会場に歓声が響き渡る。
「東都大学対抗水泳大会、シンクロナイズドスイミングデュエットの部、優勝は暁学芸大学、大工原希望(おくはら のぞみ)喜田村美夏(きたむら みか)のペアに決定いたしました」
たった今全ての演義が終了して優勝が決まったところだったのだ。
優勝が決まった二人は飛び上がって喜んでいる。
スレンダーなスタイルと長い手足は水泳にはもってこいのボディだ。
二人とも似たような美しい顔立ちをしており、周囲からはとても息のあったコンビとして認められていた。
「おめでとう、二人とも。やったわね。次は国体よ」
「「ありがとうございます、先生」」
二人の声が見事にハモる。
嬉しそうな表情に二人を指導してきた教師も思わず顔をほころばせた。
その様子を物陰から覗いている一人の男。
室内だというのに黒いサングラスをかけ、黒いスーツで身を固めている。
「こちら工作員85号。ターゲットのデータを送信いたします」
そう言って男はハンディカメラの映像をどこかへ送信し始めた・・・
「やったね、希望。優勝だよ、優勝」
夜遅くなった通りを二人の女性が歩いている。
優勝のお祝いで大学の仲間たちが二人を祝福してくれたのだ。
「うん、すごいよね。嬉しい」
にこやかにこたえる希望。
二人とも少しお酒が入っていることもあってほんのり頬が赤い。
「イーッ!」
「イーッ!」
突然二人の前に全身黒いタイツを身に纏った怪しい男たちが現れる。
彼らは顔も目、鼻、口だけを出したマスクをかぶっており、不気味この上ない。
「な、何なの? あなたたちは?」
「希望、逃げよう」
二人は振り向いて逃げようとするが、すでに背後にも男たちが待ち構えていた。
「イーッ、お前たちはショッカーに選ばれたのだ。一緒に来てもらおう」
全身黒ずくめの男たちの中で一人だけタイツに赤い部分を持つ男がそう言い放つ。
「いや、いやです」
「冗談じゃないよ」
美夏は何とか逃げ道を探そうとするが、周りは黒タイツの男たちばかりで、他に人通りも無い。
「イーッ、連れて行け!」
「「イーッ!」」
男たちはたちまち二人に群がる。
「キャー」
「イヤー」
二人は叫んだものの、すぐに当て身を食らわされて気を失ってしまった。
希望が目を覚ましたのは薄暗いひんやりした空間だった。
「の、希望・・・」
いつも聞いている親友の声に希望は周囲を見渡す。
驚いたことに彼女の体は台の上に固定されていた。
「えっ?」
「希望、逃げて! 改造されちゃう」
「美夏」
希望は壁に貼り付けにされている美夏の姿を見つけた。
彼女は両手両脚を壁に固定されて逃げられないようにされている。
そして希望自身はなんと裸で円形の台の上に縛り付けられているのだ。
「ちょ、ちょっと。何なのこれ?」
希望は必死に体を動かしたが固定された手足はびくともしない。
そのときウイーンウイーンという音とともに壁に付けられたワシのレリーフのランプが輝き始める。
「大工原希望よ。お前は我がショッカーによって選ばれたのだ。これよりお前は死神博士の手によって改造手術を受け改造人間として生まれ変わるのだ」
「クククク・・・美しい素体だ。さぞかし優秀な改造人間に生まれ変わることだろう」
ワシのレリーフからの声が止むと同時に長身の黒マントの男が姿を現す。
黒マントの下は白いスーツであり、スマートな中にもどこと無く吸血鬼を思わせた。
「か、改造人間?」
「や、やめて! 私たちを家へ帰して!」
希望も美夏も必死に逃れようとするが、固定された体はまったくいうことを聞かない。
「クックック・・・それでは改造を始めよう」
死神博士と呼ばれた男が顎をしゃくると、数人の白衣の男たちが現れて機械を操作し始めた。
