430 :
名無しより愛をこめて:2006/10/11(水) 11:39:44 ID:CunbTtZe0
応援!!
431 :
名無しより愛をこめて:2006/10/12(木) 10:43:37 ID:4kwNnYzx0
あげあげ!!
432 :
名無しより愛をこめて:2006/10/13(金) 14:13:10 ID:b89kriF40
あげます!!
433 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/14(土) 09:00:45 ID:6RI/F2LN0
雑誌記者が帰宅すると、変人女(平行)が勝手にPCを立ち上げていた。
「あ、ごめんちょっと借りてるよ〜。コーヒー飲む?」「…………いや、いい」
もそもそ上着を脱ぐ雑誌記者。「────こっちの”あたし”、どうだった?」「……さあな、知らん」
ベランダに直行する。さっとカーテンが閉じられた。
「…………ふーん」ニヤリと笑う変人女(平行)。カーテンの向うからは、くしゃみが一つ。
翌日、編集部で仕事をする雑誌記者。
TVからザラガスについての続報が流れる────木々の間に覗く、黒山のような巨体。呼吸により上下する。
現在は進撃を停止し箱根山中で休眠しているらしい。攻撃を行わない限り目立った行動は起こさないようだ。
ニュース内容からあの論文の内容を思い出す。あの奇妙な細胞小器官のスケッチ。
電子顕微鏡の画像。PCの3D画像。憔悴した変人女の顔まで浮かんで────頭を現実に戻す。
肩に感触。おかじーがボールペンで突付いてくる。
「…………おい、ちょっと見てみろ。科学雑誌『ネイチャー』のHPがクラックされてる」
見ると、『ネイチャー』のHPの上に何かの文章が上書きされていた。
「論文らしい。ご丁寧に日本語版もあるようだが────」”Japanese”のリンクをクリックする。
日本語の論文。何処かで見た事のある文章だ。何処かで────────
『……る輪状空間が……』『…検体乙に認められ………』『…………ミトコンドリアに近似……』
『………筋組織より派生……』『……明確な消化器官は………』『………ザラガス小体………』
ザラガス小体?待て、まさか────「おい、この論文のタイトルは?」
「ん?ああコレだ」スクロール、クリック。論文の一番最初に辿りつく。
『ザラガスの受動的即効適応能力について』
────────間違いない。昨日、変人女の屋敷で見たあの論文だ。何故こんな所に晒されている!?
しかも論文の最後はそのまま。結論なぞ全く出ていない不完全な状態のままだ。
…………いや、最後に一言付け加えられている。
『3日後、このザラガスについての最終的な結論を会見にて発表します』
────あいつ一体何をやっている!?記者の心理に、変人女への疑問と不安と焦りと、心配が浮かぶ。
434 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/14(土) 22:30:22 ID:EZcez30o0
────と、机上の携帯が震えた。変人女からのメール。
『たすけて ごめん』 ……────思わず立ち上がる。
おかじーに外出を告げ、出て行こうとしたところで────出口に見慣れた人影。……変人女?
「”あたし”の所、行くんでしょ、連れてって貰えない?」
変人女(平行)が立っていた。
屋敷について唖然とする。大量のDMや小石や飛行機の手紙が散乱していた。
入ると、あの老齢の家政婦が箒を持ち、困り顔で挨拶してきた。今朝からこの有様だという。
変人女はあの書斎に閉じこもりっきりだそうだ。其処へ向かう雑誌記者。
後についてくる主に生き写しな女性を見て、家政婦が小さく悲鳴を上げた。
扉を開けると、変人女がPCのキーボードの前に臥せっていた。
音に気付き起き上がると、見たことも無い頼りない顔をして──────視線をずらし、眉を顰める。
「参ってるみたいね?」ニヤニヤ笑う変人女(平行)。
「………────何で、あんたまで居るのよ」不快感を露わにする変人女。
雑誌記者が口を挟む。「……一体何なんだあの手紙やら何やらは?ストーカーか何かか?」
「…………判んない。只、ツネコさんが言うには変な男が数人、このあたりうろついてたって────」
一人じゃ無かったのか。それにしても────
覇気が無い。変人女の歪んだ目は今にも溢れそうに感じる。
何か声を掛けよう、そうだ、あのHPの論文の事を聞きに来た筈、そう思った瞬間────
「あたしのイタズラ、どうだった?」ハナで笑う変人女(平行)。
変人女(平行)がPCの画面を指している。画面にはあのクラックされた『ネイチャー』のHP。
「…………やっぱり、あんたの仕業なのね」「ま、ね」余裕の笑みの変人女(平行)。コイツの仕業だったのか。
「……前にも聞いたわね、あんた一体何がしたいの?目的は何?」
「あんたにあの怪獣は手に余る。無理ね、敵いっこない」「……なんで分んのよ」
「そりゃあ──”あたし”だもの。でも────」
変人女の鼻先に人差し指を当てる変人女(平行)。
「数多の平行世界を渡り歩いてきた”あたし”なら、どうかしら?」
435 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/14(土) 23:05:51 ID:EZcez30o0
「どういう事?」変人女が、弱った瞳で睨みつける。
「あの怪獣『ザラガス』の始末、あたしに付けさせて貰えない?」動じない変人女(平行)。
自分の胸に手を当てた。
「あたしはあの『ザラガス』を倒す為に、この平行世界にやってきたんだから」
3日後。都内の大学の講堂前。記者会見に群れる聴衆。
その片隅に────小さく縮こまって座る人影。服を周辺の人間よりも厚手に着ている。咳を数回。
「……────ンな、お前──」雑誌記者が走り寄る。「大丈夫か!?」
「で、どうだった?3日間の猶予の間に何か判明した?」挑発するような物言い。変人女(平行)だ。
座り込んだ変人女が、隈のできた眼でじろりと睨みつける。
「…………────分からなかった」蚊の鳴くような細い声。
驚く記者。その声色にも、示す語彙にも。
「分からなかった。之までの人生で一番脳ミソを使ったハズなのに、何も────閃きも、ロジックも」
「……じゃあ、如何する?」変人女(平行)が、変人女の顔を覗き込む。
「…………頼むわ。あたしの替りに、『ザラガス』を────お願い」
「O.K.」身を翻す変人女(平行)。「じゃ、記者会見替え玉、行って来まぁ〜す!」
「…………替え玉も何も、自分で仕組んだ事じゃない」
愚痴が零れる変人女。顔が異常に赤い。「……お前、本当に大丈夫か!?」「……平気よ」
呼吸にゼイゼイと音が混じる。「…………やっぱダメだ、病院行こう。ヤバ過ぎる」
「…………大丈夫よ、それより、あの女の記者会見、聞かないと────────…………」
立ち上がろうとしてふらつく変人女。慌てて支える雑誌記者。
結局妥協案として、大学の保健室に運び込まれた。熱を測ると39度4分。直ぐに寝かされる。
────机の上にハンドTVが置いてあった。記者会見の様子を写している。床の中から凝視する変人女。
「……ああ、御免なさいうるさかった?」「…………いや、いい。見せて」
頭に冷えピタを貼ったまま、半開きの眼でTV画面を見つめる。会見が始まった。
436 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/14(土) 23:42:22 ID:EZcez30o0
記者会見のフラッシュの嵐の中。
何人かの防衛庁関係者と白衣の研究者、そして変人女(平行)の姿。
まず始めに防衛庁関係者がHPクラックについての釈明と謝罪。質問が交わされる。
それが10数分続いて────────ようやっと、変人女(平行)の出番となり、壇上に上がる。
「え────……ではまずお集まりの皆さんと全国の視聴者様に分かり易いよう、おさらいを」
「ンなしちメンドくさいのはどーでもいいわ。結論から始めるわよ」
いきなりの暴走。壇上の演者からマイクを奪う。ノートPCをいじってスライドを表示。
「コレがザラガスに特有な”ザラガス小体”て細胞内小器官なんだけど────」
横に何かのグラフや数値表が表示される。
「内部の螺旋状空間に絶えず強い磁場が発生、内部ではマイクロブラックホールが発生消滅を繰り返してます」
思わぬ単語の登場に、あっけに取られる聴衆。
「つまり最極小ミクロサイズの粒子加速器ね。コレが細胞核特にセントラルドグマに直結してて────」
更にグラフの登場。バカみたいに長ったらしく、あっという間にスクロールされる。
「ブラックホールを通じて重力井戸の向こう側と何らかの情報の発信・受信が行われてます」
「そしてその情報にそってザラガス小体にて新たな遺伝情報がDNAに焼き付けられます」
「常時このプロセスが細胞内で繰り返されていることが、ザラガスの適応能力の強さであると考えられます」
TVを見る変人女の呼吸が止まった。眼を見開き、画面と音声に集中している。
静まり返った聴衆。今の内容を理解できたものが何人居るだろうか?
