幸子だった者が目覚めた。ここが何処?私は誰?私、頭がぼんやりしている。
筒みたいなところにいるんだわ、暗くてよく見えないけど、間近に天井があるわ。
女が天井を押すと上に上がるので、女は力を入れてカプセルの蓋を持ち上げ、
身体を起こした。薄暗さに目が慣れて次第に周りの様子が見えてきた。きゃっ、
私、裸だわ!。本能的に胸を押さえた女。が、その手ごたえに驚かされる。薄
ぼんやりとした記憶では自分の胸はこんなに豊かではなかったような・・・。
周りには女が居たカプセルと同じものが数個あったが、どれも蓋が開いたままで
中身は空だった。女は立ち上がり、カプセルの周りを調べてみた。と、畳まれた
黒いレオタードと黒いグローブ、黒いシューズが置いてあった。全裸なのも恥ず
かしくて、幸子はレオタードを着ることにしたが、さすがに下着が無いと、と
更に探すと、やはり黒いTバックと黒のスポーツブラが。Tバックなど今まで
着けたことがないように思えたが、何もないよりマシ、と思い切って下着をつけ
レオタードを着てシューズも履いた。と、どこからか呼ばれている気がして女は
フラフラと声が聞こえる方に歩いていった。
443 :
392:2008/10/24(金) 23:01:40 ID:A2mHn4ip0
佐藤は疲れていた。結局、カプセル内でナノマシンに適合できたのは幸子という
女一人だった。歩留まり六分の一か。まぁ残ったのがいるだけ今回はマシだな。
だが、この後、幸子だった女、認識番号S-107号には高圧電流に耐えるテスト、
SPI適正検査、その他色々な試験を受けてもらわないといけない。万に一つ、怪人
としての適性があると判断された場合、勧誘者として佐藤のポイントにプラス
されるが、待ち合わせ場所のあのおどおどした態度では怪人など無理よ無理よ
カタツムリよ、と思われた。眠った状態の幸子のボディサイズを調べて、豊かに
なった体型に合わせて衣類一式を用意したのは佐藤だった。戦闘員にしろ、奴隷
になるにせよ、万が一怪人に昇格するにしても、その教育と訓練はマン・ツー・
マン方式で行われ、その責任は全て佐藤に負わされていた。上位者に絶対服従の
悪の組織では異例な体制だが、これは長年の硬直的な命令体制による失敗の反省
から、この基地でのみ実験的に行われているやり方だった。が、任務達成以前に
歩留まり、つまり怪人生産率という最初の段階からうまくいかず、上司のS博士
もイライラが募り、スカウトマンの佐藤は博士に当り散らされていた。
おっと、そろそろ目覚める時間だな。佐藤はカプセル保管庫に向かった。
444 :
392:2008/10/24(金) 23:01:57 ID:A2mHn4ip0
保管庫のカプセルは空だった。用意した衣装は無くなっていたので、S-107号が
身に着けたのは推測できた。女はどこに行ったのかな? 佐藤は女の行方に想いを
巡らした。そうか、博士が初期段階だとナノマシンによる誘導波で、研修者控え
室に集まると言ってたな。集団で誕生した時のための手間を省くシステムだが、
一人しかいないんじゃ・・・・。佐藤は研修者控え室に向かった。
控え室に女は居た。佐藤は女の着こなしを見て自分の見立てが間違ってない
ことに安堵したが、おいおい、そんな場合じゃないぞ、と気を取り直して女に
正対した。女は研修員用のおやつ(もちろん習慣性麻薬入り)をパクついていた
ところだった。まぁ三日も食っていないんじゃ仕方ないな、と佐藤。それにして
もよく食ったな。念のため6人分用意されていた食料をS-107号は全てたいらげて
いた。急性中毒は起こしてないだろうな?佐藤は女の顔を凝視する。
なに、この人。私と同じレオタードを着て。男のレオタードって醜いわ。メタボ
体型だし。当初は佐藤を嫌悪した女だが、ナノマシンのインプリント(刷り込み)
システムのデータが佐藤を第一命令者と認識した影響から、次第に佐藤が懐かし
く思うようになる。あのー、あなたは誰ですか?ここは何処ですか?私は何故
ここにいるのですか?女は佐藤に矢継ぎ早に尋ねた。