261 :
ダイレン:
「道の行き先」
赤いランドセルに由美は教科書を入れていく。久々の登校である。臨時学級と言うべきか、義務教育である以上登校は避けれない。
「由美、もっと休んでていいのよ?」
「大丈夫。あたし、もう2週間以上学校行ってないから、楽しみだし」
「でも……」
愛情ゆえに母は自分を止めているのだろう。しかし、電話したら真紀や美由紀も来るらしいので行くことに決めたのだ。
「せめてお母さんも……」
一緒に行くと言おうとしたら、父親である猛(タケル)が部屋に入ってきた。
「猛さん……」
「翔子、俺が途中まで一緒に行くから」
警視庁に勤めていて、柔道をしている父にはその言葉に自信を持っているようだった。
翔子は心配そうに2人を見つめて送り出す。由美は父と2人でこうして歩くのが久々なので、少し緊張してしまっている。
いつもなら車で出勤するのに、今日は近くに部下を呼んでそのまま出勤するらしい。
「……由美……」
「え?」
「お前が帰ってきた夜……俺は立ち会ってやれなかった……ごめんな」
「いいよ……お父さん、忙かったんでしょ?」
きっと自分達の事件の事についてだろうし、現在対応に追われてるのは間違いないだろう。
「俺は今、この事件の捜査に関わってる」
「!!?」
同じ関与であっても、捜査本部の一員だったとは思わなかった。由美は父に秘密している事の重大さを急に感じ始めた。
もし、父がヘルマリオンに近づきすぎたら?捜査の段階で襲われたら?
「………お父さん、あの……あのね……」
「心配するな」
頭をポンと叩かれ、久々にその大きい手の平で撫でられる。
「お前の友達はきっと、お父さんが助け出すから。……あとは1人で行けるな」
由美はそう言って歩いていく猛を心配そうに見つめていた。無事を祈りながら、学校へと足を進める。
262 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:06:12 ID:OIlA8RsNO
猛はそのまま部下の迎えで警視庁へと向かう。車の中で、部下の持ってきた資料を目を凝らして見る。
「娘さんはどうですか?」
「今のところ問題ない。だが、相当怖い思いをしたのは間違いないんだ」
彼の見ている資料には骸教授の3年前の写真やわかっている部分のヘルマリオンについての最新情報について記されている。
「俺には信じられません………ソルジャードールなどという改造人間が人を襲うなんて……」
「38年前のショッカーから始まり、クライシス帝国というのが日本に襲来した事がある……いずれも仮面ライダーが解決したがな」
かつて世界を震撼させ、人知れず戦った仮面ライダーに壊滅させられた組織。その脅威を沸騰させるヘルマリオンという組織。
「これは感なんだが………とんでもない事が起きる気がする。俺達は、それに立ち向かわざるを得なくなるだろう」
「はぁ………」
「(……由美……)。公安の長田さんに連絡を取れ。あの人ならもっと情報を持ってるはずだからな」
学校の校門には少数ながらマスコミが押し寄せてきた。その中心には真紀と修一がいて、先生達が必死に校内にいれようとしている。
由美は足を止めたが、すぐ2人に会いたいと思って戸惑ってしまう。すると、由美に気づいたマスコミが押し掛けてきた。
「君、5年3組の子だよね?」
「いったい何があったのかな?」
四方から質問が飛び交う。由美は突破口をどうにか見つけて校門に辿り着く。
そこには由美より少し短いショートカットの髪型の真紀と、学級委員の修一が待っていた。
「おはよう」
「由美ちゃん……おはよう」
美由紀は電話で来るとは言っていたが、やはり家から出る勇気がなかったらしい。
教室には既に涼太など数人がいたが、美由紀も含めて5人は
「それにしても、何だったのかな?」
不合格組になったのは胸がないからだろうか。真紀は結構可愛い部類に入り、男子からの人気もあるほうなのだが。
「僕らを何かの実験に使おうとしてたんだろ。しかも、勝は化け物にされちまったし」
「そうそう。あたしと涼太君は食べられちゃったのよね」
一見明るく振る舞っているが、ここにいる全員が思っている。゙何かが足りない゙と。
それが何なのかはわかっている。全員が揃っていないからである。クラスの集合写真を見て、愛美がボソッと吐く。
「他のみんな……無事……かな……」
