【後日談】ボウケンジャー The Next Task【番外編】
「…引継ぎは以上です。チーフ、真墨、後はお願いします。」
「…あぁ…」
「ご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ。」
「じゃ僕たちはこれで!」
「二人とも夜勤頑張ってねー☆」
夜勤担当の明石と真墨への引継ぎを済ませ、昼勤のさくら、蒼太、菜月の三人はラウンジを出た。
「お腹すいちゃったねー☆」
「そうそう蒼太!たまには外食でもしますか?」
「賛成ー!さくらさん何食べよっかー☆」
「…ごめんなさい、私はちょっと。」
…別に予定などなかったが、なんとなく断ってしまった…
…敢えて言うなら『オフ位は独りで居たい』といった所か…
「ん〜残念です。また今度ですね!」
蒼太は瞬時に理解したらしく、さくらの言葉にアッサリと退いた。
「えぇ〜↓つまんな〜い!」
「菜月ちゃん、仕方ないよ!」
「ぶ〜☆」
「そうそう!今日は僕がご馳走するからさ!!なに食べたい?」
「ん〜?そうだな〜☆あっ!菜月お酒飲みたーい!!」
「お酒かぁ…菜月ちゃんも『一応』20歳になった事だし…OK!行こっか!!」
「やったー☆」
真墨が菜月を発見してから2年。長らく年齢が不明だった菜月だが、サージェスの検査の結果19歳相当である事が判明。
真墨に発見された日を誕生日とし、ボウケンジャー加入から約1年、先日、菜月は晴れて成人と迎えた。
牧野主催のささやかなパーティーをラウンジで開いたのだが、作戦待機中であった為、成人のお祝いにはお決まりのアルコール類は一切なく、菜月は『お酒』デビューの機会を窺っていたのだ。
…二人っきりとは言え、蒼太君とですし心配ないですよね…………いや…しかし…
「…菜月の20歳のお祝いですもんね。やっぱり私もご一緒させて下さい。」
「当然!みんなで行きましょう!!」
蒼太は待ってましたとばかりに即答した。
…………しまった!元々、蒼太君も私やチーフと同じで、オフは仲間と過ごす事など滅多に無い…
何か考えがある…外食に誘って来た時点で気付くべきだった…
「早く行こ行こー☆」
菜月が蒼太とさくらの間に割って入り、二人に腕組みしグイと引っ張った。
「菜月ちゃん制服で行くのはマズイよ!取り敢えず30分後、ミュージアムの入口に集合って事で。」
「はーい☆」
「…了解です。」
…まぁ…何か考えがあるといっても、蒼太君ですし…大丈夫ですよ…ね…
30分後、私服姿の三人はミュージアム前に集まり、街へと繰り出した。
蒼太が案内したのは、ごく普通の個室ダイニングバー。
まぁ『お酒』デビューをするには、当たり障りの無い選択である。
三人は思い思いの品を注文し、シゲシゲと室内を見渡していた。
「…個室なら周りの眼が気になりませんね。蒼太君、よく来るんですか?」
「いいえ初めてです。さっきネットで検索して予約入れときました。……そうそう!女の子と二人っきりの時は、もっと良い所へ行きますよ!!」
「…フフ、正直ですね。」
まずはドリンクが運ばれて来た。
「…ハイ菜月のカルアミルク。蒼太君はコロナ、私が梅酒ソーダですね。」
「キタキター☆」
「さて、取り敢えず菜月ちゃんの『お酒』デビューを祝って乾杯しときますか!!」
「「「カンパーイ!!」」」
んぐんぐ…
「甘ーい☆ミルメークみたい!」