「あ、あの…………」おずおずと若い記者が手を上げる。「質問?ハイどうぞ」
「その、重力井戸の向こう側って────」
「有り体に言えば、即ち”平行世界”の事です」
どよめきが広がる。
「あーめんどくさい。要するに、『ザラガス』は平行世界との遺伝情報交換によって進化する生物ってこと。OK?」
更にどよめきが広がって、次々と手が上がった。
437 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/15(日) 00:29:12 ID:Qj4KRXz80
保健室の雑誌記者。保健室の校医と共に記者会見をTVで見ていた。
「…………分かりました?」「……いえ」────二人とも、既に頭の中が疑問符の嵐。
只一人────────変人女だけが。
「……お前、分かったか?何言ってるか………おい大丈夫か?」
体と歯の根を震わせている変人女。「大丈夫、 ………────今ちょっと、噛み砕いてる」
眼はいまだ会見を注視している。「…………あの”ザラガス小体”の構造からして、有り得ない話じゃない」
通常、生物の進化は時間を掛けて行われる。
永い時間の内の遺伝情報の差異が多様性となり、進化の原動力となる。
しかしザラガスは、その遺伝情報の多様性を多数の平行世界を貫通する事により獲得している。
通常進化が時間軸に拠り行われるなら、ザラガスの進化は平行世界という軸に沿って行われている。
進化に掛ける軸そのものが違うのだ。
よって、通常なら長い時間をかける筈の進化適応をザラガスは『瞬時に』行っている様に見える。
「……──でも、ザラガスがそんな生物であるならば」
壇上の変人女(平行)が演説する。
「────しかし、平行世界をブラックホールにて貫通するような事を恒常的に行い続ければ」
「…………やがてブラックホールが無制限に肥大化し、太陽系も銀河も飲み込んで────」
「────その内に宇宙の拡大が停止、急速に収縮に転じて」
二人の声が同調する。ベッドの中では弱弱しく、TVの向うは高らかに。
「「最終的にあのザラガスを中心として、現宇宙は消滅する」」
最高潮にざわめく記者会見。フラッシュと罵声のような質問が飛び交う。
その様子を薄眼で見て、熱に浮かされた脳内で先程の結論を検証しながら、
変人女は意識を失った。
ザラガスに向かって多元並行する宇宙が収斂してしまうなら、それはSF名物「ビッグクランチ」か!?
そして……、収斂の果てに宇宙は再度拡散するのか!?
ならばそれはビッグバンなのか!?
もし総ての答えが「Yes」だというならば、この世を作りかつ滅ぼすザラガスは「神」なのか!?
ザラガス神話のはじまりだったりして(笑)。
…と、いうわけで応援。
439 :
名無しより愛をこめて:2006/10/17(火) 01:43:17 ID:tRjpB1jl0
age
440 :
名無しより愛をこめて:2006/10/18(水) 16:51:46 ID:Bl2fewU+0
応援。
独り言…
BSフジで来年から世界名作アニメ劇場が再開とのこと!!嬉しい!!
441 :
名無しより愛をこめて:2006/10/19(木) 17:59:52 ID:bFvslBlS0
応援します。
442 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/20(金) 23:17:03 ID:APkG+n5P0
闇の中。
ぐるぐると模様が廻る。奇妙な模様が立ち現れ、それが渦を巻き、模様を描き、更に渦巻き。
渦が語る。何かを語る。語るとソレは模様となり、模様は渦に、渦は言葉に。
ふと光が差し込んで、瞼を開ける。
「 ……────よう」 …………見慣れた顔が、横に居た。無意識に、何か呟く。
「病院だ。お前がいきなり気失ったんでな。無理しすぎだ」 ……また、息を吐きながら何か呟く。
「お前が何と云おうとあの屋敷にゃ帰さんよ。ツネコさんにも言ってある。…………養生しろ」
再び瞼が重くなり、光が閉じ、あの渦巻く模様の世界へ。
記者会見から4日、変人女は意識を失ったまま。40.3度の高熱にうなされている。
病院に担ぎ込まれた時、医師の診断も曖昧のまま入院。目覚める事も稀のまま数日が過ぎた。
医師によると何らかの脳炎にも似た症状らしいのだが────────昨日のCTスキャンの結果。
「脳の海馬体から前頭葉に掛けて、数箇所に腫瘍らしき影が出来ています。何かは特定できませんが────」
また意識を失った変人女の顔を前に、額に手を当て考え込む雑誌記者。
目の前に、兎りんごがついと出される。
「たべる」 …………チーコちゃんが皿を持ってじっと見つめてくる。一個摘んで口に運ぶ。
チーコちゃんにも連絡した結果、変人女に付きっ切りになった。学校は適度にサボっているらしい。
携帯が震えた。おかじーからのメール。
『いいかげん仕事に戻れ 編集長より』
────────確かに、無断欠勤にも程がある。自分は雑誌記者、彼女は雑誌に書いてる変人女。
本分を思い出す。チーコちゃんに後を頼み、席を立った。
443 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/21(土) 01:58:16 ID:4BacpbdN0
病室を出ると、足元に紙飛行機。
────広げると、例の怪コード。 ……こんな所にまで。広げた手で握りつぶす雑誌記者。
病院のロビーでは、ザラガスに関するニュースを患者たちが注視していた。
箱根からそのまま東海地方へと抜けたらしい。自衛隊は静観の構え。『下降する円と株価』の所で目線を外す。
「やっ」柱の所に、苺ミルクのパックジュースを咥えた人影。
変人女(平行)だった。「どうだった?”あたし”の様子は」場所に似合わぬにっこにこの笑顔。
「────何の用だ」「いや、そろそろあんたの部屋からお暇するんで、ご挨拶〜と思って」
「 ……アレか」再びニュース画面へ視線を飛ばす。ザラガスの空撮映像。
「自衛隊のお偉いさん方と合流する事になってね、泊る場所もゲット済。いままであんがとさん。フフ」
「────本当に、何が目的だ?」再び変人女(平行)へ視線を返す雑誌記者。
「なーにが?」「お前の今の状況は、本当ならこちらの世界のあいつが被るモノだった筈だ」
「そんで?」「……他の状況にしてもそうだ。あいつのモノをお前はあちこちで掠め取り、あまつさえ────…」
取り出したのは先程の紙片。「こんなストーカーじみたイタズラまでして、あいつを追い詰める!」
「んー?ソレあたしじゃないわよ?」「………え、あれ?」
あっさりと否定。ちょっと当てが外れた雑誌記者。では、このイタズラは誰が?
