春先といえど、まだまだ肌寒さが残る街の外れ。
一軒のコンビニから、厚着に毛糸の帽子にマフラー、サングラスという重装備のいでたちの青年が、
買い込んだ食料品や生活用品を詰めた袋を両手に下げて出てきた。乗ってきたスポーツバイクの荷台に
乗せてロープで固定。そしてバイクに乗って走り出し、街の外へ出て山道に入っていく。
周りに人影も無く一人になったところで、青年・緑川一平は、走らせているバイクごと、ずぶずぶと
路面に沈み出した。そして、消えた。
仮面ライダーパズズ 04 アクロソバットの奸計
下水道やガス管や電線なども通っていない深い地下に、大きな金属製の人工物が静止している。
球体に近い頑丈そうな外観。
それに向かって、地上から沈み込んで高速で進んでくる一平とバイク。
土で汚れたりは全くしていない。それどころか、土を掘ったりしている様子も無い。水中に潜行
するようにスムーズに進んでいる。
一時的に自分自身と、自分に接触している範囲の物体を構成する分子の密度を下げることで、
土の分子の隙間を通り抜けて移動している。
人工物の外壁に到達し、そのまますり抜けて中へ入る。
内部の格納庫に到着した一平は、分子間の密度を元に戻して実体化する。バイクや積荷も元に戻る。
各種センサーのチェックを受け、消毒処理を施された後、居住ブロックへ入っていく。
「お帰り、一平君」
三崎理香が笑顔で出迎えた。
「おう。頼まれたもの買って来たぞ」
居住区内には普通にマンションのように個室やリビングルームや台所があり、一平と理香は
コンビニの袋から食料品や生活用品を出してより分け、次に食事の用意をしていく。
地底移動基地『メトロチャンバー』。一平と理香が改造人間シンジケート・ジェノムの活動を秘密裏に
妨害するに当たっての支援のための拠点である。一平=仮面ライダーパズズが地上と地下を行き来するための
分子間密度調整システムをこの基地も備え、敵に基地の存在を悟られるのを防ぐために定期的に移動して
位置を変えている。何せ、大勢の改造人間の集まりであるジェノムの活動妨害という危険な行動を、
現状で互いに示し合わせてやっているのが一平と理香の二人だけなので(探せば他にもいるかも
知れないが、今のところその存在は不明)、とにかく気を遣う。買い物先も定期的に変える。
理香は通常メトロチャンバーに待機し、主戦力たる仮面ライダーパズズやその支援兵器である
戦闘バイク『ストリーム』のメンテナンス、基地に搭載された高性能レーダーによる情報収集、
更に基地内での掃除や洗濯や食事の用意等の雑務も務めている。パズズの戦いにおいて、理香と
メトロチャンバーによる援護は欠かせない。そして、理香に戦闘以外の雑用を全て押し付けるのも
互いの円満な人間関係に支障が出るので、一平も非戦闘時には雑用の手伝いくらいはせねばならない。
上で名前の出た『ストリーム』だが、2話でシックルマンのアジト攻撃に使用した戦闘バイクがそれである。
それぞれが独立して動ける無数のナノマシンで構成され、1話で登場したり今さっき買い物へ行くのに
使ったりしたスポーツバイクや、倒した敵の残骸を食って処理するあのイナゴの群れ(一匹一匹がイナゴの
機能を再現した小型ロボット)にも瞬時に変形する。
リビングで普通にご飯を食べる二人。食べながら喋る。
「一平君さ」
「何だよ」
「この前、ジェノムとの戦いのとき、名前聞かれて思い切り名乗ったでしょ」
「・・・・・・」
「まずいんじゃない? パズズの名前を知っちゃった向こうさんは、多分これからこっちを明確に敵と認識して
反撃してくるよ。そのための作戦もそれなりに用意してくるよ」
特に激するでもなく理香は言う。
一平はむすっとしてご飯を咀嚼していたが、
「しょうがねえだろ。こっちから啖呵切っといて、名を問われて尻込みするんじゃ男が廃るんだよ」
「命の掛かった戦いに男が廃るもないと思うけど。私は女だし」
理香は淡々と返したが、
「ま、いいけどね。それならそれで又敵への対応策を考えるまでだし。
はぁ、それにしても、ジェノムに対抗するための準備がもう少し早く出来てればねー」
天井を見上げて溜息をつく。
「私達が出遅れてる間に、ジェノムは人間社会の裏にすっかり浸透してしまってる。幾らジェノムの個々の悪事を
潰したところで、彼らに仕事を依頼する困った人達がどうにかならないことには・・・止められるのかなぁ」
「済んだことは言ったって始まらねえ。やれることをやるだけさ」
一平は黙々とご飯をかきこむ。
