238 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・6):
一方、無人の野を行くが如き城内破壊活動が繰り広げられていたキャッスルドラン内部では
「もういい! あとは僕ひとりでやるから! みんな出てってよ!!」
外部の騒乱に全く気付かないまま、良太郎がキレていた。
4人のイマジンが次々に繰り出す電王の必殺技によって穿たれたトンネルの先頭で、
プラットフォームとなってひとりため息をつく。
「これ……やっぱり、弁償しなきゃいけないんだよね……」
被害総額は見当も付かない。だがとりあえず、
今壁を破壊して入ってきてしまったこの部屋の無事だけでも確認しようと
室内に満ち溢れた粉塵の中に目を凝らす。
舞い落ちる壁の破片、そして、無数のトランプの向こうに、
良太郎は、見た。
不気味な静寂を保ったままこちらを凝視している、3人の姿――
中でも、気分がいいときのカイに勝るとも劣らない
凄まじい形相で睨みつけてくる、異様にワイルドな男の殺意あふれる目を。
「グルウオオオオワオオオオ!!」
渾身のトランプピラミッドを完全崩壊させられた次狼の怒りの咆哮が、
室内の空気を激しく震動させた。
239 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・7):2008/12/31(水) 14:09:14 ID:e5jav5me0
ゴール目指して走り続ける5人のライダー達も、既に
背後から、コースそのものを破砕しながら迫り来るキャッスルドランに気がついていた。
「……仕方ありませんね」
5人の乗るバイクはいずれも、ただの新幹線よりは圧倒的に早いスーパーマシンであるが
時の列車に押されたドランの進行速度はそれよりもなお速い。
このままコースを走り続ければ自分が最初にひき潰されると悟ったオルタナティブ・ゼロは
あっさりとコースアウトし、ドラン/ゼロライナーに道を譲った。
「……意外だな。お前がそうも簡単にリタイアするとは」
万一彼が優勝した場合、『神崎優衣を消す』などと願われるのではないかと危惧して
ひそかに様子をうかがっていた神埼士郎は、
なんとも言えない微妙な表情でそっと声をかけた。
「あなたがこんな平和的なイベントを企画するような世界で、その願いは無意味ですよ。
第一、私には他に守るべきものがある」
マスクを外し、観客席の最前列から一生懸命声援を送ってくる妻子に笑顔で手を振る香川教授。
「しかし、いいんですか? このままだと……『また』彼が優勝してしまいますよ」
「……気付いていたのか」
「ええ。残念ながらね。これで3回目でしたか」
自らの即頭部をコツコツと指でつつきながら、香川はほろ苦く笑った。
「……なんでも記憶してしまうというのも、時には困ったものです」
240 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・8):2008/12/31(水) 14:10:19 ID:e5jav5me0
「たっ、助けてえええええええ!!」
マシンデンバードのエンジンを再始動させることすら思いつきもせず
一生懸命床を蹴って巨大なテーブルの周りをグルグル周り、
3人の怪人から必死で逃れようとする良太郎=電王プラットフォーム。
だが、外界と隔絶したこの空間には救いの手など来るはずもなく、
まさに絶対絶命の状況である。
そんな彼の窮状をよそに、レースも今まさに最後の時を迎えようとしていた。
オルタナティブ・ゼロに続いて、コースを離れ自主的にリタイアする
ファイズとギルス。
元より夢を持たないファイズ=巧と、数々の悲運を乗り越えてきた苦労人ギルス=涼は
ゴールに程近いこの時点で、既に自身の優勝はありえないことに気付いており
先行するふたり――クウガとカリスの決勝争いを、
ただ見守る側に立つつもりでいたのである。
そんな大人びた2人とは対照的なことに、
「これで俺が優勝だ!!」と、大喜びでキャッスルドランを飛び越えようとしていたレンゲル=睦月は
城自体が自分より早い速度で前進するという仰天すべき事態によって
絶望のドン底に突き落とされていた。
241 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・9):2008/12/31(水) 14:12:17 ID:e5jav5me0
最後の直線に突入したクウガとカリス、
その背後から、凄まじい勢いで迫るキャッスルドランと、それを押すゼロライナー。
観客席から沸き起こる絶叫は、声援と言うより既に悲鳴の色が濃かった。
キャッスルドラン単体ではコース幅を端から端まで占拠しているわけではないので
左右いずれかのスペースに避ければ激突は避けられるはずなのだが、
文字通り命掛けで勝負に挑む両雄はいずれも
ひたむきに最短コース――今走っているベストラインを維持し続けている。
「佑斗! このままじゃ彼らを轢いてしまうぞ!!」
「くそっ、分かってるよ!」
もはやこれまで、とばかりに急ブレーキをかけるゼロノス。
いくら負けず嫌いだとは言え、人死にを出してまで優勝しようという気は彼にも無く
先行する全員が避けてくれるのでなければ、そうする以外に道は無かったのだ。
だが、そのときである。
誰にも――
そう、ゼロノスにも、
ギリギリのところで、キャッスルドランをかわしてゴールインできると踏んでいた二人にも、
予想もつかなかったアクシデントが起こった。
なんとかゼロライナーから逃れようと
短い四肢をバタつかせて必死でもがいていたドランが