一同に暗くなる。修一が手放さなかったカメラから、色々な写真が出来上がっている。
そこには仲良いクラスだとわかる笑顔が収められていた。由美も行きのバス、パーキング、動物公園、襲われる直前の帰りのバスと写っているのが多い。
「みんな無事だよ………きっとまた……」
由美は渚によって無理矢理密着させられて撮った健一とのツーショット写真を見つめた。
2人とも恥ずかしがっている様子がわかる。でも、自分はこの時点では健一への気持ちに気づいているわけじゃなかった。
(健一君……)
そこには中途半端に溶解しているスーツが数枚落ちていた。小便のように液体をかけ、触れたものを溶かすヒグラシマリオン。
由美達の遠足のバスガイドである女が改造された姿である。ヒグラシマリオンは肩を押さえながら人気の無い裏道を逃げていく。
彼女の羽は既に破かれていて、体中の至る所には針が刺さっている。
「………ハッ!」
上空からはサキが針を最大限に伸ばして、槍状にしている。これをしたら邪魔ばかり入っていたが、今回はないだろう。
264 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:08:50 ID:OIlA8RsNO
「待っ……」
「今日は逃がさないわよ。ビースティンガー……゙ポーションズジャベリン゙!!」
針先は紫色に変色し、サキの手から放れていく。ヒグラシマリオン伸ばして胸を貫き、動きを静止させた。
毒が全身に回り、カタカタと震えるヒグラシマリオンは身をそのまま溶かしてしまった。
元の姿に戻り、路地裏から紗希は出てくる。しかし、自問自答を繰り返しているせいか苦い表情をしていた。
゙手段がないからって……簡単に人を殺せるなんてひどいわ゙
゙あたしは、友達を……゙
胸が痛む。自分が手に掛けてきたリン、結。その他、既にソルジャードールを30体は倒しているのだ。
倒す?いや、違う。殺したんだ。確かに自分に人に戻す力はない。だが、何か別の方法があったのではないだろうか?
この手で奪ったのは彼女達の未来だけじゃない。自分自身の未来も……。紗希は由美に対して抱いているのは嫉妬なのだ。
「私は……………間違ってないわ………」
そうでもしなければ自分が保てない。それしか出来ないんだと。そうすることが彼女達のためと。
「先日の女の子も殺しておけば……」
真央の見舞いに来た由美はクラスとクラス外の友達からの手紙を渡しに来た。
他の子はこの際過保護とは言わないくらいに親と登下校なのでこれない。
「ありがとね……あたし、さっき目を覚ましたばかりだから何も用意できないけど」
3日経ってやっと目が覚めた真央。それだけダメージが多かったのだろう。
「大丈夫だよ。テレビでも観ようか……」
リモコンの電源を入れる由美。ちょうどニュース番組がやっており、大学生の大量殺人事件についてやっていた。
それ事態はすぐに報道されていたが、これは謎の事件の総集編といった内容だった。
急いでテレビを消した由美。恐る恐る後ろを向くと、真央がガタガタ震えていた。
265 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:11:39 ID:OIlA8RsNO
彼女の脳裏には思い出したあの夜がフラッシュバックしているのだろう。
「……あたしがやったんだよね?。あたしが………殺し……」
「違うよ……真央ちゃんは悪くないよ!」
消えない記憶。確かに洗脳されていたとはいえ、彼女がやったに変わりはない、
「あたしが、あたしがヘルマリオンを倒すから……みんなを助けるから……だから、心配しないで」
多くは聞かないし、言わない。由美も真央も互いにわかっているからだ。それぞれの成すべき事も、すべきことも。
ヘルマリオンのアジトでは次なるソルジャードールを生み出すために素体が選ばれていた。
「高月 渚………ずいぶんと熟した体をしとるのう」
スポーツ万能で11歳にしてB77の巨乳の渚。男勝りで喧嘩っ早く、敵意を剥き出しにしている。
「ジジイ……真央は、真央はどうなったんだよ!」
「さあ?自分の目で確かめるんじゃのう……」
ボーイッシュな髪型にプペロイドの手がギシギシと入り込んでくる。ヘリオンラーヴァに収容される直前、渚は骸の顔をギリッと睨んだ。
「待ってろよ……絶対にお前らをボコボコにしてやるからな……」
