いいから!
2 :
名無しより愛をこめて:04/11/01 00:04:38 ID:eJqeWGFM
うっさいゴメス
3 :
即興でプロット:04/11/01 00:31:54 ID:Cvpogot1
背中に羽根の生えてる女子高生。
父、兄(ともに無翼)と二人暮し。普通に学校には通っている。空飛んで。
昔は元気に羽ばたいていたが、最近自分の身体の特徴にコンプレックスを抱いてきている。
そんな彼女が近所の小学生の男の子に頼まれて、彼を抱えてフライト。
目的は「さよなら」も言えずに引っ越した男の子の彼女に会って、ちゃんと挨拶を済ませる事。
途中旅客機とニアミスしたり、空に棲む怪生物に出会ったりで墜落したりもするが
なんとか一夜明けて、彼女が引っ越したという最果ての田舎町に到着する。
そこは女子高生の母親(有翼)の故郷でもあった。彼女はそこで亡き母親が自分と同じ歳の頃に
今の自分と同じように長距離のフライトに挑戦した事実を祖母(有翼)から明かされる。
母の思い出の品と、晴れやかな笑顔の写真を見つめるうちに女子高生の目には涙が。
それぞれの目的を果たし、家に帰り着く女子高生と少年。
出迎えた家族に、彼女は以前とは見違えるような、
心強く誇らしげな笑顔を見せるのであった……(了)
ワラタ
とある博物館の倉庫。様々な古生物の化石が陳列してある。
その中で遊ぶ館長の息子。
陳列物の一角、巨大な獣脚類の骨格の陰の大型鳥類の印象化石。
ある日、その化石が光也に話し掛けてきた!
鳥との話に夢中になる少年。やがて鳥は少年にある頼みをする。
それは少年の話の中に出てきた、「インターネット」にアクセスすること。
鳥の指示通りに機材を繋げると、鳥はあっという間にサイトまで創ってしまう。
そしてそのサイト「虹の翼」は多くの人々が集まる人気サイトに成長していく。
その頃、山奥の古い炭鉱跡。
侵入した廃墟マニアの悪戯により崩落が起こる。
その奥底より、恐るべき怪物が出現。近くの山村を襲う。
炭鉱崩落のニュースを聞いてから、鳥が少しづつ変わっていく。
まず黙りこくる事が多くなる。それが終わると
訳の判らぬ機材が少年当てに届き、接続することを命令される。
さらにサイトに集う人々に有志を募り、奇妙な指令を出していく。
鳥はどこかで聞いたような言葉を語る。
「この世界を救う為に〜・・・・・・・共に戦って〜・・・・・・・・・」
ついに怪物が市街地に出現。マスコミに報道され、自衛隊も出動する。
しかし各種通常兵器は通用しない。怪物は何かを探しているようだ。
穴を掘り、電話線を咥え、ケーブルを掴む。
やがて何かに感付き、ある方向へ移動を始めた。
サイト「虹の翼」もおかしくなっていく。
ささいな主張のズレから内部抗争、分裂、さらなる抗争を繰り返していく。
やがて鳥のサイトそのものにはほとんど人が居なくなっていった。
少年ただ一人を除いて。
ついに怪物が博物館の有る市街へ侵入する。
自衛隊の奮戦も空しく、蹂躙される街。
鳥を守る為にただ一人残った少年。その少年に鳥は驚くべき告白をする。
その鳥「リトラリア」。暴れ狂う怪物「ゴメテウス」。
彼等は元は一つの生物種だったと云う。
太古の昔、いつの頃からか2つの集団に別れ相争っていたのだと云う。
それぞれ生体改造、人工進化を繰り返し、全く違った姿になったのだと云う。
その争いの結果共に滅んでいったのだという。
己らが為すことが出来なかった事が出来るのか、少年やサイトを使って試したのだと云う。
そして「ゴメテウス」の復活を感じたため、彼等を利用したのだと云う。
ついに博物館を襲う怪物。
壁が壊され、鳥と怪物は対面する。
鳥は語る。「大地に住まうは彼等、既に我等は古き者、地の底深く眠りつくべし」
怪物が叫ぶ。「我等も彼等も違わざる者、いずれが有れど等しかるべし」
そして怪物が鳥に掴みかかる!
爆音、閃光。そして何かの薬品の臭い。
自衛隊が急場で採用、使用した新兵器が炸裂していた。くず折れる怪物。
衝撃で地下道が崩落、怪物が落ち込んでいく。鳥を掴んだまま。
叫ぶ少年。轟音。土煙。そして自衛隊員が乗り込んでくる。
最後に使用された兵器は「シトロネラ・アシッド弾」という。
混乱した情報網の中で最前線の自衛隊に供与され、使用されたのだった。
しかし製作者は一般人であり、その彼が一体どうやって材料をそろえ、
制作し、自衛隊に(混乱していたとはいえ)供与できたのか、ようとして知れなかった。
彼が「虹の使い」を名乗っていたことを除いて。
廃墟となった博物館。其処に佇む少年。
そして少年は歩み去っていく。ひとかけらの羽の印象化石を手に。
「虹の翼」の有ったアドレスに、ただ一言の表示。
「我等と、等しからざらんことを」
8 :
第X話:04/11/01 20:24:19 ID:DTAGItdG
そしてage
9 :
名無しより愛をこめて:04/11/01 22:17:13 ID:KJzBiiL7
正月だというのに先輩や由利ちゃんにバカにされ、一人事務所でふてくされている一平。
その時、突然事務所の机の引出しが開き、猫型の怪獣が出現。
「な、なんだお前は!」
「驚くなよ一平君。僕は未来から来た猫型怪獣ドラモン」
「未来からだって? またケムール人か?」
「いや。2020年よりはるか未来からだ。僕は君の孫に頼まれ、
君の未来を変える為にやってきた」
「ええっ!!!!! 俺の未来ぃぃいいいい!!!!」
10 :
五郎と吾郎:04/11/02 02:19:54 ID:4SBgvK9U
ヒット曲に恵まれない五郎は、人気アイドル吾郎に強い関心を持っていた。
ある日 道で偶然にすれ違う二人。
そこに 突然強力なエネルギーが発生する。
そう、吾郎もまた 歌の上手い五郎に、強い憧れを抱いていたのだ。
ふたつの強い思いは、五郎と吾郎を合体させ、空をも飛べる 巨大なスーパー・ゴローとなって、そこに実を結んだ。
突然のスーパーアイドルの出現に熱狂する人々。
ゴローは全国を飛び回り大活躍の毎日だ。
・・しかし
日本人は飽きるのも早かった。仕事が減りはじめたゴローは、その人気を不動の物とするため 人々の役に立つ決心をする。
その能力を活かし、失敗続きの、気象衛星の代わりを務める事にしたのだ。
やがて・・
多くのファンに見守られながら、宇宙に飛び立つゴロー。
いま、ゴローはとても満ち足りていた。
何故って・・その輝きは永遠のものとなったのだから
〜一方、地球では・・
これで正確なデータが得られるようになった と大満足の万城目であった。
おしまい
11 :
名無しより愛をこめて:04/11/02 03:48:49 ID:b3ouJTau
age
某日、NASAの宇宙望遠鏡が火星軌道と地球軌道の間に奇妙な物体群を観測した。
しかしそれは折からの太陽及び各惑星の異常活動によるノイズとして分析され、
表立って公表されることは無かった。
翌日、関東平野上空に奇妙な黒い点が現れる。
最初は誰も何も気付かなかった。
しかしそれは地上に近づくにつれ巨大化、巨大な黒い球体となる。
それが何なのか判らずうろたえる政府機関、自衛隊。
やがて球体から奇妙な力が働き、周囲にある全てのものを吸い上げていく。
家屋、樹木、動物、人。大気、海水、地殻、更に溢れ出したマグマでさえも。
それは世界中に現れ、地上の全てを剥ぎ取っていく。
NASAはこれを木星等のガス惑星に似た一種の天体と発表。
しかしある科学者集団が奇怪な憶測を語る。
「ガイア仮説というのは知っているかね?地球環境の安定性は生命に似ているという・・・
だがもし地球を地表環境といわず、地下内核も含めて生命として考えるとどうか。
生命なら、弱肉強食の生体系も存在するのではないか。
そう。あれは、他天体を喰らう天体でないのか?」
黒い天体はやがて巨大化すると、地表に食い込み始めた。
ついに地球そのものを喰らい始めたのだ。
核攻撃を提案する科学者集団。事態の悪化に国連も承認。
しかし黒い天体が発生させる重力・磁気、電磁波に加え、
それに影響されたらしい地磁気の乱れ、さらに太陽黒点の活発化加わり、
その手配すらおぼつかなくなっていた。
太陽はますます活動を活発化し、異様に長いプロミネンスも観測されていた。
「地球が、抵抗しているのだ・・・・・」
異常な地磁気の集中で内部の核のバランスが崩れ、自壊する黒い天体。
あまりのマグマの噴出に耐え切れず破壊される黒い天体。
しかし黒い天体の攻撃の前にはあまりにも無力。
やがて、巨大化した黒い天体が分裂を始める。ついに繁殖を始めたのだ。
その時、太陽表面で恐るべき事態が起こった。
観測史上最大のプロミネンスが、コロナすら飛び出し太陽系内に放出されたのだ。
水星・金星すら通り過ぎ、地球軌道を逆走し地球に襲い掛かるプロミネンス。
そしてついに地球表面へ・・・・・・!
14 :
第X話 星喰星:04/11/02 23:23:07 ID:3tbRONdp
天空の彼方から降りた光り輝く巨大な柱。
核爆発にも似た衝撃で吹き飛ばされる地上。まるで最後の審判の如く。
その光が消え去った時、あの黒い天体もまた消え去っていた。
太陽からやってきたプロミネンスにより、全ての黒い天体が焼き払われていたのだ。
太陽に救われた。光の神だとはしゃぎ祝う人々。そして科学者集団。
だが科学者集団内の一人が呟く。
「そうか・・・。我々は認識を変えねばならないのか。
生命体の概念を太陽系全体に広げねばならないのか。
あれは太陽が地球を守ったのではない。太陽系が己が身を守っただけなのか。」
我々人類も地球を破壊し、食い尽くしてゆく。
いつか、太陽に戦いを挑み、プロミネンスに焼かれる日が来るのだろうか。
ある女子高生の夕方。繁華街で友達と別れ、ぶらぶらとうろつく。
この繁華街は新興の文化発信基地とも呼ばれ、ブームになっていた。
確か週刊誌なんかで「ピラーゼ・ウェーブ」とか呼ばれて・・・・・
と、ふと呼ばれたような気がして振り返る。何も居ない・・・・・・
いや、人込の中に黒い影。長身で、頭らしいものが見えない。
猫背になっているからか?丁度ハデな看板の逆光になっているし。と・・・・・・
逆光の影から、上に長いモノがにゅうと伸びた。その先には、ライトの様に光るモノ。
「っひゃ・・・」ころぶ女子高生。真っ黒な空。そして繁華街の上層部。
其の屋根から、看板の陰から、電柱の頂きから、
にゅうと伸びた、原付の頭のようなものたちが覗いていた。
新興都市の近郊に住まう男。最近非常に悩んでいた。
元々普通の、何のとりえも無いおとなしい街だと思って引っ越してきたのに、
最近どんどん珍妙な文化に風景が犯されていっているのだ。
「ピラーゼ・ウェーブ」とかいう、どこか妙なブームのせいだ。
最近火付け役になったというドラマを見てみた。つまらない。王道ばかりでありきたりだ。
マスコミはそれを今大ブーム!と煽る。人々もそれに乗せられ面白い!と叫ぶ。
「ピラーゼ・ウェーブ」系のモノはみんなそんな感じだった。
ちょうど警察官の友人と出会い、飲みに行った時だった。
酒の席でこちらのグチを云ってみると、友人もグチを語り始めた。
彼曰く、ここ数ヶ月間、あの新興都市で行方不明者が相次いでいるという。
最後に「街に行く」と言い残して消えている。手がかりは全く無し。
そして、行方不明者に共通する事が一つ。
「ピラーゼ・ウェーブ」関連のモノにハマっていたということ。
そして・・・・・「ピラーゼ・ウェーブ」に関する、奇妙な噂。
「あれな、全部機械が創ってるって話だ。」
即ち、「ピラーゼ・ウェーブ」関連のモノは、機械が消費者の特性を分析し、解析し、
パターン化して、再構成し新しいモノとして売り出しているという。
この文化を創り出しているモノが人ではない。そういう話だった。
「ま、ブームに乗り遅れた作家たちのやっかみだろ。後もう一つ。これがなあ・・・・・」
「ピラーゼ・ウェーブ」関連のモノには、何か「いる」という。
必ず何処かに、あるキャラクターが現れるという。しかし、それは正体不明。
その姿は背の高い真っ黒な猫背の人間。
しかししばらく見ていると、にゅうと機械じみた頭が伸びるという。
怪談じみていた。
「それを、行方不明者が皆『見た』と云ってるらしいんだ」
意見を求められたが、当り障りない解答をした。
男は「ピラーゼ・ウェーブ」に急に興味が湧いてきた。
新興都市所轄に勤務している警察官は動揺していた。
彼の友人が新興都市内で行方不明になったのだ。
「ドラマ後半、女優の後ろ、伸びる首」そんなメールを残して。彼は独自に捜索を決意する。
繁華街で、ふと高架の下に居る女を見かける。何か探しているようだ。
女の前に黒い人影。にゅうと首が伸び・・・・・
「静かに」いきなりふさがれる口。それは行方不明の友人だった。
事情を話す友人。ドラマ内で黒い人影のいた所を探す為に其処に来たという。
「此処は、彼等のコロニーなんだよ」彼等とはあの黒い影の事。
他生物の摂取する情報に彼等の情報を少しずつ混入する。
情報量及び種類が一定以上になると、この街を目指すようになる。
そしてこの街の各所にある彼等の『卵』のある場所に行き、それに触れる。
すると『卵』と他生物の持つ混入されていた情報が混ざり合い───
「それで、新しい彼等が生まれる。我々はまるで花にたかる虫だ」
「ピラーゼ・ウェーブ」に映る彼等の姿。それが混入された情報。
映し出された彼等の姿に対し、好奇心を持ち新興都市へ行く。
そして『卵』に出会う・・・・・・と、ふと思いつく。
「それじゃあ、彼等を生んだものはどうなるんだ?それが行方不明者なのか!?」
「・・・生きてるよ。ただ、もうあいつらじゃない」
訳が判らない。どういうことだ?友人は続ける。
「それより、頼みたい事がある。『ピラーゼ・ウェーブ』を終わらせてくれ」
彼が云うには、このブームもまた彼等が繁殖の為に起こしているという。
彼等によりあちこちにばら撒かれたメディア自動創作ソフト「ピラーゼ・エンジン」、
それが彼等の情報の混入された「ピラーゼ」モノを更にばら撒いているのだ。
「ピラーゼ・エンジン」を創り、ばら撒いている所・・・・・・・
其処が彼等の本拠地だ。
「行け。俺はもういかん。近いうちに此処の何処かで彼等の『卵』に触ってしまうだろう」
友人に促され、街を横切り、隣街へと。手には友人のくれた本拠地の住所と何かの資料。
ふと振り返る。煌々と輝く新興都市。群れ集う人々の影。
全て異形に見えた。
翌日、上司に相談してみた。資料も見せてみた。どうやら会計資料のようだった。
上司は警察官の正直な告白を聞くと、1週間の休暇を命じた。
後は全て新聞とTVで知った。
彼の提供した資料から、黒い影達の「本拠地」の脱税が明らかになったという。
そこは閑静な住宅だった。
TVでの生中継。扉が叩かれ、令状が読まれる。ドアが開くと共に踏み込む男達。
何かわめきながら取り押さえられる男。「ピラーゼ・エンジン」の製作者だという。
彼の顔にかかったモザイクの背景部分が、す・・・と黒くなる。
背の高い真っ黒な猫背の人間。にゅうと首が伸びた。
彼等だ。
とその横にも黒い人影。にゅうと首が伸びる。
よく見るとあちこちに居る。記者の群れの中。箱を運ぶ男の脇。誰も気付いた様子が無い。
車の中。ブロック塀の後ろ。植木の上。電線の上。屋根の上。そして───
住宅の背後。空一杯に大きな、黒い人影。
機械じみた首がにゅうと伸びた。
その日を境に、「ピラーゼ・ウェーブ」はあっと云う間に終息していった。
「ピラーゼ・エンジン」を制作していた会社はそのまま倒産、住宅は空家になった。
そして、あの新興都市も瞬く間に閑古鳥。空きテナント、空きビルが出来ていく。
行方不明になっていた人々は、その街の中で相次いで見つかった。
彼等は体も記憶も正常だった。ただ、「ピラーゼ・ウェーブ」モノへの極端な嗜好を除いて。
その嗜好のあまり、自宅に帰ることをも拒否していると云う。
警察官の友人はまだ見つかっていない。
まだあのさびれきった街の一室で、「ピラーゼ」モノのドラマでも見つめているのだろうか。
あの黒い影達は、本拠地を失う前にメディアのみに姿を現し、そして何処かへ消えた。
情報即ち彼等の「種」を大量にばら撒いた事になる。
何処へ行ったか。故郷へ還ったのか。またコロニーを創るのか。
その時我々は、いや私は彼等の紡ぎだすモノに耐えられるのだろうか。
つまらぬドラマにあの影を見たような気がして、ふとそう思った。
22 :
第X話 :04/11/06 00:08:30 ID:FG+H+ap6
じぶんでも何書いとんのかわからんage
とある街の近郊の山中。地質調査の現場、ボーリング作業をしている。
作業風景を背にして周辺をうろつく作業監督。適当な岩を見つけて腰を降ろす。
緑に揺らめく紫煙。横には小さな祠と立て看板。祠の由来のようだ。
その中に見えた一文字。「・・・・・要石・・・・・」他は小難しい字で読む気がしない。
吸殻を捨て、もう一本煙草を口に運ぶ。
『ズン───・・・・・』
腹に響く重低音。続いて、強い立て揺れ。何だ?何事だ!?
