802 :
名無しより愛をこめて:
そっと呟きながら、顔を近づける。
寝息が頬をくすぐるほど近づいても、起きる様子はない。
キス、しちゃうよ。
心の中で囁いて、唇を重ねる。
触れ合った瞬間、暖かい感触に胸が高鳴る。
眠っている彼とキスするなんて、今のような関係になる前にしていたことだ。
あの頃は、キスをするだけで、心臓が破裂しそうなほど緊張して、鼓動が止まりそうになるほど感動していた。
甘酸っぱい記憶が、桃子の胸を締め付けた。
ちゅ、と音を鳴らして唇を吸い、顔を離す。
けれど彼は、穏やかな顔のまま、寝息を立てている。
不満、というわけではないけれど、少し寂しい気分になる。
もう一度、今度は少し強めに口付けるが、やはり瞼は下ろされたまま。
眠っているお姫様を起こすのは、王子様のキスで、今の場合だと逆だけど、少しくらいは反応してほしい。
疲れているって言うのも分かるけど。
さっきは寂しいと思ったけれど、今度は少し不満が滲み出てきた。
どこまでしたら起きるだろう。
意地の悪い好奇心が、首をもたげる。
桃子の手が、彼の体を撫でていく。頬に添えて、首から胸、腹へ下り、ズボン越しの、男性特有の膨らみに、手を置く。
何度も触った事のある場所だけど、彼が眠っていて無抵抗だと思うと、不思議と高揚してしまう。
当然だけど、触られることを予想していなかったそこは、まだ柔らかい。
ズボン越しの感触を、優しく撫でると、彼がかすかに寝息を乱した。
さすがにここは敏感らしい。
直接さわったら、起きるだろうか。