おまいらウルトラQの脚本を創ってください。再×3

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1第X話
512kb超えちゃいましたoTL
誘導貼らなくて御免なさい

前スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1141268822/
2第X話:2006/11/14(火) 06:18:06 ID:UXQfoxqP0
現在まとめサイト構想中………
前スレより引き続きます。
3名無しより愛をこめて:2006/11/14(火) 07:46:19 ID:I6UbHX0T0
わたしもすっかり512規制のことを忘れとりました。
この手のスレなら512の発動は必至(笑)。
しばらくはageておいた方がいいのでは?

と、いうわけで応援。
4第X話 彼方からの彼女:2006/11/14(火) 07:59:45 ID:LMepAO1t0
一瞬、耳鳴りのような音がした。
振動が小屋を駆け抜ける。────中心の始祖ザラガスが震えていた。その内停止する。
不安げに周囲を見渡す変人女(平行)。

「さて…………」
変人女が目を泳がせる。目に留まったパイプイスを持ち上げた。
「ちょ、何する」「……せえの───」
振りかぶって──────── バ カ ン !!飛び散る石の破片。
あっさりと、禍々しく中心に据えられていた始祖ザラガスが砕け吹き飛んだ。何かの赤い液体も飛び散る。
血のように赤い液体の中に、ビクビクと動く内臓のようなもの。ソレを、

ビチャリ。変人女が踏み潰した。

あっけに取られる変人女(平行)のポケットからマイクを奪う。スイッチを入れた。
「あーあー、聞こえる?オペでも防衛庁長官でも総理大臣でも八百屋のおっちゃんでもいいからどーぞー」
ブツブツザーザー音がする。やがて返信。
『……った、貴様かっ!一体どういう事態か説明しろ!何でザラガスが無限1upしまくってるん』
「たった今ザラガスの即進化適応能力を無効化しました。思う存分うっぷん晴らしちゃってくださいなー」
『な、ちょっと待』
スイッチOFF。マイクを卓上に置く。放心した表情の変人女(平行)
「…………………何で、どうやって……人間一人でDNA変異分析なんて出来る訳が………」

「一人なら、ね」
足元の赤い液溜まりを踏みしめる。「あんた、平行世界から来たのは自分だけだと思ってた?」
「バカ云ってんじゃないわよ、平行世界間の移動なんて、それこそザラガスでもないと────」
「そ。ザラガスかもしくは”ザラガス小体の元の細菌”でもないと、ね」

変人女が、人差し指で自分の頭を指差す。
「今あたしの頭の中には────”ザラガス小体の元の細菌”をモデルにしたナノマシンが詰まってる」
「……え?」
「今現在のあたしは、無限に近い平行世界のあたし達と繋がってるのよ」
5第X話 彼方からの彼女:2006/11/14(火) 08:02:53 ID:LMepAO1t0
変人女(平行)と出会った頃から発症した謎の高熱。レントゲンに移った謎の脳腫瘍。
それはナノマシンが変人女の脳内に取り付き、インターフェイスを構築する間の拒否反応。
構築が終了した後、彼女の脳はナノマシンを介し他の平行世界の自分と繋がった。

────無限の自分との巨大ネットワーク。フルに使えばDNA分析でさえもた易い事。
「只、正直他世界の自分たちと折り合いつけるのが大変だったけど。しょーもない奴も居たし」
ああ疲れたといった風情で溜息をつく変人女。

変人女(平行)がうなだれる。
「…………そっか、”あたし”が、ね………」
ゆっくりと机にもたれかかる。床の赤い液溜まりを見て、それから顔に手を添えた。────泣いているのか。
「どうしようかなぁ────────……フフ」
流れる涙を拭う。拭えども拭えども、溢れ出す雫。
「  ……やっぱり、一人で、死」

「死ぬにゃまだ早いわよ」
変人女が小屋を横切り、扉を開ける。誰かを招き入れた。

「 ……ヨ、 お」
雑誌記者。只、動きが妙にぎこちない。「  ………ひサ シぶり、と言うべキ かナ」
泣きはらした顔で、怪訝な顔の変人女(平行)。
「 ……あー、 ワからんカ。 その、急造なんデ、インターフェイスが、  安 定しないイんで、ソの」
雑誌記者の目の中で、紫と茶色のマーブル模様が揺らめいた。
「  ………髪、切ったんダな。 三つ編みは、モう ……しないのか?」


「…………へ?」
短髪の変人女の、か細い、不思議を表す声。

「今コイツの体を、あたしの脳内のナノマシンと同じものがインターフェイスを形作っている。
 インターフェイスの人格は、人間────」
6第X話 彼方からの彼女:2006/11/14(火) 08:03:36 ID:LMepAO1t0
「……何で、三つ編みの事知ってるの?」
「 ………そリャ、知っテるさ。おレが三つ編み、教えたロ?」

「貴方の平行世界からの、お迎えよ」


変人女(平行)の顔が歪み、涙が溢れ、雑誌記者の胸に倒れこむ。
「何で!?何で、崩壊する地球も見たし、何度試しても、そっちの世界に戻れなかったのに────」
「……あー、それは だナ」
「生き残った世界が有ったのよ。殆どの平行世界が消失した中で、たった一本細い木の枝みたいなのが」
周辺の平行世界が根こそぎ消失してしまった為、彼女のザラガス石では観測も移動も出来なかったのだ。
生き残った世界からは、消えた彼女を探す為ザラガスの分析から創られたナノマシンを使用。
しかし人間そのものを送ることは不可能な為、意識をインターフェイス化して送り出したのだ。

「平行世界間が離れすぎててそうしなけりゃ移動が────────って、いいかげんにしなさいあんたら!」
顔を近づけ、見詰め合っていた二人を引き剥がす変人女。
「ほら、とっととコイツの身体返しなさいよ?説得できたでしょ?」
雑誌記者ががくりとうつむくと、顔の目や鼻からマーブル模様の液体が滑り出てきた。
変人女(平行)の掌にぽたりと落ちる。ゴムマリ状に丸くなった。


「さて────後一つ。あたしの脳内インターフェイスによれば、ソイツはあんたを連れ戻しに来たのよね」
ナノマシン同士を融合してフルに能力を使えば、彼女の元の平行宇宙へジャンプ出来る。
しかし、その一回のジャンプでナノマシンは焼ききれてしまい、二度と再生することはない。

「……如何する?あっちの世界の状況情報は、インタフェーイスに無かったわ」
一度滅びかけた宇宙だ。どうなっているか分かったものではない。
掌のマーブルゴムマリを眺めた後、大きく息を吸い込んで、変人女(平行)が一言。


「────決まってんでしょ。行くわ」
ニっと笑いあう、鏡像の二人。「………さっすが、それでこそあたしだわ」
7第X話 彼方からの彼女:2006/11/14(火) 08:04:18 ID:LMepAO1t0
「……んん?う゛ぁ」
雑誌記者がマヌケな声を上げて起き上がった。「何だ?一体何がどうなって」
「しっかり立ちなさいな、お見送りよ」

変人女(平行)の掌のナノマシン群が輝き始める。形を変え、螺旋を描く。
彼女の身体に沿って、くるくると巻き上がっていく。まるで光の羽衣のよう。全身を包み込んだ。

「…………迷惑、掛けたわね」
「いーわよ別に、いい経験だったしね。おたっしゃでー」
光に包まれる変人女(平行)がくすりと笑った。
「……云っとくけど、今まで見てきた平行世界のアタシの中で、貴方が一番『 ガ サ ツ 』よ?」
「ん゛な゛っ!?」
変人女が変な顔に歪んだ。


「フフ、もっと、おしとやかになりなさいな?  ………────じゃあねっ」

────光の粒子に包まれたかと思うと、少々の風を巻き起こして、彼女の姿は消えた。
恐らく、この宇宙からは。



「………おれにゃあ、殆ど区別はつかんがなぁ」
「ナ〜ニマヌケ面してほざいてんのよ、とっとと帰るわよッ!?大変なのはこれからなんだから!」
大股で小屋の出口へ向かう変人女。何故か肩こりが酷い雑誌記者。頭も痛い。何故だろう?


外では、ぽやんと車の陰に避難しているチーコちゃんと、体育座りで泣いている運ちゃんと、
演習場内で怪獣相手にドンパチ真っ最中の自衛隊の姿があった。
「さー、この中抜けて帰るわよ。徒歩で」

……徒歩で!?
8第X話 彼方からの彼女:2006/11/14(火) 08:06:33 ID:LMepAO1t0
結局、自衛隊にとっつかまった一行。
しかし変人女が如何機転を利かしたのか、今は帰りのバスの中。
────運ちゃんは途中で住所氏名連絡先を聞き出して丁重にお別れしたが。

チーコちゃんは靴を脱いで車窓を眺めている。既に夜、夜景が瞬く。
「じゃあ、お前や俺の頭ン中のナノマシンは、あの時点で全て破壊されたってコトか」
「そ。全ナノマシンが”あたし”を元の平行世界に送り込む為に使われたからね。残骸は後日排出されるでしょ」
もう、平行世界の誰とも繋がってはいない。
────────あの短髪の変人女は、無事に自分の世界へ帰れたのだろうか?

「────あんた、あのマーブルチックナノマシンの情報は記憶に残ってる?」
「ん?あ、まあ、うっすらと」
「…………じゃあ、何が起こってたか説明はこれ以上、要らないわね?」
「ん、まあ…………あ、一つ、分からないことが有るか」
「ん、何?」

「あのナノマシンとやらのインターフェイスって、結局誰の人格だったんだろな?」
「…………あんた、本気でソレ云ってんの?」
じとっとした視線を浴びせる変人女。たじろく雑誌記者。「────いや、あの……」
「いーわよ、企業秘密。あんたには教えない」
「……何だよ、そりゃ」


変人女がポツリと呟く。
「────あんた、三つ編みの仕方、知ってる?」
「ん?」
「何でも無い!」


三人の映る夜の車窓。チーコちゃんが向かい側の夜景を眺める。
その向うを、幾つもの灯明かりが過ぎ去っていく。
────そのどれもが、自らの照らし出す世界を抱えながら。
9第X話:2006/11/14(火) 08:11:45 ID:LMepAO1t0
長かった………前スレ>>47殿、お待たせしますた。
平行世界ネタは無謀すぎた('A`)

まとめは暫く待って下さい。とゆーか前スレ以外の作品はPC沈没の影響で
自分の分しか残ってませんが。
新都社あたりでいこうかな?
10名無しより愛をこめて:2006/11/14(火) 12:33:30 ID:I6UbHX0T0
ではご紹介いただきましたので、拙作駄文。投下させていただきます。
連投禁止との関係や、X話氏新作準備の時間稼ぎも兼ねまして15〜17日の三日に分けての分割投下。
さて、どうなりますやら……。
11A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:35:58 ID:I6UbHX0T0
よく「となりの芝生は青い」と言います。
でも、本当のところは「青く見えるだけ」。
実際は、自分のところと五十歩百歩というところでしょう。
でも、これからお話しするのは、隣りの芝生に立ち入ってしまった男の物語です。

りりりりりりりりりりん!
りりりりりりりりりりりん!!
鳴り響く目覚しのアラーム。
やにわに手が伸びると、目覚まし時計をがっしと掴んで毛布の下に引きずり込み……そして数秒後……。
「やばい!寝過ごしたぁ!」
若い男が布団を跳ね上げ飛び起きると、二日酔いの頭に水道水をばしゃばしゃ引っ掛け、そしてその十数秒後にはズボンのベルトを締めながら玄関を飛び出した。
ドアを手荒く閉めたショックで、玄関脇にかけられた「××ハルオ」と書かれた名札が落っこちた。彼が本編の主人公である。

A級戦犯 「隣りの芝生」

ワイシャツの裾をズボンの下に押し込みながらアパートの階段を転げるように駆け下りると、門を飛び出してすぐのところにアパートの大家が背中を向けて立っていた。
足を止めることなく「お、おはようございまっす!!」と一声挨拶。あとは駅に向かっていっさんに駆けていった。
……あまりに慌てていたので、いつもは快活な大家が自分に挨拶を返してこなかったことに、ハルオは全く気がつかなかった。

12A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:37:41 ID:I6UbHX0T0
いつもの路地を抜け、いつもの角を曲がる。
そして……。
(……今日はここを抜けてくか…)
少しでも近道するため、いつもは通らない児童公園へと道を折れた彼の目に、公園入り口を塞ぐように倒れた自転車が飛び込んできた。
「○×牛乳」と書かれたその自転車をとっさに飛び越え、そのままの勢いで公園内に数メートル走りこんだところで、ハルオの足はぴたりと止まった。
(……ど、どうかしたのかな??)
………こちらに背中を向け、地べたにぺたっと尻を据えて、男が座っていた。
見覚えのある後ろ姿、顔見知りの新聞配達だ。
そしてその前に誰かが仰向けになって倒れている。
新聞配達の体の陰から見えている前掛けには「○×牛乳店」と書かれていた。あの倒れていた自転車の主に違いない。
新聞配達は牛乳屋の上半身に覆い被さる姿勢でいる。
空気には金くさい臭いが漂い、ビチャビチャと水気を感じさせる音が聞こえてきた。
ハルオはその金属臭が、むかし子供のころ野球をしていて自打球が鼻に直撃したとき嗅いだことのある臭いであるのを思い出した。
「……そうだ、この臭いは……。」
思わず彼が口に出してそう呟いたとき、座り込んでいた新聞配達が振り返った。

「…………………ち…………血いいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

ハルオが思わずが叫んだのと、血まみれの歯を剥き出して新聞配達が立ち上がったのとは、全く同時だった。
13A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:39:47 ID:I6UbHX0T0
(ゾンビがくるりと輪を描いたぁ♪)
目の前に血まみれの口が迫ったとき、まず最初にハルオの脳裏を過ぎった言葉がそれ。
次に、脈絡を取り戻した思考がはじき出したのが(喰われる!?)という言葉だった。
怪物の両手が彼の両肩をがっきと捉えた次の瞬間、ハルオは目の前に迫った肉食の怪物を火事場の馬鹿力で突飛ばすと、機械人形のような正確さでクルリと向きを変え、そして……。
サイレンのように絶叫を上げて走り出した!
「食べないでぇぇぇぇぇぇっ!」
牛乳屋の遺品である自転車をもう一度飛び越えると、もと来た道をまっしぐらに描け戻る!
「た、食べないでぇぇぇぇぇぇぇっ!」
だが、それまで人気の絶えていた路地のそこここから、ぐらつき、足を引き摺る人影が次々まろび出てきたではないか。
ハルオの叫びが、かえって怪物どもを呼び寄せているのだ。
だが、頭では判っているのに、彼の喉は叫ぶのを止めてくれない。
「た、食べないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」(さ、叫ばないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!)
声では怪物に哀願し、心では己自身に哀願しつつ、ハルオは寄って来る怪物をかわしてかわして、遮二無二走り続けた。
やがて、狭いながらも汚い、……いや、愉しい我がアパートが見えてきた。
(あそこに逃げ込めば、もう一度寝直せば、きっと何もかも元どおりに……)
サンクチュアリ目指して、ハルオは走った。
14A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:41:07 ID:I6UbHX0T0
アパートの屋根が、アパートの塀が、アパートの入り口が、そしてその前に白髪の老人が立っているのが見えてきた!
(あっ!大家さんだ!大家さんが立っている。僕を迎えに出て来てくれている。ああ、こっちにやって来た………)
そして次の瞬間、大家さんの鼻先でハルオはバレリーナのように華麗なターンを決めた。
大家さんの口が真赤に染まっているのに気がついたのだ。
「た、食べないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
彼は走り出した。
さっきからぶっ続けに走っているので、もう心臓が口から飛び出しそうだ。
もういくらも走れないことは判っている。
おまけに自分のアパートに背を向けた瞬間から、もう何処に逃げるという宛てすら無くなっていた。
酸素不足で混濁し始めた彼の足は、再び駅への道を辿っていた。
ただし今度は児童公園の前を素通りし、いつも通りのルートを辿って…。
なぜか幸いなことに、それ以上怪物には出会わなかったのだが……。
(ひょっとすると、ゾンビの数って意外と少ないとか?)
だが、ハルオのそんな根拠の無い楽観は、駅前広場に飛び出した瞬間粉微塵に打ち砕かれてしまった。
(げぇ!?)
駅前には……怪物が満ち満ちていた。
元サラリーマンだった怪物たちは、人間だったころの記憶に突き動かされて、出勤しようと駅前に集結していたのだ。
「………ひ、ひいぃぃぃぃぃっ!」
ハルオの悲鳴を耳にした怪物たちが、一斉に振り返った!

15A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:42:55 ID:I6UbHX0T0
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」というハルオの悲鳴に、怪物たちが一斉に振り返る!
だが、それよりほんの一瞬だけ早く、ハルオの体は近くに据え付けられた自動販売機の陰へと強引に引きずり込まれた。ぶ厚く力強い手のひらが彼の口を押さえつけ、同時に有無をいわさぬ何かを備えた声が「騒ぐな」と彼の耳元で囁いた。
(わかった)という印に彼が頷くと、口を抑えていた手が静かに退いた。
ハルオが振り返ると見知らぬ中年男がそこにいた。
年のころは40代後半ぐらいだろうか?背はハルオよりも気持ち低いくらいだが、肩の幅と厚みがさりげない重厚さを滲ませている。整えられた髪型は、彼が硬い職業についていることを感じさせた。
肉の薄い、いかにも打たれ強そうな闘士を思わせる顔には、風貌に不似合いな若い瞳が耀き、そしてその手には………黒光りする回転拳銃が握られていた。
自分の拳銃にハルオの視線が釘付けなっているのに気づいた男は、弁解するように言った。
「オレはK。警視庁の警部だ。」
16A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:44:54 ID:I6UbHX0T0
『警部』……ひたすら混乱の中を駆け続けたハルオにとって、その言葉は天空から垂れる金色の糸かと思えた。
「警部さん!教えて下さい!今朝目が覚めたら、こんなふうになってたんです!いったい何が起こってるんですか!?教えて下さい!!」
K警部にすがりついて、ハルオは尋ねた。だが……。
「残念だが、オレにもわからん。別の世界から来たロボットの殺し屋と追っかけっこしてたら、知らないうちにこうなってたんだ。」
ハルオの目が点になった。「……べ、別の世界?ロボットの殺し屋??」
「天空から垂れる金色の糸」が「タヌキの泥船」に一変した。
「どうかしたか?」
「い、いいえ別に。」
「無理すんな。『こいつキチ○イだな』って顔に書いてあるぞ。」
そのとき、町のどこかでギャアアアアアッと悲鳴が上がった。
「誰かヤツラに喰われたな。」
断末魔としか思えぬ叫びを耳にして、それでも警部の声は冷静さを失っていなかった。
「あああ、あの、ボク、見ました。牛乳屋が、牛乳屋が……。」
対照的に、ハルオは歯の根も合わず、「……食われた」と最後まで言い切ることすらできない。
ハルオの真っ青な顔を値踏みするように見つめてからK警部が言った。
「ここに長居はできん。場所を変えるぞ。ついてこい!」
17A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:46:54 ID:I6UbHX0T0
警部は自分の上着を脱ぎ、手にした回転拳銃の撃鉄を起してからグルグル巻きに包み込むと、通りの向かい側に立つ駅ビル二階の広いガラスエリアに銃口を向けた。
ブムッという鈍い音は、ガッシャーンというガラスが割れ落ちて砕ける音に完全に掻き消された。
音に誘われたゾンビの群れが一斉に駅ビルに向かって移動し始めたのを見計らい、K警部は隠れていた自動販売機の裏から飛び出した。
だが……10数メートルほど行ったところで振り返ってみると、ハルオがついて来ていない。彼はまだ自販機の裏だ。膝が震えて歩けないのだ。
(このバカッ!ついてこい!)と身振りで合図する警部。
痙攣するように首を横に振るハルオ。
(さっさと来い!)と口の形で叫ぶ警部。
ハルオはやっぱり動けない。
半泣きの顔でイヤイヤをするだけのハルオに業を煮やした警部は、ハルオの決断を促そうとしてワザと置き去りにするような素振りを見せた。
「…お、置いてかないでぇ……。」
蚊の鳴くような声だったが、一番近くにいたゾンビをハルオへと振り向かせるには充分だった。
「見捨てないでぇぇぇぇ…。」
情けない悲鳴が、更に数体のゾンビを振り向かせた。
…ハルオのあまりのヘタレっぷりに、Kの顔に一瞬怒りの色が走った。しかし、Kはやはり「警部」であった。
鬼の形相のままで退っ返すと、ハルオの一番近くに迫ったゾンビを猛然とタックルで吹っ飛ばし、ハルオの手首を掴んで引き摺るように走り出した。
「い、痛い、痛い、手首が痛い。」
「贅沢言うな!このボケなす!」
18A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/14(火) 12:51:09 ID:I6UbHX0T0
「こら!少しぐらい自分で走れ!」
「そんなこと言ったってぇ…(泣)。」
地回りの捜査で足腰には自信のあるK警部だったが、ハルオを引き摺りながらでは分が悪い。おまけに追っ手は決して足を止めるということの無い、死者の群れである。
さらにまずいことには、路地の横道から警部たちの行く手を阻むように新手のゾンビも這い出して来た!
「うおおっ!」
追いついて来たゾンビを、体をかわしながら警部は背負い投げでぶん投げた。
新手のゾンビの一群は、先頭の一匹に体当たりをくらわしてボーリングの要領で一群れ一気に蹴散らす。
だが「ああっ、また大勢来た!」というハルオの悲鳴に警部が振り向くと、学生服を来たゾンビの大群がちょうど角を曲がって姿を現したところだった。
はっとして腕時計を見ると時刻は8時15分をまわったところ。
「しまった、元学生のゾンビの登校時間にぶつかった!」
駅の方角からは元サラリーマンのゾンビ、住宅地からは元小中高の学生ゾンビ、近くの家からは元主婦?のゾンビまでよろめき出てきた。
「まずいぞ、完全に囲まれちまった。」
「ど、ど、どうしましょう?警部ぅぅ。」
警部は…ただちに腹を決めた。
「オレが突っ込んで、なるったけヤツラをひきつける。そのスキにオマエ、逃げろ!」
「警部は?!」
「突っ込んでから考える。」
考えるまでもない。突っ込めば死ぬだけだ。Kだって死にたくはない。
でも、死にたくなくとも、Kは「警官」だった。
「じゃ……いいか?いくぞ!」
19名無しより愛をこめて:2006/11/14(火) 17:23:24 ID:I6UbHX0T0
10で「15日から3日に分けて」と書いときながら、なんで14日から投下開始してるんだ?
わたしゃアホか?
20A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/15(水) 08:02:18 ID:kA+p3wq50
「じゃ、いいか?いくぞ!」
だが、K警部が飛び出す寸前、ボンッ!!という音とともに駅から来たゾンビの一群の中に火の手が上がった!そして…ボンッ!こんどは学生ゾンビの群れでも爆発が!?
(火炎瓶だな!?投げたのは…)
ハルオが辺りを見回すと、交差点の角に立つ建物の二階窓から男が身を乗り出している!
その男が叫んだ「ドアを開ける!一階の通用口に来るんだ!」
「は、はい。」
もう一発火炎瓶をゾンビの群れの中に投げ込むと、男は窓から引っ込んだ。
ハルオは言われたとおり、ビルの通用口めがけて突っ走った。
(もし……もしあのドアが開かなかったら?)
そんな考えが、ふと頭を過ぎったとき、ガチャッと音を立てて通用口が開いた。
ドアを手で抑えながら、さっきの男が叫んだ「早く!」。
だが、ハルオが通用口に飛び込むと、男は手早くドアを締めて施錠までしてしまった!
「ま、まってください!まだ警部が!!」
直後、ガンガンとドアを激しく叩く音が始まったが、鉄製のドアはびくともしない。
ドアを乱打する音に負けまいと、ハルオは声を張り上げもう一度言った。
「開けてください!K警部がまだ外にいるんです!」
だが、男は不思議そうな表情で答えた。
「K警部?……ワタシが見たときは、アナタ一人だけでしたが?」
21A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/15(水) 08:06:54 ID:kA+p3wq50
「……この建物の一階部分はコンビニになってるんで、たぶん強盗対策なんかもしてると思います。ゾンビなんかには破れませんよ。」
キツネにつままれたような顔のハルオを引き連れ、男は建物の二階部分へと上がると、ニッコリ笑って右手を差し出した。
「大学で講師をやってます。Mといいます。」
Mとハルオがいるのは、ついさっきMが身を乗り出していた窓のある部屋だった。
そこには狭いながらも流し場と給湯設備、そしてトイレまで備え付けられている。
窓辺には酒ビンがならんでいた。
「映画をマネして火炎瓶を作ってみたんですが、結構使えるもんですね。でも下のコンビニにはガラス瓶はたいして無いんですよ。紙パックばっかりで。これじゃあ容量が少な過ぎますしね……。」そう言ってMは醤油の卓上ビンを摘み上げて見せた。
「あ、あの……M先生。」
「Mでいいですよ。ここじゃ大学講師なんて肩書き意味無いですから。」
「……Mさん。教えて下さい。いったい僕らの世界に何が起こってるんでしょうか!?外のゾンビの群れは何なんですか!?」
Mは手にした小さなガラス瓶を窓辺に戻すと、ハルオの言葉を呪文のように復唱した。
「僕らの世界に何が起こってるんでしょうか?……、アナタはそれが知りたいんですね?」

22A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/15(水) 08:12:10 ID:kA+p3wq50

「『僕らの世界に何が起こってるんでしょうか?』……、アナタはそれが知りたいんですね?」
ハルオは、Mが「僕らの世界」という部分を微妙にゆっくり喋ったのがちょっと気になった。
「それでは、その質問に答える前に……。」
Mは近くの事務机の上に広げっ放しになっている地図を指さした。
「これは一階のコンビニに置いてあったこの辺りの地図です。まずはハルオくん、これを見てもらえませんか?」
「この辺りの地図を?……ボクはこの辺に住んでるんですけど……これがいったい……。」
「この近所の住人ならなお好都合ですね。…まあ目をお通してみてください。」
不審げな様子で地図をしばらく眺めていたハルオであったが、やがて眉間に盾ジワを寄せて呟きはじめた。
「…………あれ?こんな橋、あったかな?道のカーブもちょっと違うみたいな……。」
Mが横合いから訪ねた。「町の名前は?どうですか?」
「町の名前?…………町の名前はもちろん………あ、あれれれ!???」
にわかに同様し始めたハルオに対し、更に畳み掛けるようにMは尋ねた。「ハルオさん、アナタの暮らしていた町は何という名前ですか?」
「ぼ、ぼくの住んでるのは曙町……でも、こ、この地図には………」
ハルオの指が地図の地名を辿っていった。
「す、杉…………本…………町……、でもそんなバカな。だってここは曙町で……」
混乱気味のハルオの言葉を制すと、静かな声でMは言った。
「ハルオくん。アナタはさっき『僕らの世界』と言いましたね?キミのその設問の仕方は誤りです。」
「あ、誤り?でも、いったいどこが間違ってるって言うんですか?」
まるで生徒を前に講義でもしているような口調でMは答えた。
「いいですかハルオくん。ここは『僕らの世界』ではありません。」
23A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/15(水) 08:16:53 ID:kA+p3wq50
「ワタシやハルオくん。それからハルオくんが会ったK警部も、何らかの事故で別の世界から迷い込んだのだと思います。」
「いわゆる並行世界とかいうヤツですか!?それでボクらはボクらの居た世界から、このゾンビがうろつく世界に飛び移ったとでも??バ、バカバカしい。そんな考え、いまどきSFファンだって相手にしてくれませんよ!」
だが、そこまで喚き散らしたところでハルオは思い出した。
K警部は言っていなかったか?「別世界から来たロボットの殺し屋を追っていた」と??
「なるほど」ハルオの話しを聞いてMは言った。「…そのK警部という方は、自分の世界で異世界からの侵入者と既に接触していたんですね。そして今度は自身が他世界への侵入者になってしまったと……。」
「でも、でもでもでも」一人納得できないハルオはなおも食い下がった。「このゾンビどもはどう説明するんです!?たしか隣り合った並行世界同士の差異はごく小さいんでしょ?なのになんで隣りの世界にゾンビがいるんですか!?」
するとMは、流し場に干してあった手拭を手にとって広げて見せた。
「一つの例えですが……。この布の繊維のように、並行世界はいわば同一の平面を並行に走る無数の糸です。しかし、この面を裏返せば……」
Mは手拭を裏がえした。
「このとおり。もうひとつの平面が存在しますよね?」
「…いったい何が言いたいの??」
「これは仮説とすら呼べないレベルの考えですが…。」前置きしてからM先生は続けた。
「……表の並行世界を混線させた何かが、表と裏の世界、つまり『≪僕らの世界≫の隣りの世界』とその裏側の『死者の世界』をも混線させたのではないでしょうか?」
24A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/15(水) 08:19:21 ID:kA+p3wq50
「並行世界の壊乱が起こって、生者の世界に死者の世界が重なったとき、この世界の人間は一人残らず『生きている死者』になったんだと思います。」
「それじゃあ僕らは……。」
「並行世界の壊乱は、ワタシたちの世界ではたぶん深夜に起こったんでしょう。
ワタシは……深夜2時ごろでしょうか?近くの町で発生した猟奇殺人事件の調査をしている最中突然何者かに襲われて……、気がついたらこの死者が歩く町に居たんです。」
「それじゃあ僕は眠っているあいだに……。」
軽く頷いてからMは話を続けた。
「ワタシやハルオくん、K警部のような『生きている死者』ではない人間は、たぶん全員他の並行世界から巻き込まれた犠牲者なんだと思います。」
「それじゃK警部もゾンビの餌食に!?」
「あるいは何らかの原因で元の世界に戻れたのか。」
元の世界に戻れる!?
それは一抹の希望といえたが、「何らかの原因で」というオマケつきでは、とても喜べるものではなかった。
Mは窓から空を見上げてみた。
二人のいる部屋から見える空は雲ひとつ無い晴天であり、不幸の兆しは何一つ見出せない。
が、ひとたび下に目を転じれば、そこには血まみれの口を開いた「生ける死者」が群れ集っている。
「………いったい何が原因なんだ…。」空を見上げてMは呟いた。
「……何が並行世界の壊乱を引き起こしているんだ?」
…………
そのとき、だしぬけに大地がグラッと一度だけ大きく揺れた。
同時に、Mの見上げていた青空に、真っ赤な入道雲がもくもく立ちあがっていく!
「……こ、こんどは何がおこるワケ?」いつのまにかハルオも窓枠にしがみついて立ち昇る赤い入道雲を見上げていた。「…赤い入道雲だから血の雨が降るとか??」
「それよりハルオくん!見ましたか!?」興奮気味の口調でMも言った「一瞬だが周囲の光線が一点に向かって褶曲したように見えた……この現象は………まさか!?」
だが、そのMの言葉を遮るように、グオオオオオオッ!という獣の咆哮が轟いた!そして、赤い雲の中から、ヘラクレスオオカブトムシを思わせるような漆黒のツノが!
「あぶないハルオくん!窓から離れるんだ!!」
M先生が叫ぶのと同時に、ハルオたちのいるビルもガラガラ音を立てて崩れだした!
25ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2 :2006/11/15(水) 13:49:32 ID:9LSbeEWw0
前スレが512規制にかかるほどに続いた事は、ほんとにめでたいですね。
これからも応援いたします。

26A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/16(木) 07:57:42 ID:j5EQDP6s0
………………
(………う、うう…頭が痛い、体が動かない。ボクはいったいどうしちゃったんだろう?そうだ……、寝過ごして………それから……。)
意識が戻ったとき、ハルオの体は何か大きなものに押さえつけられていた。
(…………公園……自転車……生きている死者……K警部……M先生……赤い入道雲……………そうだ!黒い怪物!)
はっとして目を見開くと、視界は一面の血の色だ!
「うわあっ!」
叫び声をあげてハルオは飛び起きた。
……落ち着いてあたりを見回すと、彼は半ば以上崩れ落ちたビルの中に立っていた。
時刻はもう夕刻。部屋の中は夕焼け色に染め上げられ、ハルオの後ろには偶然ハルオの上に覆い被さり、瓦礫に対する盾代わりになってくれたパーテーションがひん曲がって倒れていた。
血と見えたのは夕焼け、巨獣の手と感じられたのはこれだった。
「そ、そうだ!あの怪獣は!?」
ハルオのいるビルは半壊状態でもち堪えてくれていたが、狭い通りの向こうのビルは完全に崩壊し、西日に向かって視界が大きく開けていた。その遥か彼方へと沈む夕陽のその中に、黒い染みのように浮かんでいるのは、紛れも無くあの漆黒の一角巨獣だった。
以前は壁のあったところに立って下を見下ろすと、瓦礫が下の狭い通りを完全に埋め尽くしており、ビルを取り囲んでいた「生きている死者」の群れはこれの下敷きになったようだった。
「生きている死者」からの脅威はひとまず逃れた格好だったが、一角巨獣は健在だった。
「そうだ!M先生は!M先生はどこに!?」
慌ててひっくり返ったデスクの下を覗いたりロッカーを動かしてみたりしたが、Mの姿はどこにも無い。
「M先生!どこにいっちゃったんですか!?」
……返事は無い。
(まさかM先生も、K警部のように……消えちゃったとか?)
見知らぬ異界で一人ぼっち……その事実が認識されると、内臓を揉みくちゃにされるような感覚、そして吐き気がやって来た。
「K警部!M先生!!……だれか!誰でもいいから……誰か返事してぇぇぇっ!」

そのとき、背後の男子便所で、誰かが身動きする気配がした。
27A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/16(木) 08:43:25 ID:j5EQDP6s0
ぎっ、ぎしっ……ぎ、ぎぃぃぃぃぃぃっ!
蝶番が歪んだらしく動きの悪くなった男子便所のドアを押し退け、中から異様な風体の人物が現れた。
…いや、「人物」と見せたのは、ハルオの人恋しさだったかもしれない。
普通なら、外のゾンビどもの仲間か異星人だと思っただろう。
それほどに、その人物は異様な姿をしていたのだ。
汚物のカタマリと見紛う巨大なリュックに埃っぽい外套。背中に回るアンテナが見えるので、リュックの中は機械らしい。
頭には三度傘みたいなものを被り、顔にはゴーグルにマスクをしている。外套から伸びた手がマスクを外した。意外と人間らしい手と口が見えた。自分が出てきた場所を振り返り、呟いた。
「…………何で男子便所なのよ。オマケにくっさいし」
謎の人物は呆然と立ち尽くすハルオには目もくれず、彼の横を素通りすると西日に溶けてゆく巨獣に向かって言った。
「やっぱりここにもいたか……ザラガス。」
(え!?日本語??)
ハルオには謎の人物とザラガスとの因縁など、全く知るよしも無かった。
ただ、自分以外の人間がいたということ、そしてそれが日本人らしいということがむしょうに嬉しかった。
「(に、日本人だぁ!)わあい!」
思わずハルオは歓声をあげ相手にむしゃぶりつくと、相手の体に腕を回し……
……だが!?ハルオの両腕が、予想もしていなかった情報をもたらした!?
(あ、あれっ?これってもしや……)と思った直後、
がすっ!
鈍い音とともにハルオの視界に火花が散った。
謎の人物の稲妻のようなグーパンチが頬に炸裂したのだ。
(お……女の人だったのね……ごめんなちゃい……)
ハルオの意識は闇へと沈んでいった。

28A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/16(木) 08:48:17 ID:j5EQDP6s0
りりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりん!
「うわあっとぉ!?」
目覚し時計の絶叫にハルオは飛び起きた。
周りを見回すと、そこは廃墟の二階などではなくアパートの自分の部屋だった。
夕陽が部屋を血の色に染め上げてもいない。
黒い一角巨獣も、あの「変な女」もちろんいなかった。
(あれは……夢だったのか?)
叫び続ける目覚ましを叩くように止め、時刻を見るともう8時近い。
いつもなら30分以上前に出社しているはずの時刻だ。
「まずい!寝過ごした!」
29A級戦犯/「となりの芝生」:2006/11/16(木) 08:51:16 ID:j5EQDP6s0
「寝過ごした!」と掛け布団を蹴飛ばすようにして立ち上がり………だが、そこでハルオはふと考えた。
「ボクって……ちゃんと生きてるのかな……。」
死んでなお通勤しようと駅前に集まっていた元サラリーマンの「生きている死者」たちと自分の姿が何故だかダブって見えた。
ハルオの心に誰かが問いかけた。
(アイツらとオマエ、何処が違うんだい?惰性で生きているのならボクもアイツらも違わないじゃないか?)
「いや!アイツらとは違う。ボクは生きているんだ。そうだ……生きている。自分の道は惰性じゃなく自分で決めることができるんだ!」
(ほんとにそうなのかい?オマエは自分の進む道を本当に自分で決めてると、言い切れるのかい?)
K警部、M先生、そして最期に出会った「変な女」。
異界で出会った3人はあの世界で、3人なりのやり方で間違いなく生きていた。でも自分はただ状況に流され、右往左往していただけではなかったか?
いやあの世界でだけではない。
職場の同僚や友人知人が成功すればこれを羨み、けれども自分の在り方は何一つ変えようともせず、それこそ惰力で生きてきたのではないか?
「……それでもボクは生きていると?」最後の疑問は、彼自身の口から出たものだった。
……すとん……。
ハルオはたった今飛び出したばかりの布団の上に座り込んだ。
「………今日は……休もう。」
ハルオにはちょっとだけ時間が必要だった。
自分はどうあるべきなのか?あるいは何がしたいのか?もういちど自分自身に尋ねてみるために。

*ナレーション
あの異世界でのできごとは、本当にハルオくんの夢に過ぎなかったのでしょうか?
それとも彼は異世界に行き、そして生還を果たせたのでしょうか?
いまとなっては確かめる術はありません。
でも、ハルオくんにとって、それはどっちであっても関係ないでしょう。
なぜって、彼はあの異世界でとても大事な何かを見出してきたのですから。

「となりの芝生」
お し ま い。
30名無しより愛をこめて:2006/11/16(木) 12:32:15 ID:j5EQDP6s0
お粗末なデキで恐縮です。
X話氏の巻き添えアク禁期間中の中継ぎ駄文として急造したもので中継ぎに徹するものとして……
1.あまり複雑なプロットは採用しないこと。
2.中断となっている遊星氏の作に対しても中継ぎと読める内容になっていること
3.両氏の作との関係で並行世界ネタとすること
4.最初のうちは並行世界ネタだとは判らないようにすること
5.両氏の作品が再開したとき邪魔にならないオチであること
……を念頭に構成してみました。
笑ってお許しくだされば幸いです。
31名無しより愛をこめて:2006/11/17(金) 10:23:57 ID:vSWtWdZb0
応援!!保守
32第X話:2006/11/19(日) 02:58:25 ID:CUJMB1g/0
>>30
有難うございました。
そんだけの縛りで書いてたんですかw
いや、ゾンビネタはあんまり知らないんで展開どうなるかと思ってたんですが。
またお願いします。

まとめに関しては、自分の初期作品リライトしようかと考えてますので
期待しないで気長に待ってて下さい。
33第X話 妄想月世界:2006/11/19(日) 05:22:37 ID:CUJMB1g/0
晩秋の陽はつるべ落とし。

その言葉が似合うように、既に外は薄暗い。西の空に厚い雲がかかっているせいだろう。
その薄暗い中、黒山の怪物の様に圧迫する建物。その内一つの部屋に灯る電気。
内部のひんやりとした廊下を進み、その部屋まで辿りつくと、プレートが貼ってあった。……”4年3組”

「へぷち」
ヘンなクシャミ音。学習机に座ったチーコちゃんがぶしゅぶしゅ鼻をすする。
「なーに、チーコちゃん大丈夫?」「だいじょうぶ」
「おいタミヤー、くっちゃべってないで手動かせよー。オメーの無茶に付き合ってやってんだぞー?」
「うさいわね」「今日中に済ますなんて無理だって、なーはぜやん?」「………多分な」
「そーいやマロヒコは?」「さっきションベンって出てった」「何だアイツ、ガマンしろよソレ位。尿ヒコだな。決定」
「……クラ〜?」「へいへい、分かりましたよバカにすんなってんだろ?ヘッ」
────と、「なーにあんたら未だ居たの?実習の授業なんてまだあるんだし、早く帰りなさいって」

結局、校門から追い出される四人。と、大柄の男子が後からかけてきた。
「オセーゾ尿ヒコはやくし」    スパ────ン!いい響きの上履きアタック。
「あにすんだタミヤ!」「人をバカにすんなって云ってんでしょ!」またケンカを始める二人。
女教師が間に入る。「あーもういい加減にしなさーい。先生付いて行ったげるからとっとと帰れジャリ共ー」

寒風吹きすさぶ夕闇。向うの空に弧を描く月が出てきた。
いつの間にかススキを手折り、みんなでぶんぶん振り回して歩いていく。
『う──さぎうさぎ、何見て跳ねる…………』いい声で歌い始める女教師。
「え──?先生ダセーって。なあタミヤー?」「……え?」「そうね、童謡はちょっと、コドモってゆうか………」
「じゃあ何がいいのさあんたら」「え?それは………」「えーとな…………」
「……そ」呟くマロヒコ。「『空に掛かった三日月』」「……へ?何だソレ尿ヒ」 スパ────ン!爽快。

「あかいろうさぎ」
いきなりチーコちゃんが呟いた。振り返る一行。
「……え?何チーコちゃん?」タミヤの質問に、真っ黒な校舎の屋上を指差す。

「まっかなうさぎが、おくじょうにいいた」
34第X話 妄想月世界:2006/11/19(日) 07:07:36 ID:S0RV7jCB0

住之江紬明、通称『スミ先生』。
一部に熱狂的なファンを持つ日本有数(自称)の、日本のポオ(自称)と呼ばれる(呼ばせている)、
怪奇小説家。

長身にオールバック、全時代的なチョビヒゲにスーツ、妙な言動で数々の伝説を残す怪人である。
数年前古い知り合いに協力して怪奇総合雑誌『クリプトン』を創刊し、雑誌の重鎮と化している。
雑誌記者を呆れさせ編集長にゴマをすらせ、変人女を脳溢血に陥らせそうなこのおっさん。

たまーにしか出てこないが、一応この雑誌編集部の顔なじみなのである。


「んじゃこの写真と、イラスト差し替えで────っておい聞いてるか?」
「あいよ」苦虫噛み潰しすぎた様な顔の変人女。おっそろしく機嫌が悪い。
打ち合わせ場所はいつもの応接セットではなく、雑誌記者の机の横。イスの背にもたれて座っている。
原因は、パテーションの向う、応接セットを占領している人物。

「いやまあね、わったしも日本怪奇文学界を牛耳るゴッドファーザーな以上その台詞は言いすぎじゃないかと」
「いやーですな!そうですな!うんそうですな!!ハイハイハイ!!!」
明朗快活爆走中のスミ先生と、既にゴマすりすぎて摩擦で発火してる編集長。
よりにもよってあの二人にTVが見られる位置を占領され、TVが見られないのに怒っているのである。
「…………全く、何見る気だったんだ?」
「みのもんた」
どう返せというのだ。お前はババアかと突っ込めばいいのか?

と、用件をもう一つ思い出す雑誌記者。
「あ、あー……すまん、一つ協力して欲しい事が」「何よ」
「うちの会社の労働組合が毎年この時期に近所の小学校で交通安全教室やっててな、各部署持ち回りなんだが」
「で?」
「今年うちなんだが、クジで俺が当たっちゃってな、今度の月曜日。すまん協力して────」
「やだ」
がっくり肩を落とす雑誌記者。あのクソガキ共一人でマトメにゃならんのか…………
35第X話 妄想月世界:2006/11/19(日) 07:10:09 ID:S0RV7jCB0
「……ま〜あそういうワケでね頼むよ今度の大賞?ワタシもプッシュプッシュしたげるから!プッシュプッシュ!!」
応接セットからスミ先生が出てきた。一直線にこちらに向かってくる。
「あらー?今度の怪奇大賞優勝候補の彼女が居たと思ったんだけど何処行きましたかねー?んんん?」
あれ?気がつくと何処にも居ない?辺りを見回すと────
変人女はシャーとイスのキャスターを転がして、スミ先生から見えない机の影へ逃走していた。


Let,sトーキングターイム。フォウ!
止まらないスミ先生。何か今度の怪奇小説大賞についてくっちゃべって居るが耳トンネルだ。
既に編集長は社外へ逃走。周りを見ると同僚も机に噛り付くふりをして不干渉を決め込んでいる。
───いや、よく見ると向うの一角で煙が充満している。どうも変人女がハイペースで煙草を吸っているらしい。
もうちょっとで火災検知器が作動するんじゃなかろうか?

ふと、同じ記者・編集者仲間で飲み会に行ったことを思い出す。
酒の席で、スミ先生と変人女は出版業界の双頭のシーサーペントの如き扱いを受けていた。
ヤレどこそこの編集者と大喧嘩しただの、受賞パーティでブラックスピーチ行っただの……

「……まあ私も子供は嫌いじゃないんですよ?でも何といいますか隠喩やジョークが通用しない生命体というか」
我に帰る雑誌記者。虫食いで聞くと話の内容が何の事やらさーっぱり判らない。
まあ聞いてたとしても三千世界のスミワールドは全く把握しきれない訳だが。


「あーらスミ先生お久し振りですぅー♪お元気でしたかー?」
いきなり変人女が割り込んできた。え?何で!?
「おおーう有望新人改めクリプトン怪奇大賞最有力候補君何処行ってたのかいさーがしましたよー?」
「いやーん♪お上手ですねー先生ってばー♪」

”きゃるーん♪”とかいう擬音が聞こえてきそうな話し方。あっけに取られる雑誌記者。
「ところでぇー、スミ先生に私からお願いがあるんですけどぉー、聞いてくれますぅ?」
「んんんー?いいよいいよキミみたいなコに貸し作れるならなあんでもOkですよーん?」

「今度の月曜日ぃ、この記者さんと一緒に用事があったんですけどぉ、代わりに行って貰えませんかぁー?」
36第X話 妄想月世界:2006/11/19(日) 07:38:12 ID:TmXEhzXo0
「いいですよっ!!カワイイ後輩の為なら引力圏脱出だろうが大気圏突入だろうが!いやー君すまんねー」
素直に喜ぶスミ先生。
…………いいんですかスミ先生、目の前でオバハン系人型チェシャ猫が笑ってますよ?


案の定。
月曜日、鼻歌交じりで雑誌記者について来たスミ先生は体育館のソデで頭を抱えていた。

雑誌記者の携帯に着信。変人女から。
『やほー、スミ先生の調子どお?』「最悪だ。お前こうなるの判ってたな?」
『もっちろん!いやーいい気味だわー』「先生が子供むっちゃ苦手って、何処で知ったんだ?」
『自分で云ってたじゃん、あの時』
ああ、華麗に三半規管までスルーしてたから気付かなかった…………
『ところでそこの小学校、西部小学校?そこ確かチーコちゃんとこだったわ。ヨロシクねー』
へ?ソデから盗み見る雑誌記者。────確かに、真ん中辺りの列にチーコちゃんらしき頭が見える。

「キミ、覚悟を決めたよ」
いきなり呼びかけられて驚く。背後に涙と鼻水を一杯に溜め込んだスミ先生が立っていた。
「男なら行かねばなるまい、例え其処が死地であろうとも。そう、お国の為に死んでいった特攻隊員の様に…!」
一緒にしないで下さい。

「は〜い皆さん住之江で〜す、よっろしっくね〜」
極太重低音で茶目っ気を醸し出そうとして失敗したスミ先生。センセ、低学年がヒイてますよ?
「このアシスタントのえ〜っと、ちゃたろーでいいや。コイツと交通ルールについてお勉強します。OK〜?」
「さっさとしろー」
さすが昨今の小学生は一味違うぜ。というか先生云うに事欠いてちゃたろーって何ですかちゃたろーって。
「いいでしょ〜では一番始めに、ルールを守らない場合どんな恐ろしい事になるかお勉強しま〜す」
いきなり電気が消えた。体育館の自動カーテンが閉じられていく。おお?何だ?
スミ先生が自分の長い顔を懐中電灯でライトアップする。
「ええ〜…………、では先ず”テケテケ”からいきましょうかぁ?」

何する気だおっさん!!!
37名無しより愛をこめて:2006/11/20(月) 08:53:10 ID:uBt4WvVj0
ゾンビを出したのは「並行世界ネタ」と気付かせないためです(笑)。
円谷系ワールドと一番縁が遠いのがたぶん「ゾンビ」だからで。
最初はK警部(というより岸田警部)でアクション系、次に万石先生で屁理屈系、最後に「変な女(…ってモロじゃん)」でサゲに入る三段構成。
「変な女」は「彼方からの彼女」に出現する前の時点、「岸田警部」については「こっちの世界にトリップしちゃったから作品が中断してる」ということ(笑)。
最初に考えたオチだと、「死者の世界」と混線したためシーボーズまで姿を現してザラガスと対決。
シーボーズと彼の配下である無数のゾンビにザラガスは食い殺されるという展開でした(苦笑)が、他の方の作品に良くない影響を及ぼしそうなのでボツ。
またチャンスがあったら投下させてください。

と、いうわけで応援。
38名無しより愛をこめて:2006/11/20(月) 08:55:53 ID:uBt4WvVj0
いかん、上のレスは32に対してのものです。
もうしわけなし。
39名無しより愛をこめて:2006/11/22(水) 07:16:32 ID:GXq0z9D70
あげ
40名無しより愛をこめて:2006/11/22(水) 16:27:38 ID:jmizwzI80
円谷とゾンビが縁ない? ネクサス見れ。
41第X話 妄想月世界:2006/11/23(木) 05:04:46 ID:LsDbNSWd0

案の定。

誰も出来るとは思っていない脳ミソ梅干怪獣の復活宣言より恐ろしい事が起こってしまった。


「せんせー、よしあき君がもらしたー」
「え゛〜んぶぅえ〜〜〜んへえ゛〜〜〜ん」
阿鼻叫喚の地獄絵図。体育館に集められた小学生、主に低学年の殆どが泣き出してしまった。
更にもらい泣き、もらいション、もらいゲロ。体育館中に異様な匂いが漂う。
先生方は校長も含めて事態収拾に必死だ。

「………先生」「んん?何だね?」
スミ先生だけ元気一杯。「………先生、今度出す超絶怪奇ホラー単行本のネタ使ったでしょ」
「ああ、効果覿面だったようだね。私は今、ようやく何かが吹っ切れたような気がするよ…………!」
満面さわやかな笑みのスミ先生。
スミ先生、人として大切なものを吹っ切ってる様な気がします。早く拾いに行ってください。

.
結局事態収拾後、校長先生に平謝りすることとなった。
もっともスミ先生の口車に閉口されてあっという間にお開きになったのだが。まったくもって世渡り上手だ。
「ヤレヤレ矢張り我々の崇高な仕事と目的は、こんな閉鎖空間に閉じこもりっきりの集団には理解が……」
先生、今日行った目的は交通安全教室です。決して日本の道路では、UFOに車ごと誘拐されたり
岸に上がった怪獣に遭遇したりジャージーデビルやチュカパブラに追いかけられたりしません。
ヒバゴンとツチノコは否定しませんが。

ぶつくさ云いながら帰ろうとするスミ先生。後に続く雑誌記者。それを────
「あの、すいません。少しよろしいですか?個人的に」
振り返ると、結構美人の女教師が呼び止めていた。

スミ先生?そんなに鼻の下伸ばしすぎたらホントに馬そっくりですよ?
42第X話 妄想月世界:2006/11/23(木) 05:06:09 ID:LsDbNSWd0
女教師の名前は高宮と云った。

彼女によると、最近この小学校敷地内にて奇妙な事件が起こっているという。
先ず、窓や壁に妙な足跡が付く。泥に妙な粘液が混じったような感じで、一晩で校内を歩き回った様に付く。
辿って見ると雨どいや校舎の壁を垂直に走っており、とてもイタズラとは思えない。
次に、学校で飼っているウサギやニワトリが毎日数頭づつ、奇妙な死に方をする。
朝登校して見ると、全身から血を抜かれた死体が幾つか転がっている。犬や変質者の仕業にしては不気味だ。
そして最後に、夜日が沈んだ後、月光に照らされる学校校内を眺めると────────

「真っ赤なウサギ?」
「ええ、子供たちは”赤色ウサギ”と呼んで、噂してます」
その”赤色ウサギ”と呼ばれる奇怪な生物が、度々敷地内を徘徊するのを目撃されているというのだ。
「姿はその────名前の通り?」
「ええ、血の様に真っ赤なウサギに見えるそうです。正し────………」
証言からまともに推測すると、ソイツは前足を胸に畳んで”二足歩行”をするという。
その姿勢のまま全力疾走したり、壁を駆け上がったり、しまいには夜空へジャンプして飛んでいったりするそうだ。
後はウサギやニワトリを襲っていたとか、耳から怪光線を発射したとか。


「…………へええ、面白そうじゃないですか」
興味が湧く雑誌記者。コレはいわゆる『学校の怪談』というヤツじゃないか?
しかも今までの花子さんや口裂け女やらとは訳が違う。純粋に幽霊じゃなく『怪物』だと噂は断じている。
しかもココ意外では聞いた事が無い。つまり怪談の発生現場に立ち会ってるのでは?
────────────売れそうじゃないか。青田刈りだ。

「で、お願いなんですが、 ……この噂の正体を、確かめて欲しいんです」
「”赤色ウサギ”のですか?何でまた?授業に障害でも?」
「ええ。ひどく恐れ怖がる子も居まして。今日の体育館の惨状もこれが原因の一つではないかと」
成る程、ありふれた怪奇話にしては児童の反応が過敏過ぎると思った。

「貴方は怪奇専門の記者さんで、そちらは有名なホラー小説家さんでしょう?こういうのは慣れてると思って」
「いいでしょう!引き受けます。ねえスミ先生、小説のネタにでも────」
43第X話 妄想月世界:2006/11/23(木) 06:17:43 ID:amJKm9x40
横を見ると、スミ先生が両耳を塞いであさっての方向を向いていた。
「………何してんですか?」話しかけると、

「ア────アぁ────あ────!!!聞こえない聞こえな────い!!!!」


思い出した。スミ先生、体験する怪奇現象は苦手なのだ。
ウソと判って聞く分にはわけない。おばけ屋敷や小説、写真、マンガ、小噺。
だが『コレッて本当の話なんだよ────』と云われて聞く話は苦手なのだ。増してや現在地がその現場とは。
「怖い話とはそれが虚構と知ってて初めて価値が有るのだよ君!!」と昔のたまっていた。そういえば。

結局、丁寧に誤魔化して退散する。要はスミ先生抜きで調べればいいのだ。
「当たり前です!!記者たるもの例え単独であろうと真実に肉薄する能力が無ければ────」
「はいはい、判ってますよ。スミ先生は帰って賞の選考に専念して下さい」
夕暮れの校庭を門へ向かう二人。

「あ────!!!尿モレ先生!!とその助手その1────!!」
いきなり子供に声を掛けられた。振り返ると3人組の小学生。男子三人だ。
「にょ………尿モレ?」
「だってそうだろ?その先生自分でした怖い話にビビって漏らしてたんだろ!!?」
「だ…………誰が漏らしながら怪談しますか!変な妄想はとっとと愛しのママに矯正されなさいベイビィ!!」
「だってその先生、実は怖い話苦手なんだろ?オトナのくせに」

カッコ良くキメたつもりの姿勢で硬直するスミ先生。割り込む雑誌記者。
「ま………待て、君達何処で聞いたその話?………もしかして」
「タカミヤ先生。だってグチられたんだぜ?憧れたのにあんな馬面ヘタレだなんて幻滅したっt」

スパ────ン!!!

爽快一発!昇降口を見ると、高宮先生と女子生徒二人が立っていた。
「ダぁ──らんか倉橋ィ!」
「先生、それあたしの上履き」
44第X話 妄想月世界:2006/11/23(木) 06:18:50 ID:amJKm9x40
「あーらららら申し訳ありませんもう、この子達いっつもこうで」
…………どうもこの高宮という女教師、百万匹の猫を瞬間着脱する能力を保有するらしい。

成り行きか、その小学生達と女教師と共に帰ることとなった。
「もうこの子達ったら何分やんちゃで手の掛かる生徒でして、勝手に先生とのお話を盗み見たりしてもう」
「愚痴ってたじゃねーか」
女教師の視線で少年沈黙。………恐るべき能力の使い手だ。
ふと並んで歩く女子二人を見ると、片方に見覚えがある。
「チーコちゃん?そっか、このクラスか」
「あい」
スミ先生がぴくりと反応し、チーコちゃんの方を見る。チーコちゃんも視線を返す。
────────暫く眼比べした後、スミ先生の方が根負けしたかのように目を逸らした。
矢張りチーコちゃんも他の子供たち同様、苦手なのだろうか。
「ところで、何でこの子達もこんなに帰りが遅いんです?もう六時過ぎですよ」
「ああ、それはですね────」
「あかいろうさぎ」
いきなりチーコちゃんがはっきりした声で口を利いた。
「あかいろうさぎ、さがしてた」


────どうもこのイタズラ五人組は、校内で噂の”赤色ウサギ”を捕まえようとしていたらしい。
「というか噂の出元、実はこの子達なんですけどね。2ヶ月程前に私と一緒に目撃したんです」
何とまあ。横を見ると、スミ先生が何やら良くわからない呪文めいた言葉を早口で呟いている。
「ま、そゆこと。あんたの出番は無いからとっとと帰りなおもらしっこ先s」

スパパ────ンン!!両脇から爽快音2発!
「痛ってぇー!二人して殴んな!」

「………いいでしょう。挑戦から逃げてばかりいては私の男がすたります」
驚き振り向く雑誌記者。何とスミ先生の瞳にまっこと似つかわしくない決意の色が浮かんでいる。
「君、私も協力するよ。小学生に負ける気は有りません。見事”赤色ウサギ”を捕獲するから見て居たまエ──!」
「…………先生、声裏返ってますよ」
45名無しより愛をこめて:2006/11/24(金) 11:02:46 ID:QpmQFGix0
揚げます。
46名無しより愛をこめて:2006/11/25(土) 23:11:15 ID:euLbGGPD0
挙げます。
47名無しより愛をこめて:2006/11/26(日) 23:50:15 ID:dwn6IieO0
阿毛ます。
48第X話 妄想月世界:2006/11/27(月) 04:16:00 ID:Gkt9ze6o0


翌日の真昼間。
西部小学校の校舎裏でなにらやうろうろする雑誌記者。

────と、いきなり背後からボールをぶつけられた。背中に乾いた泥の跡がつく。
「あ、おーい!ボール取ってーちゃたろー!!」
「…………はいよぉ」
力の抜けた投げ方で子供に返す。背中を払おうとするが手が届かない。
「こらー!お客さんに迷惑掛けんなー!!」
女教師のお叱り声が聞こえると、キャーと云って子供達は逃げていく。運動場へ行くのだろう。

高宮教師が駆け寄ってきた。
「どうもすいません、ご迷惑を………」
「いえ、こちらこそ。でもよろしいんですか?本当に我々が調査しても」
「警察も頼りになりませんし、教頭先生が許可してくれましたから。正直、皆不気味なんですよ」
そう云いながら、目の前の壁を見上げる。
壁に縦に並んだ、茶褐色のシミ。

そう、”赤色ウサギ”の足跡である。

「もっと他にも、廊下や教室にも有ったんですけどね。全部拭いちゃいまして」
「……ま、しゃーないでしょう。これだけ残ってれば十分です」
見たところ、確かにウサギの様な三本指だ。足跡自体は乾燥してパリパリになっている。
雑誌記者は懐からフィルムケースを取り出し、蓋でちょいちょいと突付いてカケラを入れた。

「そう云えば、住之江先生は…………?」
「あ───…………先生は、何か用意すべき事があるとかなんとか」
…………そう云って自宅から先生が出てこなかったのは今朝の事。
予想は付く。多分怖くなって引きこもってるのだろう。自分で云っといて何てザマだ。
長い溜息をつく雑誌記者。
結局、変人女に引きずられてるいつもと同じだ。結局、彼女と先生は同類なんだろう。
49第X話 妄想月世界:2006/11/27(月) 04:17:13 ID:Gkt9ze6o0
ちなみに変人女にも事情を説明して助力を求めた、のだが────
「あんた、他人のケツについてるウ○コがデカイからってあたしに手伝わせる気?」
これも予想の範疇だ。結局厄介事は自分に降りかかるのだ。
もっと良く見ようと、壁際の段差に登る雑誌記者。そこに、

「せえのー」
うん?
「 膝 カ ッ ク ン ! ! 」

「おぅわあああああっつ!?」
膝の裏を何かで突付かれバランスを崩す。足場が悪い!雑誌記者の奮闘空しく、
ハデにこけた。おもいっきり尻を打つ。女教師が吼えた。
「こらーあんたらーっ!!ソレやるなって何度云ったら分かるかぁ────!!」
「ライバルを崩すのはせんりゃくのじょうとうしゅだんなんだよーっ!!」
小学生にしては小賢しいセリフを吐いて子供二人が逃げていった。多分あの五人組だろう。

高宮教師が助け起こしてくれた。
「申し訳ありません、あの子達頭はいいんですが、悪巧みに関しても飛びぬけてて………」
尻から衝撃が頭にまで来たか、くらくらする。
というかチーコちゃん、あんな連中と付き合ってるのか?いかん。良くない。叱らねば。
親でも保護者でもないのに将来を心配する雑誌記者。と、

「うわ────────!?」
大声を上げて子供が戻ってきた。何だ?
「センセー!Mr.ションベンが来た!Mr.しょんべんがでっかいバスd」
パコーン!
パンプスなのでちょっと爽快じゃありません。履き直しながら先生が聞く。
「何?どしたのさ血相変えて」「ってェー」

回答を聞く前に走り出す雑誌記者。校舎を回って運動場へ行くと────
送迎バスが何台も留っている。手前の一台からスミ先生ご登場。
「やーどーも遅れてすまん!どうせならと思ってTVで実録怪奇番組にと思ってねェー!!」
50第X話 妄想月世界:2006/11/27(月) 04:18:08 ID:Gkt9ze6o0
今度は雑誌記者が頭を抱える番だった。
長い溜息が壊れた水道のように出っぱなしである。

予想の斜め上の行動を取ったスミ先生は、TV局の知り合いプロデューサーを説き伏せ、
何とこの調査をドキュメント風番組に仕立て上げる積りらしい。
スミ先生が校舎から出てきた。にかにか笑いで、
「校長先生と職員の皆さんのOK貰いましたよっ!さっそく明日から張り込み、収録開始です!」
ああそうだ、事を大きくハデにしたがるのも先生なんだ。すっかり忘れてた。
校長も教頭も、スミ先生の口車にはねられ轢かれて戦意喪失したに違いない。

「申し訳ありますぇん…………」
今度は雑誌記者の番だ。夕方になり、下校する為に出てきた高宮教師に謝る。
「いえ、いいですよもう。あの子達にもいい機会です。大人の力、分からせて下さい」
意外な言葉。
────要するに、TVの資本と人脈を結集して何としてでもこの怪奇を暴き、
あのクソガキズに自分らの無力さを分からせて欲しい、そうすれば大人しくなる、という事だ。
何だかそれも結構なプレッシャーだが。

と、体育館倉庫辺りから何人か子供がつまみ出されてきた。スタッフが発見したらしい。
「……って、あんたらまたかい!!」
あの五人組。クラと呼ばれるあの少年がまた尿発言をしてしばかれている。
先生がまた引率して校門を出て行く五人組。その横を、影のようにチーコちゃんも付いていく。
────何考えてんだろうなぁ、あの子。


その晩遅くに帰宅した後、変人女から電話があった。チーコちゃんから何か聞いたらしい。
一応事情を話す。これ以上面倒ごとは御免だからな。
「 ………────つーわけだ。だから俺明日一日中居ないからな?」
「ふーん、あ、そ」
興味なさげ、一安心。
暴れ馬2頭では流石に御する自信は無い。
51第X話 妄想月世界:2006/11/27(月) 04:19:06 ID:Gkt9ze6o0
翌日午後、再び西部小学校校庭、バスの中。
「はい、じゃあコレ台本です♪しっかり読んどいてくださいね〜♪」
妙に色っぽい女性ADから台本が手渡される。スミ先生の発案からたった二日。
構成作家に同情しそうな雑誌記者。ご苦労様です。

内容はまあ有り触れた内容だ。雑誌記者自身のセリフは余り無い様だ。
問題は、スミ先生のセリフ部分。多分自分の書いた文章をそのまま丸写しさせたに違い無い。
般若真経みたいにびっしり漢字だらけの文章が並んでいる。
抜粋すると、



『所謂”家畜を襲う獣”の伝承は欧州各地に伝承されております。例えばジェヴォーダンの獣。
人も襲いましたが羊も被害に遭っております。後狼ですね、アレも原因を狼に求めた結果です。
他にも現代イギリスでビーストやABC、海を渡って植民地ではジャージーデビル、
最近のチュカパブラやUFOによるキャトルミューティレーションも求める原因が違うだけです。
日本でも”牛打ち坊”と呼ばれる獣が徳島県にて伝承されており、それも───────』

脳内でゲップが出そうになったので一休み。
要するに、スミ先生は”赤色ウサギ”をチュパカブラと一緒と考えているらしい。
多分あの最初の交通安全教室で思いついたに違いない。ハタ迷惑な。


必死で台本を覚えていると、日も落ちてきた。夕闇が降りてくる。
────住宅街の電信柱に、赤いまん丸なお月様が掛かった。今夜は満月らしい。
「あ、すいませ〜ん♪そろそろなんでお願いしま〜す♪」
妙に色っぽい声のADに呼ばれて外に出る。背伸びをしていると、横の藪を何かが走った。
「…………?猫かね」


「では本番入りま〜す、        ………3、2、1、」
収録開始。鬼が出るか蛇が出るか、はたまた出るのは吸血怪獣か?
52名無しより愛をこめて:2006/11/28(火) 22:21:49 ID:YDSWoxwG0
age
53第X話 妄想月世界:2006/11/30(木) 06:06:36 ID:JJUGf9h10
「えー皆さん、本日はココ…………」

早速スミ先生の長口舌が始まった。どうも西部小学校の紹介から始めているらしい。
────と思ったら、アルバム片手に校史を語り始めた。
その内話が脱線し、冥王星の彼方の太平洋戦争と当時の米国外交の話にすっとんでいる。
……良く見ると、カメラが回っていない。
周りのスタッフものんびり後続の撮影準備に取り掛かっている。先生放置気味。
流石プロデューサー、慣れてらっしゃる。

と、バスの影で数人の見慣れないスタッフが何かゴソゴソしている。
そっと覗く雑誌記者。
      …………────皮膚の無い、グロテスクな赤いウサギがこちらを見た。
「いっ!!?」
「!!!」
後ろから口を塞がれ、暗がりに連れ込まれる!何だ!?
顔に当たっているのはこれまた生暖かい────赤剥けウサギの上半身!!
「!!??」
「シッ!静かに!!」
  …………良く見ればウサギの向うに人の顔。落ち着くと赤剥けウサギがゴム臭い。
「スミ先生に見つかります!早くこっちに」


どうも、撮影の為の仕込みらしい。色んなタイプの赤ゴムウサギが並んでいる。
「例えばですね、今校内で設置している赤外線カメラの前で────こう、ちょいちょいと」
機材の物陰から赤ウサギ人形がピョコピョコおじぎした。
ちょっとキモカワイイ。
赤外線カメラ仕込みが終わり次第、彼らも校内に潜入する。そして適度に出現する。
「でも、それじゃスミ先生本気で怖がりません?」
「だからですよ、いいクスリにしなきゃ。毎回呼び出されちゃたまったもんじゃないし」
……結構ノリノリの特殊撮影係りの皆さん。

何というか、スミ先生専用キモ試し大会になってきた。
54第X話 妄想月世界:2006/11/30(木) 06:07:23 ID:JJUGf9h10
長口舌がいよいよ中南米におけるCIAの裏工作について差し掛かった時、
「スミ先生、校内の赤外線監視カメラ、用意できました〜♪」
いよいよ決行の時が来た。

早速監視席に座るスミ先生。にっこにっこと上機嫌。
彼の中の予定では、足跡なり何なりヤラセ発見してウヤムヤに済ますつもりらしい。
そこにホンモノ出現!先生ガクブル!モウヤダー!!
いい感じだ。今後の為にも許してください、スミ先生。お詫びは申し上げられませんが。
そこに、横の監視スタッフが、
「…………先生!コレ!!見てください!!」

西部小学校北校舎二階渡り廊下前。柱の影からあのウサギらしき頭がちらちらしている。
おおお!と驚きを表すスタッフ一同。後ろめたいワクワク感タップリなのは秘密だ。
「え?  …………ええ?いや、アノ」
「さ!スミ先生行きますよ!立って立って!!」
「じゃ、行って参りまーす」
一人挙動不審のスミ先生を連れて、レポーターと雑誌記者とカメラマンは夜の校舎へ。
精々、怖がるフリでもしますか。

手を振り見送るスタッフ一同。
誰も見ていない赤外線監視カメラの映像内で、赤剥けゴム製グロウサギが、

ひたひたと廊下を横切った。



「どうやら、イタズラ者がこの校舎に紛れ込んだ様ですね」
いきなり鋭いスミ先生。昇降口で硬直する三人。スミ先生が大きな身振りでカメラに語る。
「私はこの”赤色ウサギ”の正体が、何者かによるイタズラと考えています。いいですか?」
良くありません!予想の斜め上を行かないで下さい先生!!
「私がその犯人をとっ捕まえて差し上げましょう!……えーダイゴロウの名にかけて!!」
…………誰ですかそれ。
55第X話 妄想月世界:2006/11/30(木) 06:07:55 ID:JJUGf9h10
ろそろと夜の校舎内を、懐中電灯で照らしながら進む。
満月の月光が冷たく校内を照らす。案外明るい。
やっぱりスミ先生も緊張しているらしい。数々の伝説を持自らの大叔父について語っている。
てか、その人がダイゴロウですか。

ぴちゃ。
何かが足先に触れた。液体っぽい。
驚きの声を雑誌記者が上げると、懐中電灯とカメラが前方に向けられる。
「うわ…………!?」
驚きの声を上げる一同。目の前の廊下には、ズラリとあの足跡が並んでいる。
今付けられたばかりらしい。生々しくぬめり光っている。
スミ先生はしゃがんで足跡を見つめる。レポーターも付き従う。カメラマンは………
『オイ、オカシイゾコンナ演出予定ニアッタカ?』
とか小声で通信機に話している。    …………へ?

