197 :
平成ライダーグランプリ(第10コーナー・1):
陽炎に揺れるアスファルトの上を、彼方からひとつの影が近づきつつあった。
真冬に近いこの季節に、地表付近の大気を盛大に揺らめかせているその熱波の発生源は
コース終盤に位置するこのコーナーを戦場に変えた2体の巨大怪獣、
パワードイクサーとキャッスルドランが今も発射し続ける爆弾と火球の雨。
そして、2体が猛烈に暴れながら回転しているこの場に近づきつつあるその影こそ、
先行する全てのライダーが倒れた今、再び単独トップの座に返り咲いた
優勝候補の最右翼、仮面ライダークウガであった。
この場からはもうかなり近い位置にある、ゴール付近の観客席から
観衆の大部分が息をつめて見守る中
クウガは、破壊の巷と化したコーナーに入る寸前の地点で
愛車ビートチェイサーを静かに停止させた。
――回避するつもりか。あるいは強硬突破か。
――それとも、突破は不可能と見てリタイアするつもりなのか。
無言で巨獣たちの暴走を見守るクウガのその姿は、
観客たちの様々な憶測を呼んだ。
198 :
平成ライダーグランプリ(第10コーナー・2):2008/12/22(月) 21:28:16 ID:FuKzENxZ0
クウガは動かない。
ただ、コースの端から端までを占拠して回る2体と、
その周囲に転がるおびただしい数の、量産ライダー的な何者か達の姿、
懸命に救護活動を続けるスーツ姿の男女、
怪獣たちの周囲を飛びまわりながら
今もなお一生懸命攻撃を繰り返している青と赤のライダーの姿などを、
じっと見つめるのみ。
そして……
スタンドを埋め尽くすその大観衆の中、
クウガの真意に最初に気付いたのは、やはり
彼の親友にして最高のパートナーたるこの男だった。
「よせ、五代!!」
思わず席から立ち上がり、通信機に向って大声で叫ぶ一条。
その隣の座席では、
黒一色のドレスに身を包み、ちいさな日傘を差して観戦していたバラのタトゥーの女が
艶然とした微笑を浮かべていた。
199 :
平成ライダーグランプリ(第10コーナー・3):2008/12/22(月) 21:29:12 ID:FuKzENxZ0
『なぜ君がそこまでする必要がある! 今すぐリタイアするんだ! …と言うより、このレースは中止だ!! 』
ビートチェイサーに搭載された通信機を通じて、
一条の声はクウガ=五代の耳にも届いていた。
だが、彼は無言で、ビートゴウラムの召還を行う。
それは、総重量にしておそらく、自身の1000倍以上には達するであろう巨大怪獣たちへの
絶望的な特攻の準備に他ならなかった。
ハイパーカブトによる時間改変によって、アギトの超絶破壊力を「見なかったこと」にされた一条には
これほど非常識な存在(イクサー及びドラン)に立ち向かうなど正気の沙汰とは到底思えず、
したがって、クウガの背後から迫り来る残りのライダー達も、
必ずや1人残らずリタイアするに違いないという確信があった。
だが、クウガは知っていた――まざまざと思い出していた。
現にその「正気の沙汰とは到底思えない」自殺的なアタックの末に
自分の目の前で壮絶な最期を遂げた、仮面ライダーギャレンの姿を。
「すみません、一条さん。……でも、俺がやらないと」
もはや振り返ることもなく、しかし、
背後に迫るライダーたちの姿をありありと思い浮かべながら、五代は呟いた。
「あの人たちは……やります」
200 :
平成ライダーグランプリ(第10コーナー・4):2008/12/22(月) 21:30:46 ID:FuKzENxZ0
「……五代っ!!」
ムダと知りつつ、青ざめた顔でなおも叫ぶ一条。その周囲で、
コースを見守っていたその他の観衆が、凄まじいどよめきの声を上げた。
「!?」
顔をあげ、目を凝らしてはみたものの、咄嗟には何が起こっているのか判別することができない。
「……あれだ」
どこまでも冷静なバラのタトゥーの女が、畳んだ日傘の先で指し示した方角を
一条は改めて注視した。
ゴウラムを頭上に呼び寄せ、今まさにビートゴウラムへの合体を行う寸前のクウガ、その背後から、
現存する全てのライダーを――先ほどまでのクウガをも、更に数倍上回る凄まじい速度で
二台のマシンが猛然と疾駆してきたのである。
(続く。)