逆シャア話で盛り上ってるので、リアルタイムの富野発言でも。
ニュータイプ1988年4月号の公開直前特集から。
「逆襲のシャア」と言う映画の企画が持ち上がった時から、
主人公をアムロとシャアのふたりにしようと決めてました。
アムロとシャアのふたりで始まって、10年近く引っぱってこれたんだから
ふたりにそれなりのエンディングを用意してあげたかった。
「Zガンダム」の企画が決まった時点で
「ガンダム」を年代記物としてやろうと決意しましたので、
ウソをついてキャラクターの年齢をもとに戻すようなことはしたくなかったのです。
だからこそ、これはシャアとアムロの物語です。
年代物となった時点で、「ガンダムは戦争物じゃないんだ」と、
僕の中で認識しました。
戦争物やロボット物の、まさにロボット物らしい部分が好きだ
…という人にわかってほしいんですが、
「ガンダム」がこのように10年間にわたってテレビシリーズを3本、
映画も新作が作られる状況にあるのはなぜなのか?
…それは「ガンダム」が戦争物じゃないからです。
まさしく、シャアとアムロの物語だったからです。
アニメを見る年代の方たち…ローティーンからハイティーンの方たちが、
このふたりを支持してくれた一番の理由と言うのは、あの年代の持つ
ナチュラルさの現実的な部分の代弁者(アムロ)と
理想を追うものという意味での代弁者(シャア)だったからでしょうね。
(続く)
だけど、年代物となった時点で、あのふたりの物語は何作も作れなくなってしまった。
映像と言うのは、作り手の年齢が見えるんですよ。
例えば、「スター・トレック」や「スーパーマン」は、
役者の年齢が非情なまでに見えるでしょう?
だから、同じキャストではこれ以上作れない。
アニメなら出来るんじゃないか―という声もありますが、
これも10年前に予想してましてね。
CV〔キャラクターボイス〕のことを考えたらできない、と僕は決めたんです。
あるサイクルの中で根本から作り直さなければならない。
CVの年を感じないと思う方がいらしたら「逆襲…」を見た後、
一本目のガンダムのビデオをもう一度リプレイしてみてください。
残酷なほど年齢を感じるはずです。
そういう意味で今回の映画は、僕の予想とすごくマッチングしているから、
いい感じに収まった!と言う感触があります。
(続く)
「逆襲…」の構図というのは、ほとんど「Z」のままです。
構成論でいうと、旧3部昨でやったことを順々に全部やったのも意識してます。
ハサウェイは本来カツがやるべき役柄ですし、
ヒロインのクェスは「Z」のカミ―ユ・ビダンの映し絵として存在しています。
「Z」までの歴史を、言っちゃえばダイジェストにしたのが今回の映画ですから。
2時間という見やすいパッキングで、
もっとガンダムの世界をいろいろな人に知ってほしかった。
映画3作、旧ガンダム、それにZにあったいいエピソード…
本人が言うのも何ですが、改めて見ると、みんなよく出来てるのよね(笑)。
あのテレビシリーズはとても愛すべき存在だったのが、とてもよくわかる。
そういう要素を全て注ぎ込んで、「逆襲…」はできている。
そういう意味では、「ロボット物だ、アニメだ」といわれるジャンルの中で
「何でこんな普通の映画みたいなことやってるんだろう?」と、
一般の人には不思議に感じられる仕上がりになっている。
幸いにもガンダムには、遡って調べることが可能な過去がある。
一握りでいい。「表現ジャンルや媒体をこう使えばこんなことまで出来るんだ!」
と気がついてくれれば…
ガンダムには歴史がある。歴史って、本当にダテじゃないんです。
そういう意味で、今回「逆襲…」を作ったことは、今後いいように作用すると、
僕は確信しています。
(続く)
面白かったYO。
最後にクェスについて。
ここ数年気になっていたんですが、「病気の人」が多くなったんじゃないか。
その代表選手としてクェスを描きました。
生きてるんだけど、本当にやるべきこと
(クェスならアムロとシャアの間に割って入るとか)
にかすりもしないで、自分の思いこみだけで暮している人が多すぎます。
若い人だけでなく中年も含めて。
クェスを作ったことで僕なりの現代性を描けたと思います。
時代が持つ病気、憂鬱〔イライラ〕…。
自分の考えを通すのを最優先してて、周囲の人の気持ちを考えない。
でもクェスは、死ぬ間際には、ちゃんとハサウェイを救けようとするんです。
他人の気持ちを考えてる。
人生の最後の3秒間だけ、本当に自立してる。
あれは悲劇だ。
その悲劇がまさにこの映画の基盤〔フォーマット〕になっている。
僕自身が、今、一番他人と会っていてつらく感じる部分を描きました。
「私が!」という我を通している間は、人は決して幸せにはなれないでしょう。
クェスに比べると、アムロもシャアもダサクてオジンよ(笑)。
だけど許せる!(笑)。
これは若い人にも分かってもらえるんじゃないかな。
「逆襲…」にはそのパワーがありますよ。
(了)