背筋がぞっとした。何かの気配がする。何処からか見られている。
あっちの柱の影、教室の出入り口付近で何かが動いた。
……────マジ、なのか?
と、スミ先生が足跡に触れ、おもむろに顔の前に持っていくと、
ぺろり。
「!!!?先生!?」
「シッ!静かに!」
遂に先生変態趣味発現かと驚く雑誌記者に、意外に落ち着いているスミ先生が指示を出す。
カンペで、”懐中電灯を渡し、そこの教室の出入り口付近まで行け”との事。
さっき雑誌記者自身が気配を感じた地点だ。

そろそろと教室側のカベに張り付き、奇怪な足跡を前にして横ばいに進む。
影は満月のおかげで廊下側には張り出さない。そして────……
出入り口前の、柱のところまで来た。スミ先生がまたカンペで指示を出す。
”突入!奇襲!!”
正体不明の、何者かにですか?だがそれ以外、やりようもない。
腹を決め、さっと引き戸の前に突っ込み────さっと開けた!
56第X話 妄想月世界:2006/11/30(木) 06:08:43 ID:JJUGf9h10
「うわ────!!!」
「きゃ────!!?」
「ぬわ────!!!?」
いきなりの悲鳴!って、え!?子供の悲鳴!?
薄暗い教室内を、イスと学習机につまづきながら二つの小さな影が走っていく。
あわてて追いかけ始める雑誌記者。二つの影がもう一つの戸から出ようとして────
「はいっ!チェックメーイトゥ!!」
スミ先生達一行にぶつかった。

捕まえて見ると、何の事はないあのスミ先生をからかった五人組の二人だった。
確か、クラと呼ばれた下品な男子とタミヤと呼ばれた元気な女子。
どうやらスミ先生が番組撮影をするとの事で、この月夜の校舎に潜入したらしい。
目的は勿論、スミ先生を脅かす為。というか、”赤色ウサギ”捕まえるんじゃ無かったっけ?
「そうなんですよ、でもクラが途中から目的変更しちゃって止められなくて………」
「お前だってノリノリだったぞ!俺と二人でこの仕掛けするの喜んでただろ!!」
何だこのツンデレ共。

他の三人も間もなく自首してきた。
残りの男子はぜやんとマロヒコは両手にバケツとスタンプを持っていた。
どうやら足跡を製作していたらしい。足跡の材料はスミ先生曰く、
「60%のケチャップと30%のマヨネーズと10%の天然水によるオーロラソースですね」
天然水はハズレだったが。
チーコちゃんはその階の女子便所に隠れていた。
しかも、妙なもこもこのぬいぐるみを着こんで。何かと聞くと、
「あかいろうさぎ」
騙すつもりだったんですか。絶対無理です。むしろカワイイです。ラブリーです。


と、これで一件落着!奇獣”赤色ウサギ”は小学生のイタズラでした────!
スミ先生が解決宣言をしようと思った矢先、動きの鈍いマロヒコが、
「あ、そういやさっき渡り廊下の向こう側跳ねてったの、チーコちゃん?」
ピキッ。  ……あ、スミ先生また固まった。
57名無しより愛をこめて:2006/11/30(木) 18:59:57 ID:Uc6zBSMe0
ttp://www.asahi.com/obituaries/update/1130/007.html
作曲家の宮内国郎さん死去 2006年11月30日18時17分

宮内国郎さん(みやうち・くにお=作曲家)は27日、大腸がんで死去、74歳。
葬儀は近親者のみで行う。喪主は長男俊郎(としろう)さん。自宅は東京都狛江市岩戸南1の5の2。

テレビ番組「ウルトラQ」「ウルトラマン」の主題歌や「ラブラブショー」の音楽などを手がけた。
58名無しより愛をこめて:2006/12/01(金) 17:35:49 ID:s/eQUv6N0
保守
59第X話 妄想月世界:2006/12/03(日) 04:02:41 ID:wojfeG2o0
「向うって────どの辺り?」
「あのへんだよ」
マロヒコが指差すのは渡り廊下の向こう、丁度家庭科室の辺りだ。
あの部屋の辺りを、月明かりの中ぴょんぴょん飛び跳ねていたという。
「取り合えず…………行ってみますか?」


動きがロボットみないなスミ先生を後ろから押しながら、家庭科室到着。
照らしてみるが見当たらない。寒々と丸イスや蛇口が立ち並ぶ。
話によると、一っ飛びで長机二つ分位を飛んだという。────人間技じゃない。
「…………何でそれ、チーコちゃんだって思ったの?」
「いや、チーコちゃんなら出来るかなって。運動神経いいし」
そうなのか?結構トロいと思ってたが。
「はっ!!そんなだからお前は脳ミソもションベンもトロいんだよ尿ヒk」

バゴン!!    ………タミヤの上履きが飛ぶ前に、クラの後頭部に家庭科室の扉が直撃。
「あの〜♪すいませぇ〜ん」
あの妙に色っぽい声のADだ。そーっと開けてそーっと入ってくる。
「あの〜、ちょっと様子見てこいって云われましてぇ〜♪」
「はあ。で、その手に持ってるのは?」
「うさぎさんのエサの、ホウレン草とニンジンでぇす♪」
……────”赤色ウサギって、吸血性じゃなかったっけ?

「え?何でしょこの野菜────ひえええっ!?」
いきなりレポーターが悲鳴を上げた。スミ先生の背後を震えながら指差している。
かり。
かりかりかり。
もふもふもふもふ。
「あの……────キミタチ?これ何の音?」
スミ先生が部屋の隅に寄り集まった一行に語りかける。と、後ろからひょこり。

照らし出されたその顔は、真っ赤な真っ赤なケモノ顔。
60第X話 妄想月世界:2006/12/03(日) 04:04:22 ID:wojfeG2o0
「出たああぁア────────あああァァァ!!!?」
スミ先生の雄叫びを筆頭に、家庭科室は一気にドリフ状態に!
レポーターは腰が抜けたのか這いずり回っている。カメラマンはカメラ持ったまま逃げ惑う。
小学生達は男子達が必死で家庭科室のドアに群がるが、混乱して開けられないらしい。
小学生の女子が一人座り込んで泣いていて────
チーコちゃんが横でよしよししていた。流石。
しかし何故ドアが開かない?あの入ってきたADは…………
「きゃあ〜ん♪きゃあ〜ん♪いやぁ〜ん♪」
……
………
…………「……何やってんだ、お前」

奇怪な艶声を出してその辺中走り回ってたADが、雑誌記者の声で立ち止まる。
「あ、バレた?」
「前にも聞いたぞそんな声。それにお前みたいにデカイ女がそうそう居るか」
「あちゃー。上手く変装したと思ったんだけど♪」
「その喋り方止めろ。ホラ、スミ先生!!」
陸上短距離走選手の姿勢で走るスミ先生を、襟首を掴んで捕まえる。
「うわああああああああ何するぅぅぅぅうううん?え?」
雑誌記者が懐中電灯で照らし出したその顔は、髪を纏めて帽子を被りADっぽい格好の、
「あ、どもーお邪魔してまーす」
変人女だった。


変人女がエサのニンジンをふりふりすると、家庭科室の”赤色ウサギ”が寄ってきた。
────良く見ると、ウサギでも何でもない。
全身を塗料で赤く塗られ、耳を継ぎ足された少し小さめのワラビーだった。
「知り合いのペットショップから借りてきたのよ、このイタズラの為にね」
「動物虐待にも程があるぞ。自重しろ」
「いやあ〜騙されましたねぇははっはっははっははははははははー」
相当怖かったらしい。スミ先生の脚がチワワみたいに震えている。
「さーあこれでようやく一件落着!!とっとと帰って寝ちゃいましょ────はははっは」
61第X話 妄想月世界:2006/12/03(日) 04:05:17 ID:wojfeG2o0
「んきゃ!?痛った………って、あー!」
何事かと思えば、変人女がワラビーを捕まえようとして失敗したらしい。
鼻をしこたま蹴られ、そのまま腕をするりと抜けられる。ワラビーはそのまま────
家庭科室をぴょんぴょん出て行った。
「…………てか何で扉開いてんのよ!あたしがちゃんと閉めて針金で留めてたのに!」
何ちゅう事をする!
針金は小学生達がドサクサに紛れて解いたらしい。
変人女は待てー!と大声で叫びながら角は無いけど真っ赤なワラビーを追いかけていった。


捕まえた小学生達を連れて階段を下りていく。
途中、廊下に倒れこんで必死でワラビーを取り押さえている変人女が居た。
「お〜い、もう帰るぞー?」
「ハーイちょっと待っt、痛ッ!!」
変人女が滑って転んだ。見ると足元にあの”赤色ウサギ”の足跡が並んでいる。
「あ〜あ。お前ら、こんな所にまで足跡付けたのか?よくやるよ」
「?…………いえ、僕らがつけたのは向うの校舎だけですけど」
確かはぜやんと呼ばれた男子が答えた。確か足跡を担当していたハズ。
足跡を拭ってみると、妙に鼻に付く異臭がした。
「…………あ、えーとあれだ。番組のスタッフ!そうだ!よくやるな!」
「確か仕掛け担当スタッフは、小学生発見の時点で引き上げてますけど…………」
カメラマンが答えた。

また表情が変わるスミ先生。もう今日で一生分の欝顔を披露したんじゃないだろうか?
スミ先生の通信機に連絡が入る。監視スタッフからだ。
「あのー、向かいの校舎3F監視カメラにまた何か映ったんですけど、誰か居るんですか?」


「……────やめー!!もうやめー!!!」
いきなり叫び始めたスミ先生の首根っこをひっつかみ、変人女が渡り廊下へ向かう。
「まだ誰か居るのねぇ、面白そうだからトコトン追求しましょうや!」
「……これ以上、何が出る気だ」
62名無しより愛をこめて:2006/12/05(火) 02:11:38 ID:N4CYSL+o0
age
63名無しより愛をこめて:2006/12/05(火) 02:21:12 ID:Ix5I5anMO
64名無しより愛をこめて:2006/12/06(水) 16:35:07 ID:uRzTQz9G0
age
65第X話 妄想月世界:2006/12/07(木) 04:51:10 ID:l2HTP4BP0
「あれ、お前ワラビーは?」
「あれ」
ぴょん。スミ先生の肩に、変態メイク真っ盛りのワラビー鎮座。鼻をふんふん。
「きゃ────────────────────────…………!!!???」
スミ先生、痛恨の超音波メス!!
小学生達は驚き散り、レポーターは廊下を逆送し、カメラマンは階段を転げ落ち、
変人女は逃げるワラビーを追い、雑誌記者は変人女を追っていき、

「………あれ?」
スミ先生、太平洋じゃなし月夜の校舎に一人ぼっち。……いや?
「え?あれ?あのー、だれかー?居ませんかー?」
「あい」
真後ろから幼女の声で返事があったので心臓がハミ出かける。恐る恐る振り向くと、
チーコちゃんが、残っていた。


「だああああああっとォ!いい加減にしろっ!」
「…………ハア、お前がいい加減にしろ」
やっとワラビーを捕まえた変人女に追いつく雑誌記者。ワラビーはまだわきわき抵抗する。
「……首輪とか持ってないのか?ケースとか」
「首輪は持ってるわよ。右のスカートのポケットの中。出してくれる?」
確かに変人女の両手はワラビーで塞がっている。恐る恐るポケットに手を入れまさぐると、
「…………変なトコ触んないでよ」
「誰が触るか──────っておい!動くな!!」
「ちょ!今あっちのトイレ前に何か動いた!!」
そのまま走り始める変人女。雑誌記者はポケットに手を突っ込んだまま、抜けない!?
「おい!?待て!!止まれってば────……」


落っこちた廊下の踊り場で気付くカメラマン。自分の頭より先にカメラを気遣う。
────どうやら壊れてない様だ。一安心。肘を少し打ったが他は大丈夫らしい。
と、カチャリ。硬いものが床に当たる音がする。階段を降りた廊下に、影一つ。
66第X話 妄想月世界:2006/12/07(木) 04:52:19 ID:l2HTP4BP0
月夜の廊下を、恐怖症の怪奇作家と無表情の小学生が歩いていく。
スミ先生は恐る恐る、少し内股気味に。チーコちゃんはそんな先生の歩調に合わせて。
しかもチーコちゃん、スミ先生をその恐ろしい程大きな瞳で黙ったままじっと見つめている。
「…………」
「………」
「……、あの〜………チーコちゃん、でしたっけ?」
「あい」
「怖かったら、ちゃんと云ってね?すぐに皆の所に帰るから。ね?」
チーコちゃん、右手をまっすぐスミ先生に指差して、一言。
「こわがり」
小学生に開口一番図星な悪口をかまされ、苦笑いのスミ先生。心の中ではくず折れる。
「だいじょうぶ」
「大丈夫?チーコちゃんは怖いもの無しかい?凄いね」
「あたしもこわい」


「うわあああああ!」
校舎からカメラマンが叫びながら飛び出してきた。先に出てきたレポーターが驚く。
何と腕から流血している。上腕部を数箇所刺されたようだ。
応急手当を受けながら、カメラマンが血に濡れたカメラを置いた。かなり酷い。
「本物だ────……本物の”赤色ウサギ”が出やがった!!警察を!!!」


「ん〜?何か居た気がしたんだけど。おかしいわね」
「………ちょ、お前、止まれって、首輪掴んだから、後抜ければ」
「いつまで突っ込んでんのよ」
シバキ倒され、その拍子にポケットから手が抜ける雑誌記者。手に何かぬるりと触った。
「────ココにも足跡か。一体………ん?どした?」
見上げると、変人女が前方を睨んでいる。目線を追うと、月夜の廊下に影一つ。
背丈は150cm位、耳のようなものが頭部から飛び出ている。
よく見れば全身赤剥け皺だらけの肌で────割れた唇から、鮮血がぽたり。
「………────いよいよ本命登場、かしら?」
67名無しより愛をこめて:2006/12/09(土) 22:59:21 ID:0aQIqPPi0
保守
68第X話 妄想月世界:2006/12/10(日) 06:53:18 ID:U7bg4Yjz0
スミ先生の懐中電灯が消えかけてきた。
スタッフの連中、電池のチェックもしてなかったらしい。もう殆ど役に立ってないようだ。
月明かりのお陰で視界に不満は無いが、恐怖を紛らせる為にチーコちゃんに話しかける。
「チーコちゃんも”赤色ウサギ”怖いのかい?」
「あかいろうさぎは、こわくない」
「え?だってさっきは怖いって云ってたんじゃ」
「つかまえるから、こわくない」

微妙な顔して歩くスミ先生。
何なんだ?最近の小学生は皆こうなのか?あのガキ共といいこの子といい…………
────いや。この”チーコちゃん”に関しては初対面からこうだったハズだ。
変人女が編集部に連れてきた時。顔を覗き込んだ瞬間妙に物怖じしてしまった。
感情表現にに乏しい。掴み所が無い。
なのに何処かこちらの中身を全て知られているような妙な感覚。
そう、あの眼だ。
あの底なし井戸の様な瞳に見られると、全部見透かされているような気分になる。
言動もそうだ。ぽつりと語ったその言葉がやけに的を得ている事も多々あった。
一体この子、何なんだ?

チーコちゃんが、あさっての方向を向いて止まった。
「こわい」
「…………何が?そっちは下の階だよ?それとも暗がりが怖いかな?」
「こわいのいる」
こわいこわい云ってる割には、表情も瞳も微動だにしない。
「だから怖いのって?”赤色ウサギ”かい?」
尋ねた瞬間、ふいと正面に視線を戻すと、
「いた」

いきなり廊下をてててと走り始めた!
「え?あのちょっと、待ちなさいってちょっと待っていや───!!!」
慌てて追いかけるスミ先生。不可解な子供でも知り合いが傍に居た方がマシなのだ。
スミ先生、結局何真面目に考察してもヘタレ確定。
69第X話 妄想月世界:2006/12/10(日) 06:53:48 ID:U7bg4Yjz0
ガシャンと音を立てて花瓶が割れる。
間一髪頭をずらし避けた雑誌記者。わたわたと横に這いずって逃げる。

花瓶を破壊したのは、さっき出くわしたあの怪物。
ウサギの様に縦に割れた唇から、ナイフとも槍ともつかないモノを飛び出させて
いきなりこちらを攻撃してきたのだ。妙にくぐもった呼吸音をさせながらこちらを狙ってくる。
「ほらこっち!!」
変人女が雑誌記者の手を引く。あの刃物が壁を削った。
「何なんだ!?もしかしてアレが本物の”赤色ウサギ”だってのか!?」
「知らないわよ。でもこっちに害意をもって注射器振り回してる以上、危険に変わりない」
「注射器?」
「あの刃物、先端に穴開いてるわ。血でも吸う気じゃない?」
マジか。ウサギやニワトリ殺したのもこいつか!?



「いない、にげた」
校舎裏手の非常階段途中の踊り場まで上がって、チーコちゃんやっと停止。
「マ、待って、クダサーイ───────……〜〜……」
下から過労と恐怖で本屋のエロ本よりよれよれになったスミ先生、到着。
「ホントに、何が居て何を追いかけてたんですか?はあぁ……」
「あかいろうさぎ」
ホントにもうこの子はワケワカラン。”赤色ウサギ”が怖いのか怖くないのか!?
「本当に”赤色ウサギ”ですかそれ?白昼夢とかじゃないんですか?ゼッ、ゼヒ」
「はくちゅうむ?」
「眼を覚ましてるのに見る夢ですよ。あ、今は夜だからいいのかな?ヒフー」

息を整えるスミ先生。ふと気が付くと、チーコちゃんが停止している。
目の前で手をひらひらさせても動かない。眼の焦点も合っていないようだ。
満月の明かりが冷たく非常階段を照らす。
その月の息のように冷たい風が、二人の間を駆け抜けた。
70第X話 妄想月世界:2006/12/10(日) 06:55:04 ID:U7bg4Yjz0
「…………あれ?」チーコちゃんのほっぺをつんつんするスミ先生。すると、
「おわっ!!?」
まるで仕掛け人形のようにいきなりくるりと振り向いた。元に戻っている。
「!!!ビックリした…………一体如何したんですかいきなり?」
「かんがえてた」
「え、何を?」
「たぶん、はくちゅうむ」
何の事、と聞こうとして思い出したスミ先生。
「”赤色ウサギ”がですか?………なら結構、早く下に行って皆の所へ────」
「ちがう」
スミ先生を、まるでバイカル湖の深淵を覗いた様な瞳が見つめた。
「たぶん、あたしぜんぶ」


「あ、いいもんみっけ」
「わー!ちょっと待て置いてくなー!!」
雑誌記者が怪物と組み合ってる間に、変人女が後ろの廊下に逃げた。
目の前の怪物の顔から、まるでカラクリ仕掛けの様に刃物がシュンシュンと飛び出してくる。
間一髪でかわしまくる雑誌記者。耳をかすった。
────やりあいながらふと気が付く。動物の皮膚を掴んでる気がしない。
怪物の肌と中身がたるみ、微妙にズレている。しかもこの匂いは────………
「ほら伏せて────!!!」
「ぶわっ!!!??」
いきなり背後から白煙!変人女が消火器をぶっ放していた。
怪物も雑誌記者も手を離し伏せる。粉末系らしく妙な味が喉にこびり付いた。思わずむせる。
   ……────煙の中から、飛び掛る怪物!!
「う────おりゃっッ!!」
真っ赤なフルスイング一発!!間一髪、変人女が消火器で怪物を吹っ飛ばす!
消火器の煙を吹き飛ばして、怪物は廊下に仰向けに倒れこんだ。
「うぉーしオッケー。大丈夫?半分位血抜かれてない?グールにでもなっちゃった?」
「勝手に殺すな。それより────……」
目の前の廊下でピクピク痙攣している怪物。確認したい事がある。
71名無しより愛をこめて:2006/12/13(水) 01:25:33 ID:oD1WxYKR0
age
72第X話 妄想月世界:2006/12/14(木) 07:43:46 ID:cHBVBhgm0
ぽかんとするスミ先生。
「…………えーと、チーコちゃん?」
チーコちゃんは何事も無かったようにまたキョロキョロしている。
「あのー、白昼夢というのはデスネ、何と云いますか起きているのに見ている夢といった」
「いた」
「まあ胡蝶の夢とも云えなくもないかとって、あ!ちょっとー!」
スミ先生の話も半ばにまたチーコちゃんが飛び出した。今度は非常階段を下に駆け出す。
慌てて追おうと振り向こうとすると、

「スミ先生────」
階下の校庭で懐中電灯を振り回して呼ぶ声がする。雑誌記者のようだ。
「おう、ここですよー?如何しました一体?」
「撮影中止するそうですー!警察も来ましたからー」
非常階段から身を乗り出すスミ先生。
「中止?何で!?」
「”赤色ウサギ”が、捕まったんですー」



すでに夜明けが近い運動場。幾つも光る赤色灯。
警察の無線通信の声。警察官にへこへこ謝る撮影スタッフ。
ヘッドライトにライトアップされ真ん中の折りたたみイスに座らされているのは、中年の男性。
刈り上げた頭に無精ひげ。左目の周りにギャグみたいな青い丸アザ。
脇には引き剥がされた着ぐるみがぐしゃぐしゃにされて横たわっている。
「いやー結構危なかったですよ?あんな妙な刃物持ってたしー」
変人女が、警官の事情聴取にワラビーを抱えてケラケラ笑いながら応えていた。

「…………結局、変質者の仕業だったんですよ」
雑誌記者がスミ先生に説明する。
着ぐるみはどこぞのホビー会社から購入したパーティグッズを改造したもの。
始めは”赤色ウサギ”の噂に便乗してウサギやニワトリの血を抜いて殺していたのだが、
その内調子に乗り始めてこの始末、だそうである。
73第X話 妄想月世界:2006/12/14(木) 07:44:43 ID:cHBVBhgm0
「満足そうですね、スミ先生」
「んん〜、そうですか?まあそうかも知れませんねぇ?」
ニッコニコの破顔で光景を見つめるスミ先生。
「まあ”赤色ウサギ”の正体が掴めましたからねぇ?うんうん結構結構!」
結局、番組はこの通り『”赤色ウサギ”の正体はおもろい変質者ですた』で締めるそうだ。
視聴率取れるのかソレ?

生意気小学生達も保護され、無事保護者達にどつかれている。
「私はイヤだって云ったのに、倉橋くんが押さえつけて無理矢理…………」
「タミヤお前だって賛成しただろーがー!俺がやりたかったのに馬乗りになって無茶して、」
────何だかエロイ会話に聞こえるのは自分がヨゴレたオトナなせいでしょか。

と、その光景を見て一つ気になる事を思い出す雑誌記者。
警察に証言が終わった変人女も駆け寄って来た。
「先生、チーコちゃん知りません?散り散りになった時はぐれちゃって」
「あの娘の事だから大丈夫だとは思いますけど。一緒に居ませんでした?」
「え?あ〜……そりゃ」
言葉を止めるスミ先生。結構二人とも真剣な眼だ。
見失った事を告げても詰め寄られるだけのような気がする。もしそうなれば、
また夜の校舎に突入し捜索に加わる羽目になりそう。ソレは御免だ。とっとと切り上げよう!
わーい俺って外道!!ということで、
「あー、そういえば途中まで一緒だったんですけど、非常階段ではぐれちゃいまして……」
気迫に屈したスミ先生。ごめんヘタレです。

「ま!まーまーま!やることやってから探しましょ!まだ番組の最後収録してないし!」
「………分かりました。でも撮り終わったら協力してくださいよ?半分は先生のせいなんだし」
「そのまま逃げたら、地獄に流しますから」
そういって、雑誌記者と変人女はいまだ暗い校舎へと入っていった。

何だかごっつい呪いをかけられた様な気分のスミ先生。
とっとと撮影すべく、絶賛休憩仮眠いや爆睡中のスタッフ達を叩き起こす。
74第X話 妄想月世界:2006/12/14(木) 07:46:09 ID:cHBVBhgm0
「はぁーいそれではいきますぅ、3、2、1………」
学校を背にして立つレポーターとスミ先生。
もうそろそろ空が白んでいる。結局完徹撮影となってしまった。
スミ先生以外沈没寸前。まあさっき眠りの海淵からサルベージしたばかりだから無理もない。
後はレポーターが舌噛みすぎて死なないのを祈るばかりである。


『えー、このように西部小学校における”赤色ウサギ”の噂は変質者による捏造と………』
寝起きなのに流石。プロの魂は今でも生きている。
────AD達がもそもそ呟く。
「なあ、犯人って”赤色ウサギ”の噂に便乗したんだよな?じゃあその前の噂は?」
「それこそヨタ話だろ?それとも………」
そこにプロデューサー無言の一喝。
とっとと終わらせて家に帰りたいらしい。眼が据わっている。

『我々もそろそろ退散しようかと思います。どうでしたか、住之江先生?』
「そうですねー、まず最初に申し上げました通り家畜を襲う怪物というのは狼が主で………」
しまったという顔のレポーター。絶望するプロデューサー。
「話振っちゃったよ…………」
スミ先生の夜明けの長口舌独演会、 開 始 。


「その殆どが人狼つまり人間による虐殺であったと推測できるのです。今も昔も怪物は……」
『あっ』
レポーターが小さな声を上げる。と同時にスミ先生のズボンに何か感触。
「え、ん、あれ?」


振り向くと、少女が裾を摘んでいた。何か持っている。
「チーコちゃん!探してましたよ!何処行ってたんですか!?」
しゃがんで頭を撫でるスミ先生。良かった、探す手間が省けた。
「ちょっと待ってて下さい、後で皆呼んで来ますから」
75遊星より愛をこめて ◆Ep12/emeBU :2006/12/16(土) 20:17:46 ID:Om3ld80h0
どうもお久しぶりです。遊星です。
ファイル整理の時に今書いてた分も消してしまっったため、
修復するのに時間がかかってしまいましたが、今日から復活します。
76遊星Q「第三惑星の追跡」 ◆Ep12/emeBU :2006/12/16(土) 20:19:40 ID:Om3ld80h0
「・・・・・・リンさん遅いなぁ」

警視庁の部屋の高さから考えて、狙撃してきた相手はホテルの20階近辺にいると睨んだ岸田警部は、凍城刑事と歩を連れてホテルMJへと
やって来たが、到着するなり『ちょっと便所行ってくる』と、歩を凍城刑事に任せて1人でトイレへ行ってしまったのだ。
「もう15分にもなるのに。何やってんだろ?」
歩が1階ロビーの椅子に黙って座っている横で、凍城刑事は時計を見ながらぶつくさ言っていると、トイレの方から右手で頭を押さえながら
岸田警部がやって来た。
「リンさん遅いですよ。何してたんです?」
「便所で滑って転んで頭打って気絶してた。ほんで夢見てた」
「ああ、それで・・・・って頭大丈夫なんすか?」
「多分ね」
「それは良かった。ところで、見てたのってどんな夢でした?」
「バケモンに追っかけられる夢」
「夢にまで出てくるとは・・・・・リンさんも大変っすね。ところでその手に持ってるのは何すか?」
「ビール瓶のカケラみたいだ。危ないから拾ってきた」
「何でそんなものがトイレに・・・・」
「まあいいや。とにかく調査だ調査。いくら科学が発達しても、最終的には我々現場の者の汗がものを言うんだ、うん」
「じゃあ早速20階へ・・・」
「待て、そう慌てるな」
歩き出そうとした凍城刑事を岸田警部が制する。
「まずは許可を取ってからだ。人の家に石を投げたり、勝手に覗いたりするのはルールに反する事だわ」
「・・・・・言ってる事正しいけど何か喋り方変っすよ」
「まあそれはいいから、一番偉い奴は誰か受付で聞いてみよう」
「あの、春日さんはどうするんすか?」
「勿論連れてくさ。置いてく訳にはいかんだろう」
岸田警部はガラス片をポケットに入れると、受付へ歩き出した。
77遊星Q「第三惑星の追跡」 ◆Ep12/emeBU :2006/12/16(土) 20:22:51 ID:Om3ld80h0
警部が受付で事情を説明すると、係員はオーナーの部屋へと3人を案内した。係員がドアをノックし、中からの「どうぞ」と言う声を確認して、ドアを開いた。
「お忙しい中失礼します。警視庁の岸田と申します」
            フタサコ
「どうも。オーナーの二逧です」
立ち上がって二逧と名乗った男の顔を見るなり、歩は声を上げた。
「け、刑事さん!あの男、第三惑星のロボットです!」
「えぇっ!?」

すると二逧はニヤリと笑った。
「ふふふっ。まんまと我々の罠に嵌ってくれたな。その通り、私はロボット大佐だ」
二逧は懐から見たことも無い銃のようなものを取り出し、3人に向けた。後ずさる3人。
「な、何すかこの飯島監督もビックリのスピード展開・・・・・・ん?」
凍城刑事が後ろを振り向く。
「ちょ、ちょちょちょっとリンさん!」
「何だよこんな時に・・・・」
先ほどの係員が二逧の持っているものと同じ銃をこちらへ向けている。
「このビルは既に我々が占拠したのだ。その娘を狙撃してわざと外し、お前たちをここへおびき寄せて抹殺するためにな」
「全て計算だったという訳か・・・・・チクショウ」
岸田警部は渋い顔をする。
「ハッハッハ。残念だったな」
二逧は勝ち誇ったように笑いながら机の上の通信機らしきものを操作し始めた。

「おい、ショーヘイ」
岸田警部が小声で凍城刑事に話しかけた。
「何です」
「俺が後ろのザコをやっつけるから、そうしたらお前は奴を撃て」
「分かりました。でもどうやって?」
「任せとけ」
78遊星Q「第三惑星の追跡」 ◆Ep12/emeBU :2006/12/16(土) 20:24:07 ID:Om3ld80h0
二逧が通信機に向かって何事か話しはじめたのを確認し、警部はポケットの中のガラス片を引っ張り出して床に投げつけた。
ガラスが割れる音がし、ロボット2人の視線がそちらに向く。
「今だっ!」
岸田警部が見張りを掴んで思い切り投げ飛ばした。それと同時に凍城刑事が二逧に発砲した。
「ぐうっ!」
火花が散り、二逧が肩を押さえて倒れる。
「今だ!逃げろ!」
岸田警部は凍城刑事と歩を引っ張って一気にホテルから飛び出し、一気に警視庁の入り口まで駆け戻ってきた。

「ふうっ・・・・・助かったっすね、リンさん」
「やっぱトイレ行っておいて良かったな・・・・・・しかし、これからどうしようか。俺たちの顔も知られてしまっているし、目立つ行動は出来ない」
「あ、あの・・・・・」
歩が声を出す。
「何です?」
「あの、私・・・・・・朝から何も食べてないんで・・・・・その・・・・・・」
「じゃあ、何か食べに行きますか?」
「あ、はい」
「ようし決まった。おいショーヘイ、さっきの喫茶店行こう。アイス食い損ねちまったからな」
「了解っす」
79遊星Q「第三惑星の追跡」 ◆Ep12/emeBU :2006/12/16(土) 20:25:23 ID:Om3ld80h0
「総監。大佐は脱走者の抹殺に失敗したようです。しかも奴はこちらの世界の者に我々の事を話してしまったようなのです」
郊外のとある倉庫に潜伏中の第三惑星総合センター議会第四参謀は、ロボット総監に報告した。
「問題は無い。奴はまだ例のホテルの近辺にいるはずだ。必ず探し出せ」
「はっ、了解しました」
すると、近くの大型の通信機が受信音を発した。第四参謀は通信機のスイッチを押すと、受像機に男の姿が映し出された。
「こちら第三惑星総合センター議会、第二参謀だ」
「こちらは第三惑星総合センター議会、第四参謀。用件は何でしょう、第二参謀」
「第一参謀からの指令だ。本日より3日以内に脱走者を抹殺せよとの事だ」
「3日以内!?それは何故です」
「脱走を図った連中の残党が異世界物質電送機の外部電力を破壊したのだ。幸い内部の電池が生きていて機能は停止しなかったが、
 その電池があと3日しか持たないのだ。そういう訳で脱走者の抹殺は早急に行うように」
「了解しました」
第四参謀は通信を切り、総監に向き直った。
「急がねばならないようです、総監」
80遊星より愛をこめて ◆Ep12/emeBU :2006/12/16(土) 20:33:34 ID:Om3ld80h0
他の皆さんに比べると話がえらくいい加減で無責任ですが・・・・・まだ続きます。
続きはまた後日ということで本日は失礼します。
81ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2 :2006/12/18(月) 10:37:14 ID:H715NNAA0
すべての展開に期待、応援!!
82第X話 妄想月世界:2006/12/19(火) 02:56:00 ID:I7u4APjj0

「これ」
チーコちゃんが抱えていた何かを差し出した。

「…………なにこれ?」
真っ赤なウサギかカンガルーみたいな胴体に、これまたウサギみたいな頭。
でも頭部に目玉は無く、耳介に当たる部分に宝石みたいな塊が付いている。
顔の部分にはセミみたいな口があるばかりで、針みたいな部分をひこひこ動かしている。
スミ先生の質問に、チーコちゃんが答えた。

「あかいろうさぎ」

『シャ────────!』
「「ぎゃ───────────────────あああああああおおお!!!??」」
「だめ」
スミ先生超音波メス再び!!レポーターも同時発射!
スミ先生プロデューサーの所に瞬間移動して抱き付く!嫌がるプロデューサー!
その肩口に、何か湿ったモノが置かれたと思うと、
「あかいろうさぎ」
『シャ────────!!』
「「いや────────────────ああああああ!!!??」」
「だめ、だからだめ」
その赤い小動物がシャーシャー云いながらセミみたいな口を立ててくる。
チーコちゃんはだめだめ云いながら立ててくる口をぱたんぱたんと押さえ寝かせている。
その内チーコちゃんの手の中で暴れ出すと、身をよじって逃げ出して、

「あ」
『シャ────────!!!』
「ああああ────────────ああああうあうあうあうあううううあああ!!???」
スミ先生たちの方へと突っ込んでいった。現場に来ていた警官たちも巻き込まれる。
よく見ればあの耳からライトみたいな光線を発射していた。
どうも相手の顔を照らし出すだけで無害なようだが。
83第X話 妄想月世界:2006/12/19(火) 02:56:46 ID:I7u4APjj0
「そっち行ったぞ────!!」
という声と共に誰かが照明を蹴り倒し、視界が一気に暗くなる。
夜明けとはいえ未だ日は出ていない。巨大な校舎に光を遮られ一時的に闇に眼が眩む。
その闇の中を、
『シャ────!!!!』
「あれえ────────!!?」
『シャシャ────!!!!!』
「だめえ────────!!??」
あの小動物とスミ先生の声。どうもスミ先生アレに追っかけられてるらしい。
『シャーシャシャ────!!!!!!』
「ご無体な────────ああン!!!?」
「だめ」
やっとチーコちゃんが取り押さえた。足をバタつかせながらもがく小動物。
その内一瞬静かになったかと思うとまたチーコちゃんの腕の中で暴れ出して、
「あ」

空を飛んで、逃げ出した。
蛙のように後肢を使い、その通り夜明けの空をついつい泳ぐように飛んでいく。
そのまま西空の沈みかけたお月様の方へと飛んでいった。
チーコちゃん、ちょっとだけ残念そうに一言。
「あー」

校舎から変人女と雑誌記者が出てきた。
「あー!?チーコちゃん何処行ってたのよー!探したわよー!?」
変人女は駆け寄ってチーコちゃんの頭をぐりぐり、雑誌記者も安堵顔を見せた。チーコちゃんは、
「あかいろうさぎ、にげちゃった」
「え!?あの変態ラバーマン!?」
周囲を見回す変人女。────あの着ぐるみ変態中年もスミ先生と一緒に走り回っている。
というよりも、チーコちゃんと校舎から出てきた二人以外大混乱に陥っている。
よりにもよって、夜明けの小学校の運動場で。変人女が一言。

「…………何このドリフ現象?」
84第X話 妄想月世界:2006/12/19(火) 02:57:23 ID:I7u4APjj0
結局朝の八時まで混乱は収まらなかった。

とりあえずスタッフ含めスミ先生、変人女、雑誌記者、チーコちゃんはバスで帰宅。
残りの小学生四人は、本日は授業欠席。
保護後の検査入院……は名目で、正直皆睡眠不足だったのだ。今頃良く寝てる事だろう。

途中で雑誌記者が降りる。そのまま出社するらしい。大丈夫なのかソレ?
そしてチーコちゃんも、変人女と一緒に降りた。何のリアクションも無かったようだ。


そしてようやくスミ先生も自宅へご到着。家政婦さんが出迎えてくれた。
ふと横を見ると本日の郵便物をいまだ取り込んでいない。こういうところはちと困る。
DMをまとめ、今日の朝刊を眺めながら玄関へ向かう。
「…………?」
スミ先生の足が止まった。視線は天気予報で止まっている。
訝しげな家政婦さんへ質問。

「…………昨日の夜って、新月でしたっけ?」
「へ?えーまあ、真っ暗でしたし。そうだったんじゃないですかねえ?」


────スミ先生、そのまま卒倒バタンキュー。
それから一週間、熱を出して寝込んだまんまだったそうである。





その頃のチーコちゃん。ご飯を食べながら一言。
「あかいろうさぎ」
「チーコちゃん、梅干で遊ばない」
85第X話:2006/12/19(火) 02:58:43 ID:I7u4APjj0
今後の複線張ってたら思わぬ駄作になってワラタ
( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
86名無しより愛をこめて:2006/12/21(木) 05:52:53 ID:NDaHQ8qc0
age
87名無しより愛をこめて:2006/12/21(木) 12:39:02 ID:7EimzZKI0
駄作とは思わないが、今回は登場人物が異例に多い上に新顔もかなりいるのだから役割分担をハッキリさせた方がいいのでは?
例えば…
いわゆる「ホームズ役」
推理小説のみならず、実はSFでも頻繁に見かけるポジション。
謎を解いたり、奇怪な設定を解説したりする役。
ウルQだと市の谷博士がこのポジションで変人女の立ち位置もここ。
「ワトソン役」
天才や異常者(笑)であるホームズ役と一般読者を繋ぐポジション。
ホームズ役が謎を解く前に、謎を整理したり強調したりすることで読者に判り易くするのが役目。
ホームズ「犯人は××卿だよ。」
ワトソン「何を言ってるんだいホームズ!?そんなこと不可能だよ!事件がおきたとき、××卿は僕たちといっしょにいたじゃないか!?」
……ワトソン役が謎を整理しつつ、不可能性を強調してるわけ。
これがないとホームズ役の活躍が光らない。
あとは「狂言まわし」で、スミ先生が明らかにこれ。
上がり過ぎたテンションを下げたり、場面転換をスムースにしたりする役で実質的な「司会者」。
狂言回しはギャグをやる場合も多いので「賑やかし」にも見え易いが、「話を転がす」という明確な役目を負う点で単なる賑やかしではない。
役者は揃ってるんだから、役割を明確化すれば随分印象が変わってくるかと……。

……と、いうわけで自分のことも考えずに偉そうなことを書きつつ応援。
88第X話 幽霊大陸を追って:2006/12/24(日) 02:30:49 ID:giHpUakQ0
『はいっ!こちらは吹宮山山頂です!現在、機動隊が待機中ですっ!!』

年の瀬のある霊峰の山頂。
霊峰といってもかなり観光地化され、その山頂は展望台となっている場所。
いつもなら観光客がそれなりにうろつき、初日の出ともなれば更にごったがえすだろう。
しかし今、その山頂に居るのはマスコミの群れ。その向うに警察の機動隊。
更にその視線の先には────
御幣が並び、護摩が焚かれ、白装束が列を成す。その中心には、
「ハイヤイズモヨリマヨイオワシマスタケミナカタノミコトニカシコミカシコミモウシアゲマ……」
つるっぱげでガマガエル似の変なおっさん。
格好も神職なのか僧侶なのかはたまたカトリックの司教なのかよく分からない衣装。
そう、観光地たる山頂が新興宗教の団体に占拠されているのだ。
しかも妙な儀式まで始めている。不安げに眺める土産物屋のおばちゃん達。
店の前でマスコミにカメラを構えられて商売上がったりである。

『宗教団体”真大陸の法会”は以前より社会不安を煽る違法行為で────あっ!!』
叫ぶ女性レポーター。遂に機動隊が動き始めた。
目標は中心に居るあのつるっぱげ法会代表。信者の群れに割って入る。
突然の部外者乱入に抗議する白装束達。御幣を振って抵抗するが取り押さえられる。
「ミウアトランチスレムリアハイパボリア、ミヨイタミア…………なんじゃお前ら!?」
「「確保────────!!!」」
「ぬわ────っ!?邪性権力の犬共私を誰だと思ってぐぶへッ、この程度でぎミュッ」
大勢の機動隊員に上からのしかかられ、まさに潰れた蝦蟇状態と化した代表。
「何をするかきさまらー!この大事な真大陸降臨の刻を…………お?」
機動隊員が押さえつける力を弱めた。見ると上空を見て呆然としている。
周囲も同様、信者も他の機動隊員もマスコミも、上空に視線を向けていた。
ガマガエル代表も見上げる。

────────曇り空を紅海の如く割り、天空に出現したのは、巨大な陸塊。
上にはまるで水晶で出来た建造物のようなものが見える。
代表が潰れっぱなしで叫んだ。
「おおお────……来た。降臨した!あれこそ約束の大地、レムーリアだぁっ!!」
89第X話 幽霊大陸を追って:2006/12/24(日) 02:31:23 ID:giHpUakQ0
「はい?何ドラクエの話?またリメイクすんのあれ?」
「違う」
「じゃあ特務の青二才が…………」
「それも違う」

また編集部に遊びに来ている変人女。本日の昼飯メニュー、卵チャーシュー丼420¥也。
一応年末の打ち合わせのハズなのだが近所の飯屋からテイクアウトまでしている。
「お前、チーコちゃんはどうしてんだ?またほったらかしか?」
「違うわよ。例のお仲間と一緒に遊びにいってんの。放置されてんのはあたし」
はふはふ云いながらタレに漬かった飯を頬張る変人女。
最近編集部に入り浸る事が多いのはそのせいか?結構寂しがってんのかこいつ?
「何ニヤニヤしてんのよ気色悪い。さっさと話戻しなさいな」
「へいへい」

さて。
本日の議題は来年の予定、新年早々のネタ選定である。
で、上げたのが先日起こった宗教団体による怪事件。

────新興宗教団体”真大陸の法会”。
いわゆるムーやらアトランディスやらの『幻の大陸』と、その住民『始祖民族』を本尊とする
まあ凡百のオカルト団体である。彼らの教義をパンフからかいつまむと、
『幻の大陸は天空の何処かに隠れている!来るべき新時代にそれは地上へと降臨し……』
といったシロモノ。
要するに天空に浮かぶ大陸とやらを信望しているらしい。
その彼らが先日観光地で宗教儀式を強行して警察に強制排除された際、
よりにもよってホンマモンの”天空の大陸”が出現したというのである。
中継マスコミ連中に映像が撮影され、更にネットでリアルタイム中継が行われた為
世間では既にえらい祭り状態。それにあやかって、


「ラピュタネタ?流行に安く乗りすぎじゃない?気進まないなぁ」
「じゃあお前がネタ出せよ、それにこれスミ先生の提供だぞ?新年会で何云われるか……」
90名無しより愛をこめて:2006/12/25(月) 07:42:43 ID:rDPvjk7W0
なるほど、前作はスミ先生の紹介編だったか。
そのうち桃色ウサギの正体なんかもリンクしてくると……。

ときにこれはドラクエネタというよりイースネタでは?
……と、いうわけで応援。
91名無しより愛をこめて:2006/12/27(水) 01:08:20 ID:Cl6zxZvI0
age
92第X話 幽霊大陸を追って:2006/12/28(木) 07:07:11 ID:HawiksTK0
「あ、あたし新年会行かないから」
「へ?」


変人女が懐からぺろんと取り出だしたるものは、何かのチケット。
雑誌記者の目の前にずずいと突き出してきたのでしょうがなしに見てみると、
「…………『年越し豪華客船』……?」
「近所の安売りスーパーの福引で当たっちゃってねー、しかも二枚!!もったいないでしょ?」
「チーコちゃんと行く気か?」
「それがねー、チーコちゃんあのお仲間と一緒に初詣行くって聞かないのよ。だからダメ」
これは珍しい。あのチーコちゃんが自分の意見を主張するとは。
そろそろ反抗期か?背丈はともかくお年頃だし。
「で、どぉお?明日からだけどあんた来る気無い?」
「…………すまんがな…………年末進行って知ってるか…………」

変人女の出したチケットの日付は明日からだった。仕事納めにゃ一日早い。
しかも年内に済ましておきたい仕事が山ほどある。もしかしたら正月も出ないといけないか?
「そゆ訳だ。すまんが」
「────────あっそ」
チケットをひたひらさせながら眺める変人女。唇をカモみたいにしてる。
「てか、さっさと決めちまうぞ。俺の正月休みに協力してくれ、な?」
「はーいはい、さっさときめちゃいましょー」
さあて、新年会でスミ先生にどう云おう。


翌日、チーコちゃんを雑誌記者に任せて変人女は豪華客船で年越しへと旅たった。
次の日にはチーコちゃんが友達の家へ厄介に行く。
雑誌記者は、相変わらずの年末進行。というかゴールは程遠い。
何だか、変人女とチーコちゃんのコンビに生活をかき回されている気がする。
「…………女難の相でも出ててかなぁ、俺」
キーボードをバキバキ叩きながら溜息一つ。横目で車内の時計を見る。
もう船は太平洋へと旅たった後だろうか?
93第X話 幽霊大陸を追って:2006/12/28(木) 07:07:42 ID:HawiksTK0
「おい、見ろよコレ。あの話題の教祖様」
おかじーがコーヒー持って話しかけてきた。自分のお仕事は終了したのかコイツ?
「来年にするわ。年越しは実家に帰るからな!それで────……」
ああさいですか。もう何だか脳の色んな所がマヒしかけてる雑誌記者。聞いちゃ居ない。
「この教祖様、年越しは自分トコ出資の観光会社主催の豪華客船でパーティだと!まー…」
「豪華客船?」
おかじーの持ってる携帯を取り上げる。どっかのゴシップサイトだ。
出立の日付は今日だ。船名は────”シービショップ号”。覚えていない。
「…………まさかな」


その日の夜。
チーコちゃんとコンビニ弁当を買って帰る。
手を繋いで夜空を仰ぐと、星空が鮮やかに瞬いていた。透明な気分に浸る雑誌記者。
と────
「うん?どした?」
チーコちゃんが立ち止まり、こちらをじっと見つめている。
彼女の視線は万人を落ち着かなくさせる。全てを見透かされそうな大きな瞳。
まるで、それまで見ていたような夜空を想起させる透明な虹彩。

「 ………────えと、どした」
「きた」
突如胸のポケットが震えた。驚きながら取り出すと非通知設定。何だ一体?
「とって」
チーコちゃんの透明な視線に射抜かれたまま、通話ボタンを押す。

「────もしもし?」
バリバリバリと雑音。電波状況からではないらしい。背後からは人の声も聞こえる。
イタズラか?どっかの飲み屋の忘年会で学生が罰ゲームでもやったのか?
「────もーしもーし?」
「 ………モシモシー?聞こえてるー?わかるあたしの声ー?」
聞き紛う筈も無い。変人女の声である。
94名無しより愛をこめて:2006/12/30(土) 23:27:13 ID:KI1GMkMV0
age
95第X話 幽霊大陸を追って:2006/12/31(日) 01:14:20 ID:z07MHyZo0
『聞こえてるー?アタシ今、”シービショップ号”からかけてるんだけどー』
「聞こえてるぞ。何だ、自慢話か?チーコちゃんもここに居るけど変わろうか?」
『いやー、それがねー、今フィリピン沖に居るらしいんだけどー』
「それで?何だ一体」

『んー、何か海賊に捕まっちゃったらしくて』


「…………は?」
眼が点になる雑誌記者。何云ってんだコイツ?早くも大晦日前に酔ってんのか?
『酔ってないわよー。何か漁船の集団に取り囲まれたと思ったら乗り込んできてさー』
確かに背後が何やら騒がしいが、海賊?タルに入って剣刺されまくりのおっさんが浮かぶ。
『そんなんじゃ無いわよー。フィリピンの武装漁民って感じ。………お?』
変人女の声が遠くなる。電話の向うからネズミ花火みたいな音が聞こえてきた。
『………うわ、うわわぁ』
「何だ、どした?」
『あー発砲してる発砲してる。誰か救命ボートか何かで海に逃げ出したみたい』
女性の叫び声。男性が何か怒鳴る声。日本語には聞こえない。マジか?
「おい、大丈夫か本当に!?要求とか何か云ってるか!?」
『────いや、それが。あれ、あれれ?』

ゴソゴソバリバリという雑音。甲板を歩いているらしい音もする。変人女は移動しているらしい。
『海賊船が幾つか離れてくわ。逃げ出したの追っかけてるみたい。てかそっちが目的かな?』
すると、船に乗っていた何か、もしくは誰かが目的だったのか?
『あー、とにかくもう開放してくれるみたいね。それともサプライズイベントかな?』
「サプライズって…………えーと、イタズラって事か?」
『だって何だかわざとらしいし。生粋の海賊って感じじゃ────────……へ?』

爆音。
「おい、どした!?何だ今の」
『いや、それが────漁船が爆発して、わ、うわっ!!? ………ちょっと待』
ブツン。唐突に通話は切られた。後に残るのはツーツーという不通音のみ。
96名無しより愛をこめて:2007/01/02(火) 03:23:37 ID:tlxR/1ZO0
age
97第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/04(木) 08:00:35 ID:Em0ng3LX0

『えー、只今入りました情報によりますと、国連要請によりフィリピン及び米国海軍が……』

現地レポーターが南国風の服装で港から中継している。
背後には灰色の船舶が幾つも並び、その内の数隻が移動を開始していた。
見れば砲塔に大型アンテナが並んでいる。
地味ではあるが、間違いなく”戦艦”だ。

『”シービショプ号”は依然フィリピン沖200km海上で停止しており、海賊の要求は未だ……』


「────確かなのか」
編集部のソファに尻を沈ませる編集長。目の前には雑誌記者。
「…………ええ、昨日連絡がありました。間違いなく彼女です」
横目でちらりとTVを見る。フィリピン周辺の海図に船の現在位置が赤いX印で示されていた。

変人女の妙な連絡から帰って直ぐ後、雑誌記者はTVのニュース速報で詳細を知った。
本当にフィリピン沖で豪華客船が海賊に占拠されていたのである。
船は最初に襲撃された地点で機関を停止し、依然そのままの状態。
海賊はフィリピンのイスラム過激派集団”赤い三日月”である、との報道だった。
────識者による憶測に過ぎないのだが。
それから半日以上、”シービショップ号”からは何のリアクションも確認されていない。
何人かが占拠時に脱出しているそうだが、その詳細はまだ不明だった。

「彼女の家族ってチーコちゃんだけだったか?他には?」
「いえ、特には聞いてませんけど…………」
「じゃあ一応お前が窓口ということか。乗客名簿公表されてたか?報道連中はしつこいぞ?」
「とりあえずチーコちゃんは俺の家に居させました。知らない人の相手はするなって」
「それでいいだろ。後は────────安否か」
タバコを吸いながらソファにもたれる編集長。TVに視線を泳がせると、画面が変わった。

『えー、只今中継ヘリが船の姿を捉えた模様です。ご覧下さい』
98第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/04(木) 08:01:09 ID:Em0ng3LX0
青い太平洋上に画面が切り替わった。
背景音で必死でレポートする英語中継に、同時通訳が死に呈で追いすがっている。


洋上に真っ白な船体が見えた。

”シービショップ号”らしい。カメラがアップにされると詳細が映し出される。
船体に破壊など異常は見受けられない。一応無事なようだが────────
────少々奇妙だった。甲板に人も見受けられるのだが、
こちらに反応しない。距離にして見えない程ではないし、音で気付くはずなのだが。
海賊達に脅されているのかとも思ったが、にしてはそれらしき人影は無い。
更に奇妙なのは、その船体の背後に幾つもの漁船らしき船が浮かんでいる事。

『あれが海賊船でしょうか?しかし、それにしては────』
破壊されている。船体が半分以上削り取られ、転覆しているのもある。
それらにも人影はあるが、いずれも静まり返っているらしい。


「姿は見えんな」
中継を見ながら、編集長が呟く。雑誌記者は息を殺して見守る。


『あー米軍の突入部隊のヘリが来ました。全部で四機』
カメラが下方へと移動する。黒い大型輸送ヘリが二機、先導する武装ヘリ二機。
これから客船に突入し救助活動を開始するらしい。海賊の反撃も想定しているようだ。
これも先遣隊であるらしく、後方には米海兵隊の駆逐艦まで待機しているらしい。
『ゆっくりと近づいていきます。客船からの反応はありません。反撃も無しです』

奇妙だ。
海賊というならば、もう少し反撃なり逃亡なり降伏なり反応するのではなかろうか?
やがてヘリが減速を始めた。いよいよ客船上空にさしかかり、ホバリングに移る。
アップになったカメラに、後部ハッチが開いていく輸送ヘリの様子が映し出された。
99第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/04(木) 08:02:08 ID:Em0ng3LX0
その瞬間。


「お?」
「ん?何だ今の?」

客船上空に爆炎が上がった。いや────
────ヘリが爆発した。炎に包まれながら姿勢を傾け、客船横の海上へと墜落していく。
同時に客船に接近していた残りのヘリも驚いたのか、姿勢を建て直しすぐ離れた。
客船横の海上で炎上するヘリ。そのすぐ傍に、


「おい、おいおいおい」
「何だアレ?」

巨大な、海中の影。黒々とした三角形の巨体はトビエイを思わせるが、大きさが違いすぎる。
間違いなく”シービショップ号”と同じ位の大きさだ。それがヒレを揺らめかせると、
白い光線。
TV中継を見ていた者にはそう見えた。その白い光線が空中を薙ぐと、
────再度爆発。今度は二連撃。
残りの輸送ヘリと武装ヘリが一機目と同じように爆発し、海上へと墜落していく。

英語レポーターが更に白熱している。同時通訳が追いつかない。
『何ということでしょう!何という事態!あの黒い物体は何でしょうか!?新型の潜水──』
────ここで突如中継カメラが大きくブレた。バランスを崩したらしくヘリの天井を映す。

絶句する雑誌記者と編集長。後ろで固まってTVを見ていた編集部の連中も騒ぎ始めた。
やがてカメラは大きくブレながらも何とか姿勢を回復したのか、何かを映し出した。
高速で飛行するヘリの背後の空中。遠い幾つかの積雲を背景にした、
空を飛ぶ、あの三角形の物体。
英語で叫び捲くし立てるレポーター。同時通訳は既に放棄されている。その三角形が接近し、
中継は、只の灰色の砂嵐となった。
100名無しより愛をこめて:2007/01/05(金) 13:27:58 ID:zqmIAMsu0
新年!保守!!
101名無しより愛をこめて:2007/01/07(日) 02:31:35 ID:kbITH6+50
age
102第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/09(火) 05:18:35 ID:VOCbrEbN0


カモメが一匹、青い宙を舞っている。

眼下には青い海、その真ん中に、白い船。

周囲には何かの残骸が漂っている。
浮き輪らしきモノが浮かんでいる所を見ると、恐らく最近まで船だったのだろう。


白い巨船のデッキには、人っ子一人として見えない。
本来なら真水に戯れ遊ぶ声が聞こえていたであろうプールも、只風で波打つばかり。
まるで青空の下の幽霊船の様に、静寂がその船を支配している。


────いや。
突如、カモメの群れがギャアギャア喚きながら飛び立った。その白い鳥の群れの下から、
「……────あーもう、エサ無いってば」
人の女性の喚き声。下を覗くと、船の三等客席あたりの窓が全開に吹き飛んでいる。
そこに座ってタバコをくゆらせ、孤島のクルーソーよろしく釣竿を垂らしているのは、
「ホラそこ寄ってくんな!あーもう!ソレエサじゃない!持ってくなー!!」

────変人女であった。


半分折れたホウキを振り回しながら群れるカモメ共を追い払う。
半分位追っ払うと、下に長く伸ばした釣り糸の先を注視した。…………変化は無い。
溜息一つ。タバコがもうフィルターギリギリになっていたので慌てて捨てる。
のんびりしているのか、切羽詰っているのか。妙な雰囲気。

────と、背後から声がかかった。男性の声。
「…………釣れますか?」
103第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/09(火) 05:19:07 ID:VOCbrEbN0
「全然。やっぱこんな外洋のド真ん中じゃねぇ」

背後から来た男は、脇にあった鏡台のイスを引きずってきて座った。
暗い室内からその容貌が露わになる。────白人の優男。陽光に濃い金髪が光る。
「食料なら、料理長と船長さんとで相談してきました。最長二週間は持つそうですよ」
「それだけじゃねぇ。せめて自分の分位は自分で確保しときたいし。こんな状況じゃ、ね」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」

またカモメが寄って来た。
変人女は必死で追い払うが、男の方は構わないといった風情。
男の柔らかな物腰や風貌も作用しているのだろうか、その内男に白い鳥類が群がり始める。
「────それよりも、船内の人心安定の方が心配だわ」
「人心、とは?」
聞き返した男を変人女が睨む。男はカモメの背中を撫でていた。
「あんたらの方は統制取れてるからともかく、乗客の半端セレブ連中がねぇー」
「半端、セレブ?」
「そ。ハリウッド映画で、真っ先に混乱したあげく面倒残して死んじゃいそうな連中よ」
「ハリウッド、映画………?」
「泣いて喚いてワガママ抜かして本当にそゆことしそうだから────って、あんた?」
「なんです?」
変人女がもう一度横を見ると、男は既にカモメ達を手なずけていたらしい。
群れていたカモメ達が男と一緒に一斉に振り向いた。思わずたじろく。

「何で質問しかしないのよ。失礼じゃない?」
「ああこれは失礼、貴方の話には面白い単語が頻出するもので。そういうものですか?」
「そゆもの。会話の基本。てかあんた、本当に何者よ」


男が再びカモメをいじり始めた。カモメもまるで猫のように目を閉じる。
「フィリピンの共産系ゲリラに属する海賊の棟梁────では、ご不満ですか?」
「ご不満ね、あたしに限っちゃ」
104第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/09(火) 05:19:46 ID:VOCbrEbN0
────と、急に変人女の竿がしなった。大きい。
「おおっ!?ちょ、ちょっと!?」
立ち上がる変人女。男もカモメを飛び立たせながら立ち上がり、後ろから手伝う。
「ちょっと、かなり重いですねぇ」
「乗客の持ってたマグロ用の竿とルアーだからね、それ相応の奴がかかったんじゃ────」
「いえ、貴方の体重が」

バキン!

変人女が男の向こう脛を蹴り上げるのと当時に、竿があっさり窓枠を破壊し飛んでいった。
数秒位して、たぱーんと凪いだ海面に落ちる音が聞こえてくる。
「あいたたたた…………何するんですか?」
「女性に体重の事は云わないし聞かない、コレも対人会話の鉄則。OK?」
変人女が腰に手を付き仁王立ちで男を睥睨する。海の反射光がアオリで入ってすごい顔。
「ええ、分かりました」
男は少しも引いてませんよ、といった応答。


ざざざざん、と大きな波の音がした。
変人女も男もはっと気付き、下の海面を覗き見る。
……────大きな白い船に横付けするように、巨大な黒い物体が浮かび上がっていた。
船と同じ位の大きさで潜水艦を思わせるが、形態が著しく違う。
巨大な三角形。どことなく、ステルス戦闘機を思わせる形態。
海面上に目と思われる部分を出し、しきりに周囲を伺っているようだった。

その上空を、船から追い出されたカモメ達がミャアミャアと舞っている。
海面上に出たその物体の頂部、つまり目の部分に着地しようと数匹が舞い降りてきた。
その刹那────
バシュン、バシュン。まるで白い光線のようなものが、海面下から放たれる。
まともに喰らったカモメが7〜8匹、空中で吹き飛んだ。カモメの群れも四散していく。
小五月蝿い鳥類共が散っていくのを確認するまでも無いといったように、
黒い物体は再び、青黒い海面下へと姿を消していった。
105第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/09(火) 05:20:17 ID:VOCbrEbN0
「…………釣竿の着水音に反応して出てきたんですね」
「あんな音にまで反応すんの?なんとまー神経質なやっちゃ」
「……やっちゃ?」
「はいそこ安易に突っ込まない、コレ会話の鉄則第三条。よろし?」
「わかりました」

肝心の釣竿を失い、釣りの片付けを始める変人女。
「えーとあれ、何だっけ?さっきの怪物というか、バカでっかいエイの名前」
「”ボスタング”です。主に音に反応して攻撃対象を見定める性質をもってまして、」
「耳タコだからその説明。それよりも────」
ドアへ向かいながら変人女は再び男を睨みつける。男の澄んだ瞳へ、直に視線を叩き込む。
「何でアイツ、この船にまとわりついてる訳?」

「────何で、とは?」
「質問で返すなって云ってんでしょ。あんたらが船占拠して、船主が逃げ出して────」
男は未だ熱帯の陽光の中。白い肌も金髪も、瞳でさえも目に眩しい。
「その直後に”ボスタング”が来て、そしてあんたらはアイツを知っている。どういう事?」

「……────どういう、とは?」
部屋の奥の暗がりから変人女が叩き込む視線を、日溜りの男は全て受け流す。
無駄なのか。
脅かそうとも揺さぶろうとも、目の前の男は少しも応えない。柳に風か、もしくはビニールか。
変人女の首筋に、陽光に晒された汗とは違う、妙な汗がじわりと浮かぶ。
やがて根負けしたかのように、
「────まあいいわ。そういや、あんた名前聞いてたっけ?」
「ああ、お聞きでないですか?私は”リズ”。 只のリズとお呼び下さい」
ふうん、と興味なさげにドアへ向かう変人女。その後姿に、

「ああ、後で2等ロビーにおいで頂けますか?」
リズが呼びかけた。まだ何か有るのか?といった表情で、不機嫌そうに振り向く変人女。
「何よ」
「脱出した船主さんが日本で記者会見を開くそうですよ。ご一緒に、いかがです?」
106名無しより愛をこめて:2007/01/13(土) 03:16:33 ID:LpTWSBPT0
あげ
107名無しより愛をこめて:2007/01/13(土) 11:41:38 ID:uF9HQbHC0
108第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/15(月) 06:02:25 ID:JEyrGuwG0

都内の某ホテル、宴会場の一室。
中には既にマスコミ関係者がひしめき、座れず立ち見になる者も居る。
ざわざわと取りとめも無い会話を続ける人々。やがて、

『────えー、では、”真大陸の法会”代表、壇田原蕃斉による会見を始めま……』

言い終わらぬうちにフラッシュの嵐。
その中を、あのガマガエル似のおっさんが例の妙な衣装を着こんでしずしず歩いてきた。



所変わって、再び編集部。

「おお〜……なんというかハデというか、”教祖様”って感じですねぇ」
おかじーがぼやいた。自分のPCをTV代わりにして中継を見ている。
「てゆーか、何でこのヒヒじじいが記者会見するんだ?何か謝るのか?」
これは編集長。後ろに立って見ていたが、足が疲れたのか後ろにもたれている。
「編集長、カベへこみますから止めて下さい」
これは小坂。何気に隣の席を占拠して画面を覗いている。
他にも編集部の面々が集まって見入っているのだが、その人のカベをぶち割って────

「お────〜〜〜いい!!こっちでは見ないのかねぇ────!!?」
スミ先生が応接セットのパテーションから顔を出して叫んでいる。
TVを皆で見るならあの応接セットの中でTVを見るのが一番いいのだが、
「…………おい、お相手してこい」
「いやですよぅ」
この調子である。皆相手をするのがいやなのでこっちに寄っているのである。
相変わらずの調子の編集部。しかし────…………

「あれ?あいつ今日も休みか?」
「編集長、会見始まるみたいですよ。ホラホラ」
109第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/15(月) 06:02:57 ID:JEyrGuwG0
記者会見の内容は、なにやら取りとめも無いものだった。
なにより初っ端、一例してから一言。
『乗員乗客の皆様の安らかなる魂の昇華を願って、一分間の始祖への祈りを捧げます』
そういって、本当に会見一同で黙祷を始めたのである。

集まったマスコミ連中もいきなりの所業に意表をつかれたらしく、動揺が広がった。
そして一分後に黙祷が終わると、団体の”情報担当”と名乗る眼鏡の小男が、
『船主としての今回の事件に対する見解』とやらを述べ始めたのである。
この間、代表とやらは一切喋っていない。
記者会見の折りたたみ長机のド真ん中で、ふんぞりかえって座っている。



編集部の面々も困惑したらしい。
「何というか…………何なんでしょうね、この団体」
「神経に障るな。乗客の身内とか、大丈夫か?」
”情報担当”の口調は何ともお役所的カタブツ口調なのだが、その内容は驚くほど嫌味だった。

『乗客は我々が逃げ出す船を提供したのに海賊に恐れをなして乗らなかった。
 我々は勇気を出して逃亡し、他の乗客は臆病だった為に逃げ遅れた。
 我々に過失も責任も無い。あるとすればそれはあの乗客達の方である』
そんな内容だったのだ。
間違い無く他の関係者の神経を逆なでしている。そんな印象だ。
「ムカツク────────!!」
応接セットでスミ先生が絶叫した。少しだけ、同意。


やがてようやく侮蔑発言が終わりを告げ、質問タイムが始まると思いきや、
「これで記者会見を終了します」
なんと、発言したのは”情報担当”だけだった。他の団体関係者は一言も発言していない。
椅子を引きずる音も無しに全員すっと立ち上がると、そのままするすると退場していく。
110第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/15(月) 06:03:34 ID:JEyrGuwG0
────────その時、事件が起こった。

かいつまんだ状況説明はこうである。
音も無く退場していく”真大陸の法会”の一行に対して、前列に居た男が罵声を浴びせた。
彼らの列が止まり、その男に注目が集まる。
男はやはり団体の発言内容、ひいては態度について糾弾していたようだ。
ソレに対して団体は”情報担当”が代表を庇う様に前に出て、応酬を始める。

やがてその男が激高したかと思うと、ポケットから何かを取り出した。
見た限りでは、それは生卵であったと思われる。
それをいきなり振りかぶって、”情報担当”の体からはみ出た教祖に投げつけ────


潰れた黄身を引っかぶったのは、その男の方だった。
何が起こったのかは分らない。しかし、その瞬間”代表”が左手をかざしていたらしい。
男はつるりと禿げた”代表”の顔と、自分の顔からぬぐった黄身を数回見比べ、
────笑った。
何か重大な事でも見破った、という表情で。
その直後、会場を警護していたらしい団体の人員がその男を羽交い絞めにした。



あっけに取られた編集部の面々。
「おい、今のヤツって────………」
と、編集部の扉が開く音。少しだけ開いて、又閉まる。人影は見えないが足音はした。
「………お?どうしましたい君ぃ?彼の生放送サプライズショーONAIR中ですよ!?」
「すまないけど、へんしゅうぶでおせわになれって」
てててと足音がして、ひょこりと机の影から出た影は、間違い無くチーコちゃん。
今度は編集部全員が、TVとチーコちゃんを幾度も見比べる羽目になった。

屈強な男に二人ががりで引きずられ、退場していくお騒がせ男。
見紛う事なき、あの雑誌記者であった。
111名無しより愛をこめて:2007/01/18(木) 02:36:32 ID:BayUoYZ20
age
112名無しより愛をこめて:2007/01/20(土) 04:49:31 ID:A+12xouK0
ほす
113第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/21(日) 06:00:25 ID:c25V8Sw60
どこかの薄暗い通路。列を為して通路を進む人々。板張りらしく、木の軋む音が聞こえる。
その先頭の背の低い、しかし恰幅のいい人影に次々と報告が入る。

「現状は?」
「”シービショップ号”は現在、最初のフィリピン沖の停止位置から動いておりません」
「船に異常は」
「ナシです。中の連中、相当参ってると思うんですが」
「連中の事は聞いておらん。荷物だよ。荷物から反応はナシか」
「……いえ、アレからも、何の反応も」
「”レムリア”の現在位置は」
「不明です。吹宮山山頂での目撃後、太平洋上で見失って後は」
「…………全く、貴様らどうしようもないな?ああ?」
「恐縮です」
「違うぞその反応。もう少し勉強しておけ」
「は」


襖がガラリと開いた。
「さて────────君の素性だが」
薄暗がりの部屋の中央、円座に後ろ手に縛られ座っている人影がある。
開いた襖からするするとスーツ姿の男、次に神主のような姿の者が入ってくる。
────最後に入ってきたのは、あのガマガエル会長、壇田原。
「この名刺通りなら、君は出版社の記者ということだが…………本当かね?」
「え、あ、はい」
「ならば何故、私にあのような事を?」
「────────その事で、”真大陸の法会”代表壇田原先生にお願いが!」
人影が縛られたまま姿勢を正し、正座に変わった。光の当たる角度が変わり顔が見える。
それは、あの雑誌記者の顔。
「わ、わっわ、………────私に!この会の専属取材をさせて下さい!」

意外な言葉に眼を丸くする会長以下の連中。
「…………な、なんでしたら、いっそ入会させて下さい!!」
114第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/21(日) 06:00:57 ID:c25V8Sw60


翌朝、朝早く。

誰も居ない編集部。
ブラインド越しに差し込んで来る朝日に、室内のホコリが照らされる。
静かな一時。────そこに、

カチャカチャという音と共に、編集部のスリガラスの戸が開かれる。
のっそりと姿を現したのは、編集長の大きな体。肩で扉を押しのけながら入ってくる。
「うぃ〜す…………おかじー、起きてるかー」
自分の机にカバンを置きながら呼びかけた。…………しかし返事が無い。
人が居ないせいで妙にすっきりしている編集部を掻き分け、応接セットへと歩を勧める。
「お〜い、おかじー?」
応接セットの中からは、恐らくカップ麺をすすっているであろう音が聞こえる。中を覗く編集長。
覗いて、溜息一つ。
一人起きてカップ麺を朝食にしているチーコちゃんと、未だ毛布に包まるおかじーが居た。


「…………お前な、せめて子供よりは早く起きろよ。本当に成人か?」
「いや、そう云われても、ねみゅいですしぃふかかかか────…………」
大あくびと同時に張っ倒されるおかじー。チーコちゃんはカップ麺を食べ終え、器を洗っている。

チーコちゃんは結局、編集部に寝泊りする事になった。
年末も差し迫る為誰かの家で世話をする事を勧めたのだが、彼女が全く譲らなかったのだ。
結局編集部員交代でチーコちゃんの面倒を見ることになり、先ずおかじーが泊ったのである。
「本当にあいつら…………この年の瀬に、何やってんだか」
「────二人とも、大丈夫ですかねぇ」

「だいじょうぶ」
二人のダベりを裂いて、チーコちゃんが応えた。
「ふたりとも、だいじょうぶ」
115名無しより愛をこめて:2007/01/22(月) 02:30:54 ID:8TTws5gD0
116名無しより愛をこめて:2007/01/25(木) 23:11:06 ID:SvoEZMIR0
保守
117第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/26(金) 04:53:25 ID:xwYX7E3j0
「────見せたいもの?」
「ええ。貴方を見込んで、是非」

リズが船室で炊き出しを手伝っていた変人女の所へ、わざわざ割り込んで来て云った。
「後にしてくれる?今忙しいんだけど」
そう云いながら変人女は寸胴鍋をかき混ぜる。頭のほっかむりに、丈の短いエプロン。
「事態は急を要します。ようやく発見できたものなので、直ぐにでも」
「”ようやく”?」
「ええ、そうです」
────暫くおたまの動きを止めた後、リズの連れらしき男に呼びかけた。
「代りにやってて」

階段を降り、暗い船倉へと入る。所々に歩哨のように立つ人影が見えた。
リズの同胞、この船をシージャックした海賊達だ。
通り過ぎる度に彼らを眺める。様々な人種と年齢層が居た。
白人、黒人、東洋人、ヒスパニック、若者に老人、中年にほんの子供。男も女も居る。
とても東南アジアの海賊とは思えない。
只一つの共通点といえば────────階段を下りるとき、歩哨の足許が見えた。

皆が履いている、編み上げのハイヒール。
まるで制服であると云わんばかりに海賊たちは皆履いていた。
益々海賊であるとは疑わしい。
「────あんたたち、フィリピンの共産ゲリラだっけ?」
「ええ、そうお伝えしましたが」
「この前見たTVじゃあんたたちの事、イスラム系過激派だって報道してたけど」
「ええ、それにCIAの現地特殊工作員でもあるし元KGB崩れのロシアンマフィアでも───」
変人女が立ち止まった。リズが振り向く。
「────で、全部違うんでしょ?」
「その通りです。全部お粗末な偽装工作ですが…………その割に、不審がりませんね?」
「まあ、今ン所頼れるのあんたらぐらいしか居ないし。でも不審は積もってるかな?」
リズの目を見つめる変人女。この暗がりでさえ彼の瞳は鮮やかに青い。
「この不審感、どう始末してくれる?」
118第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/26(金) 04:53:56 ID:xwYX7E3j0
「真実を語れと云う事ですか?」
「ま、ね。その後の対応がどうなるか保障はしないけど」

しばし沈黙。やがて、
「────貴方には参りましたねぇ。地球人にしておくには勿体無い!」
青い瞳が半月型に笑った。よく見れば、この暗い船倉内でも海賊達の姿は良く見える。
「ありがと。宇宙人になる気は毛頭無いけどね」
「おや、どうして分ったんですか?我々が宇宙人だなんて」
「…………リズ、会話の鉄則第二十一条。白状する時はもう少し、判り易く状況を作って」
「おや?申し訳ない」


船倉を歩きながら、リズは改めて自分達の自己紹介を行った。
「私はルパーツ星人のリズ。彼はアドナ星人クラール、向うはキュラソ星人のエポリオ、更に」
「いや、全員分はいいから。要するに、あんたら全員宇宙人?」
「地球外由来の知的生物、という意味ではそうなりますね」
────彼らは皆、密かに地球に移住して生活している宇宙人だという。
地球人に変装し身を隠す。目的は様々。調査であったり、亡命であったり、観光であったり。
公式には宇宙人の存在が認知されていない以上仕方が無いと彼は云った。

「そんな大人しいあんたらが、何でこんな事態を?」
「────その理由を、これからお見せします」


暗い船倉の一番奥、巨大なトラックが一台隠されるように佇んでいた。
リズの説明によると、これだけが壁一枚挟んだ所に積み込まれていたという。
船内の見取り図と実際の船倉を比較しないと分らなかった。明らかに偽装されている。
「────この中に?」
「ええ。ご覧になります?少々、”キツい”かもしれませんが」
「いーわよちっと位。女の根性なめんさいな?」
飄々とした変人女の口調にリズが頷き、トラックの運転席に声を掛けた。
「外装開放、中身をお見せします」
119第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/26(金) 06:22:28 ID:/hHYYoqt0
ガチャン、とロックが外れた音がした。
トラック貨物部の外装が少しづつ動き始める。蛇腹状になった外装が下へたくし込まれていく。
中身は半透明の水槽らしい。
「────上に上がった方が見やすい。上がりましょう」
リズに誘われ、変人女は水槽上のキャットウォーク部分のハシゴを登った。
もう、ほぼ全体が見えている。中身も確認できた。
しかし。

「…………何、コレ」
変人女が漏らした。水槽の中には様々な管や機器が這っている。その中心に、
────白い塊?
奇妙な物体だった。見た目には骨も何も無い肉塊に見える。
満たされた液中に白い毛のような繊維質を漂わせ、のたくる事も無く沈んでいた。
見た目には、よく騒がれるクジラ類の腐敗した内臓に見えなくも無い。

「…………何かの、標本?」
「いえ違います。ちゃんと生きてますよ」
眺めていると、なんとなく形が見えて来た。菱形をしている。質感は全く似つかないが。
その菱形の一角に二つの透明な球体が顔を出すと此方を見上げた。眼球だろうか?
「で、これが?」
「これは、この船の持ち主だったあの教祖が持ち込んだものです」
「で?」
「彼もまた宇宙人、しかも我々とは全く正反対の思想の持ち主としたら、如何考えますか?」
隠遁、もしくは共存の反対。ということは────
間違いなく、良からぬ思想か。
「兵器か何かな訳?地球破壊爆弾とかTウイルスとか物体Xとか弓と矢とか」
「さて────そこまでは存じませんが、良からぬモノではないでしょう」

変人女はハシゴを降り、水槽の真横から物体の眼を見つめた。意外と澄んでいる。
目の前の水槽の透明な壁をついと人差し指でなぞり、ひんやりした水温を感じ取った。
「何モンよ、あんた」
そう云って、変人女は水槽の壁をゴンと叩いた。
120第X話 幽霊大陸を追って:2007/01/26(金) 06:22:59 ID:/hHYYoqt0
その時。

肉塊が動いた。丁度真ん中辺りの白い繊維がさっと引き、薄ピンクの膜が露わになる。
その膜がぷうと風船のように膨れ上がり────

ググググググググググぐぐぐぐぐぐぐぐっぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ。
まるでカエルのように鳴き始めた。思わず後ずさり飛びのく変人女。

『何コレは!?』と叫ぼうとしたが、その口も塞がる。
水槽が震えている。いや、水槽だけでなくトラックも、周囲の貨物も、いや船倉全体が、
────船そのものが、ガタガタと震え始めた。
「…………ウッ!?」
変人女も吐き気を覚え口を塞いでいる。瞬間的にコレが何かは察知した。
依然、某大学の実験に立ち会ったとき体験した事がある。
「大丈夫ですか!?すぐに甲板へ出ましょう。全員退避します!!」
リズは平気な顔をしている。他の海賊達は、見た限り平気なのは半々?個人差があるのか。
変人女はリズに引きずられながら、鳴動する船倉を脱出した。

「一体何をしたんですか!?まだ何かも判っていないのに────」
「少々刺激を与えただけよ。水槽叩いただけ。それよりあの物体────…………」
あれは低周波だ、間違いない。しかも多くの物体共鳴が発生した以上相当複雑な音域だ。
「…………低周波?あの音波が?」
「ええ、恐らく私のちょっかいに反応して出したんでしょうね。間違い無い、生命体だわ」
話ながら甲板へ出た瞬間────


轟音と共に船が傾いた。思い切り舌を噛む。
まさかとは思うが低周波で船底が!?変人女がそう思いながら辺りを見回すと、

違う。アレのせいか。
水平線上に立ち上がる白い雲。いや違う、あれは多分、水柱。
船の数km先の洋上に、水晶の城を背負う陸海が浮上していた。
121名無しより愛をこめて:2007/01/28(日) 11:40:12 ID:qsNzcDE60
応援
122名無しより愛をこめて:2007/01/30(火) 02:54:10 ID:w6iXb6s00
age
123第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/01(木) 04:58:54 ID:ECNEjQEX0

『えー、先程入りました速報です。フィリピン沖で漂流中の…………』
────次々に、ウインドウが開く。
『ご覧下さい、太平洋上に巨大な島が、いえ大陸と読んでもいいでしょう、浮上しています!』
────大きな瞳に映る、レポーターの叫ぶ顔。
『えー、ここで解説しますと”シービショップ号”は、先日シージャックされた…………』
────キャスターの背後の大画面に映された解説文を、真っ黒な瞳孔が追っていく。
『ちょっとー!あんたあたしのパンツ盗』
何かのアニメの動画だったらしく、手早く消された。


「うう〜ぃ、お疲れ〜…………あれ?」
外回りから帰って来た編集長、見れば編集部に人が見当たらない。
おかじーの席で皆固まり、何かを見物しているようだ。また何ぞしているかとそこへ向かうと、
「?おいおかじー、何やってんだ?」
おかじーは別の席のすみっこでノートPCをいじっていた。一応仕事をしているらしい。
「いえ、それが…………席取られちゃいまして」
自分の席を見るおかじー。キーボードとマウスを酷使する音が聞こえてくる。
では誰が?

