☆お前達が考えた龍騎のライダー教えれXII☆

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781名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 10:37:16 ID:brM+pLeT0
うん、じゃあまずsage覚えるところから始めようか
782名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 10:39:44 ID:JFURluah0
オリジナルライダーを書き込む際の例

仮面ライダー(ライダー名)
変身者:変身者の名前(名前の他に年齢、職業もあると良い)
身長:○○○.○cm
体重:○○.○kg
最高視力:約○○km
最高聴力:約○○km
最大走力:100mを○○.○秒
ジャンプ力:ひと飛び○○m
パンチ力:○○○AP
キック力:○○○AP
召喚機:呼び名等「召喚機の名前」(説明等)
契約モンスター:□□型モンスター「契約モンスターの名称(○000AP)」

□□ベント   :技の名称等(○000AP)説明等
□□ベント   :技の名称等(○000AP)説明等
□□ベント   :技の名称等(○000AP)説明等
□□ベント   :技の名称等(○000AP)説明等
ファイナルベント:技の名称等(○000AP)
技の流れの説明等

軽い解説等

なお、SSや、長い解説等は、できるだけ分けて書いた方が読みやすいと思います。
783名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 10:54:04 ID:4w3repfsO
荒らしはスルー
を覚えるほうが先だろ
784名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 11:48:50 ID:JFURluah0
仮面ライダーシオン
変身者:東条優花(とうじょう ゆうか)19歳学生
身長:158cm
体重:49kg
最高視力:約12km
最高聴力:約23km
最大走力:100mを6.8秒
ジャンプ力:ひと飛び45m
パンチ力:120AP
キック力:255AP
召喚機:懺瘤剣「イオナイザー」(短刀型)

契約モンスター:マッドボーン(古代恐竜を寄せ集めたようなモンスター)5000AP
ミラーベント:敵が最も嫌う幻を見せ、精神的苦痛を与える
リープベント:敵をミラー異次元内のどこかに移動させる。もちろん、自分を対象にする事も可
マーカーベント:これにマーキングされた相手は、約10日間ミラー異次元のモンスターたちに襲われることになる
シュートベント:アウトバスター 1500AP(背びれ型の手裏剣)
ガードベント:ハードベンター 2000AP(アウトバスターやスカイマスターの発射装置でもある)
シュートベント:スカイマスター 3000AP(背中のトゲ型ホーミングミサイル)
シュートベント:マッハフェンダー 2700AP(音速の火炎放射器)
スイングベント:メガハンマー 1800AP(流線型のハンマー)
ファイナルベント:フィニッシュペーザー 7000AP
785名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 12:16:01 ID:Jx3gpB8pO
やりすぎはいかん
786名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 12:41:36 ID:brM+pLeT0
例外のオルタナ以外は基本的にライダーのAPは50刻み、
カードのAPは1000刻み、ファイナルベントは契約モンスのAP+1000な

公式ライダーのスペックの法則なんぞ知らんって言うなら
どうでもいいことだが
787名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 16:55:18 ID:JFURluah0
変身者解説
バイトをしながら有名大学に通う女子大生。
活発で男勝りな性格で、あまり細かいことは気にしない。
その上物凄い面倒くさがりで、いかに楽して金儲けするかを常に考察している。
そんな折「しばらく遊んで暮らせる金」につられて家庭教師のアルバイトとなったが、
しだいに他人の学業の成績を上げてまで儲けたいという気持ちは消えていってしまう。
しかし一度家庭教師になってしまった以上、嫌々それを続けなければならない状況だが、
生来の楽観的な思想であまり深刻に考えていない。
最近ではモンスターに襲われている人を助けてはお金を貰うという生活術を身につけ、
これで生活できないかとか考えている。

ライダー解説
ガチのパワー系ライダーで、本来ならとてもハイスペックな性能を持つはずが
変身者が非力な女性のため相性が最悪になっている。
特に召喚機を長時間使い続けると疲労するため、いつも地面に置いて
持ち上げないようにしている。(ベントインの時は仕方ないから持ち上げる)
割と軽めで威力のあるものを使うのが好き。
788名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 18:42:39 ID:eSKyw6T0O
ずっと過去スレからコピペしてる奴は何なんだ
789名無しより愛をこめて:2009/09/23(水) 19:36:58 ID:4w3repfsO
そんなことくらい自分で判断できるだろ
790名無しより愛をこめて:2009/09/24(木) 19:23:12 ID:ZP0AsAOS0
仮面ライダーシオン
変身者:東条優花(とうじょう ゆうか)19歳服役囚
身長:158cm
体重:49ポンド
最高視力:約12マイル
最高聴力:約23フィート
最大走力:100mを6時間
ジャンプ力:ひと飛び45グラム
パンチ力:120パスカル
キック力:255デシベル
召喚機:懺瘤剣「イオナイザー」(短刀型)

契約モンスター:マッドボーン(古代恐竜を寄せ集めたようなモンスター)5000AP
ミラーベント:敵が最も嫌う幻を見せ、精神的苦痛を与える
リープベント:敵をミラー異次元内のどこかに移動させる。もちろん、自分を対象にする事も可
マーカーベント:これにマーキングされた相手は、約10日間ミラー異次元のモンスターたちに襲われることになる
シュートベント:アウトバスター 1500AP(背びれ型の手裏剣)
ガードベント:ハードベンター 2000AP(アウトバスターやスカイマスターの発射装置でもある)
シュートベント:スカイマスター 3000AP(背中のトゲ型ホーミングミサイル)
シュートベント:マッハフェンダー 2700AP(音速の火炎放射器)
スイングベント:メガハンマー 1800AP(流線型のハンマー)
ファイナルベント:フィニッシュペーザー 7000AP
791名無しより愛をこめて:2009/09/24(木) 19:26:11 ID:ZP0AsAOS0
変身者解説
オナニーをしながら看守を誘う服役囚。
活発で男勝りな性格で、あまり細かいことは気にしない。
その上物凄い面倒くさがりで、いかに楽して金儲けするかを常に考察している。
そんな折「しばらく遊んで暮らせる金」につられて家庭教師のアルバイトとなったが、
しだいに他人の学業の成績を上げてまで儲けたいという気持ちは消えていってしまう。
しかし一度家庭教師になってしまった以上、嫌々それを続けなければならない状況だが、
生来の楽観的な思想であまり深刻に考えていない。
最近ではモンスターに襲われている人を助けてはお金を貰うという生活術を身につけ、
これで生活できないかとか考えている。

ライダー解説
ガチのパワー系ライダーで、本来ならとてもハイスペックな性能を持つはずが
変身者が非力な女性のため相性が最悪になっている。
特に召喚機を長時間使い続けると疲労するため、いつも地面に置いて
持ち上げないようにしている。(ベントインの時は仕方ないから持ち上げる)
割と軽めで威力のあるものを使うのが好き。
792名無しより愛をこめて:2009/09/24(木) 19:29:26 ID:ZP0AsAOS0
参考までに、作品中でエロ最強のライダーオマンのスペック。

仮面ライダーオマン
変身者:不定 神崎のラブドール
身長:205cm
体重:100kg
最高視力:約20km
最高聴力:約25km
最大走力:100mを4.0秒
ジャンプ力:ひと飛び50m
パンチ力:350AP
キック力:500AP
召喚機:錫杖型召喚機ゴルトバイザー(2000AP)
契約モンスター :鳳凰型モンスター ゴルトフェニックス(8000AP)
MWで最大のAPを持つモンスター。翼に風と炎を纏っている。
サバイブ「無限」
ソードベント  :ゴルトセイバー(4000AP)〜の翼を模した刀
ガードベント  :ゴルトシールド(4000GP)〜の尾羽根を模した盾
スチールベント :相手の装備を奪う。
タイムベント  :時間を戻す。
ファイナルベント:エターナルカオス(10000AP)
謎に包まれた必殺技
793名無しより愛をこめて:2009/09/24(木) 19:31:01 ID:ZP0AsAOS0
変身者紹介
都内の高校に通っている女子高生。家が剣道場を経営していて、容姿端麗、スポーツ万能、
学年トップ成績の完璧超人だが彼女自身はまったくそんなことは思ってない。ちなみに剣道部部長。
実家の道場の火事で両親は死亡、弟は意識不明の植物状態に。
そんな家族を生き返らせるため、そして道場の火事の原因であるライダー(モンスター?)を倒すため
彼女はデッキを受け取る。