急なブレーキングの反動で、宙を舞い転がり始めたのだ。
…ゴクリ。(天(木(火(水(土;)
243 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・10):2008/12/31(水) 16:33:55 ID:e5jav5me0
観客席は今度こそ、純然たる悲鳴に埋め尽くされた。
まさにゴールライン直前のクウガとカリスの頭上に
激しく回転しながらせまる、キャッスルドランの巨大な影。
見ている人間のほぼ全員が、「間違いなく潰される」と確信したその瞬間、
ふたりは、同時にほぼ同じ思考を辿っていた。
――「自分ひとりだけなら、確実にかわしてゴールできる」。
ブレイド=剣崎に託された、「最高のライダーがグランプリを制する」という夢。
それは、カリスにも、クウガにも等しく重い至上命題である。
「最速」であることが、その答えであるのなら――そして、自分が「それ」であるのなら、
ここで全てを投げ打ち勝利することこそが、
剣崎に、そしてここまで共に戦ってきた全てのライダーたちに対する
何よりの報いになるはずだった。
だが。
244 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・11):2008/12/31(水) 16:36:42 ID:e5jav5me0
奇しくもこのとき、
究極の闇をもたらす者への変化を余儀なくされながら戦い続けた男と
全てに滅びをもたらす宿命に抗い続けた男は
全く同時に同じ行動を選んだ。
どちらからともなく、マシン同士がこすれあうほどに接近して併走しながら
同時に立ち上がり、片足を振り上げる。
両者の繰り出した渾身のキックが、お互いの体をマシンごと、
反対方向に――ドランの落下してくるエリアの外側、安全圏に向って、弾き飛ばした。
巨大なVの字を描いて飛ぶ両者の、それまで走っていたラインを
墜落してきたドランの巨体が転がり、路面を粉砕しながら通過し――
2人とキャッスルドランは、ほぼ同時にゴールラインを割った。
「優勝者が決まった」
コースの突き当たりまで進んでようやく停止したキャッスルドラン、
その手前でターンして止まったクウガとカリス、
そして全ての観客、ライダー、スタッフの頭上に
金色の光とともに舞い降りた神々しい姿――仮面ライダーオーディンが、
静かにそう宣言する。
245 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・12):2008/12/31(水) 16:39:52 ID:e5jav5me0
「え……、ぼ、僕が……?」
部屋の一角に据えられた姿見をくぐりぬけ、目の前に降臨してきたオーディンの宣言を聞いて
良太郎は思わず絶句した。
「そうだ。お前が、一番最初に
バ イ ク に 乗 っ た ま ま ゴ ー ル ラ イ ン を 通 過 し た ライダーなのだ」
「え、だって僕まだお城の中に……それに、願いって言ったって……」
まさか自分が怪人たちに追われている間に
入っている城ごとゴールインしたとは想像もつかず、
またそもそも、自分が優勝するなど絶対ありえないと思っていた良太郎は
そう言ってまた言いよどむ。
だが、オーディンはまるで気にする様子もなく
ゴルドバイザーに一枚のカードをセットしながら、こう言った。
「……お前の願いを叶えよう」
「えっと、じゃあ、あの……えっ!?」
『TIME-VENT』
246 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・13):2008/12/31(水) 16:40:48 ID:e5jav5me0
……ゴールラインを割ったその瞬間、優勝者――仮面ライダー電王、野上良太郎は
心の底からこう願っていた。
「(怒り狂ったガルルから)助けてええええええ!!」と。
彼がこの状況に至ったのは、レース序盤にカイザが行った無差別攻撃に端を発する
様々なアクシデントの連鎖反応の結果である。
どこかで一歩何かが変わっていれば。
どこかで、ほんの少しだけ展開が今と異なっていれば。
彼はこうした窮地に立つこともなく、同時にまた、優勝することも無かった。
故に、主催者神崎士郎=仮面ライダーオーディンは、
彼を「助ける」ために、もっとも効果的であるはずの行動を起こしたのである。
つまり。
全てが逆回転してゆく時の中に、ちいさなため息が響く。
「……結局また、こうなってしまったのか」
どんな経路を辿っても、何をどう修正してやっても
結局最悪の状況に転落してゴールインしてしまう電王=野上良太郎の筋金入りの凶運に
いい加減疲れ果ててきた神崎士郎だった。
247 :
平成ライダーグランプリ(最終コーナー・14):2008/12/31(水) 16:44:12 ID:e5jav5me0
某巨大レーシングコース。
観客席を埋め尽くす大観衆と、スタート地点に列を為す、全平成作品の仮面ライダー達に
神崎士郎(大人)は重々しい声で告げた。
「レースは二周。優勝者には一つだけ、どんな願いも適う『力』が与えられる」
その言葉に、
キバエンペラーフォーム(マシンキバー/ブロンブースター装着型)
ライジングイクサ(イクサリオン)を含む
居並ぶ全てのライダーたちは
「……前にもこんなことがあったような気がする!!」
強烈な、デジャブを感じていた。
――『仮面ライダーグランプリ』 END.――
……だが物語は、
あらたな時間軸、ありえたかも知れないもうひとつの
>>57へと、
続く。