欧州の何処かにある超常吸血同盟の本拠地。そこで二人の上級吸血鬼が何やら密談を行っていた。アルカードとオルロックだ。彼等が囲む卓上には、三冊の魔導書と指輪が置かれていた。
「すまない。サンプルは捕らえ損ねた」
侘びを入れながらオルロックは、そちらはどうかとアルカードに尋ねた。
「問題は無い。サンプルがなくとも博士が上手くやってくれている。それよりも……」
アルカードが、厳重に封印された木箱を取り出した。あの男女がわざわざ日本から奪ってきた代物だ。二十年近くもの歳月を重ねて進められてきた今回の作戦の、一番の肝である。
「あの二人組、恐ろしい事を考える……」
呟くオルロックの顔には、恐れの色が浮かび上がっていた。
「ミラーカからの連絡は?」
「今のところ何も」
もう一人の上級吸血鬼・ミラーカは、あの男女の動向を探るべく、数年前から彼等とは別行動を取っている。
「あいつが下手を踏むとは思えんが……」
「少なくともこれだけは言えるだろう。あの二人が望むのは……」
恒久の混沌――アルカードにはそうとしか思えなかった。
蘇らせてもらった手前、協力はしているが、アルカードもオルロックもミラーカもあの男女の事が嫌いだった。だから連中のシナリオとは別に彼等は動いているのだ。万が一全てお見通しだとしても、やるしかなかったのだ。
決戦の日は近い――アルカードは手にしたギターを軽く鳴らすと立ち上がった。
「そろそろ頃合だ。計画の第二段階へと移行する」
数回のコール音の後、バキの耳に懐かしい恩人の声が聞こえてきた。会話をするのは十数年振りだ。
「もしもし、バキくん?」
「あかねさんですか?」
南雲あかね。元猛士総本部開発局長である。
「元気そうで安心したわ……」
「俺もです」
「……話したい事は山のようにあるけど、今は用件だけを伝えさせてもらうわ。心して聞いて頂戴」
あかねの口から、バキの予想もしなかった人物の名が飛び出した。
「役小角って知ってるわよね?」
「小角ですか?」
修験道の開祖、役小角。伝説の鬼である前鬼・後鬼を使役し、猛士総本部のある吉野山を開いた人物である。当然ながらバキもその名を知っていた。否、鬼でその名を知らない人物はいないだろう。
「その小角が封印したとされる、ある物が盗み出されたの」
「ある物、ですか?」
誰が盗み出したかは不明だと言う。ただ。
「それらしい物を手にした男女が税関を通っていったとの報告が吉野に寄せられたわ」
「じゃあそれは今海外に?」
おそらく欧羅巴に渡ったのではないかと総本部は目処をつけたらしい。ただ、物が物なため海外の組織にその存在が知られては困るのだと言う。故に捜索・回収のために人を送る事も渋っているのだそうだ。
「……私としては、そちらの組織の協力を得るべきだと考えている。それぐらいやばい代物よ」
この件に関してはバキくん、あなたに一任するわ――そうあかねは告げた。
「そんな権限があかねさんにあるんですか?」
「あるわけないでしょ」
そう言うとあかねは電話口で静かに笑った。
「猛士としては無事に回収出来ればそれで良いみたいだから……」
「……ま、やってみます」
「お願いね。そっちには別の任務で北陸支部のサッキくんが来ている筈だから、彼にもし会えたら協力してもらって。最新の式神なんかも持っているし、助けになってくれる筈よ」
おそらくエリカ達が言っていた鬼の事だろう、そうバキは理解した。
「で、そろそろ何が盗まれたのか教えてもらえませんか?」
その問いにあかねは、少し黙り込んでから、こう答えた。
「『宿魂石』って聞いた事あるかしら……?」
DMCに齎されたその一報は、彼等を一時的に混乱させるには充分だった。
南独逸の田舎町ルーエンハイムが、超常吸血同盟の手によって封鎖されたのだ。町の住人全てが人質にされた事になる。しかも。
「DMCに告げる。町の人間達を無事解放してもらいたければ、姿を現せ」
電波ジャックにより、公共の放送で流された実際の音声である。
「連中は我々を表舞台に引きずり出すつもりですか……」