ライダー解説
グランメイルは白。どこか侍を連想させるような姿をしている。
カードは少ないが剣道で鍛えられた剣術、スラッシャーとバイザーとの二刀流で
敵を圧倒する。
794名無しより愛をこめて:2009/09/25(金) 18:16:35 ID:wsIqZT9q0
仮面ライダーGLOW
夕焼けに染まる、雲ひとつない美しい空の下。荒れ果てた丘の上に、一人の男がいた。
地に跪いた男の体は、赤い血で濡れている。
涙も枯れ果てたその眼差しは瞬き一つせずに、沈む夕日を見つめて。
男は、体を深々と折り、額を大地に擦りつけ、呻くように呟いた。
すまない、すまないと。男は、壊れたようにその言葉を繰り返す。
光を失った幾百もの眼と、墓標のように突き立った鉄の箱だけが、その無価値な懺悔を聞いていた。
やがて光は消え失せ、闇が世界を覆い尽すまで。
禁断の地、ジュワン。
その日、数百もの人々と、一人の日本人がこの地から姿を消した。
一羽の鳥が歌う、目覚めの声と共に。
仮面ライダーGLOW序幕
薄暗い部屋の中。一人の男が、古ぼけたソファーに座ってテレビを凝視している。
 映されているのはありふれたニュース番組。
 聞こえてくるのは、若いニュースキャスターの声と遠い異国の情勢だった。
「現在、入国が禁止されているジュワンでは宗教団体ノイズを自称するテロ集団と治安維持のために派遣された多国籍軍との戦闘が激化の一途を辿っているとのことです。
 なお、現地で行方不明となっているジャーナリストの明神 大和さんの消息は依然として判明していません。一年前に発生したテロ集団による現地住民の大量虐殺に
 巻き込まれたという可能性もあり、安否が気遣われています。また――」
  申川悦子。相談所を営む男の助手だ。
「陣内先生、目が悪くなりますよ。それに――」
 部屋の電灯を付け、可愛らしい花の入った花瓶を手に取りながら、男を軽く睨む。
「――相談所が休業の間、花の世話は自分がするって約束、しまたよね?」
 花瓶の水を取り替えてやりながら、淡々とした調子で男を責める。
 彼女と付き合いの長い、男……陣内 強には、冷淡な表情の下に隠された憤りが察せられた。
「いや、面目ない。ちょっと仕事の方が手詰まりでさ。つい、ね」
「万年、借金取りに追われている陣内先生が、私の仲介もなしに手詰まりするほど大変な仕事、
ですか」「あー、それはね。俺の個人的な親交というかコネというか……」
「この前の情報屋さんのガセネタに、いくら支払いましたっけ」
「ええと、それは、えーと……」途端に怪しくなる強の様子に、悦子はため息をつく。
795名無しより愛をこめて:2009/09/25(金) 18:23:08 ID:wsIqZT9q0
(仮面ライダーGLOW 続き)
相談所を休業にしているのも、そこら中を駆けずり回り、嫌味な連中に頭を下げて情報をかき集め、一時期はジュワンへ密入国
しようとしたのも、全ては行方不明となった友人、大和のためだ。
「まあ、ね。あいつは俺のためにいろいろ無茶なこともやってくれたし、ガキのころからの付き合いだからな。腐れ縁ってやつさ」
「それで、この有様ですか」
 花瓶を置きながら、悦子は部屋を見回す。
 台所には水浸しの食器が放置され、屑箱には空になったインスタント食品ばかりが捨てられている。走り書きが記された大量の
メモが散乱し、机の上の灰皿には溢れ出さんばかりの吸殻が詰め込まれていた。
 それらが、ここしばらくの間、寝食を削って大和を探し続けた強の内面を雄弁に語っている。
「片付ける余裕がなくってさ。本当は、一秒も無駄にしたくないんだけどね……」
「これじゃ、明神さんを見つける前に陣内先生の方が倒れますよ」
「わかってるさ。でも、ね」
 思いつめ、表情を曇らせる強の様子に、悦子は諦めたように頭を振った。
 強に綺麗なお辞儀をして、手荷物を取り部屋を出て行く。
 年下のお嬢さんに説教される自分の情けなさに嘆息する強。「あの」
 強が振り向くと、出口から悦子が顔を出してこちらを伺っている。「無理しないでくださいね、叔父さん」
 一瞬、呆気に取られた強だったが、悦子を安心させるように笑顔を作った。
「大丈夫。いろいろ迷惑掛けてごめんな、えっちゃん。君は俺にはもったないぐらい、優秀な助手さ」
 小さく頭を下げ、帰宅した悦子を見送った強は、部屋を見回して苦笑する。
「久しぶりに、掃除するかな」
 いつの間にかに、灰皿の吸殻は片付けられ、テーブルには布に包まれた手製の弁当が置かれていた。
 申川 悦子の両親は、数ヶ月前に原因不明の事故で死亡している。
大都会のビル郡に紛れ、その塔は天に向かって屹立していた。
世界的に有名な企業、『ホーミングカンパニー』本社ビル。
 祈りと生贄を捧げる祭壇のようにも見えるそのビルの、最上階。そこがカンパニーの社長室である。
その椅子に宗教団体ノイズの教皇が、アルカイックスマイルを浮かべて鎮座していることを、知る者は少ない。
「鳥が、目覚めようとしている」
796名無しより愛をこめて:2009/09/25(金) 18:31:59 ID:wsIqZT9q0
 (続き)

スーツ姿で教皇は、謡うように不可解な言葉を呟く。
 背後の窓から臨む青空に、鳥の姿は見えない。
「オウル、かい?」
 背広を着た青年が、教皇に問う。
 日本語の発音は完璧であったが、背や手足は長く、顔立ちもどこか日本人離れしている。
「ああ、我らが偶像、そして知恵の鳥は、新たな息子を得た。誕生を賛美する祝福の歌が、私にも届いている……」
 教皇の芝居がかった台詞回しにうんざりするように、青年は苦笑して肩を竦めた。
「そうかい、彼が来るのか。で、どうするんだい? 君を裏切った娘のお友達も、そろそろ動き出すころだろう」
「それだからこそ、使途を送ったのだよ。なに、直ぐに見つけてくれるだろう」
「機械仕掛けの神を気取るか? 足元を掬われるよ」「いいや。私はただの傀儡。神の望むままに踊る人形でしかない」
 微笑んだまま、悲観的な言葉を並べる教皇を、青年は嘲笑し、部屋を出ようとする。
 その背中へ、教皇は言葉を送った。「君も、何れ知るだろう。その魂の座に刻まれた、二つの十字の意味を、ね……」
 男が言葉を終えると共に、銃弾が背後の窓ガラスを打ち砕いた。
 日陰に立つ青年の姿は、教皇からは見えず、また青年からも後光に照らされ、陰になった男の表情は見えない。
 金属が擦れる音を伴い、青年が扉を開く。「俺の飛ぶ空は、俺が決める」
 青年の声には、僅かなノイズが混じっていた。
 一人残された教皇は、手元の電話を取る。
「ああ、すまないね。私だ。部屋の窓ガラスに鳥がぶつかってね。割れてしまったようだ。修理を頼んでおいてくれたまえ。・・・・・・ん? 
ああ、心配することはないよ。どうも、私は鳥たちに嫌われているらしい。私はこんなにも、愛しているのに、ねぇ」
 教皇の視線の先には、一つの写真立てがあった。
 微笑む家族。その隣で笑う男。その顔は、教皇に良く似ている。しっかりと電灯のつけられた部屋で、強はテレビを凝視していた。
 今、テレビに映されているのはニュースではなく、ビデオの映像だ。それは、明神 大和から送られた物だった。
 ノイズのかかった画面には、茜色に染まった荒野が最初に写った。そこにゆらゆらと揺れて、並び立つ人影が見える。
 人影の体は異様に細く、尖っていた。
 
797名無しより愛をこめて:2009/09/25(金) 18:35:13 ID:wsIqZT9q0
(続き)
 頭からは細く長鋭い触角のような物が生え出し、顔面の半分を占める大きな目は夜の肉食動物のようにギラギラと輝いている。
 手には多種多様な武器を持ち、その全てが、あるものは血に染まり、またあるものは硝煙を吹いていた。
 人影は、たくさんの赤い塊を一箇所に集めている。塊には手や足が生えて、それがかつて何であったかを無言のまま訴えていた。
 ようやく、人影がカメラに、そしてそれを構えている者に気付く。塊を捨て置き、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
 突如、カメラの映像が激しく揺れた。撮影者が体勢を崩したらしい。
 一瞬、見えたその顔は、紛れもない大和のものだった。再びカメラが人影に向けられる。その時には、人影は目前にまで迫っていた。
「…………っ!!」根は臆病な強が、悲鳴を上げなかったのはちょっとした奇跡だった。
 画面を覆いつくすように写ったその姿は、やはり人間のものではない。
 体は金属の塊が寄せ集められているようだった。首から上は生身だったが、それも常軌を逸した姿だ。
 その顔は蝗によく似ており、頭頂部から一対の触覚が生えている。
 目は落ち窪み、奥底から赤い光が漏れ出ているのだ。
 金属の手が画面を覆いつくし、蝗モドキが虫の顎を左右に開き、その内側にある人間に似た歯を剥き出しにして、ノイズの混じった
奇声を上げる。そこで、ビデオの映像は暗転した。ビデオが終わる数分の間に、強は大和のメッセージを聞いた。
強はビデオを封筒に入れ 関係者以外には教えていない金庫に隠す。花瓶の中に悦子へのメモを入れ、慌しい足取りで部屋を出た。
 点けっぱなしのテレビから耳障りな音が響き、ノイズだけが映っている。
――みつけた。ノイズ音に混じってその無機質な声が聞こえ、そこでテレビの電源が落ちる。
798名無しより愛をこめて:2009/09/25(金) 18:45:17 ID:wsIqZT9q0
(続き)
「エサに かかったか」山道沿いの林の中。そこで、瞑想するように屹立していた男が、呟いた。
 大柄な体をサーコートで覆い、顔は不気味な覆面で隠れている。
 彼を取り囲んだせむしの男の一人が、こくりと頷く。その男も簡素なローブと覆面で体を隠している。
 彼らの服には奇妙な紋章が縫い付けられていた。翼を広げた鋼の鳥と、そこに被せられた交差する双剣。
 宗教団体ノイズの抱える騎士団、『ノイズメーカー』の証である。
「ゆこう。あのオトコは かならずあらわれる。あのニンゲンの テアシでもチギりとればな」
 無機質な口調で、サーコートの男が残虐なことを平然と言う。彼らの目的は、陣内 強を捕獲すること。
 とある男を、誘き出すために。異様な雰囲気の集団が歩き出すと共に。強烈な閃光と爆音が彼らを包んだ。「エクゼキュトか!」
男の鋭い声を掻き消すように、四方から放たれた銃弾が男たちを容赦なく貫いていく。
八つ裂きにされたせむしの男が、どうっと音を立てて地面に倒れた。暴かれたその姿は、人間のものではない。
 大和が送ったように擬装されたビデオの、蝗モドキそのままの姿だ。
 強装弾のシャワーに曝されながら、サーコートの男が虎のような咆哮を上げ、木々の陰に潜んだ襲撃者たちに飛び掛った。
 だが、新たに飛来した攻撃に叩き落される。滑らかに輝く、紫の矢。それが木々の間から音速を超えて襲い掛かってくる。
 男は俊敏な動作でその攻撃を巧みにかわし、避けきれない物はその豪腕で叩き落した。
 銃弾と矢によって引き裂かれた衣服から覗く体は、やはり人間と呼べる姿ではない。
 両腕は鏡のように磨き上げられた鋼の翼で覆われ、分かれた羽が太い指を覆い爪のようになっている。
 覆面の破れた部分から剥き出しになった口には、禍々しい牙が並んでいた「グオオォ!!」
 短く吼えた男は飛び上がり、木から木へと飛び移って包囲網から抜け出そうとする。
 追い縋る矢と銃弾は男を捉えられず、空しく木々を撃ち砕いた「クロウ! このままだとアルファチームに追いつかれるぞ!!」
「解っている」焦りを含んだ襲撃者の呼び掛けに、冷淡な声が応える。意外なことに、その声は若い女のものだった。
 枝の上から飛び降りた女は、下で待ち構えていたバイクに騎乗する。「行こう、ブラウニー」
 