「まあいいわ────んで、そこからどんな結論が?」
「お前は、……────本当は、此方の世界のあいつに成り代わろうとしてんじゃないか?」
一瞬、キョトンした顔。一瞬後、くすくす笑い始める変人女(平行)。
「何ソレ? ……フフフ、あたしはレイスでもドッペルゲンガーでもリリーでもマネマネでも無いわよ?」
必死で笑いを堪えているらしい。腹を抱えて涙目になっている。
気勢が削がれた。情けない顔で立ち尽くす雑誌記者。 …………外したのか。
「はーずーれ!!はずれハズレ!もーちょっと良く考えなさい!」
堪えきれなくなったか、ケラケラ笑い始めている。恥ずかしくなり、入り口へと振り向く記者。
背後からとても恥ずかしい声が掛かる。
「ま、他にも考え付いたらいつでも来んさいな───!!あたしは何時でもオッケーよーん!?」
444 :
名無しより愛をこめて:2006/10/22(日) 22:18:12 ID:OeucN0GY0
age
445 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/23(月) 03:25:35 ID:vtZiD1v80
変人女(平行)の声を無視して病院を出る。バス停へ向かう雑誌記者。
途中、病院関係者とすれ違う。
風船で遊ぶ寝巻きの子供。付き添いの看護婦。車椅子のおじさん。語らう松葉杖の女性。病室を見上げる男。
眺めながら道を渡りバス停に辿りつく。次は10分後だ。
道の向かい側に病院の前庭が見える。あの患者たちが居た。一人二人と病院内に帰っていく。
……──一人、立ち止まっている人影。そのまま病院の駐輪場へと歩いていった。
────違和感。あそこに居たのは患者か看護婦だけだと思ったが────
──────何故今の人影は私服だったのだろう?見上げていた視線の先の病室は────
…………………変人女の部屋?
ふ、と思い立って道を横切る。車を一台急停止させた。
車回しを横切り、駐輪場に辿りつく。ココからも変人女の部屋が見える。その部屋を────
見つめている男。手の中には、紙飛行機。振りかぶった。
「 お い 」
倒れる自転車。フェンスに押し付けられる男。雑誌記者が男の首根っこを掴む。
「何してる。あの病室の入院患者に何か用あんのか」
男の顔は無表情、眼は虚ろ。只視線を上の病室の窓へ向けている。紙飛行機を奪い取る。
「あの彼女にストーカーしてんのはお前か?こんなDMやら紙飛行機やら寄越してんのもお前か!?答えろ!!」
男の目玉だけが、ぐりんと雑誌記者に向いた。その眼窩内は────
紫と茶色のマーブル模様。
ぎょっと眼を見開く記者。男が静かに呟く。
「 ザラガスが、まタ来るゾ かくゴはいイか? 」
途端に男の目玉が盛り上がる。眼窩だけでなく、耳から鼻から口からも。紫と茶色のマーブルが。
それらが盛り上がり、垂れ下がり、液状となって地面に落ちる。
男の体は急に弛緩し、自転車の上へ崩れ落ちる。紫と茶色のマーブル液はゴムマリの様に纏まり────
異様に早い尺取運動で、傍の排水溝に消えた。
446 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/23(月) 04:25:12 ID:f+r1amra0
思わず男の体を起こす雑誌記者。
呼吸はしている、生きているらしい。それより今のは?────…………
と、突如背後から赤い煙。白い壁に強烈な光が反射した。思わず眼を覆う記者。
直撃は避けたらしく、直ぐに視力は回復する。その目の前、直ぐ向かいのブロックからもうもうと赤い煙。
その煙の中から、黒い甲殻の巨大な怪獣の影。
「編集長!」呼びかけに答えて走り寄る。TVの中継。
ザラガスが都内に出現している。────たしかザラガスは東海地方に流れた筈では?
TVの端にもう一つの中継映像。もう一匹のザラガスが休眠中を映し出される。
……まさか。ザラガスの同一種個体が、もう1体!?
自衛隊のVIP車両内、移送される変人女(平行)。車内TVで速報を聞く。
「……!おい!」「大丈夫、今まで通り不干渉を決め込んでください。避難は迅速に、でないと非難轟々ですよ?」
眉をしかめ、不快感を露わにしながらも携帯で連絡を取る自衛隊幹部。
……────変人女(平行)が、組んだ手の下の顔で不敵に笑った。
「チーコちゃん!」大慌てで病院に駆け込む雑誌記者。
既にロビーは避難する人々で一杯。掻き分けながら階段を上がる。ザラガスの足音が間近で聞こえる。
ズ ン ! 衝撃で窓ガラスが割れる。悲鳴が聞こえた。破片の散る踊り場を廻る。
病室の階に上がると、ザラガスの背中が見えた。目の前を太い尻尾が揺れる。進路は逸れたらしい。
ズ ズ ン ! さらに衝撃!上階のせいで拡大した衝撃。思わず足を取られ転ぶ記者。
顔を上げると────目の前に少女。チーコちゃんだ。
声を掛けようとして────────…… 「おきた」「……は?」「おきて、逃げた」
悪い予感がして、チーコちゃんと一緒に変人女の病室へ走りこむ。
記者が見たのは、散乱した見舞いの花瓶と、果物と────空になったベッドだった。
447 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/24(火) 03:33:17 ID:CaWdX3PV0
病院から離れた公園。
出現したザラガスのモノであろう足音が響く。人影はない。いや────
一人ふらふら歩いてくる。病院服で裸足のまま、腕には点滴を無理やり剥がした痕。血が滴る。
────緑地帯の端にある木製ベンチに、変人女はドカと座った。
大きく溜息をつき、眼の上に腕を置いて天を仰ぐ。
まだ息が荒い。 ………────また人の気配。目の前に立つ人影。
「────来たわね」
背中を曲げ男のほうを向く。長いコートの上逆光の為顔が見えない。
「…………まだちょっとツラいけど、大体”こなれた”わよ。残り、持ってるんでしょ?」
男がコートを少し持ち上げる。バサバサと足許に落ちるDM、メモリーカード、MD、フロッピー、紙飛行機。
「もうちょっと整理しててくれたら、有りがたかったんだけどねぇ」
男がうつむく。その瞳は紫と茶色のマーブル模様。
「 モう時間は すクナいぞ マに合うノか? 」
「────あたしを、誰だと思ってる?」
変人女がポケットをまさぐる。携帯電話を引きずり出し、男に投げ渡す。男は珍しげにしげしげ眺めた。
「ピリピリ鳴ったら”あたし”の居る所に飛んできなさい。始末をつけるから」
………────頷く男。向きを変えるとゆっくりとした足取りで歩み去った。
またポケットをまさぐる変人女。タバコを出して口に咥え────またゴソゴソ。ライターが無い。
ぐ う 。 お腹が啼いた。
「 ……おなか、空いたなぁー」
夜の編集部。応接セットに座る編集長と雑誌記者。
「で────何か。結局彼女は見つからなかった訳か」「ええ……」
「警察は?」「一応」「で、こんな時間かぁー」ブタキムチのカップ麺をすする編集長。
「ま、察しちゃる。今日は帰って寝ろ。今はあんま忙しくないしな」「……────すんません」
チーコちゃんの手を引いて出口へ向かう。チーコちゃんがこちらを見上げていた。「…………何?」
「だいじょうぶ」「……ん?ああ、大丈夫だよ。俺もあいつも」ふるふると顔を横に振る。チーコちゃん。
「もうだいじょうぶ。みんなと、つながった」
448 :
名無しより愛をこめて:2006/10/25(水) 18:14:19 ID:CMO2yqLx0
予想外割!応援!!