そうだ、作業現場は?揺れに足を取られながら走り出す。
続いて横揺れ。投げ出されるように小道の端に転ぶ。何だこの地震は!
と、揺れが収まってきた。ようやっと立ち上がって走り出す。
やっと現場に着いた。「おい!大丈夫か!?」掛け声を掛けて、声が詰まる。
散乱した機材。倒れたテント。少し傾いだボーリングの櫓。その穴からは───
「・・・・・何ですか、コレ・・・・・」湧き出ている真っ赤な液体。生臭い錆の臭い。
「監督!」重機置場からの声。行ってみると、ダンプやショベルカー等の重機が
ほんの少し屋根を覗かせて、すっかり地面に埋まっていた。
あっけに取られてその向こうを見渡す。大岩、納屋、新築住宅、麓の市役所の北側。
其処からまっすぐ沿うように、様々なものが沈み込んでいた。
そしてその先、地平線近くから───
蛇の様に長い雲が、天空へと立ち昇っていた。
奇怪な地震から1ヶ月後。未だ群発地震の絶えない市内。
地質調査を指揮していた教授。彼は知り合いの雑誌記者の仲介により、
ある特殊な機械を開発している工学博士と会う事になった。
その機械とは「アンダーグラウンドライン・サーチャー」略して「AGLS」。
様々な振動波を発生させその反射や共鳴を観測、
地下の地質状況を判りやすく視覚化するというシロモノである。
先日の地震時の怪現象から、奇妙な噂も流れている。調査許可も取り消されかねない。
よって変人とまで言われるかの工学博士に協力を仰いだのだった。
駅に着いた記者と工学博士、その助手達。そして背中一杯の大荷物。かの機械の様だ。
早速調査対象の山『磐古岳』へと登る。道案内は山中に住む爺さん。
道中、爺さんは山の怪談を語る。山の禁忌を犯した男に1つ目の怪物が迫る話。
やがて山小屋に着き、調査の用意。助手の一人が言う。「この山、サルがいるのかぁ。」
そしてかの機械で調査を開始し始める。移される地下の様子。
と、急に黒いところが映し出された。「・・・・・これは空洞ですな。それも相当大きな」
それを否定する教授。前回調査した時にはそんなものは見つからなかった。
それをつっぱねる工学博士。「周辺の群発地震はこの空洞の崩落が原因では?」
喧々諤々に白熱する議論。そこに爺さんが口を挟む。
「それは、お山の神さんが抜けた跡でございます」
その日はそれで調査終了。山小屋に一泊することとなった。
飯を作る助手の学生をよそに、記者も交えて博士達が議論を始める。
「君は『ゴルゴス』という怪獣を識っているかね?」工学博士は言う。
1960年代、富士樹海周辺に出現したという岩石で体が構成された怪獣だ。
工学博士はあの空洞はゴルゴスが移動した跡ではないかと仮説を立てた。
地学教授がゴルゴスの背中にボーリングで穴をあけた為に移動したのだという。
ということはあの時吹き出た液体はゴルゴスの血液であり、
後日ボーリング機材の先に発見された肉状組織はゴルゴスの肉片ということになる。
「じゃあ、お山の神さんは岩石怪獣ということかね?」鼻で笑う地学教授。
「それじゃあ神さんはどこへお隠れになられたのかい?」
「神さんはまだお山に居られます」いきなり口を挟む爺さん。
「しかしご機嫌は悪いようです。今晩ははようお休みになられませい」
まどろむ教授達。外で学生達がまだ騒いでいる。眠れない。
少し静かになった。ようやっと眠りの底へと・・・・・・
「ひあっ!?」学生の悲鳴。何事かと外へ出てみる。
「サルが・・・・サルが・・・・・」サルなど影も形も無い。第一こんな夜中にサル?
「今・・・近寄ってきたサルに餌やろうとしたら・・・・・・一つ目だった」
焚き火にあたる爺さんが云う。
「一つ目のサルは神さんのお使いでございます。今晩ははようお休みになられませい」
翌日、急な知らせに地学教授は山を下った。
先日の地震の怪現象以来、伏せっていた現場監督が危篤になったというのだ。
麓の総合病院のベッド。うわ言を云う現場監督。「一つ目──サルが───」
兎に角、麓に留まる事となった。
工学博士は記者や爺さん、学生等と共に山での作業を続行していた。
もうそろそろ全山の調査を終える頃だと云う。山の怪現象も続いているようだ。
そんな折。ある新月の夜。病院の待合室で地学教授はうたた寝していた。
「お見舞いに参りました」爺さんの声。びくりと目を覚ます。
現場監督の見舞いに来たと云う。爺さんの後に付いて病室へ行く。
面会謝絶の表示。その向こうから、何か人とは思えぬうめきが聞こえた。
ドアを開ける。ベッドに座る現場監督。右足はあぐらをかき、左足は投げ出している。
その顔には・・・・・なぜか巨大な眼が一つあるだけに見えた。
「聞いてまいります」病室に入る爺さん。閉められるドア。
異様に長いと思える時間が過ぎて、ドアが開く。
「お亡くなりになられました」見ると、現場監督は綺麗にベッドの上に寝かされていた。
爺さんの言葉に動揺する教授。爺さんが続けて云う。
「お山の神さんがお隠れになられます。はようお山を降りるようお伝えくだされませ」
途端、大きな縦揺れ。立っていられないほどだ。
うなるサイレン。ふらふらしながら病院を出る。地鳴り。建物の軋み。叫び声。
その中を教授は山道へ向かって走っていく。
山道に着く。と上から何人か降りてくる。工学博士たちだ。全員無事の様子。
聞くと、学生の一人が喚いたからだと云う。
「一つ目のサルが枕元に立って、神さんが立ち去るから早く逃げろって云ったそうだ」
見ると機材は全て持ち出していた。収集データも完璧だという。
ボロボロに薄汚れた顔で、工学教授は満面の笑みを浮かべた。
と、縦揺れに更に激しい横揺れが加わる。『磐古岳』が崩落を始めた。
即刻荷物をかかえて全速力で逃げる教授たち。迫る土煙。
ようやく広場に出たところで、背後から巨大な雄叫びが聞こえた。
振り返ると、麓に立ち込める土煙の中へ、
光り輝く目を持った巨大な怪物が沈み込んでいくところだった。
後日聞いたところによると、爺さんは磐古岳の神社『磐古神社』の神職だったらしい。
故にお山使いの声か聞けたのか。しかし、あの日を境に爺さんはお役御免となった。
翌日、『磐古岳』そのものが、消え去ってしまっていたのだ。
後に残るは崩れ去った岩の塊だらけの土地のみ。
爺さんはその後養護施設に入り、間もなく亡くなったそうだ。
研究データを整理していたある日、データに疑問を感じ、工学博士に連絡を取った。
観測された地震波の種類が一つではない。もう一つ存在している。
そういえば、あの山が消えた街では今でも地震が続いている。
地学教授は工学博士から送られたデータを見た。
件の「AGLS」による成果。磐古岳周辺地域の地質を地図上にビジュアル化したもの。
それを見て、私は爺さん聞いた、お山の神さんの言葉を思い出した。
『お山の神さんはこわいとおおせになられています。お山のはるか下におわす───
地図上の、磐古岳の神さんの影。その下遥か下の地質表示に──
『大鯰がおそろしいとおおせになられています』
山の等高線ををすっぽりと覆う鰭状の影。
眩暈がした。これが鯰なら日本列島を背中に乗せられる大きさだ。有り得ない。
だがしかし、最近日本では地震も多い。もしかしたら───
晴れ渡った空を見渡す教授。地平の彼方に───
長い奇妙な雲が二本、ゆるゆるとたなびいていた。
31 :
第X話:04/11/07 01:51:46 ID:hUJtpM6b
>>29最後の行
それを見て、私は爺さん聞いた、お山の神さんの言葉を思い出した。
↓
それを見て、私は爺さんが病室で聞いたというお山の神さんの言葉を思い出した。
添削はやっぱせんといかんねage
32 :
名無しより愛をこめて:04/11/07 02:07:24 ID:DNvBS7ZZ
淳ちゃん、一平君、由利ちゃんが出ないエピソードですか?
33 :
名無しより愛をこめて:04/11/07 02:11:14 ID:hVug/W5Z
こういうスレってID:hUJtpM6bみたいにマジになるやつが出てくるから面白いよね
「おもしろい!」とか好意的なレスがつくことを期待してたり・・・
なんて考えると余計オモシロイ
34 :
32:04/11/07 02:15:31 ID:DNvBS7ZZ
ごめん、斜め読みしてた。
>>3以外、同一の人の作品?
ID:hUJtpM6b、最後に絶対ageるのがカワイイね(w
ある日の午後。郊外の丘陵地帯に造られたベッドタウン。
昼頃降った雨が止み、雲間から陽光が柱の様にあちこちで降りている。
その中の小学校の教室。算数の授業中。先生が黒板に式を書き響かぬ説明する。
運動場では低学年のクラスが水溜りを避けながらサッカーをしている。
上の階あたりから合唱が聞こえる。文化祭への練習だろうか。
ぼうっと雲と光の空を見上げる窓際の男の子。流れる雲を眼で追う。
学校の横の小道を、長い髪の女性が歩いていく。最近では珍しい黒髪だ。
ふと、雲間に何かが見えた。だが流れる雲に隠れてしまう。
また見えた。今度は大きな切れ目に出てきた。何かの物体のようだ。
葉巻型で、螺旋状に模様が入っている。全体に毛のようなものが生え、波打っている。
少し降下しながらくるくると回っている。螺旋の途中に穴のようなものが見えた。
『バシッ』 先生に教科書で叩かれる。「なにぼうっとしてんだ?今の質問、聞いてたか?」
さっきまで見ていた風景が鮮明すぎて、何を言ってるのか理解できなかった。
先生の説教が始まる。何を怒っているのだろう。
と、周りのクラスメートが騒ぎ始める。外を見るためか窓際に集まって来た。
意外な事態に驚く先生。先生もつられて外を見る。
そういえば、合唱の声がさっきから聞こえない。
男の子もまた外を見る。運動場で体操服達が動きを止めている。
空を見上げた。
空にさっきの葉巻の群れ。三角形や丸いのもいる。同じような質感。その中を、
ミジンコの様な怪物が、ビクンビクンと雨上がりの空を泳いでいた。
雑誌記者は朝起きニュースを見て驚愕した。
昨日夕方から某工学博士と久々に会い、勢いで夜半過ぎまで呑んでいたのだ。
寝ぼけ眼で見たTVに映されたのは昨日のベッドタウン上空の怪現象。
誰かが偶然撮ったものらしい。現場近くで呑んでいたのに・・・・・・
と、携帯にメールが入る。編集長からかと恐る恐る見ると、
「特ダネ。ニュースの怪現象関連。北海道釧路市砂飛野にて待つ」
友人の女からだった。
日本近くの太平洋上空。旅客機が雲海近くを飛ぶ。順調なフライト。
しかし低気圧が接近している。しっかり操縦桿を握る機長。
────何かが右前方の雲の中に見えた。何だ────
その瞬間、操縦席の窓に枝分かれした触角が襲いかかった。
自衛隊の防空レーダー基地は混乱していた。
4日前から未確認飛行物体の反応が幾度も有り、スクランブルを何度もかけているのだ。
しかしその度に目標は数度の反応で消失、補足されていない。
捕捉された数回のデータを見る限り、その動きは緩慢であり、飛行というより浮遊している。
その為当初はアドバルーンや飛行船、もしくはレーダーや電子機器の異常とも想定された。
しかし何度も捕捉されるにつれ状況悪化が顕在化する。
数が増えているのだ。それこそ画面を覆い尽くす程に。
そしてその日の午前中10時23分。
出現した飛行物体の群れに突入した旅客機が消息を絶った。
雑誌記者はようやっと北海道釧路へ着く。何故か航空機の欠航が相次いでいる為だ。
駅前で地図を開く。・・・・・・・───『砂飛野』・・・?
