267 :
The oneway ticket:
白鳥晶子
徐々に電圧が上がっていき、苦痛も耐えがたいものになっていく。
そんな極限状態にもかかわらず、晶子が失神することがなかったのは、
こういう状況に置いても、肉体的苦痛と乖離した位置で、
晶子の頭脳は冷静に思考していたからだろう。
そうだ思い出した。小学校の頃、年下の男の子に「平成のアインシュタイン」
と称えられた天才少年がいたっけ。
確か国家保安部の仕事を任されて、そのまま行方不明になって…
そして、その彼のことを やたらと調べまわっている同級生の女の子がいた。
名前が松田…なんとかだったかは記憶にないけど、そういえば確かに
あんな小悪魔チックな顔立ちの、華のある美少女だった。
…なるほど。そういうことか
…そしてワタシは、そういう運命にあるということか・・
268 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:47:02 ID:7tjbckYT0
電圧のヴォルテージを最大にしても、まだ失神せずに耐えている晶子を確認した
白衣の技術者達は、満足そうに目を合わせて、徐々に電圧を落とした。
首をガックリとうなだれて肩で荒い息をしている晶子の汗ばんだ肉体を
薄暗い蛍光灯が 静かに照らしていた。
「信じられない…」「ありえないほどの…」「さっそく…」
しばしの沈黙を破って、白衣の技術者達が、いっせいに口を開いた時、
うなだれていたはずの白鳥晶子が、おもむろに口を挟んだ。
「ワタシを・・・・」
室内の視線が、いっせいに晶子に集中した。
「ワタシを改造してください。世界一強いサイボーグに改造してください」
269 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:48:18 ID:7tjbckYT0
吉岡夏美
室内にいた誰もが、絶句して、それぞれの耳を疑ったのがクウキから読み取れた。
はぇ?おぁ? こ、この子、なに言っちゃってルんだろう?
そもそも、この耐久実験が、改造素体の耐久レヴェルのテストだってこと、どうして
知ったかな? それに、改造人間にしてくれ?
わーけ わかんない!
隣の薫も、口をポカンと開けて、晶子の方を見ている。
白衣の技術者さん達も… あーあ、オッサン、メガネずり落ちているよ。
270 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:49:17 ID:7tjbckYT0
白衣の技術者達が 白鳥晶子のデータを整理する間、彼女を「管理」するようにと、薫と夏美が指名された。
命令は絶対服従なので、夏美は気まずそうな表情をしながらも 、晶子の両手両足
を拘束している「枷」をはずし、同姓から見ても実にセクシーな裸体の隅々まで 挿入され
差し込まれている 全てのアイテムを取り除いた。
そして 薫と2人でグッタリしている彼女の両肩を抱き上げて、実験室を後にし、
改造人間控え室へと 向かっていった。
「アッ子、ねぇアッ子、話せる?」
夏美に問われた晶子は、目を閉じて無言のままゆっくりうなずいた。
「アッ子、ゴメンね、本当に。でもこっちの事情はあとからゆっくり話すから…
それよりどうしたの? 改造人間になりたいなんて…。」
271 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:49:59 ID:7tjbckYT0
白鳥晶子
「身の上話なんてしたことなかったけど…」
体調が回復してきたのか?晶子は無表情のままポツリポツリと語り始めた。
小学生時代、同じ校区でもかなり裕福な家庭に育ったと思われている晶子
だったが、実は両親の経営していた会社は 倒産寸前であり、暴力団系が
バックについているサラリーローンからの多額な借金が返せなくなると、
両親はその暴力団系エージェントの 勧めに従い、娘である晶子に、
いわゆる『仕事』をさせていたと言う。
「お友達もねぇ、みんなやっているのよ。ただ秘密にしているだけ。
だから晶子も、誰にも言っちゃあダメよ。」
親からそう聞いてはいたが、小学校高学年ともなると、両親のウソも
なんとなく解るようになり、そこはかとなく友人達に探りを入れてみたところ、
”悪いウワサ” はアッと言う間に広がってしまって、いたたまれなくなった晶子は
やむなく隣町の私立中学に進学することになったという。
グラビアアイドルの仕事も、自分としてはやりたくてやっているわけではない。
脅されてやむなくやっているだけで、儲けは全てエージェントに吸い取られて
見入りは皆無に近い……
272 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:54:01 ID:7tjbckYT0
吉岡夏美
白鳥晶子の身の上話に聞き入っていた薫は、おもむろに
「晶子さん、かわいそう…!」 と言って、眼に大粒の涙を浮かべた。
"たしかにかわいそうだけど、アタシから言わせりゃ、2年間も体中を切り刻まれ
いじくられ、ほじくられ、改造され続けたアンタの方がよっぽど憐れだけどねぇ "
お人好しの薫と違って、夏美の脳裏に浮かんだのは、
晶子が夏美や薫に復讐などの危害を加えるつもりが希薄、いや皆無に近いだろうという安堵感だった。
"んじゃ、アタシ達のこと、恨んでないの?"