「…クスクス、それを言うなら『コーヒー牛乳みたい』ですよ。」
「へへ、間違えちった☆そうだ!蒼太さんのも飲ましてー!!…………苦〜いぃ↓」
「ハハ!菜月ちゃんにはまだ早いよ。」
「フーンだ☆菜月はもう大人だもーん!」
「ハイハイ判ってますよ!所で、さくらさんはいつも梅酒?」
「…そうですねぇ、後は桂花陳酒とかが多いですよ。蒼太君は?」
「僕は何でも飲みますよ。大勢の時はもっぱらビールかな?……そうそう!もちろん女の子と二人きりだったらワインですけどね!!」
「…フフ、さっきから自爆してばっかりですよ。」
「そうそう!前に飲んだ時は、チーフが日本酒をチビチビ、真墨は酎ハイをガブガブ飲んでましたね!」
「…クスクス、何だかイメージ通りですね。高丘さんは?」
「映士が来てからは、ネガティブの活動も活発になったし、なかなか機会が無いんですよね!」
「…高岳さん、今はレスキューで忙しそうですし。」
「あのね!あのね!映ちゃんは絶対トマトジュースだよ☆」
「「正解ーWWWW」」
この三人で外食するのは初めてだったが、アルコールが入った事もあり、場は和やかであった。
まもなく料理も運ばれ、あっと言う間にテーブルを埋め尽くす。
「「「頂きまーす!!」」」
「…こんなに注文しちゃって、本当に全部たべれるんですか?」
「大丈夫☆菜月ガンバルー!」
「ハハ!菜月ちゃんは大人だから、これ位ペロリと食べちゃうよねー?」
「もっちろん☆ムシャムシャ!……んぐぐ…ぐ…ぐるひいィィィィ!!」
「うわぁぁ!菜月ちゃん大丈夫!?」
「…クスクス、菜月ったら。スイマセーン!お水下さーい!!」
菜月は喉に詰まらせた事もなんのその、その後も暴飲暴食を続ける。
「プハー!くったくった☆菜月わ満足ぢゃー!!」
菜月はキャミソールの裾を捲り、お腹を見せてポンポンと叩いた。
「…な、菜月!蒼太君も居るんですよ!!」
「まぁまぁ、さくらさん。しかし、凄いお腹!これじゃあデザートは無理だね!!」
「デザートはいらないけど〜☆菜月は食後のゲームがしたいのだー!!」
「菜月ちゃん、ゲームって?」
「ヒヒ☆おーさまゲイム!!」
「「えぇー!?」」
たった三人で王様ゲームとは、明らかに自爆行為である。
菜月は、その恐ろしさを知らない。
どこから取り出したか判らないがペンを片手に、菜月は鼻唄まじりで割り箸に数字を書き込んでいく。
「おーさまゲイム♪おーさまゲイム♪おーさまゲイム♪…」
「さくらさん、これは危険ですね。」
「…えぇ、完全に酔っぱらってます。早く帰らないとマズいですよ。」
「でも、今日の主賓は菜月ちゃんですし、一回くらいは言う事を聞いておかないと可哀想ですよね。」
「…仕方ありません。では一度だけやって、菜月に満足して貰いましょう。」
「じゃあ、僕が手元で割り箸を操作して、菜月ちゃんに王様を引かせます。」
「…そうですね。万が一、菜月が王様になっても、際どい事をさせる程の知識は無いでしょうから。」
「おーさまゲイム♪おーさまゲイム♪…できたー!!」
「「はぁ…」」
二人は顔を見合わせ、大きな溜め息をついた。
「菜月ちゃん!僕が割り箸もってあげるよ!!」
「はーい☆」
「…じゃあ皆さん引きますよ。」
蒼太とさくらは、無言でアイコンタクトを交わし、軽く頷き合った。
「「「おーさまだーれだ?」」」
「…………ヒヒ☆菜月ー!!」
ここまでは予定通りである…が!次の瞬間!!