「そうだね」
理香は笑った。
食器の片付けが終わったところで、ジェノムの動向がキャッチされた。ストリームが変形するものと同じイナゴが
情報収集のために数匹地上を随時巡回しているのだが、そのうちの一匹のカメラアイとセンサーからメトロチャンバーに
情報が来た。
前回パズズによって爆破計画を阻止されて全員のされたテロ団体は、理香が匿名で警察に通報したことによって
捕まり、仮拘留所に留置されているのだが、テロ団体は別料金でジェノムともう一つ契約を交わしていた。万一手違いで
自分達が警察に捕まった際、救出に来させるように。
「ゲゲーーーーーッ!!」
あからさまに怪人な唸り声を上げ、地下から直接穴を掘って、ジェノムの使者が留置所に接近してくる。
ジェノムメンバー・グランゲラ。ケラの改造人間である。外骨格に細かい毛が生えて大きな前足のケラがそのまま
直立した姿。一心不乱に土を掘る。後には戦闘員アリントが複数ついてきており、溜まった土をどけるなどの作業をしている。
グランゲラはジェノムの改造人間ではあるが、これまでに登場したメンバーほど知能は高くない。上司の命令に
従う以外は特に何も考えず、まともに喋ることも出来ない。潜在させられていた改造人間の遺伝子の特性が発現した元人間と
違い、研究施設跡に残された改造技術による手術を実験的に施され、後天的に改造人間となったタイプである。
このタイプは他にも存在するが、殆どの例の知能は低く、大抵の場合先天的改造人間達に鉄砲玉として使役される。
尚、戦闘員のアリントも同様。彼らも補助戦力として雑役に使われるだけの存在である。
一同が、もう後数分で留置所に到達するかと思われたとき、仮面ライダーパズズがそれを止めた。
一平は出撃前に予め変身した。そしてストリームに乗って分子密度を下げてから高速でメトロチャンバーから発進し、
捕捉した目標に到達するタイミングを見計らって実体化し、ストリームで直接グランゲラに衝突。
留置所のある山間の岩肌を破り、跳ね飛ばされたグランゲラやアリント達ごとストリームが飛び出した。
着地し、急旋回して無理やりブレーキを掛けて停車。
「しつこい野郎どもだぜ」
「ゲゲゲゲゲーーーーーッ!!」
アリント達はストリームアタックの一撃で軒並み卒倒したが、グランゲラは知能の低さの代わりにタフネスが上がっており、
この程度では参らない。直ぐ立ち上がり、ストリームを前に身を震わせて吼え猛る。パズズもストリームから降り、身構える。
グランゲラの高速の突進を先ずパズズが交わすと、そのままの勢いでグランゲラは向かいの絶壁に激突。
土煙が湧き起こり、やがて収まった後、パズズは気づく。絶壁に大穴が開き、グランゲラの姿が無い。
激突と同時に絶壁を掘って地に潜ったのだ。
パズズの足下の周りをランダムに掘り回り、隙を狙って突然飛び出しては強力な前足で攻撃を掛けてくる。
パズズは苦も無く交わし続けるが、相手が直ぐ素早く地中に隠れるので反撃がしづらい。
「この野郎が・・・!」
パズズは腰を低くして構える。
グランゲラが再度飛び出してきたところで、今度は避けなかった。
飛んできたグランゲラの大きな前足を、力を込めて両手で受け止める。パズズの全身に激しい衝撃が轟くが、
力任せに腕で押さえつけ、しっかりと捕まえる。もがくグランゲラに、
「エレクトロトラップ!!」
ベルトのバックルのタイフーンエンジンをフル稼働させて電撃を放ち、感電させる。
ヘビーコブラ同様に大ダメージを受けてよろめくグランゲラから離れ、
「パズズブロー!!」
腰だめからの正拳突きで、グランゲラの胴をぶち抜いた。
衝撃が更に響き渡り、グランゲラは木っ端微塵に吹き飛んだ。
だが、今回はそれだけでは終わらなかった。
「ご苦労だったな!」
「!?」
嘲った声と共に、斜め上から強烈な打撃が襲ってきた。咄嗟に両腕でガードして防いだが、ずりずりと後ろに
スリップするほどの威力。
打撃を食わせた相手は即座に空へ退避し、パズズを見下ろしている。
「手前・・・この前のコウモリ野郎!?」
「アクロソバットという。そちらも名前を覚えてもらおうか」
直後、轟音が轟き、遠目に見える留置所から煙が上がり、警報が響く。
グランゲラによる留置所への先行は陽動だった。パズズの妨害が入るだろうと予め見越しておいたアクロソバットは
グランゲラを囮とし、更にグランゲラとの戦闘で消耗したパズズに追い討ちをかけ、足止めする。