苦々しげにニヤが呟く。
DMCとは、極秘裏にモンスターと戦い、これを滅ぼすべくローマ教皇庁が組織した部隊だ。長い歴史の中で、その存在が公にされた事が一度だけある。
中世、折しも黒死病の蔓延により世情が不安定だった時代の事だ。
人々は全ての元凶がDMCであるとして、関係者達を次々と捕らえて回った。ローマは彼等を見捨て、最後まで黙する事を決めた。――世に言う魔女狩りの始まりである。
闇の世界の住人が、日の当たる世界の住人と交われば、双方に悲劇が起こる。この忌まわしい事件を教訓に、DMCはより目立たぬようモンスターと戦い続け、今日に至る。だがそれを。
(我々の存在が明るみに出れば、中世の比ではない混乱が起こるだろう……)
突きつけられた現実を魔女狩りという形で昇華した中世の人々と異なり、下手に知識のある現代人がモンスターやDMCの存在を知ったらどうなるか、ニヤにもある程度の予測はついた。
「ニヤ……」
心配そうに声を掛けるレスターに向かって、ニヤが告げた。
「私はDMC独逸支部へと向かいます」
ニヤにとって腑に落ちない点が一つ。それは連中の封鎖があまりにも迅速だった事だ。前々から現地で準備を進めていない限り、これ程まで早く行動を起こせる筈がない。しかしそれだとどうやって独逸支部の目を誤魔化したかという話になってくる。
それに、現在独逸支部長の座についている「大佐」は良からぬ噂が多い人物だ。直接会って話をする必要があるだろう。
「部隊を二つに分けましょう。私と共に独逸支部へ向かう部隊と、今回の一件が大きくならないうちにルーエンハイムを開放する部隊です」
これからメンバーを集めると、ニヤは告げた。
「町へはRPG第三部隊を筆頭に、対ヴァンパイアに特化した面々を揃えましょう。私に同行する者はササヤキさん達を中心に、少数精鋭で固めます」
ササヤキら露西亜勢を独逸支部に同行させる理由は、彼女達の上司であるプーチンが元独逸方面担当の諜報員だったからに他ならない。その時に調べ上げた情報が必要になるかもしれないと踏んだのだ。
その日のうちに、ニヤが率いる統一部隊は二つに分かれて独逸へと向かっていった。一方は首都伯林にあるDMC独逸支部へ、もう一方はルーエンハイムへ……。 了
最近、久し振りにまとめサイトにある自分の過去投下分を読んでみたら、粗が出てくるわ出てくるわ。
和泉一文字がいつ結婚して長男が生まれたかとか、これで大丈夫なのだろうかと思うし…。
一番まずいと思ったのは、1979年に死亡したレイキが、ブキの会話では未だ存命であるかのように語られている事。
北陸支部編を書いていた時に少し触れた通り、書いている最中に大幅に展開を変えちゃったので。
あの時点では、レイキを退場させる予定はありませんでしたから。
そういうわけで次回は、平成ライダー恒例のパラレルワールドという形で初期プロットに近い話を息抜きに投下してみたいと思います。
以前のやつに加筆するだけなので、土日には投下できるかと思います。
∧_∧
( ´・ω・) キュッキュッ
ノ つ_φ))____
 ̄ ̄\ \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧
( ´・ω・`)
| ̄ ̄∪ ̄∪ ̄ ̄| トン
| 次スレ |
 ̄ ̄| 立ててくるよ! | ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
残りは埋めレスって事でいいのかな
んじゃ感想って事で
鬼祓いなんだけど他のSSのキャラクターの使い方というか生かし方がすごくよくて好きですね
伏線の回収みたいにキレイにまとまっていくのにスゲーとか思っちゃう
揺れる鬼で女の子の生理用品とかトイレとかについて触れられていたところは
なくても成り立つのではないかと
ていうかそのへんはあんまり触れないで
と思いました
次スレにSSを投下したところ、早速レスがついていました。
読んでもらえているという実感が湧きますので、ありがたいことです。