「地図にゃ無いわよ」いきなり後ろからの声。友人の女だった。
黒いぼさぼさの髪。黒ぶち眼鏡。その風貌通り、この友人は相当変人である。
定職も持たずふらふらし、たまに雑誌に投稿記事を書いて小銭を稼いでいる。
しかし頭は相当切れるらしく様々な学位を持っている。10カ国程の言語も操るそうだ。
「こっからは車よ。さ、とっとと来なさい!」
道すがら、今回の呼び出しの事情を聞く。ある女性の話を聞いて欲しいとのことだ。
その女性は変人女の恩師の娘だそうである。その恩師の研究についての話だそうだ。
「ま、その恩師てのがちょっと変わっててね・・・・・・・」お前もナ、と思う雑誌記者。
「その研究が、今回の怪現象の発端と言ったら、どう思う?」
その時、ラジオが臨時ニュースを伝えていた。
「本日午前10時半頃、高知沖太平洋上空にて消息を絶った旅客機について、
その周辺を飛行していた未確認機に対し自衛隊が出動を・・・・・・」
色めき立つ自衛隊防空レーダー基地。
ついに出動したF15が目標を視認したというのだ。パイロットが呟く。「何だこれは・・・・・」
雲間に蠢く多数の影。先日ベッドタウンで目撃されたものと同じものだ。
と、操縦席の窓に付く水滴。天候が悪化しているようだ。
どうも風に流されているらしい。もう既に奄美沖辺りだろうか?
突如パイロットの悲鳴。レーダーでは怪物体とF15の機影が一致している。
「何だ!どうした!?」「怪物に・・・・・怪物に捕らえられた!」
もがくように動くF15。その上に、半透明の巨大な甲殻類の様なものが乗っている。
二枚貝の様な殻。前端に黒い巨大な眼。長い枝分かれした触角。所々に光る光点がある。
そして殻の下から出た何本もの枝分かれした脚で、F15を捕らえていた。
レーダー上で失速していくF15。しかしロストしない。まだ機体は生きている。
「武器使用を許可する!脱出できないのか!!」
「自機の真上に陣取っている!脱出も不可能!」
人質を取られた形で何も出来ない僚機。その周辺にも泳ぐ怪物。触角で空中を泳ぐ。
八方塞がり。防空指令に指示を仰ぐオペレーター。
「問題はそれだけではない」指令が呟く。「あと数10kmで中国領空内に侵入する」
「北北西から2機不明機接近。中国軍機と思われます」
オペレーターの声。捕まっていない僚機も攻撃されているようだ。
「把握できない!何体!何体いるんだ!?」叫ぶ僚機パイロット。乱射される機関砲。
と、流れ弾が捕獲している一体に数弾当る。すると捕獲している脚から力が抜けた。
「怪物、機体から離脱しました!機体は飛行可能のもようです」
「早急に周辺地域から転進、離脱!後少しで中国領空だ!」
全速力で離脱するF15二機。
その背後で不明機によるものであろう爆光が輝いた。
『砂飛野』に着く。一面砂だらけの川原だった。そこに待っていたのは長い黒髪の女。
変人女に恩師の娘だと紹介された。歩きながら話す。
その恩師は、ここで奇妙な化石の研究にに没頭していたという。
化石の母岩はこのあたりの砂。状況から考えるに先カンブリア紀のものだという。
その中から恩師はその時代には存在しないはずの生物化石を発見したのだ。
標本写真を見る限りではケンミジンコやゾウリムシ等、顕微鏡下の生物に酷似していた。
「あなた方は、化石状態から生き返ったバクテリアの話、識っていますか?」
何と、その化石も生きていたというのだ。
そして恩師はその化石生物を培養、飼育していたというのである。
真っ白な部屋。真っ白な地面。中央に立つ白衣を着た白髪の初老の男。
そして男に群がる奇妙な生物達。それが黒髪の娘にある父の姿だった。
「父は彼等に『スナムシ』という名前を付けていました。」
彼等は奇妙な生物群だった。まず空中を重力など関係無い様に浮遊する。
食物はメタンや二酸化炭素等のガス類と少々の無機塩類。固形物は摂取しない。
熱には強いが水気を嫌う。種類があるらしく光合成するもの、捕食するものもいる。
そして、ある種の電磁波に強い反応を示す。
「父は研究しその電磁波パターンを発生させる機器も開発していました。
でも・・・・2週間前、あれが起こったんです」
目の前に巨大なクレーターがあった。あちこちに残骸が散らばる。
その日、父にいきなり車に乗って逃げるよう言われたのだと云う。父は飼育場へ向かった。
対岸まで離れたその直後、大爆発。研究所は吹き飛んだ。
その爆煙の中から、人の背丈程に巨大になった『スナムシ』達が飛んでいったという。
娘はその後、一変した父と共にスナムシを追って日本各地を転々としたという。
そして6日前、愛知県のとある山の頂上で父は亡くなったそうだ。天空を指差しながら。
父の日記を開いて見せる娘。書きなぐった片仮名。
『オドレ オドレ スナムシヨオドレ コノヨノアルジニモドルタメニ』
娘を連れて乗る新幹線から、南の空が異様な姿を見せていた。
赤紫色に不気味に輝く空。否、赤紫色の雲が空を覆っているのだ。
その雲間に垣間見えるのは、あの「スナムシ」達。更に数を増したようだ。
あちこちでサイレンの音。避難勧告のアナウンス。毒ガスか何かの発生を伝えている。
「父の死んだ日の空の色も、こんなでした」つぶやく娘。
メモに書いた住所を見せた。「此処によって下さいませんか?」
そこの有るのは何かの研究所の住所と、男の名前。
それは、恩師の一番弟子が所長の生体電磁波研究所だった。
出迎える弟子。「やはり、先生の研究が原因だったのですね」娘を見て納得する。
弟子は現在、自衛隊と連絡を取ってあの怪物共を全滅させる作戦を練っているという。
すなわち、恩師の開発していた「スナムシ」を引き寄せる装置を制作、
電磁波を自衛隊の設備で増幅して周辺の「スナムシ」を引き寄せ、
そこを一気に叩くというものだった。製作中の多数の装置を見せる弟子。
それを見て娘が言う。「一つ、譲って頂けませんか?」
恩師の娘の頼みを断りきれず、完成品を一つ譲る弟子。娘に問い掛ける。
「何を考えているんですか?お嬢さんがやらなくても我々が・・・・・」
答える娘。「私には、やるべき事がありますから」
それは何かと問おうとする弟子に、娘は一礼。「ごめんなさい」
荷物を積んで出る間際、弟子が話し掛ける。
「それが終わったら戻ってきて下さい。もう一度会って言いたい事が有りますから」
娘はカーラジオで天気予報を聞きながら、更に向かう場所を示した。
ラジオからはあの怪物騒ぎの他、台風が近づいている事を告げている。
着いた場所は台風の予想進路の真っ只中の小高い山の頂上であった。
そこで娘は告げる。「あの人の計画は成功しません。」
娘曰く、この装置は幾つかの配線間違いの他、決定的なものが足りないと云う。
「それが、この『スナトビノR端子』です」そう云って、装置の一部に取り付けた。
これを取りに釧路の研究所跡地にいってたのだそうだ。
「あの人はこれを知りません。研究半ばで慢心して飛び出して行った方ですから」
娘に頼まれて麓から大量のガソリンを搬入する。横の小屋の中に発電機があるようだ。
作業をしながら、娘は「スナムシ」の事を語った。父の受け売りだという。
「スナムシ」は、まだ地球が火の玉の様だった頃、生息していた生物ではないかという。
もちろん体は蛋白質でなく、気体に近い物質で構成された全く別の形の生物。
金星の様な濃密な大気の中を泳ぎ、液体の水を必要としない生物群。
蘇った彼等は、その当時の大気組成を復活させようとしているのではないかという。
「あの不気味な色の空がそうです。もちろん現生生物には猛毒です」
その彼等を、この山の上に全て誘い出そうというのだ。
話は其処までだった。「ここからは私だけでやります。有り難うございました」
そう云われて、有無も言えず、二人は山を下った。
弟子の作戦も台風の上陸も今夜。雑誌記者と変人女は自衛隊の決戦場へと急いだ。
指揮をとる弟子に会い、娘の事を告げる。弟子は憤慨しながらも作業を続けた。
やがて完成。高射隊が待ち構える中、装置の機動開始。 ・・・・・───来ない。
要請していた戦闘機が編隊を組んで通り過ぎた。何も来ない。
愕然とする弟子。その時、防空レーダー基地より連絡が入る。
あの娘の居た山の周りにこれまでで最大級の怪物の群れが出現したというのだ。
其の報を聞くや否や弟子は飛び出していった。山へ行くのだ。
雑誌記者と変人女もそれに同行する。既に日は暮れていた。
台風の接近に伴い風雨が強くなる。通行止めも増えてきた。それでも山へ向かう車。
と・・・・フロントに何かが落下した。そのままへばり付く。降りて確認する三人。
それはあの「スナムシ」の筒状の奴だった。ふと、周囲を見渡すと。
大きいもの。小さいもの。三角のもの。錨に似たもの。螺旋を巻くもの。
牙の生えた大口を開けたもの。枝分かれした触角を持つもの。
辺り中に、「スナムシ」が落ちていた。
驚愕する三人。弟子は一人納得する。「そうか・・・・・雨か!」
曰く、「スナムシ」は湿気を嫌う。それは体内に水分を吸収してしまう性質が有るからだが、
あまりにも大量の水を浴びると全て吸収してしまい、体内の生体反応を阻害し、
そして自重のため地表に堕ちて死んでしまうのである。
台風こそが「スナムシ」への最終兵器だったのだ。
「スナムシ」の死骸を避けながら山へと急ぐ。見えてきた。
山を中心に、「スナムシ」が渦を巻くように群れていた。そこから一匹一匹と落下していく。
山に向かって進む。しかし川が氾濫していた。橋が水を被っている。
止めた車を降りて山へ向かおうとする弟子。二人が必死で止める。
頂上では鮮やかな赤い光が輝いている。あの機械の輝きだ。
叫ぶ弟子。しかし風雨の音と耳に入った水で何を言っているのか聞こえない。
突如、光が輝いた。「スナムシ」達が山頂に群れだしている。彼等が光を放っているのだ。
何匹も群れ集まり球状に固まっている。太陽の様だが光に温かみは無い。
まるで陰性の太陽のようだ。それが凝縮し、はじけて────・・・・・・・
風の唸る静寂に戻った。
後日。雑誌記者と変人女はあの弟子の所へ行った。
あの「スナムシ」の研究をしていると聞いたからだ。
あの台風の日を最後に「スナムシ」は出現していない。全滅したのだ。そう思われていた。
「これが、『スナムシ』の耐久卵ですよ」
弟子がそういって見せたのは、砂飛野にあったような真っ白な砂粒だった。
台風の後、あの山の山頂付近で採取したのだと云う。
「スナムシ」はあのとき、驚くべき体質変化によってこのような砂粒に姿を変えたのだ。
恐らく、太古の地球で初めての雨が降ったとき、こんな性質を身に付けたのだろう。
この姿で悪条件を生き抜き、再び復活の時を待つのだ。
顕微鏡を覗き込む。あの『スナムシ』達を何万倍にも小さくしたような影が見える。
不思議な事に、その横に現代の樹木や建造物のかけらのような影も見えた。
「彼等は、あの変態のとき周辺の物質を取り込んで石化するようなんですよ」
そういう弟子の表情は複雑だった。
弟子は語った。この事実を発見して以来、自分はあの娘の影を標本の中に探していると。
もしあの光の中に居たのであれば、この砂粒の中の何処かに居るのではないか。
そう思えてならないと云う。
「耐久卵の砂粒全て回収した訳でもないし、そんな事出来ないんですがね・・・・・・」
「私の恩師、お嬢さんのお父さんにも一言、謝りたいと思ってたんですが・・・・・」
父親はある山の頂上で亡くなったという。あの娘が看取ったのだ。二人もそう聞いた。
しかし、その遺体をどうしたのか。それが皆目判らないと云う。
父娘の菩提寺には無かったそうだ。警察記録にも残っていない。
無縁仏としてでも葬られたか。娘が何処かに埋めたのか。
弟子に来客だと内線が入った。長居しすぎたかと思い、二人は帰ることにした。
横で撮影した顕微鏡画像を見ていた研究員を連れて出て行く弟子。
その背中に挨拶して、二人は研究室をでていった。
つけっぱなしのモニタ。並んだ耐久卵の顕微鏡画像。「スナムシ」や樹木の影。
その影の中に、
白衣を着た白髪の初老の男。
長い黒髪の娘。
それが見えたかと思うと、
誰かがブツクサ云いながらウインドゥを閉じた。
49 :
第X話:04/11/15 03:01:12 ID:NsrbuGqy
長すぎた。
>>32-36 誰も内容に言及してなくて(´・ω・`)ノage
とある片田舎。大きな河川の土手。白髪の警官が自転車を漕いでいる。
ウォーキングしている夫婦とすれ違い、挨拶する。のどかな午後。
・・・と、突然横の茂みが揺れだした。何だ?犬か?
「ぬォ───!!」「おわ───!?」自転車から転げ落ちる警官。
飛び出てきたのは背の低いおっさんだった。「むあー!何処逃げたっ!」いきなりの悪態。
腰を抑えながら警官が聞く。「何だね一体!」おっさんがこちらに向きもせず答える。
「怪獣だよ!怪獣!!藪の中にいたんで追っかけたが逃げられたっ!」
「は?」変な顔をする警官。
「怪獣!あーわからんか、妖怪!怪物!未確認生物!昨今はUMAとも云っとるか?」
見ると、向こうに止まっているバンの前で、数人の男が申し訳ないと手振りしている。
「あー、分かりました。とにかく車道にいきなり飛び出すのは止めて下さい」
「ん?あ、あー、すんません。気ィつけますわ。」注意して再び走り出す警官。
後ろから掛け声。「をーし!この辺をもう一回虱潰しに探すぞ!」
やれやれ、昔はこんな遊びをするのは子供の役目だったんだが・・・・・
そう思いながら警官が川の方を見ると、土手の内の草むらに小さな影。子供のようだ。
今でも外で遊ぶ子供が居るのか。だがあそこは川に近すぎる。
自転車を止める警官。「おーい!あぶないぞ!」反応しない子供。
スタンドを立て、ブロックの坂を下り、もう一度。「おーい!」反応しない。
何かあったか。草むらを掻き分けて進み、子供のところまで行く。「おい、どうした?」
その子供が振り向いた。すると、
子供の背が伸びて、妙な顔に見下ろされた。
「キぁー」遠くで警官の悲鳴。小さいおっさんが草むらから顔を上げる。
「しまった!あっちだったか!!」
その片田舎、香賀見町はちょっとした騒ぎになった。
見回りをしていた警官が気絶。意識が戻ると「かっか怪獣!怪獣を見た!」と云った為だ。
「なあ、その変なおっさんら、お前ん家居るんだろ?見に行こうぜ!」
下校途中の男子小学生三人組。
一人は川沿いの団地、一人は売れない民宿、一人は住宅地の一軒家が自宅である。
その内の一人の自宅の民宿に、怪獣を追う妙なおっさん達が宿泊中だというのだ。
早速民宿に向かう。途中団地に住む女の子にバカにされた。
「お前あの子の事好きだろ?」「何でだよ!?」言ってる内に民宿に着く。
縁側で、小さいおっさん達が何か議論をしていた。家の影からそっと様子を見る。
「くォらっ!」民宿の女将さんだ。耳を引っ張られる民宿の男の子。「手伝いもしないで!」
叱られる所をおっさんの取成しで助けてもらう。代わりに相手をする事になった。
「これなんて言うんですか?」住宅の男の子が聞く。こいつは場に溶け込むのが上手い。
「これが我々の探している怪獣だよ。何て名前だと思う?『ノ ビ ラ』だよ!」
「何でそんな名前なんですか?」「にゅーとな、高く 伸 び る からだ。」
住宅の男の子の顔が引きつる。・・・・・・心の中で突っ込みを入れる三人。
なんちゅうセンスじゃ!
