【後日談】ボウケンジャー The Next Task【番外編】

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18【Task.X 果て無き妄想魂】(1/6)
「あ!?…あ…明石さん…そ…それ私の…」

暁は自らの額を拭っていた布の質感に違和感を感じ、布をゆっくりと拡げる。
驚愕した!明らかにハンカチでもハンドタオルでもない!!

持っている暁の指が完全に透けて見える程の、真っ赤なシースルーの生地。鈍角な大きめの三角布と鋭角な小さめの三角布を合わせたような形。
三角形のうち、二角は細く光沢のある白いリボンで二枚の布同士を結び合わせ、一角は三角布と同色の光沢ある巾広の生地で縫い合わされ、ここだけ白い綿布が裏地に使われている。

二枚の三角布には小さな花柄の刺繍が幾つも施され、その花の中心は僅か1mm程の穴が開いて向こうが見える。また三辺の内、二辺は緩やかに波打つ可愛らしい大判のフリルで縁取られている。
さらに、小さめの三角布の装飾は華やかだった。上端中央部分にはバラを模したリボンが結ばれ、そこから下に向かって、白いレースの細いフリルが二本伸びている。
フリルの上端は15mm程の巾で離れており下端に行くにしたがって合わさっており、そのフリルとフリルの間は何の布も無く細長い二等辺三角形の穴を形成し、向こうが完全に見える状態だ。

暁は自身の血の気が引いていく音を聞いた…
これは明らかに、先刻さくらのクローゼットの引き出しの中で見つけたモノ…

「さっ!さくら!!ちょっ!違うんだ…」

ドゴォォォォォォォォン!!!!!!!!

刹那であった。
さくらの拳が始動し、暁の腹部に到達するまで僅か0.0009秒。
宇宙の静寂に包まれたボイジャーの船内に鈍い打撃音が響いた…


さくらは力なく…その場に座り込み…深く…大きく…溜め息をついた。

「はぁ…………」
19【Task.X 果て無き妄想魂】(2/6):2007/03/31(土) 23:42:25 ID:S9H84Q1A0
話は30分ほど前に遡る…

「…疲れた」
つい口に出てしまう程の疲労感だった。

地球を出てから半年。ひたすら惑星探査を繰り返し、宇宙怪獣との死闘もあった。
そして…冥王星でのプレシャス発見!言葉では言い表せない程の興奮!!
人類初の記念中継だというのに挨拶をさくらに押し付け、三日三晩、寝食を忘れ発掘をした。

先程、プレシャスを地球に向けて射出し、やっと一段落。さくらの計らいで半日程オフを貰った。
さくらは残務整理の為、コクピットに残っている。

「明日には、いよいよ太陽系脱出か…」
心地良い疲労感の中、暁の意識は眠りに入ろうとしていた……
しかし、薄れゆく意識の中、暁は自身の下腹部の熱さに気付いた。

「…ハハ…よっぽど疲れてるんだな」
俗説では、身体が異常に疲れると脳が『生命活動の危機』と錯覚し、種の保存の為、本能的に膨張するとされる現象。
また医学的には、血圧を上昇させる性質がある神経伝達物質『カテコールアミン』が体力の限界を知ることで、分泌が増量されることに起因し、結果的に陰部への血流も増加し膨張を促すと考えられている現象。
男性なら誰にでも覚えがある、いわゆる『アレ』だ。

この半年で暁が生理現象を処理したのは、ただの一度…『一人冒険事件』の時だけである。
明日にはコールドスリープに入る。いくら性欲の薄い暁と言えど、さすがに自身の欲望を処理しておこうという気になるのも仕方ない。

「…そうだ…蒼太に貰ったDVD…」
しかし、蒼太が餞別にとくれたお宝DVDは『一人冒険事件』の後、さくらに没収されている。

生理現象処理に極めて有効かつ、手っ取り早い媒体を断たれた暁は、仕方なく自らの『妄想』に頼る事にした。
20【Task.X 果て無き妄想魂】(3/6):2007/03/31(土) 23:43:31 ID:S9H84Q1A0
「…キョウコ」
地球にいた頃の定番ネタではあるが、プレシャス発見の喜びに包まれた今は、あまりに不謹慎で背徳感漂う。
暁は即座に自身の妄想を打ち消した…

