「∀の癒し」の一部を抜粋してみた。
興味が湧いたら買おうね。
ガンダムという名前が付いた作品は、4年前の「ガンダムX」で終息していた。
僕は関知しなかったので詳細は知らないのだが、その作品は、予定のオンエア・
スケジュールを全うすることなく打ち切られた。
僕には、その作品が生まれる前提が悪いのだから、当然の結果にみえた。
その4年前のものが、僕の「機動戦士Vガンダム」である。
その時はバブル経済がはじけた後で、スポンサーのみならず、長年やってきた
僕も虚心に玩具が売れるものを目指すつもりだったのだが、
担当重役は言ったものだ。
「子供は戦艦のようなものが好きなんだよ。あなたにはそれがわかっていない。
戦艦大和みたいなのがでて、カメラがガーッと回り込むような絵は格好良い
じゃないですか。それと、戦隊物的なのもやってほしいな」
戦隊物というのは、バンダイがメインスポンサーになっている作品
「ゴレンジャー」みたいなスタイルをさす。隊員物のことだ。
「ガンダムを5機そろえて出せという事ですか」
「そうだ」
その管理職の男は自信のある実績と役職にいたから、職能を発揮してきたのだ。
彼のそういった性格は20年以上前から知っていたので驚きはしなかったが
悔しくはあった。そんな要求を突き付けられるというのは、こちらに力が
ないからである。実績をしめし続けていれば、そんな要求はしてこない。
「なら地上を走る戦艦というのを出しますよ。それでもいいんですか?」
まさかというセリフを僕は吐いてしまったが、いくらなんでもそれには
応じないだろうという僕の甘さもあった。
「いいじゃないですか」
「タイヤはかせますよ。戦艦に」
「やってよ」
それで決定である。スタジオでの会話ではなく、まだ、サンライズがバンダイ
グループの傘下に入るまえのバンダイ本社での会話だ。
作品のチェックをするTV局の担当プロデューサーは、メカニック様はスポンサ
ーのだから注文はつけてこないが、話の内容に付いては、お客さんの代表者と
してチェックさせてもらうと言ってきた。
だから、僕は一本一本の話をおもしろくする努力はした。
局から打ち切り話がでるのは困るから、マンガチックなメカ展開には我慢
しながら、話はカルト集団的な背景の中で少年を描くというテーマに細心の
注意を払った。
しかし、これでガンダムを潰すぞ、とも覚悟した。
また、潰れるだろうとも思った。
何本といわず局のプロデューサーにお褒めの言葉をいただきながらも、
画面に散乱するメカニックの無様さには閉口し続けた。
それで僕はノベルスでフラストレーションを吐き出すようなことをした。
これが僕の悪い癖で、その結果TVの仕事ができなくなったのだが、
ガンダムは潰れなかった。
「Vガン」製作の中盤に入って、サンライズのトップから
「来年も同じ放送枠でガンダムをやる事になったので、誰を
総監督にしたらいい?」
「Vガンで、ガンダムは潰れたんだぜ?」
「やるしかないじゃないか・・・他にないんだから・・・」
そのトップのしかめつらしい返答に、僕は、今川泰弘くんの演出手法の
元気さを買い、それで、ガンダムをレスキューしてもらおうと考えた。
「どうせやるなら完全なプロレス物にしなければならない。過去の経緯などは
踏まえないものをつくらせろよ。Vガンでメチャメチャにしたんだから、
それはできるはずだ」
そこまで答えた僕は、まだ元気が残っていた。プロダクション経営を考えれば
という正気もあったのだから。
しかし、そのような事を口にする者が、クリエーターであるわけがなかった。
僕は本当に堕落して、生気を吐き出しきっていたのだが、その時には、まだ
その事に気付いていなかった。
・・・・・
バンダイ討ち入りに関してはまた別の記述があるけど、邪魔なら
もうやめます。