今より少し前の頃の話。
橘さんは2号家です。
:::
雨もあがった昼下がりの街を、一真と映司が歩いていると、少し先に知り合いの姿を見つけた。
一真「あ、橘さんと睦月!何かあったんですか?」
橘「いや、睦月との特訓の帰りだ。それと映司君に用があってな」
映司「え、俺に?」
橘「ああ、会報を届けに来たんだ。
ほら、クワガタの会、紫ヒーローの会、鳥ライダーの会、銃ライダーの会・・・。
いま忙しくて、なかなか会合に来れないだろうからな」
映司「わざわざありがとうございます!」
睦月「はい、こっちは緑ヒーローの会の分です!
こないだの映司さんの歓迎会の様子と、次期会長選について載ってましたよ!」
映司「あはは、ありがと!」
一真「映司、かけもち大変だな〜」
睦月「でも、いま映司さん、すごく忙しい時期ですよね・・・大丈夫ですか?」
映司「・・・うん。
少しずつ色んな事が分かってきて、戦いも激しくなってくるし。
これからどうなるのかって、不安もあるけど・・・」
一真「毎年の事だけどな・・・ホント怪我だけは気をつけてくれよ。
・・・そういえば、アンクとはちょっとは歩み寄れたのか?」
映司「・・・どうかな。あいつもいろいろあるし・・・。
利用・・・してるのはお互い様、なんだけどね。
・・・グリードを倒す、そのことについてだけは、あいつを信じられる・・・けど」
考え込む様子を見せる映司に、静かな声がかかる。
橘「少しでも信じられるなら、それでいい」
一真「・・・橘さん?」
橘「何もかもを疑い、迷い続けることは、きっと自分を歪めてしまうんだ・・・俺もそうだった。
所長を疑い、1人で暴走して、剣崎や広瀬達にも迷惑をかけた。
あげくに怪しいもずくに漬けられ、自分の弱さから逃げ続けて・・・取り返しのつかない過ちをおかしたこともある」
誰かを想うかのような、遠い眼差しで遠くを見る。
橘「彼女は、ずっと・・・最後まで。俺を信じて、手を伸ばしてくれていたのに。
誰よりも大事だと・・・そう気付いたときには、遅すぎた。俺は、間に合わなかった・・・」
深い悲しみと、後悔が滲む表情と声に、かける言葉に迷っていると。
橘「・・・映司君もライダーとして戦うからには、辛い選択を強いられるときが来るかもしれない。
もしも自分を信じられなくなったら・・・自分の名を心から呼んでくれる人の声を、聞き逃さないことだ」
強く、静かな。決意に満ちた言葉が響く。
一真「・・・橘さんは、大丈夫ですよ。
ギラファアンデッドの金居が始を倒そうとしたとき、ジョーカーの危険性を分かったうえで、始を守ってくれたじゃないですか」
橘「・・・剣崎」
一真「な、映司!橘さんはちょっと人より騙されやすいかもだけど、すごい人なんだぞ!」
橘「買いかぶりだ・・・始を信じたいと思えたのは、剣崎。お前があいつを信じていたからだ」
睦月「・・・俺も橘さんに、何度も助けてもらいました。
戦いかたも、強くなる方法も教えてくれたし、それに・・・。
それに橘さんがあの人の・・・城さんの言葉を信じて、アブゾーバーを託してくれたから。
俺はレンゲルに・・・本当のライダーになることができたんです」
橘「・・・睦月」
睦月「アンデッドの邪悪な意思に飲み込まれて・・・。
剣崎さんや始さんにもひどいことをした俺を見捨てずに、信じて力を貸してくれた。
本当に、感謝しています」
一真「へへ、やっぱり橘さんは一流だよな!」
−激しい戦いを経て、育まれた仲間の絆。
お互いに傷つけあい、支えあってきたからこその、今。
家族の温かく優しいそれとはまた違う、熱く強い繋がり。
笑い合う3人を目にし、不思議と湧き上がってくる熱を感じて、てのひらを見つめる。
・・・自分にも、いつか見つかるだろうか。
橘「そうだ、お前たちにも教えておこうと思ったんだが」
一真「何ですか?