こちらのスレで感想を書いて頂いたかたも、ありがとうございました。
もっとも、レスがあってもなくても最終回まで書き続けるつもりではいます。
2chを見ることはするけど、書き込みをすることはない、
というかたもいると思います。自分も以前はそうでしたので。
ですから、レスがない時でも、読んでいるかたはいるかもしれないと思い、
なるべくいいものを書こうと思っています。後で見ると「何この誤字脱字」とか
「何この変な言い回し」とか「何だこの展開」とか反省することしきりですが。
推敲が足りないようです。
スレの最後が余ったら、チラシの裏としてキャラの元ネタなどを書こうと思って
いましたが、「前回のあらすじ」と称してほとんど投下中に書いていますので、
残りを埋める量のチラ裏というかネタ解説はそんなに残っていないと思います。
いつか番外編を書こうと思っていましたので、スレ落ち前に書き上がったら、
スレの残りを使って投下しようと思います。間に合わなかったら次スレあたりで。
『鬼祓い』 スレ埋め用チラシの裏
メインの三人にはそれぞれ元ネタとなるキャラ・実在の人物がいます。
・岸啓真
イメージキャラはタレント・ミュージシャンのDAIGO。(髪型・ファッション等)
名前はチェスのナイト=騎士+将棋の「桂馬」から。
・木倉恭也
イメージキャラはドラマ「ハチワンダイバー」の主役を演じた、俳優の溝端淳平。
名前は「槍」を分解した「木」と「倉」+将棋の「香車」から。
・ソヨメキ
イメージキャラはドラマ「ハチワンダイバー」のヒロインを演じた、女優の仲里依紗。
本名の「副島そよ」はドラマ中のヒロインの役名「中静そよ」から。
いまは三人の過去についてのお話(近日中投下予定)を書いています。
スレ埋め用SS
『鬼祓い』 零之巻「巡りゆく季節」
ショルダーキーボード型の音撃武器・音撃盤には様々なバリエーションがあった。
音階順に並んだ数十個の鍵、すなわち音撃鍵を組み合わせる点は共通しているが、音撃武器の形態には次のような型があった。
両手の甲に鬼石付きの音撃盤を纏い、展開して魔化魍に張りつけた音撃鍵を演奏することで清めの音を送り込む、「打」系統の音撃。
銃身つきの音撃盤の側面に音撃鍵を張りつけ、魔化魍に打ち込んだ鬼石で音撃を増幅する、「射」系統の音撃。
音撃盤の先端につけた鬼石の刃を突き刺して、その側面に張りつけた音撃鍵を弾いて魔化魍を清める、「斬」系統の音撃。
これらの音撃は総称して「音撃弾」と呼ばれていた。
2006年春、猛士四国支部に伝わる音撃盤と音撃鍵は、新たな持ち主を待ちながら、四国支部の片隅でひっそりと眠っていた。
「いやぁ、ローゼンメイデンって面白いなあ……」
四国支部の中堅どころの鬼・サザメキは、支部に漫画を持ち込んで一人呟きながらそれを読みふけっていた。そこに通りかかった五十前後の男が言った。
「ローゼンメイデン? アイアン・メイデンなら知ってるけどな」
「あ、支部長。これですよ、これ」
サザメキはそう言いながら漫画を見せた。
「この衣装は……MALICE MIZERか? ほら、Mana様がこんな衣装で……」
「違いますって。かの麻生大臣も読んでいると言う……」
この二年と半年後、麻生太郎は内閣総理大臣に就任することとなる。
「まあ小泉の純ちゃんもXが好きだって公言してたしな」
「バンドから離れて下さいよ。アニメ化もしているんですからね」
「XもRusty Nailのプロモがアニメだったな。懐かしいな、あれはYOSHIKIがビームを……」
「だからバンドから離れて下さいって。……丁度今手元にDVDがあるんで見てみますか?」
サザメキはDVDをプレイヤーにセットして再生を始めた。ALI PROJECTの主題歌が流れる。
「やっぱMALICE MIZER系だな。ほら、Gacktが居た頃の楽曲でさ……」
「まあ確かに似てますよ。でも……」
「歌ってやるよ『月下の夜想曲』。何かに導〜かれ〜森の中を……」
