2008/11/20(木) ネオショッカー樹海支部
博士:おお、佐藤君、秋葉原で新しく出たばかりのインテルの新型CPU、Core i7を
百個ばかり買ってきてくれ。金は今刷り上ったのがあるから好きなだけ持っていけ。
ただし経理がうるさいから領収書をちゃんともらえ。一泊していって構わんぞ。
佐藤:やれやれ、久しぶりの秋葉原詣でか。どこで買おうか。やっぱり逝きつけの
憑句藻電機かな。えーと、女性の店員さんは、と。すみません、Core i7百個
お願いします。現金払いで。えっ、今混んでて梱包できない? じゃあ明日一番で
引き取りにきますから用意しておいて。あ、領収書の宛名は(株)根悪処ッ華ー、
難しいから名刺を見て、そうそう、前株で。あなた名前はさゆりさん?じゃあよろしく
悪の組織も最近は民生品使用が推奨されているので、佐藤のようなエージェントがこうして
秋葉原に出没する。日本を狙う某国のミサイルもこうして秋葉原の電脳街でパーツ単位で
入手された部品が多く使われているそうな。ネオショッカーの改造人間に民生品利用が
始まったPentiumの頃からに比べると今回発注したCore i7は天と地ほどの能力差がある。
きっとマルチタスクで高性能の改造人間ができるだろう。
アキバをブラついていた佐藤は憑句藻 ロボット館を発見し中を覗くが、なんだ、等身大の
ロボットはないのか。これなら我が組織の方が上だな。ラブドールメーカーのアリエント
工業の製品はないのか?憑句藻のロボット技術とアリエント工業のラブドールの技術を合体
させれば画期的なセクサドールが誕生するな。Core i7でマルチタスクで男性を相手する
スーパーセクサロイドをマニアに売れば我が基地も繁盛間違いなし。「なんだろけ」の前で
佐藤はそこでショウウインドウにディスプレイされているシリコンドール「ティナ」に
ときめいた。待ってろ、今に俺が「お帰りなさい、ご主人さま」と言わせてみせるぞ。
そのために高価なCore i7を百個も頼んだんだからな。百人のメイドロボにかしずかれる
自分の姿を妄想してニンマリする佐藤。それはお主の妄想じゃ、かぁっつーーーー!!
サブ人工頭脳が佐藤の煩悩に警告を出すが人間の本能っちゃ手に負えない。夜のアキバに
姿を消す佐藤。いったい何処に逝ったやら・・・
翌朝、憑句藻電機に向かった佐藤が見たものはシャッターが降りた状態で次々に運び出される
店内の商品。張り紙を見て唖然とする佐藤。え、N石レンタルの差し押さえだと!!!。
俺の頼んだCore i7百個はどうなっているんじゃ!!! 怒りのあまり、戦闘員モードに
変身した佐藤は運送会社の車に体当たりして横倒しすると自分の商品はなかった。そのまま
店舗に突入すると、可哀想な運送会社の社員をなぎ倒し、指揮を執っていた背広姿の若造に
パンチをお見舞いした。根悪処ッ華ー様取り置き分と書かれた箱を見つけ出すと、疾風の
ように立ち去る佐藤。左肩にCore i7の箱、右手には何故かあの女性店員を小脇に抱えて・・・。
横転した車や無政府状態になった店舗を遠巻きしていた群集はドッと群がり商品をかっさ
らって逃げていく。近くの万聖橋警察署から署員が駆けつけたのはかなり時間が経ったあとで
すわ、第二の加藤か、と大騒ぎになったが、略奪に遭った店舗の惨状が知られるにつけ、
マスコミは格差社会が産んだアキバ暴動とセンセーショナルに取り上げることになる。
目撃者の語る犯人像は突風が吹いたようで竜巻が来たんじゃという者もいれば、黒い影が
車を倒すと店舗に突入し、しばらくして何かを抱えて消えた、という者も。伝説の怪傑アキバオー
の再来と言い出す者も居て、結局捜査の役には立たなかった。店内の監視カメラは全てレーザー
によって破壊されており、かろうじて残った画像も疾走する黒い影しか写っておらず、捜査当局は
機械の故障と判断した。かつては日本の情報世界を支配したN石グループ傘下の一企業の暴挙を
ネット社会は轟々と非難し、差し押さえを妨害した謎の男は一部から熱烈なヒーローとして歓迎
され、憑句藻を守った神から「付喪神(つくもがみ)」と呼ばれるようになる。同情をかった
憑句藻電機は立ち直り、差し押さえを強行したN石グループの評判は地に落ち、グループ全体の
業績に後々まで響いた。株主はこれを「付喪神の祟り」と呼んで経営陣を責め立てた。
なお、自宅待機を命じられていた女性店員が営業再開後、見当たらなくなったことは知られていない。
涙を流して商品搬出を見ていたとの目撃談から精神的なショックで失踪したのでは、と噂されたが
真相は不明だ。彼女の履いていた靴が何故か富士の樹海から見つかったこともあって、自殺説も
一部にはある・・・。
後日談だが、この後、N石レンタルの関係者が衣服だけ残して失踪する事件が相次いだ。
近所の人間の話の中には失踪した時間帯にブーンという蜂の羽音が大きく聞こえたとの証言も
あったが、その意味するところは誰にも判らなかった・・・。アキバ暴動の巻 (完)