おにゃのこが改造されるシーン素体9人目

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84私説・蜂女伝(後編)1/17
 わたしたちの戦いの上での連係プレーには日々磨きがかかっていった
が、二人の間の個人的な感情の行き違いや衝突はむしろ増えていた。
そんなある日の戦いの後、もはや惰性に近い「エネルギー補給」を
終えた後、猛がとても言いにくそうにしながら、こう切り出した。
「なあミツコ、オレたちはたしかにダブルライダーで、ショッカーと
闘う戦友だが…その、恋人同士ってわけじゃあ…ない。そうだろ?
今のこれだって、お前の命をつなぐために必要な処置というだけだ…」
 そう言うと猛はカバンをごそごそと探り始めた
「実は少し前からこういうものを試作していたんだ…いつまでもオレ
なんかとこんなことをしないと生きていけないというのは、決して
お前のためにも幸福なことじゃないと思うんだ。これがあればお前は
自分一人で生きていけるはずだ。コンセントにつなげば、電気代は
食うし時間もかかるが、ちゃんとチャージできるようになっている」
 そう言うと猛は、カバンの中から、大人のオモチャ屋で売っている
電動コケシにコードやらプラグやらが装着されたような装置を取り出し、
わたしに渡そうとしてきた。それを見たわたしは頭に血が上り、
あのときの倍以上の勢いで猛に平手打ちを食わせた。部屋の壁に
めり込んだ猛に向かい、わたしは目に涙を浮かべ、立ち上がって言った、
「ばかぁ!この鈍感男!無神経男!ベンジョコオロギ男!」
そう言い放つとわたしは全裸のまま仮面ライダー2号に変身して部屋を
飛び出した。そして誰の目にもとまらない速さでホテルを出ると、バイクに
またがり、やはり誰の目にもとまらない速さで家に帰った。そうして
ベッドに突っ伏してわんわんと泣いた。
85私説・蜂女伝(後編)2/17:2008/02/01(金) 00:25:36 ID:l7NKsO2P0
 ひとしきり泣いて天井を見ながら、服をホテルに置いてきてしまった
ことに気づいた。お洒落も全然していないなあとぼんやり思うと、久々に
ショッピングにでも出かけて、手当たり次第にものを買いあさって、
憂さ晴らしをしてやろう、というアイデアが浮かんだ。最近ショッカーも
比較的おとなしいし、たまには戦士の休日というのも許してくれるよね。神様。
 思い立ったわたしは早速、高校以来の悪友で、同じく東京に出てきている
皆子に電話をかけ、明日一緒に買い物に行こうと約束をした。

 皆子とのショッピングの一日は本当に楽しかった。最近余り気味だった
仕送りを大量につぎ込んであれこれと服を買い、喫茶店でケーキを
沢山注文して、皆子相手に、無粋で無神経で鈍感な「恋人」の悪口を
さんざんぶちまけた。皆子はけらけらと笑い、うんうんと相づちを
打ってくれた。本当に変わらない、いい友達だ。 
 夕方、荷物を沢山抱えながら人気のない路地を二人で歩いていると、
ショッカーの戦闘員が現れてわたしたちを取り囲んだ。わたしは皆子を
かばって楯になり、戦闘員を自分に引きつけようと挑発した。
「ふん、いまごろご登場ってわけ?ちょうどいいわ。お昼にケーキを
食べ過ぎちゃったからね」
 そう言って振り返り、皆子に声をかけた。
「皆子!わたしは大丈夫だからあなたは逃げ…う…」
 皆子はわたしの背中に何か針を刺していた。その顔には戦闘員の証で
あるサイケデリックな隈取りが浮かび上がっている。
「新開発の改造人間用の麻酔剤だって。よく効くようね」
「皆子…あな…た…いつ…どうして…」
86私説・蜂女伝(後編)3/17:2008/02/01(金) 00:28:37 ID:l7NKsO2P0
「あなたの行方を見失ったショッカーは、あなたの交友関係をチェックし、
めぼしい人物をマークしていたの。わたしもその一人だったのね。
昨日あなたからの電話があってすぐ、拉致されて戦闘員に改造されたの。
人気のない場所に来るまで、こんなに時間がかかってしまったわ」
「…皆子…ごめ…ん…わたしの…せいで…」
「何言ってるの?わたしは感謝してるわ。あなたのおかげで偉大な組織の
一員になれたんですもの」
「…ああ…あなたは…もう…脳改造…されて…しまっているのね…」
「そうよ。わたしはもう不完全な脳を改造してもらった。そしてあなたが
可哀想な未完成品となって苦しんでいることを知らされた。大事な友達を
助けてあげられて、うれしいわ」
 …違う…違う…だめだ。もう皆子は人間の言葉が通じない存在に
変えられてしまった。そして、このままでは、わたしも…。絶望感に
うちひしがれながら、わたしはその場に倒れた。薄れゆく意識の中、
車の音が近づいてきたのが分かった。

