レースの終局が近づきつつあった。
後続を大きく引き離してゴールへと向かうナイトサバイブ、アギト、カブトがついに、
2体の巨大障害物の待つエリアへと進入したのである。
そのとき、ナイトサバイブ=秋山蓮は思った。
――俺の優勝だな……。
後ろに続く二人も、地上を走っているにしては驚異的なスピードで追いすがって来てはいるが
所詮、一体だけ空を飛んでいるダークレイダーには追いつく術もない。
ただでさえそんな圧倒的な優位に立っていながら、今度は路上に回転する壁である。
今さら負ける要素など、どこを探しても見当たるはずもなかった。
電王との行きがかり上、こんなチートじみた戦法でここまで来てしまったものの
これほどまでに卑怯全開な勝ち方は、蓮にとっても実は本意ではない。
しかし、
「ひとりだけ空を飛んで優勝」と
「空を飛ぶのをやめた途端追い抜かれて惨敗」の二択では、
前者の方がまだ比較的、マシなように思える蓮である。
――さっさと終わらせてしまおう。
憂鬱な思いを振り切るように、手綱の如く握り締めた両手のハンドルを引き絞り
ヤケ気味に叫ぶ。
「ダークレイダー!!」
「キシャアアアアアアアアア!!」
巨大な翼を一杯に広げ、猛スピードで二大怪獣の頭上を飛び越えんとするダークレイダー。
その前方に立ちはだかる者は、もはや誰も居ない。
そのとき、カブト=天道総司は思った。
――何をやっているんだ、あのバカは。
もちろん、キャッスルドランの周囲を飛び回りながら
屋上の装甲響鬼と激戦を繰り広げている、
ガタックこと加賀美新のことである。
他のライダーとの競り合いに忙しく、ここまで確認する暇もなかったのだが
てっきり必死で自分の背中を追っているか、
途中でクラッシュでもして、暑苦しいセリフを叫びながら再起を図ってでもいるのだろうと思いきや
まさかトップが二周目の過半に達しようというこの時点で、未だにこんな場所で引っかかっていようとは。
さて、それではあのバカを追い抜き様、
どのような「おばあちゃんの一言」を引用して教訓を与えようか?
目の前に立ち塞がる巨大な死の罠を突破し、前方の巨大コウモリを追い抜いてゴールするという
天の道を行く男的には比較的たやすい問題に関する思考をいったん棚上げにし、天道は
人類最高クラスの思考能力を全て、上記の至上命題に投入し始めた。
そのとき、アギト=津上翔一は
「はあああああああああ!!」
全身の『気』を凝縮する武闘家の如き声を発しながら、
マシントルネイダーを再度スライダーモードに変形させその上に立ち上がった。
もはや衝突は不可避なほど近く、
急激に接近しつつあるパワードイクサーとキャッスルドランの巨体。
だが、かつて『仮面ライダーアギト』最終回において
神そのものと言っても過言ではない存在を、その右足一本で撃退してのけた彼である。
主観的神の代理人が操る重機とそのライバルごときに
今さら怖れをなす謂れなどあろうはずもなかった。
いやそれ以前に、ここに至る途中経過を全く知らない彼にとって
今現在前方で唸りを上げて回転する2体は
単にどこからか降って沸いた、一つの巨大障害物に過ぎないのだ。
『壊して通る』。
この上なくシンプルな方針に沿って、アギトはマシントルネイダーの背を蹴った。
翔一の闘志に呼応して輝くその姿はシャイニングフォームへと更なる変身を遂げ、
二大巨獣と彼の間の空に、巨大なアギトの紋章が聳え立つ。
アギト最大最強の必殺技、シャイニングライダーキックの発動。
これにより、
パワードイクサーおよびキャッスルドランの消滅が決定した。
そのとき、キャッスルドランの破壊に全てを忘れて没頭していたイクサ=名護啓介は
「キシャアアアアアアアア!!」
突然耳に飛び込んできた耳障りな雄叫びの声に
思わず顔を上げた。
見れば、超高速で回転する素晴らしき青空の中を
いまだかつて見たこともないほど邪悪かつ冒涜的な姿をしたコウモリ型モンスターが
こちらめがけて飛来して来ている真っ最中である。
――なるほど。キバの新しい力か。
瞬時にしてそう結論づけたイクサは、パワードイクサーの操縦をイクサナックルに一任するや否や
イクサカリバーを引き抜いてジャンプした。
聖なる光の矢と化して空を駆け抜ける彼の真正面に、
完全に無防備なモンスターの腹が迫る。
真っ二つに両断され、爆発炎上する敵の姿を早くも幻視する彼の目には
ほんの数十メートル離れた空に出現した巨大な紋章も、
その向こうから迫り来る神々しいライダーの姿も
全く映っては居なかった。
(続く。)