その隙に、救出作戦のしんがりであるビーネットが力押しで留置所に突入。外部への連絡用の中枢施設や、内部中継用の
カメラの制御中枢を先ず力押しで破壊し、駆けつけてくる警備員に腕の毒針を連射して片っ端から殺害。毒によるショックで
即死した警備員達は、更に毒の副作用で泡になって溶けて消滅。刺さった針も同時に溶けて消える。
その後に目的の拘留房に堂々と向かい、扉を破壊してテロリスト達を救出。
「アクロソバットの計略が図に乗ったか」
少しは溜飲も下がったビーネット、テロリスト達を連れてまんまと逃げおおせる。
「どけ!」
パズズは叫びながら留置所へ向かおうとするが、アクロソバットの上空からの素早いヒットアンドアウェイの連続が
それを阻む。そしてアクロソバットは頃合を見て、離脱を開始。
「仮面ライダーパズズよ。お前の力がどれほどのものかは知らんが、お前一人で出来ることは所詮こんなものだ。
同時複数攻撃に対してはどうしようもあるまい、ははははは!」
笑いながらアクロソバットは空へ飛び去っていく。
パズズは、見届けるしかなかった・・・
続く。
322 :
オリメタスレ主:2007/03/16(金) 01:31:30 ID:HfczE4xZO
パズスってデザイン考えてるの?もう少しこっちの仕事が落ち着いたらパズス描いてみて良いですか?
>>322 一応スケッチがあります。近いうちに何とかラフ上げます。
あ、でも、もし描いてもらえるならそれはそれで見てみたい。
>>322 人のデザイン考えてるヒマにオリメタを進めなさい。暇になってからでいいけど
327 :
名無しより愛をこめて:2007/03/17(土) 00:36:58 ID:ij+JevVX0
ぽけっといっぱい
パズズカコイイじゃないか!今後も楽しみにしてるぜ
パズズは、表現も内容も段々面白くなっているような気がする。
パズズ読みました。面白いし続きも早く読みたいけど、
現状だとライダー側より、デスコピオ達の方に感情移入してしまうのは自分だけかな?
>>320 すごく面白いです。今やってるライダーものの次に面白いです。
これをテレビ化してほしい。実現しませんか?
>>331 自主制作ならともかく、テレビ化って無理があるだろ
新手の釣りかと思ってた。
テレビ化どころか、自主制作の映画すらこのスレで作ろうなんてヤツはいない。
最近の特撮ヲタは、映画つくるって方向行かないだろ。
いたらいたでまあ別にいいけど。
仮面ライダーパズズは、ジェノムの改造人間・グランゲラを撃破した。
だが、ジェノムの狙いはグランゲラにパズズの目を引き付け、その隙に彼らの依頼人であるテロリスト
集団を留置所から救出することであり、パズズはその狙いにまんまと引っかかってしまった。敵を撃破した
しないに関係なく、ジェノムのミッションは達成されてしまったのである。
仮面ライダーパズズ 05 バッタ反撃
とにかく一度メトロチャンバーに戻ったパズズは、三崎理香によってメンテナンスを受ける。特に大きな
ダメージを受けたわけではないが、何が起こるか判らないので常にチェックはしておく必要がある。
メンテナンスルームで台座に横たわったパズズをスキャンしてモニターのチェックデータに素早く目を通していく
理香。一見普通の若い女性である彼女に、何故これだけのスキルがあるのか?
チェックが終わり、変身を解いて人間の姿となった緑川一平だが、その表情は晴れない。
「まあ、そうむっつりしないで」
理香はのほほんと言う。
「いずれこういう事態が来るのは判ってたことだし。ジェノムも秘密裏に活動している以上そう一度に表立って
派手に戦力を動かすことは無いだろうけど、物量そのものはそりゃ圧倒的にあっちが上なんだから。言ったとおり、
それならそれで私も何か対策を考えるから、一平君は次の戦いに備えてコンディションを整えることに専念して」
「判ってらぁ」
一平は鋭い目を上げる。
「アクロソバット、だったか・・・あのコウモリ野郎にはもう負けねえ」
メトロチャンバー内には、小規模ながらトレーニングルームもある。
一平は黙々と基礎トレーニングを続け、不測の事態に対応するための模擬戦をCPUによるシミュレーションで
何度も繰り返す。気を張りすぎると肝心の実戦のときにへばるので、理香に適当にしておけと注意されて
休んでは、又トレーニングを繰り返す。
それにしても、パズズや戦闘バイク・ストリームだけでなく、オーバーテクノロジーの塊である基地・
メトロチャンバー。これほどの装備を用意できる技術力や資材は何処から来たのか?