 目を覚ましたとき、わたしは全裸の人間体であのときとそっくりの
手術台に拘束されていた。股間の充電口には猛のものより一回りか二回り
太いプラグが挿入されている。力がどんどん抜けていくから、「充電」
ではなく「放電」の最中のようだ。
「放電終了。これより蒼井蜜子の改造手術を再開する」
 …再開?そうか。わたしや猛は脳改造の直前に脱走した。やつらから
すれば、これは中断していた処理の「再開」なのだ。あのとき中断して
いた時間が今また流れ出すのだ。
87私説・蜂女伝(後編)4/17:2008/02/01(金) 00:32:15 ID:l7NKsO2P0
 あのときとまったく同じように科学者が小型ノコギリを手にして、
それにスイッチを入れる。いやだ!このままではわたしは脳改造されて
しまう。心まで怪人にされてしまう。わたしは怯え、そして後悔した。
 ――ああ神様。わたしが間違っていました。ルリ子さんへの下らない
やきもちで、猛への見当違いな八つ当たりで、世界平和のために戦う戦士
としての使命を見失っていました。
 ――猛はルリ子さんが好き。そんなこと、最初から分かっていたこと。
それに、あの充電プラグだって…そりゃ、大人のオモチャはないと
思うけど…でも、わたしを思ってしてくれたこと。猛だっていつ命を
落とすかわからない。そうなったときにわたしが一人で生きていける
ように。そう考えて作ってくれたはずだ。充電は充電。セックスは
セックス。充電にかこつけて猛の肉体を独占しようとしたわたしが
ずるかっただけだ。そして皆子。わたしが気を抜いて買い物なんかに
皆子を誘ったせいで、皆子はショッカーにさらわれて戦闘員に改造されて
しまった。わたしのせいだ。全部わたしのわがままのせいだ。
 ぎゅっと目をつぶってわたしは祈った。
 ――ああ、神様お願いします。もう一度奇跡を。神様!いえ、仮面
ライダー!わたしを助けに来て!あのときと同じように!わたしは
反省しています。助かったら、今度こそ平和のためだけに戦います!
だからお願い!猛!助けに来て!タケシ!