という言葉が、喉元まで出掛かったが、あまりに自分本位かと、寸での処で押さえのだが…
「えぇ〜、じゃぁ晶子さんは、スーパーサイボーグに改造されたら、ヤクザ達を素手で
ぶっ殺せるね。 あたし達に感謝ってトコかなぁ?」(薫 言)
"あちゃー、このドアホ。よくまぁそんなデリカシーのないことを平気で……"
晶子はニコッと笑った。(^_^)
今回、初めてみる、彼女の意思のこもった笑いだった。
「絶対殺してなんかやらない・・・・・・・・・・・・・・
殺したらそれで終わっちゃうもの。今までだって、何回となく殺す機会はあったのよ。
でも、殺してなんかやらない。
一人一人、じわじわと、股間を潰して 一生宦官にしてやる!」
この時の晶子の笑んだ横顔、最高に美しい!と夏美は思った。
この輝きは、17歳と言う高校生にはあるまじき美しさだ。
夏美や薫には、到底及ぶことのできない、意思の閃光 のような輝きだ
273 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:55:04 ID:7tjbckYT0
「ねぇ、この研究所の中に、シャワー室ってある?」
いきなり晶子に問われた夏美は、薫の方を見た。
「え、シャワー室なら、男性用のならあるけど・・・
だってアタシ達サイボーグは、垢とか出ないから。
まぁ今、誰も使ってないと思うから、入れるンじゃない?
でも、もうすぐ改造手術、始まると思うよ。
どうせ改造されちゃうカラダなのに、それでもキレイにするの?」
晶子はゆっくり立ち上がると言った
「じゃ、そこへ案内して。
切り刻まれるにしても、人前にハダカをさらす以上、
最高にキレイな自分でありたいの。
手術の時だって、絶対みっともない声なんか出さないで耐えてみせる」
274 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 08:59:51 ID:7tjbckYT0
吉岡夏美
バスローブを一枚だけはおってシャワーから出てきた晶子の頬には、ほんのりと赤みがさし、
ウエーブ掛かった髪の毛からは 水雫が落ちていた。
「ねぇ晶子。ちょっと考えたんだけど、復讐のことよ。
改造された私たちは、組織の命令は絶対なの。
だから、貴女の意思で、勝手に股間を…いや 復讐するなんてこと、
許されないんじゃないかな?」
心配そうにつぶやく夏美。
返事の変わりに、ドライヤーの音が聞こえてくる。
やがて、髪型がバッチリ仕上がって、アイドル写真集から飛び出してきたように
魅力的な晶子は、自分の方を心配そうに、食い入るように見つめる二人にこう言った。
「アタシは、世界最強のサイボーグに改造されるんだよ。
アタシのやりたいことを、組織が阻んだりしたら、組織を潰すまででしょ。
そうなった時、アタシに付くか、組織に付くか、今のうちから考えておいたほうが
いいかもね。」
とてもではないが、恐ろしいことを言う。
2年間もこの組織の中にいる薫でさえ、この組織の目的、規模、そのようなものすら
何一つ解っていないのだ。
だが… しかし、この晶子なら、あるいは可能かもしれない。
この組織にしがみついていても、自分の境遇は一生絶対に変わらないのだ。
もし、もしそう言う機会があったなら、捨て身の覚悟で晶子に賭けてみる価値は
充分にあるのかもしれない……
275 :
The oneway ticket:2006/11/30(木) 09:03:02 ID:7tjbckYT0
「それじゃ…」
の一言を残して、晶子はシャワールームを後にした。
我に返って、あわてて後を追う薫と夏美。
自分達の前を、バスローブのまま 一度も振り返ることなく歩く晶子の後姿は
今から 死よりも苦痛な改造手術を受ける少女のものとは到底思えなかった。
やがて戦闘用の改造手術室に到着した晶子は、一抹の躊躇もなく、手術室の扉を開けた。
扉の向こうから、薄暗い廊下に差し込んだ一筋の光が、薫と夏美の目には、一筋の希望の光、蜘蛛の糸のように思えた。
完