おにゃのこが改造されるシーン素体１2人目

　ネオショッカーでも最近はナノマシンを駆使した軟性タイプの改造人間が主流だった。
事前の調整が少なく手術時間も短いというメリットからナノマシン方式は一気に各地の
基地に広がった。そのため、旧来型の改造手術と得意とするＳ博士のようなベテランは
第一線を追われることとなった。だが、攻撃力、防御力の面で言うと旧来型の方が優れ
ており、不足しているのはナノマシンタイプの速度、敏捷さだった。
　重量増加を抑えつつも、攻撃力、耐久力を維持するために積極的に新素材を使うこと
にした。ナノマシン浸透によって皮膚表面に形成された保護幕では刃物や拳銃弾程度
は防げてもそれ以上の重火器には無力だった。予め骨格を軽量の新素材で作成し、その
周辺に人工の血管、神経、筋肉を配し、ナノマシン由来の保護幕を外装に使うという
ハイブリッドな改造人間のボディは人体を改造してできるような代物ではなかった。
予め組んでおいて、思考を担う脳の格納容器と、各種人工臓器のコントロールを司る
補助人工頭脳を埋め込むという訳だ。今流行の言葉で言えば「義体」である。例えボデ
ィが破壊されたとしても、ミサイルの直撃に耐える脳の格容器さえ確保できれば、ボデ
ィの再構築は容易なのだ。むろん軽い傷などは一般人に偽装する場合も考えて一時的に
血が流れるものの、自己修復型ナノマシンによって修復される。皮膚だけでなく、人工
血管、人工神経等の末端器官は自己修復タイプなのだ。
　幸子が手術室に運ばれてきた。執刀は博士一人が行い、補助は看護アンドロイドの
役目だった。博士は己の孤高の技術が組織に漏れるのを恐れ、他人の介入を拒んだ。
もっとも全能の首領さまは博士のそんな思惑は承知していたので、基地の最高責任者の
博士にも内緒で最初から設置してある隠しカメラで、博士の技を全て記録するつもり
だった。隠しカメラはアンドロイドにも仕掛けられており、映像は隣室に持ち込んだ
バッテリーケースの中の記録装置に電波で飛ばすことになっていた。が、手術開始前に
手術室を電波暗室状態にした博士によってその際立ては阻止され、アンドロイド本体も
機密保持の名目で即刻バラバラに裁断されたため、執刀場面などは間近での記録はでき
なかった。

　博士が幸子に言った。では改造手術を始める。麻酔をかけるぞ。と、幸子が手術を
見てみたい、と言ったので、博士は、では途中までは見せてやる、と言って、首から
下に麻酔をかけた。痛みなどは首のラインでカットすることにしたので、幸子は自分の
身体が切り刻まれるのを見せ付けられることになる。通常の神経なら悲鳴を上げて失神
するところだが、幸子は目を輝かせて博士の振るうメスを見つめていた。博士も見せ付
けるように派手なアクションで幸子の身体にメスを入れた。呼吸関係は補助心肺装置に
移管していたので、内臓がどうなろうと幸子の頭脳には影響が無かったが、さすがに
ドクドク動いている心臓をつかみ出され見せられた時に幸子は失神した。
　さぁ、お遊びは終わりだと博士は呟いた。博士は幸子の視線すら疑っていたのだ。
今回の手術は義体方式なので、脳組織を取り出せばそれで済んだのだが、敢えて幸子の
身体を切り刻んでみせたのは博士の悪戯心か、組織への欺瞞工作か。博士は幸子の脳を
切り開くと、脳一式を丁寧に取り出し、用意しておいた格納容器に詰め込んだ。幸子の
脳は格納容器から出ている神経線によって博士が用意しておいた全く別の手術映像を
見せられることになる。

　脳を取り出した博士は、切り刻んだ幸子の身体を、幸子が最初に突っ込まれたのと
同じようなナノマシン溶液の入ったカプセルに収納するとそれをいずこかに運んで行き、
今度は幸子の身体を載せたベッドを引っ張って戻ってきた。この幸子のボディはむろん
カプセルに納めた生身のボディではなく、博士が心血注いで組み上げたハードタイプの
ボディだった。博士は幸子の脳の格納容器を義体にセットすると超小型プルトニウム
電池を始動させた。幸子は相変わらず偽の夢を見せられていたが、博士による各部接続
テストと点検が続いていた。手術は12時間後に終了した。博士は手術に立ち会った看護
アンドロイドの電源を抜くと、ゴミ裁断場に続くシャフトにアンドロイドを突き落とし
後片付けをした。新たに看護用アンドロイドを呼び出すと、絶対安静12時間、誰にも
近寄らせるな、と命じて手術室を後にした。疲労困憊していたが、博士は「完全燃焼」
の満足感で一杯だった。先のことは判らないがとりあえず寝る！。博士は自室に戻る
なり、ベッドの布団の上に横になる、そのまま大いびきをかいて眠りに落ちた。