閉じられると渚の体が触手に巻かれて振動しはじめた。思ったよりも痛みを生じ、自分に流れ込んでくる熱いものを感じざるをえない。
「あ……あああああアアアアア……」
今回はより戦闘用にするため、動物の遺伝子の他に炎や水などの特性をさらに引き出すために促進剤を投与している。
しばらくすると、マリオンラーヴァが開封され、赤毛の猿らしい姿をした少女が現れる。
「モンキー………いや、エイプマリオンといったところかの?」
「はい。あたしはエイプマリオン………骸様に頂いたこの力でウイングマリオンを血祭りにして差し上げます」
「うむ」
あの威勢の良かった渚はここにはいなかった。エイプマリオンはすぐさま地上へ向かい、由美を探す。
266 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:16:50 ID:OIlA8RsNO
「さて……どうやって見つけるか……。そんな必要ないか……」
既に目の前には由美が立っていた。人間状態でないまま地上に現れたため、すぐに見つかったのである。
「渚ちゃんなのね……」
猿を擬人化したような彼女は、西遊記の孫悟空の女版と言えるような容姿だった。
また、猿という人間に近い動物のせいか面影が色濃く出ている。
由美は静かに翼を広げ、白き羽毛に包まれる。スワンサーベルを構えると、エイプマリオンも
「ウイングマリオン……さあ、このエイプマリオンと殺り合おう!」
炎が現れたかと思えば、それは長い棒状の武器に変わる。それはまるでユミと同じように。
恐らく前回の戦いを監視させて、データを収集したのだろう。ユミが羽という形に具現化しだ光゙とは別に、゙炎゙を具現化させる能力。
「ワクワクするなぁ〜!!」
野球の時も、サッカーの時も、体を動かすことが好きな渚は決して男子に劣らなかった。
そして、それを純粋に楽しんでいた。この口癖は渚に相違ないのだ。
「あたしが……助ける……」
最初に動いたのはユミだった。スワンサーベルの切っ先がエイプロッド……もとい如意棒とぶつかって音を響かせる。
力で勝るエイプマリオンは押し返し、機動力で勝るユミは滑空して上空から斬りかかる。
バチィィィンという激しい音が鳴り、両者はお互いに距離を取る。
「流石……だけど!!」
炎の玉を左手作り出し、まるで野球のように如意棒で打つ。ユミもピジョンバレットで相殺しようと撃ち返すが、エネルギーの密度の差が大きいために消しきれない。
やがて玉はユミに当たり、物凄い高熱と痛みが体中を走る。
「きゃあ!!。……熱い…… 」
今までは自分の力が大きかったから無傷でいられたが、実力が拮抗した戦いは初めてである。
その痛みは感じたことがない。ユミは改めて戦いの厳しさを痛感する。
267 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:19:22 ID:OIlA8RsNO
「どう?あたしの豪炎球は」
敵に打撃を与えて嬉しいのだろう。勝負とは頭で理解しているが、ユミもやはり渚が相手と思うと力が出し切れなかった。
「でも……」
力を出さなければ勝てない。勝たなければ元には戻せない。もし勝てなければ渚は紗希に殺されてしまうのだ。
「後で謝るから……今はごめんね!」
翼を羽ばたかせ、羽を放出する。腕で目を隠したエイプマリオンが視界を開いた時にはユミの姿はなかった。
「目眩ましか……姑息な真似を!」
如意棒を振り回して羽を払いのけようとしても、無数の羽は中々消えない。イライラしてきたエイプマリオンは炎を巻き起こし、火柱を上げる。
午後の日差しの中でビルの上では火柱が上がっていることを不思議に思う人は大勢いるだろう。
「ええーい!どこだ!?」
「ここよ!」
「!!?」
火柱の中心を通って真上からピジョンバレットを撃っていく。それはまるで台風の目を狙うが如く。
「う!……う!……猪口才な!!」
あれだけ燃え上がっていた炎を左の掌に集中させ、ユミに向ける。
「くらいな!!あたしの……紅蓮一式・烈火掌!! 」
集約された炎は高温のあまり発光現象を起こし、まるでビームのようにユミに向かっていく。
避けはしたが、その紅い光がユミの手にあるピジョンバレットをドロドロに溶かした。
「………なんて威力……」
「もういっちょ!」