 祈りも空しく、無情なノコギリがわたしの頭蓋骨に当てられた。麻酔の
せいか痛みはない。強化皮膚のおかげで、さほどの出血もない。
絶望がわたしの心を固くした。淡々と、まるで人ごとのように、わたしは
天井のライトの鏡面に映った、自分の頭蓋が切り取られていく様子を見ていた。
88私説・蜂女伝(後編)5/17:2008/02/01(金) 00:35:16 ID:l7NKsO2P0
 頭蓋が取り外され、わたしのピンク色の脳味噌がむき出しになったとき、
遅ればせの「奇跡」は起きた。あのときよりも何テンポか遅かったけれど、
ちゃんとあの人は来てくれたのだ!わたしの目に涙がこみ上げてきた。
よかった!今ならまだ十分に間に合う。この科学者たちを倒し、
取り外された頭蓋をもう一度つけてくれればそれでいい。デタラメな
話だけど、改造人間の再生力と生命力によって、それでちゃんともとに
戻るはずだ。
「タケシ!信じてたわ!助けて!」
 わたしの声は弾んでいた。
 だがそのとき、手術台の真横に、天井から透明な壁が降りてきて、
仮面ライダーの行く手を塞いだ。
「ふはははは、仮面ライダー1号、待っていたぞ。その防弾樹脂はお前の
力をもってしても簡単に破ることはできない。この狭い部屋では
ライダーキックも放てまい。お前の仲間がわがショッカーの一員に回帰
する様をそこでとくと眺めるがよい。その女の脳改造が終わったら、
次はお前の番だ。わははははは」
 首領の声が響いた。いつの間にか科学者はあの禍々しい改造頭蓋を
培養液から取り出し、わたしに迫っていた。
「いやだ!脳改造なんていやだ!」
「ミツコ!ミツコ!ミツコぉぉ!」
仮面ライダーはあのときの扉のように、透明な壁に何発もライダー
パンチを放った。だが柔構造の樹脂でできた壁は、ぐにゃりと変形した
かと思うと、何事もなかったかのように元通りになった。
89私説・蜂女伝(後編)6/17:2008/02/01(金) 00:38:18 ID:l7NKsO2P0
 黄色と黒の改造頭蓋がとうとうわたしに装着された。強化細胞の
再生力が働き、改造頭蓋はわたしの頭蓋骨に癒合していった。わたしの
心を絶望が覆った。もうおしまいだ。わたしの脳にはショッカーの機械が
埋め込まれてしまった。この機械が動き出せば、わたしは完全なショッカー
怪人になってしまう。わたしは目に涙を溜めて、透明な壁にパンチを
放ち続けている猛を見た。
「タケシ…ごめん…わたし…わたし…」
 天井から無情な声が響いた。
「蜂女、再起動開始!」
 股間に挿入されたままのプラグから、再び電流の注入が始まり、あのとき
にはほとんど感じなかった性的快感がわたしの全身を貫いた。わたしの
肉体は急激に変身を始め、頭蓋骨の黒と黄色の細胞も活性化を開始した。
強化細胞は鼻の方にまで拡がり、触角が太く、長く成長した。
そして全身を駆けめぐる電流は、頭蓋内の脳改造装置を起動させた。
「ぁぁぁぁぁああああああああ、いやあぁぁぁぁぁ!!タケシ!タケシ!
助けて!たすけて!」
「ミツコ!ミツコ!やめろ!ショッカー!やめろぉぉぉぉ!」

 電流と共に、まず、わたしの心にあれほど熱くたぎっていたはずの
「正義」への思いが急速に色あせ始めた。それがとても大事な何かである
こと、自分はそれを守らなければいけないこと。そういう知識は残って
いるのに、かつて自分がどんな気持ちでそれを守っていたのか、急速に
思い出せなくなってくのだった。
90私説・蜂女伝(後編)7/17:2008/02/01(金) 00:41:20 ID:l7NKsO2P0
 だが本当に深刻な変化はそれに続いて生じた。頭蓋の機械から、
わたしの心の中にどす黒い衝動が注ぎ込まれ始めたのだ。…いや、
それは違う、とすぐに気づいた。わたしの心を満たし、固く根付こうと
している、肉欲、嫉妬、独占欲、破壊衝動、憎悪、殺意、そういった
暗く歪んだ思いはどれも、わたしの心の奥底から浮かび上がってきたもの
だった。ちょっとしたタガが外されただけで、わたしの心はいとも簡単に
歪んだ邪悪なものに変わりかけているのだ。それこそが本当の自分だった。
わたしは、そう認めることをつきつけられていた。
「…やだ…こんなわたしはいや!こんなわたしいやだ…助けて、タケ…」
わたしは猛にすがろうとした。たとえ身体は透明な壁に隔てられていても、
猛の勇気と優しさが、闇に蝕まれていく自分の心を支え、救ってくれる
のではないか。そんな希望にすがろうと、わたしは猛の方に顔を向けた。
 …だがそのときわたしは思い出してしまった。あの華奢な少女を、
わたしを改造した女科学者を、何のためらいもなく撲殺した仮面ライダー
1号の姿を。手術台に横たわるわたしに拳を振り下ろそうとしていた
あのピンク色の目を。…こんなどす黒い存在になってしまったわたしを、
あの人はもう救ってはくれない――そう気づいた。
 今のわたしは、怯え、ためらい、抗いながらも、すでに残忍な破壊衝動、
後ろ暗い憎悪と殺戮の甘美な誘惑に惹かれ始めている。この黒いものが
わたしの心から消えることは多分もう永久にない。この先、この闇に
もっと深く飲み込まれることはあっても、引き返すことは永久にできない
――なぜならその黒いものこそ本当のわたしだからだ。
91私説・蜂女伝(後編)8/17:2008/02/01(金) 00:44:46 ID:l7NKsO2P0
 わたしは樹脂にひびを入れ始めた猛から顔を背け、反対側の壁を見た。
闇に光るあの目がたまらなく恐ろしく感じられ、直視できなかった。
――あの人はもうわたしを救ってはくれない――わたしはあの人から逃げ始めた。
 ――どうしたらいい?わたしはどこへ行けばいいの?どうしたらわたしは
救われるの?――
 改造されて以来、最大と思える苦しみと不安がわたしを締め付けた。
心が異形へと変じていく、その恐怖はあの残忍なメスよりも深くわたしの
胸をえぐった。
 ――どうしよう。わたし、わたし………………………