「あ、編集長〜!見てくださいよ〜」
何気に興奮している小坂の横に割って入る。いつものおかじーの指定席でPCを操るのは、
チーコちゃん。
「凄いんですよチーコちゃん!使い方教えたの今朝の話なのにもうこんなに覚えちゃって!」
────凄い?これが凄いだと?そんなレベルじゃない。
ニュース動画や画像、評論サイトに掲示板等を次々と落とし、表示しては消していく。
その速さは兎も角、一体これで何をしていると?
「”シービショップ”関連のニュースですよ。後あの妙な宗教のヤツも」
おかじーも後ろから覗いてきた。話によればこれで全部のニュース内容を把握しているそうだ。
────聞いて尚、未だ信じられない。
あの変人極る保護者と寝起きする内、その変人振りが伝染したのだろうか?
「本当に何なんでしょうね、この娘…………」
124第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/01(木) 04:59:25 ID:ECNEjQEX0

「何だと────ッ!?何故だ!何故動かん!!」

狭い部屋の中で、あのガマガエル代表のダミ声が木霊する。
「おい貴様、本当に誘導音波放射しているのか!?伊豆に電話しろ電話!!」
「は、はい!了解しました!!」
慌てて出て行く神主姿の男。壇田原代表の目の前にはあの”シービショップ号”の映像。
そのはるか向うに、出現して6時間が経とうとしている謎の”島”。
「…………あの〜」
「何じゃい、今忙しいんだが」
「あ、後でいいです」

神主姿の男がこれまた大慌てで戻ってきた。烏帽子が斜めにズレている。
「会長ー!!マズイ事になりました!緊急事態です」
「聞きたくない!」
「音源がもう一つ、確認されているそうです!!」
「だから聞きたくない!!」
「音源はあの”レムーリア”の直ぐ傍、恐らく”シービショップ号”内部に放置してきた…………」
「あーあーあーあーアーアあーアーアッー!」
「聞いてくださいよ!!!」
何処の売れない漫才コンビだと聞きたくなるような会話。そこに、
「…………あのぅ〜」
「忙しい!」
「へい」

壇田原代表も神主姿の男に付いていく事になった。
行き先は特に告げられない。恐らく二人には周知の事実なのだろう。
とゆーか神主男の烏帽子、出入りする度に何処かにぶつけて傾きへこみまくっている。
「で!”レムーリア”の現状は!?もうアレを取り返したとか云わんだろうな!?」
「ソレは無いです。どうも音源が複数なのに混乱しているのか、動きを停止していると」
そのまま薄暗い廊下を歩いていく。
この施設、外見は寝殿造りにしか見えなかったのに何処にこんな所が有ったのだろう?
125第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/01(木) 05:00:19 ID:ECNEjQEX0
次に開いた扉の向うは────廊下以上に場違いだった。

如何見ても何処かの安っぽいSFの司令室にしか見えない。この会長の趣味なのか?
いや、それ以上につっこむべき所満載なのだが。

「全員傾注────!!今後の作戦方針を伝える!」
神官姿の男がいつのまにやら軍服風に着替えていた。ご丁寧にナチ将校風に敬礼。
壇田原代表が大声を張り上げて、命令を下す。
「”シービショップ号”包囲中のボスタング全てに誘導音波を放射させろ!!」
「しかし、それでは返って更に混乱を」
「その上で全てのボスタングを伊豆半島へと転進させるのだ!数で圧倒しろ!」
「それで…………シービショップ号は?」
「んー、放置」
段々テンションが下がってきた。しかし最後に号令一声。
「以上!!作業開始!!!」
その一言で、司令室らしき部屋の人員達が再び一斉に動き出した。


「…………あのーぅ……」
三度目の小声で質問をしたのは、とっくに萎縮しまくった雑誌記者。
「なんじゃい貴様はさっきから。質問か?とっとと云え!」
「────────皆さん、化けないんですか?」


司令室は、はっきり云って怪物だらけだった。
エビやらダニやら鳥やらケモノやら、鎧っぽいのや大耳のや不定形で訳わかんないのも居る。
「何を云っとる。我々は宇宙人だぞ?家の中でまで変装してどうする」
「…………まあ、そうなんですが、その」
と、ここで横のナチ将校が耳打ち。すると壇田原代表が実にわざとらしい納得した顔。
うんうん頷きながら、両肩を掴んできた。
「そう、自己紹介がまだだったんだな!私はキール星人!キール星人の壇田原だ!!」
────だから、何で日本語なんだよ。
126名無しより愛をこめて:2007/02/03(土) 23:46:14 ID:3P4DXHT40
(参考)ウルとラマンシリ〜ズ 格闘シ〜ン挿入曲(その1)
http://1000yenkigan.fc2web.com/ultraman_sr_kakutou.mp3

(参考)ウルとラマンシリ〜ズ 格闘シ〜ン挿入曲(その2)
http://1000yenkigan.fc2web.com/ultraman_sr_kakutou2.mp3
127第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/05(月) 04:19:38 ID:F6FaJFsQ0

「これは…………」
「皆、引いていく?」


”シービショップ号”の操舵室で船長以下がレーダーを眺める。
船の周囲を廻っていた巨大な影が、するすると引いていった。
よく見ると影がいくつも。複数潜んでいたらしい。
「────ボスタングが引いていきますね。何か有ったんですか?」
海賊として船に乗り込み、後に宇宙人と名乗ったあの金髪が入ってきた。
既に呉越同舟、船長や船員とも仲良くなってしまっている。
「いや、我々は特に何もしておらん。そちらこそ何かしなかったのか?あの船倉のヤツとか」
「いえ、船倉のあれは昨日依頼ずっとだんまりですが?」

船の背後には、未だ巨大な陸塊が浮いている。
本来ならそこへ漂着を試みるなりするはずなのだが、あの物体せいで断念していたのだ。
────最もあの陸塊自体、『海から浮かんできた』という異常現象の産物なのだが。

「兎に角これで救援を呼び寄せても大丈夫な筈、よろしいかね?」
「────よろしい、とは?」
「とは、って…………君達、海賊だろうが!?当局が来れば拘束されるぞ?」
「ああ、そういえば」
どうにもリズ以下、『宇宙人』達は天然ボケが激しい。
あの妙な女があっさりと正体をバラした時にも、困ったり怒ったりといった態度ではなかった。
さも、『あ、そういうこともあるよね』といった感じでニコニコ笑っていたのである。
その辺りが、この船長にとってどうも座りが悪い。
どっちにしても『宇宙人』との告白で大部分の疑念が氷解してしまったのは、何というか。

『船長────────────!!!!!』

いきなり船内無線から大声。変人女の大咆声だ。
『ヤバい!!緊急発進!!早く!!まっすぐ全速力でー!!』
128第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/05(月) 05:21:07 ID:F6FaJFsQ0
「おいどうした?未だ安全は確認されていないし、それより救助を」
『待てるか────!!早く!!!早く!!!!!』
甲板を走っている音も聞こえてくる。相当慌てているらしい。背後から乗客の叫びも聞こえる。
「おい、何かあったのか!?現状を報告してくれんかね」
その瞬間。
側面の窓に水滴が打ち付けられたと思うと、


漂流していたハズの豪華客船が、動力なしでグラリと動いた。






「”レムーリア”動き出しました。ボスタング群に付いてきています」
「よっしゃ上等上等、船のアレが鳴き出すかもと思ったが良かった良かった!」

壇田原代表がうんうん頷きながらモニターから目を離す。
「よーし後は無事に伊豆半島まで誘導しろ!さあ伊豆への移動準備!ん?どうしたね君?」
モニターを真剣に見詰めていた雑誌記者が驚く。
もう少し見て居たかったらしい。しかし壇田原とナチコスおっさんが無理矢理引きずる。
「え、ああ、はい!わかりました!…………えっと」
「んん?どうしたね?」
「いえ、豪華客船────”シービショップ号”は何処に行ったのかなって」
「んもー放置つったろうが放置!!大丈夫その内誰か助けるだろ!嫁でも乗ってるのか?」
「…………いえ、独身ですよ私」

と、そこに全身フリルの宇宙人とやらが一言。
「あのー…………代表?」
「何だ?」
「”シービショップ号”が…………レーダーから消えたんですけども」
129名無しより愛をこめて:2007/02/07(水) 04:47:52 ID:IKalzlJX0
あげ
130 :2007/02/07(水) 14:08:04 ID:AjQBhRpR0
131名無しより愛をこめて:2007/02/10(土) 04:39:07 ID:0UJmZuN10
132第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/10(土) 05:23:45 ID:Ap2V/wpw0
「っちょ…………チーコちゃん!?」
いきなりPCから離れたと思うと、荷物を纏め始めたチーコちゃん。おかじーが止める。
「何?一体如何したの!?」
「いく」

そう一言呟くと、赤いウサギマークのリュックを背負って編集部の出入り口へ駆け出した。
「はァーい皆さんお元気ですか私はちょっぴり憂鬱なのォ……って、おっと!?」
チーコちゃんがコートにぶつかる。スミ先生が道を塞ぐように入ってきたのだ。
「あ、先生────!!チーコちゃん止めてください!!」
「ぬ!?承知!!」
何だかまた変な映画見て影響されたらしいスミ先生が、チーコちゃんの前に立ちはだかる。
「はぁ〜い♪大人しくおじちゃんの云う事聞いてくださいね〜?チーコちゃ」

「へんたい」

言葉のハンマーフックでノックアウト中に、チーコちゃんはスミ先生の股下を抜けていった。
「…………、あッ…………・」
────────沈黙。
「…………」
「…………」
「…………ヘンタイだ」
「ヘンタイだ」
「ヘンタイがおる」
「────だっだだだ黙らっしゃい!!?」


すさかず小坂がツッコんだ。
「先生、何で慌ててるんですか?」
133第X話 幽霊大陸を追って:2007/02/10(土) 05:25:22 ID:Ap2V/wpw0


風が強い。

どうやら先程の衝撃で転倒し、鉄柵に頭を打って意識を失っていたらしい。
変人女は頭を少し持ち上げ、周囲を確認する。視界が霞んでいた。
「…………、ぅ、痛たっ」
側頭部をさする。結構なコブができていた。
もしやこの目前のカスミは、視覚関係に何か障害でも起きたのだろうか?


「────ああ、ご無事でしたか」
霞みの向うから声がした。ぼんやりと姿が浮かび上がる。
「────あんた、リズ?」
「ええ、お怪我は有りませんか?先程の衝撃で結構なケガ人が出たようですし」
リズが手を差し伸べてくるが、その腕の先でさえ白く霞んでいる。これは重症か?
「…………ごめん、あたしも頭打ったせいか、視界が……」
「この霧の事ですか?」
「────霧?」

更に強い風がどうと吹きぬけた。
同時に、目の前の霞が一挙に消え去り船の甲板が露わになる。
ああよかった、視覚異常のせいではなかったらしい────そう思った瞬間、クシャミ一つ。
「ああ、大丈夫ですか?かなり気温が下がってますからね」
云われて気付いた。全身が凍りついたように寒い。寒風に長時間晒されたせいか。

「…………ちょっと待って」
変人女は頭を押さえながら起き上がると、上を見上げた。
雲が低いが抜けるような晴天。太陽が輝いている。相変わらず風は冷たい。
しかし、肌へ到達する太陽光線は間違い無く強力だ。チリチリする。少し息苦しい。
目覚める前は確か南国の洋上に居たはずだ。では、今は────
「────何処、ここ?」
134名無しより愛をこめて:2007/02/13(火) 03:40:38 ID:U32NL+xq0
あげ
135名無しより愛をこめて:2007/02/13(火) 11:03:56 ID:ggvYlXpj0
連休明けアゲ
136名無しより愛をこめて:2007/02/15(木) 01:27:38 ID:h4qojBgj0
木曜アゲ
137第X話:2007/02/16(金) 05:38:44 ID:phFxuC800
ごめんね今心も体も風邪ひいちゃってて手が廻らないのごめんね
138名無しより愛をこめて:2007/02/16(金) 13:05:11 ID:rCE0pzIp0
無期限でいつまでも待ち続けます…ョ
139名無しより愛をこめて:2007/02/19(月) 00:48:10 ID:KdrRskA00
ほしゅ
140名無しより愛をこめて:2007/02/21(水) 12:15:15 ID:Z9Hn0UvV0
晴天保守
141名無しより愛をこめて:2007/02/23(金) 16:12:31 ID:ab62s9fk0
小雨保守
142名無しより愛をこめて:2007/02/23(金) 17:13:20 ID:O+82xxj+0
もしもウルトラQでセミ人間が全裸だったら
143第X話:2007/02/25(日) 06:13:09 ID:RhFhIObQ0
熱が下がりませんがなんとか……
144名無しより愛をこめて:2007/02/25(日) 08:53:54 ID:vdyzvPMH0
カブゴンは
株が大好き
145名無しより愛をこめて:2007/02/25(日) 11:57:36 ID:PqNco2zA0
万石さ〜ん。某板の某スレで終わるんだったらここでも終わりですか〜?
スレ違いだったらすいません。
146名無しより愛をこめて:2007/02/26(月) 08:46:22 ID:cPflMG830
「某板の某スレ」ってのは「××でクロス……」スレのことか?
だったら……こっちでも難しいような気がする。
ここに投下するための新駄文「甦る野獣」も準備してたんだが…。
「石の見る夢」の続編で、社会人になった小山ユウカが主人公。
まるでオオカミ男みたいな連続惨殺事件が発生。これに万石先生と小山ユウカが挑む……というお話。
奇怪な怪物のキバがユウカに迫るとき、「彼」が現れる!
……構成に着手するばかりだったのに…………残念。

スレ違いもうしわけなし。
147名無しより愛をこめて:2007/02/27(火) 10:03:10 ID:ORqmCU6N0
花粉症闘病アゲ
148名無しより愛をこめて:2007/02/28(水) 08:31:49 ID:yCy8WGQK0
某板某スレ(…というよりSF板の「ゴジラとガメラをSF的にクロスさせろ!」スレだ)で、投下完了のメドがついたから……。

もし時間が許してくれるならこっちにもサヨナラ?作を作って投下してみまひょ!
タイトルは……「AA怪獣ゴスラ対糞尿超獣ウンコタイガー」。
言っとくけど、ネタじゃないでっせ。
特撮板の二大ネタ怪獣で、まともな怪獣駄文がはたして構成できるか!?
期待しないで……。
149名無しより愛をこめて:2007/03/02(金) 07:56:14 ID:w4anwVDz0
あげ
150名無しより愛をこめて:2007/03/05(月) 06:53:24 ID:641ds8XH0
age
151名無しより愛をこめて:2007/03/07(水) 10:39:24 ID:PqafJqC30
待機中
152名無しより愛をこめて:2007/03/09(金) 10:58:41 ID:Hvd27sqQ0
age
153名無しより愛をこめて:2007/03/12(月) 22:13:07 ID:01/KVfPJ0
期待中
154名無しより愛をこめて:2007/03/15(木) 06:06:19 ID:nSrfDLLj0
155名無しより愛をこめて:2007/03/16(金) 08:42:14 ID:b3QF4eoc0
「ゴスラ対ウンコタイガー」まじめに構成してたが、先に別のヤツが完成してもうた。
「ゴスラ対UT」も意外に綺麗な駄文として完成しそうなのが笑えるけども、このスレ的には「別のヤツ」の方が似合ってると思うので、こっちを先に投下します。
X話氏の復帰までの場繋ぎの役は充分果たせるのではないかと。
では………。
156Ag(4:2007/03/16(金) 08:44:04 ID:b3QF4eoc0
いつまでも、いつかまた


「わ、判んない?」
「はい、わかんないん…です。」
「判んないったって、あんた…。」
「でも、ホントにわかんないんですよ。」
「それじゃ、ホントに物が盗まれたかどうかだって、判んないじゃないですか?!」
「いや、何か無くなったってことだけは間違い無いんです。でも……それがいったいなんだったのか……」
ここはデパートの催し物場。
警官と店員が先ほどから押し問答を続けています。
2人の前には、意味ありげな空きスペース。
たしかに何かが陳列されていたように見えるのですが……。
とうとう警官が苛立たしげな声を上げました。

「誰か!何がなくなったのか答えられる店員さんはいないんですか!?」
157A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 08:48:19 ID:b3QF4eoc0
「わ、判んない?」
「はい、わかんないん…です。」
「判んないったって、あんた…。」
「でも、ホントにわかんないんですよ。」
「それじゃ、ホントに物が盗まれたかどうかだって、判んないじゃないですか?!」
「いや、何か無くなったってことだけは間違い無いんです。でも……それがいったいなんだったのか……」
ここはデパートの催し物場。
警官と店員が先ほどから押し問答を続けています。
2人の前には、意味ありげな空きスペース。
たしかに何かが陳列されていたように見えるのですが……。
とうとう警官が苛立たしげな声を上げました。

「誰か!何がなくなったのか答えられる店員さんはいないんですか!?」
158A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 08:50:48 ID:b3QF4eoc0
「……なぁんだ!?またなのか?」
呆れたように開いたK警部の口からタバコがぽろっとソファーの上に落ちたが、誰も慌てて拾ったりしない。
彼が口にくわえているのは、もう一年以上も前から禁煙パイポになっているからだ。
「そうなんですよ警部。売り子から売り場主任に到るまでだぁれも。」
警部の前で報告しているのは若いTという刑事だ。
いつのまにか警部の口にはボールペンが咥えられていた。どうやら長っ細い形状のものでさえあれば何でもいいらしい。
「これで五件目だぞ。この『何が盗まれたんだか判んない』盗難事件は…。」
苛立たしそうにK警部はホワイトボードの前に立ち上がった。
「一件目は航空科学館、二件目は秋葉原の模型店、三件目は美術館、四件目は……なんたらいう漫画喫茶だ……。」
「犯行状況も似たりよったりです。」T刑事はポケットから手帳を取り出した。「犯行時刻は午後2時前後……というのは……」
「売り場の担当が騒ぎ出したのがそのころからってわけだな!?」
159A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 08:52:26 ID:b3QF4eoc0
「…で、売り場には他に金目のものは?」
「今回の事件では特にありません。でも、現場が昔流行った日用品なんかの懐古展示会ですからひょっとするとお宝でもあるかも…。」
「そんなもん無くたっていい!」
警部は「聞きたくない!」と言わんばかりの態度で相手の言葉を遮った。
三件目の現代美術館の事件では、現場のすぐ近くに時価数千万円は下らぬという絵画の名品が何枚も掛けられていたのだ。
にも関わらず犯人は、そういう高額絵画には目もくれずに、警備員すらロクに思い出せないような「何か」を持ち去っているのである。
「いったい何が狙いなんだ……。」
警部は、口に咥えたボールペンの先端を、それがまるで火のついたタバコであるかのようにデスクの隅に擦りつけた。
「衆人監視下で、わざわざ無価値のものを盗み出すなんて……」
こういうときの警部には、声を掛けてはいけない。それは係の誰もが知っていることなのだが……。
「おい!K!」いきなりのドラ声で警部の思考を破ったのは、なにやら刑事部屋の奥で内線電話を受けていたH部長だった。
「お取り込み中のところ悪いがな……」
思考を破られてムッとしていた警部の表情が一変した。部長がこういう軽口を叩く場合は必ず何かあるのだ。
「……六件目……ですか。」
「…感がいいな。」
「やっぱり今度も盗まれたのは思い出すこともできないほど無価値な……。」
「そうでもないぞ。」ヤニでまっ黄色の小汚い歯を見せ、部長は言った「こんど紛失したのはな、『物』ではない。…『人間』だ。」
160A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 08:54:09 ID:b3QF4eoc0
「消えたのはX氏、男性。年齢は……。職業、システムエンジニア……」
事件の報を受けた30分後には、警部は相棒のT刑事を伴い問題の「失踪事件」の発生したビジネス・ホテルに到着していた。
「X氏が同僚のAとともに、出張先の仕事場からこのホテルに戻ったのが、昨夜の12時を僅かにまわったところだったそうです。」
若手刑事は早速所轄の警官から集めた情報を読み上げていた。
「……部屋に戻ってすぐ、2人で軽食でも手に入れようと一端部屋を出た直後、「財布を忘れた」と言い残してX氏は一人部屋に戻りました。
それから数分後、X氏が戻らぬのを不審に思ったA氏が部屋に戻ってみると、部屋は全くの蛻の空。X氏の姿は消えていたそうです。」
窓のロック状況を確かめながら警部は尋ねた。「…部屋の入り口からX氏が出ていないのは確かか?」
「A氏だけでなく、通りかかった夜勤の警備員が2人と言葉を交わしています。A氏がX氏を捜しに部屋に戻ったときも、警備員はそのまま廊下に残っていたそうです。」
うぅむと唸りながら警部は言った。
「やはり衆人監視下での消滅か。」
「しかし警部、今回はこれまでと違い、何が……と言うか、誰がいなくなったのかはハッキリしています。ですから六件目にカウントするのは早計かと……。」
だが、T刑事の言葉を遮るように、K警部が言った。
「…六件目とカウントすべき理由があるのさ。」
そして警部は「来い!」とT刑事に合図すると、不可解な失踪事件の舞台をあとにした。

161A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 08:56:05 ID:b3QF4eoc0
ホテル1階裏手の警備員控室には、中年のサラリーマンが膝を抱えるように座っていた。
まだ春先なので外はまだ肌寒いが、部屋の中なら暖房などに頼らずとも別段寒くは無い。
しかし、膝を抱えるサラリーマンの肩は、傍目にもはっきりわかるほど小刻みに震えていた。
「お待たせしました。私、警視庁のKという者です。Aさん……ですね。」
「あ!」警視庁という言葉を耳にしたとたん、サラリーマン=A氏ははっとしたように顔をあげた。
「た、たすけてください!」いきなりA氏はK警部にすがりついた。
「僕らは狙われてたんです!五日前の航空科学館からずっと!」

「……たしかにこの事件、六件目にカウントしてよさそうですね。」
身柄保護のためA氏を乗せたパトカーが警察署に向け走り出すのを見届けてから、T刑事は言った。
「あの男は『僕らは狙われてた』と言ったが、おそらく狙われてたのは相棒のXだけだ。」
「しかし、最初の航空科学館、三件目の美術館、そして五件目のデパートでも2人とも仕事で入ってたんでしょ?……ならA氏も……」
だが、K警部は口先に咥えた禁煙パイポを横に振って答えた。
「A氏には二件目の模型店と四件目の漫画喫茶に接点がない。一方、Xの方はというと、いわゆる特撮オタクでしかもモデラーだそうだ。」
「…特オタの上にモデラーですか。……そりゃまあ難儀な……。」
「健全な」男性であるT刑事は「特オタ」と「モデラー」を二重苦かなにかのように言ったが、K警部は別段感想は示さなかった。
「X氏のスケジュールを調べさせたところが、どっちの日も近くのオフィスビルでの仕事が入ってた。そして事件が発生したのはどっちも昼。」
「つまりX氏が昼休みに、模型店と漫画喫茶を覗いていたということですね?」
「あくまで『可能性』だがな。」
そんな言葉を交わしながら、失踪の舞台へと戻るべくエレベーターに乗り込んだK警部とT刑事だったのだが……。
エレベーターのドアが開くと同時に、ちょっとした小競り合いの言葉が2人の耳に飛び込んで来た。
162A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 08:58:42 ID:b3QF4eoc0
「ここは立ち入れり禁止だ!」とこれは現場維持の見張役として配された巡査の声。
「宿泊客の方のご迷惑になります!」とこっちはホテルの警備員の声だ。
そしてこれに応戦しているらしいぶっきらぼうな女の声と、対照的に世知に長けた感じの男の声。
「どうした!?いったい何事だ!?」「あ!警部!コイツラが現場に無断で忍びこもうと……」
「忍びこんじゃいないでしょ!?ちゃんと堂々と…。」夜だというのに何故かサングラスをかけた女が言い返した。
「私がこの人に…」巡査は細面の男の方を指さしたが、彼はにやっと笑っただけで何も言わない。
「…この人に気をとられてるスキに…。」巡査の声が高くなる。
「だから堂々と!」応戦するようにサングラスの女の声も高くなった。
「こんな夜中に廊下で大声は止めてください!」
警備員が困り果てた声を上げたのをしおに、男の方がペコリと頭を下げるとK警部に名刺を差し出した。
「なるほど、あんたブンヤか。」名刺に一瞥をくれて警部は言った。「……そっちもか?」
「はい。私はカメラマンで…」男は手にした妙な機械をちらっとだけ見せた。「こっちは花も恥らう女性記者」
「さっきの調子だと、『鬼をも拉ぐ』って方が正解みたいだな。」
T刑事がからかうように口を挟むと、サングラスの女はボクサーかなにかのようにずいっと前に出てきかけたが、男の方にそっと肩を抑えて止められた。
「ブンヤに話すような情報はまだ何も掴んじゃいない。さっさと帰ってくれ。でないと……。」
「わかりました!わかりました!」男はまだ何か言いたそうな女の手を引くと、エレベーターのほうへと速やかに退却を開始した。
「いや、夜分遅くにお騒がせしました……」男が言い終わるのとピタリのタイミングでエレベーターのドアが閉まった。
同時に、K警部は脱兎の如く走り出した!
163A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 09:00:06 ID:b3QF4eoc0
「ど、どうしたんですか!?」慌てて上司を追うT刑事。
しかし、それに答える寸刻すらも惜しいらしく、K警部は非常階段に飛び出し、これを一気に駆け下りるとホテル裏に止めておいた覆面パトカーに飛び込んだ。
置いてけ堀をくらう寸前、なんとかT刑事はパトの助手席にとび込むことに成功した。
「せ、説明してください!なんで急に……。」
覆面パトが表通りに出ると、さっきの男女はちょうど車に乗り込むところだった。
「……グッドタイミングだ。」
K警部が呟き、そのまま覆面パトは男の運転する車のあとに吸い付いた。
「尾行!?それじゃああの2人は??」
「この阿呆!」前を睨んだままKは言った。「何年この仕事で飯食ってるんだ。」
「……で、では!」
「ヤツラはブンヤなんかじゃない!それどころか多分コンビですらないはずだ!」

「つけられてるわよ。」
また肌寒いというのに、助手席の窓を開け片肘を突き出すとサングラスの女は言った。
「わかってます。」男は答えた。「でも、彼ならついてきてもらった方が却って好都合かもしれませんよ。なにせ彼は……。」
「通称『警視庁不可能犯罪捜査係長』。」サングラスの女もK警部のことを知っているらしかった。
「……完全密室連続殺人から呪いや祟り、果てはロボットからタイムトラベラーまで、まともな警察機構の手に負えない事件は全部彼のところにまわされる。
だから別名『警視庁のゴミ捨て場』。」

「へっくしょん!」「警部、風邪でもひきましたか?」

「しかしそんな彼にとっても今回の相手は……」ハンドルを握る男の指に心なし力が入った。
「……最悪の敵であることはまちがいないわ。」サングラスの女が後を続けた。「……ヤツが帰って来たなんて。」
164A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 15:19:15 ID:b3QF4eoc0
部屋から外に出てそのまま失踪したというなら、いくらでも事例はあります。
でも、部屋に入っていってそのまま失踪したという事例は、推理小説以外では聞いたことがありません。
失踪したXはどうやって部屋を出たのでしょうか?
また、どこへ行ってしまったのでしょうか?

実は、X氏自身は何処へも行ってはいなかったのです。
165A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 15:21:09 ID:b3QF4eoc0
「やっとキミとこうして再会することができたよ。」
(再会?………そう、再会なんだ。オレは……オレは彼を知っている。以前もこの男と顔を会わせて言葉を交わしている。でも……)
「もっとはやく戻って来たかったんだが、私にもいろいろ都合があってね。」
相手と言葉を交わしながら、X氏はぼんやり考えていた。
(彼は誰なんだろう?オレは彼を知っている。それは間違い無い。でも、それじゃ何故彼の名前を思い出せないんだろう。)
X氏は、そもそもの最初から思い返してみた。
………財布を取りに戻ったX氏が廊下に戻ろうと思い振り返ると、丁度その男が部屋に入ってきて後ろ手でドアを閉めるところだった。
ここはオレが借りたオレの部屋で……それなのに彼は勝手に入ってくると、こっちが座れとも言っていないうちに、さっさとボクの向かいに腰を降ろした。
考えれば随分無礼な態度だと思うが、でも、だからといって別段嫌な気はしない。
それどころかオレは、その男がそういう態度をとるのは当然だと思っている。
(何故……なんだろう?)
ぼんやりそう思いながらふと視線を落すと、テーブルには仕事で使うノートパソコンが放り出され、イスの背には背広が無造作に掛けっぱなしになっていた。
客を迎えられるような状態ではない。
「いやすみません……とっ散らかっちゃってて」X氏は慌てて、辺りを片付けようとした。「……すぐかたづけるから……。」
「いいさ…、私も手伝おう」
「いやお客さんにそんなこと……」
……させちゃ悪いと言い終えるより早く、気がつけばテーブルの上からノートパソコンが、イスの背もたれからくたびれた背広が消え失せていた。
それはまるで「奥様は魔女」とか「魔法使いサリー」とか、あんなテレビ番組を見ているようだった。
「心配しなくていい。みんなベッドの上に置いてあるよ。……さあ、それじゃあ改めて……」
どこに隠し持っていたのか、気がつくとテーブルには缶ビールが二つならんでいた。
166A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 15:22:57 ID:b3QF4eoc0
どこからともなく忽然と現れた缶ビールを、X氏はいっさいの躊躇無く自分の喉に流し込んだ。
「……美味い。どこのビールですか?」ラベルには見たことも無い名前……いや見たことも無い文字がならんでいた。
不思議そうな顔でラベルを眺めるX氏に、謎の男は笑って言った。
「……どこでも売ってないよ。キミのための特製ビール。非売品さ。」
「どうりで……。」
説明にならない説明だったが、X氏は納得することにし、再び缶ビールを口に持っていった。
ごくっ、ごくっ、ごくっ
「……やっぱり美味い。最初の一口と変わらず美味い。いや、最初の一口より美味いかもしれない。」
もういちどX氏は缶ビールを口に運ぶと、最後の一滴まで喉に流しこんでしまった。
「こんなに美味いビールは何年ぶりだろう?」
謎の男は、イスの背に脱力したように体を預けたX氏の前に、自分の前にあった缶ビールを滑らせた。
「よかったら私の分も飲んでくれて構わんよ。」
「いや、そこまでしてもらっちゃ……」
「遠慮などしなくていい。必要とあらば、幾らでも調達できるんだからね。」
「……なら……遠慮なく。」
プルオープンに指をかけたX氏に、謎の男は何か言い出そうとしたが、思い直したように暫し沈黙したあと改めて静かに口を開いた。
「随分……疲れてるようだな。」
167A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 15:24:59 ID:b3QF4eoc0
そのころ……サングラスの女と細面の男、それから彼ら2人を尾行するK警部にT刑事の覆面パトカーは、とある団地の裏山までやって来ていた。
「X氏はあの部屋から拉致されたりはしていないわ。」助手席のドアが開き、車から降りるなりサングラスの女は言った。
「…例の事件以来、X氏はある政府機関の監視下に置かれていたわ。」
知っていて当然というように、サングラスの女は「例の事件」と口にした。
「それが最近、X氏の周囲で奇妙な事件が続発したのよ。その事件の意味に気づくのがもう少し早ければ、ヤツに先んじてX氏の身柄を押さえられたのに……。」
「ヤツが相手じゃ結局は同じ結果だったんじゃないですか?」細面の男も手にした機械の表示を見ながら車を降りた。
「たぶんそうね。ヤツはX氏を含めた部屋を丸ごと持ち去ったんだから。X氏だけ抜きのホンモノそっくりの模造品の部屋を残して。」
「空間ごと切り取って差し換えたんですね。」あちこち探るように機械の向きを動かしながら、細面の男は言った。「……ヤツならそれくらい造作も無いでしょうね。」
「そういうアンタはなんであの部屋に現れたの?」
「こいつが…」と言って細面の男は自分の手にした機械を軽く叩いて見せた。「極めて特殊な怪電波をキャッチしたんです。」
「40年前にもキャッチされた電波ね。」
機械の表示から目を離さぬまま男は頷いた。「そう。40年前です。一度は丸の内で、もう一度は……」
サングラスの女は顔を上げると辺りを大きく見回した。「もう一度は……ここ。かつては山林だったころのこの場所ね。」
そのとき、細面の男が機械の上からすっと顔を上げた。
「……間違い無いですね。見つけましたよ。」
168A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/16(金) 15:27:28 ID:b3QF4eoc0
「警部…ヤツらいったい何をしてるんでしょうか?………警部?どうしたんですか?警部??」
見るとK警部は肌寒い寒風の中で冷や汗を流している。
「警部!?どこか具合でも……」
「おいT。超極秘事件ファイル、別名『USSファイル』って聞いたことがないか?」
「警視庁ウルトラスーパーシークレットですね。僕も噂には……。たしか燐光人間だとか吸血鬼とかの事件の記録が収められてると。…でもあれって一種の都市伝説なんじゃ…」
「伝説なんかじゃねえ。」警部は即座にTの言葉を斬って捨てた。「あの噂は本当だ。ただし管理してるのは警視庁じゃなく警察庁だがな。」
「警察庁の管理ですか!?」
警視庁は言わば地方機関、警察庁は国家機関である。つまり例のファイルは国家レベルの秘密だということだ。
だが、次にK警部の口から飛び出したのは、更にTを驚かせる事柄だった。
「あのファイルの中でも飛び切り妙な事件の、最後の舞台がここなんだ。」
「えっ!?こ、ここですか!?この住宅地で何かあったんですか!?」
「住宅地じゃない。事件があった40年前、ここはただの雑木林に覆われた丘陵地帯だった。」
Kの脳裏に、例のファイルに収められていた一枚の写真が甦った。
(そうだ!間違い無い!あいだに40年の時間が横たわっているが。…判ったぞ!Xってヤツの正体が!)
169名無しより愛をこめて:2007/03/18(日) 05:48:36 ID:MAkK51lJ0
170名無しより愛をこめて:2007/03/18(日) 11:30:18 ID:pb+pPzIH0
◆日本はやり直しのきかない国◆
・年齢差別を国が認めているため倒産、リストラにあうとやり直しが難しく
 失業給付期間が異常に短くおおむね3〜6ヶ月なので(外国の場合は2、3年)
 なかなか次の仕事が見つからず借金地獄に陥りやすい。
・長時間労働、サービス残業などが横行しこれを摘発してもなぜか罰則を適用
 しないという企業に甘い社会。よって過労死、ノイローゼ者が続出。
・仕事を持たないとアパートが借りられない、しかし住所がないと仕事を
 得られない。さらに保証人が必要で敷金、礼金と不条理なものがまかり
 通っているので一度ホームレスになると復帰は困難。
・一極集中なので不況になればなるほど仕事を求めて都会に人が出て来る
 ので地価が下がっても需要があるので家賃が下がらない --> 生活苦
  一度落ちると這い上がることは至難のワザ
*****************************
どんな生き物も「自らが生きるための社会構造」を作っているのに
この国の構造は、人間にもっとも向いていない。
「生きるな生きるな」と言い続けているような社会になったのも全部ヒルカワのせい
*****************************
171A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 16:51:54 ID:mu1ejLQt0
「絶対この辺りにあるはずなんだが……。」例の機械をあちこちふり向けながら、細面の男は下生えの影や木の根元を調べまわっていた。
「入り口は偽装されてるはずよ。それも、私たちには想像もつかないやり方で。」サングラスの女がそう言ったとき、どやどやと足音が近づいてきた。
「ちょっと場所をあけてくれ!」
「来たわねゴミ捨て…」ゴミ捨て場と最後まで言い切る寸前、細面の男はなんとかサングラスの女の口を塞ぐのに成功した。
「不可能犯罪捜査課殿!そのご様子だと、アナタも事件の本質に気がつかれたようですね?」
「ああ、オレは40年前の事件の記録を読んでるし、あの子の写真も見てるからな。」そう答えながら、K警部はヨレヨレの上着のポケットから、立体メガネのようなものを取り出して顔に掛けた。
「スペクトルが歪んでやがる。ここだ!」暫くあちこち眺め回してから、K警部は林の一角を指差した。「ここだ!ちゃっちゃとやってくれ!」
「はい!」T刑事が一昔前のテレビカメラのような装置を抱えて前に出た。
「おお!それは壁抜け男の!」オタクっぽく喜ぶ細面の男。
そしてT刑事の装置から、煙とも光線ともつかない何かが迸ると…………捜し求めていたものが忽然と姿を現した!
「な、なんだこりゃ?」度肝を抜かれたようにT刑事が叫んだ。
「秘密の通路入り口」だった。
ただそれは「何かに穴が開いている」というものではない。
雑木林がスクリーンに映し出された映像で、そのスクリーンが四角く切り取られているようだった。
木々やその間の空間に跨って、長方系の穴が、空間そのものに開いていたのだ。
172A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 16:53:21 ID:mu1ejLQt0
切り取られ、移動されたビジネスホテルの一部屋で、一瞬口篭もった後、謎の男は思い直したように言った。
「…ずいぶん疲れているようだな。」
「そう見えますか?」
「ああ、そう見える。」
「……予想していた以上に?」
「予想?」
「あ、いえ、なんでもありません。」
それは、極々短いやりとりだったが、X氏と謎の男の関係に奇妙な効果をもたらしたようだった。
2人のあいだのイニシアチブが謎の男からX氏へと移ったのだ。
「さあ、目的があって遠路遥々いらしたんでしょう?そろそろ本題に入りませんか?」
「いや、別に本題など……」
「でも、私の体を気遣われる前、たしかにアナタは何か言いかけたではありませんか?」
X氏の真意を慮るように謎の男は沈黙した。
「なにを考えているんですか?」X氏は言葉を重ねた。「……アナタの力の前に、遠慮は似合わないと思います。さあ、アナタの願いを言って下さい。」
「それでは言おう……」たっぷり3分以上の沈黙のあと、ようやく意を決したように謎の男は口を開いた。
「……私に地球を……。」
そのとき!
バン!バン!バンッ!!
続けざまに銃声が響き、錠の壊れたドアが蹴り開けられ、三人の男と一人の女がX氏の部屋に転がり込んだ!
173A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 16:56:15 ID:mu1ejLQt0
「いったいなんなんですか!?いきなり他人(ひと)の部屋にどやどや踏み込んできて!?」
立ち上がり振り返ったのはX氏だ!
K警部はテーブルの向こうに座る謎の男を油断無く拳銃で狙いながら、空いた方の手でX氏の手首を掴んだ。
「X氏だな!オレは警視庁のK警部だ!アンタを助けに……」
だが、X氏は自分の手首を掴んだKの腕を乱暴に振りはらった!
「別に助けてもらう必要なんかない!僕はただこうして友人と……。」
「友人!?」細面の男が素早く口を挟んだ。「本当にその人がXさん!アナタの友人ですか!?あなたは彼の名前が言えますか!?」
「名前?名前……それは……」一瞬X氏の顔色が曇ったが…、「名前なんかどうだっていい!僕は彼を知ってるんだ!ずっとずっと昔から、知ってるんだ!」
チッとK警部が舌打ちをした「なんてこった、折角助けに来たって言うのに……。」
「ヤツの術に掛かってるんです。」細面の男が答えた「……ヤツのつくった幻の関係にがっちり捕らえられてしまってるんですよ。」
拳銃を謎の男に突きつけながらT刑事も嚶うな声で叫んだ「それじゃいったいどうすれば!?」
「きみたち。せっかく私が何十年かぶりの再会のときを楽しんでいるというのに、なんで邪魔をするのだ!?」
謎の男はイスから立ちあがり、右手を前に突き出した!
「さあ、さっさと出て行ってくれ。」その言葉と同時に、突き出された右手から目に見えない圧力が放射され始めた。
勢いや早さは感じないが、圧倒的な、抗うことを絶対に許さないという絶対の意志のこもった力が次第に力を増してゆく!
「さあ!帰りたまえ!」謎の男が右腕を更に高く掲げると、見えない圧力もさらに力を増した。
だがそのとき!何を思ったかサングラスの女がボクサーのような低い姿勢で飛び出し、X氏に飛びついたかと思うと、相手の頬を両手で抱えそして……X氏の脣に自分の脣を押し付けた!

174A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 17:02:00 ID:mu1ejLQt0
サングラスの女の唇が自分の脣に重なると、X氏の瞳に光が戻ったように見えた。
「姫にかかった呪いは、王子のキスで解けたでしょ?!」口を袖で拭きながらサングラスの女が言った。
「なるほど!王子にかかった呪いは姫のキッスで溶けばいいか!」今にも笑い出しそうな顔でK警部。
「んな、ナンセンスな!」ひたすら呆れるT刑事。
「それより皆さん!邪魔されたヤツが怒りでブチ切れる前に逃げましょう!」
引率の先生のように細面の男が叫んだところで、ああそうだった!と慌てて逃出す一行!
「おのれ!!!よくも私の邪魔をしたな!」
だがそのとき、それまでの見せ掛けの品位が消え失せた悪魔のような声が轟いた!
「少年の時は私の負けだった!だが、40年後の人生に疲れた今なら、彼は私に地球をくれるはず!そのため私はこれまで待っていたのだ!」
そしてその場の重力が劇的に増加した!一人残らずその場の人間を押し潰してしまうつもりなのだ!
隣室でも、X氏のノートバソコンが不自然に大きな音を立ててベッドから落ちた。超重力は部屋中に作用している!逃げ場はどこにも無い!
宇宙人の声は割れ鐘のように空気を振動させ、部屋に轟いた。
「…少年の心を見失った彼なら、私に地球をくれたはずだ!」
……だが!
175A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 17:03:37 ID:mu1ejLQt0
「違うわ!」サングラスの女が叫んだ!
「X氏は、40年たっても少年のころの心を見失わなかった!そのために、X氏はネットに特撮系の話を書き込みつづけていたのよ!」
「なんだと!?」謎の男=宇宙人がうめくように言った。
ベッドから転がり落ちたX氏のノートパソコンがショックのせいか独りでに稼働している。
ディスプレイに連なる文字は……「第X話/………」!
「40年たっても、X氏は子供の心を無くさなかった!」サングラスの女はなおも叫んだ。
「アンタはX氏が子供の心を取り戻さないように、X氏の思い出に連なるもの、昔の漫画、クレイジーフォーム、成田氏の書いた絵、古い怪獣の模型をオマ先回りしてみんな消した!」
「そうだったのか」とK警部が叫ぶ。
「でもみんなオマエの悪巧みはみんな無駄だった!なぜってX氏は、最初っから子供の心を無くしてなんかいなかったのよ!!」

ところが、サングラスの女の絶叫とは対照的な、掠れるような声が低く静かな声がこれに続いた。
時の流さえ停止させる一言……が、
ただ「……ちがう」と。
176A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 17:04:52 ID:mu1ejLQt0
「ちがう」
その一言が響いた瞬間、時が止まった。
サングラスの女、K警部とT刑事そして細面の男、それだけではない宇宙人も凍ったように動けなかった。
みな、深い戸惑いをもって「ちがう」に続く言葉を待っていた。
そして……X氏は口を開いた。
「子供の心を無くさないために、創作をしていたんじゃない。……ちがうんだ。」X氏の言葉のおしまいの部分はなぜか震えて聞えた。
「……で、では、なんのために?」サングラスの女が自分の方にX氏を振り向かせると………X氏の頬は、涙で濡れていた。
「創作をしていたのは………つまらない人間にならないため……」
「つまらない人間?」戸惑うサングラスの女。
「僕が……僕が、つまらない疲れた大人になってしまっていたら、彼がガッカリするんじゃないかって。」
「『彼』がガッカリする?『彼』っていったい?」
合点がいかないという様子でT刑事は尋ねたが、他の者たち、サングラスの女、細面の男、そしてK警部は静かに謎の男=宇宙人の方を見つめていた。
「……何故私の正体に気がついていたのだ?」偽りではない親しさをもって、宇宙人は尋ねた。
「最初の缶ビールを飲み干したときです……」ついさっきのことだというのに、妙に懐かしげにX氏は答えた。
「……この世のものとは思えないほど美味かった。……と、いうことはこのビール、この世のものじゃないんじゃないかって……。」
「それで私の正体に気づいたというわけか。」
「そう……ビールがこの世のものじゃないなら、ビールをくれた人もこの世の人じゃない。」
「この世のものじゃないビールでも、キミは飲んでくれたのか?」
「だって、……それはアナタがくれたものだから。」
もう降参だ…というように宇宙人は両手を上げた。
177A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 17:06:12 ID:mu1ejLQt0
もう降参だ…というように宇宙人は両手を上げた。
「Xくん……今度も私の負けだ。」
「メ、メフィラ……。」
「さあ行け!悪質宇宙人とも呼ばれる私の気が変わらないうちに!」
宇宙人が皆を追い払うようなしぐさをすると、サングラスの女とK警部がX氏の左右両肩を掴まえ強引に部屋から引きずり出した。
部屋の外は……どこでもない空間だった。
ドアを潜った直後だというのに、さっきまでいたホテルの部屋は20メートル以上も向こうにあるように見える。
そして部屋には、ネコのような耳に目が上下に四つ並んだ並んだような風貌の黒づくめの宇宙人が座っていた。
外へ外へと引っ立てられ行くX氏が、突然身もだえして叫んだ。
「この僕に二度も負けて、このままで終るつもりか!」
高圧的な笑いとともに宇宙人は答えた。
「もちろんそんなつもりは無い!いつかまた、必ずオマエに挑戦しに戻ってくる。必ずな!」
「よし!それなら僕はいつまでも待っていてやる!いつまでもな!」
そして宇宙人の満足げな笑い声が空間を満たし……みんなの視界が一瞬暗転した。

178A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 17:09:38 ID:mu1ejLQt0
気がつくと、X氏、サングラスの女、K警部、T刑事、そして細面の男は、市街化調整区域の雑木林の中に立っていた。
もうビジネスホテルの部屋も、空間にポッカリ開いたトンネルも無い。
「電波は……検知できません。彼は去りました。」細面の男が機械から顔を上げた。
「危機は去ったか…」K刑事もほっとしたように座り込んだ。
「40年前の子供の心を思い出させないように、ヤツは思い出に通じる物を先回りしてX氏の前から遠ざけたけど、でも……」サングラスの女は星空を見上げた。「……ヤツ自身が、40年前の子供の心を思い出させる最大のキーだったなんて。……心配して損した。」
そして背中を向けてバイバイと手を振ると、サングラスの女は一人夜の住宅地へと歩み去っていった。
その後ろ姿に向かって深々と頭を下げるK氏に、細面の男が言った。
「どうですか?40年前に続いて、また世界を救った感想は?」
「世界を救った?」X氏は静かに微笑んだ。
「救われたのは僕のほうでしょ?あの宇宙人にそしてアナタたちに、僕は救われたような気がします。」
「それじゃまた創作活動も?」
「もちろんです!」X氏も何処かに去った宇宙人の姿を捜し求めるように、星空を見上げた。「……また彼が来たときガッカリさせないためにね。」
そしてX氏は、遥かに遠ざかり行くサングラスの女に視線を移して言い足した。
「次回作からは、あのサングラスの女性をモデルに主人公を作ってみるつもりです。」

179A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」:2007/03/19(月) 17:15:19 ID:mu1ejLQt0
こうして地球の平和は守られました。
X氏は今日も夜空を見上げ、星の彼方の友人へと思いを馳せては、空想のお話を紡ぎだしているのではないでしょうか。
そう、
この広い世界に、たった一人でいい。
彼のように、少年の心を見失わない人間がいるかぎり、愉しい空想物語が耀きを失うことはないでしょう。

A級戦犯/「いつまでも、いつかまた」
お し ま い
180名無しより愛をこめて:2007/03/21(水) 06:36:04 ID:8ZsTfsCB0
1
181名無しより愛をこめて:2007/03/23(金) 12:00:12 ID:05Uqt23j0
2
182名無しより愛をこめて:2007/03/25(日) 07:25:55 ID:PX74Hy9Y0
3
183名無しより愛をこめて:2007/03/26(月) 14:27:58 ID:K2SOZTFI0
3.1
184名無しより愛をこめて:2007/03/26(月) 22:21:42 ID:1Lwm3E2x0
95
185名無しより愛をこめて:2007/03/26(月) 23:50:25 ID:aRzjoljq0
185
186名無しより愛をこめて:2007/03/27(火) 10:08:31 ID:wYvsFgFE0
98 にして欲しかった…>>185
187名無しより愛をこめて:2007/03/30(金) 09:19:38 ID:dh6yiLT00
age
188名無しより愛をこめて:2007/04/03(火) 21:09:00 ID:uN9Om/sQ0
1
189名無しより愛をこめて:2007/04/04(水) 00:31:49 ID:/CCN9mLS0
んじゃ98
190名無しより愛をこめて:2007/04/05(木) 11:50:12 ID:/5QSpOdq0
98SE
191予告:2007/04/06(金) 03:01:27 ID:bkk6D9vUO
ハイキングにきた若者達。しかし彼らは道に迷う。
そこで過疎化の進んだ集落に迷い込んだ……。
タイトル
『人食い村』
192名無しより愛をこめて:2007/04/09(月) 05:25:44 ID:2d8tWSiF0
q
193名無しより愛をこめて:2007/04/11(水) 15:31:16 ID:+cAhTRM80
u
194名無しより愛をこめて:2007/04/11(水) 23:52:53 ID:35XxKgA10
v
195名無しより愛をこめて:2007/04/16(月) 16:33:54 ID:oIrB6mtr0
街・町・待ち・俟ち
196名無しより愛をこめて:2007/04/19(木) 10:48:33 ID:1XCA651W0
保守
197名無しより愛をこめて:2007/04/19(木) 14:37:15 ID:4eGB/jyb0
( ^ω^)
アニメが無料で見れるサイトがあったよー♪
YouTubeみたいに動画も投稿できるから、アニメファンの人には面白いかもね・・・。

http://ex21.2ch.net/test/read.cgi/ad/1173329638/148

海外のアニメもあるから必見だよー ♪〜(^O^)/

46
198名無しより愛をこめて:2007/04/23(月) 13:36:06 ID:drwkhK2H0
やれやれ……応援するつもりで自作駄文を何作か投下していたけれども、このスレでも死神役になってしまったか?
私が投下したスレは皆動きが止まって死んでもうた。
まさに疫病神だな、私ゃ(涙)。

]話氏の復活を切に願う。
199名無しより愛をこめて:2007/04/24(火) 09:13:42 ID:G0+wTlk50
200名無しより愛をこめて:2007/04/25(水) 23:03:51 ID:H1qhZWoY0
変人女に惚れました。
責任とって結婚してくれ。
201名無しより愛をこめて:2007/04/25(水) 23:22:20 ID:MRRqAx9kO
箱書きみたいな感じでもいいのかな?
202名無しより愛をこめて:2007/04/26(木) 10:15:35 ID:24+mlGn5O
>>201です。んじゃ、箱書きします。 タイトル『人形』
@出会い系サイトを通して 今風の男女が出会う
A遊んで食事。男が女をホ テルに誘う
B女がいい所を知っている と男に告げる
C走り出す車。夜の山道に 差し掛かる
D少し霧が出ている。男が 怪談を始め女は怯える
E車は尚も山道を走り続け る
F女の誘導に従い、山奥の 洋館に辿り着く
G洋館は女の家。執事が出 迎え、男は面食らう

長くなるので、連投しますm(__)m
203名無しより愛をこめて:2007/04/26(木) 10:46:50 ID:24+mlGn5O
>>202(続き)

H執事に案内され、女の部 屋へ。無数の人形に溢れ ている
I女が妖艶な笑みを浮かべ て男を誘う
J事に及ぶ2人。果てて疲 れ切った男は、猛烈な睡 魔に襲われる。
K不審な物音に目を覚ます 男。視線を感じる
L隣りにいる筈の女を呼ぶ が、何故かベッドには男 1人。物音が高まる。
M男は無数の人形に囲まれ ていた。驚愕する男
N逃げようとするが体が動 かない。物音が高まり人 形が迫る
O恐怖する男。その時、部 屋の扉が開いて、女と執 事が入って来る
P男は安堵しかけるが、更 に驚愕する
Q女と執事はマネキンだっ た。男の絶叫が響く
R翌朝、業者のトラックが 山中のゴミ捨て場へ
Sそこは人形置場だった。 トラックから不要のマネ キンが下ろされる
            事前に捨てられていた人形達の中に、女と執事、そして男そっくりのマネキンが転がっていた‐。End

ちょっとホラーっぽくしてみました。どうでしょう?
204名無しより愛をこめて:2007/04/27(金) 16:34:55 ID:5z5g22bV0
いいですね!絵が浮かびますね。

出会いのシーンは出会い系サイト以外でも良かったか…な
205名無しより愛をこめて:2007/04/27(金) 18:06:48 ID:KVHvBEUGO
>>201です。

204サン、ありがとうございますm(__)m
まぁ飽く迄箱書きですから(^^)
こいつをプロットにブローアップしてくれる神が現われてくれるといいんですが(^^;てめぇが考えろや!なんてのが湧きそうですね。
どう転がそうかな…
206名無しより愛をこめて:2007/05/02(水) 08:20:08 ID:3Fel0zng0
>>201
一切の理由付けをしないスタイルでいくんでしょうか?
それともある程度の理由付け、例えば「人形は主人公に捨てられて自殺した女の持ち物だった」とか、を設定するんでしょうか?
前者でいく場合…、難しいですよ。
理由をつける方が文章的には簡単だからです。
それでも敢えて「理由付け無し」でいこうというのなら、「シャモタ氏の恋人」あたりを参考にされてはいかが?
オチのグロテスクさ、ショッキングさ、そしてある種のあさましさ。
一読印象的な作品です。
207名無しより愛をこめて:2007/05/03(木) 15:58:45 ID:5W/zTMPT0
q
208名無しより愛をこめて:2007/05/03(木) 20:52:20 ID:9AmQbGyHO
>>206様 ども、箱書き投下した者です。

あまり深くは考えずにupしたもんで(^^;

単純に、理不尽で不可解な線を狙って考えました。
まぁでも、“隠しテーマ”みたいな物を設けた方が、話しは転がし易いんだろうな…。

主人公の男は言葉巧みに女性を誘い出し、いたぶった挙げ句山に捨てている…。被害に会った女性達の怨念が人形に乗り移り、男に復讐を果たす…って、これじゃ安っぽいホラーじゃん!
う〜ん…
209名無しより愛をこめて:2007/05/07(月) 08:27:10 ID:/3A4zIqU0
>>被害に会った女性達の怨念が人形に乗り移り、

こんなのはいかがか?
ひらめく剃刀!そして次のシーンでは手足をもがれた人形が雑木林に転がる。
こんな描写を二三度繰り返して「死の象徴=壊れた人形」ということにしておく。
もちろん視聴者は「殺人が行われた」と考えるはず。
最後には「象徴」ではなく具体的に人形そのものが出てくる。
すわ、殺された女たちの復讐か??
しかしエンディングでは……警察の死体発掘で何故かマネキン人形ばかりが掘り出される。
「彼が殺していたのは人間だったか?それとも人形だったのか?」と言う岸田警部の独白でおしまい。
210名無しより愛をこめて:2007/05/08(火) 10:20:17 ID:VBOyNz8s0
g
211名無しより愛をこめて:2007/05/11(金) 12:12:13 ID:YBgvC+t40
q
212名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 03:34:16 ID:0fK7B2EY0
忍 耐 偲
213名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 11:14:07 ID:4ovUwd610
i
214名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 11:45:33 ID:F06BcQV7O
>>209          あ、ども、箱書き屋です(^^;

テーマがボヤけて来ましたな…。
それだと快楽殺人を人形に置き換えて、という事でしょうか?

なんか段々Qから離れて行ってる気がする(^^;
215名無しより愛をこめて:2007/05/16(水) 14:26:02 ID:SWM6FC+40
X氏のヌシさんがいなくなって3ヶ月…

とにかく他のメンバー(っていないか…)で何とか盛り上げま…

いや、場つなぎでも。
216名無しより愛をこめて:2007/05/20(日) 11:17:33 ID:lIx8WpQ40
217宣伝:2007/05/20(日) 13:30:19 ID:mA8OsoFi0
特に女性がシステムを経由せずに話を作るのは危険だと言う仮説の元に置いて見る。
「安直プロットジェネレーター」
http://www.avis.ne.jp/~asper/work/plot.htm

例:5624
現在の脅威
任意>研究w
抵抗しがたい脅威
突破

「水槽の中と、東京の空と」
 光化学スモッグを発生し続ける奇妙な暗雲が日本海上空に現れ、それは次第に日本の東京へと進路を取っていた。
東京は厳戒態勢に陥る。気象庁などの分析で、内部にかなり高い電磁波の放出物体がある事が判明、謎の生命体である可能性も、
と言う事で自衛隊の飛行部隊が向かうも、途中で激しい落雷によって壊滅する。
 ウルトラQの関係者は直ちに資料などを調査した結果、次元断層が引き起こす一種の拡大現象らしいと言う事になる。
本来は小さな物が、その異常断層によって巨大化し変質しているのだ。ともかく次元断層を元に戻せれば消失するはず!
と言う事が判明した段階で、しかしそれは東京へと上陸する。
 自衛隊はミサイル攻撃に移り、やがて爆発により雲が散り正体が判明する。それは空飛ぶクラゲ、巨大なカツオノエボシだったのだ!
空飛ぶクラゲ、略して「クラール」と命名されたそれは、しかし獲物を捕るように触手を地面へと投げ落として戦車を破壊、
人々を捕まえては食っていく。落雷を放ち進行するクラウドグレールを止める事が出来ない、このままでは東京が危ない!
 しかし、ウルトラQの研究班によってようやく次元断層修復爆弾が完成。巨大カツオノエボシのその頭頂部へと打ち込むことに成功し、
断層は消失を始め、やがてカツオノエボシの姿は消えていった。後日、光化学スモッグで色彩を失った少女が飼っていたカツオノエボシが、
水質の悪化で水槽の中で死んでいた、らしい。
218名無しより愛をこめて:2007/05/21(月) 08:33:42 ID:NdGJCylH0

「物体O」?
219名無しより愛をこめて:2007/05/22(火) 15:45:20 ID:Y7PSz127O
ども、ハコガキ―です(^^;
以前のストーリーを整理して、プロットをいじってみました

@道端に捨てられている、 ボロボロのアンティーク 人形
A気になった青年が拾い上 げ、綺麗に修復する
Bその青年が、学内サーク ルの金銭トラブルに巻き 込まれ、瀕死の重傷を負 う
Cアパートの部屋に戻るが 力尽き、人形の眼前で事 切れる
Dその瞬間、青年の魂が人 形に宿る。ズームアップ になり、人形の眼に光が 走る。

連投します
220名無しより愛をこめて:2007/05/22(火) 16:01:30 ID:Y7PSz127O
>>219(続き)

E青年が死んだ事を知らな い加害者、女と自室で遊 んでいる
Fシャワーを浴びに行く加 害者。女は寝室へ
G寝室に入った女が電気を 点けると、ベッドの上に 例の人形が
H女は不審に思うが可愛さ のあまり、抱き上げる。Iその瞬間、人形の眼が光 り、女が固まる(もしく は失神する)。人形から 抜け出た魂が女に宿る
J何も知らない加害者、シ ャワーを終えて寝室へ
K一方寝室の女は、ベッド の下に人形を隠して、加 害者を待っている
L加害者と女、ベッドでイ チャ付き事に及ぶ

あぁ長…
221名無しより愛をこめて:2007/05/22(火) 16:14:02 ID:Y7PSz127O
>>220

Mさぁ今から、と加害者が 意気込んだその時、突然 女が笑い始め、加害者は ギョッとする
N女が自分が何者かを語り 始めるが、次第に声が青 年の物になって行く
O加害者は悲鳴を上げて部 屋中を逃げ惑い、人形を 抱いた女が追い掛ける
Pベランダに追い詰められ た加害者は転落し、死亡 する。その様を確認する と女から魂が抜け出し、 失神する
Q魂は再び人形に宿り、宙 を舞いながら何処かへ姿 を消す。
 青年の笑い声が響き渡る
 終
222名無しより愛をこめて:2007/05/22(火) 21:48:57 ID:No13uWC80
>>218
いや、どっちかというとファーストゴジラのぱくり。

>>219-221
ウルトラQの脚本というより怪奇小説というか・・・。
スレの主旨的には怪獣とウルトラQの人々が出ないと難では。
223名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 05:38:00 ID:108V+3+f0
>>219個人的に良いと思う方向でリライト
「捨てられた人形」

人形造形師、沢山作らされて、それが元で腱鞘炎とかになり人形が作れなくなる。
しかし会社は保証とかしてくれずに、あっさり解雇。おまけに”作らされた”
人形はことごとく売れず大量投棄が決定。失意の中、やがて彼は重役の車の前に出て、
跳ねられて死亡。手には最後の作品マリオネが握られていた。彼の葬儀が終わり、彼の恋人は
その人形を肩身として貰う。それがTVで同型の人形が大量投棄されている映像で活性化、姿を消す。

人形を大量廃棄しようとするゴミ処理場。従業員の人々がおや?と気付くと、そこに一体の
投棄予定のマリオネが。それが動き始め、やがて人型サイズになり、それで従業員はパニックに。
マリオネはその場に有った投棄される人形達を取り込んで巨大化していき、やがては巨大人形怪獣マリオネに、
それは自身を投棄した会社へと向けて歩き始める。

怪獣出現の報で、ウルトラQの特捜班も呼ばれて。人々が非難していく中、彼らはマリオネに追跡される
会社の重役らと出会い、それを保護する形になる。その結果彼らが追跡されて、逃げながら事情を聞く形に。
死んだ造形師が我々に復讐しようと!既に説得出来る様な状況ではなく、その頃、恋人の女性はその事件を知り、
何となく状況を悟る。

ウルトラQスタッフが逃げつつ、しかし途中で怪光線などで車が中破、逃げ足を失い。迫り来る怪獣、
もう駄目だ、と言う所でその恋人の女性がやってくる。こんな事はダメだ!とか説得。それでマリオネは、
悲しそうに呻くと崩れていって。後には大量の、彼の作って、そして売れなかった人形の残骸が山のように残った。
224名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 10:56:23 ID:BuHvL65RO
ども、ハコガキーですm(__)m

自分としては『悪魔ッ子』とか『開けてくれ!』の路線を狙ってみてます。元々Qは、怪獣物ではなく、SFアンソロジーとして企画された、と記憶しています。
極力怪獣を出さず、不条理で不可思議な世界を構築する。

万城目達や怪獣を必ず出さなければならないのなら、どうぞそういう方向で改変して下さい。

何だかバカバカしくなって来たので、以降の投稿は取り止めます。

ではm(__)m
225名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 11:11:41 ID:5hWXKhMU0
ココは作品の書込みにコメントってよりもまず自分の作品載せましょうって感じだから。

とにかく誰か短くても良いので書いてー下さい!!
226名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 13:07:27 ID:Vy0rWwRu0
>>224
SFアンソロジーとかで有れば全く条件は満たしていないし、
怪奇物、と言うなら人形ウンタラの理由が皆無で怪奇どころでは。
起承転結も無い、と言うかテーマがまず無いし、ただ思い付いたシーンを、
だらだらそれっぽく並べただけに過ぎない。ハコ書きというのは、
そういう物ではないと思うのだが。基本プロットを用意した後で、入れたい、
或いは考えられるシーンを箇条書きにしてそれを入れ換えて具合を見るとか。
まずは基本からなってない。
227名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 13:39:41 ID:BuHvL65RO
>>226 224です

是非、お手本を示して下さい。後学のためにも、参考にしたく存じますm(__)m
228名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 14:26:48 ID:BuHvL65RO
>>227(連投スマソ)
私の書いたハコガキは
“シチュエーション毎の出来事を大まかに纏めた物”
です。
そこに足した方がイイ物、削った方がイイ物、テーマ等を投影させて、プロットを完成させる
完成したプロットを細かく修正しながら脚本完成

という流れの為に投下しただけで、言わば建物の基礎部分を掘ったのに過ぎません。
後は皆さんで転がして貰えればイイだけの事。
建物さえ建ってないのに、あれこれ書かれては不愉快なので、投下を止めると書いたんです。

言葉足らずな所は私に非がありますが、226氏のように書かれると…。

今度こそ失礼しますm(__)m
229名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 15:26:33 ID:5hWXKhMU0
226氏は、さぞや<箱書き>のプロなんでしょうね。

漫画の描き方みたいな本でも箱書きからストーリーなど組み立てをする進め方、
そしてもちろん数知れず出されている小説の書き方でも箱書きの説明はあります。

で、どの本にも書いてあること。それは作家が100人いれば100通りの箱書きの方法が有るということ。そして小説の書き方もしかり。

箱書き使わずいきなり書き始めて名作書き上げる人もいるわけですし。
226氏の言うその存在するであろう完璧な箱書きからただの駄作が出来上がる場合もあるでしょうし。

とにかく言いたい事は、書き方はどうでもいい、各人の自由。自分のやり方を押し付けてはダメって事だと思う。
230名無しより愛をこめて:2007/05/24(木) 06:57:00 ID:Hk+XijTl0
「古の守人」
日本列島で起こる地震のその殆どは、フォッサマグナ地帯、その歪みが拡大する事で発生している、
それを制御して地震その物を押さえ込もうと言う研究が、とある大学の教授によって推進されている頃、
ウルトラQ特捜班は、千葉の山奥に有る祠、その奥に眠る断層から出土した、人身大の巨大で奇妙な、
土偶を調査していた。古文書が有り、それはドグラーと言う物で、日本を守る守人器(もりびとき)だと言う。
 一方その頃、大学教授による浅間山火口付近からのフォッサマグナ活動ポイントへの掘削工事は、
第一段階を迎えており、それはしかし予想に反し、途中で空洞の有る地点に突き当たる。謎の地下洞窟?
と言う事で調査が始まり、そこで内部に、巨大な人口の建造物を発見する。磁場が乱れ、ただならない物で有る、
それを確信した大学教授はそれの調査を始める。しかし時を同じくしてその頃、ウルトラQスタッフが
調査中だった巨大土偶「ドグラー」が、突然動き出したのである。
 ドグラーは彼らの制止を容易く退けると、空を飛び、やがて浅間山火口の掘削現場へ到着。
彼らが開けた洞窟へと侵入していく。非常事態に現場へと急行するスタッフは、幸い動いていたエレベーターにより
ドグラーより一歩先に教授達と合流、しかしその際にエレベーターを破壊され、ドグラーは執拗に追いすがり攻撃してくる。
 その地下巨大建造物の中を逃げつつ、やがて地上班より連絡が有り、彼らは支持通り、そのまま出口へと脱出。
ドグラーはそれ以上は追って来ず、彼らは地上へ。ここはフォッサマグナの活動を押さえる為の古代文明の遺跡で、
彼はそれを守る物だったのだ。迂闊に古代のそれへ触れようとした事を反省しつつ、その地下空洞は封印されるのだった。
231名無しより愛をこめて:2007/05/24(木) 08:15:34 ID:416p3CQE0
ネタというか、カードを一度に晒し過ぎてると思う。
「千葉の祠」「ドグラー」「浅間山での掘削」を一気に出すのはもったいないかと?