部下に「いい加減にしろや、オッサン!」と言われている支部長の姿に、やはり通りかかった彼の妻はどうしたものかと視線を注いでいたが、やがてどうしようもないと思い直し、去っていた。
強引にひとしきり歌い終わった後、支部長はサザメキに言った。
「サザメキ。今度、『と』を一人お前に預ける」
「またですか」
この春、サザメキは四国支部の『と』であった財前残九郎を、太鼓の鬼・ザワメキとして独り立ちさせたばかりだった。
「歳は17、女の子だ。既に、地元の北海道で2年ほど鍛え続けているが、ちょっと性格に難ありでな」
「というと?」
「感情ゼロなんだそうだ。誰にも心を開かないらしい。環境が変われば気持ちにも変化が現れるかもしれないと思ってな、四国支部で引き取ることにした」
「その子の希望の音撃武器とかは、あるんですかね。『太鼓』『管』『弦』、どれでもいけますよ」
「特に希望はないらしい」
「じゃ、会ってから決めます」
その後、北海道支部からやってきた『と』の副島そよは、長い黒髪を持つ、異常なまでに表情のない少女だった。
季節は流れ、同年秋。
吉野総本部の支部長会議の席で、総本部長は皆を見回して言った。
「これより会議を始めたいのですが……何故四国支部だけ代理人なのですか?」
総本部で技術部の『銀』となるべく修行中だった木倉恭也は、お茶くみの用事を言いつかり、その日、会議の席で一人お茶を淹れ、各人の机上に置いて回っていた。
恭也が以前見た会議の席では四国支部長は年配の男性だったが、なぜかその日は同年代の女性が来ていた。
「申し訳ありません、申し訳ありません」
その女性――四国支部長のロック好き、バンド好きを知りつくしている彼の妻は、ひたすら皆に謝り続けた。
「四国支部長はあの人の友人なので、あまり厳しい事は言えませんが……とりあえず理由を話していただけますか?」
開発局長・小暮耕之助の存在を気にしながら遠慮がちに総本部長は訊いた。
「……へ行ってしまいました」
小さな声で女性が答えた。
「え?」
「……ロックフェスへ行ってしまいました。『DIOやANTHRAXが来るんだよヒャッホゥ!』とか叫びながら……二日前から……」
「……えっと、四国支部長は会議と私事とどちらが大事なのでしょうか……」
「フェスに決まっています……。申し訳ありません、申し訳ありません!」
即答してその女性が平謝りに謝っている中、恭也はトレーを手に会議室を出ていった。その背後で総本部長と女性の声が続く。
「……え〜、では定刻を少し過ぎましたのでこれより会議を始めたいと思います」
「本当に申し訳ありません! 主人には後で厳しく言っておきますから……」
本当はもう一人、同期で車両部の『銀』候補生である岸啓真も同じ用事を言いつかっていたはずだったが、彼の姿もそこにはなかった。
恭也が車両部に内線を掛けて確認したところ、『MEGADETHやSLAYERが来るんだよヒャッホゥ!』という言葉を最後に、二日前から顔を出していないとのことだった。
その頃、岸啓真はロックフェスの会場にいた。沸き立つオーディエンスで満たされた会場の中で、啓真は他の観客同様ステージ上のアーティストたちに熱い声援を送っていた。
背後で派手なくしゃみが聞こえ、続いて男の声が言った。
「誰か俺の噂でもしてるのか? おっ! 次はあっちのステージか!」
うるさいオヤジがいるな、と啓真が思っていると、自分が見ていたステージとは別の方向から、ひときわ高い歓声が上がった。振り向こうとした啓真は強い力で突き飛ばされた。
「どけどけ餓鬼共! 年季が違うんだよ!」
その声は、先ほど啓真の後ろでくしゃみをしていた男――四国支部長のものだった。
そしてまた季節は巡り、2007年春。
副島そよが猛士四国支部に転属となり、サザメキのもとで修行を始めてから一年。序の六段まで修行が進み、そろそろ鬼の姿に変われると言われはじめていた頃だった。本部で『銀』として活動していた岸啓真と木倉恭也の二人は、四国支部に配属となった。