テクノロジーの起源そのものは、ジェノムの先天的改造人間達の発祥と同じである。
先天的改造人間達を生み出し、彼らを使って世界の支配を企んでいた(研究施設跡の資料群からそう推測される)
かつての謎の組織は、彼らから離反した一人の改造人間、『仮面ライダー』と呼ばれた者によってその計画を
悉く妨害された。が、仮面ライダーパズズ自体は、その直系に血を連ねる者ではない。かつての『仮面ライダー』と
呼ばれた者が今何処で何をしているのか、そもそもまだ生きているのかどうかさえ、少なくとも今の時点でこの
物語に登場している人物達は誰も知らないのである。だが、存在したらしいという話は、ジェノム側だけでなく、
一平と理香も知っている。
理香の父親・三崎博士は、一連の超テクノロジーを受け継ぐ技術者の一人だった。理香の従兄弟である一平は物心も
つかない時期に交通事故で両親を亡くし、三崎博士が養父として一平を養っていた。三崎の妻=理香の母も、
超技術の実験の失敗による事故により、既にこの世にはいない。
現代社会の常識を覆しかねない超技術を保持していた三崎博士は、超技術の産物を管理しながらもその存在が表に
知れないようにしていたのだが、他の超技術保持者達には自らの理想への狂信や私利私欲のために超技術の悪用を
企む者も多くおり、勢い、秘密裏に彼らの暴走を阻止する行動に出ざるを得なくなった。
そうして次第に敵も増え、普通にやっていては追いつかなくなった三崎博士は、対抗のため、自らを改造人間に
して直接戦闘にまでしばしば及ぶことになる。この改造体がパズズのプロトタイプなのだが、これまで人体改造を
禁忌として自らに課していた三崎にとって初めての試みであり・・・それで改造手術に成功し、ジェノムの後天的
改造人間のように知能低下などの副作用も起きなかったのは凄いというか、受け継いだ才能のなせる業だろうが、
プロトタイプは技術的に未熟な部分が多く、性能的にはやや中途半端であった。それでも戦略でどうにか
しのいでいたが、限界が来た。
手を組んできた複数の超技術保持者達を一度に相手する羽目になった三崎は、嫌がる理香と一平を無理に説き伏せ、
敵の注意を全て自分に引き付けて二人を逃がし、生き延びさせる手に出る。地底移動基地・メトロチャンバーは
既に建造されており、三崎は二人を無理やりメトロチャンバーに乗せて地下の安全域へと自動発進させる。
プロトタイプパズズに変身し、襲い来る超技術保持者達の前に一人立ち塞がる三崎は、願っていた。
理香と一平には自分のような道を辿るのはやめてほしい。仇討ちとか考えなくていい、普通に幸せに生きてほしいと。
そして三崎は、かつての同胞達を一人も残すまいと次々差し違えていき、最後はタイフーンエンジンを暴走させ、
全ての敵を巻き込んで、自爆して散った。
「聞けるか!!」
一平は激怒した。
「そんな最期を見せ付けられて、そんな話を聞けるか!!」
激情といえばそこまでだが、無理も無い話である。理香も同じ想いだった。
三崎が多くの超技術保持者を道連れにしたものの、忌まわしき超技術の残滓はまだ世界の裏にくすぶっている。
実際、後にジェノムという組織が出現し、社会の裏の多くの悪事に手を貸している。放っておくわけには行かないと
二人が考え、阻止するための行動に出たのもやむをえない話であろう。
超技術保持者の一人であった三崎博士の痕跡をジェノムに察させないため、二人はこれまでの外見を捨て、
外科手術で全く別の容姿になった。かつての姿は、メトロチャンバー内に数枚の写真として残っているのみである。
そして表社会でのこれまでの戸籍も抹消、ダミーの戸籍データを用意。
更に、結局父から受け継いでいた超技術のスキルで理香が改めて打ち立てた人体強化改造プログラムにより、
一平は、バイオだけでなくメカ技術も多数投入して性能強化されたパズズへの変身能力を得る。技術方面に
能力が特化している理香は、パズズの実戦のサポートに徹することにした。
「本当にいいんだね・・・一平君。もうまともな生活には戻れないんだよ」
「おうよ、理香。三崎の叔父さんもきっと判ってくれるさ。叔父さんだって、超技術の悪用は周りにとって
迷惑だし、それを止めるには自分が戦うしかないと思って改造人間になったんだろうから・・・
いや・・・叔父さんにかこつけるのは、違うな」
パズズの姿になった一平は、理香の前でぎりぎりと音を立てて拳を握る。
「手前らが生き延びたいだけの話だろうに、自分達の力を利用する表の人間共がいるんだから仕方ないとかいう