「ぢゃあ、1番と2番わ☆初めてチューした歳をおしえなさーい!!」
「「えぇぇぇぇー!?」」
…まさかの展開…
二人の顔から血の気が引いていく…
「まずわ蒼太からなのらー☆」
「ぼ、僕からですか?」
「そうなのらー☆」
王様に成りきった菜月は、既に蒼太を呼び捨てである。
ここで逆らうのは得策では無い…蒼太は意を決した。
「中三の時です…」
「誰とぢゃー☆」
「えぇ!?それは聞いてないよ菜月ちゃん!」
「キッ☆」
「…一つ歳下の部活のマネージャーです…」
「どこでぢゃ☆」
もはや蒼太に逆らう気力は残っていなかった。
「…部室です…」
「キャー☆蒼太ヤラシー!」
蒼太の顔は恥辱に塗れていた。
「…死にたい…」
「なんか言ったか?エロ蒼太ー☆はっ!エロ蒼太ぁ♪エロ蒼太ぁ♪エロ蒼太ぁ♪エ…」
室内に菜月作詞作曲の『エロ蒼太の歌』がエンドレスでこだました。
蒼太はテーブルに突っ伏し嗚咽をあげている。
「うっ…うっ…えぐっ…ううぅ…」
「エロ蒼太ぁ♪エロ蒼太ぁ……あっ…思い出した☆」
「…な…菜月…何を?」
「ヒヒ☆次はさくらぢゃー!!」
「ヒィィィィ!!!!」
目の前にいるのは、もはや菜月では無い…
あえて言うなら…そう『黄色い悪魔』
『黄色い悪魔』がさくらにも牙を剥いて来たのだ!
「早く言うのらー☆」
「…えぇ!?…えーと…えーと…」
さくらは降参し、目を閉じ俯いたまま答えた。
「…高校三年の時です…」
「誰とぢゃ☆…むにゃ」
「…こ…婚約者です…」
「さくらは婚約者がいるのかー☆…むにゃ…むにゃ」
「…結局、破談になったけど…親同士が決めた婚約者がいたんです…」
「…それで…zzz」
追い詰められたさくらは、テーブルに突っ伏し両手で耳を塞ぎ一気に喋りはじめた。
…もう逃げられない…どうにでもなれ…
「…お互いの家の面子を保つ為でしたが…お互い似た境遇で…ある意味共感する所も…」
「…zzz…」
「…お互い高校を卒業したら家を出るつもりでした…それまでは親達を騙しておこうって話してて…」
「…zzz…」
「…卒業式の後…別れの挨拶と言うか…戦友としての情と言うか…所謂…恋人同士のとはまた違って…」
「…zzz…」
「…イヤ…小さい頃から決められた婚約者です…誰にも言えない悩みも打ち明けられたし…」
「…zzz…」
「…少しは好意が…で!でも好意と言っても…タイプの男性だとかでは…私が好きなのはチー…」
「…zzz…」
「…ん…zzz?…って菜月?…な、何、寝てるんですかぁぁぁぁ!!!!」
先程までの『黄色い悪魔』は何処へやら。菜月は大口を開けて、寝息を立てていた。
「…ハ…ハ…ハハ…………ふぅ…助かりました…」
安心しきったさくらが大きく溜め息をついた…次の瞬間。
「へぇ、さくらさんも素敵な恋をしてたんですね!」
「…そ、そ、そ、そ、蒼太君ー!?」
「スイマセン。泣き真似してれば解放されるかなと思って!」
次は『蒼い悪魔』が現れた…
さくらの顔に緊張が走る。
両拳に力を込め『蒼い悪魔』の攻撃に備えた。
しかし…
「さ!帰りましょうか!!」
「…えっ!?」
「菜月ちゃんは、僕が運びますから!」
あまりに拍子抜けする展開。
「…はは、そうですよね。帰りましょうか。」
「ゴメンなさい。僕のカバンだけお願いしていいですか!」
蒼太はカバンをさくらに渡し、菜月をヨイショと背負った。
支払いも済ませ、外に出る三人。
「…菜月重いですよね。タクシー拾いましょうか?」
「いえ菜月ちゃん位なら大丈夫ですよ!酔い覚ましに、ちょっと歩きませんか?」
「…はい、蒼太君が大丈夫なら。私も少し酔い過ぎたみたいですし、歩いて帰りましょう。」
サージェスの宿舎までの、数qの道程を二人は歩き始めた。
お互い恥部を知られたもの同士、なかなか口を開き難い。
