【地ノ底ヲ往キ】矢車さんの1日 3日目【全テニヤサグレル】

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258明日花 14
──気が付くと俺は、見知らぬ神社の軒下に横たわっていた。
「ここは…、俺は…」(そうだ、俺は確か、家で爆発に巻き込まれて)
がば、と起き直ると、俺の体の上に掛けられていた黒皮のコートが、はらりと落ちた。
それはいつかフリマで買ったあのコートだったが、片袖が肩から千切れていた。俺も、
上に着ていた半袖シャツは影もなく、その下に着ていたタンクトップさえずたぼろ。
「おお、気が付いたか」俺から少し離れた所に、同じ顔をした老人が二人、座っていた。
「済まない、それだけしか持ち出せなかったよ」
「あなた達は?」
「その昔、彼女と一緒にZECTを逃げ出した者だよ。」
(では、この二人も…)なんと言えばいいか、言葉が出ない。
「信じられないか。まあ、無理もないが、これでも彼女とは同い年だ」
彼女と同い年?俺は思わず二人の顔を見直した。彼らはどう見ても、明日花の父親
以上の年齢に見えた。彼らは代わる代わるに話し始める。
「僕ら兄弟は人類の血が濃くて、彼女のように変身出来なかった。変身する為には、
ゼクターの補助が必要だった」
「しかし、それも時間の問題だったよ。僕らは実験室で生まれた偶然の産物。普通の
人間より細胞が成長するのも早かった代わり、劣化するのも早くてね」
「逃げ出す時も、彼女にはずいぶん迷惑を掛けた」
「ああ、僕らを庇ってキャノンの集中砲火を肩に浴び、二度と飛べなくなってしまった」
如何にも、明日花らしい…俺には容易に想像出来た。
二人が立ち上がり、それぞれが俺に何かを差し出した。
「明日花に優しくしてやってくれてありがとう」
「これを君に託すよ、僕らが使っていたゼクターだ。君なら使える」
「こっちがキックホッパーで、あっちがパンチホッパー」
「君の思うように使ってくれ」
俺は黙ってそれらを受け取った。
(明日花…)俺の胸に別な炎が生まれた。

            <完>