ジェノムのせこい言い訳に俺自身がむかつく。仕方なくねえだろうがよ。同じ穴のムジナだろうがよ!」
改造とかと関係ない生来の性分で、一平は普通の人々より多少血の気が多くて柄が悪かった。
理香「言い様は考えたほうがいいと思うよ」
再戦のときが来た。
ジェノムメンバー・ビーネットの援護を得て、テロ団体は活動を再開。各種火器を携えて深夜の市街へ向かう。
雑居ビルの上部の一室に陣取り、官僚施設の集中している区画をロケット砲で撃つための用意をしていく。
ビーネットは部屋の窓際に控え、遠くも見通せる複眼構造の眼で外を見張る。
「ん・・・?」
立ち並ぶビルの一棟の陰に、こそこそと動く影を発見。
仮面ライダーパズズ。
「性懲りもなく出おったな、ふふふ・・・だが、妙な真似をすれば今度こそ私の毒針で・・・」
研究施設跡に遺されたテクノロジーを駆使してビーネットの射出できる針は改造強化され、更に狙いの精密さと
威力を増していた。
別のビルの屋上にはアクロソバットも待機し、ビーネットが見つけたパズズの姿を同時に捉えていた。
「同時複数攻撃には手のうちようがあるまいと警告したのに、ふん、馬鹿なやつめ」
「誰が馬鹿だって?」
「・・・・・・!?」
高性能な器官であるアクロソバットの耳は、聞こえるはずのない声を聞いた。
愕然と振り向いた背後に、仮面ライダーパズズが、もう一人立っていた。
ビーネットとテロリスト達も混乱していた。
「ど・・・どういうことだ!?」
最初にパズズを見つけたビルの陰と又別の地点の物陰に、更に三人目のパズズが隠れているのが見える。
「仮面ライダーパズズは・・・複数いたのか!?」
アクロソバットは、突然現れた二人目のパズズと既に交戦を始めていた。しかし、予想外の事態が起きたことで
狼狽して動きが鈍っている。パズズの方が逆に攻めに周り、攻撃を避けるので精一杯だ。
「相手の戦力を・・・読み違えたのか!? そもそも、仮面ライダーが一人だけと最初に仮定したのが
間違いだったのか!?」
アクロソバットはパズズの攻撃圏から逃れるため、羽を羽ばたかせて一旦上昇を始める。
「落ち着け・・・俺の得意の高空からの連続攻撃に持ち込めば!」
夜空に向かって急速離脱し、パズズの姿が豆粒ほどにしか見えない位置まで来る。
それで逃げ切れたと思って、気を抜いた。
地上のバッタ男は、ビルの屋上の床に異常に低い態勢でうつ伏せになり、手足を踏ん張って力を込めていた。
そして。
「ライダーロケット!!」
床に接する寸前まで近づけたバックルのタイフーンエンジンから、蓄積したエネルギーを最大出力で噴出し、
手と足での反動も加えて空へ跳んだ。アクロソバットが避ける間もないほどの速度で。
何が起こったのかアクロソバットが眼を疑うほど正直不恰好だが、威力とスピードは絶大だ。
激突されたアクロソバットは空中で大きく態勢を崩し、その間に、まだ滞空している状態で姿勢を整えた
パズズは、後ろからアクロソバットを押さえ込み、その羽を両手で掴んで後ろに大きく引っ張って固定する。
アクロソバットは羽ばたけなくなり、落下し始める。体の位置をパズズの足の下にされて。
「な、何をす・・・うわあああああ!!」
パズズが足場にしたビルの屋上に逆落としにされ、アクロソバットは粉砕された。
更に屋上の床が抜け、四、五階貫通してやっと落下は止まった。
ビーネット達は、ビル陰の二人のパズズを前にまだ混乱していた。本拠のデスコピオに通信して指示を仰いだところ、
敵の全貌が判らないうちは突出は危険なので一時撤退せよとの指令が下った。従うしかなかった。
「おのれ・・・又しても!!」
ジェノム側が去った後、瓦礫の積もった部屋に立ち尽くすパズズの下へ、残り二人のパズズが上がってきた。
そして、二人の姿がもやのようにぼやけ、続いて、無数のイナゴの群れになる。
ストリームをナノマシンイナゴに分割したものを、理香による追加モードプログラムでパズズの姿に変え、
ダミーとして使ったのである。
「ご苦労様。じゃ、何時も通り後始末宜しく」
理香が淡々と指示を送る。
アクロソバットの残骸が貪られて処分されていくのを、本物のパズズ=一平は、複雑な心情で見下ろしていた。
しかし、戦いはまだまだこれからなのである。
続く。
色々感想有難うございます。本業が忙しくなれば滞るときもあるでしょうが、
出来るうちは出来る限り。
おたよりコーナー
>>330 理香「うん、書いてるほうもちょっとそう思ってるみたいだね。
今回の5話は敵の殺し方が特にむごいので余計そう思えるね。