例えば冒頭でこれまでの地震の惨禍を伝えるニュースフィルムを挿入。
そして地震による大破壊の制御を悲願とする教授の記者会見、そして教授自身の口で掘削工事の意義と進捗状況の説明。
ドグラーの方は…。
田んぼのど真ん中にポツンと鎮座する小さな丘。
ふもとには寂れたお社があって、農作業の前に毎日必ずおまいりする老人(左卜全を希望)。
お参りを終えた老人が顔を上げると、社の向こうの丘肌にポカンと黒い穴が開いている。
「さっきまでこんただ穴ぁ、開いとっただべかぁ?」と黒い穴を覗き込む老人。
するとその奥で二つの光がピカッ!
腰をぬかした老人、慌てて駐在を呼びに走る。
そして……地方新聞の新米記者(主人公?)が登場。
ここまでオープニングね。
232名無しより愛をこめて:2007/05/24(木) 08:16:52 ID:416p3CQE0
中略

浅間山が突然噴火を開始。同時に教授の運び込んだ装置は超巨大地震が間近に迫っているとの予兆をキャッチする。
「バ、バカな!?もしこんな規模の地震が発動すれば、日本列島は真っ二つになるぞ!」
必死に地震エネルギーの制御を試みる教授だが、もう彼の手に負える状況ではない。
ついには隋道も崩落し始め、助手らに引きずられるようにして地上に連れ戻される教授。
しかし彼らと入れ替わるようにしてドグラーが奥に!?
崩落する巨岩の直撃を受け墜落するかと見えたドグラーは、なんとかバランスを立て直すと、隋道の奥に消えた。その直後、隋道は完全に埋没。

浅間山の外でドグラーを追ってきた新聞記者と教授が合流。
「ドグラーは!?」「ドグラーはどこに??」
「ドグラー?…私たちと入れ違いに飛び込んで来た『何か』のことなら、おそらく何万トンもの岩と土砂の下さ。」
そう言葉を交わす間にも浅間山の噴火は止まり、不穏な地震もどこかに消え去っていた。

最後に石坂浩二のナレーション
「人には、まだ触ることの許されない事柄があるのかもしれません。
しかしそれに手をつけてしまった教授は、危うく日本を破滅の縁に追いやってしまうところでした。
ではドグラーは?
……ひょっとすると彼は、古代の人々が地震による破滅から日本を守るため作った守人だったのかもしれません。」
233230:2007/05/25(金) 12:24:20 ID:zOnBVgNd0
>>232
そこまで書いちゃうと既にシナリオなのでw。
一応ここに晒すモノとしてはプロットレベル位かなとか。
後、一応テーマが「古いモノを侮って手を出すとろくな事が」と言う、
そういうモノで有るから、一応これだけ突っ込まないといまいち入らないとは。

ウルトラQなんで、単品としてのネタ度よりも全体的なテーマの方が重要だ、
と言う気が個人的には。環境汚染への警鐘とか、その辺とかが定番で。

もちろん、古代の遺跡を迂闊に触って暴走し始めて日本沈没誘発?!に対し、
ウルトラQスタッフが頑張って止める、ああ危なかったでも良いにはイイのだが。

怪獣が出ない。
234名無しより愛をこめて:2007/05/25(金) 12:43:42 ID:gWo7Xfc30
>>そこまで書いちゃうと既にシナリオなのでw。

これでも随分簡略化したつもりなんですが(笑)。
もともとスレ主のX話氏が書かれていたのはこんな感じの話でしたよ。
ウルトラQの関係者は必ずしも出るわけではなく、オリジナルキャラの「変人女」が大活躍していました。
怪獣も、必ず出るというわけではなかったように思います。
そして後半は「育てよカメ」とか「カネゴンの繭」のような子供世界の活写に筆の冴えを見せていましたね(遠い目…)。
私は「怪獣が出ない話」とか「妙な話」を主に投下してきました。
結局「ウルQ」ってのは特定のキャラに依存しているのじゃなく、「世界観」というか「皮膚感覚」に依存する番組だったような気がするんですけどもね。
235名無しより愛をこめて:2007/05/25(金) 15:54:09 ID:jPO+6Zjg0
>>234
あくまで台詞とかシーンとかは、所詮個人の好き嫌いでしかないので、
正直言ってシナリオレベルでは「何が書かれていても一緒」と言うのが現実。
もちろんセンスの良し悪しは有るからそれを見せたいと言うのは有るけど、
一般の客にしてみると「解らない」、私のアニメ絵は他とは違う!に近い。

皮膚感覚にしても、一応古き名作に敬意を賞して言うなら「理由」がちゃんと有って。
ヘドラとかw。垂れ流される汚水がやがて巨大怪獣を産んだ、そういうテーマがまず。
このシーンを見せたい!と言うのは、古い作品には多く”無い”概念だろうと。
シーン依存と言うより全体のテーマ。その為にそれが相応しくないなら切り落とすし、
必要なら惜しげもなく余計な?要素を盛り込んだり。まあ懐古的な感覚でしかないから、
>>230が今風のシナリオではないとか私は嫌いだと言うのは有るとは思うけども。

ともかくテーマは大事だと思う。じゃないとウルトラマンでさえない。
236名無しより愛をこめて:2007/05/26(土) 22:30:11 ID:k1mZVW+D0
a
237名無しより愛をこめて:2007/05/29(火) 12:34:08 ID:POKIkRmp0
238名無しより愛をこめて:2007/06/02(土) 02:21:17 ID:LvWYYi2s0
i
239名無しより愛をこめて:2007/06/07(木) 00:52:01 ID:585wmjc10
q
240X話:2007/06/11(月) 00:25:02 ID:o0myYWpa0
│       コソコソ
│ω・`)))
241X話:2007/06/15(金) 01:50:44 ID:efYYuniw0
│       
│ω・`)   ダレモ イナイネ
242名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 07:33:39 ID:eErdexjE0
だぁれもいないと思っていても、どこかでどこかでエンゼルはぁ……
243名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 11:53:06 ID:oTw3iPIAO
気軽に書き込めないんだよね。

自分は書き込まないくせして、批評したり批判したりする評論家気取りが湧いて出るから。

誰か書いてってageてあって、自分も文章書くの好きだから投下したけど、上に書いた通りの事になった。

所詮素人がやってる事なのに、やれテーマがどうだ、ウルトラらしくないだ、散々に叩かれる。

で、そうやって叩く連中って、まず自分は投下しないんだ。お手本を示して下さいって書いてもね。

ウルトラのハードルは高いとか書かれた日にゃ、お前は何様?って。

そういう連中を何とかして貰わないと、書いても楽しくないよ。
244名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 17:07:48 ID:eErdexjE0
スレ主ではないですが……
気にせず書けば?
テーマがどうのって話は、「いい年こいて怪獣映画ぁ?」と笑われてた特撮ファンの先達たちが、「いや!ホントはこんなに凄いんだ!」と理論武装するためのものだという側面もあります。
でも、ここに書いてるのは特撮ファン同士のいわば「身内」なんだから、理論武装は必要ないでしょ?
確かに「公害」とか「孤独な老人」とか「差別」とか、思いテーマを抱えてる作品もありますよ。
でも毎週毎週そんな作品ばかりだったらゲップが出ません?
私が子供のころ好きだったのは「怪獣無法地帯」とか「ガラダマ」とか…テーマ云々よりも単純で楽しい作品でした。
ペロリゴンとかメタリノームとかナメゴンだとか……ああいう話を再演してみたくて構成を続けてます。

「書いてもいないのに」と言われるとなんだから…。
私がこのスレに投下したのは「新悪魔っこ」「ミイラの叫び」「緑のおもい」「石の見る夢」「隣の芝生」「いつまでも・いつかまた」。
ちなみに準備中の次回作は「ゴスラ対ウンコタイガー」ね。
245名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 23:06:45 ID:oTw3iPIAO
>>244 243ですm(__)m

貴方の様に自分も投下しつつ、けど私はこう思うよ、というスタンスの方なら、自分は何とも思わんのですよ。だって、そういう人は“アドバイス”を必ずくれるから。

自分が腹立たしいのは、何もしないクセに批判したり批評する連“厨”です。

ねぇ、プロ作家の登龍門じゃあるまいし。基本がなってないとまで書かれちゃ、ホント、お前は何様?ってね。で、そういう連中程、テーマ云々とか応仰な言葉を並べ立てる。バカかと。
243氏の仰る様に、テーマ云々とか抜きにした娯楽物があるからこそ、話しに振り幅が出来るんだから。

あぁもう、腹立たしい…
246名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 23:16:48 ID:oTw3iPIAO
書いてく内にドンドン熱くなってしまいました。
結果的に、これじゃスレ荒らしと同じですね。
ごめんなさいm(__)m
ちょっと頭を冷やして来ます…
247ケロロ:2007/06/17(日) 01:10:55 ID:LGocV8yY0
Xさんはもう書けないのでしょうね。
ここは、1人の書き手さんで進んでいたスレなんだから
よほどの凄腕さんが現れない限りこんな状態が続くのか。

ああ昔がなつかしい。
この間ちょっとここに載せようと、改造人間の実験体になった女性の話、少し書いてみたんだけど途中で挫折しちゃった。

つくづくX氏の偉大さわかるよね。

誰か批判を無視して短いのでも良いから載せて!!
私も近々何か…
248A級戦犯:2007/06/18(月) 12:36:09 ID:dRtM+n5E0
私もこの板で足掛け3年だったか、逐次投下で長編を投下していた経験があるんですが……。
「彼方からの彼女」を呼んだとき感じたのが、「これは危ない作品だな」ということでした。
書き手が燃え尽きるというか、次の展開が思い浮かばなくなる可能性のある作品だと感じたからです。
次作の「妄想月世界」を読んで、その感は更に強くなりました。
だから「いつまでも・いつかまた」というタイトルで駄文を書きました。
X話氏が「いつかまた」書き始めるときまで、「いつまでも」待っていますという意味です。
メフィラス星人と渡り合う主役のX氏は、もちろんX話氏がモデルです。
あと我々にできることと言ったら……X話氏が戻ってこられる場所を保存しておくことだけでしょうか?

このスレで逐次投下が許されるのはスレ主のX話氏だけと考えていましたが、スレ保存のために必要とあらば、逐次投下で何か構成してみますか。
249Ag(4:2007/06/19(火) 08:40:03 ID:MIYV1Sfa0
前触れもなく夜の雷雨が荒れ狂った翌朝、空は昨夜の騒ぎが嘘のような雲ひとつ無い晴天だった。
地面に転がる立て看板や、風に吹き折られた大小の木の枝の中を縫うように、少年が一人、俯き歩いてゆく。
気の進まぬらしい様子が、その足取りの重さから容易に見て取れる。
塀の影からそっと覗き見た校門には、体の大きな生徒を中心にした三四人の子供がたむろ
していた。
すると少年の表情にたちまち影が差し……とうとう彼は校門に背中を向けてしまった。
……彼は、苛められっ子だったのだ。

「ゴスラ対ウンコタイガー」

学校に背を向けた少年だったが、だからといって後にしてきた家に戻るわけにもいかない。
母親に見咎められ、さっさと学校に行けと言われるのが関の山だ。
それに盛り場で時間を潰す様な度胸の持ち合わせも彼にはなかった。
だから………彼はいつものところに行くことにしたのだった。
乳母車が二台すれ違えないような狭い路地や神社の石段、どこかの家の裏藪といった場所を迷路のように巡り巡ったすえ、少年は不思議な建物の前に立っていた。

「やあ、シロシか。まあ中にお入り。」

いつものようにピカピカの笑顔で、伯父さんはヒロシを家の中に迎え入れてくれた。
伯父さんは……少年の……ヒロシの父さんの兄さんで……なんだか訳の判らない特許を持ってるせいで働かなくっても食べていけて……上手に「ヒロシ」と言えなくていつも「シロシ」で……。
いや、そんなことはどうでもいい。
伯父さんの笑顔がピカピカ輝いて見えるのは、伯父さんがハゲてるからではない。
小さなころからヒロシは、この伯父さんのことが大好きだった。
250名無しより愛をこめて:2007/06/19(火) 08:41:18 ID:MIYV1Sfa0
ありゃりゃ、タイプミス。
上のレスのタイトルは「A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー」ね。
251A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/19(火) 08:42:04 ID:MIYV1Sfa0
「シロシ!オマエはなんてグッドタイミングなヤツなんだ!よりによってこんな朝にやってくるなんて!?」
学校をサボって来たから少しは怒られるかと思ってたのに…。
ヒロシを待っていたのは、予想もしていなかった大歓迎だった。
「え?グッドタイミングって…?」
戸惑うヒロシにはおかまいなく、伯父さんはヒロシの手を掴んでズンズン家の中に引っ張っていく。
ヒロシは自分の連れて行かれようとしている先を直感的に悟った。
(……きっと研究室だ!)
伯父さんがもう何年も、有機生命体の合成に挑戦しているのをヒロシは知っていた。
(…なんだか判んないけど…なにかあったんだ!)

「原初の海で起こったことを再演してやるぞ!」

そう宣言した伯父さんは極々単純な構造のアミノ酸に、落雷に模して電気を流したり、放射線を当てたりしてもっとずっと複雑な物質を作り出そうとしていたのだ。
(ひょっとして……実験成功???)
連れて行かれた先は、想像したとおり実験室だった。
「さあシロシ殿!驚異の成果を、とくと御覧あれ!」
戸惑うヒロシの前に、伯父さんは実験室のドアを開け放った。
252A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/19(火) 08:45:08 ID:MIYV1Sfa0
「お…伯父さん…これっていったい…!?」
ヒロシの目が文字通り点になった。
目の前にあるものが信じられない。
そ、そんなバカな!?
伯父さんが有機生命体の合成に挑戦していたことは知っていたし、何かの成果を上げたらしいことも想像できた。
(…でも、こんなことって?)
「どうだシロシ!?びっくりしただろ??」伯父さんが上下の歯を全部見せて笑ったが、驚きのあまりにヒロシは答えを返すこともできない。
「昨日の夜、落雷があって…コンピューターがダメになっちまったんで実験を中止して寝ることにしたんだ。ところが、今朝目を覚ますとな……」
常識的に言って、有機生命体の合成に偶然成功したとしても、それは顕微鏡で見なければ見えないようなレベルのはずだ。
ところが、実験室のトレーの上にいるそれはなんとリスほどの大きさで……。
黄色地に焦げ茶の虎縞が走り、頭の右には星のような形の、左にはハートマークのような形の角か触覚らしきものがあり、目も鼻も口も一通り揃っていて、妙に人の良さそうな顔でヒロシを見上げているのだ。
「一応簡単に調べてみたんだがな、シロシ……」
いつの間にか、ヒロシの顔のすぐ横に伯父さんの顔があった。
「……一見、脊椎動物みたいだが、これには」と言って伯父さんはトレー上の生物を指差した。「……この生物には背骨が無い。」
「えっ!」
「…つまりは、既存のどんな生物とも関連性が無いのだ。」

ヒロシと伯父さんの不思議な一週間は、こうして始まったのだ。
253名無しより愛をこめて:2007/06/20(水) 17:19:31 ID:ovSADHEv0
ヒロシと伯父さんが、実験室で目を丸くしていたのと同じころ…。

「しね!『氏ね』じゃなく『死ね』」

シネ……セイメイカツドウヲテイシセヨ
人々の言葉が飛び交う中、「それ」はじっと耳を澄ましていた。

「回線で首吊って氏ね!」

……ツウシンカイセンデ、クビ……クビ…『1.カイコ』…『2.セイブツノケイブ』…………ケイブヲシバッテ、セイメイカツドウヲテイシセヨ
「てめえなんかにゃ生きる資格は無い!氏ね!」
「氏ね!!」
「氏んでしまえ!」
「…死ね!」
………
………

「………シネ」
小さく呟くと、それはまた静かに耳を澄ました。
周囲の人々の「願っていること」を知るために……。
254A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/20(水) 17:24:13 ID:ovSADHEv0
ヒロシは翌朝も学校には行かず、伯父さんの研究所へと直行した。
ランドセルを玄関先に投げ捨てたドサッという音が聞こえたのだろう、研究室の方から伯父さんの叫び声がすっ飛んできた。
「おいシロシ!こいつは……なんというか……とんでもない生物だぞ。」
「とんでもない生物??」ヒロシも実験室へと鉄砲玉のように飛んでいった。
あの生物はリスぐらいの大きさから、今朝は大きめのネコか小さめのイヌぐらいの大きさになっていた。
「大っきくなってる!……エサをあげたの??」
「…エサは…やった。」
「へえ!何を食べさせたの?」
伯父さんは黙ったまま、謎の生物が鎮座するトレーの横を指差した。
黒や透明の破片が二三個散らばっているが…。
「これを……食べさせたの?」ヒロシはその一つをつまみ上げた。
(……なんだろうこれ?この触った感じは……)
そう考えた一瞬後、ヒロシはその破片の正体に気がついた。
「これ……コンビニのお弁当の入れ物だ!」
「……そうさ、何か食うかも知れないと試しに弁当をやってみたんだがな、弁当にゃ見向きもしない代わりに入れ物の方を食っちまったんだ。
それだけじゃないぞ、弁当の入ってたビニール袋や使用済みの割り箸、それから私が嫌いなんで食べ残した漬物も食べちまった。なあシロシ……この意味わかるか??」
……お弁当の容器……使用済みの割り箸……そして食べ残しのお漬物……ビニール袋……
キーワードを辿っていると、以前伯父さんと交わしたやりとりが不意に蘇ってきた。

『ねえ伯父さん、命を作るなんて言ってバチがあたらない?』
『…ははは、たしかにバチがあたるかもしれないね。
でも、伯父ちゃんはな、いろんなゴミや、放射性廃棄物とかダイオキシンみたいな……人間が作ってしまった悪い物をなんでも食べてしまってくれる、そんな生物が作れたらなあって、そう思ってるんだ。』

ヒロシは叫んだ!
「わかったよ伯父さん!答えは『ゴミ』だ!」
255A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/20(水) 17:25:43 ID:ovSADHEv0
「ピンポーン…さすがはシロシ、正解だ!」伯父さんも満足そうにウンウンと頷いた。
「生野菜も肉も魚も果物も食べないのに、ゴミは食べる。インクの残ってるホールペンは食べないのに、インクの切れたボールペンはむしゃむしゃ食べる。」
目を丸くしてヒロシは叫んだ。
「ひょっとして……人間にとって要らないものだけ食べるとか?」
「そうとしか考えられない。」
「ゴミばっかり食べるんだ。」
「おそらくな……。」
「それじゃ…」ヒロシの瞳がどこか意地悪そうにキラッと光った。
「…こいつ、ウンコも食べる?」
「ウ、ウンコかぁ……!?」突然のスカトロ展開に伯父さんはちょっとだけだがたじろいだ。
「ウンコか………たぶん……いや、きっと食べるだろうな。」
「よっしそれじゃあ!」
ヒロシは相変わらず愛想の良さそうな顔で自分を見上げる「生物」に人差し指を突きつけて宣告した。
「オマエの名前はウンコタイガーだ!」
256ケロロ:2007/06/21(木) 10:46:44 ID:UrpGr0FU0
タイトルのウ○コは、ちょっと…だが

とにもかくにも支援、応援です。
257A級戦犯:2007/06/21(木) 12:34:18 ID:CuKDogOR0
>>少佐殿
言い訳させていただくと……
「ウンコタイガー」は…この板に以前そういうスレがありまして(笑)。
私はひねくれモンなんで人と逆さまにしたくなるんです。
だから「この汚い名前の怪獣(=ウンコタイガー)を最後には綺麗に書ぞ!!」と…。
対抗馬のゴスラも以前この板に「ゴスラ・スレ」がありました。
とってもかわいいヤツなんですよ、ゴスラってのは。
だから、ゴスラに悪役を振りました。
古臭いけど魅力的なフロイトの心理学をベースにして、苛め問題もチョットだけスパイスに使って……。

うまくいったらおなぐさみ……。






258ケロロ:2007/06/21(木) 14:03:04 ID:UrpGr0FU0
すみません、ちゃんとした理由があったんですね。

期待しています。
259A級戦犯/:2007/06/21(木) 17:05:25 ID:CuKDogOR0
それから……伯父さんとヒロシが昼までの僅か4時間ほどのあいだに目にしたことは、一から十までとても信じられない事ばかりだった。
まずウンコタイガーは、物を食べても質量が増えなかった。
1キロの物体を食べたら、質量も当然1キロ増えなければならないはずなのに。
ものを食べても全く質量が増えないというなら、それではウンコタイガーはまったく成長しないのかというとそうではない。
食べようとした物が大きすぎて口に入らないと、その大きさに合わせて体が大きくなるのだ。そして体の大きさの変化には数秒とかかからない。
だが最も驚くべきことは……。
体重を計測しようとして伯父さんがウンコタイガーを持ち上げた瞬間、事件は起こった!
ぴゅうううううううっ
「うおわあっ!?な、なんだ!?なんだ!?」
突然!伯父さんのハゲ頭を小雨のような液体が襲った!
「うわっとぉ!?汚ねえ!こいつオシッコしたよ!」
慌ててウンコタイガーをトレーに戻し、タオルで頭を拭こうとした伯父さんだったが……。
タオルを持った手が突然ピタリと止まった!
「ど、どうしたの伯父さん?」
「……な、なんだか頭がムズムズするんだが……。」
不思議そうに見上げるヒロシの目の前で、伯父さんのハゲ頭の色が突然黒くなったかと思うと、次の瞬間……まるでジャックと豆の木に出てくる「魔法の豆」のように、髪の毛がシュルシュル伸び始めた!
「うおおおおおおおおおおっ!?いったい何が起こったんじゃあ!???」
「お、伯父さん!!髪の毛!?髪の毛!?」
1分後には、ハゲあたまの伯父さんは、かまやつひろしみたいになってしまっていた。

260A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/21(木) 17:06:16 ID:CuKDogOR0
伯父さんはすっかり諦めていた発毛に狂喜していたので……、それからヒロシは特撮まがいの光景にびっくり仰天していたので……、傍らの卓上テレビが正午のニュースで奇妙な事件を伝えていることに全く気がつかなかった。
全国各地で、4人の人間がパソコンの前で首を括って死んだというのだ。
それも、マウスやキーボードのコードを首に巻き付けて……。
奇妙なニュースにじっと耳を澄ますのは、ただウンコタイガーだけだった。

そしてその日の夜……ヒロシが夢の中でまでウンコタイガーと戯れていたころ…。
261A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/21(木) 17:13:10 ID:CuKDogOR0
とあるアパートの一室で……
「……ざまあみやがれ!」
若い男が小さく呟いてパソコンのリターンキーを叩いた。
捨て台詞が通信回線の向こう側にいる相手まで伝わるはずもないのだが、それでも男は言わずにはいられなかった。
ディスプレイに表示された文字列に向かって軽く顎をつきだすと、もう一度男は呟いた。
「……ざまみろ。」
完膚なきまでに完璧に論破してやったという自信があったので、相手が悔しがっている様子を想像してみようとしたが、想像力が乏しいせいかあまり上手くいかなかった。
そのとき、ディスプレイの表示画面が切り替わり、つい今しがた書き込んだばかりの彼のレスが表示された。
「…ん!?」
……てっきり自分のレスが最新だと思っていたのに、表示されてみると下から二番目だ。
一番下に書き込まれていた最新のレスは……。
彼が以前書き込んだレス番にアンカーがつけられていて、短く簡潔に「氏ね」と続けてある。
「…こ、このクソ野郎!」
瞬間、頭に血が上った彼は発作的にキーを打ち込んだ。
「テメエこそ死んじまえ」
そしてリターンキー。
……画面が再び切り替わり……
だが、そこに表示されたのは見慣れたいつもの「書き込みが終わりました」の画面ではなかった。
アルファベットが、小文字ばかりでうかびあがる……。
最初バラバラだった文字列は明滅しながら位置を変え……そしてある文字列を形作った。
(なんだこの文字の羅列は?……英語か??)

omaetachinonegaikanaeteageru

「………いやローマ字か……なに?…お…ま…え…たちのねがい……」
男がそこまで読んだときだった。
何かが画面の奥から風のように飛び出してきたかと思うと、彼の両肩に鉤爪のある手をかけた。
262A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/22(金) 17:22:03 ID:6Wy77+2B0
『昨夜の一時ごろ、『隣の部屋から悲鳴が聞こえた』との通報を受け警察官がかけつけたところ、部屋の住人××××さんが首にパソコンのマウスのコードをグルグル巻きにして死んでいるのを発見しました……。』

……早朝のニュース番組が未明に起こった怪事件を伝えていた。
「あらやだ……二晩も続けてこんな変な事件が……ヒロシちゃんも……」
「いってきまーす!!」
母の言葉も半分に、ヒロシは元気よく家を飛び出した。
目指すは伯父さんの研究所。
彼が名づけたウンコタイガー。
迷路のようないつもの道を抜けているあいだも、ウンコタイガーがどんな不思議を見せてくれるのか?……その期待で胸はいっぱいだった。
だから…研究所近くの道路に見慣れない車が止まっていても気がつかない。
研究所入り口の靴脱ぎに、伯父さんの履かない黒い革靴が揃えて脱いであるのにさえも、ヒロシは気がつかなかった。
昨日のようにカバンを玄関先に放り捨てると、廊下を駆け抜けて研究室のドアを引き空けた。
「伯父さん!ウンコ……!?」
研究室にいるのは伯父さんだけではなかった。
伯父さんともう一人、くたびれたグレイの背広を着た中年男性が一人。
ぱっと見は学校の先生みたいだが、目線の配り方がヒロシの知っている先生たちとは明らかに違っている。
(ま、まさかウンコタイガーを!?)
263A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/22(金) 17:30:20 ID:6Wy77+2B0
「おう来たかシロシ。」
伯父さんの声色も、いつもとはどこか違っているが……その理由はすぐに判った。
「……この方は警視庁の岸田警部。おとといと昨日の夜に起こった事件のことで来られたんだ。」
(け、警察!?)
学校をサボっているという後ろめたさがヒロシの体を硬くさせる。
だが、そんなヒロシに岸田警部はニヤリと笑いかけ言った。
「……学校をさぼったからって、キミを逮捕したりはしないよ。」
「べ、べ、べつに、さぼってるわけじゃ…」
「でもさっきのドサッていう音は…教科書の入ってるカバンを放り投げた音だろ?それに今日は祝日でもないしね。」
「………」
思わず黙りこむ甥に、助け舟を出すように伯父さんは言った。
「シロシ、岸田さんの目の前で、隠しごとなんて不可能だよ。まるでシャーロックホームズみたいなシトなんだから。」
「…ごめんなさい。僕、学校さぼりました。」
覚悟を決め、ヒロシが正直に白状すると、岸田はニッコリ微笑んだ。
「うん、正直がなによりだぞ。ボウズ。ウソは一人ぼっちが嫌いでな、仲間を予防と思ってすぐに他のウソを呼ぶんだ。」
「じゃあ、伯父さんは警部と話があるから、ヒロシは書斎の方で待っていてくれないか。」
「はい」素直にペコっと頭を下げ、ヒロシは研究室を後にした。

子供の耳に入れるような話ではないという配慮から、伯父さんはヒロシを遠ざけたのだったが……。
事件の方からヒロシを追ってこようとは、伯父さんも、岸田警部でさえも、想像もできないことだった。
264名無しより愛をこめて:2007/06/22(金) 17:37:36 ID:6Wy77+2B0
自宅にパソコンが無いので……「ゴスラ対ウンコタイガー」、土日はお休みです。
良い週末を……。
265名無しより愛をこめて:2007/06/24(日) 01:10:51 ID:9ahlDJoz0
q
266名無しより愛をこめて:2007/06/24(日) 23:28:47 ID:9gU/bS750
保守

ダイハード!!何回見ても脳天気でよく出来てる。

勉強になるよね!!
267名無しより愛をこめて:2007/06/25(月) 00:46:17 ID:IylT4Mhj0
ナカトミビルを右往左往するでウィリス
268ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/25(月) 17:15:19 ID:gasTyi130
「で……昨夜の事件だと……。」
ヒロシの背中で研究室のドアが閉まる寸前、部屋の中から岸田警部がそう言うのが聞こえた。
(……昨夜の事件ってなんだろ?!)
ほんとは立ち聞きしたかったが、でも岸田警部が怖かったので、言われたとおりヒロシは書斎で待っていることにした。
玄関横の階段で二回に上がると、南側の部屋が伯父さんの書斎だった。
書斎といっても堅苦しさは微塵も無い。
難しい学術書の横にブリキのオモチャが並び、リッパなトロフィーの中ではソフビ人形が入浴でもするような姿勢で突っ込んである。
伯父さんの人となりを体現したような場所が、「書斎」と呼ばれる部屋だった。
何の気なしにヒロシがデスクの椅子に腰を下ろしてみると、…ブリブリブリッ!という予想通りの音がした。
やれやれという顔で座布団の下からブーブークッションを引っ張り出すと、デスクに置かれたパソコンのスイッチに手を伸ばす…。
…キーワードは知っている。
「HG」だ。
といっても「ハードゲイ」ではない。
ドイツ風に「ハーゲー(=禿げ)」と読むのである。
プンッ……ウィーン………微かな作動音とともに伯父さんのパソコンが立ち上がった。

269ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/25(月) 17:17:07 ID:gasTyi130
……2階にあがってからどれくらい待っただろう?
ソリティアの画面から目を引き離して書棚の時計を見上げると、かれこれ数分しか時間は経っていなかった。
階下の研究室には何の動きもない。
「まだ終わんないのかな?」
ため息混じりに呟くと、ヒロシは、某悪名高き巨大掲示板を覗いてみることにした。
いままでも、この掲示板を覗いたことは何度があった。
だが書き込んだことは無い。
小学生のヒロシにはちょっと敷居が高い感じがしたし、感情的な罵り合いや、悪意を剥き出しにした書き込みを目にするのが嫌だったからだ。
それでもこの掲示板を覗いてみる気になった理由はというと…。
「……昨夜の事件って、いったい何なんだろ?」
ヒロシは「ニュース速報」という掲示板をクリックしてみた。
目指す情報は……探すまでもなかった。
渋谷の爆弾温泉やインチキビーフのスレッドを押しのけ、トップに居座っていたのだ。

「[今夜も…]2ちゃんねらー大量虐殺事件[血の雨?]

(きっとこれだ!)
ヒロシは迷わずスレッドをクリックした。
悪魔の巣くうスレッドとも知らずに……。
270ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/25(月) 17:18:31 ID:gasTyi130
一通りの状況説明のあと、岸田警部の話はいよいよ奇怪な領域に踏み込み始めていた。
「……完全な密室状態であったこと以外にも、一昨夜、回線で首を括った絞殺された4人には、あるいくつか奇妙な共通点があるんです。」
「それはもちろん『絞殺』以外の共通点ということですな?」
岸田警部とひろしの伯父さんの間では、「自殺」ではなく「絞殺」というのは自明のことだった。
無言で頷き岸田警部はつづけた。
「…共通点の一つめは………遺体の前でパソコンがつけっ放しになっていいたこと。そして4つの事件とも、表示されていたのは、悪名高き『2ちゃんねる』の『ニュース速報』掲示板でした。」
「それは……偶然にしては奇妙ですね。でもそれだけでは……」
ヒロシの伯父さんの言葉を遮るように、岸田警部は言葉を続けた。
「次に…4人の被害者のうち2人は肩に、1人は首に、最後の1人は右腕に切り裂いたような傷跡が残されていたんです。検死官殿に言わせると、……爪痕なんだそうで。それもクマかトラみたいな大型獣の……。」
271ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/25(月) 17:19:17 ID:gasTyi130
「それがあんたの言うように爪痕だったんなら、腕はどこから伸びていました?」
大型獣の爪痕と聞いて、ヒロシの伯父さんの目線が鋭くなった。子供のころ読んだ「モルグ街の殺人」の記憶が蘇ったのだ。
「傷の方向を観察すれば……犯人と被害者の位置関係がわかるはず!」
「所轄の連中もばかじゃない。傷痕の方向はもちろん調べましたよ。……鉤爪のある手は、被害者の真正面から伸びていました。しかし、ここで所轄の連中の捜査は暗礁に乗り上げたんです。」
「……ん?だが待てよ……まさかそんな?」
ひろしの伯父の顔に戸惑いの表情が浮かび、同時に岸田警部の口の端に、皮肉の笑みが微かに走った。
「気づかれましたね?…殺害されるとき被害者は全員パソコンに向かって座っていました。そしてパソコンは壁に背中を付けるように設置されていんです。」
ヒロシの伯父さんがぐうっと唸って天井を見上げる。
岸田警部はかまわず言葉を続けた。
「いいですか?!壁を抜けるか、パソコンの中から手を伸ばしでもしない限り、被害者にそういう傷痕を残すのは不可能なんです!」
ヒロシの伯父さんの視線がゆっくり水平に戻り……そして岸田警部のそれとぶつかった。
「ならば警部、あなたの言うとおりだとすると……」
だが、その瞬間!
2階から悲鳴が降って来た!!
272A級戦犯:2007/06/26(火) 08:12:32 ID:d6xV5nDx0
相変わらず校正ミスが多いな(苦笑)。
270の二行目後半の
「回線で首を括った絞殺された4人には」は「回線で首を括った4人には」が正解。

と、いうわけで、まもなく「AA怪獣ゴスラ出現」「ゴスラ撃滅作戦」「決戦!ゴスラ対ウンコタイガー」と進行予定。
これが終わってもX話氏が戻られなければ、他人原作による「人形の家」「古の守人」を連続投下の予定。
……これで9月ぐらいまではスレッドを保守できるだろう。

273名無しより愛をこめて:2007/06/26(火) 11:09:35 ID:jxS3K1110
期待、応援いたします!!
274A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/26(火) 17:27:31 ID:d6xV5nDx0
ヒマ潰しのつもりもあったので、ヒロシはレスの流れを1番から追ってみることにした。
1番の書き込み時刻は、7時間少し前だった。
でも、レス番は早くも900番代に迫っている。
(……………これってひょっとして……)
……ヒロシの感じた嫌な予感は的中していた。
スレッドへの書き込みは半分以上か誹謗中傷や当てこすり、無意味な罵詈雑言、住人の悪意で塗りつぶされていた。
275A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/26(火) 17:29:20 ID:d6xV5nDx0
ヒロシは気がつかなかったが、彼が覗いたスレッドはいわゆる「隔離スレ」だった。
本スレでは多少なりともまともなやり取りがなされていたのだが…。
『本当に回線で首吊ったヤツが出たらしいぞ!』という噂が流れたころは、まだお笑いネタに過ぎなかった。
だが、『捜査関係者』を自称する人物が『4人は全員2ちゃんねるを覗いている最中に首を吊った』と暴露したあたりでスレの雰囲気が変わり始める。
暴露は一昨夜の事件に留まらなかった。
昨夜の事件についても報道と先後を争うように『近所のねらー』なる人物による第一報。
そしてそれに続いて、雨後の竹の子のように三桁にも及ぶ『近所の事件』の報告が次々書き込まれた。
もちろん、未明の時刻で情報のウラを取りようのないのにつけこんだ、無責任な書き込みも多かった。
そうしたうちの一件が一方的にガセネタと決めつけられたのをきっかけに『氏ね』『氏ねじゃなく死ね』といったか書き込みが一気に数を増す。
『隔離スレ』が立ち上げられたのが、一時間と30分少し前の午前7時。
悪意に満ちた応酬はスレッドを一気に900番台にまで伸長させる。
だが……悪意に満ちた書き込みは、何故かヒロシが覗く数分前から墜落的なカーブを描いて激減していた。
276A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/26(火) 17:30:09 ID:d6xV5nDx0
100レスも読み進まないうちに、無言のままでヒロシはため息をついた。
有益と言えそうな情報もないことはなかったが、それ以上に無益な、いや有害な情報の方が多かった。
(この人たちは、なにが楽しくてこんなことをやってるんだろう?)
ヒロシにはさっぱりわけがわからない。
読み続けるのが苦痛になってきたので、マウスを操作する右手の動きも次第に惰性的になってゆく。
流れる画面の中、文字は意味を失い、文章は色褪せて、見るべきものを見失ったヒロシの目線は流れる画面の上を漂って………。
(…あれっ?!)
不意に、マウスを操作するヒロシの手が止まった。
悪意に満ち満ちたスレには不似合いな姿が目に入ったからだ。

    ∧
  <・∀・ >  ニャー
  ヽ(三 )/
   (三  )
   ( ) ( )ヽ   丿
   wヽ__w___二二ノ

それは以前「特撮板」で見かけたことのある怪獣だった。
277A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/27(水) 17:24:36 ID:9T6YxnUO0
(…誰がこんなの描いたわけ?)
スレッドの末尾に描きこまれていたのは、殺伐とした雰囲気にはあまりに不似合いな一匹の愛らしい怪獣だった。
(そうだ…こいつの名前は確か…)
ヒロシはディスプレイに向かってその答えを思わず呟いた。
「…ゴスラ」

     ∧
   <・∀・>  ニャー
  ヽ(三 )/
   (三  )
   ( ) ( )ヽ   丿
   wヽ__w___二二ノ

「あれ?いまゴスラこっち見た?」

     ∧
   <・∀・>  ニャー
  ヽ (三 )/
   (三  )
   (  )(  )ヽ   
    wヽ_W___二
278A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/27(水) 17:26:02 ID:9T6YxnUO0
「め、目の錯覚かな!?なんかゴスラがこっちに来るような…。」
     ∧
   <・∀・>  ニャー
  ヽ ( 三 )/
   ( 三 )
   (  )(  )ヽ   
    W ヽ_w

そのとき苛められっ子の本能が心の中で叫んだ!
(逃げろ!!)
ティスプレイの中から何かが飛び出しすよりわずかに早く、ヒロシはとっさに前のデスクを突き飛ばした!
椅子の脚についた車輪が軋み音を上げ、背中から床に落ちるヒロシ!
そのとき少年は見た!
後ろざまに落ちるとき、つい一瞬前まで自分の頭があった空間を黒い鎌のようなものが薙ぎ払うのを!
ひとりでに口から悲鳴が飛び出した!
「うわわわあああああああああああああっ!!」

279名無しより愛をこめて:2007/06/27(水) 17:29:26 ID:9T6YxnUO0
ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」とかジェイムズの「銅版画」とか…いわゆる絵画怪談の現代版として、
アスキーアートと文章の組み合わせというのは一度試してみたかったのだが…。
私にゃそういう才能は無いのがよーくわかった(苦笑)。
280A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/28(木) 08:47:01 ID:+t+7jRMF0
ヒロシの悲鳴にわずかに遅れて何かを叩きつけるようなバンッ!!という音が響き、バタバタいう音が伝わってきた!
悲鳴を耳にした岸田警部と伯父さんが二階に駆け上がってくる!
でも、ヒロシの耳は今この瞬間、どんな音も認識できていなかった。
少年の神経は、自分が逃げ出してきたばかりのデスクの向こう側から僅かに見えている「ある物体」に集中していたのだ。
それは……先細りになった「黒いムチ」状のものだった。
(ち、違う!ムチなんかじゃない!あれはトカゲの……)
そんな考えがヒロシの脳裏を過ぎった瞬間!
「トカゲの尻尾」がひゅっと引っ込んだかと思うと、入れ替わりに異様な姿が、異様ではあるけれども、ヒロシの予想していた姿がデスクの後ろから飛び出してきた!
「…やっぱり…ゴスラ…」
……鏡餅のような結節のある体。
『触覚の無いギララ』のような頭。
手のひらには鎌のような鉤爪がならび、そのどれもが赤黒い液体でヌラヌラと光っている。
ヒロシは知った。
連続殺人の犯人の正体を!そして、自分がその最新の犠牲者になろうとしているということを!
にゃぁーーーーー
三角形の口で一声可愛く鳴くと、ヒロシに向かってゴスラがジャンプした!
281A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/28(木) 17:22:38 ID:+t+7jRMF0
短い手足からは想像できない跳躍力でゴスラがジャンプ!
鉤爪のある両手を振り上げ、恐怖に身動きできないヒロシに振り下ろす!
「う、うわっ!?」思わず目を閉じるヒロシ!
そして何かがぶつかって床に落ちたようなドサッという音!
…でもヒロシは無事だ。
恐る恐る目を開けてみるとそこには……
「…ウンコタイガー!」
ヒロシに背中を向け、ゴスラの前に立ちはだかっているのはウンコタイガーだ!
昨日に比べれば体も柴犬くらいの大きさに成長していたが、成人男性ほどの大きさのゴスラと比べれば、その差はあまりに大きい。
それでもウンコタイガーは異形の殺戮者を、体を張って食い止めている!
ずんっ!
威嚇するようにゴスラが一歩踏み出すが、ウンコタイガーは退がらない!
いや、それどころか、頭部右側の星型の触覚と左側のハート型の触覚から青白い光が弾け飛んでゴスラに炸裂した。
「にゃあああああっ!」
予想外の反撃に、一声叫んで飛び退がるゴスラ!
だがすぐさま体を捻るように旋回させたかと思うと、ムチのような尾が唸りを上げた!
バチン!という大きな音とともにウンコタイガーの姿が一瞬でヒロシの前から消えた。
(ウンコタイガーが殺られた!?)
次はオマエだ!というように、ゴスラがヒロシの方に向き直った。
もう守ってくれるものは何も……無い?!

ゴスラが鉤爪を振り上げた!
282A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/06/28(木) 17:24:51 ID:+t+7jRMF0
鉤爪を振り上げたゴスラが一歩、二歩と進み出たその瞬間!
ばーーーーーーん!
蝶番が千切れるかという勢いで書斎のドアが開け放たれた!
ヒロシが振り返ると、戸口で岸田警部が仁王立ちになっている!
この岸田という男、異形の怪物を目の前にして「あれはなんだ!?」とか「動くな!」などと言うことで貴重な時間を空費するようなサラリーマン警官ではなかった。
「小僧!頭を下げろ!!」
怒鳴ると同時に上着の下からクーリングホールの開いたゴツい短銃身の回転拳銃を引きずり出すと、寸刻をおかずに引き金を引ききった!
バゴン!衝撃でゴスラが後退する!
相手の体勢の崩れに乗じ、岸田は立て続けに引き金を引いた!
バゴン!バゴン!バゴン!バコン!!
ついにごすらはもと来たデスクのところまで押し戻された。
しかし、衝撃に押されこそすれ、弾丸はゴスラの皮膚で完全に跳ね返されている!
顎をぎゅっと噛み締めたまま、岸田警部が呻くように言った。
「畜生!このバケモノめ!!」
何事も無かったかのように、ゴスラはヒロシに向かって歩きだした!
ゴスラの足を止めようにも、岸田の銃にはもう一発しか弾は残っていない!
そのとき、岸田の肩越しにヒロシの伯父さんが叫んだ!

「ディスプレイだ警部!デスクのうえのディスプレイを撃つんだ!」

もうあと一歩でゴスラの鉤爪がヒロシに届こうという瞬間、岸田警部は最後の一発を発射した!
「にゃぁぁぁぁっ!」
ボムッという鈍い音をたてディスプレイが吹き飛ぶのと同時に、ゴスラの姿はふっとかき消えてしまった。
ただ、ネコのような鳴き声だけを残して………。
283名無しより愛をこめて:2007/06/29(金) 17:27:57 ID:LqvZVsWU0
忙しすぎて続きが作れんかった…。
次週は…
前半が
ネット上を瞬間的に移動するゴスラをいかにして追い詰めるか!?
「ゴスラ撃滅作戦」
後半で
人の中の生と死を背負ってゴスラとウンコタイガーが対決!
「対決!ゴスラ対ウンコタイガー」
そしてエンディング
「ひとつだけ残されたもの」
うまくいったら、来週で完結。
284名無しより愛をこめて:2007/07/01(日) 04:48:37 ID:wajmPd050
285名無しより愛をこめて:2007/07/02(月) 11:02:11 ID:BcbytnWw0
応援!!
286名無しより愛をこめて:2007/07/02(月) 13:15:58 ID:tmXOAPy+0
気がつくと、ヒロシは伯父さんのベッドに寝かされていた。
パソコンのディスプレイが吹っ飛び、化け猫のような叫びを上げてゴスラが消えた瞬間、ヒロシは気を失ってしまったのだ。
「気がついたか?シロシ?」
レゲエのおじさんみたいなのがヌッと顔を出して来て思わずビビったが、よく見ればそれは伯父さんだった。
(…ウンコタイガーのオシッコで髪の毛が生えたんだったったけ。)
そしてヒロシは毛布を跳ね除け飛び起きた!
「伯父さん!ウンコタイガーは!?ウンコタイガーはどこ?!」
「それが…どこにも姿が見えないんだよ。」
困り顔で伯父さんは首を横に振った。
「昨日の夜、寝るときにはそこの防護ロッカーに入れておいたんだが……これを見てごらん。」
どこか金槌を連想させる頑丈そうなロック機構が、水飴のように歪んでしまっていた!
ヒロシは思い出した。
ゴスラの鉤爪にかかる寸前、どこからかウンコタイガーが飛び出して自分を助けてくれたことを。

「……そうか、そんなことがあったのか。」
「うん、ウンコタイガーが僕を守ってくれたんだ。僕、『ウンコタイガー』なんてカッコ悪い名前つけたのに、それなのに僕の身代わりになってウンコタイガーは…ウンコタイガーは……」
そこまで言うと、ヒロシはうわっと泣き出してしまった。
「シロシ…」
涙にくれる甥の肩にそっと手をかけると、まるで預言者のような口調で伯父さんは言った。
「いや、ウンコタイガーは死んでなんかいないよ。伯父さんの想像どおりなら……ね。」
287A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/03(火) 13:19:50 ID:KDLSB5+i0
「あのゴスラがか!?」
「知ってるのか、さすがはオタクだ。」
「……アンタに言われても褒められてるような気がしないな。」
「そりゃ当然だ。別に褒めてるわけじゃないからな。」
ヒロシが伯父さんの家で意識を取り戻したころ、岸田警部は都内のマンションの一室である男と顔を突き合わせていた。
男は、別の事件の捜査中に知り合ったコンピューターオタクで、表向きは無職のぷー太郎ということになっているが、室内に並ぶ様々な機材がそんなことはウソっぱちだと暴露していた。
「で……警部、オレに何をやらせたいわけ?まさか世間話しにきたわけじゃないでしょ?」
「ストレートに頼もう。悪名高いあの掲示板に攻撃を仕掛けて欲しい。」
「…へえ…鼻先に皮肉な笑みを浮かべ、男は応じた。
「あんた仮にも警官でしょ?それって違法行為なんだけどなぁ。」
「一昨夜は4人。昨夜は…オレの耳に入ってるだけで11人が犠牲になった。」
それを聞いたとたん、男の顔から笑みが引っ込んだ。
「……2日で15人か。テッド・バンディも裸足で逃げるぜ。」
「一昨夜の11人はオレが知っている数だ。たぶんもっといるだろう。」
「そんなら今夜は…一気に三桁までいくな。……それを防ぐため、掲示板にアクセスできなくして欲しいってわけだ?でもそれだけじゃどうにもなんないだろ?」
「わかっているさ。だから今夜一気にかたをつける。」
「そっちの手はずも整ってるってワケか。……オッケー!判った!今夜一晩、あの掲示板を麻痺させてやる。」
288名無しより愛をこめて:2007/07/03(火) 13:25:11 ID:KDLSB5+i0
またも校正ミス発見!
11行目の
「…へえ…鼻先に皮肉な笑みを浮かべ、男は応じた。
…は、
「…へえ…」鼻先に皮肉な笑みを浮かべ、男は応じた。
が正解…。
やれやれ。
289A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/03(火) 17:07:30 ID:KDLSB5+i0
知り合いのハッカーの家を出た岸田警部は、その足で世田谷のとある洋館の門をくぐった。ヒロシの伯父さんが教えてくれたのだ。対ゴスラ戦で武器となり得るものがそこにあると。

「ゴスラは…おそらく自分の体を自由に電気に変えることができるのでしょう。」
「電送人間みたいなものか?」
「いや、電送人間の場合、電送装置の端末間しか移動できません。しかしゴスラは違います。パソコンが繋がっていさえすれば神出鬼没です。」
「それなら、ネットに飛び込む前にヤツを捕まえなければ……」
「いや岸田警部……おそらくそれも不可能です。」
「それはいったいどういうことだ!?」
「さっきゴスラのことを、『自分の体を自由に電気に変えることができる』と言いましたが……厳密には正しい表現ではありません。」
「では…正しく言い換えると?」
「正しく表現するならば、『自分の体を自由に実体化できる怪物』とすべきでしょう。」
「自由に実体化?!それではつまり……」
「ゴスラは、どこにでもいて、どこにもいない。ヤツは常時コンピューターネットワークの中にいるんです。」

「ゴスラの形を攻撃しても無駄。」
岸田警部はヒロシの伯父さんの言葉を頭の中で無意識に反芻していた。
「ゴスラという形を構成している何かを破壊しない限り、おそらくヤツは不死身です。」
(そんな怪物に有効な武器がここにはあるというのか?)
傍らにそそり立つ門柱を見上げ、警部は呟いた。
門柱には、半ば風化しかかったような書体で、その施設の名前が刻みこまれていた。
「一の谷研究所」と……。
290ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/04(水) 17:25:44 ID:GInulLMk0
「……やれやれ、ギリギリ間に合ったか。」
ビルの向こうに沈みゆく夕日を眺めて岸田警部が言うと、声がコンクリートの廃墟に木霊した。
一の谷研究所から「武器」を借り受けると、電話で職場の相棒を呼び出し車を出させ、途中でヒロシの伯父さんと合流。
建築途中の資金切れで放棄された廃ビルに忍び込むと午後いっぱいをトラップの設営に費やし、つい今しがた総ての作業が終了したところだった。
「……あと五分でスタートだ。」
「でも本当に、そのゴスラとかいうバケモノは出てくるんですか?なんにも出てこなかったら…言い訳できませんよ?」
ネクタイも外したワイシャツ姿の若い刑事が言った。
「それにこういう仕事をなんで警部や僕が…」
「それは最初に説明しただろ!?」
警部は相棒の言葉を苛立たしげに遮った。
「政府や防衛組織を動かすにはそれなりの手順を踏まなきゃならん。当然日数もかかる。
そんなことに時間を空費してるうちにあのバケモノが…」
「わかってますよ。今晩どれだけの犠牲者が出るか見当もつかない。おまけにネット経由で国外に逃げられたらもう収拾がつかなくなるっていうんでしょ?」
「なら聞くな!」
腕時計に目を落としたままの姿勢で短く叫ぶと、警部はトラップの入り口となる私物のノート型パソコンを立ち上げると例の掲示板を呼び出した。
「…戦闘開始かな?」
警部が聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、ペンキの剥げたスチールのドアが開いて、ヒロシの伯父さんが入ってくるところだった。
「あ、あんた、まだ残っていたのか!?」
「とっくのとうに尻に帆かけて逃げだしたとでも思ってましたか?」
「わかってるのか!?ここは間もなく戦場になるんだぞ!」
「もちろんわかってますよ。わかっているから、残ったんです。」
そしてなおも何か言おうとする岸田警部に向かって、ヒロシの伯父さんはパソコンの画面を指差すと言った。
「逃げるなら、もう手遅れですよ。ほら……」
カチカチッとクリックする音に続いて、パソコンの画面に極々簡潔な文字が表示された。

『もうずうっと人大杉』

291A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/05(木) 17:28:17 ID:/mxdAZtX0
「掲示板への攻撃が始まった。」
岸田警部は左脇の下に吊るしたホルスターから回転拳銃を引き出した。
「……警部、ヤツにそんなもの効きやしませんよ。」
「いや、そうでもないな。着弾の衝撃力で相手の突進を止めるなんてのは、コイツじゃなきゃできん。」
警部が装弾を確認し弾倉をフレームに戻すと、若い刑事の方もグリップから箱型弾倉を抜き装弾数を確認した。
「いまから一時間のあいだ、このパソコン一台を除き、誰もあの掲示板にはアクセスできなくなっている。つまり、ゴスラにとって現実世界への出入り口になるのは…」
警部は床のパソコンを顎で示して言葉を続けた。
「……あのパソコンだけってことだ。」
ゴスラ出現と同時に遠隔操作で通信回線を爆破切断。
怪物の退路を断って、そのあとは……。
警部は、今度は片膝づきの姿勢になると足元に置いてあったジェラルミン製ケースのロックダイヤルに手をかけた。カチッ……カチカチカチッ…短い連続的な作動音の後、ケースはちょうどサイコロの展開図のようにバラバラ四方に開き、中に収納されていた物体を露にした。
ヒロシの伯父さんが呟いた。
「陽電子ビーム発射装置。エクスカリバーU」
292A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/05(木) 17:29:19 ID:/mxdAZtX0
「本当にこんなものが武器になるんですか?」と若い刑事は呆れたように言った。
ケース内部に厳重に保管されていた物体は、ヘチマに二つのグリップを取り付け、銀のプラカラーを乱雑に筆塗りしたような……「まるで9月を目前に大急ぎででっちあげた夏休みの自由工作」のようなシロモノだった。
「本当にこんなものが…」
「ゴスラの実体は電流とか電磁波みたいなものと思われます。」武器に対する疑念を隠そうとしない若い刑事に、ヒロシの伯父さんは言った。
「……だから拳銃で撃たれてもビクともしないし、通信回線内を自由に動き回れる。
しかしこのエクスカリバーUなら、ゴスラを電気的に殺すことができるはずです。」
「はず…ですか?」
若い刑事はまだ何か言いたそうだった。だが、それを制止するかのように岸田警部が素早く口を挟んだ。
「…『はず』…じゃあ不足か?だがな凍条、こんどみたいな相手に、なにか確実なことを言えるヤツなんていると思うか?」
相手の沈黙を「納得」の印と受け取った岸田は、エクスカリバーUを抱え上げた。
「それじゃあ凍条!持ち場につけ!先生はオれから離れないで……」
だが、そのときだった!
「きゃああああああああああああっ!!」
彼等の陣取るビルの外から、すさまじい悲鳴が、そしてそれに被るように「うにゃあああああああっ」という叫びが聞こえてきた!

293A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/05(木) 17:29:59 ID:/mxdAZtX0
「この声はゴスラ!でもなぜ!?」
「どういうことだ!なぜここに現れん!?」
ヒロシの伯父さんと岸田警部は先を争うように階段を駆け下りた。
階段を駆け下りるあいだも、ビルの外から複数の悲鳴が聞こえてくる!
(大量殺人!?)
不吉な言葉を脳裏から蹴り出しつつ、転げるように岸田は戸外に飛び出した!
悲鳴が聞こえてくる幅10メートルほどの川を隔てた向こう側へと、機関車のように警部は突進した。
短い橋を渡って、左に折れて右に折れ…目指す相手はそこにいた。
「ゴ、ゴスラ!…しかしこれは!」
ヒロシの伯父さんの書斎で見たとき、ゴスラの身長はせいぜい1メートル70ちょっとだった。
だが今は……見覚えのある三角のヒレのある頭は街灯ほどの高さにある!
背中はまるで巨大な滑り台のようだ!
そしてごすらが陣取る道路沿いには、点々と人が…。
ゴトン…と鈍い音をたてて、何かがアスファルトのうえに落ちた。
ゴスラの最新の被害者だ。
そのとき、警部の後ろで泣くような声で誰かが言った。

「おお…やはりそうなのか、必要に応じていくらでも巨大に…」

振り返ると……それはヒロシの伯父さんだった。

294A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/06(金) 17:28:08 ID:Fh0JbM7I0
「なんでゴスラはオレたちの待ち構えてるあのビルじゃなく、こんなところに出やがったんだ!?それにここにはパソコンなんて無いぞ!」
「警部!あれを見てくれ!」
ヒロシの伯父さんは道路沿いに張り巡らされた電線を指差した。
どころで絶縁被覆が煙を上げ、ゴスラのいるあたりでは炎を上げて焼き切れてしまっている。
「巨大化したゴスラの容量に回線が耐えられなかったにちがいない!」
「それでこんなところに!」
そのとき、けたたましいサイレンを先触れに、赤い回転灯の輝きが向こう側の角を曲がって現れると、ゴスラに向かって走ってきた。
「警部!パトカーだ!」「まずい!あいつらゴスラに気づいてないぞ!」
パトカーはゴスラから数メートルのところで急停止すると、左右のドアが開いて警官が降りてきた。だが二人は腰の拳銃を抜くことすら思いつかない様子で、聳え立つゴスラを呆然と見上げている。
「……にゃあぁぁ……」
短く鳴いてゴスラはサーベルのような爪の並んだ右手を振り上げた。
しかし、警官二人は動かないのか動けないのか、ゴスラを見上げるままだ!
「このバカヤロー!さっさと動けぇっ!」雄たけび!続いてバコン!という轟音!
金縛りが解けたようにあたふたパトカーに乗り込む警官二人は完全に無視して、ゆらりとゴスラが振り返った。
身を隠すもの一つ無い道路のど真ん中に、両手でリボルバーを構えた岸田警部が突っ立っている!
「さあ、博士(=ヒロシの伯父さん)!オレが注意を引き付けているあいだに、エクスカリバーUでゴスラを!!」
だが、ヒロシの伯父さんの答えは、タフをもってなる岸田警部をも一撃で絶望の淵に叩き込むものだった。
「エクスカリバーU?………ワシ、持ってないけど?」

「え゛っ!?」
295名無しより愛をこめて:2007/07/06(金) 17:32:01 ID:Fh0JbM7I0
…やっぱり終われんかった。

と、いうわけで、来週の予告。
岸田警部は走る走る走る!
ゴスラを後ろに従えて!
警部は、無事に廃ビルまで逃げ戻り、エクスカリバーUでゴスラを仕留められるのか!?
がんばれ我等の岸田警部!

なお、「ゴスラ対ウンコタイガー」は例によって土日はお休みです。
296名無しより愛をこめて:2007/07/07(土) 10:26:49 ID:3GYiEt3E0
頑張れ!応援します。
297名無しより愛をこめて:2007/07/09(月) 03:44:24 ID:DN5A8VHx0
298Ag(4:2007/07/09(月) 17:13:46 ID:qy8aYZ3C0
「にゃおぉぉぉん」ゴスラが一声鳴くと同時に、岸田警部は可憐にターンを決めた!
(……まずった!ビルにおいてきちまったぞ!)
「け、けいぶ」
何か言いかけたヒロシの伯父さんをグリーンベルトの影に突き倒し「あんたはそこに隠れてろ!」と短く叫ぶと、岸田警部は人間機関車ザトペックも顔負けの勢いで駆け出した。
川沿いに数メートル走り、さあ端を渡ろうかというところでゴスラの巨体がカンガルーのように路地から飛び出したのが視界の隅に捕らえられた。
(…さあ来いデカぶつ!オレと競争だ!!)
デカく重いゴスラは、細かなカーブはカーブが苦手なはず!
……それが警部の狙いだ……
だがゴスラは、橋の中ほどを知っている警部の姿を認めると道沿いには行かず、そのまま川越しの角度で斜めにジャンプした!!
「にゃあああああああああっ!」
(…なんだとぉ!?)
黒い巨体が宙を舞い、追う者と追われる者の距離が一気に詰まる!
(殺られてまるかっ!?)
とっさの判断だった。
ヘッドスライディングの要領でアスファルトの路面に身を投げると、都バスなみの巨体が風切り音を上げ警部の上を飛び超え、そこに止まっていた運送会社のトラックにぶち当たった!
岸田警部が道路から跳ね起きるのと、ゴスラがトラックの残骸の上に飛び乗るのは同時だ。
再び警部が走り出し、ゴスラもそれをめがけて跳躍せんと身構える!
しかしそのとき、踏みつけるゴスラの足の下で、トラックのタイヤが音をたててバースト!
バランスを失ったゴスラはそのまま道路越しに川底へと転落した!
「に゛ゃああああああああっ!」
唸り声とともにゴスラが川沿いの道路に飛び上がったとき、岸田警部は値千金の貴重な何メートルかを稼ぎ出していた。
岸田警部の走る方、前方100メートルほどのところで、何かを探すように辺りをきょろきょろ見回す男がいるのが警部には見えたのだ。
(と、凍条!!)
それは岸田警部の相棒、凍条刑事だった。
そしてエクスカリバーUを重そうに抱えていた。
299Ag(4:2007/07/09(月) 17:16:45 ID:qy8aYZ3C0
一々言わんでも判るだろうとは思いますが……上の「Ag(4」というのは「A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー」のタッチミスにござる。
……お恥ずかしい。
300名無しより愛をこめて:2007/07/10(火) 07:39:56 ID:FoVC7tZA0
6行目「川沿いに数メートル走り、さあ端を渡ろうかというところで」は「…さあ橋を渡ろうか…」。
11行目「だがゴスラは、橋の中ほどを知っている警部の姿を」は「…橋の中ほどを走っている警部の…」。

昼飯抜き、校正抜きで作ってるとはいえ、これは情けない。
301A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/10(火) 17:14:53 ID:FoVC7tZA0
岸田警部とゴスラの追いかけっこがはじまったのと同じころ……。

「いったいどこ行っちまったんだよ?」
凍条はすっかり途方に暮れていた。
廃ビルの各所にトラップを仕掛け、そこで岸田警部とともに怪物出現を待つ………はずだった。
だが、どこかで「サカリのついたネコの声」が聞こえたとたん、警部と博士は何事か喚きながら外に飛びだしてしまったのだ。
まさかその場に転がしておくワケにもいかないので、エクスカリバーUを抱え上げたのだが、その重いこと重いこと!
廃ビルの足元暗い階段をなんとか下りたころには、岸田警部の姿はとっくに見えなくなってしまっていた。
どこかで断線したのか街灯がすべて消え、月星の明かりだけが頼りだが、それも夜の雲に遮られ、大地をまだらに照らすだけだ。
「……け、警部!?…いったい…何処に…」
闇の中、おろおろ辺りを見回す凍条の耳に、突然、ドゴーーーン!!と銃声が飛び込んできた!
(この銃声は!……357マグナム!警部だ!きっともう始まってるんだ!でも、でもどこで!?)
エクスカリバーUを持っているのは自分だ!
もし警部がゴスラと対決しているのなら、早く駆けつけねば!
でも肝心の決戦場が何処か判らない!
そのときどこかで交通事故みたいな金属がぶつかり潰れる音がした。
「…交通事故?」
警官の本能で音のした方角に、凍条が二三歩駆け寄ったそのときだった。
雲間からスポットライトのように差し掛けられた月光の中に、ふっと岸田警部が飛び込んできた!
「警部!!探しましたよ!!いったいどこに…」
「…どこに行っていたんですか」という言葉は、そのまま凍条の舌の上で消し飛んだ。
岸田警部に続いて、巨大な怪物がカンガルーのように飛び跳ねながら現れたのだ。
にゃあお!にゃあお!と鳴きながら。

「撃てっ!凍条!撃てっ!」

かすれる声で、警部が叫んだ!
302A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/11(水) 17:23:57 ID:288IhFBi0
「撃てっ!」という警部の声に、凍条は胸に抱えたエクスカリバーUをサブマシンガンのように構えなおした。そして警部を誤射しないように気をつけながら引き金を……。
「…あ、あれ?」
引き金を引こうとした人差し指が空を掻いた!あるべきところに引き金が無いのだ!
「け、警部!これ、どうすれば撃てるんですかーーーーー!?!?」

(…しまった!)
一の谷研究所で撃ち方を聞いているのは岸田警部だけ!
凍条にはエクスカリバーUの撃ち方がわからない!
なぜだか岸田は思わず笑い出してしまった。
(…つまりは、オレが撃つしかないってことか…。このオレが。)
そのとき岸田の背後で、一際身を低くゴスラが身を沈めた。

「(ジャンプで襲い掛かる気だ!)危ない警…!」
だがゴスラの攻撃は、凍条が叫ぶより僅かに早かった。
「にゃおうぅ!」
ネズミに飛び掛るネコのように低く長く、空をひとっ飛びしてゴスラは警部に飛び掛った。ジャンプした!
さっきは間一髪かわせた攻撃だが、今度は完全に死角からだ!
(け、警部っ!)
青龍刀のような鉤爪が岸田警部の左肩に迫り……背広の肩の布地を切り裂いた!
今度も警部はゴスラの攻撃を回避した!
凍条の叫びは、背後に迫る危機を警部に伝えきれなかった。
しかし、凍条の声より早く、彼の表情が、背後から迫る危機を岸田に伝えていたのだ。
ゴスラの攻撃がまたも空を切り、その下をかいくぐるようにして警部が凍条に駆け寄ると、
部下は上司にエクスカリバーUを押し付けた。
親指を立ててそれを受け取り、ゴスラに向かって振り返ったときには、岸田警部の親指も180度向きを変えて下向きになっていた。
どくどく血の流れる腕で、小さなボタンを押しながら回すと、隠れていた引き金が飛び出した。

「さてと…やっとこれでサーブ権がオレに移動だな。」
303A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/12(木) 17:24:56 ID:ybeWitB40
翌日の朝早く、まだ通勤ラッシュも始まっていないころ…。
ヒロシの伯父さんが、疲れた足を引きずりながら自分の家に戻ってきた。

「凍条!無理するな!おまえの銃じゃ……」
「警部!ボクが引き付けてるあいだにさっさとやっつけちまってください!」

死闘の末、岸田警部のエクスカリバーUによる一撃を食らったゴスラは、一声にゃあおと鳴くと、ガラスが砕けるように、あるいは砂絵が崩れ去るように、バラバラと形を失い消え去ってしまった。
「後始末はオレたちで引き受けますから、博士はここで…。」
「ありがとう。感謝します。」
こうしてヒロシの伯父さんは、急を聞いて駆けつけた報道関係者や応援の警官隊が駆けつけるより早く、決戦の場をあとにすることができたのだ。
警察の事情聴取や報道関係者の相手などで時間を潰したくはなかった。
彼にはまだやらなければならないことが残っているのだ。
(アレがいるとしたら、やはり……)
足が重いのは、疲れたからというだけではない。
彼がこれから向き合わねばならないことが、彼の足を鉛のように重くしているのだ。
丘の斜面を登るともう自宅はすぐそこだ。
途中、生垣の後ろや潅木の下に目を走らせながら玄関前に立つと、ヒロシの伯父さんは鍵を取り出しドアノブに手をかけた。
(…ん!?)
…ドアノブが回りドアが開いた。鍵がかかっていない。
(やはりここに?)
304A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/12(木) 17:25:32 ID:ybeWitB40
物音を立てないようにそっとドアを開くと、見覚えのある子供靴が脱ぎ捨てられていた。
シロシが玄関を開けて入ったのだ。
別に驚くようなこともない。
「やれやれ、シロシだったか…」
思わずそう声に出した直後、ヒロシの伯父さんはハッと気がついた。
(シロシはここの鍵を持っていない。)
シロシは玄関から中に入った。
でも、玄関を開けたのはシロシではない!
ではいったい誰が…。
そのとき、家のどこかから子供の、シロシの笑い声が聞こえてきた。
(二階だ!)
ヒロシの伯父さんは靴を脱ぐのも忘れて、階段を駆け上がった。
「誰!?伯父さん!??」
足音を聞きつけて誰何する声は、書斎から聞こえる。
「シロシっ!」
蝶番が壊れるかという勢いでドアを押し開けると、テレビの前に驚き顔でヒロシが座りこんでいた。
テレビは、昨夜の「戦場」からの中継で、岸田警部にいく本ものマイクが突きつけられていた。
「お帰りなさい、伯父さん!」
驚き顔が一瞬で笑顔に変わり、次の瞬間には、もうヒロシは伯父さんに抱きついていた。
「ゴスラ、やっつけたんだね!」
「ああ」微笑を浮かべて伯父さんも答えた。「岸田警部が命がけでやっつけたよ。伯父ちゃんは見てただけさ。」
「うん知ってる!いまもテレビでやってるし。」
いったんテレビの方を見、そして振り返ると、改まった調子でヒロシは言った。
「あのねぇ、伯父さん。実はね、ボクの方からもね、…グッドニュースがあるんだ。」
(やはりそうなのか…)
心ではそう思いながらも、伯父さんはとぼけて尋ね返した。
「グッドニュース?いったいそれってなんなのかな??」
からくり人形のようにおどけた仕草で立ち上がると、大仰にポーズを決めてからヒロシは言った。
「帰ってきたんだよ。ぼくらのウンコタイガーが!!」
少年の足元にあの珍獣が、相変わらず愛想の良い顔をして姿を現した。
305A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/12(木) 17:26:25 ID:ybeWitB40
「そうか、やっぱりここに戻って来てくれたんだね?ウンコタイガー。」
伯父さんはそれだけ言うと、ショルダーバッグを下ろし、中からノートパソコンを取り出した。
ウンコタイガーの前に液晶画面をこちらに向けてパソコンを置くと、伯父さんは静かな声で話しかけた。
「答えてくれウンコタイガー。」
不思議そうにヒロシは尋ねた。
「伯父さん!いったい何やってるの??」
「こうすればたぶん、ウンコタイガーと話せるはずなんだ。」
ヒロシを振り返らぬまま伯父さんは短く答えると、もう一度ウンコタイガーに呼びかけた。
「答えてくれウンコタイガー!キミは、……キミとゴスラはいったい何の目的でこの星にやって来たんだ?」
「ゴスラ!?」ヒロシの目が驚きのあまりに丸くなった。
「伯父さんのその言い方じゃ、ウンコタイガーが人殺しのゴスラの仲間みたいな言い方じゃん!」
だが、ヒロシの抗議に伯父さんは反論しなかった。
「そうなんだ、シロシ。ゴスラと、ウンコタイガーはね……仲間……なんだよ。」
「う、うっそだぁ!」
絶対に信じられないというヒロシに、伯父さんは、急き立てられるように早口でまくしたてた。
「ほんとなんだよ。ゴスラとウンコタイガーはあの雷雨の夜、雷といっしょにこの世界にやって来たんだ。」
「うそだ。」
「ウンコタイガーはゴミ口に入らないと、ゴミが入るサイズまで自在に巨大化できた。ゴスラもそうなんだ、この書斎でシロシを殺せなかったから、昨日の夜はより巨大化して襲ってきた。」
「うそだ。」
「……そして、ゴスラは電気になって通信回線を通り抜けることができた。ウンコタイガーは保管庫の特殊合金のロックをプラズマエネルギーで融解した。こんな生物が偶然、別々に現れるなんてはずはないんだ!」
「ウンコタイガーが、ボクを殺そうとしたゴスラの仲間だなんて、うそだぁぁーーーーっ!」
泣き声で、ヒロシが絶叫した瞬間だった。
液晶画面に小さな火花が散ったかと思うと、文字がパラパラと表示された。

『ウソじゃないんだ。ヒロシ。』
306名無しより愛をこめて:2007/07/12(木) 17:35:50 ID:ybeWitB40
「ゴスラ対ウンコタイガー」は、肝心要の部分に差し掛かっているので、毎日投下ではなくなります。
ミステリでいうなら、謎解きの部分。
さすがに、指の赴くまま書きなぐるわけにもいかないので…。

307名無しより愛をこめて:2007/07/14(土) 04:48:48 ID:wnIxYQwA0
308名無しより愛をこめて:2007/07/14(土) 21:23:50 ID:OR54w0BT0
了解しました。
じっくりとしっかり書いてくださいネ。
309名無しより愛をこめて:2007/07/16(月) 11:35:39 ID:DXAe5vmqO
どうでもいいんだけど、X話さんの作品の彼方からの彼女を読んでた頃は「え?これって最終回?」ってマジで思ってた。
310名無しより愛をこめて:2007/07/16(月) 15:02:02 ID:2GVJwdZX0
そうかそういう見方もあったんだね。

最終回だったか。
311A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/17(火) 17:21:59 ID:MQnmy7s70
『大爆発で宇宙ができたときの、その爆心地、つまり宇宙で一番古い世界で、最初の知的生命体が生まれたんだ。』
…遠い記憶をたどるように、ウンコタイガーの言葉がポツンポツンとディスプレイに浮かびあがっていった。
『……だけど、最初の知的生命体だったから、彼らは宇宙で一人ぼっちだったんだよ。』
『そして他の知的生命体が出現する兆しがやっと見え始めたころ、彼らの種としての命はもう終わろうとしてたんだ。』
「……ひろい宇宙に一人ぼっちなんて……」呟くヒロシの肩に伯父さんはそっと手をかけた。
『彼らの最後の1人が滅びるとき、満天の星を見上げて彼が考えたのは、やがてやってくるであろう若い仲間たちのことだったよ。とうとう出会うことのできなかった、若い友だちのために、何かしてして上げられことはないかって……。』
『……自分自身が消えて無くなるその瞬間にも、彼が考えていたのは、そのことだったよ。』
『そして彼が消えるそのとき、彼の最後の願いから、ボクやゴスラは生まれたんだよ。』
『若い命の願いを叶える存在として、外へ外へとボクらは宇宙を飛び越えてきたんだ。』
『虹の砕ける四次元も、魂まで凍える深淵も、みんなみんな飛び越えて、ボクらはやって来たんだ。ただ、願いを叶えてあげるために。そして、ボクはこうしてヒロシやヒロシの伯父さんと出会ったんだ。』

「それでキミは、私の願いを叶えてゴミを食べて体に良いものに作り変える生物になったのか…。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
そのとき突然ヒロシが口を挟んだ。
「ウンコタイガーのことは判るよ。でも、それじゃゴスラはなんで人殺しをして回ったの?」
『それは……』
まるで口ごもるように、たっぷり10秒以上間をおいてから続きの文字は表示された。
『……人間がそう願っていたから』
312A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/17(火) 17:22:39 ID:MQnmy7s70
「人間がそう願ってたからなんて……うそだぁ」
「…シロシ」
ふと気がつくと、いつのまにか伯父さんはヒロシの傍らにひざまづいていた。
ヒロシを自分の方に向かせると、ヒロシと同じ目の高さで、伯父さんは話し始めた。
「人間の心の中には、他人への攻撃や自分自身の破壊を願う衝動があると言われているんだ。心理学ではそれを『タナトス』と呼ぶ。」
「…たな…とす?」                                          
「ギリシャ神話に出てくる死の神の名前さ。」
「死神!?」

ちょうど同じころ……
「……ちょっと止めてくれ!」
岸田警部は自分と凍条刑事を乗せ警視庁へと向かう覆面パトカーに大声で停車を命じた。
「どうしました警部?」
わざわざ窓から顔まで出して辺りを見回していた警部だったが、ほっとしたようなため息とともにドッとシートに背中を預けて言った。
「…いやどこかでネコみたいな声がしたような気がしたんだが……。気のせいだろう。」
「もちろんですよ。」
凍条は笑って答えた。「だって、あのバケモノに命がけで引導渡したのは警部じゃないですか?」
「そうだな……うん、そうだよな。」
…そう答えながらも、岸田警部はもう一度辺りの町並みを眺め渡した。
ちょうどすぐ近くのターミナル駅に電車が滑り込み、中から朝一にして早くもつかれきった顔をしたサラリーマンたちがどっと吐き出されたところだった。

そして……岸田警部はもう一度確かに耳にした。
さかりのついたネコの鳴くような声を。
313名無しより愛をこめて:2007/07/19(木) 14:50:31 ID:oE3xRWdl0
応援!!
314ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/19(木) 17:34:37 ID:S5qAUEoU0
「凍条!オマエ今の…」
いまの声を聞いたかと、最後まで尋ねる必要はなかった。
若い同僚刑事の顔は、紙のように白くなっていたからだ。
岸田警部は、サラリーマンたちが俯き加減に行き交う歩道に降り立った。
(…まさか!こんな雑踏にあのゴスラが!?)
にゃあーーーお!
「まただ!ゴ、ゴスラが!」
「落ち着け凍条。」
警部の分厚い手のひらが若い同僚の肩を掴んだ。
「落ち着いて感じるんだ。ヤツの鳴く声を、ヤツの気配を!」
「は、はい。」
行き交う人波に、怪物出現の気配は無い。
(だが……どこかにいるはずだ!どこだ!?どこにいる!?)
神経を研ぎ澄まして、ビルに、人ごみに、街路に、警部は怪物の影を探った。
(どこだ!?どこだ!?どこだ!?)