<<ショッカーの元へ来るのだ>>

 突然、神々しい声が頭の中に響いた。わたしが顔を向けた反対側の壁に
高々と掲げられたショッカーエンブレムが、厳かな光を放っていた。

<<ショッカーはお前を救うことができる。改造人間の支配する
理想社会の中にこそお前の居場所はある。ショッカーはありのままの
お前を肯定し、お前に真の存在意義を与えることができる。さあ、
蒼井蜜子、いや蜂女よ、ショッカーの元へ来るのだ。来るのだ…>>

 その言葉は、長いトンネルの出口にある神々しい光だった。わたしには
何かが分かりそうな気がしていた。わたしはそれを捕まえようと夢中で
その光に向けて走った。改造されてからずっとずっと感じていた苦しみ。
今まさに頂点に達した異形としての苦しみ。その苦しみの克服、そして
解放がそこにはある。そんな確かな予感を胸に、わたしは光へと続く細い
道を夢中で走った。もう後ろは振り返らなかった。
92私説・蜂女伝(後編)9/17:2008/02/01(金) 00:47:48 ID:l7NKsO2P0
 そしてその時がやってきた。わたしは光に追いつき、光に包まれ、
すべてを悟った。胸を締め付けていた苦しみがすうっと消えていった。
 ――ようやくわかった。わたしはやはり「未完成品」だったのだ。
肉体が改造された以上、精神も改造されねばならないのは当然のこと
なのに、その大事な部分が欠けていた。だからあんなに苦しかった。
それだけのことなんだ。でもそれももう終わった。わたしは完成された。
正常な改造人間としてようやくこの世に生まれたのだ!歓喜が心を満たす。
 