まあ、こういうことずっと続けてたらいずれ一平君にも
お鉢が回ってくるだろうから、楽しみにしててね」
一平(・・・お前だってそのむごいやり口に加担してるじゃねえか・・・)
>>331 理香「いやーそう言ってくれるのは有難いけど、作者にも本業があるからねー。
だからせめてこういうので雰囲気だけでもね」
342 :
330:2007/03/18(日) 06:09:58 ID:IP7xm+170
>>341 5話読ませてもらいました。
ライダー側の事情は分かったけどやっぱりジェノム側の方が感情移入できるなあ。
以前、「悪の秘密組織が壊滅しひっそりと生きることを望み、社会に溶け込もうと必死に努力している
(だけど暴走防止の定期メンテナンスに莫大な費用が掛かるから、否応なく悪事に手を染めざるを得ない)怪人達と、
悪の秘密組織と過去のライダーの技術を軍事転用するためのデータ収集として、
情報操作や自作自演を駆使して怪人残党を無理矢理『悪の怪人』に仕立て上げ次々と狩っていく政府、
その実験体にして『正義の味方』気取りの仮面ライダー達」のお話を考えていたのも影響していると思うけど。
でもいずれライダー側にもお鉢が回ってくるのですか。楽しみにしてます。
いや、もちろんジェノム穏健派とどこかで折り合いを付けてくれた方がいいですけど。
>>341 差し出がましいようだが、キャラになりきって返事とかするのは止めた方が無難かと
昔の色々な創作サイトとかであまり人格的によろしくない人たちがあとがきとかで似たようなことやっていたので、
変な先入観を持つ人がいるらしいよ
344 :
パズズ作者:2007/03/18(日) 11:08:40 ID:JjldEvNO0
>>343 忠言有難うございます。次からは自重します。
>>342 感想有難うございます。そちらの考えてられたコンセプトと近いものは
あるかもしれません。多分今後の展開も。両勢力の折り合いのために
第三勢力が出てくる、みたいな予定があります。まだ詳しくはいえませんが。
お疲れ様です、更新しました。
いつもお世話かけます。
保守
348 :
330:2007/03/24(土) 13:56:21 ID:bacFDeoS0
パズズ新作ないけれど、もしかして自分の
>>342のレスのせいでやり辛くなったのかな?
いや、今までの作成スピードが早過ぎで、むしろこのくらいが普通なんだろうけどずっと気になったもので。
349 :
作者:2007/03/24(土) 15:58:36 ID:vLvwujiM0
単に遅れてるだけです。ご心配なく。今6話作成中です。
350 :
アルファ作者:2007/03/26(月) 23:47:29 ID:VWCGC14W0
仮面ライダーパズズ 06 海棲博士
1話よりずっと舞台になっている市街から南下した地点の、海に面した沿岸。その地下にも、ジェノムの
拠点が存在していた。
この拠点は、ジェノム誕生の遠因となったかつての謎の組織の研究施設跡から発見されるテクノロジーを
分析し、利用出来るかどうか研究するための場であり、総合的な科学知識に長けたジェノムメンバーの
一人のリーダー格が、この研究所を統括していた。
名を『イカロケン』という。普段は先天的改造人間ではなく通常の人間の姿をしており、白髪に長い白髭の
老人だが、背筋はまだ曲がっておらずかくしゃくとしており、常に白衣を着ている。見た目にも判りやすく、
組織内では『海棲博士』の通称で通っている。ビーネットの右手の毒針発射機能を強化改造したのも
この老人で、同じように必要に応じての強化改造を他のメンバーにも行っている。
そのイカロケンの研究所に、デスコピオが訪れていた。デスコピオも人間体、黒スーツの男の姿で。
デスコピオはジェノム内でのリーダー格でカリスマもあるが、組織を仕切っているのは彼一人ではない。
イカロケンもリーダー格の一人であり、他にも戦闘力だけでなく統率力の優れた数名のメンバーが各々
各部署を仕切り、又、問題が起きた際には集まって解決法を検討するというシステムによって、
一部の部署が暴走したりするのを防いでいる。
今回デスコピオがイカロケンの下に来たのもそういう理由で、ここ暫くジェノムの活動を妨害してくる
仮面ライダーパズズへの対抗策がないかを相談するためであった。
「メガレオンとスパイデルには引き続き研究施設跡の調査をさせているが、仮面ライダーと呼ばれる
存在への有効な対抗策については一向に見つからない状況だ」