おっさんらの話では、コイツは大昔からこの日本に生息している怪獣だという。
昔話では「のびあがり」とか「見越し入道」とか云われているそうだ。
通常では日当たりのよい土手や草原に長い穴を掘って棲む小型の生物。
しかし時折警戒の為に立ち上がる。その背丈が1m強。もしそれに出会ってしまえば・・・
「巨大化するんだ。幻覚なのか本体が巨大化するのか、はっきりしないけどね。」
丸眼鏡の青年が云う。「ちゅーか本体がどんなんかすら誰も知らんがな!」
小柄なおっさんが云う。何かサルに似てる。しかもうるさい。
どうもこのおっさん達、怪獣の巨大化した姿しか見てないのがほとんどらしい。
見てるのはホンの数人。しかもどんな姿だったかはっきり覚えてないそうだ。
「ところで今から我々はあの土手へ再調査に行くぞ。。一緒に来んかね?」
民宿のお母んが顔を出す。「ゲームばっかしてんだから、たまには外に行ってきなさい!」
成り行きから土手内の草原で調査の手伝いをする事になった三人。
激しく自己嫌悪に襲われる。おっさんらは「巣穴を見つけた〜」とか云っている。
カメラの設置を手伝う団地の男の子。同じ団地の女の子に見つかってバカにされる。
「何だあの娘の事好きなのか?」小さいおっさんが云う。「ちがうってば!」
少々むかついてくる団地の男子。
「ひあっ・・・・・」向こうで丸眼鏡の青年の声がした。そっちの方を見る三人とおっさん達。
尻をついた青年の向こうに、学校の校舎よりも高い黒い影が屹立していた。
「ノビラが出たぞォ──!!」小さいおっさんが叫ぶ。いつの間にか手には投網。
怪獣の足元に走り、そこで投網を構える。他のメンバーも色々手にしている。
その怪獣を見上げる小学生三人。団地の男子がふらっと立ち眩む。
「!?いかん!」小さいおっさんが走り抜け、男の子を支えた。その瞬間、
「!!?ぬごっ!?」・・・おっさんまで一緒に倒れる。
その瞬間、ノビラの姿もふっと消えてしまった。
おっさんはぎっくり腰であった。でもなぜあの瞬間男の子を助けに?
「ノビラは人間に悪影響を与えるガスか何かを噴出しとるようでな・・・・・・
吸いすぎると良くない。まあ無事でなによりだった。わしはこんなんなってしまったが。」
責任を感じる団地の男子。おっさんに謝ると、「・・・じゃあ、一つ頼みを聞いてもらえんか?」
「わしに代わってノビラを捕獲してくれ!」
唖然とする小学生三人にノートが手渡される。「そこに我々の集めたデータが書いてある」
持ち上げられるおっさんのタンカ。「民宿の道具も自由に使ってくれ!」
何故か付き添いで皆救急車に乗るおっさん達。走り去る救急車からおっさんが顔を出す。
「た───のん───だぞ──〜〜〜・・・・・ォぉぉォぉォ・・・・」
ムチャクチャ元気そうであった。
「コレ、何に見える?」 「よ」 「な」 「・・・・俺には『お』に見える・・・・・」
三人の小学生の捕獲作業は、先ずノートの解読から始まった。
あの後、おっさん達は検査でヘルニアの疑いとかでまだ帰ってこない。
してしまった約束。何もしないのも後ろめたくもあり、兎に角やってみることにしたのだ。
何とかノートの解読が一週間で終わると、次は実践。先日の草原で巣穴を探した。
そこでカメラを仕掛け、学校の合間を縫って見に行く。ノビラの姿も探してみる。
しかし出ない。姿も見ない。他の町の住人の目撃も無くなっていた。
「・・・・・俺、塾があるから・・・・」「すまん、手伝いしねーと怒られるんだ」
住宅と民宿の二人も出てこなくなった。一人だけになる団地の男の子。
ノートによるとノビラは巣の周辺が騒がしくなると移動してしまうという。やはりもう居ない?
そうして、彼もその日を最後に草原へ行かなくなってしまった。後ろめたさを残して。
数週間後、三人の学校で低学年の校外活動があった。
学校近くの自然を探そうということで、裏山にクラスごとに出かけていった。
その中の一人の女児が、草むらの中に立つ黒い影を見つけた。
退屈な国語の授業中。突然外で騒ぎが起こった。
「逃げろー!はやくこっちにー!」教師の声。運動場を低学年のクラスが走ってくる。
何事かと外を見る団地の男の子。児童達が走ってきた方角に、
巨大な黒い影が揺らめいていた。
あいつだ!ノビラだ!避難指示の放送のかかる校内を走り抜ける団地の男子。
ノビラの姿は以前見たときよりも更に巨大化していた。しかもこっちへ向かっている。
怒っている。そう感じた。
騒がしい所から引っ越してきたのにまたうるさくされたのだ。怒らぬはずがない。
途中、倒れた箒があったので手に取って走る。階段の窓から外を見た。
巨大な影がフェンスをなぎ倒し、校庭に侵入している。
「むおっ!?」外を見ていた小さいおっさんが声を上げた。つられて外を見るナース。
町並みの向こうに、巨大な影がユラユラ歩いていた。「おい!看護婦さん!!」
「はい!?」「わしをあそこまで負ぶってってくれ!」「はいー!?」驚くナース。
ナースに負ぶわれて病室を出るおっさん。「あれ、どしたんですか?」
たむろっている仲間達。「ノビラが出たぞっ!早く着いて来い!!」
ようやく校舎から出た。他の生徒達は反対方向の門から避難している。
しかし手間取っているらしく、まだ多くの生徒が校舎内に残っていた。
箒を手にノビラと対峙する団地の男子。
デカい。校舎の2倍以上はある。全身は黒い鱗で覆われ、背中には刺がある。
そして、爬虫類とも狛犬とも取れる奇妙な顔。眼だけが輝いている。気後れしそうになると、
「あ・・・・・お前ら!」住宅と民宿の二人も出てきていた。手には竹箒、それにゴミバコ。
そして三人は、怪物に向かいあった。
後ろからは騒ぎ叫ぶ生徒や教師の声。あの同じ団地の娘の声も聞こえる。
勝算はある。ノートに書かれていたノビラへの伝統的な対処法。頭に言葉を思い浮かべる。
ノビラが叫んだ。揺らめく周辺の空気。気を失いそうになる三人。
その中、団地の男子が意を決してノビラの足元へ飛び込んだ。
「どっかへ・・・・・・」大きく箒を振りかぶる。
向こうにナースに背負われた小さいおっさんが見えた。
『いけえええええええっっっっ!!!』思い切り振り切られる箒!
パコ───────ンンンン・・・・・・・・
妙に爽快な音がして、ノビラの体が宙に舞い上がった。空中でその姿が急激にしぼむ。
放物線の頂点で小さな黒い点になったと思うとそのまま落下し、
パシャ──ン・・・・・
校舎の横の用水路に落ちる音がした。
がくりと膝を落とす三人。そして後ろから、拍手と喝采。
「やりおったー!!わしの目に狂いは無かったぞ!なあ!」喜びはしゃぐ小さいおっさん。
「その前に私の胸揉むの止めて下さい」眉間に皺を寄せてつぶやくナース。
この一軒でノビラ騒ぎの幕は閉じた。
ノビラへの対処法、それは『巨大化した足元を箒ではく』という事。そうすれば消える。
昔からの対処法である。恐らく、足元に小さい本体が居るが故の方法であろう。
あの男子は、勢い余って吹っ飛ばしてしまったが・・・・・
ノビラ本体は増水していた用水路に流され、何処かへ行ってしまったそうだ。
小さいおっさんらはあの後、町を出て行った。
町長にノビラを使った町興しに協力を依頼されたが、断ったそうだ。
曰く「居ないところにいてもしゃーないがな。」だそうである。
久々に団地の男子が川原を通る。あの同じ団地の娘も一緒だ。
堤防の内の草原に小さな人影が見えた。いくつも居る。動いた。
低学年の子達だった。「おーい、危ないぞー!」声を掛ける。皆一斉に手を振った。
相談しながら堤防の方へ向かう子供たち。
その中の一人が動かないと思うと、
す、と誰にも気付かれず草叢の中に消えた。
59 :
第X話:04/11/19 01:59:30 ID:Ol/t+Kce
やっぱり長くなるage
60 :
第X話:04/11/19 02:00:50 ID:Ol/t+Kce
上がっとらんがな( `Д´)ノ age
61 :
QDF第X話:04/11/23 01:22:08 ID:PWLAzD4z
QDF第16話「ガラQの大逆襲」を見て疑問に思ったこと
「ガラゴン、弱っ!」
「やることが小さいぞ!セミ女!」
「ガラQの潜在能力って何?」…これらの疑問を補完するべく作った話です。
遊星人による地球侵略は二度の地球侵略は阻止され、ガラゴンの脅威は去った…。
地球に送り込まれた侵略ロボット、ガラQは渡来教授の手で完全なペットロボに改造され、元の持ち主の手に戻った。
人々はガラQが侵略兵器であることを忘れかけていた。
そんな平和な日々を破って地球に接近する巨大な隕石群。それらは全て日本各地に落下した。
隕石を調査する渡来教授。
調査の結果、全ての隕石はチルソナイトでできており、微弱ながら電波を発していることがわかった。
侵略者の再来を不安がる人々。その不安の目はガラQに向けられた。
隕石から発せられる電波がガラQを侵略ロボットに変える指令電波ではないかと思われたからだ。
さらに数日後、ネット上では「ガラQ所有者に宇宙人の疑いがある」という情報が流れた。
人々の不安は頂点に達し、ガラQとその所有者を迫害していった。
ガラQ「ヤメテ、ヤメテ」
男A「黙れ!侵略の手先め!」
男B「こんな奴らに乗っ取られてたまるか!」
男C「ぶっ壊しちまえ!どうせ血の通ってねえガラクタだ!」
バシッ!バシッ!
ガラQを信じる涼、ガラQを改造した渡来教授にも宇宙人の疑いがかけられた。
事態を重くみた政府は再び「ガラQバスター」にガラQ回収を命じた。
さらにガラQの引き渡しを拒んだ者は「宇宙人容疑」で身柄を拘束されてしまうのだった。
所有者のほとんどが拘束と迫害を恐れ、ガラQを手放していった。
女の子「やだ〜、ガラQもってちゃやだ〜」
母 親「捨てなさい!そんなの持ってたら宇宙人にされちゃうでしょ!パパやママに会えなくなっちゃってもいいの!?」
そして、ついに涼までもが拘束を恐れてガラQをガラQバスターに引き渡してしまう。
涼 「…ごめん…ごめんね、ガラQ…」
ガラQ「涼…ドウシテ…ドウシテ…」
62 :
QDF第X話:04/11/23 02:09:58 ID:PWLAzD4z
回収され、倉庫にゴミのように山積みされるガラQ。
彼らの中に…人間に対する何かが芽生え始めた…
そしてある夜…倉庫に回収されたものを含めた全てのガラQが姿を消した。
ガラQが姿を消した夜、倉庫周辺に仕掛けられた防犯カメラに「戸川急便」のトラックが写っていたことが気にかかった剛一は調査を開始する。
だが宇宙人の容疑をかけられた渡来教授は行方知らずに、涼はガラQを見捨てた罪悪感から抜け出せずにいた…。
涼 「私…捕まるのが怖くて…自分のことだけ考えて…最低だよ…」
自己嫌悪に駆られる涼。
仕方なく剛一は単身「戸川急便」に聞き込みへ向かった。
そこで剛一は、トラックを盗まれた配達員と出会う。
彼の話によれば事件の日の夜、突如現れた美女にトラックを盗まれたというのだ。
剛一は、その美女が以前現れた「セミ女」の仲間であり、トラックを使ってガラQを奪っていったと確信する。
剛 一「ヤツを追わないと!教授もきっとヤツが!」
配達員「おい、なんだかわかんないが俺も一緒に連れってくれ。こうなったらあの女とっつかまえて一泡吹かせてやる!」
こうしてトラック奪還に燃える配達員とともに剛一はセミ女の後を追った。
63 :
QDF第X話:04/11/23 16:48:12 ID:PIBYK5ok
だがある日事態は急変する。
突如、日本中のコンピュータが機能を停止してしまった。
通信、交通、流通などのありとあらゆる機関は麻痺し、人々は混乱に陥った。
静止する都市。明かりを失った日本は夜の闇につつまれていったその時。
停止したはずの日本中のテレビ画面にガラQの姿が!
ガラQ「我々ハ、我々ヲツクッタ星ヲ裏切ッテ、地球人ヲ愛シタ。
ナノニ地球人ハ我々ヲ侵略者ダトイッッテ傷ツケタ。
我々ヲ前ハアンナニ愛シテクレタノニ、捨テタ!
我々ハナニモシナカッタノニ!フ・ク・シュ・ウ・シ・テ・ヤ・ル」
ガラQは地球人に宣戦布告した!
その放送とともに隕石に亀裂が…。そして隕石の中から不気味なロボット怪獣が姿を現した!
Gaaaaaaaaaaaaaaaa!
不気味な声をあげ、巨大な体を震わせるロボット怪獣、ガラゴン。日本各地に落下した隕石から続々と姿を現すその数…なんと8体!
一斉に動き出し、破壊活動を行うガラゴン。ビルを倒し、家を踏みつぶすその姿は、以前のようなボーっと立っているだけだったのやガラQに簡単に破壊されたのとはとても比べものにならない。
ユーモアな姿とは裏腹に破壊の限りを尽くすガラゴンに恐怖する人々。だが通信網が麻痺した都市では避難することすらままならない。
これに対処するべく自衛隊は以前ガラゴンを撃退した「電磁波遮蔽パウダー」を装備した空中兵器でガラゴンを迎え撃つ。
だが以前と違って頭部から火球を放つ能力を持ったガラゴンに次々と撃墜されていった。
自衛隊は作戦を変更。ガラゴンが活動できない海上から「電磁波遮蔽パウダー」を搭載した長遠距離ミサイルでの攻撃を行おうとする。
だが、ミサイルを積んだ戦艦は全て撃破されてしまう。
64 :
QDF第X話:04/11/23 21:07:44 ID:PIBYK5ok
戦艦を沈んでいく海面が不気味に青白く光ったかと思うと、そこから他のガラゴンと微妙に姿の異なるガラゴンが現れた。
その姿に愕然とする人々。すると次の瞬間、海から現れたガラゴンは大きく飛び跳ね、上陸する。信じられないそのジャンプ力!
これで日本全土には合計9体ものガラゴンが!