高知にある猛士四国支部に支部のほとんどのメンバーが集り、二人は皆に紹介された。調子よく挨拶の言葉を並べる啓真の横で、恭也は言葉少なに挨拶を終えた。
笑顔で彼らを出迎えた四国支部の面々の中で、一人無言で佇む黒髪の少女に恭也は気づいた。NPO法人「TAKESHI」のロゴが入ったスポーツウェアの上下を着込み、まったくお洒落には興味のない様子だった。
新人の『銀』二人の紹介が終わり、皆が三々五々部屋を出て行く中、サザメキが少女を二人の前に連れてきて言った。
「俺はサザメキだ、よろしくな。――で、こいつが俺の弟子の副島そよ、お前らと同じ年で、猛士に入った時期も一緒。同期ってやつだな、仲良くしてくれ」
そよは、師匠に言われて無言で二人に頭をさげた。啓真はそよを一目見て気に入った様子で、調子よく話しかけた。
「ヨロシクな、そよ!」
「気安く呼び捨てにするな」
啓真と恭也が聞いたそよの第一声は、それだった。
「申し訳ありません、師匠。支局に戻って修行を続けます」
サザメキにそう告げると、そよはすぐに背を向けて歩き出した。
「ちょっと待てって、そよ!」
啓真は笑顔でその後を追っていった。
「無愛想な奴でごめんな」
サザメキが恭也に言った。
「根は悪い奴じゃないんだが、ちょっと……いやかなり、感情を現すのが苦手でな」
「はぁ……」
曖昧に頷いた恭也は、二人の後を追って部屋を出ていった。
支部の通路でそよにまとわりついて色々と話しかけている啓真に追いつき、恭也は肩をつかんで言った。
「よせ。迷惑だろ」
「なァんだよ。お師匠さんが直々に『仲良くしてくれ』って言ってるんだぜ。邪魔すんなよ」
「都合のいい受け取り方をするな」
そよは何も言わず二人の様子を見ていた。
「おまえな」
剣呑な表情で振り返り啓真は言った。
「同じ『銀』だと思って調子に乗ってんな? 俺はそこらの『銀』より腕は立つぜ。言われりゃ『飛車』だってやるつもりだ」
「お前、少し猛士の仕事を軽く考えていないか?」
低く押さえた声で恭也は言った。
「本部にいた頃からいい加減な奴だと思ってたんだ。お前みたいな奴には『銀』も『飛車』も務まらない。大きな口を叩くな」
「言ったなテメェ」
怒りにまかせた啓真の拳がとんだ。恭也は一歩も動かずに頬を打たせた。
殴られてねじれた首をゆっくりと戻し、恭也は言った。
「おまけにすぐに頭に血がのぼる。その根拠のない自信はどこから来るんだ?」
有無を言わさず二撃目を繰り出した啓真の鳩尾に、恭也の強烈な拳が喰い込んだ。そのまま拳が振り抜かれ、啓真は廊下の壁に背を打ちつけて倒れた。
「多少腕に自信があるのかもしれないが、この世にはお前より喧嘩の強い奴は五万といるってことを、よく覚えておけ。しばらくそこで寝てろ」
壁際に崩れた啓真を見下ろして恭也は言った。しばらく立ち上がれまいと判断し、そよに向き直って恭也は言った。
「大丈夫か?」
「問題ない」
ひと言だけ残し、そよはその場を離れた。最後まで、笑顔一つも見せなかった。
「おい……」
立ち尽くしている恭也の背に、声がかけられた。
「ここまで痛ぇ目に合わせてくれたのは、お前が初めてだ」
凶悪な面構えで啓真は言い、よろけながら立ち上がった。啓真の体の頑丈さは恭也の予想を越えていた。
「無理して立ち上がるな、ゾンビかお前は」
これ以上支部内で面倒を起こしたくないと思い、恭也はそこから逃げることにした。
「まてコラぁ!」
その後三回ほど恭也は啓真を殴り倒したが、その度に啓真は立ち上がってきてしつこく恭也を追いかけ回した。
数日後、香川にある猛士四国支部の支局の一つである、峠のドライブインに建つカフェ「フリューゲル」の裏手に、岸啓真の姿があった。
この猛士関連施設に副島そよが下宿していると知った啓真は、非番の日にここを訪れた。
「そよ。そーよーっ!」
啓真が大声で呼ぶと、建物の二階の窓際にそよが無表情な顔を出して言った。
「今日は非番だ。……私のプライベートに干渉するな」
「今日もスポーツウェアか? 休みの日くらいオシャレしろよ。一緒に洋服買いに行こうぜ。もっとこう、ひらひら〜っとしたやつが似合うと思うなぁ、お前には」