如意棒を持ち替え、右手の烈火掌もユミに向けて放つ。
ユミもスワンサーベルに光を集中させ、迫り来る熱線を狙う。
「シャイニングハーケン!!」
光の斬撃が熱線とぶつかり、しばらくの鍔迫り合いの後に烈火掌が裂けていく。
「ク………なら………紅蓮二式・重焔(かさねほむら)!!」
両手でかめはめ波のように構え、烈火掌を重ね合う。熱線は太くなり、シャイニングハーケンも動きを止めた。
268 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:23:07 ID:OIlA8RsNO
互いに譲らぬまま技は相殺され、衝撃波が2人を襲った。
「キャアア!!」
「うわああぁ!!」
エイプマリオンは地上に落とされ、勢い良く激突する。ユミも隣のビルに激突して落下していく。
「……このままじゃ……」
翼は痛めてしまい、しばらくは飛べない。だが、ユミの脳裏には伝わってくるものがある。
゙絶対に落ちない゙。そんな思いを理解していた。すると、ユミの体はウイングマリオンとは異なる形態へと変化した。
上手い具合に着地したユミの姿は猫のような姿をしていた。確かに猫なら着地の仕方をその身で知っている。
「渚ちゃん……大丈夫?」
心配して近づいていく。声をかけられたエイプマリオンは情けをかけられ、バカにされているような気がして腹が立った。
コンクリートの破片をどかし、如意棒を構える。
「今度はキャットマリオン……ってこと?こんな風に変化するなんて便利じゃない」
突き出した如意棒を左に弾き、拳でど突く。人を殴った事などないユミに取って慣れないが、初めてとは思えない高速パンチを連続で出している。
「くそ!」
如意棒を地面に突き立て、エイプマリオンはそれで回転する。遠心力で威力増した蹴りは、防御したユミをガードの上から弾く。
すかさず如意棒を振るが、宙返りをして難を避ける。
「やるな……でも、そろそろ決着を着けようじゃない!」
如意棒で円を描き、その弧の軌道に豪炎球が停滞し、紅蓮を構成する超熱球に変化していく。1周するまでには8個もの超熱球が生まれている。
「待って!ここで使ったら、たくさんの人が!!」
「知るか!紅蓮八式・滅閃光!!」
超熱球が光り出し、それぞれがその熱を放出して爆発波を生み出す。それが起きたら大惨事だ。
269 :
ダイレン:2008/05/15(木) 02:24:48 ID:OIlA8RsNO
゙あたしが……やったんだよね?゙
真央の苦しみを渚にも味あわすわけには行かない。ユミはエイプマリオンのように掌にエネルギーを凝縮させ、肉球のように現れる。
「ラピッドジャンプ!」
猫でありながらウサギの瞬発力を用いて超熱球を飛び越えてエイプマリオンの懐に入る。
「グラムボール!」
零距離で手に集めた高エネルギーを打ち込む。避けようがない技をくらい、エイプマリオンは後方へと吹き飛ばされた。
「うわああああ!!」
ドサッと倒れたエイプマリオン。ユミも息を切らしているが、何かされる前に渚を元に戻すために気を強く持たなくてはならない。
ウイングマリオンに形態を変え、ペイアマリオンに近づいていく。
「………ユミ……待って……」
「渚ちゃん?正気に戻れたんだね。今、元に戻すから」
「違う!元に戻すな!!」
起き上がったペイアマリオンの目は左目だけ渚の目に戻っていた。恐らく、洗脳が完全に解けていないのだろう。
「ユミ……あんたはあたしを元に戻せるの?」
「う、うん」
「だったら……その半分くらいにして……」
「え!?」
如意棒を使ってキチンと立てるくらいまでダメージを負わせてしまった。ユミの中ではすぐにでも手当てをしてあげたい。
「あたしも……戦いたいんだ………。あいつらを全部倒したいんだよ……」
「でも……」
「ユミだって、仲間がいれば楽だろ?。あたしに は…………みんなを戻す力がないかもしれないけど、あんたの力には……なれるんだよ」
ユミは少し迷ったが言葉を聞き入れ、一本の大きい羽をペイアマリオンの胸に触れさせる。
するとそれが体内に入っていき、ナギサの洗脳を解く。両目もしっかりとナギサのものとなっている。
「へへ……これであたしも一緒に戦える」
「……渚ちゃんが一緒なら心強いよ」
2人は久しぶりに人間として、友達としての会話をしている。そして、強い絆はより一層深まったのだ。
つづく