沈黙を破ったのは蒼太だった。
「さくらさん、婚約者さんの事、好きだったんでしょ?」
「…ほ…本当そんなのじゃ無いんですよ。親同士が決めた仲ですし…こう、お互い秘密を知ったもの同士…」
「今の僕達もお互いの秘密を知ってますね。」
「…イヤだ蒼太君!ダメですよ!!菜月だって居るし!…それに…私は…」
「ハハ、違いますよ!お互いを知ると、距離が近づいたカンジしませんか?…って言いたかっただけで。」
「…ハ…ハハ…まぁ、確かに蒼太君の事が少し理解出来たカンジがします。何だか嬉しいですね。」
「僕だって、さくらさんの事が判って嬉しいですよ。…てっきりチーフが初恋なのかと思って心配で心配で…」
「…そ、そ、そ、そ、蒼太君なに言ってるんですかー!?」
さくらの顔は、夜道を照らさんばかりの勢いで紅潮した。
先刻の、ファーストキスの告白の時以上に赤面している。
「ハハ、少し話を急ぎすぎました。御免なさい。忘れて下さい。」
「…………」
さくらは話題を変えねばと思い、ふと空を見上げた。
「…今日は満月ですね。キレイ…」
「キレイですね。月か…月にもプレシャスってあると思いますか?」
「…そうですね。あるといいですね。」
「…………さくらさん、知ってますか。サージェスレスキューに続く、新しい事業プランの事。」
「…もしかして…宇宙探索計画…ですか?」
「さすがさくらさん。極秘裏に動いているプランですから、現場の僕達には何も知らされていないですけどね。」
「…昨年から、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との資金提携、技術協力が密になったので…予測はしていました。」
「僕もそこが気になって、つい調べてしまいました。まだ人員は未定の様ですが…」
「…高岳さんの様に、外部から人員を募集するのでしょうか…………あ!」
「レスキュー創設の時はどうでしたっけ……今回は…多分…自ら志願するんじゃないでしょうか…あの人は…」
「!」
さくらの脳裏に不安が過ぎる。
サージェスレスキュー創設時、当初は明石がそのメンバーに選出されていた。
結局は、明石の強い推薦で映士が選ばれたのだが、今回は未知の世界…宇宙…
誰よりも、未知の世界への冒険心に溢れる明石ならば…おそらくは…
「今日の僕達の様に、お互いを知れば、距離が近づいたカンジがします。その逆も有り得ませんか?」
「…距離が近づかなければ…お互いを知れない…ですか。」
「宇宙と地球は遠いですよ。同じ地球上で違う道を歩む以上の距離です。」
「…………」
「高校を卒業したら、お互い家を出て、違う道を歩むつもりだったんですよね。」
「…そう…ですね…」
「それに、最初から他人が決めた仲じゃ、反発もしたくなるかも知れませんね。特に思春期は。」
「だからこそ…ハッキリとした『想い』を…抱けなかったのかも知れません…」
「今は自分で決めた道を歩んでいるんだし、『想い』をぶつけてもいいんじゃないですか。」
月明かりのせいだろうか…さくらは、今まで目の前を覆っていた闇が晴れた様な気がした。
「そうそう!さくらさんに謝らないと…今日、誘った本当の理由は…」
「…フフ、蒼太君の事ですからね。ある程度は…………謝るどころか…感謝してますよ。蒼太君!」
「イヤ『黄色い悪魔』が現れなきゃ、僕も、こうも上手くは切り出せなかったんですけどね。ハハ!」
「…クスクス、本当『黄色い悪魔』サマサマですね!」
その時、蒼太の背中の上で菜月がゴソゴソ動き始めた。
「…むにゃ…ふぁ〜〜あ☆…ん?ここはドコ?」
さくらは、菜月の両ほっぺを軽くつねった。
「イタタタタ〜☆さくらさん何でぇ?」
「…仕返しです。ありがとう『黄色い悪魔』サン!」
【了】