「今日はあたしがおにーちゃんにご飯作ってあげる!」
土曜日も終わりに近づく頃。傾きかけた夕日を背に、樹花はすでに
愛用のハートエプロンも三角巾も装備して、笑顔で言い放った。右
手にノート、左手には買い出してきた材料の入った袋。瞳にはキラ
キラと、初めてのお使いに出る子供のような輝き。例え今日の夕飯
の献立が既に決まっていて、更にその材料が冷蔵庫の中で一部下ご
しらえを終え、その出番を今か今かとまっていたとしても、愛しい
妹のその姿の前では無価値に等しい。本当に大切なものを、見失っ
てはならないとおばあちゃんも云っていた。
「はいっあーん」
本日のメニューはオムライス……らしきもの、とグリーンサラダに
オニオンスープ。
チキンライスは若干炒めすぎで、肝心の卵に至っては完全に焦げて
いる。焼く際に破れた箇所はケチャップで描かれたハートによって
誤魔化されている、が。
「おいしい?」
まずいはずがないのだ。