ゴスラの気配を探す警部の耳に、不意にその声は飛び込んできた。
「…ああ、疲れたな…」
警部はハッとして振り返ったが…口を動かしている者は誰もいない。
「……このまま何処かに行っちまえたらな…」
今度の声は警部の真正面からだったが、目の前を行く人々はただ俯いたまま黙し行くだけだ。
「オレが悪いんじゃないのに」「あのクソ野郎」「…畜生…畜生………ちくしょう…」「はあぁ…」
直感的に警部は悟った。
(これは口から出た声じゃない!……この声は…)
…そのときだった。
電車の送電線から、周囲のビルから、車から、そして人からも、大小の稲妻が火花を散らし飛び出すと、空中のある一点へと集中した!
315ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/19(木) 17:35:10 ID:S5qAUEoU0
「人間の心の中に……死神が住んでいるの?」
「…そうだ。」低く、しかしはっきりした声で伯父さんは答えた。
「…総ての人の心に死神は住んでいる。伯父さんの心にも、シロシの心の中にも、死神はいる。でもな、シロシ。」
伯父さんは蒼白になったヒロシの頬を両手で包み込むようにして言葉を続けた。
「…人の心の中に住んでいるのは死神だけじゃない。もっと素敵な、美しい女神だって住んでるんだ。だから、人間は滅びることなくこれまで生きて来れたんだよ。」
『伯父さんの言うとおりだよ。ヒロシ。』
ディスプレイに新たな文字が浮かびあがった。
『ボクはゴスラと会ったあと、いろんな人たちを見てきたんだ。』
青白い頬のまま、ヒロシは
『伯父さんの心の中にも、ヒロシの心の中にも、後ろ向きの心や全部終わらせてしまいたいという心、死神はいるんだよ。
でも、もっともっと綺麗なものだってあるんだ。
ボクはそれを叶えてあげたいって思った。だからボク、ヒロシや伯父さんのトコに戻って来たんだよ。』
ヒロシは思わず、「ウンコタイガー」と名づけたころなら、考えもしないであろう行動をとった。
小怪獣を取り上げ抱きしめたのだ。
そのとき、自分の腕の中でウンコタイガーが小さく震えたのをヒロシは確かに感じ取っていた。
そして何故だか泣いているように見えるウンコタイガーの背後で、ディスプレイに新たな言葉が表示された。

『ゴスラが帰ってきたよ』
316ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/20(金) 17:23:05 ID:3qduskPA0
にゃあおぉーーーーっ!
ネコのような咆哮とともに、大都会東京のど真ん中に巨大な影が屹立した。
高層ビルの広大なガラス面を黒く染め上げるその影の主とは……!?
「ゴ、ゴォスラっ!?」「なんて大きさだ!!」
昨夜対決したときには、ゴスラの大きさは巨大といってもせいぜい10メートルほどだった。
だが、ビルを背にした今の身長は50メートルを軽く越えている!
警部はヒロシの伯父さんが思わず漏らした昨夜の言葉を思い出した。
『……必要に応じていくらでも大きくなる……』
「では、この巨大さは!?…まさか?」
ゴスラが何気なく鉤爪の植わった腕を一振りすると、背後の高層ビルが斜めの切断面からゆっくりズレはじめ………下で呆然と見上げる群衆の上へと崩れ落ちていった。
建物の崩れ落ちる音で悲鳴は全く聞こえなかった。
「くそ!大量殺戮のための巨大化か!」
「警部!エクスカリバーUでもういちど…」
「あそこまでバカでかくなられちゃ無理だ!それより例のゲイ…なんたらいう怪獣やっつけ隊を呼ぶんだ!!」
317ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/20(金) 17:23:39 ID:3qduskPA0
「なんてことだ……」
呻くようにそう言ったきり、ヒロシの伯父さんは絶句してしまった。
民放のうち一局が、戦場と目と鼻の先という地の利を生かして決死の生中継を行っていたが、防衛隊ばかりか怪獣やっつけ隊の攻撃もゴスラにはなんのダメージも与えていないように見える。
いましも、シャワーのように盛大に浴びせかけられたスペシュウム弾頭弾の爆発炎の中から、ゴスラがピョンと跳ね出たところだった。
「効いてない!全然効いてないよ!?」泣くような声でヒロシが言った。
カッと見開かれたゴスラの目から、突然眩い光線が幾条も放たれ、防衛隊の戦闘機が一時に何期も
「エクスカリバーUの陽電子光線だ!」やっとの思いで伯父さんは言った。「……ゴスラは私たちの使った攻撃方法まで学習したのか。」
伯父さんに答えるように、ノートパソコンがウンコタイガーの言葉を浮かび上がらせた。
『ボクたちには形も名前も無いんだ。ボクの姿は伯父さんが、名前はヒロシがくれたものだよ。』
『ゴスラも、ゴスラという名前とゴスラの姿をコンピューターネットの中から見つけてきた。それから戦うための武器と防御の方法も…。』
そのとき!ゴスラの陽電子攻撃で墜落した「怪獣やっつけ隊」の戦闘機の中から、光とともに白銀の巨人が立ち上がった。
「ウルト○マンだ!」ヒロシの声が一転明るくなった。
「ウ○トラマンなら、きっとゴスラだってやっつけてくれるよ!」
テレビの中ではお定まりのとっくみあいが始まった。
投げたり、跳ね飛ばされり…そしてウルトラマ○が大仰なポーズのあとで腕を十字に組んだ!狙い過たず必殺の光線はゴスラに命中………しかし………全く効果が無い!?

『ゴスラ・スルー。ネットで見つけてきた鉄壁の完全防御だよ。どんな攻撃を受けても無視してスルーするんだ。』

あっけにとられ立ち尽くす○ルトラマンに、ゴスラはくるりと背中を向けたかと思うと、次の瞬間、背中から猛烈なスピードでウ○トラマンにぶち当たっていった。

『……ゴスラのヒップアタックはどんな防御でも打ち砕くんだって。』

もんどりうって吹っ飛ばされたウルトラ○ンは、暫くソコで身悶えしていたが、やがてゆっくり消えてしまった。
……光の巨人の完敗であった。
318駄文書き言い訳:2007/07/20(金) 17:29:36 ID:3qduskPA0
ウルトラ○ンが出たらウルQじゃないじゃないか!…とお怒りのアナタ。
ご意見ごもっとも。
まさにそのとおりです。
でも、この板育ちのゴスラを外の世界のウルトラマンと対決させてやりたいという誘惑に勝てませんでした。
それに、なんといってもゴスラは我々の代表ですから当然勝ってもらわなくっちゃいけません。
…というわけでの脱線でした。
許してくだされ。

なお「ゴスラ対ウンコタイガー」は土日はお休みです。
来週こそは、ゴスラとウンコタイガーが激突です。
319名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 18:45:04 ID:udkQIGHD0
320名無しより愛をこめて:2007/07/24(火) 10:10:05 ID:wvfAXnXM0
応援
321A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/24(火) 13:02:52 ID:+HwCEglu0
「……苛めや学級崩壊、職場ではノイローゼから来る鬱病に胃潰瘍……人間社会は病んでいる。それがタナトスの勢力を増大させ、ゴスラの力になっているんだ。○ルトラマンですらかなわないほどに…。」
蒼白な顔色だが、しかし落ち着きを取り戻した口調で、伯父さんは言った。
テレビの中では、ゴスラがさっきウルト○マンがやったのとソックリ同じ動作で腕を十字に組んで光線を発射したところだった。
「これも学習されてしまったのか…。」

『ゴスラは人間の願いを一生懸命叶えてあげようとしているよ。例えそれが人間の滅亡だとしても。』

ウンコタイガーは…ウンコタイガーは泣いている。
涙は流していないけど、ウンコタイガーは泣いているんだ。
そう思ったとたん、ヒロシの目から涙があふれ出した。

『ボクの代わりに泣いてくれてるんだね。』

うん…と頷いてからヒロシは言った。
「……キミの代わりに泣くんだ。ゴスラのために泣くんだよ。」
「…シ、シロシ?」
「だって可哀相じゃない!」後から生まれてくる友達に何かしてあげるために生まれてきたんでしょ!?なのに願いを叶えてあげるために、人間を全滅させなくっちゃいけないなんて!」
「…そうだなシロシ。一番可哀相なのは……ゴスラだ。」
両手で甥の両肩をガッキと掴み、相手の小さな額に自分の額をくっつけると、一言一言搾り出すように伯父さんは言った。
「…つらいことでも、悲しいことでも、人間が生んだものなら、人間の知恵や勇気で、なんとかできるハズなんだよ。それをしなかったから、悲しいミッションをゴスラに押し付けてしまったんだ。」
泣きながら頷くとヒロシはウンコタイガーを抱き寄せた。
「ごめんよ、ウンコタイガー。ごめんよゴスラ。」

『ありがとうヒロシ。』
ディスプレイにはウンコタイガーのある決心をつむぎ始めた。
『ヒロシや伯父さんのその言葉で、ボク、決心がついたよ。』
その言葉がディスプレイに文字が浮かぶと同時に、ヒロシの腕の中からウンコタイガーが消えた!
322A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/25(水) 08:22:13 ID:b5TMnwSR0
「シロシ。…ゴスラもウンコタイガーも、とうの昔に滅びた偉大な種族の残した『思い』そのものなんだ。そしてゴスラは人間の死の願いを、逆にウンコタイガーは人間の生の願いを叶えようとしている。」

伯父さんとヒロシの前では、テレビが巨獣対決の中継を続けていた。
ブゥンッ!
唸りを上げてゴスラの尻尾が、上から横からウンコタイガーを打ち据える!
尻尾がヒットするたび、左右によろめくウンコタイガー。
しかし、必死に踏みとどまって倒れはしない。
そしてゴスラとの距離をジリジリと詰めてゆく…。

テレビ画面を見据えたまま、伯父さんは言葉を続けた。
「つまりゴスラとウンコタイガーは対極の存在、闇と光、プラスとマイナスなんだ。」
「プラスとマイナス……」
ヒロシは伯父の言葉の行き着く先に気がついた。

「にゃああお!!」
突如ゴスラの鉤爪がサーベルのように長く伸び、槍のようにウンコタイガーを刺し貫いた!

「光の巨人ですら、偉大な種族の残した『思い』を砕くことはできなかった。でも対立する願いを背負った二つの『思い』同士が正面衝突すれば……」
323A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/25(水) 08:25:30 ID:b5TMnwSR0
ウンコタイガーの胸から血煙が吹き上がった!胸に突き刺さったゴスラの爪が、電気ドリルのように回転しているのだ。
ウンコタイガーの目が一瞬虚ろになった。

「死んじゃだめだよウンコタイガー!」
ヒロシはテレビ画面にすがりついた。
「僕らを助ける代わりにキミが死ぬなんて……」

ウンコタイガーの目がカッと輝いた!
猛スピードで回転するゴスラの爪を両手で掴むと、引き抜くのではなく更に自分の胸に深く深く突き刺した。
ボシュッ!!っと音をたててゴスラの爪がウンコタイガーの背中から突き出るのと同時に、ウンコタイガーの両手がゴスラの体を捕まえた。

「プラスとマイナス……正反対の願いを担った二つの『思い』が衝突すれば、ゴスラとウンコタイガー、両方とも………」

ウンコタイガーの体が白く輝きだした。するとゴスラの体も共鳴するように金色に輝きだした。銀と金、ふた色の光は呼び合うように輝きを増しあっていたかと思うと、突然互いを巻き込むように旋回を始めた。

「星雲だよ伯父さん……ウンコタイガーとゴスラが星雲に…。」
「見届けてあげるんだシロシ。人間のために戦ってくれたゴスラとウンコタイガーの最後の瞬間を。」

メリーゴランドのように煌びやかな回転はスピードを上げ……そしてなんの前触れもなく「散った」。それはまるで、何億何兆というホタルが一斉に舞い上がったような光景だった。

324A級戦犯/ゴスラ対ウンコタイガー:2007/07/25(水) 08:26:19 ID:b5TMnwSR0
………
……
…………
ゴスラとウンコタイガーがいなくなって一週間がたちました。
一時は「かまやつひろし」みたいになっていた伯父さんも、またもとのハゲ頭に戻ってしまいました。
研究室に保存されていた「ウンコタイガーのおしっこ」も分析器にかけてみたらただの水でしかありませんでした。
……ウンコタイガーの起した奇跡は消えてしまったように見えます。
すくなくとも、目に見える範囲では。

……でも……

学校への道を、ヒロシは行きます。
堂々とした足取りで、精一杯、胸をはって。
もう逃げたりしません。
なぜかって??
……それは、ヒロシの心に小さな炎が灯っているからなんです。
ウンコタイガーがたったひとつだけ、この世界に残していったもの…
「小さな勇気の種火」が。


「ゴスラ対ウンコタイガー」

お し ま い

325名無しより愛をこめて:2007/07/25(水) 08:33:22 ID:b5TMnwSR0
]話氏とはずいぶん違う感じのお話になってしまいました。
ちなみにフロイトの二元論で死「タナトス」に対応する生は「エロス」といいます。
でもエロスというと、普通は別のことをイメージしますから(笑)。
エロスとタナトス、両方を出すとどうなるかというと……筒井康隆氏の短編「二元論の家」でも読んでみてください。

だから、本駄文中でもタナトスは出てきますがエロスの語は出てきません。
「エロス」好きの皆さん、悪しからず。
326名無しより愛をこめて:2007/07/25(水) 13:04:47 ID:b5TMnwSR0
「ゴスラ対ウンコタイガー」に続いて現在準備中の駄文は……

「人形の家」
岸田警部もの。森の洋館に連れ込まれた女たちは、誰一人帰っては来なかった。

「古の防人」
富士の風穴奥で発見された地下遺跡と謎の石人の関係は?

「蘇るアギト」
「石の見る夢」の十年後。大学を卒業し地方新聞社に就職したユウカの周囲で、狼男?が出没する。

「サルドニクスの涙」
超獣が現れなくなったはずの世界で、超獣マーカイムが出現。だが…意外なほどにマーカイムは弱かった。

X話氏の復帰を待ちながら、スレ保守のため順次投下の予定にござる。
タイムリーなネタが浮かべば、そっちを優先するかもしれませぬが…。
327名無しより愛をこめて:2007/07/25(水) 13:10:09 ID:b5TMnwSR0
…まことにもうしわけない。
レスをひとつ抜かしてることにいま気がついた。
「ウンコタイガー出現」のパートが無い!?
改めて投下しなおしまずので許してくだされ。
328321から続く…:2007/07/25(水) 13:11:50 ID:b5TMnwSR0
テレビの画面では、怪獣やっつけ隊に光の巨人をも退けたゴスラが破壊の限りを尽くしていた!
周囲一帯に立ち込める黒煙、そして巻き起こる炎!
その炎が、黒煙が、ガラス絵のように砕け散ったかと思うと、その向こう側から黄土色に焦げ茶の縞模様が走った巨獣が飛びだしてきた!

「ウンコタイガーだ!?」
「シロシ!ウンコタイガーは人間を滅ぼさないためにゴスラと戦うつもりなんだ!」

虚空より飛び出すとそのままの勢いでウンコタイガーはゴスラに雄牛のようにぶち当たった!不意を突かれ、もんどりうって跳ね飛ばされるゴスラ!
更に倒れたゴスラの上に、ウンコタイガーがダイブする!
ズーーーーーーーン!
鈍い轟音と激しい振動!
しかしウンコタイガーの下にゴスラはいない!

「瞬間移動だ、シロシ!ゴスラはテレポートしたぞ!」
「きっとネットの中でどっかの怪獣の能力を…あっ!危ないウンコタイガー!」

よっこらしょという感じで立ち上がったウンコタイガーの前に、背中を向けた状態でゴスラが出現した!
必殺のヒップアタック!
ヒップという語感にはふさわしくないガツンという硬質の音を立てて、今度はウンコタイガーが吹っ飛んだ。
さらにモタモタ立ち上がろうとするところに、十字に組んだゴスラの腕から破壊光線が、両目からは陽電子ビームが降り注ぐ。

「ウンコタイガーが!ウンコタイガーがやられちゃうよ!」
テレビに向かってヒロシが叫んだ。
「ゴスラと違ってウンコタイガーは戦闘用に進化してないんだ。だからゴスラと戦ったって……。」
しかし、預言者のような厳かさでヒロシの伯父さんは甥に向かって告げた、
「いや、…負けないよ。ウンコタイガーは負けないんだ。」
329b@ro:2007/07/25(水) 13:13:04 ID:b5TMnwSR0
「シロシ。…ゴスラもウンコタイガーも、とうの昔に滅びた偉大な種族の残した『思い』そのものなんだ。そしてゴスラは人間の死の願いを、逆にウンコタイガーは人間の生の願いを叶えようとしている。」

伯父さんとヒロシの前では、テレビが巨獣対決の中継を続けていた。
ブゥンッ!
唸りを上げてゴスラの尻尾が、上から横からウンコタイガーを打ち据える!
尻尾がヒットするたび、左右によろめくウンコタイガー。
しかし、必死に踏みとどまって倒れはしない。
そしてゴスラとの距離をジリジリと詰めてゆく…。

テレビ画面を見据えたまま、伯父さんは言葉を続けた。
「つまりゴスラとウンコタイガーは対極の存在、闇と光、プラスとマイナスなんだ。」
「プラスとマイナス……」
ヒロシは伯父の言葉の行き着く先に気がついた。

「にゃああお!!」
突如ゴスラの鉤爪がサーベルのように長く伸び、槍のようにウンコタイガーを刺し貫いた!

「光の巨人ですら、偉大な種族の残した『思い』を砕くことはできなかった。でも対立する願いを背負った二つの『思い』同士が正面衝突すれば……」
330再録:2007/07/25(水) 13:14:26 ID:b5TMnwSR0
ウンコタイガーの胸から血煙が吹き上がった!胸に突き刺さったゴスラの爪が、電気ドリルのように回転しているのだ。
ウンコタイガーの目が一瞬虚ろになった。

「死んじゃだめだよウンコタイガー!」
ヒロシはテレビ画面にすがりついた。
「僕らを助ける代わりにキミが死ぬなんて……」

ウンコタイガーの目がカッと輝いた!
猛スピードで回転するゴスラの爪を両手で掴むと、引き抜くのではなく更に自分の胸に深く深く突き刺した。
ボシュッ!!っと音をたててゴスラの爪がウンコタイガーの背中から突き出るのと同時に、ウンコタイガーの両手がゴスラの体を捕まえた。

「プラスとマイナス……正反対の願いを担った二つの『思い』が衝突すれば、ゴスラとウンコタイガー、両方とも………」

ウンコタイガーの体が白く輝きだした。するとゴスラの体も共鳴するように金色に輝きだした。銀と金、ふた色の光は呼び合うように輝きを増しあっていたかと思うと、突然互いを巻き込むように旋回を始めた。

「星雲だよ伯父さん……ウンコタイガーとゴスラが星雲に…。」
「見届けてあげるんだシロシ。人間のために戦ってくれたゴスラとウンコタイガーの最後の瞬間を。」

メリーゴランドのように煌びやかな回転はスピードを上げ……そしてなんの前触れもなく「散った」。それはまるで、何億何兆というホタルが一斉に舞い上がったような光景だった。

331再録:2007/07/25(水) 13:16:30 ID:b5TMnwSR0
………
……
…………
ゴスラとウンコタイガーがいなくなって一週間がたちました。
一時は「かまやつひろし」みたいになっていた伯父さんも、またもとのハゲ頭に戻ってしまいました。
研究室に保存されていた「ウンコタイガーのおしっこ」も分析器にかけてみたらただの水でしかありませんでした。
……ウンコタイガーの起した奇跡は消えてしまったように見えます。
すくなくとも、目に見える範囲では。

……でも……

学校への道を、ヒロシは行きます。
堂々とした足取りで、精一杯、胸をはって。
もう逃げたりしません。
なぜかって??
……それは、ヒロシの心に小さな炎が灯っているからなんです。
ウンコタイガーがたったひとつだけ、この世界に残していったもの…
「小さな勇気の種火」が。


「ゴスラ対ウンコタイガー」

お し ま い
332ケロロ:2007/07/25(水) 17:38:33 ID:SCIyDFFa0
A級戦犯さん、お疲れ様でした。

>>326
「人形の家」 「古の防人」 「蘇るアギト」 「サルドニクスの涙」 楽しみにしています。

X話氏の復帰も待ちながら…
333再録:2007/07/26(木) 08:53:10 ID:Al+Oj2h00
>>大佐殿
ねぎらいの言葉、ありがとうございます。
SF板では長編ばかり一括投下していたので、逐次投下のカンがとうとう掴めませんでした。
それに、やっぱりX話氏とは作風が違う。
氏の作風はなんというか…むかーしの少年誌を読んでるようなひどく懐かしい匂いがするのですが、拙作にはそれがありません。
あれはちょっとマネできないですね。
334名無しより愛をこめて:2007/07/27(金) 07:33:17 ID:DoSpzy7h0
相変わらずこの手の機械の使い方が下手だ。
333じゃ「再録」なんてなってるし、おまけに間違えて二階級特進させてるし。
二階級特進はまずいな。縁起でもない。

「ゴスラ対ウンコタイガー」の次に投下を試みる駄文は「オモチャのチャチャチャ」にします。
このスレ用に作ったものではないけれども…。
もし土日のあいだにX話氏の復帰が無ければ月曜から投下開始します。
335ケロロ:2007/07/27(金) 11:05:31 ID:irPJBUPf0
「オモチャのチャチャチャ」期待しています。

>それに、やっぱりX話氏とは作風が違う。
>氏の作風はなんというか…むかーしの少年誌を読んでるようなひどく懐かしい匂いがするのですが、拙作にはそれがありません。
>あれはちょっとマネできないですね。

そう!でしたね。X話氏のそれは、良い意味での古臭さが良かったですよね。
でも、私が言うまでもないとは、思いますが、自分と違う人の作風を引き継ぐことは至難の業、A級戦犯さんは、ご自分の文体の良さ更に窮めて下さい。

で「ゴスラ対ウンコタイガー」ですが怪獣同士の戦いって良いですよね。私も怪獣は好きです。
私も怪獣オタクの人間が怪獣に改造転移するという話を昔、書いたことあります。

他、ウルトラセブンの話の系列に入るようなひと昔前の等身大の(又はミクロサイズ)の宇宙人侵略物も好みです。
336名無しより愛をこめて:2007/07/27(金) 12:20:02 ID:DoSpzy7h0
>>少佐殿
暖かいお言葉、ありがとうございます。
>>私も怪獣オタクの人間が怪獣に改造転移するという話を昔、書いたことあります
たぶん私はその作品を拝読したことがあると思います。
あれは「3つのキーワードで…」スレではなかったかと。
ちなみに、あのスレに出てくる「イン ユア アイズ」というのが「ゴスラ対ウンコタイガー」の原型です。
アレに出てくる「何か」がゴスラなわけです。
337名無しより愛をこめて:2007/07/30(月) 12:01:55 ID:GFc1ggYZ0
応援
338A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/07/30(月) 17:08:35 ID:EsscxzSZ0
「オモチャのチャチャチャ♪オモチャのチャチャチャ♪チャチャチャ オモチャのチャッチャッチャ♪♪」
鼻歌を口ずさみながら、夕暮れの雑踏を男が行きます。
年のころは60の半ばといったところでしょうか?
「雑踏で童謡を口ずさむ男」などというと「酔っ払い」を連想しがちですが、この男、酔っ払いなどではありません。
もちろん、「ただのサラリーマン」でもありません。
実は彼は……
彼は「死人」だったのです。



「オモチャのチャチャチャ」


339A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/07/30(月) 17:09:55 ID:EsscxzSZ0
それから数時間後の夜、「死人」氏は倉庫だらきの一角でとある一軒の建物を塀越しに見上げていた。
その目は真剣そのもので、もちろんもう鼻歌など歌ってはいない。
まず塀の高さを慎重に目算する。
……ざっと2メートルというところだろう。
そして素早く左右に視線を走らせ、二三歩後ろに下がり助走をつけると、一気に塀へと飛びついた。
……塀の上端にぶら下がり、数秒ほど塀にぶら下がり虚しく足で塀の表を削ったあと、ドウッという音とともに「死人」氏は道路へと落下した。
落っこちたときどこか打ちどころでも悪かったのか、「うっ……」という呻き声がして、「死人」氏は本当に死んだように動かなくなった。……と、いうことはつまり、「死人」氏は、実は生きているのである。
しばらく「死人」氏はその場でじっとうずくまっていたが、やがてそろそろと起きあがると、恨めしそうな目つきで再び塀を見上げた。
「畜生……昔ならこんな塀……」
2メートルどころか、3メートルの塀だって気合一つでよじ登ったろう。
恨めしいのは、己の行く手を遮る塀か?それとも自身の老いだろうか?
くっと唇を噛むと、「死人」氏はもう一度塀から後ずさりした。
今度はさっきよりずっと長く、路地の反対側の端まで。
反対側の塀に背中を当てて、夜空を見上げて深呼吸。
そしてその塀を蹴飛ばすようにして、「死人」氏は目指す塀へと突進した!
「はあっ!!」
力の限りにジャンプ!しかしその到達高度はさっきと殆ど変わらない。
あっけなく跳ね返された「死人」氏は、アスファルトの上へと後ろざまに落ちていく…。
(やっぱりダメか…)
苦い諦めが心をかすめたそのとき、背中から落ちていく「死人」氏を、力強い腕がっしり受け止めた。
340ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2 :2007/07/31(火) 10:07:05 ID:IyORroQj0
始まりのシーン!なかなか良いですね。

なぞの人物のちょっとユーモラスなしぐさの描写など!!期待です!!
341名無しより愛をこめて:2007/07/31(火) 12:57:44 ID:ydmSQZxy0
>>340
…あんまり期待されても困るのですが。
なにせウルトラQならぬウルトラ級に非常識なことをやろうとしてるもんですから。
下手するとこの板から追い出されかねまへん。
342A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/07/31(火) 17:17:59 ID:ydmSQZxy0
「オジサン、無茶するとケガするよ。」
肩越しに聞こえた声は若かった。
両脇から差し入れられた腕も同じく若い。
「死人」氏が振り返ると、見知らぬ若い男が立っていた。
「あ、ありがとう。」
「……なんだ、オジサンだと思ったら、オジイサンか。」
無礼な言い草は「死人」氏の血圧を一気に上昇させた。
「オジイサンとはなんだ!オジイサンとは!!」
だが、体を反らし胸を張って睨みつける「死人」氏を見て、見知らぬ男は白い歯を見せた。
「うん、よかったよかった。その様子じゃ大丈夫みたいだね。」
あまりに屈託の無いその笑顔は、「死人」氏の怒りを忘れさせるに十分だった。
(そうだ……オレは昔、こんな笑顔のヤツを見せてくれるヤツを一人知っていた。)
最高の親友。
そして二度と出会えぬであろう戦友。
その友の名は……
だが、過去へと戻りかけた「死人」氏の思いは、相手の不意のセリフで現在へと連れ戻された。
「で…オジサンは、いったいここで何してたワケ??」
343A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/07/31(火) 17:19:28 ID:ydmSQZxy0
「何してたように見える??」
本当のことは言えない。
言っても信じてくれるはずが無い。
だから「死人」氏は見知らぬ男の「問い」に対し、新たな「問い」をもって答えることにしたのだが…。
「ドロボウ……にしちゃあ、カッコ悪すぎるし…」
「余計なお世話だ。」
「鍵を忘れて自宅に忍び込む……わけもないか。ここ、住宅じゃないから。」
「そのとおり。もちろんここはオレの家じゃない。」
「うーんそれじゃあ……」
そのとき「死人」氏には、見知らぬ男の瞳が悪戯っぽく光ったような気がした。
「……中で作ってる何かをスパイしに来たとか??」
「…それじゃ、その中で作ってる『何か』ってのは、何だ?」
いい線いってるなと内心で関心しながらも、まだこのへんでは平静を保っていた「死人」氏だったが……見知らぬ男の次の答えは、「死人」氏を驚愕させるに足るものだった。

「ロボットとか。」

「な、なんでそう思った!?」
「死人」氏は思わず小さく叫んでいた。
「なんでロボットだと?!」
驚きを隠しきれない「死人」氏を面白がるように、見知らぬ男はサラリと答えた。
「だってこの倉庫は……」
見知らぬ男は、塀の向こうの建物に描かれている手足を広げた赤ん坊のようなマークを指さした。
「……オモチャ屋のバンダイの倉庫でしょ?たしかバンダイはロボットのプラモデルを売ってましたよね?」
「ロ、ロボットのプラモデル?」
「そう、いわゆるガンプラ。だから、その開発中の新作をスパイしに来たのかなって…。」
そして見知らぬ男は笑った。
さっきのように、白い歯を見せて…。
だが「死人」氏には、その笑顔はさっきと同じ「屈託の無い笑顔」とは見えなくなっていた。
344A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/01(水) 08:42:48 ID:GJhi5zbI0
「よし!そういうことなら…。」
「死人」氏の戸惑いを尻目に、見知らぬ男はあちこち探し回ってその辺に転がっていた鉄の棒を拾ってくるとマンホールの穴に突っ込んだ。
「よいっっしょと…」
見知らぬ男の腕に筋肉の筋が浮かぶと、マンホールの重い鋳鉄製のフタはあっけなく降伏して道を譲った。
(……若い力か…)
羨望と懐古との入り混じった思いで見つめていると、見知らぬ男はさっさとマンホールに飛び込んだ。
「もたもたしてないで、サッサと行きましょうよ。」
「…なんでそんなトコに降りなきゃいかんのだ?」
「あれだけ大きな建物なら、敷地内に一個や二個は下水に通じるマンホールがあるでしょ?」
「…あ」
…何も塀を乗り越える必要など無かったのだ。
「オレとしたことが…」
一言呟いて頭を掻くと、さっきまでの戸惑いも忘れて「死人」氏は見知らぬ男の後を追い、闇の中へと姿を消してしまった。
345名無しより愛をこめて:2007/08/01(水) 19:08:19 ID:kwcJJ/cY0
346A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/02(木) 17:19:32 ID:m65TwKR60
「死人」氏が下水に降りると、見知らぬ男はライターを灯してさっさと奥に歩いていくところだった。
それを慌てて追いかけると「死人」氏は相手の肩に手をかけた。
「おい待て!」
「ん?なんか用ですか?」
「『なんか用ですか?』じゃない。オマエはここで帰るんだ。」
「なんでボクだけ帰すんですか?せっかくこんなトコまで降りてきたのに?」
「死人」氏は、強引に自分と相手の立ち位置を入れ替えた。
「もしオレの考えが当たっているなら、この先には命の危険が待っているんだ。だから帰れ!帰ってくれ!!」
「命の危険?…だったらなおのこと帰れないよな。」
「な、なんだと?」
「だってオジイサン、あそこの塀だって乗り越えられなくて落っこちてたじゃない?そんな人を一人だけで、命の危険があるようなトコに行かせるなんて…ボクにはできないなぁ。」
「ぐ…」
まさにその通りだ。反論しようもない。でも…
「でも、だめなんだ!」
「死人」氏はここから先、見知らぬ男を連れて行くわけにはいかなかった。
「オレがこの奥に行くのは、行かなければならないからなんだ!それからオレはこう見えても…」
「…こう見えても??」
そのときだった。
下水道のずっと奥で、何かが微かに光った。
すぐさま「死人」氏はライターの火を吹き消すと、見知らぬ男の肩を引っ張って下水道の支線へと滑り込んだ。
そして息を殺して待つ………待つ………待つ………
やがて微かな明かりとともにそれは、粋を殺して身を潜める二人の前に姿を現した。
……船だった。
ただし、とても小さな……。
小さなサーチライトを灯して航行してきたのは、オモチャの船だったのだ。
巡視でもしているのか、オモチャの船はあちこちに小さなサーチライトを向けながら、ゆっくりと二人の前を通り抜けていった。
347A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/02(木) 17:20:09 ID:m65TwKR60
「オモチャの船?」
「正確には、オモチャの魚雷艇だ。」
二人が口を開いたのは、小さな巡視船が行過ぎてからたっぷり10分近くあとだった。
「あんなにちっぽけでも、威力は実物と変わらん。もちろん殺傷力もある。」
「…あれがさっき言っていた…」
「命の危険の意味だ。」
そして「死人」氏は長く長く息を吐いた。
「……もう30年以上前になる。」

かつてオモチャを使って地球を征服しようとした宇宙人がいた。
実は「地球上のどんな武器よりも強力」であるオモチャを催眠状態の子供たちに装備させ、子供の軍隊を作り出そうとしたその宇宙人の作戦は、当事の「怪獣やっつけ隊」と人類の味方である宇宙人の活躍によって、決行寸前に叩き潰されたのである。

「だがな、おかしいと思わないか?」
「何がですか?」
「あいつは、自分のオモチャをワゴンに乗せて手売りしてやがったんだ。」
「それのどこが……?」
「考えてもみろ。自分のオモチャを大量に撒こうと思ったらワゴンセールなんかすると思うか?廉価販売のビデオじゃないんだぞ?」
「…あ」
「それからもう一つ。やつは自分自身の手でオモチャを売った。超能力じみたショーまでやってな。」
「……なるほど、目立ち過ぎですね。まるで気がついてくださいと言わんばかりだ。」
「…ヤツの自己顕示欲だとか、単にバカだからという意見もあった……だが…」
「死人」氏は隠れていた下水道の支線から這い出すと、オモチャの船が消えた方角を睨みつけた。
「……だが、オレは考えたんだ。30年前の事件はただの実験。本当の侵略は後に控えているんじゃないかと?」
348A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/03(金) 17:20:53 ID:mp7yAscs0
「オレから離れるな。」
「死人」氏は見知らぬ男の前に立ってさっさと進みだした。
「危険領域に入る前に帰そうと思ったんだが…、ここはもうとっくにヤツの勢力圏内らしい。それなら、1人で帰すのはかえって危険だ。」
見知らぬ男も、今度は反論などせず素直について来る。
下水道の中を目指す方向に数分ほど進むと水路に鉄格子が嵌っている部分に出くわしたが、
「死人」氏はその前をさっと素通りしてしまった。
「オジイサン、オジイサン」
ひそひそ声で見知らぬ男が呼び止めた。
「今の鉄格子がきっとそうですよ。あれを破れば地上の倉庫に…」
「いや、あれじゃないな。」
「死人」氏は足を止めるどころか振り返りもしなかった。
「あんな鉄格子を守るだけに、巡視艇なんか出すと思うか?向こう側に守衛を1人置いとけば十分だ。」
「それじゃオジイサン、さっきの船は?」
「…何か他にあるんだ。うっかり下水に入りこんだ人間に見られちゃまずい何かが。」
「だとすると…」
見知らぬ男はとある水路の支線を指差した。
「さっきの船の灯りはあっちの方に行ったみたいに見えたけど…」
無言で頷くと、「死人」氏はライターの炎を消える寸前まで絞り、視界が暗くなったぶん壁に手を這わせながらじりじり進みはじめた
「死人」氏は学生自体に読んだ本のことを思い出した。
(あれは確か…「陥穽と振り子」!ポオの小説だ。主人公は今のオレみたいに壁伝いに移動していて…。そうだ、部屋の真ん中には…)
自分が落とし穴に落ちる瞬間を想像し、思わず「死人」氏は身震いすると下水道の壁に体重を預けていった…。
次の瞬間「死人」氏の腕が宙を掻いた!
巌のような頑丈さを見せていた下水道の壁が、不意に消滅したのだ。
「死人」氏の体は、見知らぬ空間を落下していった。
349名無しより愛をこめて:2007/08/03(金) 17:25:51 ID:mp7yAscs0
たぶんカンのいい人は「死人」氏の正体にはとっくの昔に気づいていると思います。
そもそも「死人」というのが最大のヒントでして。
しかもあの侵略の再演とくれば、もうあの人しかいない…。
「死人」氏の冒険はまだしばらく続きます。



350名無しより愛をこめて:2007/08/05(日) 22:05:51 ID:HFgQm1De0
351名無しより愛をこめて:2007/08/07(火) 11:03:18 ID:wR+AidjV0
応援
352A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/08(水) 17:30:52 ID:eRweoSkR0
……意識を取り戻したとき、「死人」氏は自分がそれまでいた下水道とは違う、少しばかり開けた場所に、たった一人でいるのに気がついた。
体を起して辺りを見回すと、そこはコンクリートで固められた一種の「船着場」のようなところで、彼はその片隅に積み上げられた夥しい紙箱の上に寝転がっていた。
どうやらこの紙箱がクッションになってくれたせいで、たいした怪我もしないで済んだらしい。
コンクリートの上にはこれまた無数の黒い筋が走っている。
「死人」氏はそれを一目見て、小さなトラックによるタイヤ痕だと見破った。
(下水道を水路代わりに使ってオモチャの船で何かを運び、ここで陸揚げしてからはオモチャのトラックで陸送したのか。……だが、いったい何を運んだんだ?!)
小さなタイヤ痕はもつれ合いながら、急勾配の地下道の奥へと下っている。
それほど上背があるほうではない「死人」氏でも、立って歩くのはおろか、中腰の姿勢でも長くは無理そうな、狭く低い地下道だった。
奥は果てしなく暗く、下で何が待っているかは予想もつかない…。
だが、「死人」氏は一瞬たりとも迷わなかった。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず!」
彼は左手と両膝をコンクリートの床につくと、右手でライターを掲げ、狭い地下道へと這い進んでいった。
地下道は右に行ったり左にそれたりしながら、ひたすら下り続けた。
夏の夜だというのに、あたりの温度はひんやり冷たく、どこかでゴウゴウと水の落ちる音がする。
(どこかに別の水路がある。それも下水道なんかじゃない。かなりデカい水路だ。)
その巨大な水路とは、いったい何のためなのだろう……
「死人」氏の意識が地下道の前方からそれたその一瞬、床についていた左手が空を掻いた。
彼は、突然そこから傾斜を増していた地下道を、まるでウォータースライダーのように滑り降りていった。
353A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/09(木) 17:26:28 ID:rH5lNaSk0
(…頭から落ちるのはヤバイよな)
地下道を滑り降りつつ、冷静にそう判断した「死人」氏は、何度目かのカーブを利用して、足からすべる形になるよう巧みに体を入れ替えた。
(予想していたのとは随分違う展開になったが……こうなったらこのままヤツのアジトに殴りこんでやるぜ!)
滑りながら「死人」氏は決意の拳を固めた。
「待ってろよオモチャ……ん?なんだ??」
それまではひんやり冷たかったのだが…それがなんだか、だんだん熱くなってきたようなのだ。
(この熱さが来るのは…………オ、オレの尻??)
「死人」氏の頭を、「摩擦熱」という単語が一瞬掠めて消えた。
「あ?……あ!…あちちちちちちちちちちちちちちっ!!」
摩擦熱で尻が燃える!?
気のせいかもしれないが焦げ臭い匂いまでしてきた。
「うぉ!?あちゃ!あちゃ!あちゃちゃちゃちゃちゃ!」
(これぞホントの「燃えよドラゴン」)
……どうしようもないほどバカなフレーズが浮かんだその瞬間、「死人」氏は滑り落ちてきたその速さのままで、光に満ちた世界へと放り出された。
(アイツは!?)
滑りおちてきたそのままの速さで宙を舞いながら、「死人」氏は見覚えのある人影を見たような気がした。
そして……ドシンッ!!
「ぐうっ!?」
固い床のうえに滑るように落ちた死人は……そのまま意識を失ってしまった。

354A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/09(木) 17:26:58 ID:rH5lNaSk0
(……オレは……オレはどうなったんだ?たしか地下道をすべり落ちて……そうだ!アイツだ!オレはアイツを……)
「死人」氏は慌てて手足を動かそうとしたが…できない。
どうやら何かベルトのようなもので固定されているらしい。
目を開きかけてみたが、まぶたの隙間から強い証明が差し込んだので、思わずまた目を閉じてしまった。
すると、視界が未だ戻らぬ彼の耳に、しわがれた擦れた声が滑り込んできた。
「……気くれたようだね。待っていたよ、ソガ隊員。」
「その声は!?やっぱりオマエだったのか!」
「死人」氏……いや、元ウルトラ警備隊のソガ隊員は、目の痛みにもかまわず、両目をカッと見開いて声のする方を睨みつけた。
ソガが縛り付けられたベットの傍らに、ベレー帽を斜めにかぶり、口ひげをたくわえた長身痩躯の老人が立っていた。
「また地球に舞い戻ってきたな、オモチャ爺さん!」
「その名前で呼んでくれるとは嬉しいね。」老人は目を細めて笑った。「…キミだって『ソガ隊員』じゃなく、『地球人』とか『日本人』とか呼ばれちゃイヤじゃないかな?」
「そんなことより、今度は何を企んでるんだ!?またアンドロイドゼロ指令か?!」
手足が動かせないなら、せめてこの歯で噛み付いてやる!
そんな勢いで吠えるソガを前にして、老人はさも愉快そうに笑うと右手の指をパチンと鳴らした。するとソガを縛り付けていた金属のベルトが音も無く外れてしまった。
「さあ、来たまえソガ隊員。」
それだけ言うと老人…いや、オモチャじいさんは先に立ってさっさと歩き出した。
「ま、待て!オモチャじいさん!」戸惑い気味にソガは相手の後を追った。
「敵であるオレを自由にして、いったいどういうつもりだ!?」
オモチャじいさんは振り返りすらせずに言った。
「『何を企んでる』と聞くから、見せてやろうというんじゃないか。」

355A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/09(木) 17:27:51 ID:rH5lNaSk0
「百聞は一見にしかずと言うそうだな…どうだね?自分の目で見た感想は?」
「こ、これは……」
ソガの眼下に広がっていたのはオモチャ工場だった。
ところで「オモチャ工場」といった場合、普通は「オモチャを作っている工場」という意味だろう。
ソガが目の当たりにしている工場も、たしかにオモチャを作っていたのだが…それだけではなかった。
「オモチャがオモチャを作る。作られたオモチャもオモチャを作る。そしてオモチャは勝手に進化していくのだ。」
ソガの足元で1/144のガンタンクが備品を積載したトレーラーを引いていく。
その15メートルほど先では別のトレーラーから1/100ギャンが備品を運び下ろしていた。
ラインの先の方ではクマの縫いぐるみとスケールの大きなロボットが出来上がったオモチャの刀を袋詰めし、ラジコン戦車が牽引するトレーラーの上に並べていた。
オモチャじいさんのオモチャ工場。
それは「オモチャを作る」というだけではない。「オモチャが作る」工場でもあったのだ。
「巨大な円盤で物資をこの星に下ろし運ぶ…。そうすると当然監視網に引っかかる可能性が高くなるし、円盤の隠し場所などの施設も巨大なものにならざるを得ない。だが……」
……すべての侵略用物資をオモチャで投下すれば……
地球には平素より大小の隕石が降っているのだ。
その中に実は侵略用の機材が紛れ込んでいたところで、いったい誰が気がつくだろうか?
「投下された機材は、ワシのオモチャが回収するのさ。オモチャの船で運べば下水や小川でも立派な水路だ。基地設備も最低限の規模で済むしな。」
「なんてことだ…」
以前オモチャじいさんは、子供にオモチャを使わせて戦おうとした。
だが、今度はオモチャそのものに戦わせようとしているのだ。
「オモチャがオモチャを設計し製造する。その過程でオモチャたちはどんどん自己進化をつづけていくのさ。そして今夜…」
オモチャじいさんは、自分のオモチャ工場の最奥を見遥かして胸をそびやかした。
「……究極のオモチャが誕生しようとしているのだ。ウルトラセブンにも負けない、究極のオモチャがな。」
356A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/10(金) 17:00:19 ID:7dwmEimv0
「くそっ!そんなことさせるものか!」
「死人」氏=ソガはちょうど横を通りかかったトレーラーに飛びつくと上に乗せてあったオモチャの銃をひっ掴んだ。
「くだばれ侵略者!」
カチッと引き金が引かれ、ダダダダッと………音がしただけだった。
「弾が出ない!?」
「……銃声と銃口の光が完璧にリンケージしているだろ?ワタシのオモチャだからといって総てがホンモノというわけではないよ。ここでは普通のオモチャだって生産してるんだ。でも……」オモチャじいさんの顔から笑みが引っ込んだ。
「…その連中は、みんなホンモノだよ。」
はっとして辺りを見回すと………ソガは自分がすっかり囲まれてしまっていることに気がついた。
「リニューアル版のザクにゲルググ、君の後ろにいるのはこの冬発売予定の1/60パーフェクトグレード・ゾックだ。言っておくが、そいつらの武装は……ホンモノだよ。」
ザクとゲルググの後ろを、バズーカを構えてドムが滑り、ソガの頭上をキュベレイが飛びすぎた。オモチャじいさんの言葉どおり彼らの武装がホンモノならば……ソガに勝ち目は無い。
「アンドロイドゼロ指令の発動と同時に、日本全国にばら撒いたガンプラは、すべてワタシの優秀なる戦士に変身するのだ。」
オモチャじいさんの目が怪しく光った。
「…その栄えある犠牲者第一号として…ソガくん。キミにはここで、死んでもらおう。」
周囲のロボットたちがジリジリと包囲の輪を狭めはじめ、ゲルググが手にした短い棒きれの両端から光る刃が迸り出た!
それでもソガは、死中に活を求めるべくあたりに視線を飛ばしたが、しかしこの絶望的な状況を打破してくれそうなものは何一つ見当たらない!
(万事……窮す…か?)
「…グッバイ、ソガくん。」
オモチャじいさんの死刑宣告度同時に、ゲルググが処刑人の刃を振り上げた!!
だがそのときである!
どがーーん!!という轟音とともに、コンクリートをぶち抜いて巨大な真紅の手が飛び込んできたかとおもうと、絶体絶命のソガを掴みだした!
357A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/10(金) 17:00:54 ID:7dwmEimv0
ガラガラとものが崩れる音!なだれ込む土砂と水の湿った臭い!そして激しい爆発音!!
……だがそれは一瞬のことだった。
気がつくとソガは、最初にいた倉庫の近くを流れる川の川べりに横たえられていた。
静かな夜の川面には月が浮かび、いままでの出来ことがまるで別世界の話のように思えるが……。
「気がつきましたね」と傍らから声をかけてきたのは、下水道で生き別れになったあの「見知らぬ男」だった。
………いや、彼はもう「見知らぬ男」ではなくなっている。
ソガは彼の正体にはとっくに気づいていた。
「ありがとう、ダン。」
「死人」氏=ソガは笑いながら手を差し出すと、「見知らぬ男」=ダンも微笑んでその手をとった。
「なんだ、気がついてたんですね。くやしいなぁ」
「その笑顔でぴんときたのさ。『オレは昔、こんな笑顔を見せてくれるヤツを一人知ってるぞ』ってな。」
あっさり変身を見破られていたにも関わらず、ダンの笑顔は「悔しい」どころか「嬉しくってしようがない」としか見えない。
「チブル星人の基地は、ボクが完璧に叩き潰しました。」
「そうみたいだな。これでオモチャじいさんの第二次アンドロイドゼロ指令も……」
そのときソガは、はっと気がついた。
いつのまにか、川面に浮かぶ白い影が、さっきまでとのものとは違っている!
丸い月とは似ても似つかぬその白い影は、はっきり「人の形」をしていた。

358A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/10(金) 17:05:11 ID:7dwmEimv0
「デュワッ!」
地響きを立てて川の向こう岸にウルトラセブンが降り立つと、「白い人型」の双眼に緑色の光が灯り、胸の二つのダクトから白い煙が噴出した。
オモチャじいさんの最強戦士、オモチャ工場の最後の作品にして唯一の生き残りとは?
「たしか!たしかこいつは……」
あり得べからざる光景に、ソガは思わず息を呑んだ。
「こいつは……ガンダム!?」
1/60パーフェクトグレードをも遥かに凌駕する、2.5/1(実物の2..5倍)。
究極のガンプラが、川を挟んでウルラセブンと睨みあっていた。
359名無しより愛をこめて:2007/08/10(金) 17:11:35 ID:7dwmEimv0
書いてる本人が言うのもなんですが、ムチャな話です。
セブンの相手が板違いだろうと。
それから「どこがウルQ」なんだよと。
でも、最終的には「ウルQ」か「怪奇大作戦」的なオチになるんです。
もっとも、特撮ものを見るだけでなく、ホラーやファンタジー、SFを読みこなしている人だったら、とっくに見破ってるかもしれませんが。

と、いうわけでお盆休み期間中は、「オモチャのチャチャチャ」もお休みです。
みなさん、いい休暇を。
360名無しより愛をこめて:2007/08/11(土) 22:48:59 ID:l9frERST0
361名無しより愛をこめて:2007/08/14(火) 11:42:05 ID:4LZDNgjU0
支援
362名無しより愛をこめて:2007/08/16(木) 10:44:05 ID:2CqQ+dZU0
支炎!!
363A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/16(木) 17:12:51 ID:RMAf3yhZ0
カキーン!
ガンダムもどきの機先を制してセブンが放ったアイスラッガーは、ガンダムもどきの二重の盾に火花を散らして跳ね返された。
思わずソガが呻いた。「まさかアイツの装甲は!?」
ガンダリウム合金などではない!キングジョーと同種の宇宙合金の改良型だ。
「もしあのガンダムもどきの装甲がキングジョーの改良型だというなら、セブンの武器は!」
アイスラッガーが効かないと見るや、セブンはウルトラビームを撃ちだした!
「やっぱり効かない!?」
必殺のエメリウム光線も、やはりガンダムもどきの盾を射貫できない!
驚きのあまり一瞬セブンが棒立ちになったのを、ガンダムもどきは見逃さなかった。
角ばったボディラインからは想像も出来ない素早さで身を翻すと、次の瞬間、ガンダムもどきはセブンにビームライフルを突きつけた。
「なんて速さだ!こいつホントにロボットなのか!?」
驚くソガの目の前で銃口から迸る閃光!
一発!二発!三発!!
しかし、セブンはこの攻撃をとっさのバック転で回避。
更に、回転しながらセブンは、自身の回転力も加えてアイスラッガーを放った!
今度も盾を構えてこれを弾き返そうとするガンダムもどき。
だがセブン自身の体重や回転力も載った今度の一撃は…
…バキィーーーン!
硬質な音を立ててガンダムもどきの二重盾が真っ二つに叩き割り、返す刃でビームライフルも両断した!
ライフルの爆発で上体が仰け反るガンダムもどき!
敵の体勢の崩れに乗じ、一気に間合いを詰めるセブン!
しかしガンダムもどきには、まだ奥の手が残っていた。
顎をぐっと引き、飛び込んでくるセブンの顔を真正面に見据えると頭部バルカンを発射した!
364A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/16(木) 17:14:09 ID:RMAf3yhZ0
「デュワッ!」
ガンダムもどきのメイカンカメラのセンターから、瞬間的にセブンの顔が外れた!
10メートル以下の至近距離から出し抜けに放たれたバルカンに、直撃を許さなかったのは「歴戦の戦士のカン」としか言いようが無いだろう。
だがガンダムもどきの反応も早かった。
肩ごしにビームサーベルを引き抜くと、両手で逆手に握り、足元に転がるセブンに突き下ろす!セブンはこれを転がり避ける!
転がるセブンと追うガンダムもどき!
突き下ろされるビームサーベルは一瞬の時差で大地を抉った!

「まずいぞ!」
ソガの口から言葉が漏れた。
「セブンは防戦一方だ。このままでは……」
そのとき、ソガの肩に誰かがそっと手かけた。
365A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/16(木) 17:15:03 ID:RMAf3yhZ0
赤い光を放ちセブンの頭に迫るビームサーベル!
膝立ちの姿勢で下からこれを支えるセブンの手にはアイスラッガーひとつ。
ガンダムもどきは全体重をかけてビームサーベルを押し込んでゆく…。
首筋に迫るビームサーベルの熱を避けるように、セブンが顔を背けた。
ビームサーベルはジリジリと迫っていく……。

「た、隊長!」
ソガが振り返るとそこに立っていたのは…懐かしい顔、キリヤマ隊長だった。
退役したからか、キリヤマはウルトラ警備隊時代には一度も見せたことのないような、温和な顔で微笑んでいた。
「隊長!セブンが、セブンが…」
「ソガよ…」
温和な微笑みを浮かべたまま、キリヤマはソガの言葉を制した。
「ダンを信じるんだ。我々が信じないで、いったい誰がダンの勝利を信じるというんだ!?」
「ダンを……」
キリヤマは「セブン」とは言わず、「ダン」と呼んだ。
そのとたん、ソガの心にダンと過ごした日々の記憶が、昨日のことのように蘇ってきた。
笑っているダン、怒っているダン、そして泣いているダン……
そして……すべての記憶の最後に、あのころ抱いていたある確信が蘇った!
「そうだ!ダンは負けない!どんな恐ろしい侵略者にだって、ダンは負けないんだ!」
……自分でも気づかぬうちに、ソガは命の限りに叫んでいた。
「ダンは負けない!必ず勝つ!!」
366A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/16(木) 17:15:47 ID:RMAf3yhZ0
「ダンは負けない!」
力の限りソガが叫んだそのときだった。
セブンの腕に力こぶが盛り上がってガンダムもどきのビームサーベルを押し上げたかと思うと、一瞬のうちに体を返して相手の両腕の下に潜りこんだ!
そしてガンダムもどきの両腕を一まとめに抱え込み、そのまま一気に…
「やったぞダン!」
……ぶん投げた!
半径50メートルの巨大な弧を描き、頭から大地に叩きつけられるガンダムもどき!
しかし、胸のダクトから蒸気を吐き出しながら、ガンダムもどきはなおも立ち上がると、左肩ごしに残り一本のビームサーベルも引き抜いた!
アイスラッガーを手に飛び込むセブン!
再び唸るバルカンのシャワーを体を沈めてかわし、続けざまに襲い来る右のライトサーベルをエルボースマッシュで空中高く跳ね上げる。
そして左のビームサーベルをアイスラッガーで受け止め……
落下してきた右のビームサーベルをキャッチ!
そのまま敵の武器でガンダムもどきの胴体をなぎ払った!
オモチャじいさんの開発したビームサーベルは、オモチャじいさんの持ち込んだ特殊合金をも溶断!
真っ二つになって、巨大ガンプラは崩れ落ちていった。
……セブン……いやダンの、絶対絶命からの逆転勝利だった。
367A級戦犯/オモチャのチャチャチャ:2007/08/16(木) 17:16:58 ID:RMAf3yhZ0
明けの明星を背にソガを見下ろすダン。
「やった!ダンが、ダンが勝ちましたよ、隊長…」
子供のようにはしゃぎながら振り返ったソガに、キリヤマは黙って新聞を差し出した。
その朝配られるはずの朝刊、日付は8月15日。
同時にソガは思い出した。
キリヤマ隊長は先年亡くなられていたはずだ……と。

(そうか……そうだったんだ…)

その瞬間、ソガはすべてを悟った。
この一夜の冒険も、そしてキリヤマが来てくれた意味も…。
「隊長、わざわざ迎えに来てくださったんですね?」
キリヤマがそっと右手を差し出した。
「さあ行こう、ソガ。」
「死人」氏はためらうことなくその手を握り返した。
「はい、隊長。」
…………

……こうして…
…こうして「死人」氏の一夜の冒険は終わりを向かえました。
いまでは彼も、辛い試練の時を終え、気心の知れた隊長とともに平和なときを過ごしている……。
わたしは、そう信じたいんです。
……信じたいんです。
わたしは…


お し ま い
「A級戦犯/オモチャのチャチャチャ」
368名無しより愛をこめて:2007/08/16(木) 17:27:51 ID:RMAf3yhZ0
お盆休みの前後で投下終了になりそうだったので、当初の予定を変更して「オモチャ」を投下しました。
ところが例によって仕事が忙しく、殆ど打てない(苦笑)。
なんとかかんとかスケジュールだけは間に合わせました。

もし、月曜になってもX話氏が復帰されないなら当初予定の「人形の家」の投下を開始します。
369名無しより愛をこめて:2007/08/18(土) 10:01:12 ID:S13k2+uH0
保守応援
370名無しより愛をこめて:2007/08/18(土) 10:48:05 ID:vbb0jziUO
なんだよこのスレwwwww















神スレ乙www職人すごすぎwwwwwww
371名無しより愛をこめて:2007/08/19(日) 20:34:10 ID:eE6666Hk0
メビウスの脚本スレ知らない?
372名無しより愛をこめて:2007/08/20(月) 08:03:45 ID:VhVnJFYz0
「神…」なんぞと書かれてしまったので、そんなたいしたもんじゃないという意味で…。

「オモチャのチャチャチャ」のメインテーマは「死者の見ている夢」です。
と、いうわけで参考にしたのはアンブローズ・ビアスの「アウルクリーク橋の事件」と「カルコサの一住民」。
更にはプレステ2ゲームの「サイレントヒル2」。「死人」氏が「倉庫の壁から落ちる」「下水道に降りる」「見知らぬ空間に落ちる」「狭い斜路を滑り落ちる」あたりがそれ。
地下のオモチャ工場は煉獄の意味で、「死人」氏は、そこからセブンによって助け出される。
死者の夢なのだから不条理感が必要なので、「壁が不意に無くなって唐突に落下」したり、「ガンダムもどきは地下から出てきたはずなのにその音や振動の描写が無いこと」「何故か現れるキリヤマ」などはそのため。
導き手のキリヤマは、映画「ジェイコブズ・ラダー」でのマコーレ・カルキンの役どころです。

どうです?見事にツギハギでしょ?独創性のカケラも無い(笑)。
373名無しより愛をこめて:2007/08/20(月) 13:07:32 ID:VhVnJFYz0
「動きはありませんね。」
…ぱちん…
「…ああ」
ぱちん………ぱちん……
ねっとり蒸し暑く、墨汁で染め上げたような夏の夜、時刻は午前0時半…
「蒸し暑いですね。」
「……夏だからな」
虫避けスプレーなどというものは、止め処なく流れる汗がとっくのとうに流し去っていた。
「蚊も…(ぱちん!)…多いし…」
……ぱちん
「……もうちょっとよく見える場所に移動しませんか?」
「ごちゃごちゃ五月蝿いぞ!」
岸田警部はついに声を荒げた。
「これ以上近づくわけにゃいかないんだ。相手は村の旧家で、村の連中は恐ろしく閉鎖的なうえに、事実上ヤツの使用人みたいなもんだときてる。」
「はいはい、わかってますよ。」凍条は首をすくめた。「でも通報した人も村人なんでしょ?」
「だからこそ迂闊にゃ動けん。通報者に危険が及ぶからな。」

どんよりと流れを無くした闇の中に、村は、じっと息を殺していた。

「A級戦犯/人形の家」
374A級戦犯/人形の家:2007/08/20(月) 17:30:49 ID:VhVnJFYz0
「はいこちら………え!?なに??………お、おい待って、おい!?」
デカ部屋に凍城の声が響いたとたん、部長と岸田警部が同時に言った。「タレコミか!」
「え?……なんで判りました?」
「一方的にテメエの言いたいことだけ言って、さっさと切る。タレコミ以外の何だっていうんだ?」と部長。
「小学生なら、電話に向かって『チ○コー!』って叫んで切る展開もあるが、ここは刑事部屋(デカべや)だからな。そういうのはない。」と、こっちは岸田警部だ。
要するに、若い凍条刑事よりも部長や岸田警部の方が、はるかに甲羅を経た刑事(デカ)であるということだ。
「それで凍条」再び部長が口を開いた。「…どんな電話だったんだ?」
「『……の菊池家に、次々女の人が連れ込まれた。このままだと殺される。早く助けて。』早口で一方的にそうまくし立てただけですぐ電話は切れてしまいました。」
『殺される』という言葉が凍条の口から飛び出したとたん、部屋の空気が一変。部長の下に次々情報が集まり始めた。
「場所は…実在します」
パソコンでの住所検索を終えた刑事から声が上がった。
「…かなりの田舎ですね。」
別の刑事も受話器を置いて言った。「…付近の警察では誘拐事件の届けは出ていないそうです。」
「しかし誘拐ではなく家出扱いになっている可能性もあるからな。…『菊池家』で何か記録は無いか?』
「犯歴は何もありません。誘拐・殺人どころか駐車違反に至るまで犯歴は何も無し。真っ白です。」
「駐車違反なら犯そうったってたぶん無理だ。えらいド田舎だからな。でも誘拐や殺人なら……。」
「……うってつけというわけか。……録音の再生は?!」
ニコチンでしゃがれた声で部長が吠えると、直ちに別の声が応じて叫んだ。
「OKです!」
岸田らのデカ部屋にかかってきた電話は、それが例え「今晩のオカズはアジのひらきでいいかしら?」という内容であっても、自動的に録音されることになっているのだ。
「再生始めます!」の声にたちまち静まりかえる室内。
そして…録音されたついさきほどの凍条の声が流れ出した。

≪はいこちら………え!?なに??………お、おい待って、おい!?≫

……それだけだった。
凍条の声以外、誰の声も録音されていなかったのだ。
375A級戦犯/人形の家:2007/08/21(火) 17:26:29 ID:MApDv9eL0
「そ、そんなバカな!?僕は間違いなく相手と話をしました。本当です!ウソじゃありません!」
「誰もウソだなんて言っとりゃせん。」困惑顔の凍条をギロリと一瞥すると部長はさっきの刑事に尋ねた。「録音装置はちゃんと作動してるんだな?」
「はい」と短く簡潔な言葉が直ちに返ってきた。
「と、いうことは…」二重顎の先端にちょぼちょぼ生えた貧相なヒゲを掻き毟りながら部長は唸った。「うーむ…それでは電話は間違いなくかかってきたということだな?」
「そうです。外線から着信したのでなければ録音装置は作動しません。」
「…では…なぜ録音装置に記録されていないんでしょうか?」
「たしかにそれも問題だが……」
「ん?…失礼ですが部長、それ以外に問題があるとでも?」
思わず突っ込んでしまった凍条だったが、やれやれ……というふうに首を横に振るばかりで何も答えてはくれない部長。代わって彼に答えてくれたのは岸田警部だった。
「最大の問題点は、電話がかかってきたのがこのセクションだということだ。」

376A級戦犯/人形の家:2007/08/21(火) 17:27:31 ID:MApDv9eL0
以前から、「警視庁不可能犯罪捜査部」という言葉は存在していた。
しかしそれは警察組織内部での一種の都市伝説とでも言うべきものであって、実際
にそういう部署が存在するというわけではなかったのだ。
しかし……
近年相次いだ怪事件の数々。
衆人監視の中で盗難事件が発生し、しかも誰一人何が盗まれたのか気がつかない…。
あるいは…エイのバケモノの大量発生と謎の集団による客船ジャック。
あるいは…完全密室下での掲示板住人連続殺人事件。
数々の奇怪な事件が、「通常の警察機構」と「怪獣やっつけ隊」の中間レベルの事件を取り扱う「特別な警察」の設立を促したのである。

「ただの誘拐殺人なら、所轄の警察に電話すりゃあいい。しかし、謎の通報者は、普通の警察には連絡しないで、この不可能犯罪捜査部に連絡してきた。…いったいなぜだと思う?」
岸田の言葉に、東条ばかりでなくデカ部屋が静まり返る。
部長がまた大きなため息をついた。
「やれやれ、それに気がついてたのはリンだけか?」
リンというのはごく親しい間柄のものだけが使う、岸田警部の仇名である。
静まり返ったデカ部屋に部長のダミ声が木魂した。
「理由は判らんが、通報者は、事件の通報先として『不可能犯罪捜査部』が相応しいと思っている。録音ができなかったことなんか枝葉の問題だ。」
377A級戦犯/人形の家:2007/08/21(火) 17:28:05 ID:MApDv9eL0
刑事の1人が途方に暮れたような声で漏らした。
「そ、それじゃあ、通報者はなぜ不可能犯罪捜査部が相応しい事件だと考えたんだ?」
「行って調べてみりゃあ判る!」
議論を打ち切るように岸田警部が立ち上がると、イスの背もたれにかけた背広を無造作に引っ掴んだ。同時に、肥満した仏陀を連想させる部長の顔に「まってました」の笑みが浮かぶ。
「考え無しに動くのはバカ野郎だが、考えるばっかで動かないヤツはもっとバカ野郎だ」
「ボクも行きます警部!」
岸田を追うように凍条も立ち上がった。
「通報者の声を聞いたのはボクだけです。ボクがいなければ、通報者が目の前にいても警部には判りません!」
「定時連絡だけは欠かすなよ!!」
妙に嬉しそうな部長のダミ声を背に受け、岸田警部と凍条刑事はデカ部屋を飛び出していった。
378名無しより愛をこめて:2007/08/22(水) 07:56:43 ID:6M76iukr0
人形怪談あれこれ…
「砂男」ホフマン
「モクスンの人形」ビアス
「フランケンシュタインあるいは現代のプロメテウス」シェリー
「恋がたき」ヘクト
「シャリアピン」ローマー
「ダンシングパートナー」ジェローム
「デモンシード」クーンツ
「青い血の女」怪奇大作戦

それから怪談ではないけれど…
「人形の家」イプセン
379A級戦犯/人形の家:2007/08/22(水) 17:19:24 ID:6M76iukr0
現地に着くと岸田警部と凍条刑事の二人は、まず地元を管轄する警察署に顔を出した。
なんにしても礼は尽くしておきたかったし、それに地元の協力無しには捜査など立ち行かないからである。

「ああ……××の菊池家ですか。ええ、知っとりますよ。地元じゃ旧家ですからね。」
応対にでてきた白石という刑事には明らかに地元のナマリがあったので、地元出身なら何か情報があるはずと話を向けてみたが、釣果は上々のようだった。
「江戸時代から材木を商ってたつうこってして…。ご存知かもしんませんが江戸つうトコはエラク火事が多い町で。大火があるたびに再建に必要な木材で大儲けしたっつうこってす。」
菊池家について何か知っていることはないかと訪ねはしたが、まさか江戸時代のことまで出てくるとは思わなかった。
凍条は内心じれていたが、横目で盗み見た岸田警部にはそんな気配は微塵もない。
出された茶を啜りながら、何気ない風に岸田は尋ねた。
「…と、いうことはかなりの資産家なんでしょうな?」
「戦後の農地解放でそうとう地所を取り上げられたみたいですから昔ほどではない思いますが…。村で一番の資産家なのは間違いないでしょな。」
「…村?市ではなく??」
「あの辺りは町村合併で今でこそ××市になっとりますが、以前は滝安村っつう村だったんです。それで地元のもんは今でも『村』言うとるんですわ。」
「家族構成は?」
「先代御当主の正行さんが3年前に亡くなられてからは、未亡人の淑恵奥様に長女の静香さん、それから弟の透さんの三人家族が、使用人たちに囲まれて暮しとるはずですわ。」
「…姉の静香さんと弟の透さんのご結婚は?」
「それが二人ともまだでして……」
380A級戦犯/人形の家:2007/08/22(水) 17:19:55 ID:6M76iukr0
岸田と凍条の二人が警察署を辞去したのは小一時間ほどもあとになってからのことだった。
「やれやれ…。警部、なんでこんなところで一時間近くも無駄にしたんですか?」
警察署を出るなり、凍条は尋ねた。
「それより一刻も早く菊池家に…」
とたんに警部の罵声がすっ飛んできた。
「このボケナス!テメエ警察学校出たての素人か?何年デカやってるんだ!?」
「は、はい…」
「まず第一に、タレコミが本当とは限らない。悪意に基づくウソっぱちかもしれねえ。
げんに今の白石とかいう刑事だって菊池家に対していい感情は持ってなかったぞ。気がつかなかったか?」
これには全く凍条は気がつかなかった。
「そ、そうだったんですか?ボクはてっきり…」
「……客観的な意見だと思ったか?」
凍条が首を縦に振ると、岸田は「やれやれ」と首を横に振った。
「二番めは、通報者の安全を図る必要がある。俺たちがいきなり菊池家に乗り込んだら、それだけで通報者を危険に晒すことになるかもしれん。」
これも凍条は全く考えていなかった。
「……考えが足りませんでした。すみません。」
「被害者の安全、通報者の安全、そして通報された者の権利も、オレたち警官は配慮しなきゃならん。大事なことだ。覚えとけよ。」
そう話しながら、岸田はさっきの刑事に教えてもらったバス停とは反対の方角に歩き始めた。
「け、警部…方向が反対では?」
「こっちでいいんだ。」
岸田には何か考えがあるようだった。
「さっき聞いたような村に、オレたちがバスで入るとするとだな、10分後ぐらいにはオレたちの到着は村中に知れ渡ってるだろう。それが小さな村ってもんだ。」
381A級戦犯/人形の家:2007/08/22(水) 17:20:31 ID:6M76iukr0
「しかし…」
…ぱちん…
「…いくらなんでもレンタル自転車なんて…」
ぱちん………ぱちん……
「自転車なら…(ぱちん!)…音がしない。(パチン)藪の中にだって……(ぱちん)隠しておける(パチン!)」
こうして二人はねっとりした闇に身を潜め、村と菊池家の動きを伺っていた。
さっきから随分叩きまくっているにも関わらず、やぶ蚊の数はいっこうに減らず、それどころかむしろ増えているようにも感じる。
事実、「話すあいまに蚊を叩く」というより、「蚊を叩くあいまに話す」ようなありさまになっていた。
「蒸し暑いですね。」
「……夏だからな」
ついさっき交わしたばかりのやりとりのような気がするが、黙っているとかえって蒸し暑さが堪えるので喋っているだけなのだ。内容がダブろうが重複しようがどうでもいい。
「……やっぱりもうちょっとよく見える場所に……」
「移動しませんか」と続けようとした矢先、隣の岸田警部の体に緊張が走った!
「おい!動きがあったぞ!」
382名無しより愛をこめて:2007/08/22(水) 17:24:28 ID:6M76iukr0
しかしこんな駄文、特撮板に落としていいのか(笑)。
自分で書いてて疑問に思えてくる。
]話氏のはこんなじゃなかったな…。
383A級戦犯/人形の家:2007/08/23(木) 17:11:00 ID:o7XoRm2c0
曲がりくねった村道を、二つ並んだライトがぐらぐら揺れながら走ってくる。
「ヘッドライトですね」と凍条。「でも菊池家の車かどうか?」
「並んだライトの幅からいってかなりの大型車だ。菊池家に決まってる。」
岸田警部の読みどおり、車は鈍いエンジン音を上げながら警部と凍条が潜むのとは反対側の斜面を這い登り、岸田家の門前で停まるとヘッドライトが消えた。
すぐさま岸田は上着のホルダーから小さな光学機器を取り出すと目に押し当てた。
スターライトスコープだ。
僅かな光を増幅することにより、僅かな星明り程度でも白昼のように明るく見ることのできるアイテムである。
「…車から若い男が降りてきたぞ。家の中からは爺さんが出てきた。二人して車の荷室からなにか毛布に包まれたものを下ろしてる。」
「人間ですか?」
「毛布で包まれてるし……ここからでは判らんな。」
「ボクに見せてください。」
岸田からスターライトスコープを受け取ると、凍条は手早くピントを合わせて菊池家の方角に向けた。
そして……思わず息を呑んだ。
(美しい…)
スターライトスコープの狭い視界に現れたのは、「若い男」でも「老人」でも、もちろん「誘拐された女」でもなかった。
そこにあったのは……女の顔だった。
増幅された光の中、肌は抜けるように白く、髪は僅かに肩にかかる程度で細いうなじを左右から飾っている。
そしてその瞳は……
凍条刑事は吸い寄せられるように、女の目元にピントを合わせた。
(泣いているのか!?)
女の睫毛には間違いなく光が宿って見える…
そして彼は確信した!
電話をかけてきたのはこの人だ!
間違いない!
そう凍条が確信したとき!女がすうっと視線を上げたかと思うと、真正面から凍条を見つめ返した!
「あっ!?」
凍条が短く叫ぶと同時に、菊池家の門はピシャリと閉ざされてしまった。

384A級戦犯/人形の家:2007/08/24(金) 17:19:04 ID:EVzVVcpW0
「ええ…そうです。昨夜遅く、たしかに何かを運び込んでました。」
『それが何なのかは、確認できなかったんだな?』
「残念ながら…」
夜明け前にいったん岸田警部と凍条刑事は自転車で宿に戻ると、直ちに部長の個人携帯に連絡を入れた。
朝の四時半というとんでもない時間だったにもかかわらず、ワンコールで部長は電話に出た。
この部長、ひとたび事件が起こると誰一人として寝ているところを見たことがないという男なのだ。
『……外部の人間が立ち入ればあっという間に村中に知れ渡る……か。厄介だな。』
「おまけに村中の人間が事実上菊池家の使用人です。……ところで部長。被害者に該当しそうな行方不明者は見つかりましたか?」
『そっちは上野が調べたが、捗捗しくないな……』
被害者が未成年、特に幼児だったり、あるいは身代金要求があったりすれば、家族はすぐさま届けをだす。だが、そのどちらにもも引っかからなければ、家族は「無事かもしれない」という希望的観測から捜索依頼をなかなか出さないものなのだ。
「他に情報はありませんか?」
『丘が録音データを調査している。気になることがあるのだそうだ。』

……携帯を切ったあとも暫くのあいだ、岸田は携帯を手にしたままの姿勢で考え込んでいた。
(昨夜運びこまれたのは、本当に人間だったのか?)(通報者はいかなる人物なのか?)そして(この事件のどこに、不可能犯罪捜査部に相応しい要素があるというのか?)
いずれにしろ考えている時間はあまり無い。
昨夜運びこまれたのが生きた人間ならば、今日明日にもその命が危険に晒されるかも知れないからだ。
「動くか…」
パチンと音をたてて携帯が閉じると、それが合図だったかのように岸田は立ちあがると、閉じた襖の向こうに声をかけた。
「おい凍条!出かけるぞ。」
……………返事は…ない。
「何をぐずぐすやってるんだ!さっさと…」
ガラガラッと襖を開いたところで岸田の声は止まった。

……隣室には誰もいなかった。
凍条刑事は、姿を消してしまっていたのである。
385名無しより愛をこめて:2007/08/24(金) 17:19:36 ID:EVzVVcpW0
もともとはミステリー系の人間なもんで、岸田警部中心のこういう展開は構成しやすいんですが、そのせいか今のところ特撮的な話にはなっていません。
でもご心配なく。
昨夜見た謎の女こそ通報者であると信じた凍条は、単身菊池屋敷に忍びこみます。
そこで彼が見たものとは!?
「牧場の家」「装置の家」そして「人形の家」へと、お話はそれっぽさを増してまいります。
それまではしばし、ご辛抱ください。

なお、「人形の家」は、土日はお休みです。
この駄文をお読みくださる奇特な皆さん、楽しい週末を……
386名無しより愛をこめて:2007/08/25(土) 04:39:57 ID:AHIlM8/l0
387あぼーん:あぼーん
あぼーん
388名無しより愛をこめて:2007/08/26(日) 16:19:20 ID:MoyFVMP00
応援
389名無しより愛をこめて:2007/08/27(月) 07:32:08 ID:PqrCY/xP0
「人形の家」の投下が終わったら「古代の守人」を予定してたが……
よし!
「死ねよゴミクズ共」をキーワードに構成してみよう!
もちろん第]話氏が復帰しなかったらの話だけれど。
390A級戦犯/人形の家:2007/08/27(月) 17:16:39 ID:PqrCY/xP0
姿を消した凍条刑事は……菊池屋敷裏手の山林に身を潜めていた。
人目の無い山側から密かに接近するつもりだったのだが…都会育ちの凍条は知らなかった。
こうした集落では、道は木の枝のように一本の幹から枝分かれするように伸びている。
そして枝同士は繋がっていない。
外の世界と菊池屋敷を繋ぐ道路が幹で、他のすべての道はそこからの枝別れなのだ。
だから、菊池屋敷の裏手に回りこもうと思ったら、道無き山中を延々迂回していかなければならず…
結局、凍条が目指す場所に辿り着いたときには、お日様はもう西の空へと傾きはじめていたのである。
目指す菊池屋敷は、藪に隠れた凍条の眼下いっぱいに広がっていた。
「あの人は……この屋敷のどこにいるんだ?」
江戸時代のころから建て増しを繰り返した屋敷は、上から見るとまるで迷路のようであり、トグロを巻いたヘビのようにも見え、昨夜見た女性の居場所など皆目検討もつかない。
ならばと、女性を……昨夜運びこまれたのが女性であるとするならばであるが……閉じ込めておける場所を探してみたが、丘の斜面に沿って菌類のように盛り上がり広がる屋敷は、
一階なのか二階なのかすら一目では判り難いほどだった。
凍条が肩越しに振り返ると、山間に降り注ぐ陽光は早くも山陰に隠れようとしている。
「…行くか。」
凍条は心を決めた。
「時間をかけ過ぎると、連れ込まれた女性ばかりでなく、通報した静香さんも危なくなる。」
凍条の心の中では、「通報者」と「昨夜の女性」そして「菊池家の一人娘静香」がイコールでもって繋がっていた。
「よしっ!」
自分を鼓舞するようにそう言うと、凍条は慎重に斜面を滑り始めた。
391名無しより愛をこめて:2007/08/28(火) 15:03:57 ID:d7y68suM0
応援!