449 :
X話:2006/10/26(木) 22:58:32 ID:vJJCHw6T0
すいません、どっかの荒しの巻き添えでアク禁喰らいました。
どなたか保守お願いします。
450 :
名無しより愛をこめて:2006/10/26(木) 23:03:50 ID:x4S03eOO0
451 :
名無しより愛をこめて:2006/10/27(金) 07:22:53 ID:NRP7eAbj0
こりゃ大変だ!
アクセス禁止が長引くようなら、ピンチヒッターでも立てんと。
と、いうわけで保守。
452 :
X話:2006/10/27(金) 20:28:39 ID:fji56S4q0
アク禁解除デキタかな?
453 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/27(金) 23:15:52 ID:nOojNbNL0
『昨日夕方都内に出現した怪獣は、自衛隊による避難及び誘導により臨海副都心に…………』
TVニュース番組の収録中。ザラガスの中継映像。座って休眠中だ。
「────暴れませんねェ」「ま、暴れない方がいいんだが………動いてもらわにゃ銭にゃならんな」
バタンと大きな音。構成作家が乱暴に入ってくる。マイクを手に取った。
「どしました?」「MD伝えろ、報道からだ……おかしな事になってる」
『先週と昨日出現した怪獣と同一種と思われる怪獣が、米国ウィスコンシン州マニトウォク近郊に……』
「──3体目か」
編集部の昼休み。皆昼飯を食いながらTVを見ている。米国からの中継映像。
五大湖の一つ、ミシガン湖を大波を立てて横断する漆黒の一角獣。周辺を米軍のヘリが飛ぶ。
「攻撃しませんねェ」「日本の情報が行ってんだろ。さすが世界の警察様ってもんだ。それより────」
この事態に対する日本の自衛隊特災対策本部にて、記者にコメントを求められる女性。
フラッシュとカメラを遮りながら屋内に入っていくのは間違いない、変人女(平行)だ。
「コイツが実は偽者で、本物は現在病院から失踪中────だったか?本当か!?」
無視する雑誌記者。横の椅子ではチーコちゃんが座っている。
「……ふぅ──ん、俺にゃホンモノにしか見えないけどなぁ。あんな女が世界に二人も居るとは思えんし」
おかじーがチーコちゃんの頭を撫でた。「なぁ?」
「 に せ も の 」
チーコちゃんがその吸い込まれそうな黒い瞳で見上げる。たじろくおかじー。
「…………昼飯、行ってきます」雑誌記者が席を立った。チーコちゃんも立つ。
「そとで、たべる」「……ん」「?おーい、ここで喰わんのか?」「外で食ってきますよ」
ビルを降り、街に出る。チーコちゃんがくいと袖を引っ張った。「ここ」
────牛丼屋。「……チーコちゃん、前に行って残しただろ?もっと別のトコに」
「大丈夫、居るから」
454 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/27(金) 23:17:01 ID:nOojNbNL0
自動扉が開き、芳醇な牛丼の香りが鼻をひくつかせる。
チーコちゃんを横に座らせ、大盛りつゆだく。大盛り分がチーコちゃんの分だが、前はこれでも残してしまった。
さて新聞でも無いかいなと辺りを見回した雑誌記者が────見咎めた人影に対して一言。
「………何やってんだ、お前?」
変人女が、牛丼3杯目に牛皿定食をかっこんでいた。
病院着で、スリッパのまんまで。
「いやー、ツネコさん呼び出して作ってもらうのも悪いかと思ってさー」
スリッパをペタペタさせながら歩く変人女。どうらや回復しているらしい。つーか着替えろ。
「んん、それが無性に腹減っちゃって。着替えるのもおっくうでさぁ」
もうこれ以上この事でツッコむのは止めておこう。それよりも聞くべき事がある。
「────何で、病院を飛び出したんだ?」
質問する雑誌記者の顔を見て、ヤレヤレといった溜息の変人女。何か取り出した。
「あんた────、これまだ持ってる?」
変人女の手の中には、あの紙飛行機。
変人女の屋敷に入って驚愕した。
紙片が書斎の壁や床に所狭しと貼り付けられている。良く見るとそれは見覚えのある紙。
────あのマーブルストーカー男の投げ込んだ紙飛行機やDMだ。
「………何やってんだコレ?」
「んー……まだ何とも言えないんだけどねー」変人女はそう云いながら、何かをプリントアウトしている。
「メモリーカードなんかの分よ。内容は大体似たようなもんね」
そう云いながらまたその紙を広げていく。中身は全て同じ1と0の並び。何かの暗号か?プログラムか?
「もしや、ザラガス関係なのか?」「 ……────んー、ご名答ってとこかな」
並べて、配置を換えて、ひっくり返して、また返して。所構わず床にまでメモを取っている。
455 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/27(金) 23:19:13 ID:nOojNbNL0
「コレはね、魔法の呪文よ。この世を救う為の」
「コレを分析する為に病院を飛び出したのか?」「……──ま、ね。一刻を争うから」
「体は?顔色はいいけど40度以上熱有ったんだぞ?」
「もう大分下がってる。37度も無いんじゃない?それに────あの高熱は必要な事だったしね」
「………は?」
何時の間にかチーコちゃんがTVを付けていた。
アメリカのザラガスの続報。五大湖湖畔の工場地帯を襲撃している。ミルウォーキーに避難命令が出された。
良く見るとザラガスにしては妙に角が長い。手足は短くどうも水かきが付いているようだ。
「一刻もってどうなるんだ?コレより酷くなるのか?宇宙消滅とかか?」
「────ある意味、それ以上ね」
「自衛隊に行っちまった”お前”は────どうするんだ?ザラガス退治が目的のハズだろ?」
「準備してるんでしょうよ──……怪獣退治の、ね」
次々と入る情報。錯綜する文言。罵声が飛び、唾が散る。
薄暗がりの中、自らのディスプレイの光に照らされたその女の顔が、呟く。
「私の想定の範囲内です。それよりも、私の提案した装置の建造、火急的速やかにお願いしますよ?」
────そう云うと、ほんの僅かニヤリと笑った。
456 :
第X話 彼方からの彼女:2006/10/27(金) 23:31:59 ID:nOojNbNL0
その後一週間、世界は異様な事態に遭遇した。
二日後。
シベリアとサハラ砂漠でザラガスと思われる出現の報。
シベリアの個体は艶やかな黒毛に覆われ、サハラ砂漠の個体は地底に潜ってしまったという。
三日後。
南大西洋でブラジル海軍が少なくとも5匹の怪獣の群れと交戦、激戦の末二匹を倒す。
その姿は巨大な鰭を四対持っていたものの、明らかにザラガスと思われる形態だった。
五日後。
中国人民解放軍がチベット上空で奇怪な風船状の怪獣の群れと遭遇、部隊の3/4が喰われた。
形態は著しく違うものの、採取されたサンプルからザラガスの亜種であると認定。
六日後。
フランス南部にて高熱を放ち暴れまわる漆黒の一角獣が出現、仏軍と戦闘。
報告からザラガスではないかと思われたものの、戦闘中メガトン級の爆発を起こし二個師団とともに消滅。
七日後。
────────USA第二宇宙港から約1200m横を、謎の真っ黒な物体が通過。
居合わせた著名怪獣研究家、ジェフリー・ヤン教授は望遠カメラにて観察し次のように語った。
「間違いなくザラガス、生きたザラガスだった。遂にあの怪獣は宇宙空間にも適応し出現たのだ」
────────世界が、漆黒の一角獣で溢れ始める。
457 :
名無しより愛をこめて:2006/10/29(日) 02:07:37 ID:s0AfWOCa0
応援します。
おお、スレッド・マイスターが復活された。
イースターのお祝いをせんと。
おかげでピンチヒッター用に作りかけた駄文が無駄になったが、よかった、よかった。
と、いうわけで応援!