彼らがスイッチを入れていくにしたがって、希望の寝かされている台の周囲からさまざまな機械の腕が現れて希望の体に群がっていく。
「希望、希望ぃっ!」
「美夏、助けてぇっ!」
希望は叫んだが、すぐに麻酔をかがされて意識を失ってしまう。
「希望、希望ぃっ!」
「うるさいぞ。静かにしているがいい」
死神博士がステッキを突きつける。
美夏はそれ以上何もいえなくなってしまった。
やがて美香の目の前で希望の体がじょじょに改造され始めていく。
さまざまな種類の液体が希望の体に流され、腹部を切り裂かれたところからは複雑な機械が埋め込まれていく。
さまざまな光が当てられて希望の皮膚がだんだん色が変わっていく。
「ああ・・・希望・・・」
美夏はついに顔をそむけた。
親友が変わって行くのを見ていることはできなかった。
希望の体は変化を続けていく。
皮膚は滑らかな青いタイツ状に変わり、上半身をまるでゼリーのような透明なクラゲの組織が覆っていく。
二つの胸の膨らみはそのままで女性らしさも失われてはいないものの、綺麗な黒髪も白かった肌の色も失われ、クラゲの改造人間へと変化してしまったのだった。
そして最後の仕上げとして、彼女の脳に制御装置が埋め込まれていく。
「クククク・・・見るがいい、お前の友人は見事な改造人間に生まれ変わったぞ」
「ああ・・・そんな・・・」
美夏の目の前で希望はゆっくりと上半身を起こして立ち上がる。
その姿はクラゲの上半身を持つ女のようであり、首の辺りから胸にかけてクラゲの触手が蠢いていた。
頭部にはまったく毛髪が無くなり、クラゲのような組織が全体を覆っていて目や鼻らしき黒い穴が見えている。
両腕にも吸盤が一列に並び、指先には鋭い爪が光っていた。
足先は指が無くなり、まるでブーツでも履いているようにかかとが尖っていた。
わずか数時間で美夏の親友は人間ではなくなってしまったのだ。
「目覚めたようだな、クラゲダールよ。気分はどうだ?」
「はい、死神博士。とてもいい気分です。うふふふ・・・」
クラゲダールと呼ばれた改造人間はそう言って笑みを浮かべた。
「希望・・・」
「希望? 誰のことを言っているのかしら? 私は栄光あるショッカーの改造人間クラゲダールよ」
その言葉を聞いた時、美夏は親友がすでにこの世界から消え去ってしまったことに気がついた。
「クククク・・・ショックを受けたようだな。しかし心配はいらん。お前もすぐに改造してやろう。お前たちは見事なデュエットを披露していたようだからな。二人ともクラゲダールとなるがよい」
死神が冷たく笑う。
「そ、そんなのはいやっ、そんなのはいやぁっ!」
「お黙り! お前はショッカーの改造人間になれるのよ。光栄に思うことね。さあ、始めなさい」
もはやクラゲダールとなった希望が白衣の男たちに指示を下す。
美夏もすぐに手術台に乗せられ、改造手術が開始された。
「クククク・・・目覚めよ、クラゲダールMよ」
希望と同じ姿となった美夏がゆっくりと起き上がる。
「うふふふ・・・素敵よクラゲダールM」
「ありがとうクラゲダールN。うふふふ・・・私はショッカーの改造人間クラゲダールM。死神博士。私を改造してくださってありがとうございます」
今はクラゲダールMとなった美夏が死神博士に跪く。
その隣には同じくクラゲダールNとなった希望も跪いた。
「「私たちは栄光あるショッカーの改造人間クラゲダール。これより日本の要人の周囲にいる人間を電気人間とし、暗殺者に仕立て上げる作戦を行ないます」」
「クククク・・・お前たちのコンビネーションは一級品。必ずや目的を達成できるであろう。吉報を待っているぞ」
死神博士は満足そうに頷く。
「「ハッ、必ずや」」
二人のクラゲダールは仲良く立ち上がると、任務のためにその場を後にした。