>>389そうですね。この場合、是非、期待に添うべきですね。
392A級戦犯/人形の家:2007/08/28(火) 17:24:47 ID:rEaSar7U0
侵入そのものはいたって簡単だった。
中に入ってすぐに凍条は、無数にある部屋のうち山側の部屋の殆どは全く使われていないに違いないと気がついた。
更にいくつかの部屋を抜けていくと、凍条は異常な部屋に行き当たった。
家財道具が金のかかっていそうな良い物であることから、使用人部屋でないことは明らかなのだが、そうした家具の殆どがひっくり返され、枠から外れた障子が破れて転がっていた。
彼の刑事としての目が、家具の荒らされ方や障子の破れ方から一つの結果を導き出した。
「争いながら移動したのか……」
刑事の本能から、凍条は荒らされた部屋部屋を、争いの当事者たちが移動したと思われる方向へと辿っていった。争いの痕跡はそのあと五つの部屋を通り抜け、六つ目の部屋で終わっていた。
最後の部屋の床には、床一面に広がった黒い染みが、厚い埃の層を通しても容易に見て取れる。
「かなり古いけれど……血だ。」凍条は呟いた。
多くの部屋を通り抜けて来た争いは、一方の死をもってここで終わったのだ。

『このままでは殺される』 『早くたすけて』

殺人が具体性を帯びてくると同時に、あの電話の声が耳に甦り、凍条をせき立てた。
「急がないと…」
だが、迷路のように折り重なった屋敷の中でどうやって閉じ込められた女性と通報者を見つけ出すというのか?
凍条が立ち尽くしたそのときだった。
屋敷のどこかから、木部がギシリと軋む音が聞こえた。
393A級戦犯/人形の家:2007/08/28(火) 17:25:37 ID:rEaSar7U0
(誰かいる!?)
凍条は半ば動物的感覚で動きを止めると、ありったけの神経を耳に集中した。
……ギシリ
……ギシリ
……ギシリ
(…足音だ!この部屋の近くを誰かが歩いてる!)
…ギシリ……ギシリ……ギシリ
(こっちに来るのか!?)
だが、凍条の方にやって来るかに感じられた足音は、俄かに向きを変えて遠ざかったかと思うとピタリと停まった。
(……ひょっとしてボクに気がついたのか?)
じっと動かないまま息を殺すこと数秒……やがて凍条の耳に低い話し声が聞こえてきた。
「…待っていて…」
「……」
「……もうすぐ母さんのその腕に……」
「………」
「……菊池家の跡取り息子を……」
1人は男の声。もう1人は……
(……だめだ。よく聞こえない。)
男が話しかけている相手の言葉は、声もかすかで殆ど聞き取れない。
なんとか聞き取ろうとして、凍条は無意識に声のするほうへと僅かに体を傾けた。
…ぎしいぃっ!
僅かな重心の移動が生んだその音は、それ自体は微かな音だが、古い屋敷の中ではまるで大砲の砲声と同じだった。
話声がピタリととまり
…そして…
「…そこにいるのは…誰だ?」
394A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:14:33 ID:NN3Udi/X0
「そこにいるのは誰だ!?」
誰何の声と同時に金属的なガチャリという音が聞こえた。
鋼鉄の部品の作動音……猟銃か拳銃の撃鉄を起した音だ。
凍条はとっさに上着の下に手を突っ込んだが、そこにあるべき拳銃は無い。
個人行動だったので、走り書きのメモと一緒に宿の部屋に置いてきたのを思い出した。
(まずいぞ!)
この屋敷では以前にも人殺しがあったらしい。声の主がもしその犯人であったなら!?
ギシリ!…ギシリ!…ギシリ!
軋みの間隔が短くなった。しかし、まだ凍条の位置を正確に把握しているわけではないらしい。
探るように…窺うように…、軋みは遠くなり近くなっている。
凍条はこれ以上自分の位置を判らせないよう、慎重に後ずさりをはじめた。
だが………ミシッ!凍条の足元で床板が微かな悲鳴を上げると、幾部屋か向こうから聞こえていた軋み音がピタッと止まった。
(気づかれた!)
…ギシリ!ギシリ!ギシリ!ギシリ!
今度は明らかにハッキリした目標をもって、軋み音が凍条へと向かって来た!
バン!…障子が開いた音だ!
もちろん凍条のいる部屋ではないが、しかし、そう遠くの部屋でもない。
声の主とのあいだにあるのは、たぶん二部屋か三部屋。
凍条の窮地を見透かしたように声が響いた。
「もう見つけた。逃がしません。」
(くそっ!こうなったら…)
一か八かの決意を固めて凍条が踏み出そうとした瞬間……、彼の肩にそっと誰かの手が置かれた。
395A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:15:16 ID:NN3Udi/X0
驚き振り返る凍条の目の前にあったのは、昨夜見たあの女の顔だった。
何か言おうとする凍条にむかって、「静かに」と口元に人差し指を立てると、毅然とした声で女は言った。
「なんですか、透?」
「お…お姉さま?」
(なんだって?それじゃやはり…)
驚く凍条の目の前で、障子越しの会話は続いた。
「静香お姉さまなのですか?」
「そうです。」
「なら…なぜ早くそうおっしゃっていただけなかったのですか?」
「ごめんなさい。考え事をしながら物を探していたのです。」
「探し物なら僕がお手伝いを…」
「結構です。もう用は済みました。」
「そうですか……。」
それだけ言うと、ギシリという軋み音がその場所から遠ざかっていった

(行った……)
安堵すると同時に、凍条の全身からどっと汗が流れ出した。
「あ、ありがとうございます。」
振り返って礼を言った凍条が思わずドモってしまったのは、まんざら緊張が解けたからというだけでもなかった。
息がかかりそうな近さから、菊池家の長女がじっと見つめていたのだ。
まるで一昔以上前のマネキンのような、完璧に整った顔だ。
あまりに整いすぎてリアリティが感じられず、結局廃れてしまったマネキンのような…。
女性としてはかなりの長身で175センチ前後、細面の顔に鶴を思い出させる白いうなじ。
華奢な線を描きながらも肩幅そのものは身長相応に広いので、服装によってはアスリートのように見えるかもしれない。
そんなことを取りとめも無く考えていると、菊池家の長女はゆっくりと口を開いた。
「あなたは……私と話された警察の方ですね?どうぞ、こちらへ。」
「ではやはりあの電話は?」
静香は小さく頷くと、踵を返し先に立って歩き出した。
「あまり時間がありません。弟が作業を始めてしまいます。さ、早く!」
396A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:16:31 ID:NN3Udi/X0
同じころ、岸田警部がアジトとしているビジネスホテルの一室を、思わぬ人物が訪れていた。
「部長!?本部を空にしてなぜこんなところまで?」
岸田はすこしばかり驚いて見せたが、実際のところ部長の神出鬼没ぶりは一部では有名だった。
「あのタレコミ電話がかかってきた日、オレが言ったことを覚えているか?」
汗を拭き拭き簡易ソファーに腰を下ろすと、部長はそう切り出した。
「普通の警察に電話をかけず、不可能犯罪捜査部に電話してきたのは何故か?……でしたね。…と、いうことは??」
「なんとなく、妙な絵が浮かび上がってきたんだ。」
部長はタバコに火をつけると灰色の煙を天井いっぱいに噴き上げ、そしてもう一度、自分のセリフを繰り返した。
「なんとなく奇妙な絵が……な。」
397A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:17:19 ID:NN3Udi/X0
いくつもの部屋を抜け梯子同然の怪談を上り下りしながら……囁くように静香は語りだした。
「弟は……呪われているんです!」
「呪われる?」
「菊池家の呪い……いいえ、この国全体を今も支配する古い古い呪いです……」
(地方の特定の旧家にかかる呪いというなら、よく聞く話だ。でも……)
そう。
鍋島のネコ騒動やサーノグレイツ城の狼など、古い家柄にまつわる呪いや伝説なら、枚挙にいとまは無い。
(…しかし、「この国全体を今も支配する」呪いとはいったいどういう意味なんだ?)
「弟は、その呪いを破るモノだったはずなのです。それなのに、自ら進んで呪いの渦中に踏み込んでしまった。」
398A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:18:47 ID:NN3Udi/X0
いくつもの部屋を抜け梯子同然の怪談を上り下りしながら……囁くように静香は語りだした。
「弟は……呪われているんです!」
「呪われる?」
「菊池家の呪い……いいえ、この国全体を今も支配する古い古い呪いです……」
(地方の特定の旧家にかかる呪いというなら、よく聞く話だ。でも……)
そう。
鍋島のネコ騒動やサーノグレイツ城の狼など、古い家柄にまつわる呪いや伝説なら、枚挙にいとまは無い。
(…しかし、「この国全体を今も支配する」呪いとはいったいどういう意味なんだ?)
「弟は、その呪いを破るモノだったはずなのです。それなのに、自ら進んで呪いの渦中に踏み込んでしまった。」
399名無しより愛をこめて:2007/08/29(水) 17:20:51 ID:NN3Udi/X0
もうしわけない。
397,398とダブッてもうた。
ひらにお許しを…。
400A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:21:43 ID:NN3Udi/X0
「菊池家の代々の当主は、淫蕩といって差し支えないお歴々だったようだ。」
「…金持ちってのはだいたいそんなもんだからな。」部長の話に岸田が応じる。
またたくまに一本目のタバコを吸い尽くすと、部長は二本目のタバコに早々と火をつけた。
「……だから先代当主の正行氏には驚くほどの伯父叔母や腹違いの兄弟がいた。」
「…危ない危ない…」冷やかすように警部が合いの手を入れた。「そいつらが1人残らず菊池家の財産に群がってると。それじゃ例のタレコミは…」
「親戚縁者の誰かだと思うだろう?」部長の唇がいやらしくまくれ上がりゾッとするような笑顔を形作った。「……ところが、違うんだな。」
「ん?こりゃまたどうしてで?」
「正行氏が亡くなる半年前、親戚縁者どもは1人残らず食あたりで死んじまってるんだな。」
警部の目が冷たい光を放った。「…で、その死亡診断書はやはり?」
「そう、事実上菊池家のお抱えである村医が書いてるんだ。」
「なるほど…」イスの背もたれに体を預けると、その日のプロ野球の結果でも話題にしているような口調で岸田は言い切った。

「…殺しだなそりゃ。」
401A級戦犯/人形の家:2007/08/29(水) 17:22:15 ID:NN3Udi/X0
「家柄の古い一族では、家名を絶やさぬことが第一の重大事です。」
暫く上り下りしていた道筋は、その少し前あたりから下る一方になっていた。
「父はそんな菊池の家が大嫌いで、ドイツやアメリカで夢見ごとのような浮世離れした研究に没頭していました。……きっと父にとっては、そのころが一番楽しかったのだと思います。」
「お父さんというと、正行さんですね?」
背中を向けたまま微かに頷いて静香は続けた。
「…しかし祖父が卒中で倒れると……父は菊池の家に戻ってこざるを得ませんでした。
そして父は、菊池と同じくらい古い家柄の家から妻を娶りました。それが私の母です。」
(それでは、さっき弟の透と話していたのは、母の淑恵さんだったんだな?)
「親に決められていた結婚でしたが、それでも父と母は幸せでした。…少なくとも最初のあいだは…。」
かなりの速さで歩いているにも関わらず、静香の言葉は堰を切ったように止まらない。
「一年たち、二年たち…三年めにさしかかるころ、母には無言の圧力がかかるようになりました。」
「圧力??」
「男の方にはお判りいただけない類の圧力でしょう。子供を生めという圧力は……。」
402名無しより愛をこめて:2007/08/31(金) 18:39:16 ID:UN2xDVFZ0
忙しすぎて書くヒマ無し。
でもちゃんと終わらせます。
来週中くらいには…。

「人形の家」予定は、週の最初に「牧場」中ほどで「モクスンの人形」。
うまくいけば週末に「人形たちの家」と進行して終了です。
あくまで予定ですが…。
403名無しより愛をこめて:2007/09/01(土) 01:19:58 ID:Umk4hX+K0
q
404名無しより愛をこめて:2007/09/02(日) 01:38:01 ID:Qfdtsaj/0
応援!!日本400メートルリレー陣
405名無しより愛をこめて:2007/09/04(火) 10:07:30 ID:+kBpJu++0
応援
406A級戦犯/人形の家:2007/09/05(水) 17:16:24 ID:mR4KeQ3Q0
「子を産め?」
「男の方には判らないでしょう…。」
静香が急に足を止めたのでふと気がつくと、二人はそれまで通ってきたのとは異なる種類の扉の前に立っていた。それまでの扉は襖だったり板戸だったりしたが、すべて日本建築によるものだった。
だが、いま凍条の目の前の扉は………
(ミクロの決死圏だったかな?それとも2001年宇宙の旅??)
凍条がそんなふうに思うのも無理なかった。
日本家屋には著しく不似合いなその扉は、白い樹脂製で、まるで宇宙船かどこかの研究施設から運んできたもののように見る。
「ここは…父の部屋、父の夢の紡ぎ場です。」
「お父様というと、確か三年前に亡くなられた?」
「…そうです。そして今は、弟の透が悪夢を紡ぐ場所です。」
どこをどう操作したのか、微かなプシュッという音がして、真っ白い樹脂製の扉がゆっくりと開き始めた。
「どうぞ、中へ」
静香に促され、室内へと足を踏み入れた凍条を待っていたのは……
妻を愛した男が一人地の底で産み落とした、歪んだ悪夢の産物だったのである。
407A級戦犯/人形の家:2007/09/05(水) 17:26:00 ID:mR4KeQ3Q0
菊池屋敷の奥深くで、凍条刑事が産声を上げる悪夢と今まさに対面しようとしていたころ…
岸田警部と部長の会話も、次第に事件の核心へと迫りつつあった。

「三年前に亡くなった正行氏は、やれ跡継ぎだ何だと煩い実家を離れ、ドイツやアメリカで研究者としての生活を送っていたらしい。」
部長は、灰皿の上に盛り上がる吸殻の山の上に、更に最新の一本を積み上げた。
「研究者?……いったい何を研究していたんですか?」
「ロボット工学さ。」
ロボットと聞いて怪訝そうな顔をした岸田警部にニヤリと笑いかけ、空になったタバコのハコを捻りつぶしながら部長は言った。「…ロボットと言ってもいわゆる工業用ロボットじゃないぞ。」
怪訝そうだった岸田の表情が、驚きの顔に一変した。
「……それではアンドロイド?!…人造人間ですか?」
「かなり優秀だったらしいな、正行氏は。昔同僚だった研究者の話だと、ホンダのアシモなんてめじゃなかったそうだ。」
警部の目がすぅーっと細くなると、部長の視線を真正面から見返して言った。
「部長…焦らすのは止めて下さい。そろそろ肝心なネタをバラしてもらえませんか?」
…ネタを小出しにして相手を焦らして楽しむのもここらが潮時と思ったらしい。
部長の声がくだけた調子に変わった。
「リンさん。つい2日前、オレが部室で皆に尋ねたこと、覚えてるか?」
「覚えてますよ。『通報者はなぜ不可能犯罪捜査部に通報してきたのか?』でしょ?」
「覚えてるなら話が早い。」
部長は黒い下げカバンから小型の録音・再生装置と銀色のディスクを取り出した。
「例の通報電話の録音だ。」
「凍条の声しか録音されてなかったヤツですね。それをもう一度?」
「そう言わんと、まあもう一度聞いてみろ。」
カチャッ、部長が再生のスイッチをいれた。
すると……

『不可能犯罪捜査部ですね?』

いきなり流れ出したのは、聞いたこともない高く細い女の声だった!
408A級戦犯/人形の家:2007/09/06(木) 17:27:29 ID:vAzuiUMe0
「父の部屋です…」
ぱちっ!
静香が壁のスイッチを操作したのだろう。
真っ暗だった部屋に光が満ちると、凍条の両目が驚きのあまりにカッと見開かれた。
「こ、この部屋はいったい……」
「宇宙船みたいな扉」の向こうにあったのは、SF映画に出てくる「宇宙船のコクピット」か「宇宙人の秘密基地」のような部屋だった。
白く塗られた壁の一面に、歯医者に見かけるような装置から、日曜大工で使うようなものまでも様々な大きさの電動工具。
ドリルや超小型の回転ノコギリ。
それから凍条にはどう使うのかすら想像もできない道具類が掛けられている。
そして何世代かに渡るコンピューター。
部屋の中央に据え付けられた床屋にあるものに似た感じのイスは、その形にも関わらず何故か「手術台」のように見えた。
「お父さんはここでいったい…」
何をしていた?と舌の先まで出かかった凍条の言葉は、静香の方を振り返ったとたんそのまま何処かに消し飛んでしまった。
…いつの間にか静香が胸にかき抱いていたものに目が留まったからだ。
生々しく生気に満ちた切断されたばかりの女性の前腕を抱いて、静香は言った。
「父の…夢のカケラです。」
一時の驚きから気を取り直し、改めて眺めて見れば……奇妙な腕だった。
たったいま切断されたばかりのように生き生きしていながら、切断面からは何故か一滴の血も滴っていないし、それを胸に抱く静香の服にも一滴の血痕すら印していない。金臭い血の匂いも無い。
不審に思って切断面を覗き込んだ凍条は、思わずアッと叫び声を上げた。
「これは人間の腕じゃない!」
「…そうです。」悲しげに俯きながら静香は答えた。「これは父の最期の作品になるはずだった女性の腕です。」

409A級戦犯/人形の家:2007/09/06(木) 17:28:18 ID:vAzuiUMe0
「跡継ぎ跡継ぎと煩い両親の元を離れ、外国で父が自由に研究したのは、『人間ではない自分の子供』を作りだすことだったんです。」
カチッ
…どこかで小さな音がすると、工具でいっぱいだった壁がスルスル退いて、大きなテレビ画面が現れた。
「それは跡継ぎ跡継ぎと煩い両親に対する、父なりの反抗だったんだと思います。」
「…人間ではない子供…を」
「止むを得ぬ仕儀でこの屋敷に帰ってからも、父は研究を止めませんでした。いえ、あの事件から……研究を止めるどころか、より一層の熱意をもって研究にのめり込んでいったのです。」
「……その……ある…事件とは?」
喉に引っ付くような声で凍条は尋ね返した。
「弟の………透の死です。」
また何処かでカチッと音がして、テレビ画面に小学生になるかならぬかの背格好の少年が映し出された。麦藁帽子を被り、虫取り網と虫篭を手にした少年が、画面の向こう側から白い歯を見せ元気そうに笑いかけてきた。
「ちょうどこの画を撮った日のことでした。裏山にトンボを採りに行った透は、その晩遅くになっても帰らず……池に浮かんでいるのを翌日になって発見されました。」
「その悲しい出来事と、お父さんの研究のあいだにいったいどういう関係が?」
そう言いながらも、実は、凍条は気がついていた。
悲しい父の狂い始めた願望に……。
「悲しみに曇った頭で、父は考えたんです。」
どこか遠くをボンヤリ見つめながら、呟くように静香は言った。
「……自分の技術で、透を作り出そうと…。」
410A級戦犯/人形の家:2007/09/07(金) 17:32:20 ID:a7KSSUfV0
テレビ画面が切り替わった。
さっきと同じく麦藁帽子を被り、虫取り網と虫篭を手にして、さっきの少年が写っている。ただし、今度はもう笑ってはいない…。
「透……です。」
「これが?…ま…まさか……」
「父の作った透です。」
「透の死は、父の命により隠しとおされ、そして、新しい透と入れ代わったのです。」
正行氏は年齢に合わせて「透」の体を改造していったらしい。
少しづつ「成長している」透と、偽りの家族を演じる両親が、次々と映し出されていった。
表情の無いままで自転車に乗る透、縄跳びをする透、バイオリンを弾く透……。
そしてそれを微笑み見つめる両親……。
(痛ましい……。この両親は偽りの息子を中心にした幻の家族に縋るしかなかったんだ)
そして画面は青年となった透を映し出した。
「この映像だけは……動画ですね?」
「はい。透の16歳の誕生日の映像で、参加していた親族の者が撮ったものです。」
ホテルの大宴会場のような、畳敷きの大広間だった。
中央に設えられた長机のぐるりに腰を下ろしているのはきっと菊池家の親族たちに違いない。カメラ?が右を向くと、すぐそこに当主である正行とその妻淑恵、そして二人の中央に透が、相変わらず無表情なまま腰を下ろしている。
「みな菊池家の財産を当てにしている者たちです。」
一族の男女は皆顔にお追従笑いを浮かべながら次々と正行夫婦の前にやって来て、何か述べては下がっていく。
「偽りの家族とそれを知りながら誕生日を祝う親族たち。…まるで裸の王様だ。誰かが真実を指摘しない限り、偽りの世界の終わることはない。」
「『裸の王様』……アンデルセン童話ですね。」
静香の声はどこか怯えを含んでいるようだった。
「不思議ですね、実は私も、別の童話を思い出していたところなんです。」
「別の童話…と、言うと?」
あるか無きかの微笑を浮かべ、囁くように静香は答えた。
「…ピノキオです。」
411A級戦犯/人形の家:2007/09/07(金) 17:33:41 ID:a7KSSUfV0
誕生会の雰囲気が一変したのは、酒に酔った親族の一人が立ち上がって、いきなり何かを喚きたてたときからだった。
キッと睨み返す正行氏と、対照的に顔を伏せる淑恵夫人。
「木偶人形!…と、あの男は言いました。こんな茶番に何時まで突き合わせるんだと。」
満座の親族たちが一斉に動きを止め……そして次の瞬間、口々に何かわめき始めた。
…魔法が解けたのだ。
「人形、人形、人形……どんなによくできていたって、所詮は人形。ホンモノの透は死んだんだ。さっさと菊池家の跡継ぎを生めないなら、自分たちに財産を分けろ……」
台本を棒読みするように、静香は親族たちが吐いた言葉を次再現していった。
平板な棒読みの中にすら、他人の財産に集る親族たちの卑屈に歪んだ心が垣間見え、凍条は暗澹たる心持になっていった。
正行氏の顔は怒りと恥辱に真っ赤になり、淑恵夫人は今にも泣き出しそうに見える。
…そのときである。
正行氏と淑恵夫人のあいだに無表情なまま腰を下ろしていた透が、すっくと立ちあがったかと思うと、悪意に満ちた大広間から一人すたすたと歩き去ってしまった。
「自分のことが話題になっているのに、どこへ行こうというのか?所詮は機械人形だ。」
静香がその場の言葉を機械的に繰り返す。
しばらくすると、透は大きな盆の上に大きな徳利を載せて戻り、親族たち一人ひとりに酌をして回り始めた。
ワザと仰々しくこれを受ける者もいれば、あからさまな嘲笑をもって借を受ける者もいた。
そして最後に正行氏の杯に酒を注ぐと、透はもとの場所に静かに腰をおろした…。
…そして…
「…乾杯」
静香の言葉とともに、映像の中の人々は一斉に酒盃を飲み干した。
…そのときだ。
何か異常を察したのだろう。カメラが不意に向きを変えると正行氏と透の姿を捉えた。
…正行氏が驚いたような表情で透に何か言っている。
杯を干そうとした正行氏の腕を、透の機械の腕が押さえつけているのだ!
あくまで平板な声のまま、静香はその場の言葉を再現した。
「…毒よ」
412A級戦犯/人形の家:2007/09/07(金) 17:34:52 ID:a7KSSUfV0
「毒よ」という言葉を合図にしたように、誕生祝いの宴席は地獄へと一変した。
鼻から口から、ごぼごぼドス黒い血を噴出す者、白い泡を吹いて痙攣する者、自分の喉をツメが剥がれるほどの勢いでかきむしる者。
突如として現出した地獄絵図を前に蒼白となる正行と淑恵夫妻。
その中で冷静なのは透だけ。
ただ、その動かない顔の中に、ある種の「意思」があるのを凍条は感じ取っていた。
(怒りだ。父母を辱められた、黒い、真っ黒い怒りが、人形の中に満ちている。)
突然画面が大きくぶれた!
部屋の境の障子を突き破るようにして動いていく!
いま見ている映像の撮影者が、恐怖に駆られて逃げ出したのだ。
(そうだ!あの部屋に痕跡を残す追跡劇が始まったんだ)
いくつもの部屋部屋を抜けた末、床に広がっていた血の染み!
床や襖、障子がでたらめに写る映像の中、一瞬ちらりと写った透の手には鉈が一丁握られている!
幾つめかに撮影者が逃げ込んだのは、見まごうこと無い、血痕の広がるあの部屋だった!
「だめだ!その部屋は!」
凍条が叫ぶと同時に、カメラが床に落ちたせいだろう、舐めるような角度で床を写したまま、映像は動かなくなった。

「これが……ピノキオが人間になった夜の顛末です。」

惨劇の映像に凍りつく凍条の前で、静香の声は、平板なままだった。

413名無しより愛をこめて:2007/09/10(月) 03:36:36 ID:LYn9DIxA0
414A級戦犯/人形の家:2007/09/10(月) 17:29:18 ID:3yr5JMk20
「あの夜、機械人形だったはずの透は人の心をもち、そして人を殺しました。」
「人になって最初に行ったことが、人を殺すことだったと言うんですか!?」
凍条の叫びに、静香は答えなかった。
「…あの晩を境に、父は狂ってしまいました。自分の生み出したものが人を殺してしまったという、その事実のために…。」
「なんて…ことだ…。」
まさに悪夢だ、と、凍条は思った。
正行氏の夢は悪夢へと生まれ変わった。
そしてその悪夢は、女性を次々この屋敷に連れ込んでいる!
きっと新たな悪夢を生み出そうとしているに違いない!
「…だが!?」ここで凍条はハッとわれに返った「…いったいなんのために??何のために透は女性をこの屋敷に連れ込んでいるんだ!?」
「その答えは……」静香は音も無く踵を返した。
「……この更に奥の部屋を、御覧いただければお判りいただけると思います。」
「まだ…奥があるんですか?」
「次で……最後です。」
静香は、凍条の先にたって再び歩きだした。
「いまの部屋を御覧に入れたのは、最後の部屋の意味を知っていただきたかったからです。」
「最後の部屋の意味??」
「……そうです。父の悪夢が透に引き継がれた結果どんなものに変わったのか?ぎました。来て下さい。こちらに。」
どこかの隠れたスイッチを押すと、テレビ画面の反対側の壁がポッカリと口をあけた。
「さ、こちらに……」

静香の手招く方から、どっと異臭が流れ出した。
415A級戦犯/人形の家:2007/09/10(月) 17:30:18 ID:3yr5JMk20
凍条が通された最後の部屋は…ついさっき後にしたばかりの、菊池家先代当主正行の研究室とは全く違っていた。
まず凍条が気づいたのは、大量な芳香剤と、それを潜り抜けてなお漂う饐えた汗と汚物の臭いだった。
床は湿気を含んだ土間になっており、照明は低い天井の中央部分に一つ裸電球がぶら下がっている。だから明かりが届いているのは部屋の中央だけで、周囲ぐるりにはドーナツのような闇が落ちていた。そして、あの異臭は闇の中から漂い来ている。
「…なんだ?この臭いは??」
凍条は胸ポケットからペンライトを取り出すと、闇の中にか細い光の線を投げ込んだ。
とたんに、そこにうずくまっていた何かが怯えた唸りを上げ後ずさった。
「こ、こ、これは……」思わずそれきり絶句する凍条。
闇の中に身を潜めていたのは、僅かなボロを身に纏っただけの女だったのだ。
416名無しより愛をこめて:2007/09/13(木) 11:38:15 ID:WXGCvnpL0
応援!!
417名無しより愛をこめて:2007/09/16(日) 03:02:37 ID:UTkckRns0
q
418名無しより愛をこめて:2007/09/18(火) 22:57:39 ID:mOTns0/B0
応援
419名無しより愛をこめて:2007/09/21(金) 23:07:11 ID:fSEwz8RU0
応援!!
420名無しより愛をこめて:2007/09/25(火) 01:35:23 ID:RNVsOamM0
421名無しより愛をこめて:2007/09/30(日) 01:31:43 ID:Z2DNwro60
もうすぐ10月になりますね。
422名無しより愛をこめて:2007/10/02(火) 23:39:23 ID:DFyJWL560
r
423名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 12:49:28 ID:JaiDY1wW0
「動きはありませんね。」
424名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 01:10:01 ID:ESHfNFYh0
はい!こちら
425名無しより愛をこめて:2007/10/13(土) 01:43:51 ID:vVe+7J9D0
426名無しより愛をこめて:2007/10/13(土) 14:04:50 ID:FI3KQWqe0
終了
427名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 15:34:59 ID:36syd/KF0
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 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/iga/1192036731/l50
428名無しより愛をこめて:2007/10/22(月) 01:53:58 ID:2SBnxfxAO
429名無しより愛をこめて:2007/10/26(金) 07:14:56 ID:R1D/8uP20
--
430名無しより愛をこめて:2007/10/26(金) 07:37:20 ID:R1D/8uP20
おお!
なんと書き込めるようになっている!?
「ぐははははははは、ついに復活じやあぁぁぁっ!!」
…って、いまは「何千年かの封印を破って復活した妖怪」にでもなったような気分にござりもうす。
公開プロキシ規制とかのせいで、ずっと書き込めませなんだ。
だから、書き言葉もこのような妖怪ちっくなものに……
ま、書いてるものからすると、「妖怪」ってのは案外相応しいのかもしれません。

ちょっと間が空きすぎたので、まずこれまでの「粗筋」を投下した上で、「人形の家」のつづきを投下。
引き続きで、「幸せになる方法」の投下を開始します。
それでは……。
431名無しより愛をこめて:2007/10/26(金) 07:39:34 ID:R1D/8uP20
……書き込み忘れもうしましたが、430は「ウルQ脚本スレのオーガスト・ダーレス」こと「A級戦犯」にござる。
432人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 07:47:42 ID:R1D/8uP20
最後の部屋には女性が3人。全員、鎖で繋がれていた。
昨夜連れ込まれたと思しき女性ともう一人の女性は、意識を取り戻すと凍条に助けを求めてきたが、最初に発見した女性は凍条の姿を見てもただ怯えるばかりだった。
「…なんでこんな酷いことを!?これではまるで…」
(家畜小屋だ!)と喉元まで出ていた言葉を凍条は飲み込んだ。
「家畜」という言葉が、どれほど彼女らを傷つけるだろうかと思ったからだ。
壁にかかっていた鍵を見つけて鎖を解くと、凍条は怯える女性を自分の胸に抱き寄せた。
「……怖がらなくていいんだ。もう大丈夫なんだよ。」
最初は獣のようだった抵抗は次第に小さくなり、やがて女性の口から「うっうっ…」という嗚咽の声が漏れ出した。
「さあ……立って。」
優しく促す凍条の顔は映画スターのように優しかった。
しかし、彼女らに背を向け、彼女らの盾として先頭に立った凍条の顔は、怒りに満ちた鬼の顔に変わっていた。
できることなら、「透」を滅茶苦茶にぶん殴ってやりたかった。
そして自分の手で絞め殺してやりたかった。
なんの目的かは知らないが、罪も無い女性を地下室に繋ぎ、人間牧場を作っていた「透」という機械人形への怒りで、彼の胸は一杯だったのだ。
(だが……だめだ。今は怒りに身を任せていいときじゃない!)
研究室への階段を一歩一歩踏みしめながら、凍条は自分に言い聞かせた。
(今は彼女たちを、安全な世界に帰してあげることを、第一に考えるんだ!)
闇のわだかまる土室に背を向けて……光に満ちた白い研究室はすぐそこだ。

だが、悪魔はそこで待ちかまえていたのだ。

433人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 07:48:19 ID:R1D/8uP20
「最近の警察では…令状も無しに家宅侵入してもいいことになったんですか?」

突然の声に振り返ると、研究室のスクリーンの前に「透」が立っていた。
いや、「透」だけではない。
研究室の出口には昨夜見かけた老人が、ごつい鋤を片手に下げて立ち塞がっている。
「透」を挟んで部屋の反対側には、老人の連れ合いらしき老婆がにこやかな笑顔のまま、
大きな馬鍬を片手に立っていた。
「気をつけて…」いつの間にか傍らに来ていた静香が囁く声で言った。「…あの二人は透が作った…」
「判ってる。アンドロイドなんだろ!?」
決して軽くも無いはずの農具を、棒ぎれか何かのようにぶら下げる怪力を見れば、相手が人でないことは明らかだ。
老人は渋面のまま、老婆は笑顔のままで、じりじり凍条たちに迫ってくる。
(「透」と「老人」そして「老婆」…全部で三体か。)
凍条は三体のアンドロイドと渡り合う算段を必至に繰り返したが、「透」だけならいざ知らず、三人相手では勝ち目があるとも思えない。
三体のアンドロイドはじりじりと包囲の三角形を狭めてくる!
凍条からもうあと数歩のところまで迫ったとき、ガラス細工のような「透」の眼差しが、凍条から傍らの静香の方についっと移動した。
「…また、裏切ったのですね、静香姉さま。」
「……」静香は答えない。
「さっき、母さまの部屋の前で言葉を交わしたとき、僕、気がついたんです。姉さまの言葉から、汚いウソの臭いがするのを。」
敢えて相手を侮辱する言葉を選びながらも、透の表情は少しも変わらない。
「…前に裏切ったとき、僕はそれでも姉さまを許してさしあげました。」
「……」
「父さま、母さまに対する裏切りも、僕は許して差し上げました。」
「……」
「そのお返しが、これ、なのですか。」
透は相変わらず無表情なままだったが…、凍条は慄然として気がついた!
(あの映像と同じだ!)
凍りついたままの「透」の瞳の中に、凍条は見て取ったのだ。
三年前、血まみれの惨劇を引き起こしたときと同じ、あの黒い怒りの炎が燃えているのを。
美しく凍りついた顔の中で、目だけが激しい憎悪に燃えているのを。

434人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 07:50:04 ID:R1D/8uP20
「同じ父さまと母さまの子だからこそ、僕、姉さまを許しました。でも今日という今日は……」
「透」は懐に手を突っ込むと、中からひどく古い型式の拳銃を抜き出した。

「…… 許 せ ま せ ん 。」

姉の胸に拳銃をつきつけると「透」はそのまま一気に引き金を引いた!
バン!轟く轟音!
…だが、銃口から発射された弾丸がめり込んだのは天井だ!
引き金が引ききられるより一瞬早く、凍条が「透」に掴みかかったのだ!
拳銃を奪い合って床を転げる「透」と凍条!
「透」に加勢せんとすぐさま動き出す「老人」と「老婆」!
そのとき、組み討つ二人の口から同時に言葉が飛び出した。
「バカもの。出口から離れるな。」「いまだ静香さん!皆を連れて逃げて!!」
「透」の声に、慌てたように持ち場へと引き返す「老人」。
しかしそれより僅かに早く、三人の女性は静香を殆ど引きずるようにして、部屋の出口を駆け抜けた!
部屋を出る瞬間、静香は凍条のほうを振り返った。
「逃げるんだーーーーーっ!」
そう叫びながら、凍条は「見た」と思った。
それまで感情というものを見せることのなかった静香が……泣いていた。

435人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 07:50:34 ID:R1D/8uP20
「さっさと追いかけなさい。」
「透」の指示で「老人」と「老婆」は逃げた静香たちを追って行ったが、その歩みは精々早歩き程度の速さに過ぎなかった。
(労働用のアンドロイドだから、移動速度は大して速くないんだな!それなら…)
凍条が「透」を抑えられさえすれば、静香と三人の女性は逃げきれる可能性がある!
だが、いったいどのような動力によっているのか?細身に見えながらも「透」は恐ろしいほどの怪力で、拳銃を持つ「透」の右手一本を抑えるのに、凍条は両腕に渾身の力を込めねばならない。
必死のもみ合いの後、凍条は自分の両足が不意に床から離れるのを感じた!
そして部屋の天地が一瞬グルッと回転したかと思うと…次の瞬間、彼はもの凄い勢いで右肩から床へと叩きつけられていた。
「ぐあっ…!?」
体の右半分がたちまち痛みの塊に変わり、思わずあふれ出た涙の向こうに、みるみる腫れ上がっていく自分の右の前腕が見えた。
(骨折したな……)
右腕はもう激痛しか脳に伝えてこない。床を舐めるような凍条の視界の中、「透」の踵が反転すると、そのまま物も言わずに部屋を駆け出して行ってしまった。
……静香と三人の女性を追っていったのだ。
「ま、待て!」
糸の絡んだマリオネットみたいなぎこちない動きで立ち上がると、凍条はよろめき走り出した。肋骨にもヒビでも入っているのか、呼吸に合わせてリズミカルに痛みが襲ってくる。
口の中もどこか切っているらしく、嫌な足がする。
しかしそれでも凍条は走った。
いや、「走ろうと」した。
(静香さんが危ない!)
もうそれしか考えていなかった。
436人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 07:51:37 ID:R1D/8uP20
凍条が転げるように研究室を飛び出したとき、「透」の姿は既に消えていた。
だが、その行方は明らかだった。
手荒く開け閉めされたせいで、桟から外れかかった障子が、「透」の怒りを無言で伝えてくる!
「こっちか!」
痛みに耐えつつ、凍条は本当に走り出した。
437人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 12:40:08 ID:R1D/8uP20
静香と「透」、そして凍条が死の追いかけっこを始めていたころ……。
菊池家の門前でも、騒ぎが起ころうとしていた。

菊池家の古めかしい玄関で、菊池家の家令らしき男と下男らしき大男が、警察官の一群と睨み合っていた
老家令の言葉には、土地の名家としての威厳がこもっていた。
「…警察が、この菊池のお屋敷になんの用です?」
思わず気圧され、後ずさりする地元警官。
だが、彼らを掻き分けるようにして一人の男が進み出ると、一通の紙切れを老家令の鼻先につきつけた。
もちろん岸田警部である!
「捜索令状だ!」
「捜索だとぉ?」老家令の表情は少しも変わらなかった。
「…いったいどんな罪状があるというのだ?まさか駐車違反などというのではないであろうな!?」
まともな罪状で令状など取れるワケがない!と、言わんばかりに老家令は岸田を睨みすえた。
だが……。
ニヤリ!
岸田が笑った。
「罪状は電波法違反だ。なんか妙な機械使ってるだろ?」
「で、電波法?!」
思わぬ罪状に思わずたじろぐ老家令。
「……中を検めさせてもらうぞ!」
肩をこじ入れるように屋敷内に侵入しようとする岸田警部。
だが彼の頭上から、大男のクレーンのような腕が降ってきた!
438人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 12:40:48 ID:R1D/8uP20
どこかで怒号が聞こえ、バンバンと銃声が聞こえた。
(まさか!?まさか「透」が静香さんたちを??)
手荒く障子を開けたてた痕跡は、とある部屋で二手に分かれていた。
一方は銃声のした方角に……、もう一方は菊池屋敷のより薄暗い領域へと向かっている。
さっきの銃声が「透」の拳銃なら、向かうべきは明らかだ。
だが、凍条の選んだのは屋敷の闇へと続くほうだった。
(……なぜ僕はこっちを選んだのだろう?)
凍条自身、一瞬そう思った。
そして、ある種の運命に操られている自分を感じていた。
(そうだ。僕の行くさきは…)
凍条が転げるように抜けていく部屋から、何時のまにか人の生活の気配が消え、降り積もった埃が厚く層を成し始めていた。
半ば以上廃墟のようになった部屋の列なる先にあるものは……
(…あの部屋だ!)
三年前の、酸鼻を極めた殺人劇の舞台。
乾ききった血痕の広がるあの部屋に、引き寄せられるように凍条は向かっている!
三年前の惨劇を再演されようというのか?
そして……
(僕も……僕も、その出演者なのか!?)
見えぬ手に操られる人形のように、凍条は悪夢の舞台へと歩を進め、
そして………最後の幕はあがった。

439人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 12:42:04 ID:R1D/8uP20
床に広がる乾ききった血の染みを挟み、さほど広くもない部屋の右手に静香、左手に旧軍の拳銃を手にした「透」が立っていた。
「なぜ邪魔をしたんですか、姉さま。」
「透」はゆっくりと腕を挙げ、銃身で姉の胸をポイントしながら言葉を続けた。
「僕の願いは母さまの願い、僕の子を連れてきた女たちに産ませることが、どれだけ母さまを…」

「な…なんだと!?」
凍条の頭の中に、学生時代にビデオで見たSF映画のことが閃光とともに甦った。
その映画とは…「デモンシード」。
スーパーコンピューターが人間の女性に、有機生命体としての自分の子供を生ませようと企む映画だ!
そして!その瞬間、凍条は総てを理解した!
「家を継ぐ子を産めという無言の圧力」
……「希望の一人息子の死」
…「人形の誕生」
…………「三年前の惨劇」
……そして「人」となった「人形」が望んだものは……
「子」 として、「母」に忠実であろうとした「人形」が望んだものとは……
「く…、狂ってる。」
母を安心させるため、凍条には想像すらできない方法で、「透」は菊池家の跡継ぎを作り出そうとしていた!
三人の女性が繋がれていたあの部屋、あれは言わば人間牧場だったのだ!
440名無しより愛をこめて:2007/10/26(金) 13:59:34 ID:47u4xDZQ0
よかったよかった。
441人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 17:24:36 ID:R1D/8uP20
「父さまや母さまを裏切った姉さまを、僕は許すわけには……」
そのとき!
凍条が喉も裂けよという勢いで絶叫した!
「淑恵婦人を裏切ったのは、オマエの方だ!」
姉につけた拳銃の狙いはそのままに、「透」は凍条の方に振り向いた。
「……裏切ったのは僕の方だと?…それはいったいどういう意味だ。」
「オマエは同じだからだ!」
必死に激痛に耐えながら、凍条は「人形劇の舞台」へとよろめき出ると、痛みのあまりに霞む眼差しで「透」のことを睨みすえた。
「さ、三年前の事件を思い出せ!
オマエが殺した親戚たちは、淑恵夫人を跡継ぎを生む道具としか見ていなかった。
そんな視線が淑恵夫人をどれだけ苦しめたか?『人形』に過ぎないオマエに判るのか!?」
「もちろん判る!」
透は傲然と言い返した。
「母さんの悲しみを、母さんの苦しみを、僕は傍らで見つめづけた。何年も、何年も…」
一瞬、「透」の視線がどこか遠くを彷徨い……そして更なる怒りを伴って戻ってきた。
「透」が叫んだ!
「……見つめつづけた母さんの悲しみが、僕を人間に変えたんだ!!」
442人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 17:26:01 ID:R1D/8uP20
「いや……」凍条はゆっくりと首を横に振った。「オマエはやっぱり人形なんだ。だから……人間の、淑恵夫人の悲しみを本当に理解することは出来ない。」
「僕が母さまの悲しみを理解できなかっただと!?」
「そうだ……三年前、オマエが殺した親戚は淑恵夫人を子を産む道具としてしか見ていなかった。」
糾弾の人指し指を「透」に突きつけ凍条が叫んだ!
「そしてオマエは、浚ってきた女性たちを菊池家の跡継ぎを産ませる道具として扱った!」
瞬間、「透」が凍りついた。
「オマエはおんなじなんだ!」
見えない手に押されるように、「透」がよろめくと、両手で自分の顔を覆い隠した。
「淑恵夫人を傷つけた親戚たちと、オマエは同じなんだ!!
オマエの行為を知ってこの世で一番苦しむのは、淑恵夫人だあああああああっ!!」
沈黙の一瞬のあと………顔を覆い隠す指の間から、突然ケダモノのようなうめき声が噴出した!
「ううううううううううううそだああ!ボクが母さまを裏切ったなんて……ウソだあああああああああああああああああああっ!」
発作でも起したように顔を掻き毟る指の間から、合成された皮膚がボロボロ屑になってこぼれ落ちる!三年前の悪夢から生み出された「透」の人格が崩壊している!
「うぞだあぁぁっ!僕はがあざんを裏切っでなんが……」
「いや!裏切ったんだ!オマエは!淑恵夫人を!母さまを!!」
言葉にならない叫びを放ち、やにわら「透」は拳銃を凍条に向け引き金を引いた!

バンッ!!
443人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 17:27:08 ID:R1D/8uP20
……二発の銃声は重なり合って、全く一つの銃声にしか聞こえなかった。
いくつもの離れた部屋の向こうから、あるいは破れ、あるいは開いたままの障子越しに放たれた岸田警部の357マグナムは、一撃で透の頭部を打ち砕いていた。
そして凍条に向け、「透」の放ったもう一発の弾丸は……
「……」
(信じられない…)
(そんな……バカな……)
凍条は愕然として自分の腕の中にくず折れた静香を見つめていた。
運命の一瞬、静香は盾となって凍条の前に飛び出した。
「透」の撃った一発は、凍条ではなく静香の命をこの世から消し去っていたのだ。
ただ…凍条の驚愕は、「静香が自分の盾となって死んだ」ということだけによるものではなかった。
……それは凍条の悪夢の総仕上げ。
静香の胸から凍条の腕へと滴り落ちた血液は……
………青かった。
444人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 17:28:31 ID:R1D/8uP20
「……この映像を見れば……最初から明らかです。」
岸田が作業台横のスイッチを押すと、三年前の透の誕生会の映像が画面いっぱいに映し出された。
「映っているのは透と両親、そして親族たち……ですが、この映像に必ず移っているはずの人物が一人見当たりません。その人物とは……」
「姉の静香だ。」と、部長。「…では、静香は透の誕生会には出席していなかったのか?他の親族も大勢顔を見せているというのに?」
「もうひとつ気になるのは……」再び岸田警部が語り手になった。
「……撮影者の座っていた場所……ほらここです。」
画面が一瞬横に流れた直後、正行と淑恵が大きく映し出された。
「……撮影者は当主夫妻のすぐ隣に座っていたのです。撮影者、正行氏、透、淑恵夫人の順番に。
これは、撮影者が、正行夫妻や透と極めて身分の近い間柄だったことを示しています。
と、いうことはつまり……。」
「……撮影者は静香だった。静香が撮影していたからこそ、静香自身は映っていない。」
「これはあくまでオレの想像ですが…3年前の惨劇のきっかけを作ったのが、あるいは静香だったのではないかと…」
「『あれは弟なんかじゃない。ただのロボットだ』とでも言ったかな。」
「…そんなところだと思います。一人娘が口火を切ったればこそ、他の親族たちも同調したのでしょう。」
「しかしその結果として、静香は透に殺された。しかも……」
「自分の作った『透』が一人娘を殺すのを目の当たりにして、正行氏は完全に気が狂ってしまったのだと思います。そして……」
「……透が死んだときと同じように、ロボットを作りあげた。静香そっくりなロボットを。」
「…静香の声が人間の声ではないと判定したから、音声記録装置にも静香の声は残らなかった。音声タイプライターが九官鳥の声では作動しないのと同じ理屈です。」
……しばしの重苦しい沈黙の跡、疲れた声で部長は岸田に尋ねた。
「凍条のヤツは何処へ行った?」
「……例の部屋です。」
445人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 17:29:12 ID:R1D/8uP20
二人の「静香」が死んだ部屋に、凍条はいた。
救おうとして救えなかった。
二人の女性に、花を手向けるために。

「A級戦犯/人形の家」


お し ま い
446人形の家/A級戦犯:2007/10/26(金) 17:36:58 ID:R1D/8uP20
「人形の家」は、このスレにプロットの形で投下されたものがいくつかありました。
で、どれに沿って構成しようかと最初は思ったのですが……。
それじゃ驚きが無さ過ぎる!いっそどれとも違うお話にしてまおうと(笑)。
それで構成したのが、この江戸川乱歩風「人形の家」なわけです。
乱歩っぽくグロめに纏めたつもりでしたが、ちょっとグロすぎましたか?

では、また来週。
天候なんかと関係なく、いい週末を。
447名無しより愛をこめて:2007/10/26(金) 18:32:17 ID:+22wHr8k0
あらすじ、てゆーか軽く設定だけ。
  「木神(ぼくしん)」
切ろうとするたび不慮の事故が起きたり関係者が急病になったりして
どうしても切れない巨木。それを御神木として崇める一つの村が舞台。
その村には幾度と無く大企業による開発の手が迫って来たが、その度
御神木の力でそれを免れてきた。しかし今回開発の手を伸ばして来た
社長はこれまでと違った。御神木を切ろうとする姿勢があまりに執拗
なのである。関係者が何人ケガをしようが病気になろうが計画中止は
おろか眉一つ動かさない。しかも御神木を守ろうとする役場や青年団
の関係者に事故が降り掛かると言うこれまで無かった事が起き始める。
不審に思った主人公の記者がその社長の事を調べた結果、彼は元々は
良い社長だったのに旅行先の露店でとある宝石を買ってから人が変って
しまったと言う事が判る。その宝石こそ持ち主を狂わせ周りの人間にも
不幸を持たらし最後には破滅に追い込む悪魔の石「魔石」だったのだ。
「神木」対「魔石」。今、一つの村に霊力の嵐が吹荒れようとしていた。
448名無しより愛をこめて:2007/10/29(月) 07:40:12 ID:ueDA6kOu0
>>木神
なんだか面白そうですね。
昔マンガの「恐怖新聞」でみた「ポルターガイスト対悪魔アイニ」を思い出しました。
この展開だと、木神と魔石のあいだで「戸惑いながらも真相に迫る?」あるいは「狂言回し」の人間が一人必要ですね。
魔石がらみの来歴を朧ながらも究明できるなら、新聞記者か警察官、あるいは占い師・霊感のある女とか…。

449名無しより愛をこめて:2007/10/29(月) 17:27:44 ID:ueDA6kOu0
ネタができたから、「幸せになる方法」が投下終了して、X話氏が戻られていなかったら、「木神」を構成・投下してみましょうか?
ただネタ的に、以前SF板に投下した「G!対G!対G!」や、このスレに投下した「石の見る夢」とカブらんようにしないと(笑)。


450A級戦犯/幸せになる方法:2007/10/29(月) 17:30:37 ID:ueDA6kOu0
時刻は深夜零時過ぎ。
場所は建設中の高速道路のジャンクション。
リボンのような道路のラインが、大蛇のように絡み合うエリア。
吹きすさぶ風、横殴りの雨。
空には闇を切り裂く稲光。
こんな夜、外を出歩く者などいるはずが……
ピカッ!
なんということでしょうか!?
一瞬の稲妻が、高架の上に人の姿を切り取りました!
雨風の中、切れ切れに叫ぶ声が聞こえます!
「見える!見えるぞ!ここからは………夜空が!星が!そして……が!!」
再び何者かのシルエット浮かびあがり、同時に狂ったような哄笑が降ってきました。
男はいったい何者なのでしょうか?
そして荒れ狂う荒天に、いったいどんな星が見えるというのでしょうか?


「幸せになる方法」
451A級戦犯/幸せになる方法:2007/10/30(火) 17:35:48 ID:35NEsKKV0
河川敷の草叢を、ようやく秋らしくなった風が渡っていく。
見上げていると吸い込まれるような青空を赤とんぼが横切り、そしてそれを追いかけるように、ちぎれた雲が一つ、ぽつんと空を流されていった。
「……まるで…」
そこまで言いかけて、男は言葉を飲み込んだ。
(まるで……オレみたいだ)
何処に行くでもなく、どこに行きたいでもなく、一人ぼっちで流されていくだけの自分。
頼りなく、不安定で……。

「まるで……何なんですか?」

突然の声に驚いて仰向けに寝転がったまま首を反らすと、いきなり彼の視界に白いパンツが飛び込んできた。
「うわっ!?」
叫びとともに跳ね起きると、屈託の無い笑い声がケラケラと追い討ちのように浴びせかけられた。
「…なにをビックリしてるんですか?」
「い、いや…ちょっとね」
まさか「パンツ見えちゃってさ」とは言えないので、ぎこちなくごまかすと、彼女はそれ以上追及してはこなかった。
「でも…よかった。」
追求するかわりに、彼女は笑顔を見せた。
「なんだかちょっと元気になったみたいに見えますね。」
「そう……見えますか?」
「ええ、ほんの少しですけど。」
彼女は男の隣に腰を下ろして言葉をつづけた。
「あせらなくったっていいんですよ。一つづつ、思い出していけば……。」
「ああ…僕ももちろんそのつもりです。でも…」
男の表情に再び影がさした。
彼は、自分のことを何一つ覚えていなかった。
彼は記憶喪失者だったのである。
452A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/01(木) 12:53:26 ID:JbGbWU0O0
「ちょうど…ココだったんですよね。一月半前、山田さんが倒れてたのは……」
「…うん、そうらしいね。」
彼=山田太郎が、さっきまで寝転んでいたこの河川敷に倒れているところを、通学途中の学生に発見されたのはちょうど一月半前のことだった。
身体には怪我ひとつなく、特に犯罪の被害を疑うべき事情も無かったことから、彼は搬送先の病院から直ちに放り出されたのだが……困ったことに記憶がない。
一円の現金も持たず、自分が何処の誰なのかも判らぬまま途方に暮れていた彼に、微笑んで救いの手を差し伸べてくれたのが、市の福祉課の女性事務員である慶子だった。
とりあえずの勤め先兼住所として社員寮つきの新聞配達の仕事を探してきてくれた上に、雇い主に掛け合って当座の生活費としての給料前借りまでしてくれた。
それからも「もう着る人もいないから…」と季節の衣類を持って来てくれたりと、なにくれとなく面倒を見てくれている。
いま、彼の生活がまがりなりにも成り立っているのは、ひとえに慶子の尽力のおかげであった。
唯一、彼が不満だったのは……仮のものとして慶子がつけてくれた「山田太郎」というありふれ過ぎる名前だけだった。
「………ねえ山田さん。ニュース聞きました??」
じっと考え込む山田の様子に気づいたからだろう、慶子は急に話題を変えた。
「このあたりの高速道路で、高速バスが行方不明になってるんですって。」
「ああ、もちろん知ってるよ。だってボクの今の仕事は……」
あっそうか、というように慶子は舌をペロッと出した。
「新聞配達でしたね。」
「それも安田さんが紹介してくれた仕事なんだよ。」
「忘れちゃってました(笑)」
ケラケラ笑う慶子の姿が秋空によく似合う。
(なんだか眩しいな……)
そんなことをふと思いながら、逆光気味の角度で慶子の横顔を眺めていたときだった。
慶子の背景の青空を、何か巨大な塊が落下していった!
453A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/02(金) 17:34:13 ID:kVQOxkTZ0
(あ、あれは!)
衝撃と轟音!そしてバラバラに壊れ飛ぶ鉄製の部品!
山田はとっさに慶子の上に覆いかぶさった!
「きゃあっ!?」
山田の意図を誤解して悲鳴を上げる慶子。
だが、その悲鳴に重なるようにズシンッという鈍い音と振動がやってきた!
…石のように身を硬くしたまま数秒間…二人が恐る恐る顔を上げてみると、20メートルと離れていない場所に「それ」はあった。
「や、山田さん。あれって、ひょっとして、もしかして…あのあの…あの…」
「バスだ。」
短く答えると山田は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
「ちょ、ちょっと、山田さん!?」
危ないから止めろと騒ぐ慶子の声など耳に入らぬ様子で、彼は降ってきたバスに近寄ると、昇降口に手をかけた。
がたん!
指先で触れただけで、ドアは外れて落ちてしまった。
(…腐食している。酸か何かにやられたのか?)
ステップにそっと足を乗せると、滑り止めのプレス模様が入れられた金属版がぐにゃっと撓むのが感じられ、彼はとっさに横の手すりを掴んだ。
…(ん?…何故だ?)
山田はさっき外れて落ちたドアを振り返った。
ドアにも、いま掴んでいるのと同じ材質で出来ていると思われる手すりがついていた。
ただ、ドアの手すりはボロボロに腐朽しきっているのに対し、彼が掴んでいる手すりは磨いたように光っている。
(一方は新品、一方はボロボロ…いったいどういうわけだ?)
彼は慎重な足取りでバスの中へと乗り込んだ。
454A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/02(金) 17:34:47 ID:kVQOxkTZ0
バスの内部は乱雑を極め、どこかの空き地に乗り捨てられ何年かが経過した車両のようだった。
シートの表皮は腐って中のクッション材がはみ出して、いくつかのシートはリクライニングが壊れたらしく、後ろに反り返っている。
床材も至るところで剥がれ浮き上がっており、あちこちに乗客のものと思しき身の回り品が散乱していた。
(妙だな…空から落ちたにしては…)
どのくらいの高度から落ちたのかは知らないが、かなりの高さからであるのは間違いない。
……にも関わらず……。
「…もっと壊れているはずだ。」
思わず山田は内心の疑問を口に出していた。
彼が指先で触れただけで脱落したあのドアは、何故、落下のショックでは脱落しなかったのか?
見回すと大半の窓にはガラスが嵌ったままになっている。
透明感こそ失っているが、窓ガラスは落下の衝撃には耐えたのだ。
(そういえば…落ちてきたときのショックも思ったほどじゃなかった…。第一、地表に激突したというのなら、バスの車体がその衝撃に耐えたとしても、こんな小物は……)
…そう思いながら、彼は足元に落ちていた腕時計を拾い上げた。
455A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/02(金) 17:35:25 ID:kVQOxkTZ0
山田は足元に落ちていた腕時計を拾い上げた。
(こんなちっぽけな時計なんか……落下時の衝撃で車外に放り出されてるハズだ。)
拾った腕時計を眺め回すと、たまたま目に付いた良く似た形の古びた時計をもう一つ拾い上げた。
(この時計もそうだ。落下したのなら……)
だが、手の中で時計を裏返したそのとき、山田は強烈な違和感を感じて手を止めた。
違和感の原因はすぐわかった。
「…シリアルナンバーが同じだ。」
彼が拾った腕時計はかなりの高級品に属するもので、裏に固体を特定する製造番号が一つ一つ刻印されていたのだが、それが全く同一なのだ。
同一なのはシリアルナンバーだけではなかった。
改めて二つ並べてみると、文字盤やベルトの傷まで、二つの時計は瓜二つ……と言うより、全くの同一といって差し支えないほどで、ただ、一方が酷く古くなっているのに対し、もう一方はそうではないという点だけが違っている。
「ど……どういうことなんだ、これは!?」
混乱して顔を上げた瞬間、山田は軽い吐き気を覚えた。
バス内部の景色がまわって見える!
遠近感もおかしい!
遠くが近くに、近くが遠くに!
窓の外では、異変を察知したらしい慶子が、携帯電話に向かって必死に何か叫んでいる!
(なにが!何が起こったっていうんだ!?)
そう思った直後、山田の視界は光を失った。
456A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/02(金) 17:38:06 ID:kVQOxkTZ0
山田が意識を取り戻したときまず目に入ったのは、新聞販売店の従業員寮草の天井と
心配そうに覗き込む慶子の顔だった。
「ボクは……いったい?」
「よかった、気がついて。」
泣いているのか笑っているのか判別に苦しむような顔で、慶子は言った。
「バスの中から転がり出てきて。それで、寮に連れて行ってくれって言うから……」
そういえば、意識が途絶える直前、そんなことを言ったような気がした。
(……でも……)
山田は、男としては小柄な部類の身長で、おまけにかなり痩せてもいる。
だしかしそれでも、女の身で山田をここまで連れ帰るのは容易なことではなかったはずだ。
「…山田さんだって少しは歩いてくれましたよ。」
今度ははっきり笑っているとわかる顔で慶子が言った。
「それにこういうのって、ウチの上司が忘年会で酔っ払ったとき経験あるし……」
「なんだ、『ウチの上司』ってのは、あのハゲ課長ことかな?」
特徴的な簾ハゲを思い出して、今度は二人揃って笑った。
「なんだあの課長、あんなマジメくさった顔して……。」
笑いながらそう言いかけたとき、山田は慶子のハンドバッグの中に黒い表紙の本のようなものが突っ込まれているのに気がついた。
「…安田さん、それ、どうしたんですか?」
「ああ、これ?」慶子が取り出したのは一冊の使い古した手帖だった。
「気がついたら足元にあったの。バスが落ちてくる前は無かったはずなのに。」
「ちょっと見せて…」
手帖を手に取ると、山田はパラパラとページを捲って行った。
「あれーー?」
無愛想な数式や角度の計算式に埋め尽くされたページを捲っていると、慶子が突然素っ頓狂な声をあげた。
457A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/02(金) 17:38:52 ID:kVQOxkTZ0
無愛想な数式や角度の計算式に埋め尽くされたページを捲っていると、慶子が突然素っ頓狂な声をあげた。
「なんでこんなトコに、尿瓶(しびん)の絵が描いてあるの?」
慶子が指差す絵を見るなり、山田はひっくり返ると、文字通り腹を抱えて笑い出した。
ふくれっつらをしてソッポを向いている慶子にむかってたっぷり3分以上頭を下げた後で、彼は手帖に書かれた「尿瓶」の正体について説明した。
「これはね安田さん、『クラインの壷』っていうものなんだ。」
「くらいんのつぼ?」
「そうさ、メビウスの輪は知ってる?」
「それなら知ってるわ。」
慶子はこころもち胸を張った。
「このあいだまでテレビでやってたウルトラマンでしょ?」
笑いの発作を、必死に飲み込んで山田は言った。
「正解じゃないけど、まあいいや。さてと……シビンの他には何か笑えるものが描いてないのかな?」
……さらに数ページを捲っていくと、再び数式以外のものが現れた。
ただ、それは笑えるようなものではなかった。
見開きの左右に渡って、ある文章が力いっぱいに書きなぐられていたのだ。

「死ねよ!ごみくずども!」と……
458A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/02(金) 17:43:38 ID:kVQOxkTZ0
さて、お約束どおり、「死ねよ!ごみくずども!」が登場です。
いったいどういう展開になると思われますか?

なお、例によって「幸せになる方法」は、土日はお休みです。
スレ住民のみなさん。
幸せな週末を。
459A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/05(月) 17:27:10 ID:HU6wt2oo0
微妙に暖かな雰囲気に支配されていた部屋に吹き込んできた、冷たい隙間風。
自分の家に戻ってもその肌寒い印象が残っているのは、ハンドバッグの中にあの手帳が入っているからだろう。
山田が調べさせてくれというのを、ほとんど無理やりに持って帰ってきた。
記憶が戻らない、自分が誰なのかも判らないいう大きな不安を抱えた山田のそばに、こんな言葉のかかれた手帖を置いて行きたくはなかったからだ。
手帖をなるべく目に付き難いところに隠すように置くと、慶子はテレビをつけてみた。
時計をふと見上げると、あのバスが落ちて来てから2時間ほどしかたっていない。
いまごろ山田が配っているであろう夕刊にも、もちろん間に合わなかったはずだ。
(でもテレビなら……)
…慶子の予感は当った。
古いブラウン管のテレビに映し出されたのは、夕闇に支配されつつあるあの河川敷の草原で、影に沈みこむバスを無数の赤い回転灯が取り囲んでいる。
『……昨夜未明この背後のも見えます高速道上で姿を消した高速バスは、本夕午後4時ごろ、突然この河川敷に落下して来ました!』
記者は大仰な身振りで背後にあるはずのバスを振り返ると、再び手にしたメモに視線を落とした。
『…問題のバスに踏み込んだ警察官数名が意識を失ったり気分の不調を訴えたとの情報もあり、検疫上の理由からバスに近寄ることは前面的に禁止されました。
今は陸自の対NBC戦部隊の到着を待っている状態です。』
NBCとは…N=ニュークリアウェポン(核兵器)、B=バイオロジカルウェポン(生物兵器つまり細菌など)、そしてC=ケミカルウェポン(化学兵器、つまり毒ガス)の総称である。
慶子にはもちろんそんな言葉の意味は判らなかったが、高速道路上からバスが消滅し、そして空から落下してくるような事件が、自衛隊の守備範囲に収まるとは到底思えなかった。
(だめよ!警視庁の不可能犯罪捜査部か怪獣やっつけ隊じゃなきゃ…)
そんなことを慶子が考えているうちに、画面はスタジオに返されていた。
地方局の貧相なスタジオで待っていたのは、地元民しか知らない番組司会者、そして……。
「あっ!この人知ってる!」
コメンテイターは、以前市役所主催の文化財保護活動で講師を頼んだことのある男。
地方大学で講師をやっている、確か…万石とかいう男だった。

460名無しより愛をこめて:2007/11/05(月) 19:35:29 ID:cNA7RKNV0
>>447
単なる霊力ウォーズじゃなくて最後はウルトラらしく両方怪獣化してほしいね。
御神木は「星獣戦隊ギンガマン」のモークの顔を大魔神みたいにした感じで。
根が足みたいに歩き、枝が触手みたいに動いて戦う。魔石は仮面ライダーの
岩石大首領の体の色を宝石っぽくキラキラさせた感じ。
461名無しより愛をこめて:2007/11/06(火) 07:41:49 ID:sUm3nPXJ0
>>460
御神木は派手に戦う予定(笑)。
ただの超能力戦だと描写が難しいし、最後のひっくり返しがきまらないから。
問題は魔石の方で、石そのものが怪物なのか(つまりシリコニーみたいなヤツ)、それとも石に怪物が宿っているのか(スミスの「アヴェロワーニュの獣」みたいなヤツ)?
怪物が暴れてるのだけれども、それは本体ではなく……って展開もある。
基本的には「石と木の違い」をキーにするつもりだから、「石そのものが怪物」という展開にする予定だけれども。
462A:2007/11/06(火) 17:31:45 ID:sUm3nPXJ0
(あのバスが姿を消したのは昨日の深夜だ。)
山田は、新聞配達を終えると早々に床につき、従業員寮の天井を見上げていた。
夕方、バスの中で意識を失った余波なのか、酷く疲れを感じていたし、なによりジッと考える時間が欲しかったからだ。
(高速バスはどこのインターチェンジも通らずに文字通り姿を消し……そしておよそ半日後、空から振って来た。)
夕刻、その目で見た光景を脳裏に甦えらせようとした。
川風になびく草原…
安田さん……
さわさわと音を立てて流れる川…
川向こうで、青空を背に渦を巻くジャンクション…
笑う安田さん…
笑うとアヒルのように見える安田さん…
その肩越しに見える草原に…ポツンと落ちた影
その影はあっというまに大きくなって……!

(…ん?!)

