2006年3月1日中日新聞夕刊
“正義の味方”ストレッチマンは誰?40歳の俳優だヌハハハ
全身タイツに「ヌハハハ」の高笑い。NHK教育の「ストレッチマン」をご存知だろうか。
知的障害の子どもたちにストレッチ体操を伝授する同局人気のヒーローだ。
とはいうものの「このおじさん、誰?」という疑問がわく。実は御年四十歳、れっきとした舞台俳優らしい。
謎を探るため、福岡市で行われたロケをのぞいた。(千万勲)
「両手は万歳、片方の手を引っ張っていこう」。東福岡養護学校(同市東区)の体育館に、
張りのある声が響いた。小学部の児童約三十人がいすに座ったまま、体を横に曲げる。
「伸びーる、伸びーる…ここにストレッチパワーがたまってきただろう」。
ヒーローが自分の脇腹を指しながら、ほほ笑みかけた。
■94年から放送
演じているのは、神戸市の劇団に所属する宇仁菅真(うにすが・まこと)。
一九九四年の放送当初からタイツを着ている。「昔は、もっと格好悪かったんですよ。
クリーム色で、頭はとんがってなかった」。その後、黄と赤色に、今の衣装は三代目だ。
それにしてもこの格好、出演を引き受けた時に抵抗感は?「そんなにありませんでしたね。
子どもにどう接するか戸惑いはあったけど、真っすぐ向き合えばいいと思うようになった。
彼らの中では、変わらないヒーローでいようと」
大阪放送局の制作。運動不足になりがちな障害児に体を動かしてもらう狙いだ。
教育番組の一コーナーだったが、後に独立。宇宙人のストレッチマンが全国の養護学校を回り、
先生がふんする怪人をやっつける。二〇〇二年に着ぐるみの「まいどん」が加わり「ストレッチマン2」となった。
怪人は、その地の名物を題材に先生たちが考える。衣装は手作りだ。今回は博多ラーメンの「ブーコック」。
とんこつ味を強制し、ストレッチマンと料理対決する。豚の面をかぶった体育担当の緒方克信教諭は、
収録後に「子どもたちが結構逃げ回ってくれたから、七、八十点は、いったかな」と汗をぬぐった。
■大人にも反響
龍岳不二教頭によると、放送は授業中だが、帰宅し録画で見ている児童が多い。実物を目にして
「ストレッチマンだ」と駆け寄る子も。「お母さんたちはロケが決まって『えっ、来るんですか?』と喜んでいました」
このため、演出は親の世代も意識している。愚痴をまき散らす女のクラゲ怪人の回では、
ストレッチマンが眼鏡とマフラーを着け"ヨン様風"で誘惑、黙らせた。
そんな遊び心もあってか、養護学校以外からの反響も幅広い。照れもなく堂々とした姿に
「朝、あなたを見ると会社に行く気が起こる」という三十代男性も。宇仁菅は「でも残念なことに、
おととしの教育テレビの人気投票では(『おかあさんといっしょ』の)ひろみちお兄さんに負けて二位でした」と笑う。
当初は二十代だった宇仁菅も不惑の年。これほど続くとは思っていなかった。
「体の変化に、前よりは少し気を使っているぐらいかな。今後もやれる限りはやります」