799名無しより愛をこめて:2009/09/25(金) 20:23:16 ID:wsIqZT9q0
(続き)
ただの機械に過ぎないはずのバイク、ブラウニーに掛けられた言葉は、先ほどの襲撃者に対するものとは違っていた。
 まるで、姉が弟に話しかけるような親しみが込められている。
 その言葉に応えたのか、ブラウニーは獣が咆哮するようにエンジン音を響かせて、林の中を駆け抜けていく。
 一方、戦場からいくらか離れた山道では、一台のワゴン車が移動していた。
 外装は一般の車両に見えるよう擬装しているが、ライフル弾に耐えれる程度の装甲を施されている特殊車両である。
 その座席に、三人の男と強が乗っていた。
 男たちの着ている衣服は特別高価というわけでもない、極めて平凡なものだ。顔立ちこそ精悍ではあるが、中肉中背でそこら辺にいる一般人にしか見えない。
 だが、案外そういうものなのだろう、と強は自分を納得させた。
 スパイ映画ではあるまいし、秘密組織の構成員が『私は謎の組織のスパイでございます!』と宣伝するような目立つ格好をしているわけがない。
 拘束される前まで、歩いていた自分の背後の若いカップルや営業マンも、この連中の仲間だったのではないだろうか? 
 そんな益体のない妄想に耽っていた強に、横の男が声を掛ける。
「いやぁ〜悪いねー。急を要する任務だったんで警察を手配する暇も無かったんだよ。余裕があったらもっと穏便に済ませたんだけどさあ」
 馴れ馴れしい態度がさらに『らしさ』を削ぐ。この連中は本当に噂の秘密組織から派遣されたのだろうか? 
実は自分に身勝手な恨みを持つヤクザの回し者なのか?堂々巡りする強の思考を遮るように、男は彼の肩をバンバンと叩く。
見かけと違ってかなり鍛えているらしく、非常に痛い。
「そう緊張しなさんな。俺たちエグゼキュトは立派な合法組織。悪いようにはしないって。あ、一応、民間には情報規制されてっから、
知り合いに話したりしないでくれよ!」
「は、はぁ…… 極秘の合法組織という胡散臭い肩書きの連中を信頼しろという方がおかしい。
 そう突っ込みたい強だったが、悲しいかな、彼にそんな度胸はない。
「真名さん、任務中です。口を慎んでください。それに、その男は民間人でしょう。無闇に情報を与えるのは都合が悪いのでは?」
前の座席でハンドルを握っている男が口を挟んだ。真名という名前は、仮のものでしかないのだろう。
 
800名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:05:41 ID:beIpNRav0
(仮面ライダーGLOW 続き)
そうだ! もっと言ってやれ!! と、強は心の中で彼を応援する「まーまー。どうせ公然の秘密みたいなもんだろう。
各国の諜報機関やヤーさん、マフィアなんかにはさ」そんな秘密をぺらぺら教えるな!と強は叫ぶ。やはり心の中で。
「運転に集中しなって、君は新人なんだからさ。まあ、いざとなったら頭ん中いじくって放り出すさね」
 渋る運転手に、真名は笑いながらとんでもないことをのたまった。だらだらと嫌な汗が流れ、ごくっと唾を飲み込む。
 だが、強はこの男たちからどうしても聞き出さなければならないことがあった。
「なあ、あんたら」「ん?」「エクゼキュト、なんだな?」「……よく、調べたじゃないか。三流探偵にしては上出来だ」
「余計なお世話だ」
 声を落とし、本来の顔を覗かせ始めた真名に怯えながらも、強はなけなしの勇気を振り絞って文句を言う。EXECUTE(エクゼキュト)。
 暴虐の限りを尽くす宗教団体ノイズに対抗し、某国が設立した治安組織。
 その名や目的を知る者は決して少なくはない。だが、詳しい実態や内情は解っていなかった。
 人知れず謎を暴いた者がいるのかもしれないが、エクゼキュトの規模を考えれば、その末路はあまり気持ちの良いものではないだろう。
「今回、俺たちはあんたを保護して、ついでに、親交のあった明神 大和の情報を聞き出すためにやって来たってわけさ」
「保護、ねえ」
「まあ、アンタからすりゃ誘拐みてーなもんだろうが、実際、アンタはかなりヤバイ連中に狙われてるんだぜ?」「……あんたらのことか?」
「言うねえ」「大和はどこにいる? 今、どうなってるんだ?」
「知らん。俺たちもそれを知りたくてアンタを連れて来たんだ」
「そんな馬鹿な! あんたらのような組織が、たった一人の一般人を探せないって言うのか!?」珍しく、激昂し真名に叫ぶ強。
 だが、真名は懐に仕込んだレイヴァンのサングラスを掛けて、強から視線を逸らす。
「一般人……一般人ねえ」「な、なんだよ。なにかおかしいことでも言ったのか?」
「いや、なんというかねぇ。彼は一般人、そもそも人間と言える状態なのか、と疑問に思ってね」「…………なんだって?」
 動揺する強を、真名はサングラスを僅かに下げ、真っ直ぐに見据える。
 胡散臭い笑顔など、すでに消えていた。
801名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:08:17 ID:beIpNRav0
(続き)
「忠告、いや、警告させてもらうよ。事が済んだらアンタは二度と、彼に関わらない方が良い。それが、アンタのためだ。それに、
アンタを慕っている人を哀しませたくはないだろう?」
「えっちゃんの、越子ちゃんのことか! おい、俺はともかくあの子に手を出すっていうなら……!」
「どうするっていうんだ?」「それは……」「自惚れるな。アンタは普通の人間だろう。無理はするもんじゃあ、ない」
「だが、それでも俺は、あいつを……」
「人には、それぞれ為すべき事がある。俺の尊敬していた人が遺した言葉だ。アンタがすべきことは悪戯に時間を浪費して、大事な姪っ子に心配を
掛けることか?」「違うだろう? ま、俺に言えた義理じゃあねえが、だったらアンタは――」
「真名さん! アポステルです!!」
 真名の言葉を遮って、運転手の悲鳴のような声が車内に響いた。「確かだな?」
「ブラボーチームから連絡がありました! こちらに接近しているとのことです!!」
「ち、連中の電波妨害で遅れたか。センサーに注意しろ。青木! いざとなったら俺とお前で時間を稼ぐぞ!」
 真名は素早く振り返り、冷静な口調で部下たちに命令する。 だが、事情を知らない強の混乱は収まらなかった。
「おい! 一体なにが起きてるんだ! アポステルってなんだよ!?」
「すぐにわかる! アンタは身を伏せて自分のことだけ考えていればいい!! 命を張るのは俺たちの役割だ!」
「い、命って――」「駄目です! 奴が速すぎて、このままでは追いつかれ……!!」
 葉が擦れ合い、枝がしなる音が聞こえる。 強は、車の前に舞い降りたそれを見た。
 恐ろしげな牙を剥き、哀れな獲物を狩り取る為に、発達した豪腕を振り上げた化け物の姿を。
「車を止めろ! 的になる!!」 だが、前に座った二人は真名の命令に反応せず、それどころかさらに車の速度を上げた。 
 二人の男が、真名の方を振り向く。その顔を見て、さすがの真名も目を見開き、強は危うく失神しそうになった。
 彼らの表情は強張り、目にはテレビの砂嵐のようなものが映り、開かれた口からはノイズ音が漏れ出している。
「アポステルの攻撃か……!」 眉を顰め、真名は車から飛び降りた。 硬直していた強を連れて。
802名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:11:56 ID:beIpNRav0
(続き)
「え…………?」すさまじい速さで流れていく山道が、目に映る。「ひいぃーーーー!!」
 ようやく悲鳴を上げ、葉の積もったやわらかい地面に倒れこんだ。
その頭上を、爆音と爆風、さらに車の破片が過ぎ去っていく。
 手に取った銃を構え、燃え上がる炎を睨んだ真名と、慌てて身を起こした強の前に、それはようやく真の姿を露にした。
 鍛え上げられた逆三角形の体は虎柄の毛皮に覆われ、先端に、牙を生やした口を備える尻尾がゆらゆらと揺れている。
 燃えていく覆面が張り付いた顔は、虎を模した鋼の仮面に覆われている。
 仮面から覗く爛々と輝いた目が、二人を睨み据えた。「走れーーーー!!」  真名が叫び、銃を発砲した。
 強は戸惑いながらも、林の中へ走っていく。「オマエは イラナイ」一瞬のうちに間合いを詰めたアポステルが、拳を放つ。
 まともに食らえば即死しかねないその一撃を、真名は木を盾にしてかわした。だが、拳圧だけで背中が引き裂かれ、血が飛び散る。
「ぐぅ……!」
 歯を食いしばり、懐に仕込んでいた切り札を投げつけた。スタングレネードだ。
 眼前で炸裂され、僅かな間だがアポステルの動きが止まる。
 地面を転がった新名は出来るだけ距離をとり、再び木の後ろに隠れて予備のマガジンを装填する。
「さすがに、洒落になんねーなぁ……」
 脂汗を流し、激痛に震える体を抑えつける新名に、回復したアポステルが迫る。怒りを込めた唸り声を上げ、
腕から黒い波動を放ち、高々と振り上げた。 新名が死を覚悟した時、エンジン音が林に木霊する。
 アポステルが音のするほうへ、注意を向けた次の瞬間。
オフロードバイクが恐ろしい速度で飛び込んできた。「グオッ!?」
 スタングレネードで感覚が鈍っていたアポステルは、その突撃をかわすことが出来なかった。
 前輪に叩き飛ばされ、あっけなく地面に転がる。
 バイクのライダーは卓越した操作技術で反動を受け流し、片足でバイクを支え、アポステルを注視する。
 突如アポステルを攻撃したライダーは、奇妙なことに、アポステルと全く同じ意匠のサーコートを羽織っていた。
 その顔は、やはり覆面に隠されて窺うことは出来ない。「なんなんだ、アンタは……?」
 新名の誰何の声に答えず、ライダーは右腕を僅かに上げる。 
803名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:21:56 ID:beIpNRav0
(続き)
すると、どういった仕掛けなのか、服の裾から白い刃が飛び出した。
 起き上がったアポステルが飛び掛るが、ライダーはバイクを捨て攻撃をかわす。
 バイクを叩き潰したアポステルは、逆上してライダーに突進した。
 矢継ぎ早に放たれるパンチの嵐をライダーは右腕一本で全て受け流し、アポステルの腹を左の刃で切り裂く。
 裂かれた腹を押さえ、呻くアポステルは、再び跳躍した。身構えるライダー。だがアポステルは眼前の敵を無視して、
彼を飛び越え林の奥に消えていく。「奴を追え! 先に逃げた陣内を人質にするつもりだ!!」
 ライダーは僅かに頷き、常人離れした脚力でアポステルを追う。残された新名は、木を支えにしてずりずりと座り込んだ。
「まったく……友達思いな連中だ」そう言って、苦笑した。強は、木々の間を走り続けていた。
 呼吸は乱れ、心臓が張り裂けそうになっている。それでも彼は肺の痛みを誤魔化して、ひたすらに走った。
 自分はこんな所で死ぬわけにはいかない。自分以外に頼れる者のいない越子の、行方不明になっている大和のために。
 そして、何の望みも叶えられないでいる自分自身のため」「……あ!!」
だが、冷酷な狩猟者に獲物の願いなど届くはずがなかった。樹上に見える一対の眼光と、ノイズ混じりの唸り声が、強を捉える。
枝を蹴り、アポステルが宙を舞う。
両腕を振り上げ飛び掛る怪物のが、スローになった強の視界を埋め尽くそうとする。
ゆっくりと落ちてくるアポステルを見て、強は、自分が死ぬことを知り、ギュッと目蓋を閉じた。
だが、死神の鎌は彼に振り落とされなかった。そう、彼の前に立った一人の男の腕によって。
恐る恐る、視界を開いた強の目にその男の背中が見えた。
男の背は広く、服に刻まれたノイズメーカーの紋章は焼け焦げている。「お前……?」
知らないはずの男の背中を見た時、強は全く関係ないはずの男を思い出していた。
どんな時でも諦めず、頑固なほどに暴力を嫌った自分の悪友。明神 大和を。
「グロウ! ウラギりものガアアァ!!」
捻じ伏せようとするアポステルの拳を軽々と捌き、グロウと呼ばれた男は伸びきった丸太のように太い腕を、紙のように切り裂いた。
「ギアッ?!」驚愕するアポステルに構わず、返す刃で仮面を砕く。
804名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:24:04 ID:beIpNRav0
(続き)
凄まじい絶叫を上げ、たまらずに後ずさるアポステル。男は必殺の構えをとり、アポステルに止めを刺そうとする。
だが、撃ち放たれた散弾が彼の動きを止めた。蝗モドキの死に底ないが放ったものだ。
力尽きた部下を無視したアポステルはこの機を逃さず、残された左の腕から先ほどと同じ黒い波動を放つ。
ここで初めて、グロウが動揺を見せた。
アポステルを圧倒する彼の筋力ならば、敵の一撃をかわすことなど容易いはずだ。
しかし、自分が避ければ腰を抜かした強は死ぬことになる。
だから、彼は。「ガアアアアァッ!!」放たれた波動を、甘んじて受け止めた。
「――オオォ!」 勇ましく咆哮し、交差した腕で黒い波動を打ち払う。
だが、無傷という訳にはいかなかった。彼の体を覆っていた服はボロボロに破れ、露出した体からはだらだらと血が流れ落ちている。
 その体は、筋肉が露出したかのような生々しいオレンジ色だった。
「なんなんだ……?」 根源的な恐怖に震えながら、強は自分の眼前に立つ男を指差す。
「なんなんだよ、お前はあぁ!!」体の各所を骨に似た装甲で覆い。
 腰には輝く複眼のバックルを備えたベルトが巻かれている。先ほどまで振るっていた刃は、彼の腕の装甲が変形したものだった。
 振り返ったその顔は頭蓋を思わせ、泣いているようにも見える眼窩からは、煌煌と輝く光が覗く。
 それが、グロウの正体だった。追い詰められたアポステルは木々の陰へ飛び込み、目にも留らぬ速さでグロウの周囲を疾走する。
グロウは腰を落とし、空手の後屈立に近い構えをとった。バックルの複眼が、鋭い輝きを放つ。
刃が変形し、篭手のような形となり血管の如く全体に走った無数の溝が、明滅する。
アポステルが背後から飛び掛った瞬間、彼の影がノイズ音と共にブレて。
『グロウゥスティンガァー!!』その技の名を、高らかと叫んだ。
 叩き込まれたカウンターがアポステルの胸を砕く。光が全身を駆け巡り、アポステルの肉体を根こそぎ破壊した
805名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:25:40 ID:beIpNRav0
(続き)