彼は急に考えるのを止めた
(バスが落ちてくるところを目撃したのはボクらだけじゃない。)
建築途中のジャンクションの上に、人影があったことに気がついたのだ。
旗竿のように痩せたその人影は、何故だか彼に向かって手を振っているようだった。
463A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/08(木) 12:39:16 ID:zSBIhKmV0
彼方で手を振る人影の出てくる夢から覚めると、外はかすかに小雨がパラつくそら模様だった。
そういえば、うとうとしながら雷の音を聞いたような気もする。
新聞配達にとって、雨は大敵だ。
「本降りにならなきゃいいが……」
安田さんに貰った古いジャンパーを着込み、寮の隣の新聞販売所に行くと、中は大変な騒ぎになっていた。
「……いったい何かあったんですか!?」
山田の問いに、同僚の学生バイトが朝刊の早刷りを差し出した。
「またっスよ。」
一面トップに踊っていたのは……
『大型トラック、空に!?衆人環視の中で!』
そして見出しの横には雲間に霞むトラックの写真が掲載されていた。
「…ん!?これは!?」
「驚いたっしょ?最近は誰でもカメラ付き携帯持ってるから……。」
同僚の学生バイトは、山田の驚きを現場写真が撮影されていたせいだと思いこんでいた。
最近の携帯の機能はいかに凄いかという話が、その後しばらく続いていたが、山田の耳には一言も入ってはいなかった。
山田の目は、新聞の写真の下方に写った、高速道路にかかる橋の上に釘付けになっていた。

そこには昨夜思い出した存在、あの旗竿のように痩せた人影が、ひょろっと長く、写っていたのである。
464A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/09(金) 17:33:18 ID:z0ek0mrj0
幸いに雨も上がったので、山田はその日の朝の配達を終えると、川原を跨ぐ高速のジャンクションへと足を伸ばしてみた。
あの人影が立っていたのは、南から伸びてきたルートが北側を横切るルートと絡み合うように急カーブを描き川の上に大きく張り出す、そのカーブの頂点にあたる部分だ。
開通の暁には何千、いや何万という台数の様々なクルマがここを行き交うことになるのだろうが、今は工事も中断され、フェンスに囲われてひっそりと静まりかえっている。
そのフェンスに手をかけて向こう岸を振り返ると、昨日降って来たバスはビニールシートの高い壁に囲まれ、野次馬の視線から隠されている。
山田には、空から降って来たバスとこれから侵入しようとしているジャンクションが、何故だか似ているような気がした。
昨日、バスの中で経験したような奇怪な出来事が、ジャンクションの中でも待っているのだろうか?
(でも、行かないわけにはいかない。あの人影は、きっとボクに用があるんだ。)
山田は、おあつらえ向きの箇所を見つめだすと、迷わずフェンスを乗り越えた。
465名無しより愛をこめて:2007/11/09(金) 17:35:55 ID:z0ek0mrj0
あまり特撮的じゃない、地味な展開が続いていますが(苦笑)、一応最後には怪物も出てきます。
「死ねよ、ゴミくずども」という言葉を生かしきるための展開ですので、しばしご容赦を。
466名無しより愛をこめて:2007/11/12(月) 14:48:27 ID:B5lJjivx0
【日本最弱】600字シナリオ原稿募集【コンテスト】

 課題は「二つのセリフから」

 「愛しているわ」
 「冗談だろ」

 もしくは

 「愛しているんだ」
 「冗談でしょ」    です。

上記のどちらかのセリフを折りこんで下さい。順序は自由ですし、離しても構いません。
締切は12月7日(必着・メールも可)です。

↓↓詳しくは公募ガイド社まで↓↓
http://www.koubo.co.jp/contents/koubo/index.html

↓↓【落書き】600字シナリオ原稿募集【雑談は】↓↓
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/iga/1192036731/l50
467A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/12(月) 17:27:07 ID:H4jOwi7L0
「……『死ねよゴミくずども』……か、悲しい言葉ですね。」
そう呟くと、万石は静かに手帖を閉じた。
「…で、安田さん。この手帖はバスが空から降って来たとき、一緒に降って来たというんですね?」

山田が建築途中のジャンクションに踏み込んでいたころ、安田は休みをとり、テレビで見た万石の研究室を訪れていた。

「…はい。」と短く万石の問いに答えると、それまでのいきさつをかいつまんで繰り返した。
「なぜだか理由は判らないんですけど……不安なんです。」
二人の間に置かれた黒い手帳にじっと視線を落としたまま、呟くように安田は続けた。
「突然バスが空から降って来て、その中に入った山田さんが突然気を失ったようになって……」
安田の言葉をちゃんと聞いているのか?万石は黙ったまま再び問題の手帖を手に取ると、ページを繰り始めた。
「この手帖には見たこともない計算式やクラインの……」
「…クラインの壷ですね。」
「はい、その変な壷の絵だとか、ばっかり描いてあるし。山田さんはバスの中でおかしな時計を見たなんて言うし。なんだか私…」
「……不安で不安で、気が変になりそう?」手帖から顔を上げ、万石は言った。
口もとをキッと引き締めたまま、発作的に安田は頷いた。
「なにか恐ろしいことが起きそうで、私怖いんです。」
「ワタシにできることなら、どんなことでも力になりますよ。でも……」
「で、でも?……」
不安そうな視線で見つめる安田に、万石は笑顔で応じた。
「本当にアナタの力になるためには、まずアナタが本当のことを言ってくれなくちゃ無理なんですよ。」
手帖に描かれたとある数式に視線を落としたまま、万石は言葉を続けた。
「……安田さん、アナタは……、山田さんという男性もバスや手帖のように空から降って来たんじゃないかと、考えてられるんでしょう?」

468名無しより愛をこめて:2007/11/16(金) 16:29:36 ID:c+BlVdcP0
応援!!
469名無しより愛をこめて:2007/11/19(月) 11:10:00 ID:cmIIPKru0
応援。

今朝は、さぶいですね!!
470A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/19(月) 17:07:04 ID:DcvFo5ou0
肩が震えだすと同時に、堰を切ったように安田は口を開いた。
「や、山田さんは…倒れてたんです。あのバスが降って来たのと同じ川原に、一ヶ月半まえのことです。」
「ちょっと待ってて下さい…」万石は立ち上がると、コーヒーカップを二つ持って戻ってきた。
「インスタントで悪いですが……。」
「…ありがとうございます。」
…コーヒーの熱さが、安田の落ち着きを取り戻したらしい。
暫くして肩の震えの収まったころあいを見計らい、わざと間をおいて、万石はしゃべりだした。
「……病院で意識を取り戻したとき……、彼は記憶を失っていた。……そうですね?」
「はい……」
「そのとき彼…山田さんは、身元を示すようなものは何も持っていなかった?」
「はい、ひとつっつも。」
「ふぅむ…」
短く呟くと、万石は腕を組み床に視線を落した。
相手のそんな様子に、言い訳するように安田は言った。
「でも、あの……、そんなことあるわけないですよね?私ってバカだから。人が空から振って来るなんて。第一、空から降って来たりしたら、あんな風に無事なわけが……」
「…いや、そうでもないですよ。」
安田が気づくと、万石の視線が自分へと戻ってきていた。
「もしボクのカンが当っているなら……どんなことでもおこり得ますね。」
「どんな…ことでも?」
「そう……」
暗い瞳で…呟くように万石は言葉をつづけた。
「……どんなことでもおこり得ますよ。どんな恐ろしいことでも…」
「恐ろしいこと!?」
思わず安田が立ち上がったそのときだった!
テーブルのコーヒーカップがひっくり返るのと同時に、スズーーンというにぶい振動が伝わってきた!
471A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/22(木) 17:27:57 ID:ECwa49a10
そこからの眺めは…いわゆる「絶景」というヤツだと、山田は思った。
下流では護岸工事ですっかり飼いならされた感のある鶴鳴川も、まだこのあたりではそれなりに蛇行し、のたうち流れている。そしてそれに覆いかぶさるように高速道路のレーンが2本交差し、それぞれから下界の市道や国道へと弧を描きつつランプが下っている。
(あの細い人影は、ここに立っていったい何を見ていたんだろう?)
そう考えた直後、山田は自分が下の世界を「下界」と捉えたことを思い出した。
「神の……視点?」
無意識にそう口に出した瞬間、一陣の突風が背後から山田を捕らえた。
「うわっ!?」
泳ぐような姿勢で山田の肩から上が、低いコンクリ製の壁を越えた!
(落ちるっ!?)
恐怖の一瞬のあと……気がつくと山田は、コンクリートの上で仰向けに空を仰いでいた。反射的に壁を突き飛ばしでもしたのだろう。
もうさっきのような突風は吹いていない。
見ていた者などいるはずも無かったが…照れ笑いを浮かべながら、ぎこちない動作で彼は立ち上がった。
「神の視点から転げ落ちたか……なるほど、今のボクには相応しい。」
字面からすれば自嘲以外の何物でもない言葉だったが、山田の声には不思議と自嘲の響きは無かった。
むしろ彼の言葉にあったのは、肩肘張るのを止めた清々しさ、肩の荷を降ろした気安さ、それとも……
謎の人影のことは気になったが、何かに急き立てられるような圧迫感は消えていた。
472A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/22(木) 17:32:17 ID:ECwa49a10
「……さてと、下界に帰るか。」
上がって来たときとは別人のように軽い足取りで、山田は高速道のランプを下っていった。
再びフェンスを乗り越えて河川敷に降り立つと、汗ばんだ体に川風が心地よい……。
「…やっぱり……神様になんかなりたくない。」
下界をゆく優しい風に向かって、山田は言った。

「……ボクは人間のほうがいい。」

そのとき、誰かの怒号を耳にして、思わず山田は頭上を、たったいま後にしてきたばかりの高速道路を振り仰いだ!
ついさっき山田が立っていた場所から、そいつが、旗竿のようにひょろ長い影が山田のことを見下ろしていた。
ひょろ長い影は、山田が自分に気づいたと知ると、川向こうの空を威嚇的な仕草で指差した。
影の指差す彼方を目で追った山田は、そこで目にしたものに思わず凍りついた。
(!?ま、まさかあれは!!?)
大型トラックだ。
新聞の写真では暗かったせいでただ大型トラックとしか見えなかったが、いまはタンクローリーだとわかる。
昨日バスが落ちてきた同じその場所に、今度はガソリンを満載したタンクローリーが落下してくる!そしてその下には、警察や自衛隊の捜査官、新聞やテレビの記者たち、そして大勢のヤジウマたちが!
「みんな!逃げろーーーーーーーーーっ!!」
だが、山田の必死の叫びは絶望的に間に合わない!
来る惨劇の前に、山田はぎゅっと硬く目を閉じた。
……
………
ズ、ズゥゥウウウン…

山田のいる川のこちら側まで、巨大な振動が伝わってきた……

473名無しより愛をこめて:2007/11/22(木) 17:44:07 ID:ECwa49a10
いや、仕事が忙しくって全然書く時間が無い。
…でも必ず終わります。
構成はオチの部分までもう出来てるので…。
本当ならとっくに「木神」がスタートしていて、その次の「ネコ」とか「死者の黄昏」あたりの構成も始めてるハズでしたが。

「幸せになる方法」は土日はお休みです。
他に自作投下をされる方は、私に構わずどんどん落としてください。
ウルQ的世界が広がっていけば、X話氏が戻って来てくれるかもしれませんし。
474名無しより愛をこめて:2007/11/22(木) 18:33:12 ID:5Pz2xdfV0
いつまでもお待ちします。
ゆっくりと良い話を作ってください。
475A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/27(火) 17:51:06 ID:s/7LIHk50
「まさかっ?」「そんな!?」
短い叫びを発し、万石と安田が駆け寄ったのは同じ側の窓、あの川原の方に開いた窓だった。
二人とも、あの場所にまた何か落ちたに違いない!と考えたのだ。
…だが、二人のいる大学の研究室から川原まではかなりの距離があり、伝わってきた振動以上の事実……例えば紅蓮の炎だとか沸き立つキノコ雲のようなものは、全く目にすることは無かった。
だが、なおも二人が川原の方向にじっと目を凝らしていると……
476A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/27(火) 17:52:37 ID:s/7LIHk50
うわあっ!!という喜びの声を耳にして、山田は恐る恐る目を開いた。
……銀色の巨大な腕が、タンクローリーをがっちりと受け止めていた。
「ウルトラマン!」
山田の口からも、同じ喜びの歓声が飛び出した!
悪夢の如き大惨事は、「またも」銀色の巨人によって防がれたのである!
救われた人間たちの歓呼の嵐の中、巨人は手にしたタンクローリーをそっと下ろすと、キッと天空を見上げ大地を蹴って飛び上がった!
天空に潜む敵を討ち果たすため、蒼天を駆け上がってゆく銀色の巨人!
そしてその後を、どこから飛んできたのか怪獣やっつけ隊の戦闘爆撃機も追いすがっていく。
見えない敵の討伐は確実!!
下で見ていた誰もがそう思った。
だが……
天空にはいかなる敵も待ってはいなかったのだ。
そう、この世界の天空には……。
477A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/28(水) 17:35:42 ID:khw8X1qj0
「えーーと…失礼ですがアナタが…」
「ご連絡差し上げた万石です。」
世間一般ではウルトラマン出現の興奮がまだ冷めやらないころ……、南と名乗る男の案内で、万石は地下施設への階段を下っていた。
「…失礼ですが、ウチの部長とはどういう関係なんですか?」
南は警視庁不可能犯罪捜査部所属の刑事だった。
「……とっくに『やっつけ隊』の管理下に移った事件なのに、『調べさせろ』と部長が強引にねじ込んだんだくらいですから、よっぽどの……」
「いえ、僕の父があなたのトコの部長の、大学時代の先輩というだけですよ。」
相手の言葉を信じたようには見えなかったが、南はそれ以上追求しなかった。
階段はそこで金属製の扉に行く手を阻まれていた。
しかもドアの傍らには自動小銃を抱えた警備兵が立ち、頭上からは三つの監視カメラが睨みを効かせている。
万石はそこが「怪獣やっつけ隊」の調査研究施設であることを改めて思い出した。
「さあ……問題の物は…」
南は警備の兵士に軽く頭を下げ、何かカードのようなものをドア横のスリットに差し入れた。「……この中に保管されています。」
プシュウゥゥゥッ…
空気を吸い込む音とともに、重々しく「ドア」…と言うより「隔壁」が開いた。
「…あの中に入った自衛隊の対NBC兵器チームは、完全装備だったにも関わらず、皆体調を崩して寝込んでしまったそうです。」
隔壁の向こうは体育館を連想させる広大な空間で…その真ん中に保管されていたのは、あの「空から降って来たバス」だった。
「いまのところ如何なる有害物質も検出されていませんが……」
「有害物質なんてありませんよ。」
バスから10メートルほどのところで足を止めた南に対し、万石はポケットから何か取り出し口に放り込むと、どんどんとバスへと近づいていった。
「おい万石さん!あ、危ない……」
「大丈夫です。一応対策はとりましたから…。」
慌てる南を尻目に万石は後部ドアに手をかけると、バスの内部に足を踏み入れた。
478A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/28(水) 17:39:32 ID:khw8X1qj0
錘の付いた糸や、南の見たこともない奇妙な横棒を顔に当てて、万石はなにやら調べていたが……。
しばらくすると、青い顔をしてバスからよろよろ降りて来るなり万石は言った。
「いやあ……聞きしに勝る悪夢空間ですね、あの中は。薬飲んでも5分が限界です。」
「く、くすり??」
ポケットから小箱を取り出すと、万石は、額に縦ジワを寄せた南の顔の前に差し出した。
「……何ですかこれは?」
「乗り物車酔いの…酔い止めの薬です。」
冷たい床の上に酷く大儀そうな仕草で腰を下ろすと、万石は続けた。
「…人間は、視覚など外部からの情報に合わせ無意識に体の平衡や目の焦点合わせなど様々な調整を行っています。
ところで、車などに乗っていると、当然目からは『高速移動している』という情報が入ってきますね?しかし、乗り物に乗っているだけだから、体は殆ど動いていない。そうすると脳内の調整機能が狂いだして……」
ここで万石は手マネでゲーッとやって見せた。
「いわゆる『乗り物酔い』ですね?でもそれがあのバスとどういう関係が??」
まだ納得いかないらしい南を見上げ、万石は答えた。
「あのバスは………平行、直線、直角……総てがメチャメチャに狂っているんです。」
479A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/28(水) 17:40:08 ID:khw8X1qj0
「あのバスは………平行、直線、直角……総てがメチャメチャに狂っているんです。」
「平行・直角が狂っている?……ま、まさかそんな理由で?!それでは捜査員や自衛官が次々倒れたのも……?」
「乗り物酔いのヒドイやつです。」
人心地ついたか、膝に手を当てて万石はよろよろ立ち上がった。
「視覚が原因で発生した病理現象だから、NBC防御では防げなかった。」
「防げるわけがない! 」
ようやく納得がいったか、南も叫んだ。
「…そんな理由で我々はろくな調査もできなかったのか!そんな下らない理由で!」
「下らない?」
万石の目が鋭く光った。
「硬く脆いガラスを曲げようと思ったら、熱で溶かすしかありません。しかし、ガラスが曲がるほどの熱をかけたら、樹脂や木部は燃え上がってしまう。それだけではありません!
エンジンは?タイヤは?」
「えっ?」
話の風向きが変ったことに戸惑う南に向かって、いかにも大学講師らしい口調で万石はまくし立てた。
「木、各種金属、合成樹脂、ガラス……素材としての性質が全く異なる様々の物質で、あのバスは出来ています。しかし、そういう個々の材料の性質一切を無視して、あのバスは基本構造そのものが歪められているんです!その意味がわかりますか!?」
480A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/30(金) 17:23:05 ID:Y04MqnR80
その日の夕刊配達を終えた山田が従業員寮に戻ったのは、時計の針が七時を回ったころだった。ポケットに手を突っ込み背中を屈めて歩いていると、余計に寒さが身に沁みる…。
だが、寒さに肩を抱くときでさえ、頭に浮かぶのはあの人影のことだった。
3日も前の出来事だったにも関わらず、一人になると山田はそのことばかり考えてしまい、木枯らしに揺れる木の枝が落とした影が、あの日アイツが振り回した枯れ木のような腕に見えてハッとしたことも一度ではない。
(あれは…いったい何者なんだ?ボクに何か用があるとでもいうのか??)
……まさにそんなことを考えていたときだった。
従業員寮横の木陰から、黒い影がぬっと現れた!
「山田さん…どうかしました?」
青い顔ですくみ上がる山田にかけられたのは…聞き覚えのある声だった。
「や…安田さんですか。」
「どうかしたんですか?顔色…随分青いみたいですけど?」
「いや別になにも…それより安田さんはいったいなんでこんな時間に?」
「…急に寒くなってきたから…」ニコッと微笑み、安田は手にした紙の手提げから暖かそうなダウンジャケットを引っ張り出した。「……これも父の着ていたものなんですけど…、よろしかったら配達のとき着て下さい。」
「あ……ありがとうございます。こんな寒いところじゃなんですから、どうぞ中へ。」
「いえ、これさえお渡しできればけっこうですから。」
じゃあまたと、安田が笑って頭を下げるので、山田も仕方なく頭を下げ、去りゆく安田の後姿を見送った。
(残念だな……)
そう思っている自分に気がつき、山田は慌てて首を振った。
「…な、なにをバカなことを。」
誰に聞かせるでもなくそういうと、安田は自室のある寮の二階へと階段を駆け上がっていった。
481A級戦犯/幸せになる方法:2007/11/30(金) 17:23:43 ID:Y04MqnR80
「なにをバカなことを……。」
…それは誰に聞かせるでもない独り言。
山田の心の声の残響に過ぎなかった。
だが……
辺りの闇から音も無くか細い影が滑り出した。
旗竿のような、細い、ひょろっとした人影は、暫く山田の部屋の明かりを見上げていたが、やがて再び闇へと溶け込んでしまった。

日本全国で、バスが、乗用車が、トラックが次々と空へと姿を消した。
しかもそのうち一台は、高速道路上からでは、なかったのである。
482名無しより愛をこめて:2007/11/30(金) 17:37:14 ID:Y04MqnR80
忙しさにかまけてなかなか進まない「幸せになる方法」ですが、申し訳ありません。
もうすぐ高速道路ごと空に吸い上げたり、痩せた人影の正体が判ってきたりします。

では、よい週末を。
483名無しより愛をこめて:2007/12/03(月) 03:28:32 ID:jXQtJfY40
a
484A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/03(月) 17:27:13 ID:W89EsbPp0
翌日の記者会見で、国交省の高級官僚は机をドンと叩いて吠えた。
「日本経済は半身不随の状態だ!」と。
相次ぐ自動車の「神隠し」に、もはや高速道路を走るのはよほどの怖いもの知らずか、バカ者だけになってしまっていた。
高速道路から逃げた車が一般道に溢れ、日ごろの何十倍もの交通渋滞と交通事故を生み出し、物流の停滞は株価の失速という形で巨大な影を落とし始めていた。
単なる破壊工作への対応なら、「怪獣やっつけ隊」の得意分野だ。実際、これまで数多くの侵略行為を叩き潰してきた実績もある。だが、今攻撃されているのは「個々の自動車」ではなく「日本の物流システム」だった。
そのため一部の経済アナリストには、今回の敵は「怪獣やっつけ隊」が主張する宇宙人などでなく、地球人、つまりどこかの外国なのではないかと主張する者すらいた。
そしてその経済アナリストらの説は、一部は当っていたのである。

今この段階で、真相に最も迫っていたのは、黒い手帳を解読しつつあった万石。
そして、バスの車内調査に立会い、真相の一部をほのめかされていた不可能犯罪捜査部の南刑事。
この二人だけだった。
485A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/03(月) 17:28:13 ID:W89EsbPp0
「安田さん、お客さんだよ。」
同僚の声にはっとして顔をあげたが、期待に反して受付に立っていたのは万石だった。
「私じゃマズかったですか?」
相手の顔を一瞬過ぎった落胆の色を、万石は見逃さなかった。
「いえ、そういうわけじゃ…。ところで今日は?」
安田の問いに答える代わりに、万石は持っていたカバンの中から黒い四角いものをチラッと出して見せた。
(あの手帖のことだわ!)
表情の変った安田に密かに頷き返すと、万石は小さな声で促した。
「ここじゃなんですから……どこか外の喫茶店にでも…」
486名無しより愛をこめて:2007/12/07(金) 21:37:57 ID:JZ3gw8jM0
応援!!
487名無しより愛をこめて:2007/12/12(水) 23:35:53 ID:XWNNwU3J0
あげ
488名無しより愛をこめて:2007/12/18(火) 18:39:39 ID:cpSfdvJP0
ホシュ
489名無しより愛をこめて:2007/12/18(火) 18:58:54 ID:cpSfdvJP0
怪獣の設定が浮かんだので・・・

★魚神(ウオミカミ)
とある山奥の村の沼に棲む魚の姿をした神。
天魚神(アメノウオミカミ)と地魚神(ツチノウオミカミ)の2体存在し
どちらも体長50mを超える巨大魚。
天魚神は金色の鯉の姿をしていて、天空を飛び嵐を起こす。
地魚神は黒ナマズの姿をしていて、体を震わせ地震を起こす。
490名無しより愛をこめて:2007/12/19(水) 08:11:42 ID:AHiycI9r0
3
491名無しより愛をこめて:2007/12/19(水) 08:13:50 ID:AHiycI9r0
おお、やっとまた書き込めるようになった!
どこかの誰かの巻き添えなのか、またも書き込めなくなっとりました(笑)。
最近多過ぎますな、この展開…。
492A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 12:49:17 ID:AHiycI9r0
「……まずこの手帖に書かれている事柄ですが…」
市役所前の喫茶店の隅の席に腰を下ろすなり、単刀直入に万石は切り出した。
「……殆どは数学や物理学の公式です。」
「…こ、こうしき??」
安田は「シャルル・ボイルのなんたら」だの、「メンデルのかんたら」だのをなんとなく思い出した。
「一般的な記号でなく、書き手独自の記号を使っているので判り難いですが……」
万石は、予め付箋を挟んでおいたページのとある箇所を指差し言った。
「…これは中学で習う『運動エネルギーの大きさ』を表す公式です。」
…中学で習うと言われたが、安田にはさっぱり覚えが無かった。
「おなじみの『フェルマーの最終定理』まで含めたおよそありとあらゆる公式や計算が出てきますよ。この手帖には…。」
パラパラとページを繰りながら、万石は様々な計算式の意味を次々とあげていったが、そのどれもが、安田には全く聞き覚えの無いものばかりだった。
「……技師は数字を愛しすぎたんです。」
「え?いまなんと仰いましたか?」
「…古い小説のタイトルですよ。世の中には数学や物理学の法則をこよなく愛する人々がいます。法則の背後に造物主の意図を透かし見たりと理由は様々ですけれども…。」
493A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 12:50:56 ID:AHiycI9r0
「…世の中には数学や物理学の法則をこよなく愛する人々がいます。法則の背後に造物主の意図を透かし見たりと理由は様々ですけれども…。」
「それでは先生は、この手帖の持ち主もそういう人物だと?」
無言のまま、万石は大きく頷き返した。
「…さっきの運動エネルギーの公式で『速度』と『質量』を表す独自の記号が判りました。後はこれを残りの数式に当て嵌めることでその方式の正体を明らかとし、新たな要素、例えば『重力』を意味する記号を得ることができます。」
…万石の行ったのは、暗号の古典的な解読方法だ。
「英語のアルファベットで最も使用頻度の高いのは『E』である」という事実から、頻出度の高い記号に「E」を当て、文字数と「E」の入る位置から該当する用語を絞り込み、新たなキーを獲得していくあのやり方である。
どちらも最初のキーは「E」であるところまで同じだ。
ただ万石の場合の「E」は、エネルギーの「E」なのだが…
「そしてもう一つのキーは…」
万石はまたパラパラとページを捲ると、安田が以前「尿瓶(しびん)」と評した絵を指さした。
「……この尿瓶みたいな絵です。」
安田は思わず噴出しそうになったが、万石の真剣な表情がそれを押しとどめた。
「……メビウスの輪と同じようなもので、クラインの壷といって三次元の中に四次元もどきを表現したものです。」
494A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 12:53:40 ID:AHiycI9r0
「……レーダーには何も映っていなかった?」
「…なんにも…な。」
万石と安田が喫茶店の片隅で、ひそひそ言葉を交わしていたころ……。
不可能犯罪捜査部では、「怪獣やっつけ隊」や自衛隊、地元警察なども交えた対策会議から戻ってきた部長が、岸田警部以下の所属捜査員に状況を説明しているところだった。
「バスが降って来た時点で宇宙人の破壊工作と睨んだ『やっつけ隊』の連中は、自衛隊と協力して日本中の空を徹底的に監視していたのさ。」
だが、それでもタンクローリーが降って来たのである。苦虫を噛み潰したような顔で、部長は言葉を続けた。
「しかも、現場にいた自衛官が高射砲兵上がりでな、ソイツが断言したのさ。自分が見たとき、タンクローリーは最低でも1000メートルの高度にあったってな。」
上空にある物体までの距離判定なら、高射砲兵はプロ中のプロといっていい。
それが「1000メートルの高度にあった」と言っているのだ。
「しかし…」考えこみながら凍条刑事が口を開いた。
「…あの近所に1000メートル以上の障害物は無いはずです。だから1000メートル以上の高度にタンクローリーがあったのなら、レーダーに映らなかったはずは……。」
そのとき、部室のドアがガチャッと開くと、捜査員の一人が入ってきた。
「遅くなりました!すみませんっ!!」
「南!キサマいま何時だと思ってる!?」
岸田警部が怒鳴りつけると、上半身をかっきり直角まで屈めて南が応じた。
「もう昼過ぎです!すみませんでした!」
岸田が怒鳴ったのは、実は実直な南を庇うためである。岸田が怒鳴れば、部長はもうそれ以上小言は言わないからだ。
岸田の思惑どおり、おもむろに開かれた部長の口から出てきたのは叱責の言葉ではなかった。
「…万石ジュニアは何か言ってたか?」
495A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 12:54:51 ID:AHiycI9r0
部長は万石先生の父との知り合いなので、万石先生のことは「万石ジュニア」または単に「ジュニア」と呼ぶ。
南は昨日の万石とのやりとりをかいつまんで説明した。
「バスの外殻構造が歪曲されてるだと?!」
「はい。ちょっと目には判りませんが、実は飴細工のように歪んでいるんです。」
「…ううむ。」丸太のような腕を組むと、唸るように部長は言った。「……ジュニアは他にも何か言わなかったか?」
「ジュニア…あ、いえ、万石氏は具体的なことは何も言われませんでした。ただ…」
「……『ただ…』なんなんだ?ハッキリ言え。」
「はい……『これを読んでください』と……」
南は自分のカバンから、一冊の本を取り出した。
「これがそのとき万石氏から手渡された本です。」
「……なんだこの本は?」部長の眉間に縦ジワが浮かんだ。
…表紙に印刷された書名は…《 ワープする宇宙 》。
著者は「リサ・ランドール」とあった。
「これを読めと…ジュニアが言ったんだな?で、オマエは読んだのか?」
「一晩徹夜で読みました。」
ギロリと睨む部長の下からの視線と、南の疲れたような上からの目線がぶつかった。
「本当のところ自分にはチンプンカンプンです。ですが……万石氏の考えていることは判ったと思います。」
信じられない。
……だが信じないではいられない。
自分でも飲み込みかねる「解答」を、ぶちまけるように南は吐き出した。
「バスは消えたんです!五次元の空間に!」
496A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 12:55:59 ID:AHiycI9r0
「メビウスの輪は二次元を三次元にするものですが、クラインの壷は四次元もどきに過ぎません。」
万石は喫茶店の紙ナプキンを手に、なんとか安田に対し説明を試みていた。
「…それはこの世界が三次元世界だからです。クラインの壷は四次元世界でなければ再現できませんから。」
…安田には全くのチンプンカンプンで、とりあえず判ったようなフリをするのが精一杯だ。
「つまり…」困惑を作り笑いで誤魔化しながら、安田はなんとか口を挟んだ。
「……先生は何を仰られたいんでしょうか?」
「簡単に言えば、この手帖の書き手は数学を通して異次元世界を覗き見ることに、無上の喜びを感じていたに違いないのです。」
「異次元世界を覗き見る?」
「別に異常な話ではないんですよ。」
安田の顔にどんな表情が浮かんでいたのか…万石は慌てたように言い足した。
「例えば、ドイツのケプラーは天体の動きの向こうに神の意思を見出そうとしました。その手の学者はけっこういるんです。」
こともなげに万石は言ったが、安田にとっては「学者」という時点ですでに「異常な人々」と同義だ。
「そういうものなんですね?」
「そういうものなんです。ですが……」
それまでは軽妙といった調子だった万石の口調が、ここで突然シフトチェンジした。
「…この手帖の書き手は、それだけでは満足できなくなったんです。覗き見るだけではね。」
497A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 12:56:29 ID:AHiycI9r0
「郷里の実家から送られたッスけど、ちょっと食べきれないんで…」
そんなセリフととともに、新聞配達の同僚である学生から干し柿を差し出されたとき、山田の脳裏に真っ先に頭に浮かんだのは、いつかの寒い晩、上着を持ってきてくれたときの安田の顔だった。
(いつも貰うばっかりだから…)
安田に物をプレゼントするという考えに、なぜか浮き立つ心を感じながら、山田は安田の勤める市役所へと足を運んでいった。
市役所前への道は高速道路を敬遠した車でいつになく渋滞し、排気ガス臭さが漂っていたが、そんなことなど今の山田には全く気にならない。
(干し柿なんか喜んでくれるかな?…喜んでくれたらいいな。……いや!喜んでくれるに違いない!!)
彼の心はそんな考えでいっぱいだったのだ。
だが、山田が商店街へとさしかかったとき、彼の些細な幸せは突然に終わりを告げた。
(あれ?)
ふと前を通りかかった喫茶店の奥に、山田は見慣れた姿を認めた。
(安田さん…?こんな勤務時間中に何を?それにあの男は誰だ??)
喫茶店の中の二人は熱心に何か話しこんでいて、外の山田に気づく様子は無い。
さらに見ていると…男は一冊の黒い手帳を取り出した。
(あれは!安田さんが持っていったはずの手帳!?なぜあの男が??)
調べたいから貸してくれと、自分が頼んだときは断ったのに…?
まずそんな思いが頭に浮かぶ……それに、あの手帖のことは自分と安田、二人だけの秘密だったはずなのにという思いが続いた。
(それに…あの男は何者なんだ?)
財産どころか記憶すら失くし、人の情けに縋らねばならない山田と比べ、見知らぬ男=万石の身なりは実際以上に立派に見えた。
………気がつくと山田はもと来た方へと引き返していた。落としたのか、それとも何処かのゴミカゴにでも放り込んだのか、干し柿ももう持っていなかった。
498A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 17:30:00 ID:AHiycI9r0
窓の外を、背中を丸めて引き返した男の存在など、万石はまったく気づいていなかった。

「問題は……そう、この計算式です。」
開き癖がついていたのだろう。万石の指の前で、黒い手帳はひとりでに開くと、とあるページを晒した。
「安田さんは……リサ・ランドールという名前を聞いたことがありませんか?」
マタドールだとかアンティークドールだとか、果てはドールバナナなんて言葉まで思い出したが、安田の語彙の中に「リサ・ランドール」は含まれていなかった。
「ドールってくらいですから……何かのお人形さんでしょうか?」
「…アメリカの理論物理学者です。」
市役所に来る途中で買ってきたのだろう、万石はNHKの出版になる初心者向け書籍を安田に手渡した。

万石の解説によると………素粒子を観測中、観察の対象が消滅することに疑問にもった博士は……ついに人間の存在する時空が、より高次の五次元空間の一部に過ぎないという理論に辿りついたというのだ!
499A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 17:30:34 ID:AHiycI9r0
「彼女の説によると、素粒子の消滅は我々のいる世界から五次元世界に移動したことが原因なのだそうです。でも安田さん、この話、何かと似ていませんか?」
この問いに対する答えは、安田にも確信があった。
「……バスの……消滅ですね?」
イスの背もたれにどっと体重を預けると、疲れたように万石は頷いた。
「ランドール博士の理論は、来年スイスで検証実験が行われます。しかし、彼は、実験などという段階でなく、何らかの方法で五次元世界へと通じる一種の風穴を開けたんです。
おそらくその鍵はこの図形……」
万石は更に何ページかを捲り……歪な星型のような図形を指さした。
「古い魔術でいうところのテトラグラマトンによく似ていますが……」
(……あれ?……これとよく似たのを……わたし、どこかで見てるような……)
「……テトラグラマトンというのは本来……」
(えーっと、えーっと……)
「…安田さん?」
(なんだかスゴク最近見てる気がするのに…)
「安田さん??!」
ここで初めて安田は我に返った。
「す、すみません!ちょっと考えごとしてて……」
「誤らなければならないのはこっちの方でしょう。マニアックな話に走ってしまって…ところで…」
万石は手帖の最後のページを示して言った。
「ところで……最後の何ページかが毟り取られているんですが、安田さんが見つけたときからこうだったんですか?」
「あら?……そうですね。たぶんそうだと思います。でも……それが何か?」
「書き込まれた数式の流れから考えると、その部分に書いてあったはずなんです。五次元への扉を開くための具体的な方法が……」
500A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 17:30:59 ID:AHiycI9r0
安田と別れた後、万国は日中いっぱい研究室に篭って、ひたすら思考実験を繰り返していた。安田からは以前に聞いた以上の如何なる情報も得られず、万石は自分の知力だけを頼りに先へと進むしかなかったのだ。
(ランドール博士の理論の検証は、来年スイスで行われることになっている。その辺の大学の実験室の設備で検証できるような理論ではないからだ。だが……)
黒い手帳の書き手は、どんな方法を使ったのかは知らないが、特別な設備も無しに、いきなりポンと五次元への扉を開いて見せたのだ。
(いったいどんな方法で?道具立ては?エネルギーは??)
総ての解答は、毟り取られた最後の数ページに書き込まれていたに違いない。
どの疑問ひとつとっても答えは見つからない……。
「…頭を切り替えてみるか?」
ワザと声に出してそう言うと、袋小路に嵌りこんだ思考を切り替えるべくデスクの上の手帖から無理やり視線を引き剥がし、万石は窓越しの夜空へと視線を走らせた。
窓から見えたのは……銀貨のように煌く満月、そして輝く星々だった。
すると……窓越しの満月が彼に囁いたのだろうか……それまで考えていなかった新たな疑問が彼の心の表に湧き上がって来た。
(……この最後の数ページを毟り取ったのは……いったい誰なんだ??)
501A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/19(水) 17:31:28 ID:AHiycI9r0
万石が見上げるのと同じ月を、違う思いで山田は見上げていた。

心ここにあらずといった様子で新聞を配り終え、年若い同僚たちより一足速く従業員寮に戻ると、ドアの下の隙間に一枚の紙切れが差し込まれていた。
部屋の中に入り拾い上げるとそれは自分が今しがた配ったばかりの新聞に折り込まれていた広告紙で……、裏返すと針で引っ掻いたような文字で「思い出せ」とあり、その下に奇妙な物語が続けて書かれていた。

『鶏舎を襲う鷹を退けるため、鷲は鶏に雇われた。
鷲は鷹と戦い、見事これを退けた。
すると鶏たちは、口々に礼の言葉を述べながら、鷲を襲ってその両目を突き潰した。」

「アンブローズ・ビアス……悪魔の寓話か……」
短く呟き……そして山田はハッと気がついた。
「ボクは知っている。この話を。この話の作者を……すべて忘れてしまっているのに…なぜ?」
判らない
全然判らない
自分が誰なのか?
そして、なんでこの話だけ覚えているのか?
「判らない!?」
髪の毛を掻き毟って彼はもう一度叫んだ。
「判らない!?」
突然、彼の視界の中で、部屋がぐるぐる回りはじめ、気がつくと、彼は冷たい畳の上に横たわっていた。
窓から冷たく見下ろす銀貨のような月を、山田が呆然と見返していると……。
…月を背に、旗竿のようにやせ細った影が、ひょろりと長く立ち上がった。

502A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/21(金) 17:26:55 ID:WHuBNGxM0
(こ、この影は!?)
満月を背にして、山田の上に覆いかぶさるように立っているのは、間違いなく高速のジャンクション上に現れた「あの」人影だった。
(……何を泣いているのだ?)
枯れ木がものを言ったらこんな感じだろう…という声で、しずかに影は囁いた。
「な、泣いている?ボクが??」
予想外の問いかけにより、山田は自分の頬を流れているものに始めて気がついた。
(何を泣くことがある?孤独だからというのなら……孤独なら生れ落ちたときより、孤独でなかった時など一度もなかったであろうに?)
「…ボクが孤独だった?」
(………いつでも独りだったではないか。)
「いつでも?」
(他人のため、社会のためオマエが戦ったとき、回りには「仲間」のような顔をした者たちがいた。しかし彼らは、戦いが終わると直ちに果実を手にして離れていった。自分の代わりに戦ってくれた者が、まだ傷も癒えておらず、赤い血を流しているというのに…)
「……それが……(ボク?)」
(ただ見捨てただけではないぞ。)
影の声が怨念のようなものを帯びて部屋を満たした。
(彼らは……あのゴミクズどもは、………の力や高潔さを妬み、ことあるごとに非難の言葉を垂れ流した……そして………は)
そのとき山田の心の中に、「遠ざかる女性の後姿」が一瞬浮かんですぐに消えた。
「行ってしまった…」
思わず山田は呟いていた。彼の頬を新たな涙がつたった。
(そうだ……行ってしまったのだ。)
影も泣いている。同じ悲しみで泣いていると……山田は思った。
503A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/21(金) 17:27:25 ID:WHuBNGxM0
(ゴミクズどもめ!)
影の囁きが一変し、今度はどす黒い怒りが満ちた。
(死ぬがいい!!)
そこいらじゅうを呪うように、枯れ木のような腕を振り回して。影はもう一度呪詛の言葉を吐いた。
(ゴミクズどもめ!死ぬがいい!!)
そして影は、山田に手を差し伸べ言った。
(さあ、私に力を貸してくれ。このゴミクズどもの世界を終わらせるには、オマエの力が必要なのだ……)
「ボクの力が?ボクが?このボクが必要なのか?」
(…そうだ)
影はさらに手を伸ばした。
(この世界で一番オマエのことを判っている者、それはワタシだ。この世界で一番オマエのことを必要としている者、それはワタシだ。)
山田の右腕が、本人でも気がつかないうちにユルユルと上がり始めた。
(さあ、力を貸してくれ。ワタシを裏切ったゴミクズどもに、オマエを裏切ったゴミクズどもに、完全なる死を見舞ってやるために!)
「ボクを裏切った??」
そう思ったとたん、不意に安田の顔が目に浮かんだ。
笑うとアヒルのような口元、こじんまりとした低い鼻、一重まぶたの目……ひとつひとつの道具立てはどうということもないが、人懐こそうな笑顔は格別だった。
……すくなくとも山田にはそう思えた。
(どうした?)
上がりかかった山田の腕が下がり始めたのを見て、影は言った。
(ワタシに力を貸せないというのか!?)
影が山田を捕まえようとするように、両手を広げたそのとき、ガチャンという音とともに、従業員寮に人の気配が入ってきた。
新聞配達の同僚の何人かが戻ってきたのだ。
(……くそぅ……)
軋るような声で悔しげに呟くと、影は夜の闇へと溶け込み、消え失せてしまった。
504名無しより愛をこめて:2007/12/24(月) 03:01:53 ID:S9WYcXef0
a
505名無しより愛をこめて:2007/12/26(水) 18:06:02 ID:D4Kqtz2I0
今年ももう少しで消滅します。
506名無しより愛をこめて:2007/12/27(木) 08:45:05 ID:rGLOrvFz0
「悪魔の寓話」
アメリカの作家、アンブローズ・ビアスの……一種の短編集、あるいはエッセイと評すべきか?
ビアスというと、目に見えないけど透明ではない怪物の出てくる「あん畜生!」。
芥川龍之介の「藪の中」に影響を与えたと言われる「月明かりの道」。
他にも「モクスンの人形」とか「アウルクリーク橋の一事件」「壁の向こう」とか名作多数。
謎に包まれた死(正確には失踪?)ともあいまって、ポーやラヴクラフトと並ぶ伝説の作家で、映画の「フロム・ダスク・ティル・ドーン3」だと堂々の主役扱いで登場しますな。
でも、ここでビアスの作品を登場させたのはサウザン・パシフィック鉄道の逸話があるからです。
SP鉄道は国から借りた巨額の資金(100万ドルだったかな?)を政界工作で棒引きさせようとしました。
これに対しビアスは新聞紙上でSP鉄道の老社長への徹底的な個人攻撃を展開……。
伝説によるとビアスの舌鋒に根をあげた社長は深夜ビアスのもとを訪れ、買収をもちかけたといいます。
そのときのビアスの回答はというと、自分の胸を指差して「私の値段は100万ドル!!」。
つまり「買収なんてうけねえよ!」。
この伝説があるからこその、ビアス作の起用なわけです。
507A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/27(木) 08:47:01 ID:rGLOrvFz0
「万石さん!大変です!」
寝不足のところを電話のベルに叩き起こされ渋々受話器を手にした万石だったが、受話器から飛び出した南刑事の声を見にしたとたん頭が即座にシャンとなった。
「南さんですね?!また高速道路上から車が消えたんですか!?」
「いえ違います!タレコミです!タレコミがあったんです!」
「た、たれこみですか?」
殺人や強盗・恐喝なら判らなくもないが、万石が思い描いていた行為とタレコミとはおよそ縁が無いように思われた。
「そんなバカな!いったい誰が、タレコんだって言うんですか?そもそも今日本で起こっていることを理解できている人間は殆ど居ないはずです!それをどうやってタレコむと……。」
「自分も同感です!でも……電話ではなんですから、詳しいことはそっちでお話します!」
電話の向こうで叩きつけるように受話器が置かれたのと同時に、万石はすぐさま研究室のポータブルテレビのスイッチを入れた。
「……これは?!」
画面に映し出されたのは、川原の風景、そして警官や自衛官といった制服姿の群れ。
…タンクローリーが降って来たあの日の映像である。
ちらっと壁の時計に目をやると、いつもなら天気予報がやっているはずの時間だった。
(放送枠が変更されてる!警察にタレコんだだけじゃない!マスコミにまで情報を流したんだ!だが、いったいどんな情報を……)
そのとき…テレビの中で突然映像が激しく揺れた!
カメラマンがタンクローリーの落下に人々が気づいた瞬間だ!
撮影者のパニック状態を表すように、激しく上下左右デタラメに画面が揺れる!
『ここです!』と突然番組キャスターが叫ぶのと同時に、映像はピタッと停止した。
写っているのは…川向こうのジャンクションだ。
(…なにか写ってるとでも言うのか?)
万石の疑問に答えるように、映像はどんどんとジャンクションに寄って行き…橋脚の足元に立つ影をアップにして映し出した。
『解像度をアップしてみましょう』
モザイクか壁のシミのようだった影はたちまち人の形へと姿を変えた!
『この人物です。匿名の目撃情報によりますと…この人物が叫び声をあげ、手を振り回すと同時に、あのタンクローリーが降って来たのだそうです。』

508A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/27(木) 08:47:36 ID:rGLOrvFz0
バスが降り、タンクローリーが降るより以前に、同じあの川原に降って来た人物がいる。
私は見た。
彼が怒りの叫びを上げ、両腕を振り回すと、タンクローリーは降ってきたのだ。
もしタンクローリーが降ってきたそのときの映像があるなら、ジャンクションの足元をよく調べてもらいたい。
あの悪魔が、写っているかもしれないから。

……車のハンドルを操りつつ、南刑事は部室で目にしたばかりのタレコミ文を前にしての岸田警部とのやりとりを思い出していた。
「…魔女狩りがはじまったか。」警部は断言した。
「魔女狩り…ですか?」
「そうさ。」
苦虫を噛み潰したような顔で、警部は肩越しに南を振り返った。
「日本経済は明らかに失速を開始した。高速道路から逃げ出した車で一般道は大渋滞。おまけに高速道路脱出組の車絡みの事故が全国で50件以上。そのうち死亡事故は7件。不安と怒りで日本中がいらついてる。こうなるとまず最初に起こるのは……」
「捜査機関へのバッシングですね。」
「そうだ。そして次に始まるのが…魔女狩りだ!」
それまで黙っていた部長がおもむろに口を開いた。
「やっつけ隊の連中が魔女狩りに参加することは無いだろうが……問題は……」
岸田警部が応じて言葉を続けた。
「問題は県警です。」
509A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/27(木) 08:51:20 ID:rGLOrvFz0
いや、なかなか終わらず誠に申し訳なし。
年末はさすがに忙しすぎて。
予定ならクリスマスあたりで「幸せになる方法」が終了。
新年を跨いで「木神」か新年特別企画と称し「岸田警部対変人女」を「マジンガーZ対デビルマン」とか「ルパン対ホームズ」のノリでやるつもりでしたが、そこまでたどり着けませんでした。


510A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/27(木) 17:10:53 ID:rGLOrvFz0
「これは!?」
その日の朝、まだ暗いうちに新聞販売所に顔を出した山田は、その日配る新聞の一面を眼にして絶句した。
(これは……僕だ!?)
紙面トップには、系列テレビ局が撮影した映像を大写しにした写真が掲載されており、朧ではあるが山田の姿が捉えられていた。
(酷い濡れ衣だ!僕が事件の犯人だなんて!?……皆はこれが僕だと気づいてるんだろうか?)
山田はこっそり他の配達員たちの顔を盗み見たが、誰一人その写真が彼であると気づいたふうは無い。
だが、自分の持分の新聞を受け取り逃げるように外に出ようとしたところで、山田は遅れてきた配達員と鉢合わせしそうになり、数部の新聞をとり落としてしまった。
「うわっ!?」「あっ!?」
そのとき山田は、相手の「あっ」という声の中に、ただの驚きとは違う気配を感じたように思った。見ると、相手は足元の新聞を拾い上げ一面トップの写真をじっと見つめている。
「す、すみません。」
山田は相手の手からひったくるように新聞を奪い取ると、それ以上一言も言わず、配達用自転車の脇に立ち荷台に新聞を据え付ける作業に集中しようとした。
いまさっき鉢合わせしそうになった相手の視線を、痛いほど背中に感じながら。
511A級戦犯/幸せになる方法:2007/12/27(木) 17:12:19 ID:rGLOrvFz0
「……というわけなんです。万石さん。」
「魔女狩りですか。上手い例えですね。」
「感心なんかしている場合じゃありませんよ!」
どれだけのスピードで飛ばしてきたのか、南が万石の大学にやって来たのは、電話があってから僅かに小一時間後のことだった。
「しかし、これがタレコミだとして……」今度はマジメな口調で万石が言った。
「……アナタ方不可能犯罪捜査部だけでなく主要な報道機関にまで情報を流すなんて…」
「我々だけではありません。」車のハンドルを握ったまま南が答えた。
「……怪獣やっつけ隊の方にもタレコんでます。連中から連絡が来ましたから。」
「しかし、ただの愉快犯なら、やっつけ隊にまでタレコむでしょうか?これはむしろ……」
「ええ、僕の上司(=岸田警部)もそう考えています。だから誰かが魔女狩りを煽っているとも言っていました。…ところで万石さん?」
南は速度を落とさぬまま、車のハンドルをいっぱいまで右に切った。
「……アナタを信用しないわけではありませんが…僕らは今どこに向かっているんですか?」
「市役所です。」
「市役所??」
「そうです。この時間なら彼女はもう家を出て役所に向かっている最中だと思います。」
「彼女?!」
「彼の元に私たちが行くとき、彼女に一緒に居てもらう必要があるんです。」
「『彼女』の次は『彼』ですか。」
「私のカンが外れていなければ……敵はこれまでも、『彼』の周りに十重二十重の蜘蛛の巣を張り巡らしてきたのです。今度のタレコミは……おそらくその仕上げに違いありません!」
「……判りました!」
突然南がアクセルを更にいっぱい踏み込んだ!
「もうこれ以上は聞きません!自分は万石さんを全面的に信じます!」
激しいスキール音とともに車は更にロケットのように加速した。
枯れ並木の続く通りから左に曲がれば、市役所の古臭い建物が姿を現すだろう……。
……だが、市役所の前で万石と南を待っていたのは、予想し得る限り最悪の光景だった。
512名無しより愛をこめて:2007/12/27(木) 21:15:12 ID:jxlJUjxf0
ホタテマン登場!!! 危うしアンヌ隊員!!
レイプされるアンヌ隊員 妊娠してホタテマンの子供を出産。
諸星ダンが現れて 僕たちの子供として 育てよう……終わり
513名無しより愛をこめて:2007/12/28(金) 08:58:19 ID:8MwDpsj90
>>ホタテマン登場!!! 危うしアンヌ隊員!!

このネタでも作れるぞ(笑)。
「異類婚」の話に持ちこめば民話・伝説系。
「インスマスの影」ネタに持ち込めば、クトゥルー神話系。
ホタテマンとアンヌとダンの三角関係に持ち込めばギャグか、フケーの「ウンディーネ」みたいな悲恋系にできる。
アンヌとダンの子供を主人公にして実父のホタテマンと対決させりゃスターウォーズだ!

…って、話が長くなりすぎで申し訳ない。
「ゴミクズどもめ死ぬがいい」
この言葉にちゃんとした意味をもたせるためには、登場人物の内心描写に踏み込まざるをえず、結果的に話が長く……。
私なんぞのクソ駄文のことは気にせず、自作があればどんどん投下してください。
そのほうが、スレも栄えるし、]話氏も戻ってくる気になってくれるかもしれないから。
514A級戦犯:2007/12/28(金) 10:45:56 ID:8MwDpsj90
もうしばらくで今年は書き込めなくなります。
なかなか終わらぬ拙作駄文にお付き合いくださった住民の方々へ、よいお年を。
そしてスレ主の第]話氏へ…よいお年を。
特撮モノやファンタジーの好きな方々に、新年が幸多からんことをお祈りしています。
515ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2 :2007/12/31(月) 01:34:46 ID:vPeZeFNg0
よいお年を!!

紅白は書庫単のはしゃぎっぷりが楽しみです…
516名無しより愛をこめて:2008/01/01(火) 19:15:26 ID:qsBXQwIg0
あけおめ
517名無しより愛をこめて:2008/01/04(金) 23:40:36 ID:MzROg4e10
4
518名無しより愛をこめて:2008/01/09(水) 07:14:58 ID:LuyBUTOi0
a
519名無しより愛をこめて:2008/01/09(水) 17:26:43 ID:64iLyMR80
>>書庫単

頭の回転も速いようだし可愛い娘だとも思うが、一瞬中川勝彦に似た顔を見出すとなんだか無常を感じてしまいもうす。
まあ、ナンシー・チャンみたいなハートを捨てた女にはなってないみたいなんで、それは良いんですが。
…と、いうわけで、忙しさの中、新年再スタートにござるよ。
520A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/09(水) 17:27:38 ID:64iLyMR80
朝刊を配り終えても、山田は販売所には戻らなかった。
(もうあそこには戻れない…)
山田の取り落とした新聞のトップ写真をじっと見つめている同僚の顔が消しようの無い映像となって網膜に焼き付いている。
いつまでも町を彷徨っているわけにもいかなかった。
新聞を配って歩くような時間帯は、暗い上に寒くもあるから、襟を立て顔を隠すようにしていても特段人目を引くようなことは無い。
それに、手にした配達中の新聞が、そんな真っ暗な時間帯に戸外にいることを正当化もしてくれた。
しかし、手にした最後の新聞を配り終え、東の空が白み始めると、街行く人影が次第に増え始めた。
(……どこかに逃げよう。)
やっとそう決心できたのは、彼が新聞を配り終えてから小一時間も街を彷徨った後だった。
(でもそれならこっそり寮に戻って、最低限の身の回り品ぐらいは……)
ようやく行く先を得た彼は、追われる者特有の足取りで新聞販売所の寮へと引き返していった。
歩きなれた路地をいくつも曲がり、もうあと最後の角を曲がれば、すぐそこに寮が……というところまで来たとき、山田は曲がり角の向こうで明滅する赤い光に気がついた。
不吉な明滅…、威嚇的な赤…。
近くの植え込みに山田が飛び込むのと、角を曲がって警告灯を回転させた車が現れたのは殆ど同時だった。車の側面には「神奈川県警察」の文字。
こんな時間にこんな場所で何をしているのか?
その答えは、山田とっては明らかだった。
息を潜めてパトカーをやり過ごすと、山田は寮に背を向け小走りに立ち去った。
このぶんだと、写真に撮られたジャンクションにも警察が網を張っているに違いないし、それにもとよりあの場所には彼自身が行きたくなかった。
そこで山田は……、もうこの世界で彼を受け入れてくれるかもしれないたった一つの場所に向かうしかなかった。
521A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/09(水) 17:28:05 ID:64iLyMR80
どこかに隠れているかもしれない警察の目に怯えながら、裏道ばかりを選んで大回りをしたので、山田が市役所前の交差点近くまで辿りついたとき、時刻はとうに8時半近くになっていた。
こっそり見回した限りでは、あたりにさっきのようなパトカーは見当たらなかった。
(安田さんは……もう来てるんだろうか?)
でも、昨日までのように役所に堂々と入っていって、彼女はもう来ているかと尋ねるわけにはいかななかった。今朝配った新聞には、「バスが降り、タンクローリーが降るより以前に、同じあの川原に降って来た人物がいる」とほのめかすような記事も載っていたのだ。
(彼女が役所に入る前に会わないと…)
山田は信号と、交差点で信号待ちする人々を交互に見比べながら物影で息を潜めていた。
市役所前は、この近所で唯一のスクランブル交差点になっており、歩行者用信号が青になると、前に後ろに斜めにと一斉に渡りだすサラリーマンたちが交差点中央で交錯する。
その雑踏の中、安田と接触しようと、山田は考えていた。
(まさかもう役所に入ってしまったとか……)
そんな不安な思いが山田の頭を掠めた瞬間だった。
安田が現れた!
かなりの早足で、歩道を俯き加減に歩いてくる。
ただ……
山田の口から微かな悲鳴が漏れかかった。
(安田さんは信号待ちに引っかからない!)
彼女の歩く歩道は、交差点を跨ぐことなしにそのまま市役所の敷地へと通じているのだ!
歩行者用信号は赤のままだったが、もう山田には「青になるまで待つ」という選択肢は残されていなかった。
信号がまだ赤のままなのも構わず、歩道で待つ人波の中を掻き分けると、山田はそのまま車道へと飛び出し……
その直後、鳴り響くけたたましいブレーキ音。
そして、山田の体は車のボンネットの上で舞った。
522A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/09(水) 17:28:41 ID:64iLyMR80
「ん!?なんでしょうか?今の音は??」
「…どうやら交通事故のようです。怪我人が出てなきゃいいのですが。」
歩道に乗り上げて車を止めると、万石と南刑事は市役所までの僅かな距離を歩き出した。
「…警察?」
人ごみの向こうに赤い回転灯を認めた南が言った。
「事故は起こったばかりだってのに、いやに……」
いやに早いな…と南が言い終えるよりも一瞬早く、「しまった!」と叫ぶなり猛然と万石は走り出していた。
523A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/11(金) 12:54:26 ID:QXBB8j5d0
人ごみを分け入ると、ドーナッツ状に開けた人ごみの中に、一台の車とそのドライバーらしき呆然とした男、そして小柄な男が目つきの鋭い男らに「助け起される」というより「引きずり起される」ところだった。
そのとき、万石の横から南刑事がぐいっとばかりに飛び出すと身分証をかざして叫んだ。
「不可能犯罪捜査部の者だ!その人をどうしようというんだ!?」
小柄な男=山田を引っ立ててゆく男らの後ろから、年配の男が進み出た。
「不可能犯罪?…俺たちは神奈川県警だ。今この男に重要参考人として任意出頭を求めているところだ!」
「そのどこが…」
そのどこが任意出頭ですか!?と叫ぼうとした万石の口の前に手をかざして制すと、代わって南が言った。
「任意出頭というより、まるで拉致誘拐犯のように見えますね。その人の意思をちゃんと確認したんですか?」
「もちろん確認したさ。黙示でだがな。」
その口調は明らかに、もう話しは打ち切りだ!言っていたが、南はなおも食い下がった。
「待て!その人は怪我をしてるじゃないか!それを出頭させるのか!?」
「神奈川県警にも警察病院ぐらいある!」
年配の男は南に背を向けると、仲間に命じた。
「さあ行くぞ!」
神奈川県警の男たちは山田をネコの子でも扱うようにパトカーに押し込むと、叩きつけるように南の鼻先でドアを閉め、ただちに覆面パトカーを発進させた。
524A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/11(金) 12:54:53 ID:QXBB8j5d0
「南さん!彼です!」仁王立ちでパトカーを見送る南刑事の横で、頭を苦しそうに左右に振りながら万石が言った。
「彼?」
「そうです。今の彼が僕らの会おうとしていた人物なんです。でも遅かった。きっと敵の罠は完成してしまいました。」
「まさか…そんな……」ほんの一瞬言いよどんだ南だったが、持ち前の体育会的正義感を取り戻して叫んだ。
「いや、そんなことは絶対にさせません。万石先生、そこの市役所で待っていてください!」
「いったいどうしようと?」
路肩に止めた車に飛び込みながら、振り返りもせず南は答えた。
「ヤツラを追いかけます!」
そして南の乗った車はロケットのように飛び出すと、パトカーを追いかけて、その去った方へと走り去っていった。

「あの…万石先生。」
一人取り残された万石が自分を呼ぶ声に振り返ると、後ろには不安げな表情を浮かべて安田が立っていた。
「ああ、安田さん。じつはいまアナタをうかがおうと…」
…最後まで言い終えるまで、安田は待たなかった。
「いま連れて行かれたのはひょっとして山田さんですか?」
万石が頷きくと安田の顔がさっと曇った。
「なんで、なんで山田さんが?彼が何をしたって言う何ですか!?」
「そうです、彼は悪いことなど何もしていません。それよりむしろ、彼は犠牲者なんだと思います。」
「それなのに警察に!?」
「心配要りませんよ。山田さんの身の安全を図るため、信頼できる方が動いてくれていますから。」
525A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/11(金) 17:35:59 ID:QXBB8j5d0
市役所の仕事場に上がってみると、窓口は空っぽで、着席している同僚など一人もなく、全員が来客からは見えない位置に設えられたテレビの前に集まっていた。
テレビはおそらくヘリコプターからの中継映像で、見知った道路を抜けていく覆面パトカーを追いかけていた。
目ざとかったからか、それとも単に運が良かったのか、山田が「任意同行」を求められた瞬間、上空にヘリを送っていた放送局がいたのである。
ヘリが高度を上げて映像の範囲が広くなると、覆面パトの後方10メートルほどのところを走る南刑事の車もたまに映し出された。
市役所前の道から直進を続けていた覆面パトは、川とぶつかるT字路で右に向きを変えた。
「おっ!?ここで右に行くのか?」
「あたり前だろ!左に折れたら高速入り口だ。犯人自身を護送してるってのに、高速は使えないよ。」
発作的に何か言いかけた安田の肩に手を置くと、万石は接客ロビーへと連れ出した。

「みんな山田さんのことを……」
「心配いりませんよ。安田さんは、警告灯つけた覆面パトの後ろにピッタリついてる車に気がつきましたか?あれは不可能犯罪捜査部の南という刑事さんの車で、山田さんを守るためについていってくれているんです。」
「…不可能犯罪捜査部の?」
「そうです。南刑事は信頼できる方です。彼がついていてくれれば、きっと大丈夫ですよ。」
「…そうなんですか。それなら少し安心……」
万石が押した「大丈夫」という太鼓判に安田がほっと胸を撫で下ろしかけたそのときだった。
ついさっき出てきたばかりの事務所の中から、「うわあっ」という恐怖の叫びに続いて、
予想もしなかった言葉が飛び出してきた!
「パ、パトカーが、宙に浮いたぞ!」
526A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/11(金) 17:36:25 ID:QXBB8j5d0
「だ、だってここは高速道路じゃないじゃないか!?」
怒鳴り返すような声を耳に、万石と安田がテレビのある事務所の入り口まで引き返すと……テレビに移っていたのは、木々の梢よりも高い場所を行くさっきの覆面パトカーだった。
「万石先生、これは?」
「敵の勢力圏が拡大しているんです。」
乾いた声で、囁くように万石は続けた。
「…とうとう高速道路の外まで出てきたのか。」
そのとき、テレビの前で誰かが叫んだ。
「みろ、後ろの車まで浮かんでるぞ!」
「なにっ!?南さんの車が!?」
万石が小さくそう呻いた瞬間、彼の携帯が突然呼び出し音を奏でだした。
「も、もしもし?」
「万石さんですね!!」
ある予感に急き立てられて携帯を開くと、電話してきたのは、まさにいま空中に吸い上げられつつある車に乗った南刑事だった。
「南さん!?南さんなんですね!?まだその高さならなんとかなります!早くそこから……」
だが、南の返事は万石の予想だにしていないものだった。
「空です!」
「そ、空??」
「そう、空です!星空が、星空が窓の外に」
「星空?で、でも今は…」
「わかっています!今が昼間だというのは。でも、でも……車のルーフの上に広がっているのは星空なんです。」
南の声に激しい雑音がかぶり始めた!
「南さん!?南刑事!?南さん??」
「じ、自分は空に………落ちるっ!!」
短い叫びを最後に、南刑事からの電話はプツンと途絶えてしまった。

527A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/11(金) 17:36:48 ID:QXBB8j5d0
パトカー危うし!
その報を受け、怪獣やっつけ隊の戦闘機がスクランブル発進をかけた。
逃げるいとまを与えぬために、武装と装甲の一部を取り外され、代わりにブースターを装着された戦闘機は、最高速度マッハ5.5に達する速度で現場上空に駆けつけた。
実用機による、しかも水平飛行での極超音速飛行は、付近のマンションの高層会の窓ガラスが、衝撃波で割れるというオマケまでもたらしたが……「敵」を細くすることは今度もできなかった。
「被疑者逃亡!」のニュースが飛び交う中、その日の時間はただ無為に過ぎてゆき……
…そして日が沈んだ。
528A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/11(金) 17:37:18 ID:QXBB8j5d0
その日は、驚愕と混乱のうちに暮れていった。
高速道路だけが危険なのではない!
日本中、どこにいても危ないのは同じ!
どこに居ても同じだというのなら、普通に働いてもいいはずだが、実際には学校は休校になり、商店はシャッターを下ろしてしまった。
市役所ももちろん大部分の職員が自宅に帰ってしまったが、それでも安田は「受付を無人にするわけにはいかない」と踏みとどまり、万石も主のいない席にこれ幸いと陣取り、あちこちに電話をかけまくって、南刑事と山田の消息を探りだそうとした。
だが、二人の努力は、全く報われることはなかった。
その日の夕方までは……。

「先生!!万石先生!!」
何かの用事で正面ロビーに出ていた安田が叫び声を上げた!
「どうしました!?安田さん?!」
万石が慌てて飛び出すと、安田は首を45度ぐらいの角度で上に向け、呆然とした表情で立ち尽くしていた。
「どうかしんですか?安田さん??なにがあったんですか!?」
万石は安田の視線の先を辿ると、壁にかけられた一枚のイラストに突き当たった。
それは礼の高速道路のジャンクションの完成予想図で……。
「私、思い出したんです。」
はっきりと完成予想図を指差して安田は言った。
「あのジャンクションの完成予想図を見て、私、気がついたんです。」
「いったい何に…?」
ブルブル震える指で図を指差しながら、安田が答えた。
「あの黒い手帳に書かれていた、先生がテトラグ…なんとかに似ていると言われたあの図形と、ジャクションの形が同じなんです!」
529名無しより愛をこめて:2008/01/13(日) 01:48:22 ID:xN/JuEh30
応援!今年もよろしく!!
530A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/15(火) 17:51:59 ID:5Gy/lzNr0
「あの黒い手帳に書かれていた図形と、ジャンクションの形が同じなんです。」
「なんだって!?」
青い川と緑の河川敷を背景にゆったりとうねるように描かれた高速道路ジャンクションの完成予想図。
それは確かに安田の言うとおり、空から落ちてきた黒い手帳の末尾に描かれた記号?と寸分たがわぬラインを描き出していた。
「こ、これだったのか!?」
思わず万石は叫んでいた。
「五次元との境を消滅させるための仕掛けがどこかにあるはずだと考えてはいましたが……、まさか目の前にあったとは、ん?…あの名前は……!!」
完成予想図の下には、ジャンクションの設計者=「敵」の名前が堂々と書かれていた。
531A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/17(木) 17:21:28 ID:OL9QaP+00
眩暈でもおこしたようによろめくと、万石は言った。
「あ……彼か!彼だったのか!」
「万石さん、もしかしてその人のことをご存知なんですか?!」
何かの発作でもおこしたように、二度三度と続けざまに頷く万石。
安田は壁に掛かった完成予想図のすぐ下まで行くと、埃で擦れたローマ字表記の名前を読み上げた。
「あ……さ……ひ……な……」
読み上げる安田の声に唱和するように、万石は続けた。
「朝比奈……礼一……天才です。一時期ですが一の谷研究所に在籍していたこともありました。建築設計者にして芸術家、正義と行動の人、そして孤独な男です。」
安田の眉間に縦ジワが寄った。
「こんな事件を起したのに、正義の人なんですか?その人は??」
「もし彼の目の前で子供がトラの穴に落ちたなら、彼は迷わず助けに飛び込みますよ。」
万石の例えを聞いて、安田はある説話を思い出した。
「…でも、そういう人ならなんでこんなことを??」
「…原因は……おそらく、彼の強すぎる正義感と天賦の才でしょう。」
532A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/17(木) 17:23:33 ID:OL9QaP+00
「朝比奈礼一……。たぶん幼いころから衆に抜きん出た天才だったんでしょう。
私と彼との接点は同時期に一の谷研究所に在籍していたという一点だけですが……」
自身の記憶や他人からの伝聞を辿るようにしながら、万石は朝比奈という男について語りだした。
「悪というものを見逃すことのできない男でした。一の谷研究所を辞したのも、社会の様々な悪や矛盾と戦うためだったようです。
クリーンエネルギーの開発・普及から、環境破壊や薬害事件での大企業との対決まで、他人から聞いた話だと、八面六臂の活躍でした。
彼のことをNHK大河ドラマの主人公にしたら、一年じゃ終われませんね。」
「そんな立派な人だったんですか?」
「そうです。しかもそのいずれの活躍でも、彼は地位や名誉を一切求めませんでした。いやむしろ背中を向けていたとすら言えると思います。そのおかげで、自分ではたいしたこともしていないのに国会議員にまでなれた人間を知ってますよ。」
いつもと違い、万石の話の進め方には何故かなんの脈絡も感じられなかった。
「……朝比奈という男は決して付き合い易い男ではありませんでしたし、第一、朝比奈の活躍で美味しいところをタダ取りした連中にとって、朝比奈はむしろ邪魔者だったでしょうね。
朝比奈が栄誉を求めないのをいいことに、連中はとっとと彼との縁を切りました。しかし、それでも朝比奈という男は不平一つ言わなかったそうです。」
相変わらず、万石の話はとりとめのないままだったが……だが、そのとき安田は悟っていた。
533A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/17(木) 17:25:53 ID:OL9QaP+00
(……そうよ、万石先生は私に話しかけているんじゃないのね。本当に話しかけている相手は自分自身。その中で何かを見つけようとしてるんだわ。)
「……そういえば彼が言っているのを聞いたことがあります。エッシャーの騙し絵みたいな建物は、三次元では実現不可能だけれども、四次元やより高次の次元では可能なはずだ…と。きっとそれを実現したのがあのジャンクションの設計で……」
夕日が沈み辺りが暗くなり、朝から降ったり止んだりを繰り返していた雨が、俄かに吹き始めた突風も伴って勢いを増し、庁舎の窓ガラスを激しく叩き始めた。
根拠の無い不安が安田の心の中に入道雲のように湧き上がってくる。だが、安田は同時に万石の思考が確実に事件の核心へと迫っているとも感じていた。
「……潔癖症な彼は、もちろん原子力発電など大反対でした。プルサーマルなどクソをカレーと言いくるめるようなものだと……」
乾いた笑いをたて、万石は言葉を継いだ。
「だから彼は太陽光発電や風力発電など100%クリーンなエネルギー、自然エネルギーの利用にも力を尽くしていました。例えば北海道に風力発電施設を……」
そして……そこまで話したところで万石の口がピタリと止まった。
安田は直感した。
万石の思考が、ついに何かを掴んだのだと。
534A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/17(木) 17:28:03 ID:OL9QaP+00
「………そうだ!クリーンエネルギー!!」
沈黙の数秒間のあと叫ぶように万石は言うと、安田を引きずるように事務所にとって返すとパソコンのデスクに飛びついた。
「安田さん!山田さんが河川敷で発見されたのは何月何日でしたか?」
「えーとそれは……」
安田が答えると、万石はどこかの気象関係のホームページを呼び出した。
「……思ったとおりだ。あのタンクローリーが空に吸い上げられたのは確か……」
万石は、高速道路から車が消滅した日付とその日の天候を検索していったが、やがてバシッとデスクを叩いて立ち上がった。
「装置はあのジャンクションそのものですが、装置を作動させる動力は……この地方の天候、もっと正確に言うのならジャクンション周辺の天候が関係しているんだと思います。見てください安田さん!」
万石は自分のとったメモを差し出した。
「車が空へと消えた時間、ジャンクション周辺はいつも雨なんです!」
「それでは先生!」
安田は一重瞼を精一杯見開いて窓の外を見た。
「五次元との扉を開く装置がジャンクション!それを作動させる動力は、おそらく低気圧です!」
安田が見つめる窓の外では、季節外れの冬の嵐が荒れ狂い始めていた。
535名無しより愛をこめて:2008/01/18(金) 17:31:05 ID:Syd82myw0
エンディングはもうすぐそこだというのに…。
山田太郎の正体と星空の意味を明らかにして五次元存在の出現、そして「幸せになる方法」へと綺麗に繋げるだけなのに……。
忙しすぎて全然書けない。

……屁たれ過ぎて申し訳なし。
536名無しより愛をこめて:2008/01/21(月) 07:39:11 ID:0PcPNX2X0
a
537A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/22(火) 17:27:43 ID:vHpERRZS0
「だめだ!繋がらない!」
悲鳴のような声を上げて万石が緊急連絡用電話の受話器を置くと、携帯を見つめながら安田も言った。
「私の携帯もダメです。何処にもかかりません!これってもしかして……」
「当然彼の仕業です。なんとかして防衛隊に連絡しないと……」
この地方を飲み込みつつある冬の嵐が、どんな事態を引き起こすのか、万石には見当もつかなかった。
それに、いま山田がいるのは、そしてもしかしたら南刑事のいる場所も、ジャンクションに違いないという確信も、万石にはあった。
山田と南刑事を救出し、ジャンクションを破壊するには防衛隊の力を借りねばならない。
だが、防衛隊との連絡方法は完全に断たれてしまっていた。
突然ガシャン!バリバリッ!というという音が庁舎内に響き渡った。
突風に吹き飛ばされた何かが、何処かのガラスを割ったに違いない。
風は台風か、竜巻のように勢いを増し続けている!
「ダメだ!」デスクを叩いて万石が立ち上がった。「もうこれ以上グズグスしてはいられません!」
「ジャクンションに行くんですね!?」
「僕に何ができるか、さっぱり判りませんが…でも、行かなければなりません!行って朝比奈と対決します!!安田さんはココで……」
だが、「ここで待っていてください」と万石が言い終えるより早く、安田は庁舎の裏口へと駆け出していた。
「それなら役所の車を使いましょう!先生急いでください!!」
「いや、あの……安田さん、あなたは……」
538A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/22(火) 17:28:09 ID:vHpERRZS0
数分後……
万石と安田は役所の広報車で嵐の中に走り出していた。
「朝比奈が姿を消したのはおよそ1月半前です……。」
ハンドルを握り、前を見つめたままで万石は言った。
「…1月半……ちょうど山田さんが河川敷で倒れているのを発見されたころなんですね?」
そうです、という万石の返事は風と雨に掻き消されてしまった。
「朝比奈は自殺したに違いないと言うものもいましたが、僕にはそんなこと信じられませんでした。自殺なんかするには、彼は強すぎましたから……」
「なんで!?」万石の耳元で安田は精一杯に声を張り上げた。
「…なんで、その人はこんなことを始めたんですか!?」
「それは……」
一瞬、雨と風が止んで、万石の言葉を妨げるのは2人の乗った車のエンジン音だけになった。
「……それは……ある『別れ』があったからなんです。」

539A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/22(火) 17:28:34 ID:vHpERRZS0
(……こ、ここは…?)
山田がこわごわ目を開くと……自分が押し込まれたパトカーが上下逆に転がっているのが見えた。
一緒に乗り込んだはずの警官は一人もいない。
そしてその向こうにもう一台、これは山田の知らない車が転がっていた。
痛む体にムチ打って立ち上がろうとすると……背後から聞き覚えのある声が囁いた。
「…無理はしないほうがいいぞ。」
はっとして振り返ると、以前山田が立ったことのあるジャンクションの縁に、あのひょろ長い影が腰を下ろしていた。
いや、もうそのときは影ではない。
ジャンクションを満たした奇妙な光が、「影」の顔を朧に照らしだしていたのだ、
痩せた顔、老人のような顔、疲れ切った顔だった。
ただ両眼だけが、猛烈な意志力に輝いている。
風に漂うように立ち上がると、謎の男は再び静かに口を開いた。
「……やっとこうしてキミと話ができるようになったな。随分手順を踏まされたよ。」
「あ……あなたはいったい?」
謎の男は声無き笑いを浮かべた。
「私が何者かと、そう尋ねるのだね?」
催眠術でもかけようとするように、謎の男の視線が山田の視線にピタリと貼り付いた。
「私の名は朝比奈礼一そして……」
山田の視線を捉えたまま、謎の男=朝比奈は山田にとって到底信じられぬ言葉を続けた。
「……キミもまた、朝比奈礼一だ。」
540A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/23(水) 17:31:18 ID:ruNF6UkJ0
ジャンクションに向け、万石と安田を載せた車は風雨の中を突っ走っていた。
「安田さん。あなたが山田太郎と呼ぶ人間の正体は……」
助手席の安田から目を反らし、意識的に前を凝視したままで、万石は言った。
「……朝比奈礼一です。」
驚愕のあまりに安田の瞳が、まるでアーモンドのように見開かれた。
「で、でも万石先生は……」
「判っています!僕は言いました。この事件を仕掛けたのは朝比奈だと。そして山田さんは朝比奈の仕掛けた罠に嵌められただけだと……。」
「だったら!」
安田は叫び出さんばかりだった。
「山田さんが、その朝比奈とかいう人のワケなんか無いじゃないですか!?」
「…あり得ることなんです!」
風雨に負けぬよう、万石も大声を出さねばならなかった。
「あり得ることなんです!五次元の世界でなら!!」
541A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/23(水) 17:32:14 ID:ruNF6UkJ0
「ご、五次元の世界でなら?」
「そうです!安田さん!山田さんはアナタに言ったそうですね?同じシリアルナンバーの時計が二つあったと…。」
「ええ、たしかにそんな話をされたと思います。でも……それといったいどういう……」
「五次元の世界は時間を超越した世界、昨日・今日・明日が一つの世界です。その世界からこの三次元の世界に現れたとき、なんらかの事故で過去と未来が分離してしまったんです。」
「過去と未来が分離!?それってどういう……」
疑問の言葉に耳も貸さず、万石はしゃべり続けた。
「新品の時計は『過去の時計』、錆びついた時計は『未来の時計』、それはいまこの時間において分離していますが、一個の同じ時計なんです。」
「…でも時計と山田さんを一緒には……」
「時計は…時間がたっても新しい時計から古い時計になるだけで、時計であることは変わりません。しかし人間は違います。」
その瞬間、あっ!という形に口を開けたまま、安田は凍りついた。
「…時間の経過によって、生物は姿が変わるんです。」
安田にも理解できた。
万石の言わんとしていることが……。
「アナタが山田太郎と呼んでいる人物は、朝比奈礼一です。過去の、朝比奈礼一なんです。」
542A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/24(木) 17:29:04 ID:mvNw/KyN0
「一ヵ月半前の夜、朝比奈はあのジャンクションを使い、何らかの方法で五次元へと続く扉を開いたんです。」
一瞬の突風で、2人を乗せた車がガクンと大きく反対側に揺らいだ。しかし、万石は言葉を止めない。
「しかしそこで何かが起こった。現在・過去・未来が一体となった、いわば朝比奈礼一の完全体から、過去の領域に属する朝比奈礼一が分離してしまった。
新品の時計はおそらく過去の朝比奈の持ち物。古びた時計は、それ以外の時間に属する朝比奈の持ち物でしょう。」
「それではバスが私たちの前に落ちてきたのは、山田さんを…」
敢えて安田は「山田」という名前を使った。
「……山田さんを殺そうとして?」
「違います。」万石は即座に否定した。
「あれは分離した「過去の自分」、つまり山田さんに対するなんらかのメッセージだったんです。そして…時計も、あの最後の何ページかが破り取られた黒い手帳も……」
車は左右を雑木林に挟まれた県道にさしかかっていた。
そこを抜け、突き当りのT字路で右に曲がったパトカーはそのまま空へと消えた。
(もしかしてこの車も?)
頭をよぎるそんな不吉な思いを振り切ろうと、万石はエイヤッとばかりに左へとハンドルを切った。

「うわっ!!??」
雑木林を抜けT字路を左折したとたん、万石の目に飛び込んできたのは、車の赤いテールランプだった。
543A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/24(木) 17:29:38 ID:mvNw/KyN0
雑木林を抜けT字路を左折したとたん、万石の目に飛び込んできたのは、車の赤いテールランプだった。
急ブレーキで前車のバンパーすれすれに停車すると、消防団の青年が赤い警告灯を振り回しながら走って来た。
「ここは通れません!」
運転席の窓を開けると、風雨とともに彼の怒鳴り声が飛び込んできた。
「この先の橋が、吸い上げられかけてるんです!」
「なんですって!?」。
「そ ら に  、吸い上げられかけてるんです!だからここから先は通れません!」
「そんな!僕らはどうしてもあのジャンクションに……」
そこまで言ったところで、万石の言葉がピタリと止まった。
……ジャンクションが光っている。
蛍火のような朧な光を放って、川向こうに聳える高速道路のジャクションが紫色の光に照らし出されていた。
「ま…、まずいぞ!」
青ざめた顔で万石がそう言った瞬間、助手席側のドアが開き、安田が風雨の中に飛び出した。
「安田さん!待ってください!!」
だが、安田は並んで停まっている車の列の脇を駆け抜けると、そのまま橋の袂に立つ消防団員の制止も振り切り、激しく振動する橋へと駆け込んだ!
「安田さん!!」
慌てて彼女を追いかける万石!
しかし彼の目の前で、コンクリート製の橋は大蛇のように激しくうねったかと思うと、飛沫を上げつつ空へと舞い上がった
「安田さーーーーーーーーーーん!!!」


朝比奈は、紫色の燐光に染め上げられたジャンクションの頂から下界の何かを望見していたが、……やがてしわがれた声で声で呟いた。
「……これで邪魔は消えたな。」
「ん?いまなにか言ったか?」
「いや…気にするな。こっちの話だ。」
朝比奈が、山田の方に振り向いた。
……笑みを浮かべながら……。
もし枯れ木が笑ったなら、こんな風だろうというような笑みを……。
544A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/25(金) 17:11:36 ID:Fje7+49k0
「他の次元世界に続く扉を開くことは、私にとっては夢に過ぎなかった。」
朝比奈の声が、しわがれた声から、深みのある柔らかなものに変わった。
「このジャンクションにこのような機能を持たせるように設計したのも、その時点では単なる遊びに過ぎなかったのだ。」
彼の声は、独特のリズムを伴いながら、やわらかく漂い、山田を取り巻き、包み込んでいった。
(これは……催眠術?)
一瞬、ほんの一瞬だけ、山田はそんなことを考えたが、たちまちそんなことは意識の表から追い出されてしまった。
山田の手に、指に、そこには無いはずの物に触れる感触が甦ってきたのだ。
(これは??……体の記憶?僕の記憶なのか?)
指先の奇妙な感覚、だがそれは、総ての先触れに過ぎなかった。
続く記憶は……いきなり濁流と化して山田を飲み込んだ。

ともに立ち上がった仲間……行動!行動!行動!!……脅迫になんか負けてたまるか!………僕の値段は1000億円!」「そ、そんなキミ!」「買収なんかには応じないってコトですよ。あんたも頭悪いですね。」……そして勝利!勝利!勝利!!