しかし恐ろしいのはガラゴンだけではなかった。ガラQバスターの本部がガラQの群れに襲撃されたのだ。
迎え撃つ自衛隊とガラQバスターだったが、ガラQの頭部パラボラアンテナからのレーザ攻撃に苦戦。
結果ガラQバスターの本部はガラQに乗っ取られてしまう。
ガラQを停止させるには電子頭脳たるガラゴンを破壊するか指令電波を遮断するしかないが、チルソナイトのボディを持ち、唯一の希望であった「電磁波遮蔽パウダー」ももはや通用しないガラゴンを倒すことはできない。
隕石落下周辺を破壊し尽くしたガラゴンの動きが止まった。
65 :
第X話:04/11/25 00:47:36 ID:aMBTdrPd
失礼、割り込み書込させていただきます。
67 :
第X話:04/11/26 00:51:39 ID:j0VpbWdI
68 :
QDF第X話:04/11/27 01:11:39 ID:BPa58irX
静止するガラゴンをただ見つめるしかない人々…。
その頃、部屋に閉じこもる涼に剛一からの電話がかかった。
剛一「涼。悪いけど俺の代わりに避難区域の取材に行ってくれないか。編集長がうるさくてさ〜」
涼「…でも…私…」
剛一「確かお前にこないだバーガーおごったよな?あんときの借り、まだ返してもらってないんだけどな〜」
涼「ごめん…きるね…」
剛一「おい!いいか、お前はそこに行くんだ!そこで見なくちゃいけないものがあんだよ!」
涼「…剛ちゃん」
剛一「絶対行けよ!行かなきゃ俺が編集長に怒鳴られんだからな!」
涼「…うん」
避難地を訪れる涼。そこで彼女が目にしたものは、家を、財産を、全てを失い悲しみと絶望にうち史がれる住民達の姿だった。
涼「もう…落ち込んでなんていられない!」
涼は心の迷いを振り切った!
69 :
QDF第X話:04/11/27 01:17:19 ID:BPa58irX
涼は避難地からセミ女を追う剛一達と合流。
剛 一「薬は効いたみたいだな」
涼 「かなり苦かったけどね。今度は自分の仕事しなきゃ…!」
配達員「お♪お嬢さんもご一緒するの?」
涼 「…あ、あの、こちらは?」
剛 一「あ〜…宇宙人に車盗まれた人で…」
セミ女の乗ったトラックを追う三人。そしてついにトラックを発見した!
トラックを確認する配達員。
配達員「…!間違いない!俺が乗ってたトラックだよ!」
剛 一「…ということは、セミ女と教授はこの近くに…」
涼 「…じゃあ、ガラQも…」
剛 一「でも一体どこに?」
涼 「ねえ…あの海から出てきたガラゴン…アレってひょっとして地球で作られたんじゃないかな!?」
剛 一「そういえばアレだけ隕石とは関係ない場所から…するとアレは前のガラゴンの残骸を利用して作られたのか!?」
涼 「あんな大きなのを隠せる場所って…この辺りだと…」
剛 一「…ガラゴンの攻撃で破棄された熊谷ダムだ!」
70 :
名無しより愛をこめて:04/12/06 13:06:09 ID:n8nGAb2B
age
ウルトラQって妙に気取ってない所がよかったんだね。
このスレを読むと再認識させられる。
サブタイトル一つとってみても
鳥肌が立つくらい恥ずかしいものばかりだ。
それと、「ウルトラQ」の名を冠するからには
面白くなくてはならなかったんだとも気づかされた。
ありがとう。
72 :
第X話:04/12/13 22:07:00 ID:QuJc4OtY
オトシチャッタ・・・・・・・0TL
73 :
名無しより愛をこめて:04/12/19 22:25:34 ID:JSNgPX8p
age
74 :
名無しより愛をこめて:04/12/19 22:50:30 ID:+s4QnPzX
「キモオタ」
ある日、初めて立ち寄った掲示板で見知らぬ相手から
「キモオタ」と煽られた「彼」。
次の日から「彼」はそれまで常連だった掲示板でも
「キモオタ」と呼ばれはじめる。
もちろん「彼」は「キモオタ」などではなく、
それどころか「オタク」ですらない。
だがやがて「彼」は会社の同僚や、
ひさしぶりに会った昔のクラスメート、
ついには恋人にまで「キモオタ」呼ばわりされる。
そしてある日彼は巨大な繭となり、
その中では巨大な怪獣「キモオタ」が育ちつつあった。
75 :
名無しより愛をこめて:04/12/25 22:59:18 ID:YQMGVvb6
?
ウルトラQは大飯食らいで空を飛んだり姿を消せるけど、犬が苦手、
というのはどうだろうか? 我ながらなかなか画期的だと思うぞ。
ひょっとして、オレって天才かもな?
それは…
いや、いい。忘れてくれ。
夕闇。荒れた波の音。ゴツゴツした岸壁。その上には古く薄汚れた白い灯台が立つ。
その中に二人の人影。喚き声が響く。
「勘弁してくれェ!もう勘弁してくれェェ・・・・・」膝をつき泣き喚く男。
「後少しだ。あと53時間で本土から迎えが来る。それまで待つんだ!」それを諌める男。
喚いた男は頭を抱え隅で縮こまり震える。その横には大量の備蓄食料の山。
救援隊の状況理解の為にも記録を残しておく必要がある。日誌を手にした。
風が強い。震える窓。隙間風。むせぶ隅の男。
突如、響いてくる音。コントラバスの様な、霧笛の様な寒気のする低音。
夕日の方角からだ。いや待て、あれは本当に夕日だったか?時計を見る。
『6:37』
ならばあれは朝日なのか?ならば何故また暗くなっている!?
と、ふと思い出した。あいつは?下を見てくると云ったあいつはどうした?
「ぁぁッ・・・」外で悲鳴。その方向の窓から覗く。
岩陰から伸ばされていた手が、海の方へ引きずられて見えなくなった。
再び響く冷たい重低音。やはり夕日の方角から、それも前より近い。異様な赤に染まる空。
その方角の窓を覗く。 「ひぃィ・・・・」見えたものに更に怯え縮こまる後ろの男。
朝日か夕日かも判らぬ赤い太陽。それを背に、
荒れる海上に立つ。
先の尖った大きな長い頭の、巨大な影。
とある海洋調査船。その甲板にカメラを持った男。雑誌記者である。
「や、気分はどうだね?」歩み寄る初老の男。今回の調査を立案した教授である。
「いいんですか?私みたいな変な雑誌の記者なんか乗せちゃって」
否定する教授。「こういう問題は広く大衆の目に触れさせねばいかんのだよ」
説明を始める教授。
曰く、中国やロシアの発展に伴い、排出された煤煙がこの北の海まで届いているという。
以前の調査の折にはけっこうな濃度の酸性雨まで観測されている。
それを踏まえ、今回の調査で自然、特に海洋においての影響確認するという。
「本格調査に入る前に、寄っていく島があるよ。灯台しかないけどね。」
そこを基地にするつもりらしい。どんなところなのだろう?
見えてきた。予想以上に小さい。周囲1kmもあるだろうか?教授が驚く。
「な、そんな・・・・・・小さくなっている!?侵食されたか?いや、早すぎる・・・・・」
近づく調査船。と、船着場にもう一隻。あれは・・・海上保安庁?通信が入る。
「其処の船舶、停止しなさい。」船の名前や所属を問われる。目的を話すと、
「・・・よろしい、接岸しなさい。ただし、此処には誰も居なくなってますよ」
上陸し、保安庁の人の話を聞く。数日前、此処から救難信号が送られてきたという。
だがその通信も不鮮明であり、先日からの不審潜水艦騒ぎも手伝って、
おっとり刀で駆けつけたのが今日だったそうだ。
潜水艦?そういえば調査船の出発前、ニュースが報じていた。この辺りの話だったか?
「ま、それも可笑しな話でねェ・・・・・」保安庁の人が笑い、「此処だけの話だけど」
目撃したヘリのパイロットの云う、潜水艦の特徴がとても可笑しいという。
長さ20〜25m位。色は白と赤で、質感は金属でなく生物、特に貝に似ており、
後部の蓋らしきものが開いて人に似た手足が出てきて、
「裂けた口と巨大な眼が有り、それに睨まれたそうだ」
大笑いする保安庁の人。それに愛想笑いする雑誌記者。
そこに教授が来た。「本当に・・・・誰も居なかったんですか?」「あ?・・・ええ、そうですが」
教授が訊く。「此処は・・・ここは本当にあの島、阜鱈玖(フタラク)島なんですか?」
この島の名前か?奇妙な名前だ。「そうですよ。で、アレは阜鱈玖灯台です」
狐に抓まれたような教授。「ま、此処に何人か灯台守がいたのは確からしいですし」
海上保安庁は此処に停泊するそうだ。一応行方不明者が出た現場である。
調査とやらは続行しても結構だそうだった。調査船も停泊することとなる。
その夜は慣れぬ船の揺れのため、新聞記者は灯台の仮眠室に泊まることにした。
しかし眠れない。まだ体が波に揺れている。気分が悪い。
灯台の岬側の窓際で煙草を吸う。灯台は役目どおり光をあたりに投げかけている。
灯台守は皆消えたという。海上保安庁の誰かが灯しているのだろうか。
ふと、灯台の灯りが何か照らしたように見えた。波ではない。波ではない何か。
───また見えた。今度は左の方。船をひっくり返したようなものが見えた。
身を乗り出す。今度こそはっきりと見たい。──・・・・
出ない。気のせいだったか。船酔いで幻覚まで見えるか。深酒よりたちの悪い酔いだ。
下を向き、海面へ吸殻を投げる。
海面下極浅くから、大きく裂けた口と大きな目玉の巨大な顔がこちらを見ていた。
翌朝。外洋へ調査に赴く調査船。甲板にうずくまる雑誌記者。
心配そうに覗き込む教授。「・・・大丈夫ですか?」「ああ、いえ・・・・・大丈夫です」
昨日の事を思い出し辿っていく。あれは幻覚だったのだろうか?・・・・そうなのだろう。
顔を上げる。教授たちが何か作業をしている。無人探査艇を下ろすらしい。
教授が肩を叩く。「さ、中に入って探査映像でも見ながらココアでも飲みましょう」
幾つかの機材。その中にあるモニター。青黒透き通った画像が映っていた。
「現在400メートル・・・・」助手の声が響く。何も映らない。無言の船室。
「何にも居ませんね」教授に会話を振ってみる。
「ええ・・・」画像を一心不乱に見つめる教授。「・・・・・・何か変ですね」「何がです?」
「ここの海域の海水、こんな色でしたか?」船員に聞く。「確かに・・・違うような気が」
「教授!」別の助手が入ってきた。「見て頂きたいものが」二つ返事で出て行く教授。
助手と二人っきりになった。静まり返る船室。ぬるいココアをすする。
淡々と映る青い画面。横の数値が1000を越えた。
と、何か映った。大きな物だ。「何ですかね?」「寄ってみますか」進む探査艇。
全体的に白っぽく、所々赤みを帯びている。円筒・・・いや、円錐形のようだ。
横に移動する画面。質感は貝に似ている。少々いびつな形だ。
助手が呟く。「何か、船底みたいな形ですねェ」
ぞくりとした。 更に移動する画面。
ライトが薄暗いガラス球の様なモノが照らし出すと、
それはこちらをぎろり向き、閉じる瞳孔が光っていた。
「教授!」甲板を走ってくる新聞記者。ノートPCの画面から振り向く教授。
「い、いまモニターに・・・」「ああ、いいところに来た。」一方的に説明を始める教授。
「・・・・・見たまえこの水質データを。海水に有機物がほとんど含まれていない。
プランクトンも動物性のものしか見つからない。しかも未知のものだ。
新種かもしれん。見てみるかね?」顕微鏡を指差す教授。
「教授!!」制止する雑誌記者。「探査艇のモニターに変な物が映ったんですよ!」
教授が眉をひそめる「・・・何?」
船室に戻る教授と記者。助手が探査艇の操作盤の前で苦闘していた。モニターを見る。
上下左右に揺れる画像。何か虹色に光っている。黒い物が横切っている。
生物だ。クラゲの様な、甲殻類の様なものが泳いでいる。長いヒゲがある。
オタマジャクシの様な黒い魚が見える。頭がしゃれこうべじみている。
探査艇の周りをぐるぐる廻っているようだ。「おい、どうしたんだ!?」教授が助手に聞く。
「判りません!・・・探査艇に群がられて、攻撃されているようで・・・・」
そこで画像の動きが止まる。生物達が一斉に離れた。代わりに何かがせり揚ってくる。
白い表面。赤い筋。丸い目玉。口の様な割れ目。通り過ぎた。あれだ。
絶句する教授。
「教授ー!」また外から呼ぶ声。甲板へ出る。
腰を抜かしている助手。「あ、あれ・・・」指差す方向を見る。
件のプランクトンを観察していた顕微鏡がひび割れ、溶けていた。
横に置いていたサンプルを入れたビーカーも、音を立てて割れていく。
「教授・・・」呟く記者。教授が視線を向ける。ソナーが巨大な物体の接近を映していた。
「船長!至急出発だ!この海域を離れてくれ!」操舵室へ連絡する教授。
船長からの返事は、スクリューに何かが絡み付いて動かないとの内容だった。
突然、船が大きく揺れた。バランスを崩す。船べりに茶色い何かが張り付いている。
エイの様だ。しかしどこか蛸にも似ている。眼が生々しい。
ずるりと甲板上に揚ると、4っつに別れた鰭で這いずり寄り始めた。
「うわあああっ!」助手がファイルで叩き除けようとする。何匹も居るようだ。
海面を見た。泡立っている。水面下に影が蠢く。白い何かがせり揚ってきた。
貝の様な質感。船底を縦にした様な形。下のほうに一対の眼。口の様な裂け目。
その下部から、貝が体を引きずり出すように腕が、胴が生えていく。
そして巨大な人型になったそれが、調査船を見下ろした。
その時、船の後部からエンジン音。スクリューが復活したのだ。
動き出す調査船。這い上がってくる生物を蹴落とす。全速力だ。
じっとこちらを見ていた巨大な怪物は、やがて海面下へ沈んでいった。
「何なんですか、アレ・・・」「判らん。とりあえず、阜鱈玖島へ帰ろう」
船の修理もしなければならない。其処には海上保安庁の船が居るはずだ。
島に保安庁の船は無かった。船着場周辺には血痕。海上には大量の破片と油漏れ。
「真逆・・・襲われたのか?」沈んだのか、逃げおおせたのか。
別件の事故の可能性は、あの怪生物の死体の発見により覆された。
夕暮れの灯台に佇む雑誌記者と教授。修理中の調査船。
新たな損傷が見つかり長引いていた。船底が破れる寸前まで削られていたという。
この島で足止めとなったのだ。「あいつら、襲ってきませんかね・・・・・」
「そうなっても、持ち堪えるしかないでしょう。この灯台で」灯台を見上げる教授。
その夜、灯台の仮眠室で教授は集めたデータの検証をした。
消えた海水中の有機物。これは酸性雨による植物プランクトンの死滅によるものだという。
植物プランクトンの消滅は即ち、食物連鎖の土台がまるごと無くなるのに等しい。
しかもこの海域は環状の海流に囲まれ、他の海域への移動も容易ではない。
