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通常の名無しさんの3倍:
一応言っとくが、2話のソシエのセリフだ!いや、3話だ!
「ソシエお嬢さんは、最近料理の修業をしたいと叫んで
手のつけようがない、どうしたらいいだろう?
お嬢さんの作る料理の試食で、私たちは生命の危機に
さらされています。」
お屋敷から、そう相談を受けた僕は、キースに頼んで
パン屋で修行させてはもらう約束をとりつけて、
ソシエお嬢様を、キースのパン屋のパン工場へ
お連れしました。
「じゃあ、キース、よろしく」
「え〜、ロラン、もう帰っちゃうの?」
「ソシエお嬢さんは、パン製造の修行にきたのでしょう?
僕がいたら邪魔になりますから。じゃぁ、がんばって」
「え〜い。とりゃ〜」
ソシエの声がパン工場に響きます。
「だから、お嬢さん、そんなにしたら、パン生地が
痛みます。もっと、こう丁寧に扱わないと。」
キースは、最初、基本どおりに、掃除からまかせようと
したのだけれど「え〜、わたし、料理がしたいの!」との
声に負けて、パン生地を加工するところから始めました。
でも、その姿はどうみても、ソシエ操るカプルの踊りのようです。
「だって、ゆっくり触っていると、手にくっつくし〜。
とりゃぁ〜」
頭を抱えたキースは、何事か隣の職人長と話し合った後、
「ソシエお嬢さん、じゃあ、今度はこちらで、
実際に菓子パンに加工してみましょう」
「本当? その方が料理修行になる?
そうよね、パン屋をひらくためじゃないものね」
素直に応じて、菓子パン加工用の机に向かうソシエ。
「あ、お嬢さん、その前におやつにして、一息つきましょう」
本当に疲れた様子のキースは、ロランがソシエを送り
届けたときにさしいれてくれた、イポーニャというところ
から送られてきたという、赤福というお菓子と紅茶を
並べるのでした。何でも、イポーニァに交渉に行っている
グエン卿が、「ロランたんへ」というなが〜い手紙と
ともにトラック一台分送ってきたものだとか。
おやつの時間が終わって、ソシエも少し落ち着いたのか、
まじめに菓子パン作りの基礎を学んでいるようです。
でも、そろそろ飽きてきたのでしょうか?
眼が泳いでいます。
職人さんは、その様子を察して、
「じゃあ、何か、好きなパンを作ってみましょうか?」
ソシエの眼が輝きます。しばし考えこんだあと、
パン生地をこねて、まるく伸ばしだしました。
でも、途中で、何事かを悩んでいるのか、手がとまります。
「お嬢さま、普通でいいですよ。私たちだって、
新しい菓子パンを作るときは、試行錯誤をして
一ヶ月ぐらいかかって作るんです」
その言葉が耳にはいるか、はいらないかのうちに、
「そうよ! これよ!」
ソシエの眼が輝いたかと思うと、ソシエは、赤福の
箱に残っていた餡子をパンの中につめはじめました。
キースは頭をかかえています。
職人さんは、あきらめ顔です。
「はい! できあがり!」
出来上がったパンは、丸い形に、眼と鼻がついて
いました。
パンは、焼く前に発酵させなくてはいけません。
しばらく発酵させて、少し膨らんだソシエのパンは
さっそく焼かれてでてきました。
人のよさそうな顔の形です。
「できたー!」
焼きたてのパンを取り出してきた職人さんに
すすめられて、ソシエはパンをちぎって口に運びます。
途端に彼女の眼が輝きました。
その反応に、キースたちは驚きます。
「おいし〜」
「本当ですか? ソシエお嬢さん。どれどれ」
一口ちぎって口に運ぶキース、職人さんたち。
眼の色が変わります。どうやら、本当においしいようです。
職人さんは、今日パンを作り始めたばかりの
ひよっこに、してやられたり、と少し苦い顔です。
「ソシエお嬢さん、これは確かにおいしいです。
改良して、うちの店で売ってもいいですか?」
「いいわよ。でも、デザイン料は安くないわよ」
「……(ただで修行させてあげているのに)
はい、あまり出せませんが」
「そうね…じゃああと、名前をつけさせて!」
「いいですけど… おいしそうな名前にしてくださいね」
「うーんと、そーねぇ、丸いから丸パン、そのままだなぁ。
月みたいだから、月パン、ちがうなぁ、… そうだ!
ディアナパン!」
「どう関係があるんですか?」
「そろそろ、月と地球の戦後一周年じゃない?
きっといけるわよ」
一日中、ソシエのワガママにつきあってきて疲れていた
キースたちは、それを飲むことにしました。
「ディアナさま! 聞かれましたか?
最近、キースのところで売れているパンのこと?」
買い物から帰ってきたロランがドアをあけるなり
叫びます。
「ええ。新聞の記事で少し読みました。
写真が小さくてどんなパンなのか分からなかった
ですけれど」
「今日、僕、ようやく買ってきたんですよ。
これまでにも買おうとしたんですが、いつも人気で
すぐに売り切れてしまうらしくって」
そう言って、ロランはパンのつつみをあけました。
「う〜ん」
私は思わず、椅子に崩れおちました。
私は、私は、こんなに丸い顔ではありません!
おまけに、ほっぺた赤いし…
「ディアナさま、大丈夫ですか?」
「な、なんとか」
ええ、ええ、たしかにパンはおいしかったのです。
でも、その日の夜遅く、私は月のキエルさんと、
ハリーに連絡をとって、そのパンが黒歴史では
「アンパ○マン・パン」と呼ばれていたことを
発見してもらい、月政府からの依頼という形で
名前を変えてもらうことに成功しました。
…でも、子供たちの間では、今でも
あの丸いアンの入った顔つきのパンは
「ディアナパン」と呼ばれているみたいです。
日々是鬱鬱。
ディアナ・ソレル