあの生意気な少年
は、信じられないほどに増長していた。ここでケリをつけるのだという。
ニュータイプとしてのものの考え方を知らない。先を見通すだけの目をもたず、
自分の考えのみをかたくなに守りとおして、正義をしめしてくる(中略)
「エゥーゴには真のニュータイプというものがおらぬらしい」
と、シロッコはジ・オに執拗に攻撃をしかけてくるZガンダムをみて、思わず
嘲笑したい気分になった。
もはやエゥーゴは戦線を維持できなくなっていた。アーガマの左舷ブロック
が被弾し、負傷者とシンタ・クムを連れて軍医ハサンがはしる。
発射をしばらく待たせておいたブライトに、トーレスとサエグサが具申した。
今撃たなければ、ターゲットのティターンズ艦隊主力は殲滅できない。密集し
ている今こそチャンスなのだ。
だが、ブライトは待つように指示した。みんながコロニーレーザーから出るま
で待つ。見殺しにはできなかった。
コロニーレーザー内のシロッコは、ジ・オを流れてゆくアレキサンドリア級重巡
のうえに乗り、内部をみた。なんとかして、コロニーレーザーごと爆発させること
はできぬものか。
一方のZガンダムは、ハマーンのキュベレイと戦闘を展開していた。キュベレイの
ファンネルの威力にたじろぐカミーユ。
「これ以上偶然は続かんよ。カミーユ」
Zガンダムをしとめようとしたとき、思わぬビーム攻撃がきた。ファのメタスである。
見事にカミーユのサポート役に徹していた。呼吸はぴったり合っている。
そこへ、シャアの百式がキュベレイを狙撃しながらきた。脱出しろという。
「あなたは、まだやることがあるでしょう。この戦争で・・・戦争で死んでいった人た
ちは世界が救われるとおもったから死んでいったんです。僕もあなたを信じますから」
「君のような若者が命を落として、それで世界が救われるとでもおもっているのか」
シャアなりの信頼をあらわす言葉なのだが、カミーユはこれで満足しえたかどうかは、
わからない。
「新しい時代をつくるのは、老人ではない!!」
かれなりの名調子とともに、三機は脱出した。脱出をモニターで確認したブライトは
コロニーレーザー発射を命じた。サエグサが応じる。
充填された巨大なエネルギーは、アレキサンドリア内のエマの身体を飲みこんでいき
おいよく発射された。
このティターンズの事実上の艦隊総司令ガディ・キンゼー少佐は、さきに
ジャマイカン戦死後におこなわれた対アーガマ戦のとき、ヤザンを囮にし、
ガブスレイのジェリドとマウアーを伏兵として使用し、めざましい作戦展開
をした男である(中略)
実戦部隊総指揮官バスク・オム大佐横死後、シロッコは力量を買っていたガディ
と接触し、
「ガディ少佐。貴官に全ティターンズ艦隊の総指揮をお願いしたい」
と、頭をさげて頼んだ。ガディは船乗りとしての最高の栄誉に、相手がシロッコ
という食わせ者であるにもかかわらず勇躍してこれを受け、いままでどの
ティターンズ指揮官も展開したことのなかった模範的な艦隊戦闘をやってのけた。
もし、コロニーレーザーという切り札がエゥーゴになかったならば、ガディは最大
の名誉と称号を手にしていたであろうが、ツキはエゥーゴのほうへ傾いていた。
あっというまに、ガディはエネルギーにつつまれて、アレキサンドリアとともに消滅した。
ティターンズ艦船がつぎつぎに爆発しはじめた。シロッコがたのみとしていた主力艦隊は
ほぼ消滅した。