移動できず残った生物たちは飢え、喰い合い、互いに食えぬ者同士が生き残り、
最後の手段として、「海上」への侵攻を始めたのではないかというのだ。
教授は証拠の一つとして、あのサンプルを入れていたビーカーを出した。
「これは中に居た動物プランクトンがやったんですよ。死骸がこびり付いていました」
ビーカーを割るほど暴れた為か、全て原型を殆ど留めていなかったそうだ。
突如、霧笛の様な重低音が響いた。顔を上げる面々。外からメリメリという音が聞こえる。
「船が・・・!」見ると、船がずるずると沖へ引きずられていく。甲板から脱出する船員。
だが着水してから浮かんでくる者は居ない。300m程沖合で船は真っ二つに折れ沈んだ。
懐中電灯で海面を照らす。海面がざわめいている。いや、海面ではない。
「全部、あいつらか・・・・・!?」既に島は囲まれていた。
灯台へ戻る。いつの間にか風が出ていた。
低い所では上がって来るだろうと、灯台の頂上に立て篭もることとなった。
灯した灯台の灯の下に、1冊のノートを見つけた。手に取る記者。灯台守の日誌だった。
怪物達に襲われる過程が克明に記されていた。その時、再び重低音。
『彼等は食料を取る為に何でも行う。例え岸壁に立て篭もろうとも──』轟音が聞こえる。
「島が・・・崩されていく!」教授が叫ぶ。岸壁の岩を、生物めいた黒い波が攫って行く。
『食料を海に投げ込めば侵攻は遅くなる。だがそれも焼け石に───』
海面に落ちた木片を、黒い波がバリバリと噛み砕いた。
既に夜明けの筈なのに未だ暗い。そこに、赤い光が一条。夕焼け、いや朝焼けか。
赤く照らされる黒い海面に、巨大な烏帽子の様な影。腕や胴が伸びていく。
重低音が響く。怪物の鳴き声か。怪物が灯台を囲うように手を伸ばしてきた。
バサリと取り落とした日誌の開いたページ。そこに一言。
『 海 が 侵 略し てくる』
その瞬間。閃光、爆発が起こった。怪物がよろめき、灯台から離れる。
再び数度爆発。一体何だ?と、上空からジェット音が轟いた。戦闘機だ。
何が起こっているのか判らず呆けていると、轟音と共にヘリが舞い降りてきた。
「みなさーん!無事ですかー!?」あの保安庁の人だった。
「早くつかまって下さーい!強風でバランスが取り難いんですー!」
縄梯子に必死に捕まる面々。再度怪物が手を伸ばす。そこにまた戦闘機の攻撃。
怪物はよろけるとあちこちから青黒い体液を流しながら、海面へと倒れ込んだ。
急かす保安庁の男。教授が答える「大丈夫、しばらく彼等は追ってこないよ」
見ると、黒い海があの巨大な怪物の体を貪り始めていた。
「皆さん、無事で何より・・・ゴホッ!」むせる保安庁の男。教授がハンカチを差し出す。
「皆、何かで鼻と口を押さえなさい」黒雲を指し示す。「これは大陸からの煤煙ですよ」
「あの異常な暗さや朝焼けの原因でしょう。今回の事件の元凶でもある・・・・・」
布で鼻口を押さえながら、彼等は何kmも先の救助船へ向かっていった。
病院の待合室。雑誌記者は外を見ていた。
あの脱出劇の後、一応検査ということで来ているのだ。教授や他の面々も来る筈である。
先程知り合いのバカ女が訪ねて来た。見舞いなのか馬鹿にしに来たのか判らなかったが。
彼女から聞いた話では、行方不明者が50人以上もの大惨事だそうである。
政府はその原因の煤煙の存在を認めようとしないらしい。揉み消す積りだろうか。
手にはあの日誌。最後のページ。祈りの言葉。『皆に幸あれ。万物に幸あれ』
聞いた話では、先日の現場検証ではついに阜鱈玖島を発見できなかったそうだ。
海に飲み込まれてしまったのか。
ならば、この日誌があの島で、あの灯台で起こった事の最後の証拠になる。
窓から海が見える。夕日が輝いていた。
嫌な物が見えそうで、足早に其処から立ち去ることにした。
89 :
第X話:05/01/02 04:50:13 ID:pDrx+4KO
竜神王とシルバーブルーメが強すぎましたage
「こちら『フィリップス』、目標座標到達。宙域第三管制塔応答せよ」
アフリカ上空何万kmもの上空。大気の無い無重力の宇宙空間。宇宙船が浮いている。
「こちら宙域第三管制塔、右2時方向に目標物有り、至急確認して下さい」
幾つものモニター画面。正面には大型モニター。幾人ものオペレーター。雑談している。
「何なんでしょうね、この物体」「判らん、直に観察するまではな」
3週間前、突如として外宇宙から地球の重力圏に突入してきた謎の天体。
そのまま大気圏突入して燃え尽きると思いきや、侵入角を変えて再びを大気圏突破し、
太陽系内で大きな弧を描いて昨日、再接近が観測されたのだ。
対デブリ用兵器での破壊が計画されたが、専門家が是非見てみたいと希望したことで
その天体の観察及び可能なら回収するミッションが行われているのである。
「大気圏突破時に第七衛星プラントをかすめた奴だろ?」「チルソナイト生産大手の?」
「こちら『フィリップス』、目標に接近。予定通り船外活動を開始します」
慌てて仕事に戻る二人。物体のデータ採取作業にかかる。奇妙だ。物体が人工的である。
錆の浮いた鉄の様な色で、あちこちにビスが打たれている。まるで下手な人工衛星だ。
いや、古い人工衛星でもこうはいかない。もっと古い感じがする。何処か装飾的だ。
「ズザッ・・・」突如通信が乱れ始める。続いて船内機器の異常発生が伝えられた。
何だ!?太陽フレア爆発は観測されていない。途切れ途切れに通信が入る。
「船ナ・・・ブラッ・・ウト・・・」「・・も・・天体に・・ジ・・文字ガ・・・・」「・・ヒツギガ・・・・開ク!・・・」
途切れた。大騒ぎになる宙域管制塔。同時に送られてきた画像を再生する。
ブレた手。顔。船体。混乱を表す画像の中で、船外活動員の2つの画像が注目された。
文字の様なものが記された天体表面と、上げ蓋の下から覗く怪物の顔。
東京郊外。半端に古いビルの裏手側。雑誌記者が階段を上がる。
知り合いの変人女が雑誌に記事を載せるとのことで、わざわざ取りに来たのだ。
ドアにチャイムは無い。叩く。「ど〜ぞ〜ォ」そっと開ける。中は薄暗い。
相変わらず部屋の中は荒れている。書籍は山積み、PC関連機器と配線が並び走る。
その影に彼女は居た。相変わらず髪はボサボサ、黒縁眼鏡にモニターの光を映している。
「其処に置いてあるから持ってってー」ガスコンロの傍にMDが置いてある。手に取った。
彼女は相変わらずモニターを見ながら何かやっている。
「何やってんの?」「いや、アメリカの友達がね・・・・・メール送ってきたんだけど」
メールの内容はシンプル。画像が3枚と、文章が少々。画像の内一枚を指差した。
「何だこれ?宇宙人の文字?」茶化すと、「・・・──ラテン語ね。しかも古い」訳し始める。
「是に有るは天下りし・・・・再び放逐す・・・・・おぅ、けル・・・ヴぃね?」変な言葉を言った。
「ムズい発音ね、オーケルヴィーネとでも読むのかね?」彼女にも読めぬ言葉が有るのか。
しかし辞書も無しに解読していく。どうも文字の刻まれた物体の由来らしい。
「この『オーケルヴィーネ』ってのどうも名前らしいやね。珍妙な名前」お前も十分珍妙だ。
と、一点で眼線が止まる。「・・・1573年?」「西暦か?どしたの」「いや・・・・・」
「骨董品の鑑定か何かだろ?ならその位の年代何の不思議も・・・」
「この物体が外宇宙からの飛来物で、材質がチルソナイトでも?」
チルソナイトと云えば無重力下でようやく合成が成功した珪酸アルミニウム合金である。
なぜそんな物体に・・・・・その時、ドアを叩く音。妙に規則的である。「ああ・・・お客さんだわ」
馬鹿女がドアを自ら開いて出た。ちらりと客の黒服姿が見える。肌が妙に白かった。
「ちょっと話してくるわ。待ってて」そう云って、馬鹿女はドアを閉めていった。
モニター画面を見ながら、馬鹿女を待つ。5分位経った。
再び同じ規則的な、少々力強いドアを叩く音。「あ・・・・はい!」慌ててドアを開ける。
其処には屈強なスーツ姿の白人と黒人、そして初老の紳士。紳士が口を開く。
「彼女は?」「は?」「プロフェッサーは何処ですか?」「え〜・・・」顎で合図する紳士。
土足で入ろうとする男二人に、「ああ、靴は脱ぎなさい。後で怒られますよ」注意する紳士。
ひとしきり馬鹿女の住処を探す。男がPCをいじる。「感づかれたようです」紳士が頷く。
「貴方は彼女の関係者ですか?」馬鹿女の事か。頷く新聞記者。「この画像の事は?」
彼女が云っていた事を正直に話す。紳士が云う。「では貴方に来ていただきましょう」
抵抗も出来ずに黒塗りのリムジンに載せられ、走り出す。紳士がノートPCを開いた。
先程の画像が映る。「確かに彼女の云う通り、これは外宇宙からの飛来物です。
しかし書いてある文字は古いラテン語・・・」紳士がキッ、とこちらを向く。
「即ち、この物体は地球、しかもルネッサンス期の欧羅巴の産物ということですよ」
一瞬耳を疑う。何だそれは?続ける紳士。「・・・ん?地名ですかね。オーケルハイム・・・」
PCを叩く。「・・・有りました、ドイツですね。」携帯で紳士が独逸に向かう旨を連絡した。
「恐らく彼女も此処へ向かったんでしょう。彼等に脅されてね」・・・彼等?
疑問を呈する間もなく、思い切りハンドルが切られる。
アメリカ、NASAの廊下。話が飛び交う。「・・・彼女の解答も同じなのか?」
「エージェントからの連絡によりますとそのようです」舌打ちする男。「・・・馬鹿げている!」
「16世紀の人工衛星だと!?何かの間違いだろう!」両開きドアを乱暴に開けて入る。
「いいか、もう一度彼女に連絡を・・・」「室長」制止する軍服姿の男。
「我々の調査でも結論は同一だ。問題はそんな事ではない」顎で大型モニターを指し示す。
工業用大型衛星プラントに、件の物体が食い込んでいた。ゆっくり回転している。
「例の物体が、第5衛星プラントに衝突・・・いや、破壊活動を開始した」
独逸への航空機の中、雑誌記者は紳士からあのラテン語の文章の内容を詳しく聞いた。
曰く、1573年、独逸のオーケルハイムに空から怪物が降ってきた。
国中を暴れまわる怪物に対し錬金術師のオーケルヴィーネが秘術を使い、、
頑丈な檻に閉じ込めて、再び天蓋の彼方へと放逐した、と。
「その怪物の秘密を知りたがっている者達が居るんですよ」重々しく紳士は語った。
「で・・・彼女からは?何が起きていると?」管制司令室で室長が呼びかけた。
大型モニターにはあの物体。何故か第五プラントの残骸が物体に集い始めている。
何らかの反応も起きているようだ。「はい・・・それが・・・」「何だ。早く云いたまえ」
「あの物体は人工チルソナイトを纏って外殻、いえガラダマを形成しているものと・・・」
「ガラダマ?」
皆が顔を上げる。「あれが・・・ガラダマだと?」巨大すぎる。それに──
「待て、じゃあもしかしてあの画像の怪物の顔は─」
「ガラモンだそうです。しかも特別巨大な」
とある教会の廊下。大きなタペストリーの前。あの馬鹿女と、黒服の男。肌が白い。
「で、伝えてどうすんの?こんな情報」「恐怖感を煽れば、彼等もいい働きをするでしょう」
黒服の男が何かを彼女に当てた。「さ、こちらも移動しましょう。貴方の気が変わらぬ内に」
馬鹿女が溜め息をつく。「こんなもん使わなくても、逆らえないのは判ってるわよ」
タペストリーから離れ、出口へ向かう二人。
異国の石畳を歩く雑誌記者。見上げると、昼の空に星か何かが輝いている。
「開始したか」紳士の独語。彼等は町の中心の教会の聖堂に入る。「・・・──これは─」
大きなタペストリーが飾ってあった。聞くとこの町の魔術師の伝説を表したものだという。
降臨する怪物。荒廃する街。魔術師の秘術。放逐される怪物。あのラテン語文章と同じだ。
しかし後日談が付いていた。穴に石らしき物を放り込む男。更に、
身なりのいい男と、斧を構えた男、そして首の無い男。その下に桶が置いてある。
「どうやら領主の猜疑から、魔術使用の罪で処刑されたようですね。」紳士が呟く。
「しかし領民により語り継がれた・・・。史跡も残っているようです。好都合ですね」
と、黒人の男が警備員から話を聞いてきた。少し前馬鹿女らしい者が立ち寄ったという。
奇妙な黒服の男と共に。もう一つの教会に向かったらしい。「其処ですね。行きましょう」
紳士が語る。「其処には恐らく、怪物の心臓が封印されているのですよ」
「・・・・駄目かね?」「無理ねこれじゃ。」暗がりに男女の声。そこに突然扉の開く音。
「ようやく追いつきましたよ、プロフェッサー」初老の紳士の声。両脇に白人と黒人の男。
「彼と彼女に間違い無いですか」頷く雑誌記者。「では、此処に有るんですね。ガラダマが」
ガラダマ?驚く雑誌記者に紳士が語る。「そう、怪物ガラモンの封印された心臓ですよ」
ガラモン?あの1960年代、宇宙より飛来した侵略ロボット怪獣の!?
ではあの物体の中は─・・・「彼等はね、ガラダマを狙っているんです」黒服の男を見る。
黒いスーツ。白い肌。長い指。東洋系の顔。噂に聞くメン・イン・ブラックの姿。
異星人が天才の頭脳を利用し、失われた侵略兵器を取り戻そうとしているのか!?
表情を変えぬ黒服の男。紳士が何かを構えた。「さあ、彼女を返して頂きましょうか」
黒服の男が前に出た。「・・・何故、同朋をお前たちに『返さねば』ならんのだ?」更に出る。
「ガラダマが欲しいのはお前たちの方だろう」変人女が黒服の陰に隠れた。
後ろで変人女が銃を取り出す。「甘いっ!」紳士が叫ぶと同時に女の手から銃が飛び出た。
その刹那、銃声3発。「がアっ・・・」紳士と連れの二人が、ドッと倒れる。
見ると変人女が出した銃が空中に浮いている。しばらくしてポトリと落ちた。
うめく紳士。「お前たちの磁力線操作装置には対策済みだ」黒服が自分の銃を見せる。
「この銃も弾も樹脂製だよ。磁力線は通用しない」
紳士は再びうめくと、片手を押さえて外に飛び出していった。
あっけに取られる新聞記者。変人女が肩に手を置く。「追ってくるとは思わなかったわ」
横では黒服の男が弾倉を確認していた。「何で、宇宙人の味方を・・・」
「ちがうわよ。彼はNASAのエージェント。メールくれたアメリカの友人。云わなかった?」
混乱する新聞記者。「見たまえ」黒服の男が白人の大男の死体を蹴ってよこす。
死体の頭が蝉だった。
「ひええっ!?」驚く新聞記者。「これが彼等の正体・・・チルソニア遊星人だ」
馬鹿女の説明。やはりあの怪天体のラテン語文章からエージェントと共に独逸へ飛び、
ガラダマ電子頭脳の存在を知って確認をしにきたのである。・・・では肝心のガラダマは?
