「2年のブランクを経て……まぁ、その間も『仮面ライダー剣』をやっていらっしゃったんですが、
戦隊シリーズに戻られる日笠さんに今回のお話をいただいたのは、昨年の夏前でしたね。
玩具展開などをきちんと計画して製作されるキャラクターものとしては標準的な早さだと思います。
ただ、今度の作品が戦隊シリーズとして30作目になるということで、
色々な仕掛けをしてみようという雰囲気が当時からありまして。
だいたいにおいて戦隊ものは、シリーズ構成というポジションがないかわりにプロデューサーが、
どういうことをやりたいかを明確に提示してくることになるんです。
もちろん『ボウケンジャー』でも、ある程度まではプロデューサーサイドのやりたい部分というのは、
程度の差はあれ出来上がっていたと思います。
その中で、今回は私からも積極的にアイデアを出させていただきシリーズに関わらせていただきたいと思いました。
それこそ『轟轟戦隊』という名称にはじまって」
「今回は『超力戦隊オーレンジャー』(95)以来の、リーダー然としたレッドが登場します。
戦隊のレッド像というのは、時代の移り変わりとともに変化していて、
この十年ほどは、いわゆる熱血漢で先頭を切って突っ走るタイプが主流で。
必然的に(レッドが)第一話で戦闘に参加する、というルーキー的存在になっているんです。
これは視聴者とくに子供達がレッドに感情移入しやすくなるという効果があったようで、かなり支持を得ていたようです。
ですから、初稿をお見せした時にも“子供達はこういうレッドに感情移入しにくいのでは?”という声は挙がりましたね。
中には昭和の戦隊だとまでいう人も(苦笑)。
しかし、日笠プロデューサーの中でも、
このところ元気な新人タイプのレッドが連続している点は何かしら変えたいというのはあったようです。
つまり、ひとつの選択肢としてそういうのがあるならばいいが、
スタンダードになりすぎて“こうでなくてはならない”ではまずいだろう、と。
私もこの意見には同感で、感情移入しやすいレッドでなくてもいけるんじゃないかな、と感じていて。
明石暁はこうして誕生したわけです。
もうひとつ興味深かったのは、ほかのプロデューサーの方がおっしゃっていた事で、
最近のサッカーにおけるヒーロー像がJリーグ発足当時と少し変わってきているらしいというのです。
昔だったら、三浦知良やゴン中山のようなフォワードが、直接ゴールして点を稼いだり、
派手なパフォーマンスをしたりしてもてはやされたんですが。
今はミッドフィルダーがヒーローになる時代のようです。
ヒデ、中村俊輔それにベッカム……と。
そもそも企画当初からたびたび出てきたキーワードのひとつに<タクティクス>というのがありまして。
最初あまり意識していなかったのがさっきのサッカーの話でピンときたんです。
また戦隊第一作目のゴレンジャーやBFJが色濃く持っていたスパイものの要素もタクティクスと言う言葉で内包できると考えました。
それと、敵の存在ですね。
そもそも『ボウケンジャー』は戦闘専門のチームではないと考えているんです。
あくまでもプレシャスを手に入れることが第一目的で、それを阻む者をやっつけるんだ、という。
その“敵”の構成も、大きな組織がもともと存在してるのではなくて、小さなグループがいくつもあって、
それぞれがネガティヴシンジケートと言われる存在である、というイメージですね。
彼らがどれぐらいの数いてどうなっていくのかはまだ不明です。
今回僕はもうひとつ“戦隊とは特撮ものを代表する巨大ロボットものである”という点を強調したいと思っています。
おかげで台本の段階で特撮に関する描写を細かく書かせていただき、
予算を管理する人達には睨まれていそうです(笑)。
でも、佛田特撮監督ともじっくりお話させていただき、ゴーゴービークルの発進から活躍まで、
特撮研究所の皆さんにも、多忙な中限界まで頑張っていただいているようです。
もうこれは、ここまできたら実際にみていただくしかないでしょう。
放送開始までもう間もなくですが、30作品目という名前に恥じないよう、最初から全開でいかせていただきました。
『ボウケンジャー』の冒険を、楽しんでいただけると嬉しいです」