 薄暗い部屋の中、わたしの複眼が輝いた。わたしはゆっくり上体を起こした。
「蒼井蜜子よ、お前は何者か。言ってみろ」
 ショッカー首領の穏やかな声がわたしに命令を下した。
「わたしは、ショッカーの改造人間、蜂女。首領、わたしはあなたに
永久の忠誠を誓います」
 わたしを改造し、そして救ってくれた偉大なお方。このお方のためなら
命など惜しくない。素直にそう思えた。
 ずっと鳴り響いていたがつんがつんという音にわたしは気づき、横を見た。
仮面ライダーのパンチがあちこちにひびを入れ、強化樹脂製の壁は
まさに砕かれる寸前だった。
 ――仮面ライダー、本郷猛。今のわたしには、その存在の不自然さ、
グロテスクさがはっきりとわかった。改造人間なのに、脳だけがまったくの
未改造。そして、改造人間でありながら、人間を守るために改造人間の
殺戮を繰り返す狂った戦士。気持ち悪い!そんな存在、あってはならない!
昨日までの自分が、この不完全な存在と一緒に、そんなおぞましい行いを
喜んで行っていたことに、わたしは心底寒気を感じた。
93私説・蜂女伝(後編)10/17:2008/02/01(金) 01:21:03 ID:l7NKsO2P0
 ――人間に生存価値がないとは思わない。だが、ただの人間を守る
ために、優秀な素体に高度の技術をつぎ込んで作り出された改造人間を
殺戮するというのは、明らかに何かをはき違えている。そう、愛犬家が
犬を愛するあまり人間を殺して回るような、それどころか、心まで
犬に成り下がってしまうような、そんないびつな存在が本郷猛であり、
さっきまでのわたしだったのだ。未改造の混乱した脳には、そんな
簡単なことがわからないのだ。
「ミツコ!ミツコ!目を覚ましてくれ!ショッカーなどに魂を売り
渡さないでくれ!」
 遂に壁を突き破り、涙声で訴えかけるライダーの姿は滑稽だった。
混濁した脳を抱えているのはそっちなのに。いびつな未完成品の仲間が
いなくなって寂しがっているだけなのだ。早く何とかしてやろう。この人も
脳改造を受けさせて、苦しみから救ってあげよう。そんな思いが湧いた。
「タケシ!さあ、次はあなたの番よ。だだをこねないで、ここに横になりなさい」
わたしは猛に手をさしのべた。多分わたしの脳改造を見せつけ、
絶望感を与える、という目的で、あえて待機させられていた戦闘員たちが、
今やライダーを取り囲んでいた。
「ミツコ!ライダー2号!目を覚ますんだ!頼む!」
いきなり場違いな名で呼ばれたわたしは、思わず吹き出した。
「ふ、そんな下らない名前、たった今返上するわ。わたしは改造人間・
蜂女。そしてもうすぐお前もバッタ男として完成する!」
94私説・蜂女伝(後編)11/17:2008/02/01(金) 01:22:34 ID:l7NKsO2P0
 今の猛ならば簡単に拘束できるだろうとわたしは踏んでいた。他の
怪人ならばいざしらず、この男はわたしを相手にためらいなく必殺技を
繰り出すことはできない。そんな冷徹な計算がわたしにはあった。
実のところ、わたしの麻酔をあのタイミングで解き、脳改造したこと自体、
すでに基地におびき寄せられていたライダーに最大の戦意喪失効果を
与えるための、巧妙な作戦だったのだ。今のわたしにはよくわかった。
 だがライダーの方にもその自覚はあったらしい。
「…脳改造がどういうものであるかオレは知っている。オレは君と
戦わねばならない。…だが、まだ、君と戦う決心がつかない。きっと
オレの拳は鈍るだろう。だから…」
 そう言って背を向け、戦闘員をなぎ払いながら基地の外に走り出した
のだった。
「追え!捕まえろ!捕まえて、本郷猛の改造を完了させるのだ!」
わたしは戦闘員に命じ、自らもライダーを追った。
「蜂女よ、表にお前専用の高性能オートバイを用意してある。サイクロンに
匹敵する馬力を誇る機体だ。存分に使うがよい」
 首領のお言葉に従い、わたしはサイクロンで逃走を始めたライダーを
追った。互いにバイクに乗ったまま、わたしたちは並の改造人間には
まず不可能な闘いを繰り広げた。だが結局わたしは破れ、わたしと大破
したバイクを残し、ライダーは去っていった。
95私説・蜂女伝(後編)12/17:2008/02/01(金) 01:24:06 ID:l7NKsO2P0
 それからわたしは、首領がわたしの帰還を信じ、保留しておいてくれた
毒ガス作戦の指揮に当たった。仮面ライダーに対しては近々大規模な作戦
――バッタ男第2号の製造らしい――が始動するので、対ライダー用の
積極的な行動は取らなくてよい、という通達だった。わたしはもどかしさを
心の一部で感じながらも、首領の命令を遂行する喜びに突き動かされ、
着々と作戦を進めていった。
 本郷と再会したのは、城南大で行った、科学者の拉致作戦でのことだった。
本郷の母校であるから発覚するリスクはもともと高かったのだ。
 本郷が現れたのは、わたしが目当ての科学者以外の、研究室にいた助手や
学生を皆殺しにした直後だった。殺人の後の「充電」に異様に興奮することに
気づいたわたしは、最近余計な殺人をしてしまう癖がついていたのだった。
眠らせた教授を抱え、殺人の余韻を味わっているわたしに、本郷が低い声で言った。
「…ミツコ、お前、何をした?言ってみろ!何をした!?」
 本郷の震えた声は、どうやら怒りを押し殺しているらしいと気づいた。だが、
わたしはそれが何に向けられているのかよくわからず、本郷の妙な質問に一瞬
きょとんとした。それから、たしかに今回も快楽に走り過ぎたなと思い至った。
「そうだった。ここは城南大。中には優秀な人材もいたかもしれないわ。当面
必要がないからって、見境なく殺してしまうのはもったいなかったかも…」
「そんな答えが聞きたいんじゃない!自分がしたことちゃんと直視して
いるのか?これを見て、本当に何も感じなくなってしまったのか!?」
 その言葉を聞いたとき、世界の外側から飛び込んできたような未知の
感情がわたしの心をよぎり、心を揺すぶった。そして、自分は何か大事な
ことを忘れていなかっただろうか。何か大きな思い違いをしていなかったか。
そんな不安がかすかに芽生え始めた。
96私説・蜂女伝(後編)13/17:2008/02/01(金) 01:25:39 ID:l7NKsO2P0
 だがそのときだ。頭蓋の中の機械部品がキインとパルスを発した。
わたしの頭は一瞬真っ白になり、半ば不随意的な哄笑がわたしの腹から
あふれ出た。
「あっはははははははははははははは」
 笑い終えたとき、わたしの心は完全に平静を取り戻していた。
「たわごとを!本郷猛。博士は頂いていく。さらばだ!」
 追いすがる本郷とわたしはもみ合い、わたしは教授を奪われてしまった。
わたしはこの場を退散することにした。密かに教授に仕掛けておいた
催眠装置が、ちゃんと教授をアジトまで運んでくれるはずだったからだ。
 本郷は追わなかった。代わりに、遠ざかるわたしの背中に向け、こう叫んだ。
「もうお前はミツコじゃない!ましてや仮面ライダー2号でもない!
オレは決意した。次に合うときがお前の最後だ!覚悟しておけ、蜂女!」
 その言葉は、かつてのパートナーへの別れの言葉だった。わたしと
別れて…そう、わたしと別れて、本郷はあの女、緑川ルリ子のもとへ
行くのだ!突然そんな連想が働いた。同時に、ルリ子を抱く本郷の姿が
頭に浮かんだ。どす黒い嫉妬がわたしの心を焦がしていった。