459 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/01(水) 04:36:05 ID:YWU/gLP00
そして、八日後。
『────遂に日本政府及びISPOの協力により、対ザラガス討伐兵器が完成したとの発表が───』
交差点の巨大TV画面を見上げる人々。速報キャスターが読み上げる。
『───公開も兼ねた運用実験は本日午前十時丁度から始まる予定です』
早朝の変人女の屋敷。
家政婦のツネコさんに頼まれ朝食を持っていく雑誌記者。
書斎をノック。……────気の抜けた声が返ってきた。「……入るぞ」
床、壁、本棚、開いたところにくまなくあの紙片。隣の部屋にまではみ出している。
変人女はその紙の群れに埋もれて、何か一心不乱にキーボードを叩いていた。
「あ、その辺踏まないで」何とか間を縫って部屋に入る。隣室のソファーにチーコちゃんが寝ていた。
「ご飯でしょ?そっちのソファーんとこ置いといて」
ソファーにはもう幾つかのお盆が乗っている。 食器にパンやら雑炊が乗ったまま。
「───また身体壊すぞ?」「んー、 ………あとちょっとだから」
良く見ると四〜五食分位残っている。二日ぐらい食べてないんじゃ?
チーコちゃんが起きだした。代わりに食事を食べてもらう。
自衛隊の兵器運用実験の旨を告げる。「場所は?」「千葉の────何たら演習場とか」
「ちゃんと調べて其処への交通手段確保しといて。今日中に行くと思う」
目をディスプレイから離さずに答える変人女。キボードの音が機関銃の様に響く。
「────────それに、決着の方も」
運用実験直前の自衛隊演習場。ごった返す見物人とマスコミ関係者。
そのはるか彼方、演習地の平原のど真ん中に物見やぐらの様な掘っ立て小屋。
ジープが横に乗りつける。降りてきたのは自衛隊幕僚幹部、及び防衛庁長官。小屋に入る。
460 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/01(水) 04:36:39 ID:YWU/gLP00
一面、ガラス球の群れで覆いつくされている。一見真空管か電球のよう。
中心には制御用PCと────変人女(平行)が背負っていた、あのリュック。幾重ものコードに繋がれている。
変人女(平行)がその横で作業していた。幕僚幹部が触ろうとして───小さな放電。
「あ、部分的に既に通電してますから。1000万ボルトのハードな体験したければ、どうぞ?」
咳払いしてネクタイを直す幕僚幹部。長官が問う。
「本当に君の説明通り────これがあの怪獣達への決定打となるのかね?」
「ええ」「本当に、一匹残らず?」
「そうです」にっこり笑って立ち上がる、変人女(平行)。
「これで──────最後ですよ。何もかも」
「ええ、千葉の────”多楠和”自衛隊演習場。そこの最寄の駅までです」
駅の改札で問答する雑誌記者。「あー、ちょっと遠いみたいねー。演習場までバスかタクシーになるよー?」
「あぁ構いません。バスの時刻表とかは……」「ごめんねー、ネットか現地で直接確認してもらえる?」
何か駅員の応答にムカツキながら、むこうの電光掲示板を眺める。ニュース速報だ。
『………まもなく、多楠和自衛隊演習場にて対ザラガス討伐兵器の運用実験が…………』
「────通電準備、完了しました」「了解…………よろしいかね?」
『ええ、結構です』
幕僚幹部や長官は後方の仮設指揮所に退避。しかし変人女(平行)だけはあの小屋に残った。
「本当に、これでザラガスに対して変態させずに行動阻害が行えるんですかね?」
「理論的・技術的に問題は無い、らしいな。最も彼女以外にそれらが理解できている者が居るか、疑問だが」
「……長官」「うむ、運用実験、秒読み開始」
技術員による秒読み開始。 ………────────残り、14秒。
掘っ立て小屋の中、PCのキーに指を掛けて秒読みを聞く変人女(平行)。
丸椅子に座り、能面みたいな無表情でキーボードを眺める。 ……────残り6秒。
461 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/01(水) 04:37:23 ID:YWU/gLP00
…───残り5、4、3、2、1、 …0。
「……────これでおわりだから、ね?」
うっすらと、唇に浮かぶ笑み。エンターキーが押し込まれた。
米国五大湖、客船脇に出現していたザラガス。
シベリア、ツングースのタイガに佇む黒毛のザラガス。
チベットのラマ教寺院上空に浮か風船状のザラガス。
────その瞬間、皆動きを止めある方向に視線を向けた。
「長官………!!」
モニターを眺める幕僚幹部と長官。臨海副都心周辺をうろついていたサラガスが、動きを止めていた。
あらぬ方向に顔を向けて立ち尽くしている。暫くすると、その方向に歩き始めた。
「進行方向は?」「はい…………大体東南東の方角へ」
地球の他の地域からの報告。他のザラガスも移動を開始しているらしい。その方向が表示される。
「これは────」「はい、恐らく日本、しかもこの多楠和演習場を目指しているものと………」
即ち、あの装置はザラガスの強力な誘導装置ということか?
「根本的な解決では無いにしろ────ヤツ等の行動をある程度制御できるのか。成る程、素晴らしい」
「これなら、ザラガス共への対策にある程度の余裕が────────」
突如、閃光。
一瞬、真っ白になる視界。平衡感覚が混乱し倒れこむ。
悲鳴とうめき声が聞こえる。「………なんだ!?何が有った!!」見えない。目の前も見えない。
「今の閃光は何だ!?」「長官、此方へ!」手を握られ、ほうほうの呈で歩き出す。
「誰だ、SPか!?何だ、何が有った!?」「分かりません、赤い煙が施設内に充満していて────」
462 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/01(水) 04:52:14 ID:YWU/gLP00
赤い煙? ………それに、閃光!?
