今日はあたしがおにーちゃんにご飯作ってあげる!」
土曜日も終わりに近づく頃。傾きかけた夕日を背に、樹花はすでに
愛用のハートエプロンも三角巾も装備して、笑顔で言い放った。右
手にノート、左手には買い出してきた材料の入った袋。瞳にはキラ
キラと、初めてのお使いに出る子供のような輝き。例え今日の夕飯
の献立が既に決まっていて、更にその材料が冷蔵庫の中で一部下ご
しらえを終え、その出番を今か今かとまっていたとしても、愛しい
妹のその姿の前では無価値に等しい。本当に大切なものを、見失っ
てはならないとおばあちゃんも云っていた。
「はいっあーん」
本日のメニューはオムライス……らしきもの、とグリーンサラダに
オニオンスープ。
チキンライスは若干炒めすぎで、肝心の卵に至っては完全に焦げて
いる。焼く際に破れた箇所はケチャップで描かれたハートによって
誤魔化されている、が。
「おいしい?」
まずいはずがないのだ。
がっしゃんがっしゃん音を立てながら、それでも楽しそうに作られ
た料理達は、技法的にはまだまだだがそれでも練習をしたのだろう
。きちんと卵を泡立てる際の注意点などの基本は抑えられている。
総司が作るそれには及ばないものの、普段使われている隠し味もい
くつかは見抜いて使用するなど試行錯誤の末の一品だ。あとは慣れ
の問題だろう。
「ああ…だがまだまだ、発展途上だな」
台所の惨状にはあえて触れまい。総司の手にかかれば一時間もすれ
ば元に戻る。
「ん〜〜〜料理の道はきびっしー!」
そういいながらも、樹花は楽しそうに自分の分の料理を口にした。
テーブルの上が綺麗に片付いた後、総司に「そのまま待機!」と告
げた樹花は一人パタパタとスリッパを鳴らして台所に引っ込んだ。
「次はデザートでーす!」
「デザートまであるのか」
もちろん、と明るい声で答え、ひょいと再登場する。
「じゃーんっ」
片手にプリン・ア・ラ・モード。もう片手にスプーン。そしてそ
れを運ぶ樹花の姿は――
「……こっちがメインディッシュじゃないのか?」
いわゆる、裸エプロンと呼ばれるそれで。
ふふふー、といたずらっこのように笑いながらテーブルにプリン
を置く。