そこに木倉恭也がやってきて言った。
「しつこい正確だな、お前は」
「あっ! こないだはよくも逃げやがったなテメェ」
ここで啓真は、恭也が自分と同じ考えだと思い、警戒するように言った。
「……そういうお前はここに何しに来てんだよ」
「今後のために、猛士の支局を見て回ってるだけだ。文句あるか?」
言い争っている二人の上から、そよの低い声が降ってきた。
「支部長が悩み相談をしてくれるそうだ」
そよの元にたった今、支部長直々のメールが届いたという。啓真と恭也のアドレスにも同報送信されており、内容は若い世代の三人と対面し、悩み相談を行うというものだった。
「へぇ〜、あの支部長が……。じゃあ行ってみるか」
恭也が言い、三人は香川から高知の四国支部に向かった。
「よしお前ら、話せ」
四国支部の一室で、サザメキや支部のメンバーが見守る中、支部長は三人を前にして促した。他の二人に順番を譲られたそよが、横目でちらりと啓真を見ながら言った。
「戦いとプライベートの両立について……」
次に恭也が訊いた。
「音撃弦の扱い方なんですけど……」
最後に啓真が尋ねた。
「恋愛相談とかって……ありですかね?」
「ふむふむ、よし分かった」
支部長は各人の悩みをメモしながら言った。彼らはそれぞれの悩みに対する答えを待っていたが、支部長はただメモの内容を確認し終えると、皆に背を向けて戸口に向かった。
「あの、それで回答の方は……?」
恭也に訊かれると、支部長は振り返って言った。
「ん? この悩みはな、ローリング・ストーン誌の布袋寅泰の相談コーナーに責任持ってメールしておくから。答えてもらえたらいいよな、HOTEIに」
それを聞いて、そよを除いた全員が叫んだ。
「お前が答えるんじゃないのかい!」
支部長が有無を言わさず立ち去った後、サザメキがそよに声をかけた。
「非番の日に仕事の話で悪いんだが……お前の音撃武器について話がある。ちょっといいか?」
この時まだ、彼女が『太鼓』『管』『弦』、どの音撃武器を使うかは決まっていなかった。
「問題ありません」
そよが支部の机につくと、サザメキはその正面に座った。他の支部メンバーが部屋を出て行く中、啓真と恭也だけはその場に残って話を聞いていた。
「俺が見たところ、お前が一番上手いのは『管』だな。『弦』もいける。『太鼓』は……まあ夏の魔化魍退治の時に扱える程度にはなったな」
そよは無言で頷いた。
「これからお前には『管』の鬼として専用の変身鬼笛を渡すつもりだが、音撃武器についてはもう少し先になる。お前専用の音撃武器にするために、既存のものを改造する必要がある」
「それ、俺も参加させてください」
恭也が言った。
「じゃあ俺、そよのサポーターやる」
啓真が手を挙げた。恭也がその手を力づくで下げさせた。
「随分と気が早いな。そよが独り立ちするのはまだ先の話だぞ」
サザメキは笑って言ったが、こう付け加えた。
「まぁ、考えておくよ」
サザメキは、そよの「歌」を活かすため、音撃盤を「射」系統に改造するよう依頼を出した。音撃管の射撃機能を備え、なおかつ演奏と同時に歌唱を可能とする、ショルダーキーボード型の音撃武器が彼女に与えられた。
これを用いて彼女が音撃盤の鬼・ソヨメキとなるのは、こののち更に秋が二回ほど巡ってからの話となる。
零之巻「巡りゆく季節」了
ああ、またやってしまいました。
>>445で「五万といる」と書きましたが、正しい漢字は「巨万」だそうです。
「巨万」もあまり使われていないようなので、ひらがなで「ごまん」と書くべきでした。
投下乙です。
>>439-448を読んで一番驚いたのは間違いなく俺だろうな…。
出先からケータイで覗いてて、思わず「うおっ」って口走ってしまったぐらいだし。
452 :
鬼島兼用語集:2009/04/26(日) 14:03:26 ID:SU9zOtX/O
今このスレ読み終わりました
>高鬼さん
森の妖精コルピクラーニだ!