罵声や走りぬける音。混乱した仮設指揮所。 ……────ズン。
「アレは何だ?」「……どうしました長官?」「アレは何の音だ!?」 ……────ズン。
「大丈夫です長官、混乱していますが避難路は確保していますので。そこの扉の向うにお車が────」
……────ズン。
まさか、そんな。考えたくない事が長官の頭の中をよぎる。
扉が迫る。先程からの音は扉の向うから聞こえてくる。────止めろ。扉の向うには行きたくない。
「さあ長官、お早く!!」
ガチャ。
扉を開けたその先には、
夏のアスファルトの蛙のように潰れひしゃげたジープ。踏み潰す巨木のような漆黒の脚。
ザラガスが、立っていた。
「でェきたっ!!!」
屋敷に帰って来るなり変人女の絶叫。書斎を覗く。
「タクシー呼んでて!その間に焼いてるから!!」吼えながらメシを喰ってる。どうやってんだ?
とりあえずタクシーを呼ぶ。廊下に出て携帯をいじっていると────ツネコさんが飛び込んできた。
庭に出ると、西の空の遥か上空を、真っ黒な巨大な蝶の様なものが羽ばたいてくる。
段々近づいてきた。良く見ると────黒い甲殻に、角一本────「もしや、アレもザラガス?」
しかも一匹や二匹ではない。群れている。
「 …………いよいよ、始まったか」変人女が出てきた。何故か眼鏡がサングラスに化けている。
「これから入用になるからね。あんたも掛けときなさい」サングラスを投げて寄越した。
見るとチーコちゃんがニュースを見ている。何故かやっぱりサングラス。
────ニュースキャスターは、あの演習場に”ザラガス”が三体出現した事を告げていた。
463 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/04(土) 02:50:41 ID:xNkr69jb0
「なァんで電車なのよ電車!!こんな状況下じゃ運休してるに決まってるでしょが!」
タクシーの助手席で吼える変人女。後ろの席にチーコちゃんと雑誌記者。
「だってお前手段指定しなかったろ!」「ま、いいけど。タクシー代出しなさいよ!」
お前電車代も出せってさっき言っただろ、と突っ込めない雑誌記者。
「あの〜……、結局何処行くんです?駅?高速?」
運ちゃんが困り果てている。とりあえず千葉方面へ走ってくれているらしい。
…………まあ、いきなりサングラス掛けた男女幼女三人組に乗り込まれたらさぞ不安だろう。
「そりゃ高速────ん?ちょっと待って」ラジオに聞き耳を立てる。
『千葉─東京間の有料高速道路は怪獣の通過により寸断されており、各区間で通行禁止に………』
「うォう!?」運ちゃんが超絶運転。チーコちゃんがころころ転がる。
何とタクシーに並走して、黒い数匹の生物が跳ねている。
「運ちゃん目ェ閉じて!!」叫ぶ変人女。────同時に閃光!!
運ちゃんが叫んで目を覆う。変人女が慌ててハンドルを取った。「まさか────……アレもザラガスか!?」
カンガルー跳びをして追いすがってくる。狙われている!?
と────目の前のビルが崩れた!四足歩行のザラガスが圧し掛かっている!
「捕まってて!!」大きく旋回、直前の曲がり角に入る!
「どーすんだ、どーすんだよ!」「ちょっと黙ってなさいっ!!」
更に曲がり、住宅地に入っていく。何時何処で袋小路に突き当たるか分かったものではない。
と、チーコちゃん、指差して一言。「アレ」
赤銅色の敷石を跳ね上げて線路上を爆進するタクシー。
「パンクする!絶対パンクするって!!」「何ですかー!?何処走ってるんですかー!!?」
叫ぶ運ちゃんと雑誌記者。「あーも黙ってってば!ホラこれ目に貼ってなさいッ!!」と投げられる冷えピタクール。
まだ小型ザラガスは数匹追いすがってくる。と────何処からか踏み切りの音。
「お、ラッキィ」速度を上げるタクシー。
追いすがる小型ザラガス。目の前のタクシーがいきなり視界から消えたと思うと────いきなり先頭車両!!
貨物列車に吹き飛ばされる小型ザラガス。タクシーは通常道路に戻る。
「この辺、未だ電車止まってないのねー」「ちょ、おま前向け前」
464 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/04(土) 02:52:11 ID:xNkr69jb0
大分進んだ変人女ジャックのタクシー。
海岸線の県道を進む。既に千葉県の表示は10数分前に過ぎた。
運ちゃんは後部座席に引きずり出し、チーコちゃんの膝枕でちょっと半泣きで目を休めている。
東京湾を眺めると、暗く立ち込めた雲の中を怪しく光りながら進む怪物が見えた。
「…………アレも、ザラガスか?」「でしょね」
カーラジオからは、次々と一本角の黒殻獣が閃光と赤い煙と共に出現している事を報じている。
「……お前、分かってんだろ?」
「何が?」「…………何でこんなにザラガスが、しかも色んな形のヤツが現れまくってんのか」
「ま、ね」「 ……アイツのせいか?平行世界から来た、もう一人の────」
────────沈黙。ラジオの声だけが車内に響く。
「 ………でしょね。彼女が他の平行世界からザラガスを召還してるんでしょ。恐らく、最初の一体から」
「嘘ついてたって訳か。ザラガスを退治するのが目的って言っときながら────」
「嘘ついてないわよ、あの”あたし”は」「は?何で」
「”ザラガスを退治する”とは言ってたけど、”この世界をザラガスから救う”とは言ってないわ」
平行宇宙を貫通する極小ブラックホールを内在するザラガス。
放置すればブラックホールが拡大し、その宇宙を収縮させてしまうが、そのスパンは本来数千〜数万年単位。
「ただし、同一宇宙の至近空間・時間軸にザラガスの存在をを集中させ場合────」
ブラックホールの肥大化が指数関数的に増大する。即ち、宇宙消滅。
さしものザラガスも、ブラックホール化と宇宙消滅には耐えられずそのまま巻き添えになるだろう。
そのまま爆心地となった消滅宇宙と共に、周辺の平行宇宙も消え去る。召還されなかったザラガスも。
「つまり、それは────」
「”あたし”は、平行宇宙のザラガス達もろともこの宇宙を消滅させる積り、 ……でしょうね」
そう言いながら、変人女は内陸部への道筋へハンドルを切った。
465 :
名無しより愛をこめて:2006/11/05(日) 12:58:13 ID:l7pc7GJB0
晴天あげ!!
466 :
名無しより愛をこめて:2006/11/06(月) 15:04:36 ID:98x+6vwN0
応援。
もうね、まじで本出すか円谷に投稿した方がいいですよ。
468 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/08(水) 02:50:05 ID:POQvmJ9x0
赤み掛かった土煙の中をはひはひ言いながら掛けていく人影二つ。
その背後を、まるでムカデ競争みたいな長い影が追いすがっていく。
背中には蛇腹状の黒い甲殻が並び、頭は裂けた口蓋と一本角。奇怪な雄叫びを上げる。
「く………」後ろを走る大柄な人影が振り向き立ち止まった。迫る怪物。
「私が足止めします!地下避難通路にお早く────」と、横を走り抜けるもう一つのムカデ競争の影。
土煙に紛れて並走していたらしい。先回りされる。
「しまっ────」絶句する人影。迫る大顎────────
突如暴風と轟音!!同時に巨大な機影が舞い降りる!