「そうじゃろうな。見つかっとったら過去の組織もとっくに仮面ライダーとやらを倒して世界征服に
成功しとるじゃろうて」
イカロケンもデスコピオ同様泰然としている。
今見たら、オリウルスレのコテが残ってた・・・失礼しました。
では続き。
「お前さんが来る前にも、ビーネットの奴が来て色々ごねおったぞ」
「やはりか」
前回共同作戦を行っていたアクロソバットがパズズに倒され、自身もテロリスト達と共に撤退せざるを
得なくなったビーネットはいらついていた。一刻も早く報復したいのだが、デスコピオは用心のために
早まった真似はするなと釘を刺し、当面機を窺って潜伏する方針となったテロリスト達の護衛を
引き続き行えと指示された。それでも不満は収まらず、ビーネットはこっそりイカロケンの所に来て
パズズを倒せるほどの更なる強化改造を施してくれと要請したが、イカロケンもデスコピオの慎重策には
賛同しており、説き伏せて帰らせた。最後にデスコピオの名を出すと、ビーネットも渋々従った。
「何が起こるか判らん戦局において一点突破だけの強化策は危険ということが中々判らんらしい。あやつだけに
限ったことではないがのう」
「それに、ジェノムの活動は一箇所だけで行われているわけではない。仮面ライダーが一点二点の作戦を
妨害したからといって、いきなり組織の屋台骨が傾くということはない。ライダー対策だけに固執するのも危険だ。
日々の活動は活動でこなさなければならん」
「じゃのう」
「だが、確かに何時までも放っておいていい問題でもない。ライダーだけが不安材料というだけではない。
ビーネット以外にも血気にはやりやすいメンバーは少なからずいる。腰の引けた態度を取り続けるばかりでは、
いずれ辛抱が効かずに突出する者が出かねん。それこそがメンバー同士の不和を招き、屋台骨を傾かせる危険性がある」
「うむ」
イカロケンはデスコピオの懸念を受け、策を講じることにした。
地下、メトロチャンバーでジェノムの動向を観測していた三崎理香の得た情報により、緑川一平はストリーム
(スポーツバイク形態)を駆って海岸へ向かった。
曇り空の下、ストリームを止めて降り、人気のない海岸をうろつく一平。
「理香の奴は、アリント共がこの辺りにこそこそ出入りしていたらしいと言ってたが・・・」
ジェノムのアジトがあるかもしれないと見て、怪しげな辺りを見回る。
高い絶壁に囲まれた、波が打ち寄せる足場の悪い磯辺りまで来たとき。
一平は、何かが迫るのを、目で見る前に感じた。飛びのいて切り立った岩の上に降り立つ。
さっきまでいた場所を、一平より一回り大きいものが高速回転しながら飛んで通過し、崖にぶつかって岩を砕いた。
物体はそのまま水辺に落ちて飛沫を上げ、やがて、もそもそと起き上がる。
巨大なヒトデ。
五本の触足のうち二本で器用に直立し、後三本が腕と頭の位置に来て、一平に向けて人のように構えを取っている。
少々間抜けな図にも見えるが、侮るのは危険だと一平は警戒。
「ジェノムの改造人間か!」
一平も受けて、構えを取って変身。腰周りにベルトが実体化し、タイフーンエンジンが回転してエネルギー
フィールドを張って身を守り、その中でパズズに変わった時点でフィールドが解除される。
変身を終えたパズズが、ヒトデの怪物と対峙していたとき。
もう一体の伏兵が、不意を突いた。
海中から無数の触手が伸び、パズズの体に後ろから巻き付いて動きを封じる。
「何!?」
パズズは踏ん張って抵抗するが、次第に海に引きずりこまれていく。
海中には、これも巨体の改造人間がいた。そのまんまイソギンチャクの体の下から、人間の足が二本生えて立っているだけ。
「ライダーをおびき寄せるための餌としてブラフの情報を巻き、実際に来たのはいいが」
隠しカメラで戦況を捕捉し、イカロケンの研究室でモニターしているデスコピオ。
尚、一平=パズズが調査していた付近には、壊されても痛手でない程度に安普請の、ダミーのアジトも用意してある。
デスコピオ達がいる場所が本物。
「奴が変身する前に攻撃すれば、より大きなダメージを与えられたのではないのか?」
イカロケンに尋ねるデスコピオ。
「意図してか?」
「仮面ライダーはわしら先天的改造人間と違い、元々は普通の人間が後から外科手術を受けて造られた
ものらしいな。グランゲラのような後天的改造人間に相当する」
「そう聞いているが、それが?」
「お前さんも知っての通り、わしらは『かつての組織』の技術を各方面で実験的に取り入れているが、まだ未知の部分が多く、