 あの再会の日から、わたしの心は乱れ、バランスを失っていた。
本郷の影がわたしを迷わせているのだ、と思えた。本郷と、そしてあの
憎らしい緑川ルリ子をどうにかしなければ、このもやもやは消えないだろう
と思った。わたしは毒ガス計画は着々と進めるかたわら、計画進行中の
偶然を装う形で、本郷とルリ子に対する計画を密かに進めた。ルリ子の心に
深い傷を負わせ、同時に本郷の改造手術を再開する、そんな計画だった。
97私説・蜂女伝(後編)14/17:2008/02/01(金) 01:27:11 ID:l7NKsO2P0
 わたしの計画はまずは順調に進んだ。わたしは、ルリ子に向けて微弱な
指向性超音波による催眠誘導を行い、遅かれ早かれ影村めがね店で
サングラスを購入したくなるように仕組んだ。やがて、狙い通りおびき
出され、囚われたルリ子を追って、愛しくて憎い男が現れた。わたしは
戦闘員にルリ子を拘束させ、ナイフを突きつけさせた。ガスの人体実験
を見た本郷はわたしを問いつめた。
「何でこんなひどいことをするんだ!」
「毒ガスがどうしても要るのだ。世界征服のために」
それは首領の至上命令。疑うことなど許されない。本郷は吐き捨てるように言った。
「そうか、それでお前が工場長ってわけか」
ライダー2号も堕ちるところまで堕ちたものだ、と言いたげだった。
わたしは耳を貸さず、本郷に新型麻酔の針を向けた。
「本郷猛、この毒針の注射を受けよ。この娘の命と引き替えにするのだ。
だがお前を殺すわけではない。麻痺させてお前を完全な改造人間に
するのが楽しみなのだ」
 完全な改造人間!もうじきわたしたちは再び同志になる。わたしたちは
ショッカーが樹立する、本当の意味での「世界平和」を目指す戦士として
また共に戦う!――そんな高揚する気持ちは、しかしわたし自身が立てた
作戦そのものによって、ぐじゃぐじゃにかき乱された。
「よし。刺せ!…その代わりにその人を!」
 降伏した本郷に、わたしはいとも簡単に麻酔針を刺すことができた。
…だが、わたしは何がしたかったんだろう。ルリ子のために脳改造すら
あえて受けようと言ってのける、こんな本郷が見たかったのだろうか?
…わからない。…もういい!さっさと殺してもらう!改造人間として完成した
この人に、あの女を真っ先に殺してもらおう。それですべて終わる。そう思った。
98私説・蜂女伝(後編)15/17:2008/02/01(金) 01:28:50 ID:l7NKsO2P0
 …結局、本郷猛再改造計画は失敗した。あの男の精神力と、「特訓」
と称する地道な自己改造の効果を、わたしは甘く見すぎていた。あの男の
肉体は日々進歩していたのだ。わたしと共に戦っていた頃よりも、さらに。
それでもルリ子に一矢報いてやることだけはできた。完全な覚醒状態で、
記憶もはっきり残る状態で、ルリ子を催眠誘導し、本郷に猛毒をもらせる
ことに成功したのだ。改造人間の本郷があんな毒で死ぬわけはない。
だがそれを知らないルリ子が、自分が犯してしまった罪により、心に
深い傷を負えばそれでいい。――わたしのどす黒い嫉妬心は、
いくばくかの癒しを得ることができた。
 そして決戦。一切の迷いを断ち切った本郷は、並みいる戦闘員たちを
一蹴したあと、保護色を使って接近していたわたしを難なく補足し、
わたし自身の剣でわたしの羽根を切り落とした。それからわたしたちは
剣での戦いを交えた。蜂女としての特殊能力の筈の剣技を、この特訓馬鹿は
完全に自分のものにしていた。わたしはすぐに劣勢に追いこまれた。だが、
本郷は剣でとどめをさす気はないようだった。剣を捨てた本郷は、
最後の言葉をわたしに投げた。
「蜂女、お前みたいに人間の自由を奪い、平和を乱すやつは断じて許さん」
 本郷の声は震え、舌は少しもつれていた。「仮面」の下で涙を流して
いるのだとわかった――そう。手術台の上のわたしに、拳を振り下ろそうと
したあのときのように。
 何かがわたしの中で訴えた。――この、猛の決意を無にしてはだめ!
猛の迷いを断ち切ってやらないと!――
 その声に従い、わたしはことさらに猛を挑発する文句を言い放った。
「何をこしゃくな、来るか!」
99私説・蜂女伝(後編)16/17:2008/02/01(金) 01:30:23 ID:l7NKsO2P0
そしてわたしは挑発のポーズのまま、ライダーキックが命中するのを
静かに待った。一瞬後、強烈な衝撃で全身の機械と組織がずたずたに
なったわたしは、大きな叫びを上げながらもんどり打って崖下へ転落して
いった。そして体内の溶解液が急速にわたしの身体を溶かし始めた。

