東映ヒーローオリジナルSS集

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74名無しより愛をこめて

ナオミはモモタロスにコーヒーを振る舞うと、買い出しに行ってしまった。
食堂車ではモモタロスが一人、良太郎から借りたルービックキューブに悪戦苦闘していた。
一面すら揃えられない。こいつを楽に元に戻す良太郎はおかしいぞ――モモタロスはこの遊びに段々飽きはじめていた。
少し空気が騒がしい。そろそろか。
「モモ」
ほうら来た。奴だ。
モモタロスはやりかけのルービックキューブを机に置いた。
「あァ?何しに来た、ハナクソ女」
「ご挨拶ね」
食堂車に入ってきた女性は仁王立ちになって言った。
ハナクソ女こと――ハナ。
良太郎と同じくらい――若しくはそれ以上に――モモタロスは彼女に頭があがらない。
モモタロスはまた拳が飛んでくるものと、思わず身構えた。
最近ついてしまった癖に、自分自身が悲しくなる。
「そんなに怯えなくったって良いじゃない」
――おっと、構えたのは不可抗力とはいえ、その言葉は聞き捨てならねェな。
言動がいちいちカンにさわる、当然語気が荒くなる。
「誰が怯えてるだと!」
「待ってよ、喧嘩しに来た訳じゃないんだから」
「じゃあ何しに来たんだ」
至極もっともな問いにハナは、答えの代わりと言わんばかりに紙袋を突き出した。
ベージュ色で、黒に近い茶色の文字が袋の端に書いてある。
ミミズがのたくった様な文字に答えが書いてあるとは思えず、再度聞き直した。
「何だァ、こりゃあ」
「あんたのはこっちよ」
言うや否や、突然顎を掴まれ、何かを口に放り込まれた。
口のなかに甘い臭いが広がった。
75名無しより愛をこめて:2007/02/16(金) 12:16:29 ID:GYcapQ+TO

「……甘えな」
「当然よ、チョコレートだもの」
モモタロスは、そういや確か今日は良太郎カレンダーは二月十四日だったか、とぼんやり思った。
デンライナーの中にいると、日付を忘れそうになる。
今は、モモタロスは良太郎の世界の日付を基準に行動している。
しかしながら、ハナがそんなイベントに精をだしているとは思わなかった。らしくない。殴られるのは目に見えているので、あえては言わなかったが。
「味オンチのイマジン様のお口にはあった?」
「るせェや――うん…まあまあだな」
「そう」
ハナは椅子に腰かけ、勝手に話し始めた。
モモタロスのチョコレートは試作段階のチョコで、失敗も同然だという事。
良太郎とオーナーのチョコレートは別に用意してあること。
失敗チョコを押し付けられたのは釈然としなかったが、もっとよこせと催促すると、ない、という短い返事が返ってきた。
76名無しより愛をこめて:2007/02/16(金) 12:18:48 ID:GYcapQ+TO

「ねえ、モモタロス」
「何だ」
「もっと良太郎の事気遣かってあげてね」
パートナーなんだから。――何もない空間を見つめながらハナが言った。
何とも言えない不可思議な空気が流れた。
最高に居心地が悪い。モモタロスは軽口を叩こうとして、やめた。
――こんなんは苦手だ
「ああ、考えておく」
「そう」
さっきの『そう』とは明らかに違う語調と、こちらを見つめてふわりと微笑むハナがいた。
――だから、こんな雰囲気は苦手だっつーんだ。
全く、調子狂うぜ――
机に視線を落としてモモタロスはルービックキューブを手にとり、作業を再開した。
ハナは何も言わず、それを見つめている。
デンライナーの扉が開いた。
「こんにちは 」
「あっ、良太郎!」
「おう、元気だったか良太郎」
良太郎は、昨日会ったばかりじゃないか、とにっこり笑った。
「良いじゃねえか、挨拶くらいどうだってよ」
「まだやってたんだね、そのルービックキューブ」
「コイツが難しすぎんだよ。誰も解けねえよ、こんなもん」
ハナは微笑んでいるが、さっきのような気まずさはもうない。
良太郎が来てから、ようやくいつもの感じを取り戻せた気がした。
モモタロスは、底に少しだけ残った、冷めたコーヒーを飲み干した。

END