「…菜月」
天真爛漫な彼女が、戯れの中で無造作に腕に押し付けてきた、二つの膨らみの感触。
ソファーから放り出された、短いスカートから伸びる健康的な肢体と、チラと覗く三角地帯。
…だが、どうにも色気とは程遠い…物足りない…

「…ミュージアムの受付の女の子の胸元…行きつけの定食屋の若奥さんのうなじ…えぇっと…」
違う!全部違う!!
暁は閉じていた眼を見開いた。もともと蒼太、真墨に比べ女性経験の少ない暁である。使えるネタも少ない。
さらに、すっかり目が冴えてしまった今は『妄想』など不可能である。結論は一つ…

「DVD取り返しに行くか…」
責任感の強いさくらが、いくら自動操縦とは言えコクピットを離れるハズが無い!今がチャンスだ!!
暁は寝室を出て辺りを見渡すと、隣のさくらの寝室まで慎重に歩みを進めた。
二人きりの旅であるからか、さくらの寝室に施錠はされていなかった。

「これこそ、ちょっとした冒険だな…」
職務に忠実なさくらと言えど寝室は女の子らしく、大きなテディベアが一体ベッドに横たわり、部屋全体は微かなアロマの薫りで満たされていた。
しかし、女の子の部屋に侵入した好奇心、背徳感などは微塵も無かった。目指すは俺のプレシャスのみ!

机の引き出し…本棚…………見当たらない…残るはクローゼット。
予備の制服、作業着などの仕事着。パジャマ、Tシャツ、キャミソールなど地味な部屋着が並ぶ。
下部の引き出しを開けてみる…………下着だ…
しかし、スポーツブラ、綿ショーツと実用的な下着が並ぶだけ…………だけじゃない!

奥にひっそりと…赤いシースルーのベビードール…ブラとショーツ…黒い網タイツとガーターベルト…

…………暁は目的を忘れ…思わず手に取ってしまった…
21【Task.X 果て無き妄想魂】(4/6):2007/03/31(土) 23:45:46 ID:S9H84Q1A0
「フゥ…異常なしですね」
さくらは大きなため息をついた。地球への最後のデータ通信は済ませ、残るは亜光速航行への移行、コールドスリープ装置の始動のみだ。
これには多少時間を要する。ただし数時間、モニター監視のみの単調な作業で気が緩むのも仕方ない。

冥王星でのプレシャス発見。
明石と旅に出て初めての大きな成果である。体中を幸福が駆け巡った。明石に着いてきたのは間違いでは無かった!
これから外宇宙に出て、更なるプレシャスを発見する事が出来るかもしれない…『二人』で。

眼前には宇宙の闇が拡がるが、さくらには目前に拡がる明るい未来が見えていた。
太陽系内では任務に忙殺され何も考えるヒマなどなかったが、今はゆったりとした時間が過ぎている。
時間にも心にも余裕の出来たさくらは、ふと地球の仲間を思い出した。

「菜月どうなったかな…」
蒼太、菜月に後押しされボイジャーに乗り込んだ。三人での作戦会議…という名の飲み会は幾度と無く開かれた。
最初は、菜月と蒼太の赤裸々な恋愛話についていけなかったが、菜月の一言でさくらは変わった。

『えへへぇ、昨日ねぇ、真墨とぉ…………チューしちゃったぁ☆』
さくらは、頬をピンクに染め目尻を下げた菜月を見つめた。
これは衝撃の告白である。さくらは思わず店内中に響く声で叫んだ。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
蒼太が思わずさくらの口を塞ぎ、周りの客にペコペコと頭を下げる。
菜月は動じず、相変わらずうっとりした表情で微笑んでいた。
……可愛い……さくらは思わず見とれた…確かに菜月は普段から可愛らしい…
しかし、目の前の菜月は普段の数倍可愛らしく見えた。少なくとも、さくらにはそう見えた。

「…私も…可愛く…なりたい…」
放心したまま思わずさくらは呟いた……もちろん、この独白を蒼太と菜月が聞き逃すハズもない。

かくして牧野、ボイスも巻き込んだサージェスの一大プロジェクト『ボイジャー密航計画』は本格始動する。

22【Task.X 果て無き妄想魂】(5/6):2007/03/31(土) 23:46:54 ID:S9H84Q1A0
『ねぇねぇ、これサンタさんみた〜い☆さくらさん、こんなのどう?』
菜月が、白いファーで縁取られた真っ赤なベビードールとブラ&ショーツセットを手にし、さくらに差し出す。
さくらは入店して以後、ずっと俯いて床ばかり見ていたが、意を決して、チラと菜月の方を覗く。