 わたしの叫びは苦痛の叫びでも恐怖の叫びでもなかった。それは、喜びの
歓声だった。キックにより 頭蓋の機械が停止したせいか、わたしはようやく、
自分のもっとも奥底にあった願望に気がついたのだった。
 ――そうだったのか。わたしは、ずっとずっと、このときを待って
いたんだ。あの人が、こうしてわたしを殺してくれる日を!――。
 その日をわたしはずっと待ち望んでいた。脳改造されて、心の中まで
完全な怪物になってしまったわたしを、こうして無に帰してくれることを、
心の一番底にいたわたしはずっと待っていた。今やそれがはっきりと
わかった。脳改造が終わり、手術台を降りてあの人と戦おうとしたとき、
バイクの上で死闘を繰り広げたとき、そして城南大で、あの人が来る
ことを半ば予想しながら残忍な殺戮を繰り広げたとき。わたしはずっと
それを待っていた。脳改造されたわたしはとても狡猾で、そしてあのひと
はとても優しい人だったから、わたしの密かな願いは、こんなにも
叶うのが遅くなってしまった。それだけなのだ。
100私説・蜂女伝(後編)17/17:2008/02/01(金) 01:31:56 ID:l7NKsO2P0
 …いや、実のところわたしは、改造手術を受けてしまったときから、
早く死んでしまいたいと密かに願っていたのかもしれない。あのまま、
あの人に頭蓋をたたきつぶされてしまっていればよかったと、密かに
ずっと思い続けていたのかも。あの人はとても強くて、辛い運命を
引き受けて戦っていた。わたしは結局駄目だった。そんな運命を引き受けて
生き続ける勇気を最後まで本当には持てなかった。弱虫のわたしは、
心の奥で死にたい死にたいとずっと思っていたんだ。自分で死ぬ勇気も
ないまま。だからありがとう、猛。
 ――猛、人間をいっぱい殺したわたしも、同族をいっぱい殺した
あなたも、決して天国に行くことはないね。ルリ子はきっと天国に行く
から、地獄では邪魔者はいないね。先に行って待っているよ。わたしの
分までしっかり戦ってね。さよなら。

 そしてわたしは泡となり、液体となって、地面に吸い込まれていった。
<了>