「ココ。この下」円形の石畳が有った。この下に竪穴が有るらしい。
多分100m程の深さで、ガラダマの上に大量の土砂や石、金属を積み重ねているそうだ。
「こら簡単にゃー取り出せんわ。電波モレは有るけどね」
「さて・・・」馬鹿女が立ち上がる。「ヒューストンと連絡取れる?」黒服が頷く。
アンテナを伸ばし、ノートPCを立ち上げる。画面に白人のおっさんが現れた。
「ハ〜イ」英語で話し始める馬鹿女。内容は判らない。画面に次々とウィンドウが出る。
『・・・第5、3、9プラントがあの物体に襲われた。これが現在の物体の姿だ』
画像が出る。教科書やTVで見た、あのガラダマだ。『直径は150mを越えた』
馬鹿女の説明。この16世紀のガラモンは未だ埋められた人工知能から命令を受けている。
微弱な電波を感知して、追放されたはるか外宇宙から帰ってきたのだ。
しかし、纏っているのは僅かなチルソナイト。それだけでは大気圏突入で燃え尽きてしまう。
その為に衛星軌道上のチルソナイト生産工業プラントを襲っているというのだ。
『では再突入は何時・・・ 』『この大きさなら、時間の問題です』うろたえる白人のおっさん。
『考えがあります』何かを提言した。『な・・・そんな・・・』眉をひそめる白人のおっさん。
『通常兵器は電波障害とチルソナイト装甲で使用不能でしょう?ならばこれしか』
軍服の男が割って入る。関係各所に働きかけてくれるそうだ。『頼みましたよ』
通信終了。立ち上がると、「さ、町に帰って一休みしましょ。強行軍だったし」
街はちょっとした祭の準備をしていた。あの錬金術師の怪物退治の記念日らしい。
ごったがえす人込。宿に入った。黒服の男の携帯に連絡が入る。
「・・・例の件、実行されるそうだ。すでにあの物体が落下を開始したらしい」
そのとき、突然人の波。よろける馬鹿女。二人とはぐれる。
その目の前に立つ男。コートを着てフードを被っている。「・・・・見つけたぞ」
あの初老の紳士の声。フードの中には、ギラギラ輝く虫の瞳。何かの装置を向けている。
「私と来い。あの電子頭脳を取り出すのだ」女が応える。「それが、貴方の任務?」
「そうだ。そして我々の祖先の遺産であるあの超兵器を手に入れるのだ」
「・・・・残念ね。もうそれは叶わないわよ」横の窓から臨時ニュースが聞こえてきた。
『本日独逸時間午後4時頃、軌道上の第七衛星プラントが事故により降下を開始し・・・・・』
窓の方から振り向く虫眼の男。「・・・・!?どういうことだ!」女が応える。
「眼には眼を、チルソナイトにはチルソナイトを。あのガラダマと同質量なのは
あのプラントしかないしね。」にやり笑う女。動かぬ虫眼の男。「ほら、見えるわよ」
北の空に巨大な火球。こちらに向かっているようだ。そこに東の空からも火球。
「や・・・・・止めろ!任務失敗は、殺され」虫眼の男が叫ぶ間も無く───
二つの火球が衝突し、大爆発を起こした。破片が空に散らばり、流れ星となって降り注ぐ。
花火の様な音が響いてきた。火球の一つが未だ飛んでいるが、破片を次々と落としていく。
歓声を上げる人々。天を仰ぎ、慄く虫眼の男。「嫌だ・・・・・殺されるのは・・・・嫌だ!!」
翻って人々の中を駆けて行く。あっという間に人込の中へ消えた。
「ああ、居たいた」新聞記者が人込を掻き分けて来た。黒服の男も一緒だ。
作戦完了の連絡が入った事を告げる。「まさか、頭上でやられるとは思わなかったが」
「・・・どしたの?」黙ったままの馬鹿女に新聞記者が聞く。
「・・・・・いや、流れ星が綺麗だったから」空を見ながら、馬鹿女が溜め息をついた。
後日。雑誌記者は再び馬鹿女の所に原稿を取りに行った。
まだ書いている途中だったので、コーヒーを飲みながら雑談する。お題は、先日の事件。
結局衛星プラント4っつを破壊する大事件になったが、ガラモンは地上に辿り付けなかった。
重チルソナイトを大量に保有していた第七プラントの激突によりチルソナイト装甲が剥れ、
結局摩擦熱に耐え切れず燃え尽きてしまったのである。
馬鹿女が一言。「むちゃな作戦だぁ〜ねー」立案したのはお前だ。やっぱりバカだ。
ところで、雑誌記者は疑問を口にした。16世紀のガラモンを封印し、宇宙に打ち上げた
あの錬金術師。彼は一体何者だったのだろうか?
馬鹿女がデジカメで画像を見せてくれた。あの首切りのタペストリーだ。
「気付いて無かったの?横にして見てみな」その通りにして見る。
首の無い男。その下に転がる桶。 ・・・・・・──それは桶ではなく、蝉の頭だった。
「・・・・それじゃ・・・」馬鹿女の方を見る。
「異郷の星で、原始人と暮らしながら故郷を思う。どんな生活だったのかしらね・・・・・」
夕刻の街。初老の紳士が買い物をしている。天を見上げた。
一番星の横を流星が流れる。
妙に懐かしいといった顔をした後、雑踏の中へと歩み去っていった。
100 :
第X話:05/01/14 01:19:52 ID:zyTy2hf3
キリ番get( ゚Д゚)ノage
真夜中の地下鉄構内。切れかかった蛍光灯の下、ベンチに男が一人寝転んでいる。
完全に酔い潰れていた。時節唸り声を上げながらコートに包っている。
駅員がやって来た。「終電、行っちゃいましたよ〜」ううん、ああと男は応える。
寒い。頭が痛い。早く暖かい布団に潜らねば。でも面倒くさい、・・・終電が無い?そうか。
一人で納得してまた目をつぶる。
・・・・・この明るさは?眩しいので目を開けてみる。電車の車窓が見えた。
おお、まだ電車有るじゃないか。嘘つきめ。もそもそと立ち上がり、扉の前で開くのを待つ。
・・・──開かない。あれ?よく見る。どうも窓がすりガラスだ。よく見えない。
しかしあちこちに人影がある。座っているようだ。回送電車でも無さそうだ。首を傾げる。
突如、窓に人影が倒れ込んだ。ビビって尻餅をつく男。人影は窓をドンドン叩いている。
これは・・・・・助けを求めてるのか?よく見ると他の窓にも同じ様な人影が。
男があっけに取られている内に、電車が動き始めた。ゆっくりと、縦にうねりながら。
そのまま加速して、トンネルの中へ消えてしまった。
数分、呆ける男、くしゃみをきっかけに気を取り直す。まだ酔っている。アレは幻覚か?
改札口で駅員に謝り、ふらふら構内から出て行く。タクシーでも捕まえよう。
だが一台も止まってなかった。頭が痛い。ぐらぐらする。煙草を1本出して咥える。
ふと夜景を見上げて、ライターを、次に咥えた煙草をポトリと落とす。酔いが醒めた。
一つ向こうの駅の方、その夜空。
蛍の様な光点が幾つも光る、巨大な柳が揺らめいていた。
QNYqzJfs
_ _
r〜f⌒i しj__ ト√¨トー、
_ 厂ノ,..-ーt´¨i´:::::|⌒i;¬…tク-、
r〈 ,>イ:::|:::::|:::::|:::::|:::::::|::::::|::::::|:::::i¬ん、
>/l::::|:::⊥亠¬冖⌒ i冖ハ¬ト、,|::::|:::ヽ〉、
{シ,.:!ー'' r´/(⌒て_厂¬r⌒ヒ_ト、ゝ、i_::|:||:i:}
∠/rーtノ⌒ー’....................../.ト、゙i ゝr-、|:||:;ト、
ソー' i.............................../...〃.j\i........... しヘ::|(
{ ......|............./.. /..// / V......... しうノ
l .....l.| /... // //─ - 、..........}Σト、ヽ、 ちゅぱちゅぱ美味しい
゙i i| ../ _≦./ =ー- 、|.. .. |⌒) \ヽ
゙i.....::゙i../,r):::;:d |ドく;;d |...........|.:::} l ヾi
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〃〃 i..::ト-ヽ、 ri、 ィ´|..... ,'| ヽi、
《 《 i、:|_ ` ー,- | ├<´ ト、|....../..|__,.-、 ||j
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このスレを見た人は、10年以内にかならず氏にます。
でも、逃れる方法はあります、
※10日以内に20箇所のスレにこれをはるのです。
朝。地下鉄で出勤してくる雑誌記者。人込の中改札を目指す。
・・・ふと横を見ると、テープで囲ってある一角がある。『立入禁止』の張り紙。
中はぐちゃぐちゃに荒らされた部屋。床に大穴が開いている。警官も居るようだ。
そこまで見ると、再び人の波に揉まれてしまった。
出版社に出社すると、「よ!」あの馬鹿女が居た。遊びに来たらしく編集長と話をしている。
からむ馬鹿女を無視しながら仕事にかかる。卓上の封筒の山。PCを立ち上げる。
メールを確認しながら封筒を開ける。雑誌に載せる投稿記事の選考だ。
相変わらず長い文章が多い。何処かの小説家志望が投稿しているのか?
そんな中、幾つか似た内容の投稿が有った。取り出すと全部で6枚。いずれも素人臭い。
馬鹿女が横から見る。最近流行り始めた噂だという。・・・その名も『人喰い地下鉄』。
深夜の道端から、地下鉄の車窓から、構内から。助けを求める人影を乗せて走る、
真っ黒な電車を目撃したと言うもの。「『地獄行列車』、『あの世電車』て名前も聞くね」
聞き流しながらメールを見ていく。その中に画像添付された物があった。開いてみる。
街中に無理矢理クリスマスツリーにされた柳の様な物が立っている画像だった。
何だこれは?昨日の深夜、二つ向こうの駅近くの撮影だという。馬鹿女も見て唸る。
そこに編集長の大声。「おい、そこの地下鉄駅に行ってこい。何かあったらしいぞ」
駅の構内。見るとさっきの立入禁止の所に人だかりが。続いてタンカが運び出される。
裾から見えたのは明らかに白骨だった。行方不明者のものらしい。
しかし一番変なのは運び出される負傷した警官達だった。憔悴している。無言だ。
その時、地下鉄の通過音。警官が1人喚き出した。「電車が・・・・・人食い電車が!!」
その辺に居た刑事に話を聞く。荒らされた部屋の穴。その下は廃棄された地下鉄だが、
その中を調査中、人骨を発見し回収していたところ、背後から怪物に襲われたそうだ。
「どうも廃棄された電車だと思ってたのが突然動き出し、彼等を撥ねて去ったらしい。
でも、人食い電車ってのはなあ・・・」そういって刑事の出した煙草を、馬鹿女が取り上げた。
「教えて頂戴?何でこんなに人員が要るの?」・・・こういう所は、カンが鋭い。
「捜査上の、秘密だ」そう云って刑事は煙草を奪い返し、出口へ去っていった。
「面白そうじゃん。どうする?」馬鹿女のススメを退けて会社へ向かう。仕事が山積みだ。
結局馬鹿女は退社まで居座っていた。午後11時になると言うのに。
とりあえず一緒に帰ることになる。並んだ座席の隣で、馬鹿女はもたれて眠ってしまった。
もう少し色気が有ったらいいんだが・・・・・その時、向こうのガラス窓に何か見えた。
四角い連なった灯り。平行してもう一台地下鉄が走っているようだ。
ぼうっと見る。人影が見える。人影が窓を叩いている。何人も。助けを求めている。
『人食い地下鉄』
はっと思い出す。あれが!?その瞬間、その車両は逸れて見えなくなった。
駅到着のアナウンス。降りる事にした雑誌記者。寝惚けた馬鹿女が目を覚ました。
駅に降り立つ雑誌記者。馬鹿女はまだ寝惚けている。線路内を確認する。
今来た方を見た。何も見えない。矢張り幻覚でも見たのだろうか?「・・・─んむ・・・」
馬鹿女の声。この女を送ってやらねばならない。タクシーを捕まえるか。階段へ向かう。
中ほどまで馬鹿女を引きずってきた所で、ホームの方から音が聞こえた。チラッと見る。
薄暗いホームに、地下鉄車両が止まっていた。何処と無い違和感。目を凝らす。
3両編成位だろうか。・・・いや?どこか変だ。窓がすりガラスになっている。
扉が奇妙な音を立てて開く。気付いた。車両の継ぎ目があの地下鉄には無い。
その時、轟音。よろけ倒れる記者と女。その頭上を───
巨大な樹の幹の様な物が駆け抜けていった。
「んー?何よ一体〜?」まだこの女は寝惚けている。馬鹿女は立ち上がり階段を上った。
と・・・踊り場で立ち止まる。目は地下鉄の入り口から見える夜空に向いている。
「・・・・お、い?」呼びかける記者。女が振り返った。その目は虚ろ。一点を見ているようだ。
見るとあの樹の幹の様な物に光の列が走っている。地下鉄の奥へ奥へと流れるように。
それに誘われるように、馬鹿女が階段を降り始めた。驚いている雑誌記者。
「おい!」呼び止め肩に手を掛ける。しかし歩みが止まらない。両肩を鷲掴みにする。
「目を覚ませ!」しかし虚ろな女の眼。視線は幹の光の流れを追っている。
106 :
第X話 夜光樹:05/01/22 01:59:16 ID:JofOA57L
見ると外から何人も同じような状態で階段を下りていく。女が手を振り解こうともがく。
「行くなって!」ついに羽交い絞めにした記者。勢いでその場に倒れこんだ。
馬鹿女があの幹の枝先を掴んで、這いずってでも向かおうとする。
その上を、何人もの人が記者と女を踏みつけて降りていく。うめく雑誌記者。
地下鉄構内を見る。人々はあの奇妙な地下鉄車両に乗り込んでいった。
そして最後の一人が乗り込むと───扉が急に閉まり、幹の発光が止んだ。
そして樹の幹が休息にしぼみ、引いていく。どうもあの地下鉄車両から生えていたらしい。
樹の幹を全て吸い込むと、あの地下鉄車両は、一度身震いをした後、
縦にうねりながら走り去っていった。多数の人影を満載しながら。
あっけに取られる雑誌記者。はっと気付いて抱いていた馬鹿女を見る。
気を失っていた。目立った外傷は無い。ほっとして目線を馬鹿女の手に移す。
其処には、先程のあの樹の幹のような物が握られていた。
107 :
第X話 夜光樹:05/01/25 02:04:03 ID:bmMgmtED
数日後。都内の一角、古い洋館。雑誌記者がベルを鳴らす。老齢の家政婦が出てきた。
丁寧過ぎる挨拶を受けた後、洋館の書斎へと通される。あのバカ女が居た。
あの後、運び込まれた病院から1日で逃亡してしまい、此処に引きこもっているのだ。
此処はこの女の母方の曽祖父の遺産だという。今は彼女が持ち主だそうだ。
何か本を読んでいる。声をかけた。「ん?・・・ああ、おはよ」まだ寝惚けているのかこのお嬢さんは?