ヨンネ・ヤルヴェラにヒッタヴァイネンなんて嬉しすぎる!
酒場で格闘ドンジャラホイもさらっとネタにしているなんてさすがです
彼らの活躍が楽しみでしょうがない
このヒッタヴァイネンはヴァイオリンでもヨウヒッコでも腰弾きだって信じてる!
>鬼祓いさん
すげえ、こんなにしっくりくるコラボは初めてです
高鬼SSと鬼祓いがまるでトマトとモッツァレラチーズのようにマッチしてる
// ミ
/ /
/ / パカ
/ .∩∧∧
/ | (・∀・) < あと10KB
// | ヽ/
" ̄ ̄ ̄"∪
___ヽヽ
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ バタン
零之巻、投下して良かったようで何よりです。また訂正ですが、
>>446の「しつこい正確〜」は、正しくは「しつこい性格〜」でした。すみません。
『鬼祓い』 スレ埋め用チラシの裏2枚目
文章で音楽を伝えるのは難しく、一応現存の曲を想定して作中で説明をしていますが、
具体的に曲名も歌手名も書いていませんでしたので、ここで補足させていただきます。
・七之巻
大阪のストリートライブで歌っていた曲は、西野カナの「glowly days」を
想定して書いていました。
・十四之巻
宗形三十朗の前で歌っていた曲は、こちらも西野カナの「遠くても feat.WISE」。
とてもいい声の歌い手さんなので機会があれば聴いてみてください。
欧州編の感想書きますね。
鬼はほとんど出ない話になるのかと思っていましたが、以外と出てくる鬼は多く、
それぞれが色々な背景を持って無理なく海外に来ていると思いました。
残念ながら用語集の人ほど元ネタを解っていませんが、それなりに欧州での鬼の活躍を楽しんでいます。
元ネタが解る人にはもっと楽しいんだろうなと思います。(実際に用語集の人がとても楽しそう)
「荒吹く鬼」は、第一話で少しだけ出ていた師匠が、まさか主役とああいう関係で、
ああいうことになっていたとは思いませんでした。(あとまさか続編があるとは・・・)
今後、因縁の対決を予感させる展開になっていましたので、次回投下を期待して待ちます。
鬼島感想。最初のエピソード投下から一年半くらい…ようやく生徒四人が変身する鬼の
元ネタがわかりました。「藤原千方の四鬼」というものがあるんですね。
スレを更にさかのぼると、二年くらい前に高鬼SSの「鎌鼬の夜」というエピソードの中で
伝承そのものについてちらっと語られていたのですが…記憶から消えていました。
ドヨメキさんの本名が強烈でした。
+ ゚ . + . . .゚ .゚。゚ 。 ,゚.。゚. ゚.。 .。
. . ゚ . o ゚ 。 . , . .o 。 * .゚ + 。☆ ゚。。. .
。 。 *。, + 。. o ゚, 。*, o 。.
゚ o . 。 . . , . , o 。゚. ,゚ 。 + 。 。,゚.。
゚ , , 。 . + ゚ 。 。゚ . ゚。, ☆ * 。゚. o.゚ 。 . 。
。 . .。 o .. 。 ゚ ゚ , 。. o 。* 。 . o. 。 . .
。 . 。 . .゚o 。 *. 。 .. ☆ . +. . .
。 . . . . . 。 ゚。, ☆ ゚. + 。 ゚ ,。 . 。 , .。
゚ 。 ゚ . +。 ゚ * 。. , 。゚ +. 。*。 ゚. . . . .
。 . . 。 。゚. 。* 。, ´。. ☆。。. ゚。+ 。 .。 . 。 .
. 。 ゚ ゚。 。, .。o ☆ + ,゚。 *。. 。 。 . 。 .
゚ .゚ ゚ 。゚ + 。. +。 * 。゚。゚., ,+ 。゚. 。 . . , , .
゚。゚+゚`, o。。.゚*。゚ 。.゚ 。 ☆+。。゚. ° 。 . , ゚ ゚
。,*`∞´。 + ☆。,゚. o。 。+ 。゚., . ゚ , 。 。 . .
゚. o * 。゚。゚.。゚。+゚ 。 。 ゚。 ゚ 。 ゚
゚` .゚ .゚. ゚. . ゚ . ゚ . , . . . 。 ゚ .
