プルとプルツーはZZをも超える【MKX】

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173通常の名無しさんの3倍
あの日…エルピー・プルがまだ子供でいられた頃。
彼女はどんな夢を見たのか

素描エルピー・プル
絵・北爪宏幸
協力・銀河剽六
まるしー日本サンライズ・創通エージェンシー

 からだが、フワッと浮いた。
 アッと思った時、少女は温かい空間にとり
まかれた自分を感じていた。肌をつつみこむ
温かい液体、夢の中で空中を漂うようなもど
かしい浮遊感、そして乳白色の霧…。ずっと
昔に、これと似た場所で、長い長い眠りをむ
さぼっていた。とっても気持ちいい。自分が
誰で、昨日まで何をしてたのか、いや、つい
さっきまでのことも、何も思い出せない。
「私は誰だろう」そうした感覚すら、少女は不
安ではなかった。むしろ、胸のずっと深い部分
で、この状況を楽しむ気持ちが芽生えていた。
 ココハ、アタシガウマレタバショニ、ニテ
ル――
174通常の名無しさんの3倍:02/10/21 21:23 ID:???
 少女がそう気付いた時、ポシャン!と音が
して、少女をつつんでいた液体に波紋が起っ
た。液体の表面をおおっていた、乳白色のア
ワがゆらめく。その波紋が広がるにつれて、
頭の中の霧が少しずつ晴れてゆく。ふいに、
少女は、すべてを思い出していた。
 アタシノナマエハ、えるぴぃ・ぷる――コ
コハ、あくしずノナカニアル、にゅうたいぷ
ノケンキュウジョ、ダ――
 そう気付いた時、少女は幸福な夢から急に
現実に引きもどされた。楽しい手品の種明し
をされたようなさみしさが、胸をしめつける。
 そう、少女の名はエルピー・プル。彼女は、
宇宙要塞アクシズの中で、モビルスーツ戦用
のニュータイプ戦士候補生。昼夜を問わぬ「実
験」の被験者であった。
175通常の名無しさんの3倍:02/10/21 21:23 ID:???
 プルは、まだ子供だ。
 彼女を「管理」している青年はグレミー・
トトという。彼もまた、背がスラリと高いだ
けの、少年の面影を残した男だった。その顔
立ちも、声も、甘く優しい。だからといって、
プルはグレミーに親しみをおぼえなかった。
 コノヒトニハ、ドコカハイリコメナイトコ
ロガアル――
 プルはまだ10歳に満たない。身長も、140セ
ンチを切る。長身のグレミーの前に立つと、
プルの目はいつも、彼の手を見るかたちにな
る。目や口ではなく、手を見ながら、グレミ
ーの「指示」を受けるのが、プルのくせだ。
そうすると、いろいろなことがわかってくる。
グレミーの言葉は優しい。物腰はノーブルだ。
だが、その手、手の表情が、こわい。全体的
な印象と、彼の手の無遠慮で、粗野な動きは、
まったくそぐわないものだ。プルには、それ
が面白かった。だから彼女は、グレミーの語
る対人論やら精神論を聞きながら、つい彼の
手の動きにひきつけられてしまう。それは醜
いが、妙にプルの心をとらえるものがあった。
176通常の名無しさんの3倍:02/10/21 21:24 ID:???
 ユガンデイル――
プルの知るはずのない、そんな言葉が、彼女
の頭の片隅をよぎる。グレミーはどこか「変」
なところがある。その「変」なところは、プ
ルの「変」なところと似ている。だからプル
はグレミーが嫌い。
 プルは知らず知らずのうちに、そんなこと
を考えるようになっていた。

闇の中に、細長い箱がひとつ、浮かび上が
る。長さは2メートル強。表面のガラス板を
透かして、内部をうかがうことができる。非
常灯の緑がかった明りは、ほどよく調節され
箱の中の少女の長い眠りをさまたげることは
ない。切れ長の大きな瞳を優しくふさぐ瞼。
勝気そうな眉。細く鋭ったあごの先端(じゃ
れついて、押しつけられたら、さぞや痛いだ
ろう)、まるで死んでいるかのように、その少
女は夢をむさぼっている。
177通常の名無しさんの3倍:02/10/21 21:24 ID:???
 アレハ、アタシ、ナノカシラ?
 明け方の浅い眠りの中で、プルはよくそん
な少女の夢を見た。夢の中で、眠っている「自
分」を見つめる。少女は、目覚めたためしが
ない。ひっそりと息づくその寝顔を、プルも
また夢の中で、息をひそめて見つめ続ける。
少女はプルに似ている。自分自身なのかも知
れなかった。友達がいないプルにとって、
夢の少女は、ただひとりの同年代の同性だっ
た。友だちとのつき合い方を知らないプルは
声をかけて少女を起こしてしまうのが怖い。
 コノコガ、ユメカラサメテ、アタシトカオ
ヲアワセタラ、ナカヨシニナレルカシラ。ソレ
トモ――
 いつもプルは、そんなことを考えながら、
少女の枕もとで頬づえをつくのだった。やが
て、夢の中で眠りに落ちたプルは、現実の世
界で目覚め、ベッドから飛び出す。
 プルの頭の中に、もう夢の中の少女はいな
かった――。