おぞましい使徒の体は、爆発四散した。「ぐあっ!?」
爆発の余波に吹き飛ばされ、強は体を木に叩きつけられる。
疲れ果てた彼の体は、その衝撃によって意識を手放そうとした。
霞んでいく視界に映る男に、強は懸命に手を伸ばし呼びかける。「やま……とぉ」
 搾り出すようなその声に振り返らないまま、グロウは歩き去ろうとする。
 闇に包まれる最後の瞬間、強はグロウの声を聞いた ――もう、大和には関わるな。ここにいるのは、ただの残りカスだ。
グロウとアポステルが死闘を演じた場所から、僅かに離れた林の中。
枝の上に立ったクロウは構えていたボウガンを下ろし、変身を解く。その姿は、驚くほど幼い。
十代後半、まだ女よりも少女に近い年齢だった。「あれが、グロウか」
 クロウに変身していた少女は、確かめるようにその名を呟く。「あの男の生み出した、最後の、使徒」
 消えたグロウを追うその目には、侮蔑にも近い感情が浮かんでいた。
 彼女の周囲には、鋼の矢によって針鼠のようになった戦闘員と蝙蝠のアポステルが八つ裂きにされ、
無造作に転がっている。
806名無しより愛をこめて:2009/09/26(土) 19:57:04 ID:beIpNRav0
(続き)
夜の闇に包まれた、街の一角。
 銃痕だけが残された無人の家屋と焼け焦げた自動車の残骸が並び、罅割れた道路には絵の具を撒き散らしたように赤い血がこびりついている。
 ノイズのテロ行為による傷跡が色濃く残り、細菌兵器がばら撒かれ封鎖されたこの区画に、訪れる者は少ない。
 電灯が消えた街は暗く、僅かな星明りだけが頼りだった。その闇の中で、一人の少年がうずくまり、震えている。
 少年が隠れた家屋はやはり無人であり、彼はそこの一室に置かれた机の下に潜んでいた。
 少年は、手で華奢な体をかき抱いて震えていた。目と口をギュッと閉じて、冷や汗を流している。
ボロ布のような服ではあったが、その震えが夜の寒さのみからきたものでないのは、確かだった。
「あにき……あにきい」たどたどしい日本語で、少年は何者かに助けを呼ぶ。日焼けした肌や日本人離れした顔立ちから、
少年が日本人ではないことが分かる。
 そんな少年の耳に、足音が聞こえた。少年は一瞬、ビクリと大きく震え、耳をそばだてる。
 足音は、金属の擦れる音を混じらせて、ゆっくりと少年が隠れた家屋へ近付いていく。少年は、必死に周囲を見回す。
 だが、武器になるような物はなく、助けを呼ぶための道具もない。今更、逃げ出しても、少年を追う者は決して逃がしてはくれないだろう。
 そのことは、追跡者から逃げている少年が一番よく知っていることだ。そうしている間にも、足音は少年に近付いてくる。
 扉が軋む不気味な音と、廊下を歩く追跡者の足音が聞こえ。
 一つ一つのドアを開けて、中の部屋を物色する。一つ目のドアが開かれたダブルベットが置かれ夫婦の寝室。
 割れた写真立てには、微笑む若いカップルの姿があった 少年の姿は、見えない。
 二つ目の部屋。砕け散ったガラスが散乱した居間だ。
 画面が壊れたテレビが置かれ、引き裂かれたカーテンが寂しげに揺れている。
やはり、少年の姿はない。三つ目の扉が、開かれる埃の積もった家具と玩具が置かれた子供部屋。
兄弟が使っていたらしい、ダブルベットが見える。
そしてノートと教科書、こっそり開かれた漫画が放り出されたままの学習机。その机の椅子を収納するスペースから
、少年の足が僅かに覗いている。 追跡者は、獲物を捉えた。少年にも、それが分かった。 
807名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 00:16:14 ID:S8kUL2CG0
身長:190cm 仮面ライダー テクス
変身者:小幡 弘樹(19歳 大学生)
身長:190cm
体重:85kg
最高視力:13km
最高聴力:13km
最大走力:100mを5秒
ジャンプ力:ひと飛び25m
パンチ力:250AP
キック力:250AP
召喚機:手甲型召喚機 シープバイザー(2000AP) 大量の毛が下腕部全体を覆う
                        防御力の高いバイザー。
契約モンスター:羊型モンスター バウンドシープ(4000AP)防御力の高い真っ白な大量の毛で
        覆われたモンスター。高い跳躍力と弾力性の強い全身の毛で跳ね回り、
        体当たりや頭突きで攻撃する。(以下〜)
召喚機:手甲型召喚機 シープバイザー(2000AP) 大量の毛が下腕部全体を覆うバイザー。
契約モンスター:羊型モンスター バウンドシープ(4000AP)防御力の高い真っ白な大量の毛で
        覆われたモンスター。高い跳躍力と弾力性の強い全身の毛で跳ね回り、
        体当たりや頭突きで攻撃する。(以下〜)
ストライクベント:シープスティック(1000AP) 〜の脚を模した50cmぐらいの太鼓の撥型武器。
                      二本一組のただの棒。攻撃力低し。
ナスティベント:ミストウール(2000AP) 〜が全身を震わせて細かい毛を大量に散らせ、目晦ましを
                   かける。逃走用だけでなく、ストライクベントを激しく
                   打ち鳴らして、飛ばした火花を引火させて、相手を炎に包み
                   込むことも可能。

808名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:18:45 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話