. . . , 。 . . , .
。 ゚ . 。
, . . , . .
。
)、,)
. . (:;;;;::) ――ソロソロ スレウメ ノ キセツ カ。
| :;;;::ヽ
‐''"´'''"""''"`''""`"""''''''"´'''"""''"`''""""'''"''''''"`"""''''``'‐
// ミ
/ / パカ
/ /
彡\ /ノノノノ/ミ
\\( ゚∋゚)/
//| \///
" ̄ ̄ ̄ ̄"
、∧,
( _X_)
∪__∪ミ
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ バタン
、∧,
( _X_) < …
∪__∪
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄
、ヘ, ∩
( _X_)丿
⊂二||| |||
/ll(光l二⊃
⊂二ノ ̄
___
/ / =≡=
 ̄ ̄ ̄ ̄
___
/ / < …
 ̄ ̄ ̄ ̄
、ヘ,
( _X_)
___ ピョコ
/___/ヽヽ
/ ( ゚∋゚)/
 ̄ ̄ ̄ ̄
、ヘ, !
( _X_)
___ヽヽ
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ バタン クル
、ヘ, 彡
(_X_ )
___
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄
、ヘ, <…
(_X_ )
// ミ
/ / パカ
/ /
彡\ /ノノノノ/ミ
\\( ゚∋゚)/
//| \///
" ̄ ̄ ̄ ̄" クル
(( 、ヘ,
( _X_)
バタン
___ヽヽ
/ / 卍 ヒュン
 ̄ ̄ ̄ ̄ ミ
と\ 、ヘ,
\\(_X_ )
___ ピョコ
/___/ヽヽ
/ (≫w≪)/ 卍≡=−
 ̄ ̄ ̄ ̄
と\ 、ヘ,
\\(_X_ )
// ミ
/ / パカ
/ /
/ .∩ヽ_ ノノ サクッ
/ | (≫w≪)卍≡=−
// |ミ| |ミ|ヽ/
" ̄ ̄ ̄"∪
と\ 、ヘ,
\\(_X_ )
完
// ミ
/ /
/ / パカ
/ .∩、ヘ,
/ | ( _X_) <あと3KB
// |||| |||ヽ/
" ̄ ̄ ̄"∪
___ヽヽ
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ バタン
ノノノノ
( ゚∋゚)
___ ピョコ
/___/ヽヽ
/ ( _X_)/
 ̄ ̄ ̄ ̄
ノノノノ
(゚∈゚ )
___
/___/
/ ( _X_)/
 ̄ ̄ ̄ ̄
ノノノノ
∈゚ )
(⌒ .//ノノ
\ヽ/゚∋゚)
/ (uu」\ノ⌒\
/ .∩、ヘ, / /
/ / | ( _X_)
// |||| |||ヽ
" ̄ ̄ ̄" ̄∪
ノノノノ -___
、ヘ, (゚∈゚ ) ─_____ ______ ̄
(_X_ ) ≡=― 丿\ノ⌒\ ____ ___
と|||⊂ ||) 彡/\ /ヽミ __ ___
\光)ll| ≡=― ./∨\ノ\ =_
( < ⊃ .//.\/ヽミ ≡=-
∪ ≡=― ミ丿 -__ ̄___________
ノノノノ ノノノ
∈゚ ) 三 ( ゚∋
? ノノノノ
∈゚ )
/⌒ )
ミイ /
| (
/ミ
ノノノノノ⌒⌒)
(゚∈゚ )⌒二二二彡 ≡≡≡≡====−−−−
/ /| |ノ\
/ /. ヽ/ヽミ
ミ丿
=≡≡≡==−
___
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄
ノノノノ
∈゚ )
___
/___/
/ ( ゚∋゚)/
 ̄ ̄ ̄ ̄
___ヽヽ
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ バタン
___ ピョコ
/___/ヽヽ
/ (゚∈゚ )/
 ̄ ̄ ̄ ̄
___
/___/
∈゚ ) 三 ( ゚∋
 ̄ ̄ ̄ ̄
___ヽヽ
/ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ バタン
____
\ \
 ̄ ̄ ̄
ノノノノ
∈゚ ) <…
/⌒ )
ミイ /
| (