司馬遼太郎著「コロニーを行く」(二)

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テテスの体が浮いた。岩角をはなれ、岩肌づたいに体を浮かせながら、ロランの
前まできた。
「女を先に裸にして、恥をかかせる気かい」挑発している。
「テテスさん」といったときには、湯の中でロランの腕がテテスの腰を掻き寄せていた。
「かかせる気なんか、毛頭ありませんよ」
ロランは、テテスの唇を吸った。
(甘い)
なんとあまいものか。ロランは女の唇を吸うのははじめてであった。
ロランは、右腕を沈めてテテスの豊かな股間にふれた。湯の中でもそれと知れる
ほどに濡れている。
「テテスさん、ここ、なんていうんですか」
と、ロランは恥じらいながらささやいた。
「ののさまっていうのさ」
「僕はまだ、このののさまっていうとこの内部(なか)を知らないけど、それほどに
いいものなんですか」
「へえ〜そうなの。あんたみたいな男だったら、沢山(たんと)な女のののさまを存じて
いると思ったのに」(中略)
「それじゃ、見ちゃいますよ。動かないでください」
「厭よ」
といったが、臥かされてしまっている。真昼間のために、テテスの裸形がよく見えた。
耐えがたいほどに盛り上がった胸の隆起が、鳩尾で落ち、ふたたびなだらかに起伏して、
あわあわと下降して股間へ落ちている。









「これがののさまか」
「もういいかい」といったが、ロランはテテスの体に一指も触れていないのだ。
テテスは呪縛にかかったように、ロランの行動を快感とともにまっている。
「なるほど、これがののさまなのか」
ロランはみつめたまま、飽きもやらない。
「見てるだけなのかい。それなら湯につからせてよ」
「寒いんですか」
「当たり前のことを聞くんじゃないよ」
以外に涼やかな眼である。およそ自分を欲望の対象とはしていない、そんな
印象をうけた。
(この子・・・可愛いじゃないか)好色ではない。本心から生真面目さがな
ければ、無邪気さを感じることは決してない。
(ムーンレイスのパイロットだね)
と思ったときに、ロランの体が動き、やがてテテスのほうを向いた。
(どうするんだい)
期待がある。が、ロランは一言呟いて立った。
「僕・・・・あがります」
そう言い、温泉を出た。