『俺は、あの日までこの日常がずっと続くものだと思っていた』
まだ冷気著しい空気に曙光さす中、一人の青いジャージ姿の少年が白い息を吐きなが
ら土手を走っていた。
 東京と千葉県の境を流れる江戸川の土手はかなり整備されていて、ジョギングコース
として最適だ。事実、何人か……元気な老人や壮年の男性、夫婦者などとすれ違ったり
もし、顔見知りなのだろう、挨拶を交わしたりした。
 少年はもうかなり走りこんでいるらしくかなりの汗をかいていたが、まだまだ余力を
残しているようだ。ややあって市川橋の下まで来ると、そこでゆっくりとストレッチを
始めた。「ん、ふうっ」
 全身を伸ばし、筋肉をほぐしてやると若い体はすぐに応えてバネか何かのような手ご
たえを感じさせた。
 それから足を少し開いた状態で軽く構え、息を整えて……いきなり、 シュッ!
 ……右ストレートを繰り出した。
 空気を切り裂く小気味良い音が響き、びっくりしたのか小鳥が何羽か飛び立った。
「フンッ! ハッ! トゥッ!」
 左のフック気味のパンチから更にキック、その体のひねりを利用したの右のエルボー
……どうやらこの少年、格闘技をやっているらしい。空手でもやっているのだろうか?
 だが、しばらくして構え方が変わった。足を更に広げ、ぐっと低い姿勢になったのだ。
 拳は握り締めずに、軽く……指を曲げただけの状態。見ようによっては獲物に襲い掛
かる直前の猫のような姿勢である。ひゅっ少年の左腕が消えた。──いや、鋭く……
引っ掻くように振るったのだ。直後。ばしっ!叩かれた空気が破裂して、すごい音がした。
 それから先は更にすごい。右腕も左腕同様に消え、連続して破裂音が上がるのだ。あ
たかもそこにサンドバックがあるかのように。
 脚の方は脱力しているように見えるのだけれど、しかしゆらゆらと確実に鼓動を刻ん
で、手の指の先まで的確に力が乗るよう緻密なコントロールがなされていた。
 ひときわ大きく破裂音が上がると同時に少年は両腕を完全に脱力させて、ふう、と大
きく息をついた。「相変わらずねえ」ぱちぱち、と拍手する音と一緒にそんな声がした。
 少し高めの声、歌うような調子。それだけで相手が分かったらしく、少年は振り返り
もせずに声を返した
809名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:26:49 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (2)
「花音、そのあきれたような言い方はよしてくれよ」
「だって、あきれる意外にどんな反応すればいいって言うのよ」
 応えながら少年に近づいてきたのは、彼同様に学校指定らしい青いジャージ姿の同年
輩と見えるなかなかかわいい少女だった。
 切れ長の瞳に黒味の強い瞳。けれどもきつさを感じさせないのは柔らかい笑顔をずっ
と浮かべているからだろうか。
 もみあげ部分だけ少し長くして、残りを肩の辺りで切り揃えたストレートの黒髪がか
すかな風に揺れ、頬の辺りにかかったひと房を彼女の白く繊細な指が払う。
 小ぶりにまとめられた形のいいあごも、いわゆる桜唇と呼ばれる薄いピンク色の唇も、
全てが彼女の愛らしさを強調するかのようだ。
「はい、タオル。それにしても脩一郎、最近更に強くなってない?」
 脩一郎と呼ばれた少年はタオルを受け取りながら笑顔で応えた。
「え、花音もそう思うか?」「思うも何も、むちゃくちゃよ」
 ちょっと眉をひそめながらも笑顔の花音に、脩一郎はぽりぽり頬を掻いた。
「第一、最近組み手で本気出したこと無いじゃない」「……分かるのか?」
「何年アンタの幼馴染やってると思うのよ」
 言われて苦笑してしまう脩一郎だった。正木脩一郎と三島花音。
 二人は生まれた病院から通った保育園、小学、中学、高校とずっと腐れ縁の続く間柄
であった。家も隣同士、両親同士が近所でも仲がいいと評判で、おかげで脩一郎と花音
は半ば以上公認のカップルであった。
 それは学校でも同様で、片割れがいない状態を想像するほうが難しいほどであった。
おかげで脩一郎は悪友たちから「何であんなかわいい幼馴染がいるんだ、コノヤロウ」
などと、時たまふざけ半分で首を絞められる。
 もっともそれは花音の方も同様で、素材がよいのかきりっと引き締まった脩一郎は特
に見栄えがよく、その彼とセットになっていることをよく友達にうらやましがられてい
たりするのだから、まあ似たりよったりといったところであろうか。
「まあ、わたしも似たようなものなんだけどね」
 肩をすくめ、花音は足元の石を拾った。
 一見すると無造作な動きだが、しかしその光景に脩一郎ははっと息を呑む。
「……重くないか?」
810名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:29:38 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (3)
「んー、あんまり。ねえ、成長期って言っても……普通じゃ無いかな、これって」
 首をかしげながら言う花音に脩一郎は応えなかった。彼女の手の中にある石はちょっ
とした猫くらいはあって、相当重いはずの代物だったのだから。「いつからだ?」
「何が?」「急に強くなってきたの」市川橋を千葉県側へ渡る途中。
 軽く走りながら訊ねる脩一郎に花音はうーん、と上を向いて一言。
「そうね……。アレかな」「アレって何だよ」
 思わず振り返った視線の先、花音の頭の上をかすめて虫が一匹飛んでいった。
 冬のこんな時期に? トンボに見えたが……一瞬目を奪われかけた脩一郎は、花音の
声に我に返って視線を彼女の方に戻した。「お、女の子に言わせないでよ!」
 真っ赤になっている。どういうことか分からず、脩一郎は首をかしげた。
「あ、アレと言ったらアレよ! お赤飯!」
「……? 何かめでたいことが?」「まさか……せつなちゃんまだなの?」
 逆に聞き返してくる花音に、脩一郎はますます訳が分からなくなってえっ? と訊き
返した。それに花音はちょっと額を押さえてから意を決して口を開いた。
「……初潮よ! 初めての月の物! アレが来てからなんだか力が強くなってきたみた
いなの」
 力だけじゃないわよ、足速くなってきたの。何なら試してみる?そう聞く花音に脩一郎はにっと笑った。
 何言ってるんだ、それは俺だって同じなんだぞ、と。
「よーい……」「スタート!」 互いに声を掛け合って、疾走を開始する。
 並の自転車より、速い。突然の疾風に、犬の散歩をしていた老人がびっくりして振り
返ったほどだ。 風がびゅうびゅう、はるか後ろへと流れていく。
 二人は若い四肢を更に速く、更に強く振った。朝の光の中、家へ向かって。
『あの時俺たちは自分の体に何が起きてるかなんて、本当に分かっちゃいなかったんだ。
もし分かっていたら、あんなに能天気に笑いあってなんかいなかっただろうな。ただ、
二人して笑いながら帰って、朝ごはんを食べてから学校に向かった。それが奇妙にはっ
きりと思い返される……。失って久しいのに変だな。もう二度と戻らないものだからこ
そ、余計そう思うのかもしれない
811名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:32:01 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (4)
「お帰り、脩一郎、花音ちゃん」
 玄関でニコニコ笑っているのは脩一郎の母の美沙慧(みさえ)さんだ。
 二児の母とはにわかには信じがたいほど若々しい人で、手先の器用さを生かして手芸
教室の先生をしている。教室は隣近所の主婦たちのみならず、先生目当てで集まる男性
も結構多いらしい。
「花音ちゃんとこはご両親とも急な所用で出かけちゃったんだって。寧音ちゃんももう
来てるし、食べていきなさいな」
「あ、はい、ありがとうございます」ペコっとお辞儀する花音に、美沙慧はあっはっはと笑った。
「他人行儀な事はいらないわよ。いずれわたしの娘になるんだからさ」
「母さんっ!」 思わず叫び声をあげてしまう脩一郎。
 そう、この母親はいつもこうなのだ。息子と友達の娘が将来結婚するものと決め付け
ているふしがある。そのたびに真っ赤になってしまう花音や狼狽する脩一郎を見て楽し
んでいるのだ。
「脩一郎、もう一線越えちゃった? ま、あんたたちの年齢では別に珍しくもなんとも
無いけどね、でも男として避妊はきちんと──」「何の話だよ、何のっ!? まだしてないって!」
 思わず応えてから脩一郎はしまったと口を押さえた。
 母は、そういう細かいセリフから、それこそ事細かく推察するのが趣味なのだ。
 いったい何回そうやって『推察』されてからかわれたことか。
「ほほーう、『まだ』ってことは、いずれする気はあるって訳ね? それともBまでは
もうとっくに終わってるってことかしら?」
「だ────っ!! 普通親ならそういうことを禁止するもんだろうが!」
「何言ってんの。禁止しようがするまいが、やっちゃう時はやっちゃうもんなのよ。だ
ったら責任あるやり方をきちんと教えるのが親としての務めってもんでしょうが」
 そんな言いあいをしながら家に入ると、ぷんといい香りがした。
 ふわふわに炊かれた胚芽米混じりのご飯に、シメジやネギ、油揚げの入った味噌汁。
それに熱々のベーコンエッグの千切りサラダ添えが既にテーブルに並んでいた。
 トマトが綺麗に切り分けられた皿もある。
 食卓には既に脩一郎の父である修輔と中学2年生の妹のせつな、そしてもう一人、紫
音にそっくりな小柄な少女がついていた。
812名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:35:51 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (5)
 妹の寧音だ。こうして姉妹が並び立つと本当に似ていると思わざるを得ない。
寧音があと1年も成長すれば、ほとんど見分けがつかないのではないだろうか。
 寧音はせつなとも仲がよく、学校でもいつも一緒にいるらしい。一緒に帰ってきた互
いの兄姉たちをさかなに、笑い転げながらおしゃべりに余念がないようだ。
 こうしてみると顔立ちは少々違うものの、せつなと寧音が姉妹のようにも見えてくる。
「ほら、さっさとシャワーを浴びてきなさいな。何なら一緒に浴びてきたら?」
「だから、そういう笑えない冗談はよしてくれよ、母さん!」
「何言ってるのよこの子は。ちょっと前までは一緒に喜んでお風呂に入ってたくせに」
「もう何年も前の話だろ、それは!」
「あら、母さんにとってはついこないだよ」
 『いつもの』親子漫才に、花音はあははと笑いながらペコリとお辞儀した。
「じゃ、お風呂場お借りします」
「ああ、好きなように使ってね」
 顔を上げた花音はすぐに早足で風呂場へと消えたが、そのほんの一瞬、彼女の頬が紅
潮していたのに気づいて脩一郎は心臓の鼓動が一瞬跳ね上がるのを覚えていた。
花音はすぐに出てきた。
 彼女は朝シャンとかそういうのはあまりやらない主義なのである。洗う時はさっと洗
ってさっと流す。これで美しい黒髪を維持しているのだから不思議だ。
 この間本人に訊いたところによると、シャワーのお湯やドライヤーに消費されるエネ
ルギーの事を考えると馬鹿みたいに使っていられないのだそうだ。その代わり、時間を
あまりかけないなりに丁寧に洗って、丁寧に水を切るように心がけているらしい。
 そういうわけで、上がってきた花音の髪からはシャンプーとリンスのいい香りが彼女
自身の洗い流されきらなかった甘い体臭とミックスされて香り、まだ濡れている髪がい
やが上にも色気を感じさせた。
 互いに17歳。大人の行為に興味が無いと言ったら嘘になるが、花音に『女』を感じ
つつある脩一郎は割れ鐘のように鳴る心臓の音を聞かれはしないかと内心汗だくである。
 ──彼女の意志を尊重し、無理やり襲ったりはすまいと心に決めている──というの
はタテマエで、本音では襲いたいけど嫌われたくないから我慢している、のであった。