使いこなせてはおらん。特に後天的改造人間については、殆どが知能の低いけだものそのものになってしまうという点で
大きく遅れを取っておる」
ちなみに、雑役用の後天的改造人間を造るための素体となる人間を、ジェノムが何処から調達しているかというと、
ホームレスや外国人不法侵入者等で行き倒れて死に立てか死に掛けになった者を腐らないうちに密かに回収して
使用している。戦闘員アリント等もほぼこのケースである。
「しかし、あの仮面ライダーは後天的改造人間でありながら人としてのまともな自我を保ち、しかも戦闘性能においても
ジェノムメンバーの中堅クラスをも凌駕するものがある。わしはその仮面ライダーに、サンプルとして大いに興味がある」
「・・・イカロケン、目的は判っているだろうな? 我々の活動を邪魔する仮面ライダーパズズの排除・・・」
「判っておるよ。只、奴のデータを取れるだけ取るのは奴への対策、その後のジェノムの活動において役立てる意味でも
決して無駄ではあるまい」
「程々にしておけよ」
様子を見ることにするデスコピオだが、いい気分ではない。
そもそも、ある日突然人でなくなったことで裏の世界に身をやつさざるを得なくなった先天的改造人間である。
わが身の問題ではないといっても、他の者が改造人間にされることにいい感情を覚えない者もいる。只、イカロケンに
ついては、そうした感情よりも研究欲の方が優先しているということである。
イカロケンのデータ収集という狙いにより、下級の後天的改造人間・イソガインはパズズを海中に引き込んで
尚も攻撃を続ける。しかし、イソガインにもグランゲラ同様高度な判断力はない。指示が入らない限り、己の食欲に素直に
従い、無数の触手の根元の巨大な口でパズズを飲み込んで単に消化する気である。イカロケンにしても、このままパズズが
ろくな反撃も出来ないようであればそのまま食わせるつもりである。
そして、最初はもがいていたパズズだが、やがて、その手足から力が抜けた。そのまま飲まれていく。
静かな小波を立てる海面。
だが、その静寂は突如破られた。
一帯の海面から激しい電撃が迸る。
暫く続いた放電が収まり、煮えた魚が次々浮いてくる。
続いて、イソガインの焼け焦げた破片が大量に浮いてくる。
最後に、全身から湯気とスパークを放つパズズが海から立ち上がった。
途中で下手に抵抗して力を消耗するのをやめ、自らイソガインの体内に飲み込まれ、内部で消化される前に
エレクトロトラップを発動して電撃でイソガインを倒したのである。
水を滴らせて立っているパズズは、続いて、まだ残っているヒトデの怪物を睨む。
(俺がイソギンチャクと戦ってる間、こいつは何もせずに傍観していた・・・アクロソバットのときのように、
又消耗した俺に追い討ちを掛けるつもりか・・・?)
来るなら来い、まだまだやれるぜと身構える。
だが、ヒトデは挑んでくることはせずに後方に跳び、飛沫を上げて海に飛び込む。
そのまま海は静まり返り、攻撃が来る気配はなくなった。
「・・・逃げた・・・?」
「ご苦労じゃったな」
「何と言うことはありません、イカロケン博士」
デスコピオと共にアジト内で待っていたイカロケンの前に帰還したヒトデの怪物が、丁寧な言葉を発して答えた。
五本の触足のうち、真上に伸びた頭に当たる部分の表皮が縦に裂け、臓物のような質感の、目鼻と口のある顔が現れた。
その目には、高い記録・分析性能を持つカメラと計測器が仕込まれている。
水中の戦闘状況までも透視し、間近でパズズの戦いを観測していたのだ。
「取り合えず取れた戦闘データを元に、仮面ライダーパズズに対抗するための強化改造をお前に施す。
矢面に立ってもらうぞ、カイセイ」
「お任せ下さい」
ジェノムメンバー・カイセイは、下位の後天的改造人間ではなく、先天的改造人間の中堅であった。
続く。
お疲れ様です。遅れましたがまとめに掲載させていただきました。
アルファの作者様と知って吹いた俺ROMラー
掛け持ちで連載とは貴方が神か
357 :
名無しより愛をこめて:2007/03/27(火) 21:20:23 ID:dCjnVADA0
ageとこうよあぶねえぞ
>>356 作者です。有難うございます
いえ、あっちのほうは最終回を迎えて一段落ついたので。
流石に同時は無理っす。
ジェノムメンバー・カイセイの活躍に期待します。
面白くなりそうですね。これまとめて同人誌にしてほしいです。
>>331なのか、そういう褒め方が流行りなのか・・・。
保守
ほしゅ
363 :
名無しより愛をこめて:
来たれ新規