　ネオ蜂女となった幸子が意識を取り戻した。手術のシーンは自分の心臓を見せ付け
られたところまでは十分覚えていたが後の記憶はぼんやりだった。切り開かれた胸に
博士が各種機械を埋め込むのを見たような、見ないような。
　起き上がった幸子は自分の身体を姿見(鏡)に映してみたが、別段変わった感じは
なかった。が、傍にあった体重計に乗って幸子は改造人間になった実感を味わった。
ひゃ、百キロ！。見た目は変わらないものの、やはり改造されたせいで確実に重量は
増えていた。もう泳ぎに行けない。真剣に幸子は悲しんだ。水着を陸で着ているるだけ
なんて・・・。せっかくのダイビング訓練もパーね。
　と、部屋の明かりがついて、博士が入ってきた。どうかね、幸子くん、異常はないかね？
博士、見た目は前と変わりません、ただ重たくなっただけで。どこが改造されたのですか？
そう、それを説明に来た。君が改造されたのは「ネオ蜂女」というものだ。潜入、情報
収集から普通の戦闘までは対応可能だ。普通の戦闘、と言ったのは、例えば戦闘専門に
チューニングされたアンドロイドには勝てない、という意味だ。人間、あるいは通常
タイプのアンドロイドに君が負けることはない。また戦闘用アンドロイド、バトロイド
のと戦闘でも攻撃力では劣るが、防御力は相応に強化してあるので逃げることが可能だ。
戦闘での勝利ではなく、逃げ切れば勝ち、という任務もあるので、それは理解しておいて
欲しい。では、各部の機能の説明を始めよう。

　右腕を正面に上げて、ゆっくりと時計回りに回しながら、「ダーク・ビー・メイク
アップ」と言ってみたまえ。大声を叫ぶ必要はない。恥ずかしければ小声で構わない。
文句自体は当組織の大幹部であった悪美様の名文句から拝借したものだが、出所は
気にしなくてよろしい。そう、腕はゆっくりと。変身はわずか1ミリ秒で完了する。
　幸子は腕を回しながら「ダーク・ビー・メイクアップ！」と大声で叫んだ。一瞬、
クラッと来たが、目を開けた瞬間、青いボディに同心円が描かれたバストが視界に
飛び込んできて、幸子は自分が怪人になったことを実感した。
　博士は説明を続けた。怪人のデザインは初代の蜂女を踏襲している。アレンジを
したい場合は相談に乗るから申し出てくれ。まぁ慣れるまでは最初のままがいいだろう。
先代は眼鏡やイアリングによる洗脳ができたが、今の時代に眼鏡やイヤリングなんて、
ということでで、君には携帯やミサンガで相手をコントロールできる機能をセット
してある。ブルーツゥースでパソコンを乗っ取ることもやWEPの脆弱性にによる乗っ
取りも自由自在だ。いわば「電波の魔女」というところだ。また強力な電磁波を発生
してEMP、つまりは電磁パルスによる敵中枢の破壊もできるが、その場合、エネルギーを
大量に消費してしまうので、回復までに半日を要する。最終手段だと思ってくれ。
　先代の蜂女はフェンシングが得意だったが、君の脳を補助する人工頭脳にプログ
ラミングしてある。何ならオリンピックで優勝もできる腕前だ。だが君は射撃の方が
好きなようだったから、そっち方面は伝説のスナイパー、G13号並みに強化してある。
接近戦から超遠距離射撃まで完璧にこなす事が可能だ。

　蜂女という名称だが飛行能力はない。せいぜい20mまでのハイジャンプだ。そのため
専用のビーウイングを補助パーツとして用意している。どうだ、いたせりつくせりだろう。
ダイビングでできないと嘆いたが、潜ることは可能だ。ただし浮力発生装置がないと
沈んだままになるので注意しろ。深海に沈んだ時は回収不可能と思って欲しい。
遠隔操作で脳の格納容器だけ分離、回収できるのだが、博士は最初から言ってしまうと
無茶をやりかねないからな、と黙っていた。
　外見のアクセントの胸だが、ここにも特殊機能が埋め込まれている。右側の乳首から
通常は毒針が発射される。せいぜい痺れる程度だ。特殊任務として、人体へのナノマシン
注入にも使用できる。専用の毒針によってボーグαの持続時間を無限大にしたボーグβ
を打ち込まれた人間はナノマシンによってサイボーグ化され、君の命令にも従うように
なるが、思考力は低下しているので高度な任務には使えない。ナノマシンタイプの
蜂女クローンを作れる方向で改良中らしいが、私の専門外だからな。
　左の乳首から出る液は洗脳液だ。ボーグβほどの持続時間は無いが、一両日は居の
ままに従い、思考力は低下しないので、任務によって使い分けて欲しい。
　と、以上だが何か質問は？　おっと、これは念のための警告だが、身体の機能を司る
補助人工頭脳には、組織を裏切った場合、動作を停止する機能がある。くれぐれも
組織には逆らわないようにな。君は自主性重視型改造人間プログラムの第一号の怪人だ。
従来の命令絶対服従の近視眼タイプの思考形態は廃して自由に考えることができる。
だが、組織としては万が一のセーフティは当然考えているということを肝に銘じておけ。
だが博士は、命令の優先度が自分＞組織だがな、になっているとは言わなかった。

　幸子が言う。博士、こんな見事なボディを用意して頂いてありがとうございます。
これでようやく敬愛する首領さまの下に帰還できますわ。
な、何を？　博士は幸子が何を言い出したのか判らなかった。
どういうことだ、ちゃんと説明しろ！
退出し背中を向けて歩き出した幸子に命令する博士。だが幸子の歩みは止まらない。
・・・
そーか、出し抜いたつもりだったが、首領さまは全てお見通しだったか。
俺を幸子に処刑させずに生かしているということは、まだ利用価値があるということか。
首領の力に震え上がる博士。生きるためにより高度な改造技術を開発せねば、と改めて
確認した博士。佐藤、佐藤は何処にいる。すぐに来い。

呼び出された佐藤に博士は次の入隊者勧誘計画の進行度を確認し、計画を急がせた。
と、最後に、佐藤、やっぱり次も女性がいいな、頑張れよ・・・

ネオショッカー富士樹海基地、今日も異常なし　　　　（完）