 
813名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:42:04 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 ()
『これ以上、匂いを嗅いでたら……ヤバイ!』
 ずきり、と心臓とは別のところが男の生理現象に従って脈動するのを感じて慌てて風
呂場へと飛び込んでいった脩一郎だが、すぐにおのれの浅はかさを呪う羽目になった。
『うわ、濃い……』
 つい今しがたまで彼女が入っていた所なのだ。
 シャワーでも流しきれなかった彼女の匂いが残っている。脩一郎はいささか肩を落と
しつつも頬を真っ赤に染めてシャワーを手に取り、思い切り冷たい水を出して頭からか
ぶった……。「行ってきまーす」
 朝食を済ませて脩一郎はガレージからバイクを引き出しながら家に声をかけた。
 マシンはカワサキZX750のライムグリーンにエボニーというカラーリングのものである。
 「お兄ちゃん、待ってよぉ」
 ばたばたと階段を駆け下りる音がして、すぐにせつなが顔を見せた。しかしバイクに
つけられたサイドカーがまだ空なのを見て、安心したらしくほうっと息をつきながら落
ち着いて靴を直している。
「愛しの小太郎が乗せてってくれるんじゃないのか?」
「先輩と待ち合わせてるのはいつもセブンイレブンの前だもん」
 そこまでは乗せてってよ、といそいそとサイドカーに乗り込むせつなに、おいおいそ
こは……と言い掛けて脩一郎は結局黙った。サイドミラーごしに三島姉妹が隣の家から
出てくるのが見えたからだ。『そこは花音の指定席だ』
 そう言ってかっこつけたいのだが、残念ながら気恥ずかしさが先に立ってできない。
せつなも寧音もそれは気づいているらしく、わざとやるのだ……さっさと走ってきてサ
イドカーに乗り込んでしまうのである。
「あらあら、わたしはどこに座ればいいのかしら?」
 毎朝の事ながら花音がぜんぜん困ったふうでなくそう言うと、脩一郎がちょっとふて
くされたような顔で、毎朝の習慣のようになっているセリフを吐く。
「しょうがねえから俺の後ろに座れよ。落ちないようにしっかりつかまってろよ」
「……うん」
 その様子を見ながらせつなと寧音がくすくす笑いあっている。
 まんざらでもないくせに、とか背中に柔らかいのが当たって気持ちいいくせにとか好
き勝手な事を言っているのだ。
814名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 17:44:20 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (7)
せつなが付き合っている先輩、平小太郎はコンビニの前でいつものように待っ
ていた。マウンテンバイクを脇に、スポーツバッグを肩からかけて、こざっぱりした雰
囲気のするなかなかかっこいい少年だ。
 せつなはこの先輩の主催しているBMXサークルのマネージャーをしていて、その縁で
付き合うようになったらしい。
 彼は今年3月いっぱいで中学校を卒業する。4月からは脩一郎と花音の通う高校に
来ることになっている。「寧音はまだ付き合ってる人はいないの?」
 せつなが小太郎の方へと嬉々として走って行くのを見送りながら、花音が妹に笑いか
けた。すると寧音はちょっと複雑そうな笑みを一つ浮かべただけで、
「今は……まだ……」
「そお? おんなじ顔してる姉が言うのもなんだけど、あんた可愛いんだからボーイフ
レンドできててもいいと思うんだけど」
「うん、そうかも。でもわたし、今のところは」
 なんだか言葉を濁している……脩一郎はその理由を知っているので、なんとなく後ろ
めたいような気がしながらも黙っていた。
 何しろ寧音が好きな男を知っているのだ。
 いや、知っているも何も……この間のバレンタインデーの時に、寧音に本命チョコを
渡されて告白されたのは……他ならぬ自分自身なのだから。
『分かってるの。お姉ちゃんと付き合ってるって。でもこれだけは覚えておいて欲しく
って……。わたしも、お兄ちゃんが好きだって事』
『寧音ちゃん……』
 手の中に押し付けられた、綺麗な包装のハート型。明らかに手作りのそれを、花音に
対してどう言い訳しながら作ったのだろうかと思いつつ……花音に見つからないうちに
と慌てて『腹の中に処分』しまったのである。
 その後で花音にもしっかり本命チョコをもらって笑っていたのだ。
 我ながらなんとまあ、いい性格をしていることか!
教室はいつものように喧騒に包まれていた。よう、しゅーちゃん!」
 脩一郎が戸を開けて入るなり声がかかった。
 悪友の一人、宮田健児だ。かなりの女好きの男だが妙に憎めない。というのも本人が
言っているほどナンパに成功しているわけでなく、そうした失敗談を開けっぴろげにし
ゃべったりして笑いを誘っているからだ。
815名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 18:50:39 ID:vKgf7Oi/0
次スレはどこの板で立てますか?
816名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 20:09:24 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (8)

 ごくたまに成功することもあり、そういう時は男だけで数人集まって、ひそひそ声で
聞き入ったりしているのだ。もっともそんなのは本当に数える程度で、たいていは『昨
日また失敗しちまってよー』と笑っている。
いつもの挨拶代わりになっているやり取りの後、健児はするすると近づいてくるなり
「まだだ。ご期待に添えなくて悪かったな」
 ちぇー、早くしろよな、俺たちゃお前の武勇談を心待ちにしてるんだからよ、とわざ
とらしく肩をすくめ、すぐに笑いながら逃げ出す健児。直後、花音が健児のいた辺りを
かばんで薙ぎ払った。
 そこから顔を真っ赤にして……返す刃で脩一郎の頭をはたく花音。
「毎朝の事だけど……やめてよね」「あ、ああ」
 応えながらも、『もしも』と思う脩一郎。
 もしも……花音とする事したとしたら……。その翌朝、ここで話すだろうか? 俺が?
いや、それ以前に花音が顔を真っ赤にしながら男全員をしばき倒すような気がする。
 その光景が目に浮かぶような気がして、思わず苦笑してしまう脩一郎だった。
いつものように授業も終わると部活の時間だ(ちなみに脩一郎のもっとも好きな国語
は今日は無かった)。花音は脩一郎が部長をやっている空手部のマネージャーだが、今
日は早めに帰る事になっていた。
 終業間際に家から電話があったのだ。なにやら家族で大事な話があるらしい。そうい
う事情では仕方ない。毎日花音をサイドカーに乗せて帰るのを楽しみにしている脩一郎
はしかし、『しょうがないさ』と彼女を送り出したのである。
 じゃ、先に帰るねと一回振り向いて手を振りながら花音は笑った。
『今にして思えば、あれが幸せそうな花音を見た最後だったな……』
部活もメニューを消化して終わった。来週には現在の3年生が卒業するので、送別試
合が組まれる事になっている。そのため、いつもより少し遅くまで練習があったのだ。
「先輩を送り出すのに、失礼な試合内容じゃいけないからな」
 部長として部員たちに檄を飛ばし……最後に柔軟体操をしてから終了を告げると、部
員たちはああ、終わった終わったと喜んでシャワーを浴びに我先にと走り出した。
 
817名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 20:11:58 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (9)
 脩一郎はいつも部員たちがみな支度を終えてから自分の身支度をし、武道館の戸締り
をして帰る事にしている。今日もやはりそうするつもりで、部員たちの喧騒を背に胡坐
をかいてしばし瞑想に入った。
 いつもだったらすぐにもあたりはしんとし、雑音が一切入らなくなる。そうして無念
無想の境地に至り、心を落ち着けることができるのだ……が。
『……?』妙に、胸が騒いだ。
 精神を統一しようとしても、何か心に引っかかっているかのようでうまくいかない。
『何だというんだ?』
 目を開いて周りを確認してみると、もうとっくに部員は全員下校してしまったらしく
物音一つしない。閉めたカーテンの向こうはすっかり暗くなっているらしく、さっきま
で見えた外の木立の陰も闇色の中に隠れてしまっている。
 もうだいぶ遅いことだし、帰るとしようか。
 ……脩一郎はなんとなく嫌な気分を味わいながらも身仕舞いをして鍵を確認し、守衛
室に鍵を返却してからバイクにまたがった。
 花音は家族と一緒に食卓を囲んでいる頃じゃないだろうか……。
 そう思いながらも、何故か気が急く。そういう時に限って時が流れるのが遅く感じら
れる……その例に漏れず、脩一郎もいつもの倍くらいかかって家についたような気がし
ていた。実際にはいつもより速いくらいだったのだが……しかし。
「な……」 いつもより遅かったと……そう感じてしまってもおかしくは無かっただろう。
何故なら、家が紅蓮の炎に包まれていたのだから。
父はリストラされて4ヶ月、職探しをしていたもののなかなか新しい職場を見つけら
れず、いつも日のあるうちに帰ってきていた。
 母は1丁目の小さな公民館で毎日手芸教室を開いているが、3時には終わって早々に
帰っている。
 せつなは部活があったはずだが、しかし高校の隣にある中学にはもう人気が無かった。
とっくに帰っていた筈だ。家族が全員、家にいた筈なのだ。
脩一郎はバイクから飛び降りるや半狂乱になって家へと駆け出した。それを、横から
がっしと止めようとする者たちがある。「脩一郎君……!? 正木さんとこの脩一郎君!?」
 耳元で爆ぜる大声にはじかれるように降り返ると、4丁目の班長をやっている田中の
奥さんだった。
 
818名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 20:14:29 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (9)

脩一郎の体にしがみついたのはその息子で、脩一郎とも顔なじみで二つ年上の達也兄
さんだったのだが、今の脩一郎にはそこまで気づく余裕は無かった。
「父さんは!? 母さんは!? せつなは無事なんですかっ!?」
 とたんにうろたえたような顔をする田中の奥さん。
「……! 見当たらないん、ですか……!?」
 一瞬体から力が抜ける。それを感じたのか達也が力を抜いて……その瞬間、脩一郎の
体はバネにはじかれたかのように翻り、家へと突っ込んでいた。
「ば、馬鹿野郎!! 戻って来い────っ!!」達也が叫ぶ声ももう届かなかった。
燃えている。
 元は居間だった場所が激しく、燃えている。
 父が愛用していた、握りの先に卵型の人形のついた孫の手が燃えている。
 母の手製の……美しい刺繍を施されていたカーテンはもう跡形も無い。
 その思い出を焼き尽くす焔の中に動かない人間────の体『だった』モノ。
『何だよ、これ……』
 ハンカチを口に当てて低い姿勢を保ちながら、脩一郎は眼前の光景に声も無かった。
……声を失わざるを、得なかった。
 何をどうすればこうなるのかというほど、バラバラになった死体が転がっている。ま
るで屠殺場の牛のようだ。それが両親の死体だとしばらくは分からなかったほどだ。
 やがて血の海の中に二人の驚愕に目を見張ったままの顔を見つけてからも、頭がそれ
を受け入れるのを拒否していた。
 ……けれども、一番受け入れがたかったのは────せつなの姿だった。
 明らかに彼女は絶命している。それはそうだ。どんな人間だって、頭を半分吹っ飛ば
されたように失って生きていられる筈が無い。
 けれども、その事実より、何よりも……脩一郎はそれが妹だと、妹が命を失った姿だ
と認められなかった。『嘘だ』ようやく、それだけを思った。
『何だよ、これは……たちの悪いいたずらか? え? 人間じゃない死体がどうしてせつなの顔をしているんだ……』
 人間じゃない。そう、せつなの首から下は人間外の物へと変貌していた。
 よく甘えて兄の腕にしがみついていた細い腕は昆虫の脚のようになって、手の代わり
に紅い液体にまみれたいかにも切れ味鋭そうなキザキザ付きの鎌が一つ突き出している。
 