「!?…む…む…む…無理ですー!透けてるじゃないですかー!?それにガーターなんて!!」
驚いた!機能性の欠片もない…もはやタダの『布キレ』である。
しかし、ニコニコとこちらを見つめる菜月の笑顔を観ていると不思議と『布キレ』が可愛く見えてきた。

宇宙空間ではワイヤー入りのブラが危険という事で、下着は全て耐久性、機能性重視のものを携行する予定だった。
しかし、菜月、ボイスの強い奨めで一着だけ『勝負下着』を携行する事になったのだ。
さくらも女の子だ、普通の可愛らしい下着位は持っている。別に誰に見せるとかではなく、休日位は見えない所も可愛いものを身に付けていたい。
さくらとしては、お気に入りの花柄の上下セットを携行するだけでも大冒険のつもりだったが…

『セクシーサンタ♪セクシーサンタ♪』
帰り道、菜月が妙な鼻歌を唄っている傍らで、さくらは真新しい紙袋をギュっ握り締め、恥ずかしさと高揚感を押し殺し、高鳴る鼓動に胸を押し潰されそうになっていた。

『密航計画』進行中、一度だけ二派に別れ意見が対立した事がある。牧野・蒼太と、菜月・ボイス・さくら。
議題は『明石にAVを持たせるか?否か?』である。
しかし、牧野の『医学的見地から見た妄想媒体の必要性』、蒼太の『性欲が前面に出たらお互い不幸になるだけ、男の生理を上手く処理してこそ、純粋な気持ちは生まれるんです。』という言葉の前に女性陣の感情論は敗北した。


「みんな…ありがとうございます…」
傍から見れば単なる笑い話だろうが、仲間の包み隠さない気持ちが嬉しかった。

「明日にはコールドスリープか…………着てみようかな…制服の下なら…バレませんよね…」
さくらは計器に異常が無いことを確認し、立ち上がった。
現状では、明石との間に大した進展はないが、太陽系最後の夜くらいはドキドキしていたい。
自身の乙女心に忠実でいたい…それが私の冒険。
さくらは自分の寝室へと向かった。
23【Task.X 果て無き妄想魂】(6/6):2007/03/31(土) 23:50:48 ID:S9H84Q1A0
ふと、暁の脳裏に数日前の想い出が甦る。
さくらと手を握り、同じベッドで一晩を共にした夜。任務に忙殺される中、唯一熟睡出来た夜。

「……ん?」
暁は自身の鼓動が急激に高まるのを感じた。
この卑小な私的ミッションの最中、落ち着きかけていた下腹部が再び熱くなってくるのを感じた。

「バカな?…相手はさくらだぞ…」
今まで幾度となく死線を乗り越えてきた仲間…自分を追いかけ密航までしてきた頼れる仲間…
漆黒の宇宙の闇の中、未来を照らしてくれた掛替えの無い仲間…そんな仲間に…自分は何を?
ハハ…そう…さくらだって女の子だ…こんなの持っていたって不思議じゃないさ…バカだな俺は…
暁は自らの欲情を振り切る様に言い聞かせ、手にした物をしまおうとした…

『Weeeen…』
微かに聞こえる、コクピットのドアの開閉音。
しまった!さくらが…来る!?足音が近づく!イヤ、焦るな!!

静かに引き出しを閉め、クローゼットのドアを閉じた。
足早に部屋をあとにし通路に出た…………その時!角を曲がったさくらと鉢合わせた!!

「あ!明石さん!?」
「さ!さくら!?」

鼓動が高まる!相手に悟られてはいけない!!
さくらは流れる汗を悟られてなるまいと、ポケットからハンカチを取り出し額を拭った。
そして暁もポケットからハンカチを取り出し額を拭っ…………

「(…ハ!ハンカチじゃない!?…)」
暁は恐る恐る布を目前に下ろす…………

……………………ここは宇宙……永遠ともいえる静寂と…無限の漆黒の闇が…二人を包んだ…