橘「各家庭に、消火器の設置が義務づけられたそうだ。
俺は先日購入したが、お前たちの家は大丈夫か?」
一同「・・・」
一真「・・・クーリングオフー!!」
橘「しかし、もう家族全員分買ってしまったんだが」
一真「ウェ・・・!このままじゃ2号家でライダー大戦・・・!」
橘「どうした睦月。顔が強張っているが、具合でも悪いのか?」
睦月「いえ・・・ちょっとカテゴリーエースの邪悪な意思が、また・・・ううっ!」
橘「何?!大丈夫か?!」
睦月「はい、たぶん消火器を解約してくれたら大丈夫だと思います!」
橘「分かった、すぐに手続きをしよう。しかし、万が一火事になったらどうすればいいかな」
睦月「その時は俺がブリザードで消してあげますから、すぐに呼んでくださいね」
橘「頼もしいな、睦月。じゃあそうしよう」
一真「・・・とりあえず、業者を照井さんか氷川さんか加賀美くんに伝えとくよ・・・」
映司「きっと騙したほう、タダじゃすまないな・・・」
一真とコソコソ話していると、後ろからくすくす、と優しげな笑い声が聞こえた。
映司が振り返ると、長い髪を揺らした女性が佇んでいた。
小夜子「こんにちは、橘くん、剣崎くん、睦月くん。
そちらは剣崎くんの新しい弟さんかしら?」
映司「あ、はいそうです!火野映司っていいます」
小夜子「初めまして、深沢小夜子です。橘くんの同級生なの、よろしくね」
一真「こんにちは小夜子さん!こないだはうちの末っ子がお世話になりました!」
小夜子「ああ、フィリップくんね?
検索もほどほどにしないと、また低血糖で倒れちゃうから、気をつけてあげてね」
一真「はい!ありがとうございます」
橘「やあ小夜子。今日はどうしたんだ?」
小夜子「美味しいパスタのお店見つけたから、一緒にどうかなと思って。
病院も今日はお休みだから」
橘「そうか、それはいいな。どうだ、剣崎たちも一緒に」
一真「イエイエイエイエ、俺たち用事あるんで!な、映司!?」
映司「え?あったっけ?」
睦月「そうだ、俺も望美と約束があったんだ!」
橘「そうか、それは残念だな」
一真「じゃあまた!」
慌ただしく挨拶をすると、ハテナ顔の映司を引きずるようにその場を離れる3人。
二人から距離をとると、ようやく足を止めた。
一真「はぁ橘さん、あれじゃゴールはいつのことやら・・・」
映司「え!じゃあ、あの小夜子さんが、橘さんの?」
一真「・・・映司・・・」
睦月「映司さん・・・鈍いにも程が・・・」
映司「・・・!!Σ( ̄□ ̄;)(伊達さーん助けてー・・・)」
小夜子「・・・今度、剣崎くんたちにお礼しないとね」
橘「何の事だ?」
小夜子「んーん、何でも。さ、行きましょ?」
ゆっくりと歩きだす二人。
橘「・・・小夜子、あの時の傷は・・・もう痛まないのか」
小夜子「ふふ、まだ心配してくれてるの?
あの時駆け付けてくれた、ステキな仮面ライダーさんの処置が良かったおかげで、
もうなんともありません!傷もほとんど残ってないのよ?」
朗らかに笑う姿からは、かつての死の気配は感じられない。
橘「だが・・・」
小夜子「助けてくれて、ありがとう・・・仮面ライダーさん」
橘「・・・違う。いつも・・・あの時も。君が、俺を助けてくれたんだ」
小夜子「私の声・・・ちゃんと、届いてた?」
橘「・・・ああ」
小夜子「・・・よかった」
そう言って微笑む表情は、野に咲く花の強さと儚さを感じさせた。
あの時も、今も。
大切、という言葉の意味を、教えてくれる姿だと思った。
おまけ
一真「あれ、刃野さん?そんなに急いでどうしたんですか?まさかドーパントの事件が?!」
刃野「いや、実はさっき人面犬が目撃されたそうなんだ!君たち見てないか?」
一真「・・・また騙されてる・・・」
翔太郎「刃さんは騙され上手だからな」
映司「いたの!?」
:::
かっこいい橘さんが書きたくなって書いた
しかしOOOの展開が急すぎて・・・どうなる映司ーアンクー
あと6もいらなかった・・・5で終了です、すまん
後日談・・・現在の映司
映司「・・・仲間でも、相棒でも、家族でもないけど。
あいつ、ようやく俺に手を・・・伸ばしてくれたから。だから、今度は俺が手を伸ばさないと」
総司「・・・行くんだな」
翔一「・・・ここで。この家で、みんなと待ってるよ。いってらっしゃい!」
映司「・・・いってきます!!」
−ただいま、を言うために。
ふたりで、必ず。