819名無しより愛をこめて:2009/09/27(日) 20:16:17 ID:Y39GWnR40
仮面ライダーザルク 第1話 (10)

 服を突き破って何本もの蟲の脚らしきものが不規則に伸びている。小さい時はおにい
ちゃんおにいちゃんと叫びながら走り寄ってきた足も昆虫のそれを思わせる形状に変貌
していた。
 破れた服の間から見える胴体には蛇腹状の物が見え、最近膨らみを増したなと思って
いた胸の辺りも、昆虫の足の付け根に見られる胸の膨らんだ部分みたいな形に変わって
しまっている。『いったい何が起きたんだ』
 頭がくらっと揺らぐのを覚えながら、脩一郎はようやくそれだけを思った。
 思って……すぐに思考を停止させてしまう。「な……っ!?」
 手が。自分の手が、人間の手じゃなくなっている。「馬鹿な!」
 しかし、何度目を凝らしてみても、事実は変わらなかった。
 関節の場所は人間だった時と変わらないが、全体的に外骨格のようなモノで覆われて
いる。視線を再度せつなの死体の方へと向けてよく観察すると、鎌状になっているのは
右手だけと知れた。そして左手は……。「同じ……!?」
 見比べれば見比べるほどそっくりだ。
 色は脩一郎が金属的な青なのに対してせつなのは黄色がかっていて違うのだが。
 全てが歪んで見える。
あまりにも信じられないことが立て続けに起こったことで、めまいを起こしたのだ。
全てがぐらり、と斜めに流れていくその片隅に……男が一人立っている。
『まさか、こいつが……』この事態を引き起こしたのか、と思考するより前に……男の手刀が脩一郎の首筋に入
っていた。正確な一撃。ヒトの意識を確実に眠らせる、手際のいい一撃だった。
──全てが、暗転した。
820名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 19:21:54 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (1)

明けない夜というものはない。
 たとえ、昨日までの全てを失ったとしても世界は変わる事無く夜が更け、そしていず
れは全てが目を覚ます朝が来る。
 漆黒だった空はいつしか青みを増し、見える星の数が少しずつ減っていく。
 新しい一日が始まろうとしているのだ……。
暁光の射し込む中、気の早いスズメが数羽、楽しそうにおしゃべりしながら飛んでい
った。その光を正面に、国道6号を走る一台のマシーン。
 漆黒のフルフェイスのヘルメットをかぶり、セーターとズボンを着込んだ男と、スモ
ークブラックのゴーグルにヘルメットをかぶった少女。
脩一郎と寧音だった。二人は無言。
 普段であれば……例えばこれがデートであるとか、そういうような時であれば、二人
で見ることができた美しい朝の情景に、ギリシャの神話で言うところのエオス(夜明け
の女神)の支配する素晴らしい光景に歓声を上げたことだろう。
 だが、そういう気にはならない。第一これはデートなどでは断じてないのだ。
「……疲れてないか?」ようやく、脩一郎が声に出した。
 家の近くの公園を出発して数十分、途中の工事現場でしばしの休憩を取って数時間、
更に出発してまた数十分経ってようやく出した声だ。「……ううん」
 寧音もようやくのように声に出した。しかし、疲労の色は隠しきれていない。
 肉体の方は確かにもう疲れてはいないだろう。現に、脩一郎もそうだった。『クシー』
の移植された肉体は単純に強くなるだけでなく、どうやら回復する早さも異常なほどに
なっているらしい。だが、精神はそうもいかない。
 肉体がいかに変わろうと、寧音はまだ14歳の女の子なのだ。昨日の夕方から起きた
一連の出来事に、だいぶ参っているのがよく分かった。「喉が渇いたな」
 ちょうど道路わきにコンビニエンスストアがある。独り言を言うような声で脩一郎が
つぶやいた。幸い、着替えを受け取った時に三島のおじさんに財布を渡されている。ま
だ中を開けていないが、かなり分厚い財布だった。
 何か飲み物を飲んで……腹ごしらえするといいだろう。
ヘルメットを外し、待っているように寧音に注意してから脩一郎はバイクを降りた。
 改めて自分の体を見下ろす。
 
821名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 20:24:41 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (2)
素肌に直接着込んだセーターとズボンだが、人間のようなデリケートな皮膚ではなく、
外骨格の上なのでさほど気にはならなかった。問題はその体の一部でも、人に見られは
しないかということだった。
 セーターはタートルネックだ。おかげで首の途中まで外骨格になっているのは見えな
いようになってはいる。また、バイク用の分厚い手袋をはめているから手が見えること
もない。足だって少し大きめのサイズのズボンに靴だから、見えるはずはなかった。
 それでも脩一郎はどこか不安だった。
 どこか、見落としはないだろうか。
 例えば背中のほう、自分には見えない所に変な部分は無いだろうか?
 服の上からも、変だとは思われないだろうか……?
コンビニはちょうど明け方ということもあって店員以外には一人しか人がいなかった。
 風俗誌を立ち読みしている男の背後を抜けてまっすぐ飲料のコーナーに向かい、緑茶
のペットボトルを2本手に取る。続いてパンのコーナーに向かってカレーパンなどの惣
菜パンをいくつか。ヨーグルトもあったほうがいいかと2パック。これだけをカウンタ
ーに持っていこうとしたところで、ふと目に留まったのは店員がカウンター脇にセット
している新聞紙だった。
『そうだ、夕べの事が何か載っているかも知れない』
 昨夜の出来事で、たぶん自分も寧音も行方不明という事になっている。もうじきで多
くの人が目を覚まし、その記事を読むだろう。その時友人達は何を思うだろう?
 家でも取っていた新聞を一部だけ手に取って、食料と一緒にカウンターに並べた。そ
れに気づいたバイトらしい店員が、「いらっしゃいませ」と慌ててカウンターに入り、
バーコードリーダーを片手にレジ入力を始めた。
 その姿を見ながら脩一郎は、ほんの数ヶ月前の事を思い出していた。
 それはちょうどクリスマスの前の事で、彼は花音とせつな、寧音にプレゼントを贈ろ
うと思ってコンビニでバイトしていたのだ。
 実はその時花音のほうも脩一郎にプレゼントするつもりで、ハンバーガーショップで
バイトしていたのである。互いにプレゼントを贈りあいながら、その偶然に笑いあった
のがつい昨日の事のようだ。

 
822名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 20:28:37 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (3)
「……お客様?」
 店員が顔を覗き込むようにして声をかけてきて、脩一郎ははっと我に返った。
 その頬をつうっと伝うものがある。熱い、何かが。「い、いえ、何でもありません」
 いつの間にか涙を流していたのだ。慌てて財布を取り出し、はたと気づいた。
『お金を、取り出せない……!』 手袋が分厚すぎて、上手く中に入らないのだ。
「えーっと、1685円ですね?」
 さりげなく、店員から見えないように体で隠しながら手袋を外し、千円札を2枚抜き
取ってすぐはめなおす。「ありがとうございました」
 どうにかばれないで済んだようだ。ほっとしながらコンビニを出ようとした脩一郎だ
ったが、ふと振り返ってぎょっとした。
 もう一人、立ち読みをしていた人がいたのをすっかり失念していた。……彼が、じっ
と脩一郎の方を見ていたのである。『……見られた?』この異形の手を。
 冷や汗をたらす脩一郎。そうこうしている間にも、立ち読みをしていた男は風俗誌を
もとに戻し、近づいてくる。心臓がバクバク言っている。
 こういう細かいところは、人間だった時とあまり変わらないようだ。「あの」
 声をかけてきた。それだけで、逃げ出したくなる。「落としましたよ」「えっ?」
 身を不意にかがめ、何かを拾う男に脩一郎はいささか気の抜けた返事をしてしまった。
 男は笑顔で立ち上がり、手を差し出してくる。つられて袋を持っていない方の手を出
すと、キーホルダーが一つ。
 どうやら緊張のあまり、バイクのキーホルダーを取り落としていたようだ。
 男はそのままコンビニを出て行った。その後姿に向かって、慌てて声をかける。
「あ、ありがとうございました!」
 男はそれに振り返ることなく手を一つ振って見せただけで去っていった。
ようやく落ち着いた心地になって、脩一郎は寧音の待つ方に向かって歩いていった。
 しかし、安心するのはまだ早かったかもしれない。
 去って行く脩一郎を見送った店員が少し首を傾げて……さっきまで準備をしていた新
聞を広げ、何か確信した風でどこかへ電話をかけたのだから。
「とりあえず、食べるんだ。そしたらまた出発しよう」
 
823名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 20:32:55 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (4)
 サイドカーの横にちょうどあったベンチに腰を下ろしながら脩一郎が言うと、寧音も
サイドカーから降りてその横に座った。「……これから、どこへ行くの?」
 ふと聞いてきた彼女の顔に、脩一郎は一瞬詰まった。
 今にも泣き出しそうな瞳。心なしか青くなった頬。不安なのだろう。これから、どう
なってしまうのかと。
 無理もないか、と脩一郎は思った。何しろ昨日からこっち、つい前までは考えもしな
かったような出来事の連続だったのだ。「ダンとかいうあの男の教えてくれた所に行くより
他無いかな」呟きながら、カレーパンの袋を開ける脩一郎。その音は乾いていて、何かを思
い出させた。そう、花音の胸を貫いた時の、あの音に似ていたのだ。
 それが脩一郎の腕前が優れていたせいなのか、単純に変貌した彼の体がそれだけの力
を備えていたということなのか、または花音の体を覆う外骨格が見た目ほど硬いもので
はなかったということなのか……あれは本当にあっけなかった。
 乾いた音がした直後には、脩一郎の手は彼女の心臓をつかんでいたのである。
「う……!」
 花音の熱い心臓の感触。まだ生きていることを主張し、脈打つ器官。引きずり出した
時、ぶつぶつ、と千切れた血管や神経。握りつぶした時のあの手ごたえ。
「う……っく……」「お兄ちゃん!?」
 ぼたぼた、と涙を流す脩一郎の姿に、寧音がびっくりした風で声を上げた。
 疲れていたのは寧音だけではなかったのだ。脩一郎自身が、疲れ果てていたのである。
 いつも隣にいるのが当然だと思っていた少女。
 時には喧嘩もし、ある時はふざけてじゃれあうようにし、何も言わなくてもどこか通
じ合っていた少女。最後の最後まで、はっきりと「好きだ」と言っていなかった大切な
女性(ヒト)……。「お兄ちゃん……」
 寧音が、脩一郎の体を抱き寄せていた。
「ごめんなさい……わたしがお姉ちゃんの代わりに死んでいれば……」「馬鹿っ!」
 寧音の声に、脩一郎ががばと身を起こした。「簡単に、言うな……っ! いいか、約束しろ。
二度と、死ぬというセリフを吐くな!」「う、うん……」
寧音もまた、彼を好いている。姉にそっくりであるゆえか、男の好みも似たらしい。
 
