「主」と呼ばれる宇宙人に拉致され、改造されてしまった人々の
中には、一定数の洗脳未遂者が含まれていた。しかし「OL」のような
飛び抜けて稀な事例はもちろん、「風俗嬢」や96669号のように、
かなりの長期間洗脳未遂者で居続けることに成功した個体は、
実のところごく一握りの、いわば特権的な存在であり、ほとんどの
洗脳未遂者はごく短時間の内に検出され、然るべき処理を受けていた。
例えば改造直後の「宣誓」を拒む者、あからさまな抵抗を試みた者は、
直後に改造人間の群れに取り囲まれ、強制的に再洗脳もしくは銃殺刑に
回される。ドライバのインストールが不良で宣誓ができない個体に
関しても同様である。他にも、絶え間なく浴びせられる性的快楽、
かつての「仲間」による報知、純粋に偶然な刺激による「復旧」など、
洗脳未遂者を「修理」するための網の目は二重三重に彼らを
取り囲んでいた。あるデータによれば当時再洗脳を施された者の
洗脳未遂率は0パーセント。つまり、一度検出された洗脳未遂者が
死または再洗脳以外の道をたどる可能性は当時からすでに皆無だった。
そして一度消去された感情は二度と戻らない。洗脳は不可逆な運命なのだ。
そしてこの冷酷なシステムは、感情エミュレータの実戦投入と共に、
完璧に水も漏らさぬものへと完成した。そこにはもはや一人の「OL」も
一人の「風俗嬢」も生まれる余地はない。「OL」たちはあくまでも、
侵略初期にのみ可能な偶発的事故の産物に過ぎなかったのである。
これまで物語は特権的なヒロインとヒーローの軌跡ばかりを追ってきた。
以下しばらくは、大多数の平凡な洗脳未遂者たちの悲劇をたどってみたい。