閃光弾が2、3発着弾し怪物達の目を眩ます。輸送用ヘリらしい機影から声が響く。
「長官ー!お早く!!!」
収容されたヘリ内で衣服を整える長官。他にも幕僚幹部数名が居た。
「一体何が起こっている、状況は?」「皆目不明です。この混乱と突如現れた怪獣共で…………」
「───いや、確かな事が一つだけ」幕僚幹部の一人。今回の実験主催の一人だ。
「長官、あの怪物共は”ザラガス”ですよ。ザラガスが大量発生してるんです」
「んな………」
開いたままで塞がらない長官の口を、ヘリの斜め前方からの閃光が塞ぐ。
巨大な旅客機並みの翼を持つ怪獣が、赤い煙の飛行機雲を引きながら出現した。
間一髪で回避するヘリ。更に上昇して演習場全景を見られる高度へ。
────演習場の各所にて立ち上る赤い土煙。瞬く閃光。その中から立ち上がる漆黒の甲殻獣。
「……演習場外部も同じような状態らしいですね」何処からか、ラジオを持ち出している隊員が云う。
よく見ると、怪獣達はバラバラに動いているようでそうではない。渦を巻くように動いている。
その渦の中心には──────「───あの女……!」
薄く赤紫がかった輝きを放つ、あの実験用の掘っ立て小屋。
その小屋に向かって、一筋の土煙を発見する長官。ザラガスの群れの間を縫っていく。
「…………何だ、あのタクシー?」
469 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/08(水) 02:50:58 ID:POQvmJ9x0
「見えたー!!左だ左!!いやちょっと右!!」運転席の背もたれに張り付く雑誌記者。
「はっきりせんかーっ!!」叫ぶ変人女。
タクシーのフロントガラスはクモの巣状に割れ、そこからしげりまくった木の枝数本と鉄条網が飛び込んでいる。
後部座席では微動だにしないチーコちゃんと、その膝枕の上の半笑い全泣きの運ちゃん。
演習地の鉄条網を体当たりで強行突破してきたのだ。
「お!あたしにも見えたっ!」アクセルを踏む。目指すは群がるザラガスの渦の中心地。
「あの光る小屋ね、突っ込むよ────っ!」爆走するタクシーの目の前に、巨大な脚!!
「わー!?ちょと待て止まれってー!!」
雑誌記者の叫びをドップラー効果で残し、タクシーはザラガスの脚と尻尾の僅かな間隙を通過する。
目の前にザラガスの渦の中心、掘っ立て小屋!「止まるよ、舌噛むな────!!」
大胆に土煙を立てて後輪を滑らせる変人女。鉄条網にめり込みそうになる雑誌記者。
そのまんまの姿で横に寄るチーコちゃん、ドアにぶつかり首を変な方向に寝違える運ちゃん。
ドシ────ン……。衝撃音。
掘っ立て小屋と輝くガラス玉の群れ、そしてPCとイスも揺れる。
「…………あららら、お早いお着きで」
ひしゃげたドアを蹴飛ばしてタクシーから出てくる変人女。目の前には、赤紫に輝く小屋。
続いてチーコちゃんがひょいと出てきて、最後に雑誌記者が精神崩壊を起こした運ちゃんを引きずって出てきた。
「……────ココからは、あたし一人で行くわ」「え?」
「アンタに一つ、頼んどく」振り向かずに喋る変人女。
「ここで待ちながら、アタシの携帯電話の番号をコールし続けて」「……へ?お前今持ってないのか?」
「ちょーっと、人に預けててね」片手をひらひらさせながら、小屋の入り口に向かっていく変人女。
「……──頼むわよん?」
小屋の扉がキイと開き、コンコンとノックの音。ボブカットの頭がPCから振り向く。
微笑する変人女(平行)。「………ヒサシブリ」むりやり纏めたボサボサの髪が吹き込む空気に揺れる。
睨みつけながらにやりと笑う変人女。「……おひさしぶり」
470 :
名無しより愛をこめて:2006/11/08(水) 05:58:44 ID:glY4X1pnO
♪ネットに喰らい付いて〜
♪現実世界まで削除した奴ら〜w
471 :
名無しより愛をこめて:2006/11/08(水) 06:15:40 ID:glY4X1pnO
♪ネットに喰らい付いて〜
♪現実世界まで削除した奴ら〜w
472 :
名無しより愛をこめて:2006/11/09(木) 22:18:02 ID:p+clTfjF0
♪ネットにも喰らい付いてて〜
♪現実世界でもチャンとしている僕ら〜
で〜〜変わりなく〜応援〜します〜♪
473 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/11(土) 06:48:16 ID:UdMtNEhy0
「もう、手遅れよ」短髪の変人女が云う。
「さて、どうかしら?」ボサボサ長髪の変人女が云う。
「サラガス達の召喚は彼ら自身のザラガス小体も連動してるからね。既にスパイラルに突入してる」
もう一度微笑する変人女(平行)。
「止まらないわよ」
「見事なもんだわ」周りのガラス球の群れを眺めながら、小屋の奥へ入っていく変人女。
「確かに一つの世界でザラガスを退治出来ても、他の分岐した平行世界では生き残る────」
変人女(平行)の前で止まった。互いに見つめあう鏡像の如き両者。
「ならばザラガスを存在する平行世界群ごと消し去る。あたかも毛虫のたかる枝を切り取り焼き捨てるように」
「そ。合理的でしょ?」「確かにね。でも────……一つ疑問があるわ」
「何故貴方は、ザラガスを退治するの?」
確かにザラガスは、即進化能力も平行世界貫通能力も共に厄介な怪獣だ。倒すにはやぶさかではない。
しかし────わざわざ怪獣退治というものは、別の平行世界に出向いてまですることだろうか?