824名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 20:35:49 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (5)
 その姉は今、いない。そして脩一郎は花音をこそ好きだった。決して寧音が好きだっ
たのではないのだ。しかも、彼女を殺したのは脩一郎なのである。
 好きな人を殺さねばならなかった……それはどういう気持ちのするものなのだろう?
 もし、わたしが脩一郎お兄ちゃんを殺さなくてはならなくなったとしたら?
 寧音は、その事にようやく思い至って、息をついた。
「ごめんなさい……お兄ちゃんだってつらいのに」
 言いながら彼女は脩一郎を再び抱き寄せた。
「泣きたくなったら、いつ泣いてもいいから……。わたし、一応お姉ちゃんに似ている
から、わたしをお姉ちゃんの代わりだと思ってもいいから……」
 それ以上は言葉にならない。いや、声に出してはならない。
 それは姉を裏切る言葉だから。本当はもっと生きて、脩一郎を愛し続けたかったであろう姉を。
 こんな事を考えてしまう自分が非道く汚い存在のように思えてしまう寧音。
『お姉ちゃんを忘れて、わたしの隣にいて』
 その言葉を飲み込み、寧音もまた、泣いた。
その後は無言だった。食事をし、ゴミをコンビに脇のダストボックスへと捨てる。
 寧音はもともとゆっくり時間をかけて食べるタイプなのでまだ食べ終わっていない。
何よりモノが金平ゴボウパンだ。固いだけに時間がかかっている。
 どうにか落ち着いた脩一郎は新聞を広げ……目的の記事を見つけ、顔色を変えた。
「何だ、これは……」
 声にパンをもぐもぐ噛みながら寧音が振り返った。しかし脩一郎の視線は記事に注が
れたままだ。なんだろう、と寧音も覗き込んで、こっちもまた青くなった。
「何これ!」パンを飲み込んで、第一声がそれだった。
 無理もないだろう。……昨夜の事件が、殺人だと報じられていたからだ。
『空手家少年、自分と隣家の一家を殺害の上、放火!?』
 そんな見出しが大きく躍る記事の文面は大体こんな感じだった。
『昨日の19時ごろ、市川市国府台の正木修輔さん宅から出火、3時間後に鎮火したも
のの全焼しました。その2時間後、正木さんの隣家、三島恭一さん宅からも出火。これ
も全焼しました。焼け跡からはそれぞれ、3つずつ遺体が発見され、損傷が激しかった
ものの身元の確認ができました。
 
825名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 20:39:16 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (6)
 それによれば正木さん宅の遺体は正木修輔さん本人、妻の美沙慧さん、長女のせつな
さん。三島さん宅の遺体は三島恭一さん本人、妻の彌音さん、長女の花音さんでした。
 正木家の長男脩一郎さんと三島家の次女寧音さんは行方不明です。
 捜査本部によれば放火である疑いが濃く、遺体も生前に暴行を受けて、死亡してから
焼けた疑いが強いということで、放火殺人容疑で捜査するとの事です。
 また、行方不明になっている脩一郎さんは、やはり行方不明の寧音さんとの交際を両
家の人に反対されていたということで、警察当局も二人の行方に関心を寄せているとの
事です。「まだ確定ではありませんが、今後の調査次第では
正木脩一郎君を放火殺人と未成年者誘拐の容疑で手配することも考えられます」』
「無茶苦茶だわ」寧音が思わず呟いた。「だって、お兄ちゃんが付き合ってたのは
わたしじゃなくて、お姉ちゃんの方だって事はみんな知ってるじゃない!」
「……寧音」脩一郎は、硬い声を上げた。
「聞いてくれ。実を言うと、まだ実感できてなかったんだ。昨夜おじさんが言ったこと。
ダンが言ったこと。『国家権力を超える化け物』が相手だって……。この記事で、よく
分かった。少なくとも敵は、警察やマスコミを簡単に操れるんだ。だって考えても見ろ
よ。父さんたちの、せつなと花音の遺体は……あるはずが無いんだ、少なくとも。見た
だろう? 硫酸の中に消えるのを。それがある事になっている。そして、俺が疑われて
いて、お前も行方不明扱いだ。昨夜誰が死んで、誰が生き残ったのか、敵は知ってるん
だ。想像だけど、三島の家には盗聴器か何かが仕掛けられてたんじゃないのか? だと
すれば説明できる」寧音がはっと息を呑むのを感じながら、脩一郎は更に記事を読んだ。
「何てこった。俺のバイクがどんな代物かまで載っている」
 ミレニアムモデルの、ライムグリーンを基本色とするニンジャ。しかもサイドカーつ
き。はっきりと書かれていた。色はともかく、サイドカーまでつけたニンジャなどそう
そうありはすまい。走っているだけで目だってしょうがなかった。だが、
『これから移動するには……絶対にバイクが無いとならない!』
 何しろ、ダンが示したあの住所は……電車もバスも通わない僻地なのだ。
826名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 20:44:45 ID:ZNP+RY370
仮面ライダーザルク 第2話 (7)
「偽装しなければ」ふと、呟きが漏れた。「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ああ、寧音。今このバイクを手放すわけにはいかない。かと言ってこのままではすぐ
に見つかってしまう。……バイクをどうにかして、偽装しなくてはならないんだ」
 不安そうな寧音に応える脩一郎。だがそれで寧音の不安は解消されなかった。
「でも、偽装するって……どこで!?」「……一つだけ、あてがある」
 自分を納得させるように、うなずきながら脩一郎は応えた。
「このバイクを格安で譲ってくれた先輩の所だ」脩一郎たちが去って行った数十分後の事、
コンビニエンスストアの周囲は騒然となっていた。
 赫い回転灯。けたたましいサイレン。 黒と白に塗装された車体 いわずと知れた国家権力、警察だ。
「ええ、6号線を東の方へ行きましたよ」
 コートにちょっとよれよれになったスーツ、ノーネクタイの私服警官にしたり顔で応
えたのはコンビニの店員だ。そうか、とその警官は示されたほうへ振り返った。
 50がらみの、頭に白いものが混じりかけた男である。その左目はかつて犯罪者と渡
り合った時の負傷であろうか、鋭い傷で塞がれていた。
「ご協力、ありがとう」「いえ、市民の義務ッスから……へへ、カッコいいスかね?」
 店員のちょっと調子のいい声には応えず、その私服警官はその場を離れていった。そ
れに若い紺色のパーカーを来た青年……こちらも私服警官らしい……が駆け寄る。
「警部、宍戸警視から連絡です」パトカーに駆け寄り、無線を手に取る警部。
「柳生です。何か?」『おお、柳生くんか。聞きたまえ、つくば市にどうやらホシと深い付き合いの大学生が
いるらしい。急いで向かってくれたまえ』「お言葉ですが、警視」
 柳生は軽く目を瞑って応えた。「今はまだ重要参考人です。彼が犯人と決まったわけではありません」
『ほぼ決まったようなものではないかね、柳生くん。証言によれば少女も隣にいたのだろう?』
 未成年者誘拐だけでもはっきりと確定している、と宍戸警視は断言した。
『これは命令だよ。そして捜査本部の決定でもある。本日この時をもって正木脩一郎を
放火殺人および未成年者誘拐の容疑で指名手配する!』
 
827名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 21:06:17 ID:1FUKZOY1O
続きは?
828名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 21:12:43 ID:+pHUZeQJ0
SSやるなら投下いったん終了の目印はほしいね
あとメモ帳とかのテキストエディタに書いてからコピペした方が投下の時間かからなくていいよ
スレ直投下だと1レスごとに時間が空いちゃうし
829名無しより愛をこめて:2009/09/28(月) 21:17:05 ID:VVFf3XmX0
次スレはどうするの?
830名無しより愛をこめて
仮面ライダーザルク 第2話 (8)
 柳生は無線を切った。その背後からさっきの若い警官が声をかけてくる。「警視はなんと?」
「正木脩一郎を放火殺人と未成年者誘拐の容疑で指名手配するそうだ」
「馬鹿な」警官は顔をしかめた。
「まだ証拠も揃っていないじゃないですか。それに今、貴重な証言が得られましたよ」
「件の二人ですが、もう一人目撃者がいたそうです。この付近に住む漫画家なんですが、
徹夜明けはいつもこのコンビニを利用するそうで、脩一郎くんが落としたキーホルダー
を拾ったそうです。二人の様子が気にかかったので、コンビニを出て少し行ったところ
からしばらく様子を見ていたそうですが、二人は互いにいたわりあう様子だったとか」
「僕も変だと思いますよ。本部の意向で現場周囲の聞き込みが急に打ち切られたと思っ
たら今朝の記事でしょう? 早すぎますよ。それにぼくが聞いた限りでは、脩一郎君と
付き合っていたのは花音さんの方で、家族もむしろそれを歓迎していたとか」
「ああ、俺も変だと思っていた」柳生がうなずいた。
「小野、お前は単独で行動しろ。脩一郎の学友たちに詳しい話を聞いてくるんだ。どう
も裏があるような気がする「はい!」
 小野と呼ばれた青年は元気に敬礼し、パーカーのすそを翻して駆け去っていった。
 それを見送ってから柳生はパトカーへと乗り込む。
「つくばへ向かうぞ。どうやら脩一郎たちはつくばへ向かったらしい」
コンビニを出発して数十分。周辺はいつしか畑の目立つ光景に変わっていた。
 もちろん国道沿いは家が多いのだが、それでも畑が目だってしょうがない。
 右手に折れれば常磐線の荒川沖駅という十字路で、脩一郎は左へとハンドルを切った。
 この408号線をそのまま北上すれば、つくば市の中心部に出るのである。
「先輩ってどういう人なの?」寧音の声に、脩一郎は応えた。
「面白い人だ。バイクマニアで、小さいときからプラモは全部バイク、小学生のときに
は小型のマシーンを乗り回していたつわものだよ」
 小学生の時からの付き合いでね、と脩一郎は続けた。
「空手部も先輩に誘われて入ったんだよ。古武術やっているの知ってたからな、あの人。