アギトのライダーキックが炸裂する0.5秒前。
限りなく静止状態に近い時の中、アギトの紋章と二大巨獣の間に立ちはだかりながら
未来から帰って来たハイパーカブトこと天道総司は考えた。
――全員一度に助けるのは無理だな。
小惑星をも押し返すほどの大出力を誇ると言われるハイパーカブトのこと
背後で微速回転を続けるパワードイクサーとキャッスルドランをアギトとの衝突コースからどかすのはたやすいことだったが
その場合、ハイパークロックアップの超速度で押されたドランに激突する
ガタックまたは龍騎サバイブが粉砕されて死ぬのだ。
さすがは「死んだ回数」及び「どう考えてもこのあと死ぬ状況に陥った回数」の合計において
歴代仮面ライダー、否、歴代全地球人類の中でも首位を争う二人である。
最強クラスを誇る戦闘能力とは裏腹に、生命線の短さは折り紙つきと言えた。
――仕方がない。
比較的穏便な解決策を早々に諦め、パーフェクトゼクターとザビー、ドレイク、サソード各ゼクターを召還するカブト。
もはや優勝争いとも目下の緊急事態とも全く関係の無いことだが、この時点で
変身を強制解除されたザビー(三島)、ドレイク(風間)、サソード(神城)の失格が決定した。
パーフェクトゼクターに全てのゼクターのエネルギーを充填し、ガンモードで構えつつ
空を仰ぐハイパーカブト。
その視線の先、美しく輝く巨大な紋章の向こうからは
人知を超越する破壊力そのものと化したアギトシャイニングフォームが
ゆるやかに迫りつつあった。
「……悪く思うな」
『HYPER‐CLOCK‐OVER!』
『……MAXIMAM‐HYPER‐CYCLONE!!』
息を吹き返した通常時間の世界で
パーフェクトゼクターの先端から放たれた凄まじいエネルギーの波が
アギトの紋章を直撃した。
ほとんど同時に反対側から接触したアギトの右足によって、通常なら粉々に砕け散るはずの紋章は
カブトの供給するエネルギーを受けてさらにその輝きを増し
中心部にアギトを固定したまま激しいスパークを散らす。
「うぉっ!?」
「くっ……」
互角。
マキシマムハイパーサイクロンのビームと、更に巨大化したアギトの紋章を挟んで
ほとんど静止状態になりながら
逆流してくる膨大なエネルギーの負荷に思わず声を漏らすアギト、そしてカブト。
遅まきながらこの異常事態にどよめき始めた観客席の人々が見守る中、
アギトの紋章からカブトの紋章へ、そしてまたアギトの紋章へとめまぐるしく姿を変えてゆく巨大紋章の姿は
一進一退のせめぎ合いを続ける、二つの超パワーの攻防を象徴するビジョンだった。
このまま進めば、先にエネルギー切れを起こしたどちらかが吹き飛ぶ。
そんな危険な状況に陥った両雄の上に、運命は
思いも寄らぬ形で決着をもたらす。
『RIDER‐JAMP』
「天道ォオオオオオオオオ!!」
今も回転を続けるパワードイクサーとキャッスルドランの上端を飛び越えて
身動きの取れないカブトめがけて急降下するその影は
一周目でカブトに半殺しにされた弟影山の仇を撃つべく
バイクも無いのに参入してきたキックホッパー矢車であった。
「なにっ!?」
今ごろになって襲い掛かってきたこの因果に、全くリアクションを取ることができないカブト。
外しようもないマトと化した彼にキックホッパーのライダーキックが命中した瞬間、
『HOPPER‐POWER COMBINE!!』
あまりにも過酷な負荷によって暴走寸前のパーフェクトゼクターが
本来合体不可能なはずのホッパーゼクターのパワーをも取り込み
瞬間的かつわずかながら、アギトのエネルギーを上回った。
右足から火花を散らし、ついに崩壊した紋章の破片とともに吹き飛ばされ宙を舞うアギト。
ライダーキックの衝撃で変身を解除された天道と、ホッパーゼクターをパーフェクトゼクターに取られて同じく生身になった矢車も
それぞれコースの反対方向枠外に放り出され、芝生の上を転がって行った。
そして彼らの頭上では、カブトが未来から帰ってくる以前の展開に沿ってナイトサバイブがイクサに撃墜され――
後からやってきたクウガ=五代雄介が見たものは
依然として回転し続けるキャッスルドラン、パワードイクサーの巨体と、その上で元気に戦い続けるライダーたち、そして
ものの見事に全員リタイアを遂げた、さっきまでの1位から3位の姿だった。