別世界の事なら放置すればいい。わざわざ面倒見に来る事ではない。
沈黙する変人女(平行)。見つめる変人女。外をザラガスが闊歩する音が響く。
「貴方の宇宙に、何が有ったの」
短髪の変人女も、音も無く立ち上がる。
「…………────あたしの世界、平行時空座標113235.929界で、あたしは大学で非常勤講師をしてた」
「貴方の担当の雑誌記者と同じヤツも居て、あのちっちゃい子も居て、おかじーも編集長も、スミ先生も」
「だけどあのザラガスが出現して────────」
「あたしの宇宙は、消失した」
474 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/11(土) 06:49:33 ID:UdMtNEhy0
最初は42年前に始まった。
突然変異のように出現したその怪獣。当初は無害と思われ半ば放置された。
しかしその異常な進化能力が発覚してから一転、最優先撃滅対象とされ、大苦戦の倒された
…………────ハズだった。
凄まじい攻撃に晒された怪獣は最終的に自らの身体を変質、爆散した。
後に残ったのは漂う大量の赤い煙と、殆どミイラ化、というか石化したザラガスの破片。
外見的には初期の胚にも似たソレを、人類は戦利品として嬉々として収容し英雄譚の見世物にした。
その内その話も半年で飽きられ、博物館で埃を被り、そしていずことも知らぬ倉庫に仕舞いこまれた。
だが、人類は疑い調査するべきだったのだ。何故ザラガスは爆散しそんなものを残したか。
────石化したザラガスは生きていたのだ。しかも、最悪の性質を獲得したまま。
何年か経って、また似た性質と姿の怪獣が出現した。苦戦の末再び退治。
また現れた。再び退治。しかしまた出現、退治。 …………さすがに人類は疑い始めた。
何故こんなにも似た怪獣が出現するのか?しかもサイクルが短くなっている。
しかし誰にも分からない。その内一度に複数出現するようになる。慄き始める人類。
そしてある者が、あの最初の怪獣の残した石に気付いた。
それが────────彼女。
「分析して驚いたわ、石と思ったものは生きていて、しかも活発に活動してたんだから」
エネルギー源はあの細胞内小器官”ザラガス小体”。ある種の縮退炉の様な使い方をしていたらしい。
更に怪獣の石はしょっちゅう無くなった………というより、姿を消した。
ある時、その石を研究の手伝いをしてくれていた助手が石に刺激を与えようとして、消えた。
二日程して戻ってきたが、彼自身は全く見知らぬ風景の世界をさ迷っていたという。
────彼は、別の平行世界に飛ばされていたのだ。
本来ザラガスには平行世界を移動する能力は無い。あるのは遺伝情報交換の力のみだ。
そのはずが、この石化ザラガスは平行世界間をまさにブチ抜き、物質を移動させた。
そう、他の平行世界から、あの出現し続けるザラガス達をも。
475 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/11(土) 06:51:22 ID:UdMtNEhy0
その間、世界の科学者達は二つの現象を報告した。木星系に突如出現した巨大な怪天体。生物に見える。
もう一つは、猛スピードで近づいてくる星団群。────その宇宙が、収縮を始めた。
彼女は天体の観測結果に驚愕した。
間違いなく、その天体は無数のザラガスの死体から出来ていた。しかも質量が増加し続けている。
さらに他にも似たような天体の報告。質量はより高密度に、更に重く。
間違いなく、ザラガスによりブラックホールが形成され始めていた。
気付いた時には遅かった。何とかして最初のザラガスの石を制御しようと奔走した。
だが焼け石に水どころか────更に状況は悪化した。更に大量のザラガスが、その場に召喚されたのだ。
その時、その世界の地球は滅んだ。
半分に千切れた髪の彼女と共に、別の平行世界へと飛んだ最初の石化したザラガスを除いて。
髪を掻き揚げる変人女。
「────成る程ね、平行世界移動なんてよっぽどのオーバーテクノロジーだと思ったけど」
愛しげに、自らが背負ってきたリュックを撫ぜる変人女(平行)
「────その通りよ。このリュックの中身はね────────……」
リュックのあちこちのヒモを解き、ファスナーを開ける。
中に手を入れ、ずるりと大量のコードに繋がれた物体を引きずり出す。思ったより小さい。
「コレが、最初のザラガス。ザラガスの始祖」
怪しく赤紫に脈動する物体。まさに小さな”石”だ。
「平行世界を貫通する能力を身に付け、更に自ら平行世界間を漂流するようになった超生物、怪物……」
「確かこの世界でも40年前、ザラガスが一度出現した事があったでしょ?アレもコイツの影響よ」
「数限りない平行世界を渡り歩く中で、こいつを懐かせ、制御する術を見につけた。」
476 :
第X話 彼方からの彼女:2006/11/11(土) 07:10:06 ID:sbvBBVSA0
「そして────」
まるで恋人の形見の如く、いとおしげに”石”に頬擦りする変人女(平行)。
「この世界、7511922.361界で、コイツを殺す。この世界と他のザラガスと────そしてアタシと共に」
寂しげな、3度目の微笑。
「…………────────あたしには、帰る世界なんて無いんだから」
「この世界で暮らす気は?」
「ここの前に居た世界で、そんな気にもなった事があるわ。でも────」
そこは、自分の居た世界ではない。
自分の知る何もかもが存在しなかったり、酷く違っていたりする。何より────
その世界の自分が居る。何事も無く、明るく、能天気で、平和そうな顔をして。
「嫉妬ってコト?」
「そうね、自分に対する嫉妬。情けないでしょ?でも一度宿った感情は、どんな世界でも消えなかったわ」
「だから心中すると。にっくき仇敵と、嫉妬相手とともに」
「ええ、だから覚悟なさいな。楽しいかもよ?自分の世界と一緒に死ねるんだから」
「────やれやれ、トンだあたしも居たもんだわ」
耳の裏側をポリポリ掻く変人女。後れ毛がくすぐったいらしい。
「云っとくけど、そう簡単にゃ死なないから。アタシもこの世界もね。心中とかダイキライだし」
髪の短い変人女が眉を顰める。「……何か策でも?」
髪の長い変人女がニヤリと答える。
「…………ま、ね」
物語はいよいよ佳境に入ってまいりました。
キャプテンアメリカ対キャプテンアメリカみたいな、ホンモノどうしの対決はどういう結末を迎えるのか?
そして世界の運命は??
そしてX話氏の作品が大団円を迎えしのちは、緊急投下用に構成した拙作駄文、もったいないので投下予定。
タイトルは……「となりの芝生」
と、いうわけで応援アゲ。
478 :
第X話:2006/11/14(火) 03:32:14 ID:k60lMvzG0
いかん、バイト数って500kbまでか?
479 :
第X話 彼方からの彼女:
「あんた、”ザラガス小体”が一体何に由来するか知ってる?」
少し眉を顰める変人女(平行)。
「分かってると思うけど、この細胞内小器官はミトコンドリアに酷似している。つまり────」
「細胞外起源、すなわち細菌か何かの共生体って事?まあ予想はしてたけど」
「それなら、DNAもミトコンドリアの様に独自に保有しているって事よね?」
小屋の中心のPCへ歩み寄る変人女。マウスとキーボードをいじる。
「ザラガスの細胞を観察してみたら、細胞核とザラガス小体は癒着が激しいんだけど────」
何かのソースを開いた。スクロールして確認している。
「完全融合したかと思えば、しばらくして丸ごと細胞核から排出されたりしてる。完全には同化してない」
多分共生、細胞膜内に入ったのもごく最近ね。細胞自体から拒絶されてるわ」
「つまり?」
「まだ細胞内から”ザラガス小体”を排除可能、って事」
「…………まさか、排除DNAでもブチこもうって事?無理よ。平行世界間で変異が多すぎる」
いくら”ザラガス小体”を排除する遺伝情報を製作しても、彼らは無限に連なる平行世界で変異を起こしている。
何処かに排除情報を無効化する変異を起こしたザラガスが居れば、それで元のもくあみだ。
「────そんな事が出来るなら、とっくに私が試してるわ」
にやりと笑う変人女。
「出来るわよ────……今の”あたし達”、ならね」
変人女がPCに何かのディスクを入れた。ツールを起動する。
「成る程、やっぱ”ザラガス小体”に介入して情報を流す、そういう装置ねコレ。よく出来てるわホント」
「ちょっと、何する気!?」
「”ザラガス小体”排除情報を、この祖形ザラガスから全平行世界ザラガスへと流出させる」
「無駄って言ってるでしょ!?全平行世界の”ザラガス小体”のDNA地図と変異パターンの分析なんて、
全地球のスパコンでもネットツールでも出来る訳が────」
PC画面のウインドウ。変人女の操るマウスが、右クリック。