(そうだ、あの時も、どの時も、僕は負けなかった。脅迫にも屈しなかった。買収にも応
じなかった。そして…僕は勝ったんだ。)
545A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/25(金) 17:12:30 ID:Fje7+49k0
それは苦難続きの戦いの記憶、そして輝かしい勝利の記憶だった。
だが、それに続いたのは、裏切りや悲憤に満ちた記憶だった。
……キミには付き合いきれないよ…
(オマエら、何を言ってるんだ!?)
…世の中綺麗ごとだけじゃ生きられない!
(それじゃいままでの戦いはなんのためだったんだ!?)
……自分の努力で勝ち取ったものを、自分で頂いて何が悪い!?
(まさかミイラ取りがミイラに……)
…じゃあな。オレはここで降りさせてもらうよ……
(ま、待って!待ってくれ!)
そして、彼に背中を向ける人…人…人。
その最後に現れたのは、以前に新聞販売所の寮でも目にした、去り行く女性の後姿だった。
「行かないで!行かないでくれ!!」
自分でも気づかぬうちに、山田は思いのたけを声に出して叫んでいた。

「そう……彼女も去っていったよ。」

耳に滑り込んだ声の悲しみに、山田はハッと我に返った。
枯れ木のように見える朝比奈の顔を、涙が伝っていた。
それを見つめる山田の頬と同じように……。
546A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/25(金) 17:14:41 ID:Fje7+49k0
「彼女は去っていったよ。私を誹謗中傷する者たちの言葉をうかつにも信じてね。」
朝比奈の声から潮が引くように悲しみが消え去り、代わってそれまで抑えつけていた怒りの炎が燃え上がった。
「だから私は総てを消してしまうことにした!」
そして朝比奈は、吐き捨てるように「死ねよゴミくずども」と続けた。
「いまよりおよそ一月半ほど前の大荒れの夜。私は研究の成果を用い、この場所で五次元への扉を開いた。向こうの世界にあると言われる『過去・現在・未来が一つである存在』を、この三次元の世界へと招き入れるためだ。だが……」
朝比奈の纏いつくような視線が、再び山田を捕らえた。
「……そこで思わぬ邪魔が入った。キミだ。」
ビクンと体を竦ませた山田を見て、朝比奈は静かに笑った。
「…怖がらなくてもいい。キミは私の過去に属する。つまり、人間や社会を信じていたころの私だ。だから私の邪魔をするのは当然だ。」
「僕がいったい何をしたと?」
「五次元との扉を最大限に開放する直前、私の中からキミが飛び出し、三次元の世界へと脱出したのだ。
私がかつて持っていた、人を信ずる心と、『五次元との扉を開放する方法』についての知識を携えて。」
547A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/25(金) 17:15:15 ID:Fje7+49k0
「『五次元との扉を開放する方法』を、僕が知っていると!?」
「そのとおり。」
「でもボクはそんな知識なんか持っていない!」
「自分の意識の表からも消してしまったんだよ。私の手からこの世界を守るために。」
眩暈とともに山田は悟った。
自分は記憶喪失していたわけではない。
もともとそんな記憶など持っていなかったのだ。
いや…より正確には、そんな記憶まで持ってくるひまが無かったのだ。
呆然とする山田をじっと見つめながら、朝比奈は再び語りだした。
「幸い五次元との扉は締め切られていなかった。一ヵ月半かけて、私は三次元世界に戻ってきたのだ。」
「それじゃ、ボクの目の前にバスが降ってきたのは……」
「私からのキミへのメッセージだ。私の、いや、私たちのしようとしていたことを思い出せというメッセージだよ。」
「そうか……」
山田はうめいた。
「……総ての事件は、ボクを中心に動いていたのか!」
「そうだよ。キミだったんだ。そして私とキミ、完全体としての朝比奈礼一の事件だったのさ。」
激しく混乱する山田の耳には、もう激しい雨風の音も入らない。
聞こえるのは、朝比奈の声だけだ。
「私から分離したばっかりに、キミは私が過去に経験した悲しみをもう一度経験しなければならなかった。……もう十分だろう?」
気がつくと、朝比奈の枯れ木のような指が、山田の肩に掛かっていた。
「…総てを捨ててこの世界を守ろうとしたキミに、この世界は何をしてくれた?」
見あげるとすぐそこに朝比奈の顔があった。
「さあ、こんどこそ成し遂げよう。」

そのときだ!
聞き覚えの無い声で誰かが叫んだ!
「山田さん!騙されるな!!」

548名無しより愛をこめて:2008/01/25(金) 17:15:43 ID:Fje7+49k0
たぶん……
たぶんですが、来週こそは終われると思います。
万石は?
安田は?
そして南刑事は?
ちゃんと総てにオチがつきますから……。
549A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/28(月) 17:16:59 ID:WFE3cC0I0
「山田さん!騙されるな!!」
苦しげな叫びとともに、20メートルほど向こうで仰向けにひっくり返っている車の陰から、一人の男がよろめき出た。
「……後ろを付いてきていた車の男か。」朝比奈の顔に驚きがはしった。
「鋼鉄のような意識を持たねば、時空を超えた世界に溶けてしまうものを……私以外にも自我を保てる人間がいたとは…。」
「山田さん!自分は南!不可能犯罪捜査部の刑事だ!」
「刑事!?それじゃあ僕を逮捕した連中の……」
「違う!!キミを捕まえたのは神奈川県警の連中だ。自分はキミを守るために……」
「やまださん!だまされるな。」
朝比奈はさっきの南の口調を真似してみせた。
「……騙されるななどと言って、結局ヤツが…」と言って朝比奈は南を指さした「…キミを騙そうとしているだけだ。この三次元の世界で、キミの味方は私だけだ。」
「そんなことはない!!」
南はダメージの大きな体で精一杯の声を張り上げた。
「山田さん!ボクにアナタを守るよう頼んだのは、万石という人だ!そして、万石さんにアナタのことを頼んだのは……自分は名前も聞いていないが……とある女性だ!」
「…女性!?」
呆然としていた山田だったが、女性という言葉にふっと顔を上げた。
「女性!?……それは、ひょっとして安田さんの……」
「悪いが……自分はその女性の名前は聞いていない。だが、アナタの身柄を守るため、市役所にその女性を尋ねていくところだったんだ。」
もう、それだけで十分だった。
「安田さんだ。間違いない。」
絶望に塗り込められていた山田の顔に、にわかに希望の光が差した。
南刑事の言葉に、確たる証拠立てがあるわけでもない。
でもそんなものは山田にとって必要ではなかった。
南の話した事実は、山田の聞きたかったこと、山田の信じたかったことだったのだから。
550A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/28(月) 17:17:27 ID:WFE3cC0I0
「ジャンクションが輝きを増していく!」
川向こうに朧に輝くジャンクションを、下界から万石は睨みつけていた。
「早く、早くなんとかしないと!?」
しかし、向こう岸に渡らせてくれるはずの橋は、空中を大蛇のようにのたうっている。
「万事休すか!?」
だがそのときだった。
眩い光線が、空をのたうつコンクリート橋に吸い込まれていった!
そして一瞬遅れて聞こえるシュバババッというある種の発射音。
鋼鉄をも瞬時に溶解させる必殺の光線を受け、夜空をのたうつ橋が粉々に砕け散る。
「やったぞ!!」
先ほどの消防団員が小躍りして叫んだ!
「ウルトラマンだ!ウルトラマンが来てくれた!!」
ズズーンと鈍い地響きをたて、まるで天を支える柱のような、巨大な二本の足が川向こうの河川敷に降り立った。
ズシン、ズシンとジャンクションに近づく光の巨人。
だが……
突然ジャンクションが輝きを増したかと思うと、光の巨人の巨体な胴に!腕に!足に!何か巨大なリボンのようなものが一斉に絡みついた。
551名無しより愛をこめて:2008/01/30(水) 06:54:37 ID:DlGOusvj0
552A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/30(水) 17:18:01 ID:Vmnn9Qjf0
ウルトラマンの体には紫の燐光を放つ巨大なリボン、ジャンクションへと連なる建築途中の高速道路が、海蛇のように絡み付いている!

「そうだったのか!」南が驚き叫んだ「上空を探しても見つからなかったわけだ!敵は道路そのものだったのか!」
愉快そうに朝比奈は笑った。
「ハハハハ…あの紫色の光は五次元世界の……何処にでもいる微生物のようなものなのだ。僅かな隙間を通り抜け、出入り口と直接接続している高速道路を拠り代にしてるのさ!」

メリメリッという音を立て、ウルトラマンは絡みついた高速道路を引きちぎると、すかさず十字に組んだ腕から光線を浴びせかけた。
コンクリートの建造物などひとたまりもない!
……はずだった。
しかし高速道路は砕け散るどころか煙すら上げない!
いやそれどころか、千切れてバラバラになったはずの部分がたちまち再結合を果たしてしまった!
553A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/30(水) 17:19:06 ID:Vmnn9Qjf0
「どんなに強くともウルトラマンが攻撃できるのは『現在』の存在に過ぎぬ。だが、『あれ』は『現在』『過去』『未来』にまたがって存在している。ウルトラマンの倒せる相手ではないよ。」

光の巨人に向かってコブラのように鎌首をもたげていた高速道路が、突然二つに分離したかと思うと、それぞれが巨人の左右の腕に絡みついた。

「時間分裂!」思わず山田が叫んだ。
「そうだよ。キミとワタシのように、本来別の時間に存在しているものを、同一時空に出現させる現象さ。」そして恐ろしい笑みを浮かべて言い足した。「…思い出してきたじゃないか。」

銀と赤の胸が高く厚く隆起した次の瞬間、ウルトラマンは紫に光る高速道路をバキッという音とともに引きちぎった。
だが、五次元の妖怪と化した高速道路はあっという間に再生すると、オプチカルプリンターの合成映像のように更に分離して襲い掛かっていく。

「無駄だ、無駄だ」嘲るように朝日奈は言った。「…死も破壊も、みな時間の中での変化に過ぎぬ。現在・過去・未来が一つの存在は永遠不滅の存在だ。」
「現在・過去・未来がひとつの存在!?」
山田の脳裏に、ある神話に語られる名前が浮かびあがった。
「まさかそれは!」
「そうだ!見るがいい!!」
朝比奈は雨空高くを指差した。
山田は朝日奈の指差す方を振り仰ぐまえに、自分が何を見るかを知っていた。
彼は総てを思い出していた。
そこにあるのは、夜空を蓋する雨雲などではない。
そこに見えるのは……星空だ。
空に吸い上げられつつあるとき南も見上げた、地球ではだれも見たことの無い星の配列と星の大きさでもって渦をまき、沸き立つ異界の星空だ。
ぞくっと震えを感じつつ、山田は呟いた。
「……イオグ・ゾトス」
「そう!星空などではない!」
まるで選挙演説でもするような姿勢で、朝日奈は一気にまくしたてた。
「偉大なる五次元の神!ヨグ・ソトースが、私が扉を開くそのときを、あそこでああして待っているのだ。」
554A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/31(木) 17:21:36 ID:gAGdK/f80
「さあ、『彼』をこれ以上待たせてはいけない。」
朝日奈は山田の方へと向き直った。
「キミの知識で扉を開け放つのだ。そしてゴミクズどもに全き死を!」
アジ演説家かテレビ説教師のように、山田に手を差し伸べる朝日奈。
…がしかし!
差し伸べられた手を、山田は決然と跳ね除けた。
「嫌だ!」
「なんだと!?」
「ボクはこの世界を壊したくない!」
「なにを言うのだ!?」
再び山田の精神を己の支配下に置こうと、覆いかぶさるように朝日奈は迫った。
「オマエはワタシの過去、ワタシはオマエの未来の姿。今はこの世界を壊したくなくとも、いずれオマエもこの世界の破壊を望むようになる!それがオマエの未来なのだ。」
しかし、負けじと山田も言い返した。
「判ってるさ!オマエの言うとおり、ボクもいつかはこの世界を壊そうと考えるようになるのかもしれない!」
「それなら今こそ……。」
「でも、それは今じゃない!!今のボクは、この世界、安田さんのいるこの世界を壊したくないんだ!!」
ついさっきまで山田を支配していた朝日奈の奇妙な力は、完全に失われていた。
南のもたらした事実、安田が自分のこと案じてくれていたという、ただそれだけの事柄が、山田の心の支えとなっていたのだ。
「……そうか……あの女のためなのだな……」
朝日奈の目に、冷たい狂気がきらめいた。
「それなら…残念だがあの女は……」
555A級戦犯/幸せになる方法:2008/01/31(木) 17:22:09 ID:gAGdK/f80
「…残念だがあの女は……」
安田の死は、今の山田にとっては世界の終わりと同義だ!
「…あの女は、もうこの世には……」
けれども朝日奈が山田の最後の希望を断ち切ろうとしたそのとき、下界へと続くランプを指さし南が叫んだ!

「山田さん!あれを見るんだ!!」

紫の燐光の中、小さな人影が、渦巻く風に吹き嬲られながらも、山田の立つジャンクションへと続く斜路を必死に上ってくる。
バーン!!
そのとき、河川敷で戦うウルトラマンの放った光線のスパークが、一瞬辺りを昼間と見まごうほどの明るさで照らし出した!
「安田さん!」
「なんだと?!」
歓喜に満ちた山田の声と、怒りを含んだ朝日奈の怒号が交錯した。
「何故だ!?なぜあの女が!?……そ、そうか、ウルトラマンめ!」
ウルトラマンは五次元存在と戦うためにだけ出現したわけではなかった。
安田を乗せた橋が荒天に舞い上がる寸前、彼女の体を橋の上から川の向こう側へと転移させていたのだ!
556A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/01(金) 17:27:04 ID:nj7BCuy60
「僕は五次元との扉なんか開かない!絶対に!!」
山田が胸を張って朝日奈の視線を跳ね返すと、南も大声で朝日奈に迫った。
「もうオマエの負けだ!観念しろ!!」
だが、山田と南は知らなかった。
朝日奈という男は、現世における戦いでは如何なる相手にも負けたことの無い男なのだということを。
総ての謀が潰えたように見えるこの瞬間にあって、彼の手には最後のカードが握られていた。
557A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/01(金) 17:27:52 ID:nj7BCuy60
「同じ私だと思えばこそ、採りたくは無かった手段だが……」
朝日奈の目に怪しい光が灯った。
「……キサマの知識と記憶!根こそぎコチラに戴かせてもらおう!!」
突然、猛禽の爪のように鋭いカーブを描いた朝日奈の指が、ガッシとばかりに山田の頭蓋を鷲掴みに捕まえた!
「キサマが持っていったものを返してもらうぞ!」
微かな光がドクン…と脈動しながら朝日奈の指に吸い込まれた。
「や、止めろおおおっ!」
山田は、相手の手を引き剥がそうと必死にもがくが、朝日奈の手のひらはタコのようにな吸い付いて離れない!
「なにを逆らう?…それはもともと、私のものなのだぞ!」
……再びドクンッ!
朝日奈の指が蛭のように蠢くたび、蛍のような暖かい光が、山田の頭から吸いだされていく!
ストン…と不意に、それまで必死に抵抗していた山田の動きが、ノロノロしたものになってきた。
「や、山田さん!?どうしたんだ?」
朝日奈は蔑むような笑みを見せた。
「人はパンのみに生きるに非ず。いま私はコイツの脳から、あらゆる知識と記憶を残らず吸い出しているところだ。」
「なんだと?!」
「ほどなくコイツは、中身の無い、空っぽの人形へと成り果てる!」
「そ、そんなことはさせない!!」
南は、上着の下から自動拳銃を取り出そうとしたが、黒光りしているハズのそれは真っ赤な錆にまみれており、南の手の中で崩れ去ってしまった!
「残念だったな」
老人のような長い歯を見せ、朝日奈は笑った。
「奪い返した我が知識をもって、私自身の手で、五次元との扉を開いてやる!!」
……もう、山田は殆ど動いていない。
古着のように朝日奈の腕からぶら下がっているだけだ。

(…ボクは……何だ?いま……どうなっているんだ?…ここは…どこ……なんだ?)

「総ての知識と思考を失い、廃人になるがいい!」
朝日奈が狂気に満ちた叫びを上げた。
558名無しより愛をこめて:2008/02/01(金) 17:30:59 ID:nj7BCuy60
なんと!
まだ終わらない!?
でも、来週には確実に終われる。
やっとここまでたどりつけた。
これの投下が終わったら、他の人が投下開始しないか見た上で、次作の投下を開始します。

駄作で長々とスレを汚し、申し訳なし。

559A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/05(火) 17:29:56 ID:lha6kRTO0
山田がいる場所…
そこは…総てが暮れてゆく「夕暮れの世界」だった。
身の回りの様々なことどもが次々に闇へと沈み、世界はみるみる狭く小さくなっていく。
世界だけではない。
ふと気がつくと、山田には自分の手足すら無くなっていて、ただや薄暗がりの中、「自分」という概念だけが漂う状態に成り果てていた。
まもなく、感じ、考えている「自分」すら消えてなくなるに違いない…。
そんなことを感じていると……
ふいに闇の中から一人の女が現れた。
560A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/05(火) 17:30:27 ID:lha6kRTO0
「死ねよ!ゴミ屑ども!」
天を振り仰いで朝日奈が叫んだ。
「今こそ扉を開きて、五次元世界の神をこの三次元世界に招き寄せん!!」
叫びながら朝日奈は、空中にある種の「図形」を次々と描き始めた。
もう全く動かなくなって朝日奈の足元にころがる山田に、安田が縋りついた。
「山田さぁん!」
安田は泣きながら必死に山田を揺さぶるが、山田は糸の切れた操り人形のようにガクガク首を前後させるだけだ。
「イオグ・ゾトス!!」
朝日奈が両手をかざして音声(おんじょう)を上げる。
すると、それに呼応するように「異界の星空」が、激しく沸き立った次の瞬間、猛烈な勢いで星空が……降ってきた!
ついに開放された扉に向かって、無窮の彼方から異次元の神が突進してくる!
三次元の世界を消滅させるために!
561A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/05(火) 17:30:57 ID:lha6kRTO0
(…あれは……誰なんだ?)
黄昏の闇の中から現れた女…。
アヒルのような唇をした、一重瞼の、長い髪の女だ。
場面が前触れもなく不意に変わって……
寒々とした冬の宵だった。
木枯らしに吹かれながらアヒル口の女が誰かを待っている。
(誰か?……それはひょっとして…)
ひょっとしてボク?そう思う間もなく、またも場面が変わった。
アヒルのように唇を突き出して何か言う女。
笑っているアヒル口の女。
手を振っているアヒル口の女。
同じアヒル口の女が次々現れるたび、山田の心に暖かいものが広がっていく。
やがて…青い空と白い雲をバックに、アヒル口の女がこちらを見下ろしていた。

「大丈夫ですか?」

…心配そうに女が手を差し出した手を消滅したはずの自分の手で握り返した瞬間、山田は「女」の名前を思い出した!
(…安田さん!)
闇の中、山田は叫んだ!
「そ、その記憶を、消さないでくれ――――っ!!」

562名無しより愛をこめて:2008/02/06(水) 08:37:55 ID:9M5qIJSM0
…いや、校正なしの一発勝負で投下してるだけあって、酷い文章だ。
我ながら自己嫌悪に陥る…。
563A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/07(木) 17:17:44 ID:Dva5ooG80
「死ねよ!ゴミ屑ども!!」
天を仰いで朝日奈がもう一度叫んだ!
「現在・過去・未来がひとつのもの」が来る!
「始まりが無く終わりも無いもの、殺すことも傷つけることも適わぬもの」が降臨する!
それを阻止すべく、ウルトラマンがジャンクションに迫ろうと試みるが、無数に分裂する異次元高速道路に阻まれ果せない!
「そうはさせんっ!」
手の中の赤錆びた拳銃をその場に叩きつけると、南は朝日奈に向かって突進しかけだが、たちまち見えない何かの一撃で後ろに弾き飛ばされてしまった。
「現在だけの存在であるキミが、現在と未来の存在である私に、何かできるとでも思ったのか?」
歪んだ喜びに顔を輝かせ朝日奈はまたもあの言葉を叫んだ!
「死ねよ!ゴミ屑………」
…だが、まさにその瞬間だった!
祈りにも似たある「思い」が、ジャンクションを貫いた!

《 そ、その記憶を、消さないでくれ――――っ!! 》

「ぐ!ぐがああっっっ!?」
勝利の絶頂にあった朝比奈が、突然見えないバットで殴られたように仰け反った。
顔を押さえて二三歩よろよろと後ずさった直後、両手のひらの下から現れた表情は別人のようだった。
悪い夢から覚めたような顔で辺りを見回したかと思うと、朝日奈は、まず足元に泣き崩れる安田、そして頭上の星空を突進してくる存在を見上げた。
「…お……おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
…南には何が起こっているのか、全く判らなかった。
朝日奈が奇妙な叫び声を上げると、以前山田が「神の視点」と評したジャンクションの突端に向かって駆け出したのだ!
その手には、いつの間にか拾い上げた鉄パイプが握られている!
猛スピードで降下してくる「星空」が、太陽の数倍もの大きさで迫るさなか、朝日奈はある言葉を叫びながら「神の視点」へと鉄パイプを振り下ろした!!
564A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/07(木) 17:18:32 ID:Dva5ooG80
「…そのときヤツは叫んだんです。『この世界、壊させるもんか!』と…」

総てが終わり……上り始めた朝日が照らす河川敷を2人の男が肩を貸し合い歩いていた。
肩を貸された男=南は言葉を続けた。
「朝日奈は…山田さんの記憶と知識を根こそぎ奪い取りました。しかしその中には…」
肩を貸す男=万石が答えた。
「……安田さんへの思いも含まれていたんですね。」

「この世界、壊させるもんか!」
渾身の力で朝日奈が、「神の視点」に鉄パイプを振り下ろすと、コンクリートの塊に混じって、何か電気コイルのようなものがはじけ飛んだ。
そして……何かが、何処かで、閉ざされた。

「その安田さんへの思いをも自らのものとしたため、朝日奈自身が世界の破壊を望まなくなってしまったんだと……自分はそう思います。結局……」
続く南の言葉は、万石に話しかけるというより、自分自身に語りかけるようだった。
「……結局この世界を守ったのは、山田さんの安田さんとの記憶だったわけです。」
565A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/07(木) 17:19:03 ID:Dva5ooG80
五次元との扉が閉ざされると、不死身と見えた「異次元高速道路」はみるみる力を失い、ウルトラマンの放った光線を浴びるともう二度と再生・復活することは無かった。
無生物に戻った高速道路は巨大なリボンのように河川敷をのたうち、前衛的な景観を作り出してはいたが、それ以上もう動くことはなかった。

「……開きかけた五次元への扉を自らの手で閉ざすと……奪った記憶と知識を放棄し、自らは消滅する道を選んだ……。そういうわけですか…。」
万石の問いコクンと短く頷いてからたっぷり数秒間の沈黙のあと、恐る恐るといった調子で南は尋ねた。
「万石先生…山田さんは、結局、朝日奈と同じように……なってしまうんでしょうか?」
「同じように……世界全体を憎むように……ということですか?」
そう、朝日奈は山田の未来の姿なのだ。
「……朝日奈は山田さんの未来の姿、山田さんは過去の朝日奈でした。」
「それではやはり…」
……山田も朝日奈になってしまうのか?そして世界の破壊を願うのだろうか?
しかし万石は静かに首を横に振った。
「人間というのは機関車のように決められたレールの上だけを走るものではありません。
誰と出会うか、誰と別れるか、それだけで何億通りにも変化し得る。それが人間というものです。」
566A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/07(木) 17:19:38 ID:Dva5ooG80
「それなら…」
南は朝日の射すほうに顔を上げた。
「山田さんの未来を左右するのはやはり……」
……曙光に縁取られた河川敷堤防に、並んで座る二つの姿が、シルエットになって浮かんでいます。
万石先生と南刑事は答えを確かめに行くところでした。
世界はもう一度、破壊の危機を迎えるのか?
それとも……

「……あっ!」

短い叫びとともに、負傷した南を支えて歩いていた万石の足が突然止まりました。
どうかしたんですか?と、尋ねかけた南の前に、「しいっ…」と言いながら人差し指を立てると、万石はその指を朝日が縁取る堤防の方へと向けました。
さっきまで並んで座っていた二つの影は、どちらからともなく寄り沿って、いつのまにか一つの影になっていたのです。
万石先生と南刑事は、さっさとその場から退散することにしました。
だって……出歯亀は野暮ってもんですから……。

567A級戦犯/幸せになる方法:2008/02/07(木) 17:20:18 ID:Dva5ooG80
「知性」や「力」が幸せをもたらしてくれるとは限りません。
いや、むしろ「知性」や「力」は「嫉妬」や「敵意」など様々な余計なものをも引き寄せてしまい勝ちなものです。

……幸せをもたらしてくれるもの

それは、「困っている人に手を差し伸べるささやかな優しさ」。
あるいは「その手を握り返すだけの小さな勇気」。
案外、そんな他愛も無いものなのではないでしょうか?


「幸せになる方法」
お し ま い
568名無しより愛をこめて:2008/02/07(木) 17:24:11 ID:Dva5ooG80
やっと終わった「幸せになる方法」。
「ウルQシナリオ」スレに落とす駄文は、ウルQが30分番組だったのに倣い、30分ものという想定で構成してきました。
「新悪魔っこ」「ミイラの叫び」「緑の思い」「隣の芝生」「いつまでも・いつかまた」「ゴスラVSウンコタイガー」「人形の家」は、すべて30分ものという設定。
「石の見る夢」のみ、前後編の設定で1時間でした。
でも今回は30分番組枠を外し、一時間半枠での構成です。
理由は…コアになるネタが二つあったからでして…。
ひとつは「死ねよ!ゴミ屑ども!!」というセリフを生かしきるということ。
もう一つは「アルジャーノンに花束を」の変奏曲とすることです。
実は他板の某スレで、実力派の住人が「アルジャーノン」系の作品を投下されていまして。
だから私も、「私流のアルジャーノンを作ってみよう」と思ったわけです。
ただし、逆にひっくり返して、「頭の良いヤツ・強いヤツ」が、総て失った「弱いやつ」になる話として(笑)。
だから山田太郎は手術前のチャーリー・ゴードン、朝日奈礼一は手術後のチャーリー・ゴードンなわけです。
569名無しより愛をこめて:2008/02/07(木) 17:24:36 ID:Dva5ooG80
…さて、予定だと次は「木神」になるわけですが…。
「幸せになる方法」が陰謀ものだったので、「木神」を投下すると陰謀ものが二話続いてしまうわけです。
これは番組の構成バランス上、あまりよろしくない。
というわけで、投下順序の変更を検討しています。
いまのところ代打候補は単純怪獣ものの「アイドルを探せ」か「冬に鳴くセミ」のどちらか。
コンパクトに纏め、その次に「木神」を投下するかもしれません。
原作者の方には申し訳ありません。
570名無しより愛をこめて:2008/02/09(土) 07:26:21 ID:RINEVOn50
age
571名無しより愛をこめて:2008/02/12(火) 10:32:45 ID:9uhXUmaq0
応援
572A九戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/13(水) 18:54:48 ID:F5ERgMeU0
「怪獣やっつけ隊」
正式名称は……「タクティカル・オーガニゼイション・オブ・ナショナル・マシーナリー・アーミー」。和訳すると「国際機械化軍・戦略機構」。
ひらったく言うと、「金に糸目をつけない超兵器で武装したすっごい軍隊」という意味です。
ですが、条約を批准し公布したあとになって、政府ははじめて気がつきました。
「タクティカル・オーガニゼイション・オブ・ナショナル・マシーナリー・アーミー」。
これをアルファベットで略記すると……「TONMA」……すなわち「トンマ」になってしまうことに…

「トンマ♪トンマ♪トンマ♪我らがトンマ♪やること、なすこと大トンマ♪♪」

……いま、近所の小学生たちが歌いながら走っていきました。
でも、「怪獣やっつけ隊」のことを「トンマ」などと呼ぶのは、ああいう悪ガキだけです。
普通の人々は尊敬と愛情を込めて彼らを呼びました。
「怪獣やっつけ隊」と!
「やっつけ隊」の隊員は国民のアイドルでした。
男の子であれば誰でも、ついさっきトンマ♪♪と囃し立てていたような悪ガキだって心の底では、なれるものなら「やっつけ隊」の隊員になりたいと、そう思っているのです。
でも何故、「やっつけ隊」がそれほどまでに国民の敬愛を集めているのでしょうか?
それは、日本国民全員が信じているからなのです。
……
ウルトラマンとは、「怪獣やっつけ隊」隊員の誰かが変身した姿に違いないと。




「アイドルを探せ!」
573A九戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/13(水) 18:55:19 ID:F5ERgMeU0
「…と、いうわけだ。判ったかヒルカワ?」
健康被害など知ったことかというように編集長がタバコの煙を噴き上げた。
右の眉をくいっと吊り上げ、自分では「いけてる!」と信じている顔を作ってヒルカワは答えた。
「つまりオレに……『怪獣やっつけ隊』隊員の誰がウルトラマンなのかを突き止めろってことですね。」
「そういうことだ。」
「しかし、いいんですか?ウルトラマンの人間体なんて暴きたてても?」
正体を知られたウルトラマンは自分の星に帰らなければならない…これも国民的な確信事項の一つだ。
誰かが決めたわけでもない。
もちろんウルトラマンがそう言ったわけでもない。
それでも皆、そう信じていた。
信じていたからこそ、みんなウルトラマンの正体を知りたくって知りたくってしようがないのに、ひたすら我慢しているのだ。
「…もしアンタの雑誌が正体暴きに成功したとして、もしウルトラマンが星に帰っちまったらどうすんですか?最悪、全国民を敵に回しますよ?」
「そんなこたぁ判ってる!だがな…」編集長は自分の胸をドンと叩いて言った。「…オレはジャーナリストだ!事実を報道するのは、ジャーナリストの使命だ!」
(あんたの雑誌が報道するのは、女のスカートの中ばっかじゃねーかよ)
…と、ヒルカワは思ったが、それを口に出さないだけの分別はギリギリ備えていた。
その代わり、肩をそびやかして彼は答えた。
「わかりました。ウルトラマンの正体暴き。やってやろうじゃありませんか!」
574A九戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/13(水) 18:55:59 ID:F5ERgMeU0
ヒルカワが景気よく啖呵をきった、その翌日の午前10:00ごろ……。
…ここは関東某県の県庁所在地。

「……なんだ?あれは??」
れっきとした勤務時間中だというのに、県職員たちが仕事も放ったらかして勤め先のである県庁舎を見上げていた。
「霞?」
「…まさかぁ。霞ってのは深い山なんかに出るもんだぞ。」
「じゃあ新手の光化学スモッグか?」
ドンと聳える白亜のツインタワーは、いつのまにか濃厚なピンク色の靄(もや)のようものにまとわりつかれていたのである。
「…なんだか妙にねっとりした感じの霧だな…」
「おい!屋上から何か下がってきたぞ!」
屋上からしずしず降下してきたのは、ロープに繋がれたバケツだった。
上でロープの端を掴んでいるのは、県の衛生部の職員だ。
この謎のピンクの霧が、人間に健康被害を及ぼさないか、調査すべく標本を採取しようと
いうのである。
バケツはゆっくりとピンクの靄の中に沈んでゆき……たっぷり数分以上もそのままだった。
「おい、どうしたんだ?引き上げるんじゃないのか?」
「…なんだか妙な具合だぞ。」
屋上のものたちは二三人ほどでうんうん引っ張り上げようとしているように見える。
なのに、軽いはずのバケツはさっぱり上がろうとしないらしいのだ。

「……なんか嫌な感じだな…」

誰かがそういった瞬間だった。
バーーーーーーーン!!
乾いた破裂音とともに閃光が走り、同時に県庁ビル全体の電気設備が一斉にダウンした!
575A九戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/14(木) 19:31:21 ID:INXoP8Ek0
県庁で事件が発生したその1時間後…。
警視庁不可能犯罪捜査部には、非常召集がかけられた所属部員が勢ぞろいしていた。
「県警から内々に要請があった。異常な事態なので、応援出動して欲しいとな。」
文字が消え難くなってしまった古い黒板の前に立ち、岸田警部が状況の説明を始めた。彼は新型の各種ディスプレイ装置よりも、こういう古臭い黒板の方が好きなのだ。
「今からおよそ一時間前の午前10時、××県県庁のツインタワーが濃いピンク色の靄に包まれた。」
カチッという小さな音に続いて黒板横の大型DPに光が灯って異様な光景が映し出されると、思わず凍条刑事が呟いた。
「…まるで馬鹿デカい桜の木ですね。」
コンクリート製のツインタワーの上部がピンクの霞にすっぽり覆われたその姿は、彼の言うようにまさにサクラの巨木のようだった。
「だがな凍条」ぼそっと部長が口を開いた。「…桜の木は人を殺したりしないぞ。」
部長の言葉をうけるように、岸田も言葉を繋いだ。
「問題の靄を採取しようとしたところ、ビル全体の電気設備が一瞬でダウン。
急報を受けた警備員と営繕部の職員が階段で屋上を目指そうとしたところ、例のピンクの靄が建物内にまで立ち込めているところに遭遇した。
警備員がそのまま通過しようとしたところ……目撃した営繕部職員の言葉によると、『見えないバットで殴られたみたいに』弾き飛ばされ、駆け寄ったときには…死んでいた。」
「…検死官の話しによるとほぼ即死状態だそうだ。」
補足するように部長が続けると、大きく頷いてから警部は再び口をひらいた。
「県警がヘリを飛ばして上空から孤立状態のビル上層部の内部を確認したところ、靄が内部まで侵入した階層では生存者は確認できなかったが、最上層には多数の生存者が取り残されていることも判った。ただし……」
突然部長が両目をカッと見開いて叫んだ!
「但し!少しづつ靄は階層を這い上がっておる!そして、県庁舎最上層には、県庁職員と社会科見学に来ていた120名の小学生が閉じ込められているのだ!」
576名無しより愛をこめて:2008/02/18(月) 00:07:04 ID:s9hTh1hA0
応援!!
577A級先般/アイドルを探せ!:2008/02/19(火) 12:59:16 ID:oLGAC3rW0
靄(=もや)の中にバケツが投入された直後、県庁舎全体の電気設備がダウンし、連絡も不可能な状態に陥った。
そして靄の突破を試みた者は即死。
明らかにピンクの靄は危険な性質のものだった。
電気設備がダウンしたこと、それから警備員の死の状況から考えて、ピンクの靄は高圧の電気を帯びているものと推察された。
…しかも靄は、一時間におよそワンフロアーのペースで階層を這い上がっている!小学生たちを含む生存者は、全員最上階の県議会室に集まっているが、残りフロアーは3階層、つまり、あと3時間で生存者は……。
不可能犯罪捜査部は耐電装備一式を準備し、現場へと急行した。
578A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/19(火) 13:02:49 ID:oLGAC3rW0
ちょうどそのころ……
『おいヒルカワ。』
……編集長だ。
携帯を開くと、ヒルカワが名乗るまえからからサッサと用件を切り出した。
『××県の県庁舎で大事件が起こったらしいぞ。防衛隊に出動要請があった。』
「…やっつけ隊は?」
『そっちの動きは今のところ無い。だが、連中が動く可能性は十分にあるぞ。不可能犯罪捜査部にまで応援出動要請があったらしいからな。』
「…ヤツラにまで?そりゃ大事(おおごと)だ。」
事件の現場は××県。
不可能犯罪捜査部のテリトリーは警視庁所属なので都内だ。
にも関わらず不可能犯罪捜査部に応援要請があったということは、テリトリーを無視しなければならないほどの大事件だということなのだ。
『宇宙人や巨大生物はまだ出現していない。だが、これ以上事件が大きくなれば……』
「やっつけ隊も動くと……。わかりました。こっちも早速動くとします。」
ヒルカワは、いつでも動けるよう「七つ道具」を常時放り込んであるズタ袋を肩にボロアパートを飛び出すと、野ざらしのまま停めてあるバイクに飛び乗った。
579A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/21(木) 17:38:12 ID:LYRJ7tyG0
岸田警部らが県庁舎ビル前にヘリで乗りつけたときには、防衛軍の特殊部隊と消防のレスキューまでが既に到着していた。
「…何をキョロキョロしてるんだ?」
そわそわあたりを見回す凍条に、先輩の南が尋ねた。
「いえ、『やっつけ隊』はどこにいるかと…。」
ミーハー気分丸出しの凍条に、南は苦笑いした。
「この種の事件なら、『やっつけ隊』は来ないさ。」
「え!?来てくれないんですか??」
「それはな……彼らがあまりに少数精鋭過ぎるからなんだ。」

その要求される任務があまりに高度であるが故に、人員を増やして組織を拡大することができない。また、装備が極めて特殊かつ高価であるため予算的な制約も大きく、この方面からも組織の拡大は難しい…。それが創設以来「怪獣やっつけ隊」が抱え続ける最大の悩みだった。
そうした超少数精鋭の組織を最も有効に活躍させようとする場合、避難誘導や被災民救助といった一般の警察や消防・自衛隊にもこなせる任務をやらせることは極めて非効率なのである。
そのため「やっつけ隊」が避難誘導や救助活動をすることは、明文化こそされてはいないが、禁止されていると言われている…。

「どこかにある秘密の海底基地から、ジリジリしながらこっちの状況を見つめてるんだよ。『やっつけ隊』の連中はな。」
その任務の桁違いの重さ故に、感情で動くことが許されない。
「やっつけ隊」の重責を思うと、凍条の背筋が自然とピン伸びた。
「彼らを安心させるためにも、ボクらが頑張らねばならないんですね。」
凍条が、自戒するように言ったときだった。

「……凍条さん!!」

聞き覚えのある声が、彼の名を呼んだ。
580名無しより愛をこめて:2008/02/25(月) 10:34:59 ID:kzQwLFJI0
支援!!
581A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/26(火) 12:34:04 ID:yQ2MTK4Y0
「この方は……以前にも何度か捜査に御協力いただいている近藤博士です。部下の凍条がそこでお会いしまして…。さあ、博士、さっきの話をここでもう一度…」
岸田警部に紹介され、凍条刑事に前に促されると、近藤博士は居並ぶ警察と防衛隊指揮官たちにペコリと頭を下げた。
「……さあ、博士。さっきボクに教えてくれたことを、この人たちにも説明してください。」
凍条刑事に重ねて促されると、近藤博士は意を決したように本題を切り出した!
「あのピンクの煙のようなもの。あれはバリケーンのメスの群体です。」

台風怪獣バリケーン。
怒らせると傘の部分を回転させ、タンカー船すら吹き上げるほどの突風をまき起す。
以前日本本土に上陸したときにも台風をおこされ、付近に甚大な被害をもたらした。
津波怪獣シーゴラスとならぶ、厄介極まりない「天災」怪獣である。

「まずは……35年前の上陸を正確に再現していると言われる『帰ってきたウルトラマン』の『ウルトラ特攻大作戦』を御覧ください。」
近藤博士が、手回しよくどこかから調達していたDVDを前線指揮所のパソコン端末にセットすると、ここのスレ住人にはもうお馴染みの曲とともにあの番組が始まった。

キミ〜にも♪見え〜る♪ウ〜ルトラの星〜♪♪

「当時の『やっつけ隊』…この番組ではMATということになっていますが、麻酔弾でバリケーンを眠らせた上で退治しようとしました。しかし……」
早送りの映像では、麻酔の効果でフラフラと降下したバリケーンが送電線に接触、一気に傘を回転させ始めたところだ。
「……この後のウルトラマンとの対戦シーンでも出てきますが、バリケーンはもともと細胞の活性度を高めて放電する能力をもっています。
そのバリケーンに電気を流してしまったため、逆の作用で細胞が活性化し、麻酔の効果が打ち消されてしまった。それが、このときの作戦失敗の原因でした。」
「つまり…」防衛軍の士官が手を上げた。「……博士が仰られたいのは、今回の事件は、メスのバリケーンによる放電が原因だと言うんですね?」
582A級戦犯/アイドルをさがせ!:2008/02/27(水) 12:52:45 ID:fjXizUzw0
「バリケーンのメスの群れの中にバケツを放り込んでかき混ぜたから反撃されたわけか。」
「放電攻撃だから電気系統も落ちるわけだ。」
「警備員の死の状況とも符合しますね。」
「しかしそこまでわかっているのであれば、対策は……。」
敵の正体判明により、前線指揮所はザワめきだした。
「近藤先生!」レスキュー部隊の隊長が挙手をして尋ねた。「そのバリケーンのメスというのは、一匹の大きさはどれくらいなのですか?」
「大きくてもせいぜい数センチといったところだと思います……」
「なら話は簡単だ。耐電装備で乗り込めば……」
先の防衛軍の士官も大きく頷いた。
「そうです!一匹一匹は小さいのですから我々の部隊が乗り込んで一気に……」
しかし、岸田警部は活気付く活気付く前線指揮所の面々を制すると、近藤博士に話しを続けるよう促した。
「みなさんお静かに!…博士の話には、まだ大事な続きがあります。」
「……自然界には個体間距離の大きな雌雄を、繁殖期のみ接近させるシステムがあります。」
583A級戦犯/アイドルをさがせ!:2008/02/27(水) 12:53:15 ID:fjXizUzw0
「……自然界には個体間距離の大きな雌雄を、繁殖期のみ接近させるシステムがあります。」
近藤博士のはじめた話に、岸田警部と凍条刑事を除く全員がいっせいに怪訝な顔をした。
「…典型的なものはもっぱらメスが放つ誘引フェロモンで、ファーブルの著わした『昆虫記』にも『オオクジャクサンの夜』という事件のことが記されています。」
「…あの、近藤博士」地元警察の幹部がおずおずと口を開いた。「……その話とこんどの騒動と、どういう関係が……」
「………を起すんです。」
「は?今なんと仰いましたか??」
「台風を起すと、言いました。」
ガタン!ガラガラッ!!
南刑事が慌てて前線指揮所の窓を開くと、先の防衛軍の士官が、レスキュー隊の隊長が、青い顔で次々窓から身を乗り出した。
皆が見あげるのは…空。
そこに探すのは…雲。
残ったメンバーに向かい、近藤博士は静かに繰り返した。
「バリケーンは……繁殖期にメスと交尾するため台風を起すのです。辺り一帯のメスを自分の所に吸い寄せるため……」
だが、近藤博士の言葉を遮るように防衛軍の下士官が指揮所に飛び込んできた。
「失礼しますっ!『やっつけ隊』から緊急入電です!房総半島沖、およそ20キロの地点にバリケーンが出現しました!」

584A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/02/29(金) 15:03:03 ID:NKC3R9/H0
………
……
…………
「房総半島の沖合い20キロの海上にバリケーンが出現。現在時速7キロというかなりの低速でゆっくりと西北西に移動中だ。」
「時速7キロで北北西?……ということは!?」
…電子マップに示された約3時間後のバリケーンの到達予測地点はあの場所だった。
「見ての通り、おそらく目標は例の県庁舎ビルだ。現場からの情報によると、県庁舎ビルを襲ったのはバリケーンのメスだということだ。ならば房総半島沖に現れたバリケーンは…」
「オスだ!」
《熱血》という仇名どおり血気盛んそうなその隊員は、このドスケベ怪獣!とも言い足した。
「繁殖期、バリケーンのオスは台風を起して自分のまわりにメスを引き寄せ、生殖椀を使って一斉に交尾をするということだ。」
「…では隊長!」こんどは《風来坊》が手を上げた「あと3時間かそこらで、××県の中心部に最大風速170メートルの突風が吹き荒れるんですね?」
「実際にはもっと早いかもしれない。」冷静そうに口を開いたのは《総監》だ「…《スポコン》!バリケーンの発生させる暴風雨圏の範囲は?」
「……風速こそケタ外れだが、暴風雨圏の範囲はそんなに広くありません。ざっと1キロ弱です。」
「しかしそれなら、県庁舎ビルから19キロの地点で台風を発生させるかもしれんということだ。」
《総監》の読みに、《風来坊》に《スポコン》《熱血》が唸った。
「いずれにしても、ヤツをこれ以上陸地に近づけさせてはならん!」
隊長はヘルメットに手をかけた。
「TONMA!出動っ!」
「ラジャーッ!!」


585名無しより愛をこめて:2008/03/03(月) 07:58:36 ID:v32zBBcY0
……文章が雑なのは毎度のことだが、今回のはちょっと酷すぎ。
申し訳ないので、上のレスをリライトします。
586A級戦犯/あいどるを探せ!:2008/03/03(月) 07:59:18 ID:v32zBBcY0
………
……
…………
ここは某所某海の海底深く……。
屈強な男たちがディスプレイ・デスクを囲み真剣な声で言葉を交わしていた。
「房総半島の沖合い20キロの海上にバリケーンが出現。現在時速7キロというかなりの低速でゆっくりと西北西に移動中だ。」
「《隊長》、時速7キロで北北西?……ということは、まさか!?」
…デスク上に表示された電子マップは、約3時間後のバリケーンの到達予測地点として例のビルの建つ場所を費用時した。
「そうだ《熱血》。見ての通り、おそらく目標は例の県庁舎ビルだ。現場からの情報によると、県庁舎ビルを襲ったのはバリケーンのメスだということだ。ならば房総半島沖に現れたバリケーンは…」
「オスだ!」
《熱血》という仇名で呼ばれたその隊員は、《熱血》という言葉に恥じぬ勢いで「このドスケベ怪獣!」とも言い足した。
「繁殖期、バリケーンのオスは台風を起して自分のまわりにメスを引き寄せ、生殖椀を使って一斉に交尾をするということだ。」
「…では隊長!」こんどは《風来坊》が手を上げた「あと3時間かそこらで、××県の中心部に最大風速170メートルの突風が吹き荒れるんでしょうか?」
「実際にはもっと早いかもしれない。」冷静そうに口を開いたのは《総監》だ「…《スポコン》!バリケーンの発生させる暴風圏の範囲は?」
「……風速こそケタ外れですが、暴風圏の範囲はそんなに広くありません。ざっと半径1キロ弱です。」
「しかしそれなら、現在地点から19キロの地点で台風を発生させるかもしれんということだ。」
《総監》の読みに、《風来坊》に《スポコン》《熱血》が唸った。
「いずれにしても、ヤツをこれ以上陸地に近づけさせてはならん!」
隊長はヘルメットに手をかけた。
「TONMA!出動っ!」
「ラジャーッ!!」
587名無しより愛をこめて:2008/03/05(水) 17:18:47 ID:YFAyS0Je0
いきがかり上、他スレで集中投下中のため、ちょっとのあいだ停止しております。
他スレの駄文は、今週中に投下終了。
その後、ただちにこちらを再開いたします。
まことにもうしわけない。
588A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/07(金) 16:58:53 ID:QLe+vCOW0
「……バリケーン攻撃のため、怪獣やっつけ隊が出撃したそうだ。」
岸田警部が言うと、額の汗を拭うような仕草をして、近藤博士は応えた。
「間違いなくオスでしょう。……十中八九、ここを目指してやって来ます。メスの香りに引き寄せられて…」
「やっつけ隊が必ずどうにかしてくれますよ。ボクたちは県庁舎ビルからの救出作戦に専念しますから。」
ニッコリ笑って凍条は先輩の南とともに前線指揮所を後にした。
だが、岸田警部だけはじっと目を閉じ、何か考え事をしている様子で座り続けたままだった。
「ひとつ聴きたいことがあるんだが……」
部下たちが出て行った気配を感じると、目を閉じたまま岸田警部は静かに口を開いた。
「……近藤さん、間近に行ってその目で見たわけでもないだろうに、あんたよくあのピンクの靄がバリケーンだと見破ったな?」
「……さすがですね、岸田警部。」
博士の顔に追い詰められたような、引き攣った笑みが浮かんだ。
「……甥っ子が、携帯で連絡して来たんです。」
突然、岸田の双眸がカッ!とばかりに見開かれた。
「甥っ子…っていうとヒロシくんか?」
「通信が途絶える直前だったんだと思います。『ガラスの向こう側、ピンクの霧の中に5センチくらいのクラゲみたいなのがいる』と。」
次の瞬間、近藤博士をギリギリ支えていた何かが崩れ落ちた。
警部の前に両手をつくようにして、涙ながらに博士は訴えていた。
「岸田警部!お願いです!ヒロシを助けてやってください!ヒロシはこの県庁舎ビルに、クラスの友達とともに閉じ込められているんです。」

突き飛ばすようにデスクを揺らし、腰掛けていたイスをガタン!と後ろにひっくり返すと、物も言わずに岸田警部は指揮所から飛び出した。
589名無しより愛をこめて:2008/03/10(月) 22:25:55 ID:yvyx62lS0
応援!
590A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/12(水) 12:26:59 ID:EYcfytPy0
「作戦は、庁舎東側の非常階段区画からバリケーンを排除すること。その際、攻撃的な手段をとることは厳禁とする。
我々第一の目的は、逃げ遅れた人たちのため避難路の安全を確保することである。繰り返すが、バリケーンを刺激するような行動は絶対にとってはならない!以上である!!」
岸田が遅れて行くと、自前の耐電装備に身を固めた防衛軍特殊部隊が県庁舎ビルに今まさに突入せんとするところだった。
第一班は重耐電装備に全身を固めた「突撃班」で、非常階段区画にまで侵入した一部のバリケーンを手作業で排除する。
第二班は通常装備の部隊で、突撃班が開闢した血路を最上階へと駆け上る。
第三班は第一班同様の重装備で、ピンクの靄の遥か上をホバリングするヘリから庁舎屋上にロープで垂直降下。第二班に先駆けて逃げ遅れた人々と合流、第二班の動きと呼応して脱出を目指す。
岸田警部ら不可能犯罪捜査部の面々とレスキュー隊は、防衛隊の側面支援にあたるものとされていた。
防衛軍の士官が部下に向かって吠えた!
「脱出に要する時間も計算すると、遅くともあと一時間ほどで諸君らは最上階に達していなければならない!一秒一秒が逃げ遅れた人々の血の一滴だと思い、死力を振り絞れっ!!」
ウォーっという叫びでこれに応えると、防衛隊員たちはそれぞれの担当任務に向っていっさんに駆け出した。
「一秒一秒が血の一滴か…」硬い表情で南は言った。「……いかにも軍人らしい言い方だが、まさにその通りだ。」
「で、僕らは何をしましょうか?」
「決まってるだろ?自分たちじゃなきゃできないような仕事だ。」
白い歯を見せて南は笑うと、本部から運んできた「特殊装備」の収められたジェラルミンケースを叩いた。

岸田警部や南・凍条刑事の向こう側で、第三班を乗せた防衛軍のヘリが飛び上がった。
上空からの庁舎最上階への侵入作戦が始まったのだ。
591A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/12(水) 12:32:11 ID:EYcfytPy0
『庁舎ビルの高さがおよそ90メートル。例のピンクの靄はさらにその上10メートル程度まで覆っています。
ヘリコプターの巻き起こす風がピンクの靄を刺激しないよう、ヘリは靄から50メートル以上高さをとっていますから、ヘリの高度は地上から150メートルぐらいの高さと言うことになります。』

警戒線の外で、テレビ中継のアナウンサーが叫んでいた。
ピンクの靄=バリケーンを刺激しないよう静かにロープが下ろされ、続いて防衛隊の隊員が、カタツムリの這うようにユックリとロープを下り始めた。
「…ラペリングという技術だ。」
上を見上げたままで、傍らの近藤博士に岸田は言った。
彼は、随分昔のことだが、研修で防衛隊レンジャー部隊の訓練に参加した経験があった。
「ヘリが空中静止している辺りには、激しくビル風が吹いているはずだ。そこから垂らしたロープが50メートル以上。取り寄せた設計図面から見る限り、庁舎ビル屋上はたいして広くない。風に煽られれば、ロープの末端は屋上から簡単に外れてしまうだろう。」
どれほどの困難なのか、想像できたのだろう。
隣でゴクリと近藤博士がツバを飲み込む音がした。
「しかも途中でバリケーンのメスの群れの中を通り抜けなければならない。刺激しないよう、細心の注意をもってユックリとね。」
「……三班の連中は、志願者だそうですね。」
「ああそうだ。そして連れて来られた全隊員が志願した。」
警部の想像したとおり、上では突風が吹いているにちがいない。
防衛隊員の掴っているロープが大きくたわみ、目指す屋上部分から一瞬大きくはみ出すのが見えた。
「どえらい勇者どもだよ。あいつらは……」
そう岸田警部が呟くと同時に、最初に降下を開始した隊員の姿が、ピンクの靄の中に見えなくなった。
592A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/12(水) 17:31:27 ID:EYcfytPy0
「手荒なことはするな。慎重にいけ。」
班長の指示とともに、耐電装備に全身身を固めた第一班が、「花いちもんめ」でもするような隊列で踊り場から前進を開始した。
自身の体をもって、バリケーンを排除する壁となすために。

23階と表示のあるエリアから上は、ピンクの靄にすっかり覆われていた。
第一班が、階段区画内に侵入していたバリケーンを、壊れ物でも扱うように一匹ずつ手作業で取り除け、その隙に第二班は、ビニール状の半透明の素材でできた一種の「トンネル」を組み立てる。
「トンネル」とは、本来対細菌兵器用に作られた検疫隔離用の装備だったのだが、材質的に不導体でてきていたので、機転の利く防衛隊員が転用を思いついたのだ。

隊員たちの体の隙間からこぼれ出そうになるバリケーンに、そっと体を寄せて通せんぼをする。
耐電装備しているので、一匹一匹の電撃なら十二分に耐えられるはずだ。
だが、何十匹もの固体に、一斉に電撃されたら命の保証の限りではない。
落雷ほどの電圧になれば、不導体であるはずの空気を通り、自動車のぶ厚いゴムタイヤを貫いて大地に抜けるのである。
第一班は「通せんぼ」の壁を作りながら、すでに23、24、25階を突破し、隊員たちの目の前は、バリケーンの水族館か養殖場といった観を呈していた。
「……よし!押し出すぞ!!」
班長の命令とともに、第一班は、26階をも一気に突破した。
……階段区画にバリケーンが侵入した理由は、27階で明らかになった。
業務区画と非常階段区画の間の金属扉が開いていたのだ。
靄を透かし見ると、非常扉に人が倒れて挟まっているのが見える。
バリケーンの靄から逃れようと、非常階段への扉を開けたところで、運悪く電撃されたのだ。
その死体が挟まって、扉を開いたままにしているのである。
「…まずいぞ。」
歯軋りしながら班長が言った。
これまでの陣形は、バリケーンを前方にのみ捉えることが前提のものだった。
だが、問題の扉のところでは、前方と扉の向こうと、両方からバリケーンを迎える形になってしまう。
「二方面戦闘は避けよ」は、戦争の鉄則である。
(……どうするか!?)
593A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/14(金) 17:06:44 ID:8U6b/83m0
防衛隊を中心とするグループが県庁舎ビルを攻略せんとしていたころ……。

千葉県房総半島の沖合いでは、「怪獣やっつけ隊」が巨大なオスのバリケーンを相手に阻止戦闘を展開していた。
《風来坊》と《スポコン》が相次いで叫んだ。
「隊長!麻酔弾が全く効きません!」「こっちも同じです。」
前回の日本上陸時よりもより強力な麻酔弾を打ち込んだにも関わらず、バリケーンは悠然と宙を漂い続けていた。
『メスの臭いに感づいてるんじゃないでしょうか?』
《隊長》の背後から声をかけたのは、ついさっきニューヨーク支部から戻ってきたばかりの《レーサー》だ。
「……メスの臭いでテンションが上がって麻酔が効かんというわけか?」
「ええ」
無線で聞いていた《熱血》が『このドスケベ怪獣め!』と吠えた。
続いて受信したのは、《熱血》とは打って変わって冷静な《総監》の声だった。
『通常攻撃に切り替えましょう。回転する傘の中心を真下に捕らえて攻撃すれば、突風の影響も最小限に抑えられます。』
冷静な話し言葉と好青年風の外観が《総監》の売りだが、実はこの青年、巨大化した宇宙人と素手で渡り合ったすえ、オイルまみれにしてから焼き殺したという、ガッツあるとんでもない戦歴の持ち主だった。
『コイツを陸に上がらせるワケにはいきません。』『ここでやっつけましょう隊長!』
《熱血》と《スポコン》が《総監》に続くと、レーダーサイトを睨みながら《レーサー》も言った。
「ボクも賛成です。今ならヤツはまだ回転していませんから、ここからミサイルを叩き込んでやれますよ。………やりましょう!隊長!!」
だが……《隊長》は部下の意見に答える代わりに、傍らの《レーサー》に尋ねた。
「……まて。それよりヤツはいまどれくらいの速さで移動している?」
594A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/14(金) 17:08:37 ID:8U6b/83m0
「……ヤツはいまどれくらいの速さで移動している?」
「現在の速度ですか?……それは……」
しばしキーボードを叩いたあと、《レーサー》はディスプレイに表示された数字を読みあげた。
「…時速15キロです。」
『15キロだと!?』
とたんに《風来坊》の声が飛び込んできた。
『さっきまでは7キロだったはずだ。』
一方《レーサー》は指を休めることなくキーボードを叩き、コンピューターから更なる答えを引き出していた。
「…やっぱりそうだ。計算によると、ヤツは更に速度を増しつつあるそうです。飛行軌道からもふらつきが無くなりました。このままだとあと5分と少しで千葉の一部がヤツの暴風圏に入ります。」
「ミサイルを発射したとして、バリケーンまでの到着時間は?」
「待ってください………出ました、4分30秒。」
ついに隊長は決断を下した!
「いまからミサイルを発射する。ヤツにミサイルを回避されないよう陽動を仕掛けよ!ミサイル着弾後は、間髪入れず、全機ヤツを真上から総攻撃!!」
「交戦可能時間は30秒しかない。絶対しくじるなよ。」
『それだけあれば十分です。』『太平洋で寒中水泳させてやるぜ!』
《レーサー》の言葉に《総監》と《熱血》が相次いで応じるのと同時に、隊長はミサイルの発射ボタンを押した!

595名無しより愛をこめて:2008/03/18(火) 10:23:06 ID:MwWqopWL0
応援!!
596A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/18(火) 17:28:19 ID:iKItoq8t0
…孤島の断崖が左右に開き、その中か空と雲の色に迷彩された「何か」が猛スピードで飛び出したかと思うと、次の瞬間にはもう空の彼方の点となってしまった…。

『機動でヤツを撹乱し陽動をかける。間違っても弾は撃つな!』
副隊長格の《風来坊》の指示とともに、「やっつけ隊」の各機は猛スピードでバリケーンの周囲で旋回を開始した。
ついさっき「やっつけ隊」の基地から発射されたミサイルに気づかせぬための作戦行動だった。

通常のミサイルだと発射直後は低速で、トップスピードに加速するまで時間がかかる。そのため至近距離で発射された加速が不十分なミサイルは、動きの素早い怪獣には回避されてしまう場合があった。
そこで開発・試作されたのが、カタパルトの技術を応用し発射と同時に最大速度に達する新型ミサイルである。
このミサイルの高速性を利用して、バリケーンへの到達時間を稼ごうというのが隊長の狙いだった。
ただ、このミサイルは高速であるがゆえに飛行軌道が単調であり、遠距離だと却って軌道を読まれ易いという弱点があった。
この弱点をカバーするための一斉陽動飛行なのだ。
597A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/18(火) 17:28:46 ID:iKItoq8t0
『…来ました!』
冷静にミサイルとの距離を測っていた《総監》が無線に叫ぶと同時に、《熱血》の機がバリケーンに向かって切り込んだ!
『オレに任せろ!』
ミサイルの飛来方向にほぼ60度をなす角度から、怪物の巨体を掠めてミサイルの飛来方向とは反対へと飛びぬける!バリケーンの亀裂状の目が《熱血》機を睨み、巨大な触腕が銀と赤の機体に追いすがった!!
『むちゃだ!』《スポコン》が叫び、青ざめた《総監》の指が機関砲の発射ボタンに掛かった!
青灰色の触腕が迫る!!
だが次の瞬間…!
雲間を劈いて、稲妻のような何かがバリケーンの傘に命中した!!
巨大な金槌で引っ叩かれたように一瞬ガクンと高度を下げるバリケーン。
しかしその両眼が怒りの赤に変わって傘が回転しはじめると、バリケーンを取り巻く黒煙はたちまち黒い竜巻へと姿を変えた!
巨獣の怒りが、嵐となって海原を覆い尽くすのか!?

『全機攻撃開始!!』

《風来坊》の命令と同時に、怒りのバリケーンを、光の雨が土砂降りとなって打ちつけた!
ミサイル着弾の直後には、「やっつけ隊」の五機は既にバリケーンの頭上を押さえていたのだ!
回転する傘の中心を光弾のシャワーが撃ち抜くと、バリケーンは炎を上げ、黒煙を吹きながら、海中へと墜落していった。
598A級戦犯/アイドルを探せ!:2008/03/18(火) 17:29:53 ID:iKItoq8t0
作戦室で「…やりましたね隊長!」と《レーサー》が歓声を上げた「…ミサイル着弾から僅かに4秒。完勝です!」
「正確には3.7秒だ。」と、こたえる隊長の顔も満足げだ。
無理も無い。
前回出現時には市街地への侵入を許し、甚大な被害を発生させた難敵を、被害ゼロで処理できたのだ。
隊長と《レーサー》だけでなく、オペレーターや補助隊員たちにも笑顔が戻った。
オペレーターの女子隊員に愛想を振りまきながら、おどけた口調で《レーサー》は言った。
「それもこれも、ボクらの日頃の努力の……」
賜物…と《レーサー》が言葉を続けようとしたときだった。
女子隊員の一人、ユリコの顔色がサッと変わったかと思うと、ヘッドホンを外して立ち上がるなり、緩んだ空気を締め上げるように大きな声で叫んだ。

「大変です、隊長!横須賀港に別のバリケーンが出現しました!!」
599名無しより愛をこめて:2008/03/24(月) 10:06:05 ID:sGcFJS7J0
応援
600A級戦犯/アイドルを探せ!
新たなバリケーン出現の報が、「やっつけ隊」本部を激震となって襲っていたころ……。

県庁舎ビル突入部隊第一班の班長はついに決断を下していた。
「…時間が無い!隊を二つに分ける!『壁』が薄くなったぶん、抜かれる可能性が捨てきれん。第二班はいったん下がって距離をとってくれ!」
班長は第一班を手早く二つのグループに分けると、それぞれに前進と階段室ドアの閉鎖作業を指示した。
前の小型バリケーンの密度は危険なレベルにまで高まっており、その場に支えるだけでもかなりの体力を要するようになっていた。
しかも個体密度の上昇がストレスを高めているのか、個体レベルでの散発的な放電攻撃も始まっていた。
ニ三匹での放電ならなんとか耐えられるが、もし何十匹もが一斉に放電してきたら……。
第一班どころか後方の第二班まで全滅を免れないだろう。
さらにマズイことに、作業はすでに15分以上の遅れをだしていた。
本当なら、もうとっくに最上階である30階に到達し、へりから降下した第三班と合流できていなければならない時間であるにもかかわらず、まだ27階にしか到達できていないのだ。
バリケーンの漂うピンクの靄は、既に30階の通路に達しているかもしれない。
そうなれば、なんとかして靄を掻き分け血路を開き、ここまで繋いできた絶縁トンネルを大会議場の扉に接続するしかない。

「よぉーーーーーし!押し出せぇーーーーーーっ!!
班長の怒号とともに、第一班は前進を再開した!