警察から事情聴取の出頭の催促が有った事を告げる。「今日の午後には行くわよ」
バカ女の調子を心配する雑誌記者。午後に警察署で落ち合う約束をする。
出て行く間際、女の声。「あのとき、ありがとね」・・・・・礼を言われるとは思わなかった。
警察署で落ち合ったバカ女は、凄まじい量の荷物を抱えていた。呆れる刑事と記者。
どうしてもとのことで取調室に荷物を持ち込む。その中は『資料』であった。
先ず地下鉄で会った刑事に聞く。「あの時、行方不明者の捜索してたんでしょ?相当数の」
刑事が語る。確かに都内各所で最近起こっている人間蒸発事件の捜査担当なのだ。
夜中に一度に2、30人が地下鉄へ入り込み、帰って来なくなっているという。
そして、決まって出てくるのが『人喰い地下鉄』の影。「あんたらも見た、と云うのかい?」
「見た、だけじゃないわよ」資料をドンと机に置く。「その正体も、ね」
バカ女が樹の幹の様な物を出す。「地下鉄と一緒に、『発光する樹』も目撃されてない?」
その通りだった。「これがその『発光する樹』の一部よ」バカ女が握っていた物だ。
彼女の説明。『人食い地下鉄』から『発光する樹』が生えていた事。樹に誘われ、人々が
地下鉄に乗り込む事。「あの地下鉄・・・恐らく、生物でしょうね。人々は餌ですよ」
呆れる刑事。「地下鉄そっくりな、人を喰う生物だと!?一体どんな──」
「このサンプルを調べて、近縁種らしいのを見つけましたよ」何かの資料を刑事によこす。
「学名プロトタクシテス。デボン紀の巨大な菌類と目される物です」
担当刑事により急遽捜索隊が組織された。実は警視庁の人間だったらしい。
バカ女の提示した資料はほとんど半信半疑だったが、ある図面に興味を持ったからだ。
東京都の地図。各地の赤い点。失踪事件や目撃があった場所を示す。
それらに地下鉄の路線を足す。赤い点が全て路線上に並んでいる。そこに赤い線を引く。
赤い線がある地点を中心に放射状に伸びていた。その中心は────新宿。
新宿に向かう車内。刑事が聞く。「『人食い地下鉄』と菌類はどう関係しているんだ?」
バカ女が応える。アレは一種の冬虫夏草。菌類が怪物を操り、養分を漁っているのだと。
「『人食い地下鉄』も、あの菌類に依存する何らかの生物でしょう」再び刑事が聞く。
「なら・・・・・新宿地下に何が有るんだ?」「・・・行って見なけりゃ、判らんでしょうね」
新宿に到着。先遣隊からの報告を受ける。地下鉄構内に横穴が見つかったそうだ。
人工の穴でも自然崩落でもなく、何かの生物が掘った穴。都庁方面に伸びているらしい。
その時別働隊から連絡が入る。またあの『地下鉄』と『樹』の出現が有ったらしい。
「丁度いいです。待ってみましょう」横穴の各所に監視カメラが取り付けられた。
20分後、別の場所からの出現報告。刑事が聞く。「おい・・・本当に大丈夫か?」
30分後、ついに来た。あの『人食い地下鉄』だ。「ここが・・・奴等の根城なのか?」
刑事が呟いていると、もう一匹やって来た。2匹ともあの横穴に入っていく。
「1匹じゃ無かったのか・・・」「あの広い地域で目撃が多数有りましたからね」バカ女の声。
「十数匹いると見て差し支え無いでしょう」何か後ろでゴソゴソしている。
見ると、バカ女は登山着の様な格好に着替えていた。「さ、行きましょ」
「な・・・・何処へ!?」「あの穴の中へ。鬼が出るか、蛇がでるか・・・・・」
109 :
第X話 夜光樹:05/02/01 22:57:50 ID:YqTiJbQc
結局彼女の強引な押しにより、穴の中への調査隊が結成された。勿論彼女も入っている。
「一応民間人だからな、危ない様だったらすぐに外へ・・・」「はいはい、了〜解」
穴の中へ入っていく調査隊。雑誌記者は刑事と共に外の通信車内に留まることとなった。
遠くで地下鉄の音が鳴っている。バカ女から通信が入った。
「入り口から20m、何も無し」淡々と告げる。また何処かで地下鉄の音がした。
「・・・な、これは・・・・」何か見つけたらしい。「如何した?何が有った」
「化石・・・・・物凄い量の化石が」彼女だけでなく、他の隊員も興奮しているようだ。
「巨大な植物や羽虫が・・・まるで生きている様に・・・」その時、悲鳴が聞こえた。
「何だ!?おい!」返事が無い。何やら通信機の向こうが騒がしい。やっと誰かが出た。
「様に、じゃない・・・」バカ女だった。「化石が・・・生きている!」また地下鉄の音。
「おい!周辺の地下鉄は封鎖したんじゃなかったのか!?」刑事が怒鳴った。
「いえ、確かに前線封鎖したはずで・・・」ならば、さっきからのこの轟音は?
「いけない・・・」バカ女からの通信。「今私たちはどの辺に居ますか!?」
都庁の真下。刑事が応える。「ならば・・・都庁の人も・・・貴方たちも・・・・避難を!」
それを最後に、もの凄い地震が通信車を襲った。
よろめきながら通信車を出る刑事と記者。轟音の中、捜索隊の面々が驚愕している。
「退避!・・・・総員退避だ!!」しかし誰も動かない。皆あさっての方を向いている。
同じ方向を見る刑事と記者。其処には都庁が屹立していた。
巨大な発光する幹に貫かれ、絡みつかれ、恐るべき姿へと変貌しながら。
薄暗い穴の中。バカ女が目を覚ます。どうも崩落に巻き込まれたらしい。他の隊員は?
よろめきながら立ち上がり、前を見る。其処にはあの『人食い電車』。何匹も居る。
その体、電車状の部分から、あの『発光する樹』が生えていた。
見ると隊員が何人も『樹』の枝に絡みつかれて倒れている。
ある者は安らかに、ある者は笑いながら、ある者は慄き叫びながら。
『人食い電車』の中からも人の声が聞こえる。どうやら生きているらしい。「・・・成程」
女が呟く。「これがあんたたちの───『会話』、なのね」上を見上げた。
強く輝いている所が有る。女は枝に手をかけ、昇り始めた。
捜索隊は混乱していた。総員退避の後、離れた所で点呼を取る。数が合わない。
何人も抜けている。連絡の取れないチームも有った。「な・・・どうなっているんだ!」
と、集まっていた内の何人かが、ふらふらと都庁方向に向かって歩き出した。「おい!」
刑事が止める。反応がない。掴んで揺さぶる。都庁の方を向いたままだ。
「刑事さん・・・」記者の声。後ろへ振り向く。記者もまた都庁の、『樹』を見つめていた。
そしてふらふらと歩き出す。「おい!どうしたんだ!?」刑事の声も届かない。
さざめき蛍の様に発光する巨大な柳と化した都庁へと、歩み出した。
巨大な『樹』の幹の群。その只中に輝く突起。バカ女が辿り付いた。
目が眩む。輝きが脈動を始めた。彼女の体に細い枝が伸びてくるが彼女は気にしない。
輝きが大きくなる。縦に伸び、形を取り───やがて、彼女の姿になった。手を差し伸べる。
ナップサックを降ろす彼女。「残念だけど」輝く女へ向かい合う。
輝く女の顔に、拳を一突。顔を突き抜け突起に入る。「話せる事は、何も無いわよ」
手を離した突起には、時計仕掛けの爆弾が一つ。
何処かで爆音が響いた。驚き回りを見渡す刑事。我に返る隊員たち、そして雑誌記者。
見ると、あの『樹』の発光が止んでいた。通信機に連絡が入る。バカ女からだ。
「今『樹』の真下に居ます。行方不明者も此処に居ます」
あの穴の奥へ進む捜索隊。その先の『樹』の前に彼女は立っていた。
「お疲れ様です。行方不明者はその辺に居ますよ」確かにあちこちに倒れている。
動かない『人食い地下鉄』の腹を破ると、その中にも居た。皆意識は無いが生きている。
「一体・・・何が有ったんだ?」刑事が聞く。「この『樹』・・・寂しかったんですよ」女が呟く。
「は?」呆れる刑事。「此処はね、古代の化石が詰まった岩塊の中です。
「その中に有った胞子が何らかの理由で蘇り、同じように眠っていた古代の節足動物・・・
「あの『人食い地下鉄』と催眠効果のある光を使って、人々を集めていたんです」
ならば何故行方不明者が生きている?彼女が答える。「だから、話し相手ですよ」
「蘇っても仲間の樹は居ない。寂しさに耐えかねて、そこいら辺中にいる生物、
「人間を捕まえて、仲間とやってたように枝を繋いで、おしゃべりしてたんですよ。
「それでも足りずに巨大化して、さらに人間を集めようとして・・・・・」
「じゃあ何で、光るのを止めたんです?」呆れかえった刑事が聞く。
「私も誘われたんでね、話し掛けられた時、爆弾の一撃と一緒にこう答えたんですよ。
「『迷惑だから、死んでくれ』ってね」 上を見上げる。「だから、ホラ」
『樹』が枯れていた。枝が、幹が黒くカサカサになり、ボロボロと崩れ落ちていく。
驚く刑事と捜索隊、そして記者。「アポトーシス・・・・・生命の自壊です」
刑事が鼻で笑った。「じゃあ何です、この樹は寂しさのあまり自殺したと!?」
女が答える。「一人ぼっちの時に死ねとか云われたら、樹でも死にたくなりますよ」
「どこか打たれてる様ですね、早く病院お連れしましょう」捜索隊が女の腕を掴む。
「一人で行くわよ」手を振り払って、穴の出口へ向かう女。
記者は一人佇み枯れた『樹』を見上げた後、バカ女を追いかけて出口へと向かっていった。
会社に出勤する記者。またバカ女が遊びに来ていた。今日は元気が無い。
窓を開けて外を見ながら、煙草を吸っていた。あれは新宿の方向だ。
そのまま放っといて、仕事にかかる。
昼休み、バカ女はまだ同じところでぼうっとしていた。話し掛ける記者。
あの『樹』と枝を通じて会話した時の事を話した。
あの『樹』の寂しいという感情が痛いほど伝わっていたらしい。
「あの時・・・あたしはあの『樹』に、本当に『死ね』て云うべきだったのかしらね・・・・・」
背伸びをすると、「あ〜、そろそろ帰るわ、ごぉめん」仕事に戻る雑誌記者。
メールが入っていた。投稿記事らしい。開いてみる。
それはあの『人食い地下鉄』の目撃証言だった。写真まで添えてある。
目撃の日付は・・・あの事件の翌日だった。まだ───生き残りが?
窓へ振り向く。バカ女は居なかった。もう帰ったらしい。PCへ向き、画像を見つめる。
雑誌記者は夢想する。あの『樹』は、いまだ闇の中を走りつづけているのだろうか。
寂しいよう、寂しいようと嘆きながら。
113 :
第X話:05/02/02 01:57:27 ID:i2hKd7rh
ディアブロスも強いですage
114 :
名無しより愛をこめて:05/02/02 19:56:07 ID:n57R3I7F
小町version 2.0
文字通り
「 な ん で も し ま す 」
ってぇのは反則ですか?・・・・・あぁそうですか、期待します。
115 :
名無しより愛をこめて:05/02/03 05:08:58 ID:zjAzLiCF
第X話さん。
あんたの話は面白いし、俺も楽しみにしているんだけど、
「馬鹿女」に名前付けてやれよ。かわいそうじゃないか。
少年は怯えていた。
学校の帰り道。見知らぬ店。見知らぬ大人。聞いたことの無い音。分からぬ小路。
転勤族の息子の彼は、何処の町にも慣れる事が出来なかった。今度の街も同じ。
小走りに人の中を駆けて行く。突如有線のサイレンが鳴った。驚き逃げ出す少年。
・・・・・・───疲れてしまった。途方に暮れ、見知らぬ公園の植え込みに腰掛ける。
「おい、お前」声がする。「おい!」驚き顔を上げる。自分に声を掛ける人が?
前に立っていたのは、同じクラスの同級生4人組。何かとちょっかいを掛けてくる奴らだ。
「こんなとこで何やってんだ?お前ん家川の方だろ?」そういえば、此処は何処だろう。
急に寂しくなってきた。涙ぐむ少年。「しゃあねえなあ・・・近くに連れてってやるから泣くなよ」
眼を摩りながら山際の国道を歩く。「そうだ!この子をあの場所へ連れてってあげようよ!」
紅一点の女の子が云った。「そうすれば元気も出るって!」「・・・・そうだな!」皆の同意。
「おい、今からイイとこに連れてってやるから、しっかり付いて来いよ」
そう云うと、4人が一斉に走り始めた。訳も判らず必死に付いて行く。脇道に逸れた。
街中の小山の山道だ。枝が掠める。木の葉が散らばる。オナモミが付いて痛い。
と、やっと開けた所に出た。「お、来たか」4人は既に到着していた。苦しい。息を整える。
「ほら、見ろよ」顔を上げた。町並みが見える。
街が蠢いていた。鉄塔が歩き、ビルが震え、煙突が踊っていた。
リーダ格の男子が云う。「此処は俺たちのとっておきの場所だ。どうだ、すげェだろ?」
男は腹を立てていた。
大学入学と同時にこの街を出、一流企業に入社、全て順風満帆だと思っていた。
しかし何故か地方の事業所への転勤。この街の再開発事業に乗って新事業を起こす為、
派遣されたらしい。体のいい島流しだ。そう思った。
少し前にここに配属になった男とミーティングをする予定だった。だがなかなか来ない。
椅子に座り人差し指をツカツカ鳴らす。やっと来た。遅いとなじる。道に迷ったそうだ。
「いい大人が1週間も居る街で道に迷うんですか?」痩せた眼鏡の男が答える。
「この街・・・道が判り難いんですよ」確かに自分も迷った。地図が当てにならない。
地図上で道があるのに家が有ったり、目印にした建物に近づけないこ事もあった。
「兎に角事業所へ行きましょう」そういうと、眼鏡の男が役場の担当との面会が有ると云う。
先に云ってくれ。そう思った。
商店街の街角。少年たちが買い物をしていた。かっぱえびせんとチョコ、ジュース。
これから昨日見たあの街に蠢く怪物達に会いに行くという。何処なのか問う。
「何処かなんて判るわけないだろ?」リーダー格の男子がそう云うと、走り始めた。
彼等は何処か奇妙だった。場所にも、時間にもルーズなのだ。いや、彼等だけではない。
学校の先生、友達の親、お店の人。皆そうだった。確かにこの街で正確さは意味が無い。
何せ常に街が移り変わっているのだ。道が、家が、建物ができては消えていく。
街の住人はそれを判っていながら、ルーズながら普通に生活しているのだ。
樹に登る少年達。目の前には小さな森が有る。横に神社が有るようだ。
「見てな」リーダーの男子が口笛を吹く。すると森が風も無いのにざわめき始める。
「よーし、それっ」かっぱえびせんを一つ投げる。すると、空中で消えてしまった。
消えた地点の一寸横に三白眼が輝いている。・・・・・──怪獣だ。驚く少年。
「ほら、そっちにもやれよ」横を見ると、木の幹が物欲しそうに口を開閉していた。
「恐がんなよ。結構大人しくていい奴らだぜ?」少年も、そっとチョコを投げる。
男はやっと町役場に着いた。道に迷ったのだ。地図に無い塀が出現していたのである。
応接室に通された。担当者と町長に遅れを謝る。遅れた理由を云うと、
「その場で一服でもしてりゃあ、道も現れてくれたでしょうに・・・・」愛想笑いの担当者。
そのまま挨拶と事業の説明をする。しかし、どうも話が噛合わない。
事前に頼んでおいた下準備もしてなかったらしい。のらりくらりと会話をかわされる。
「いいかげんにしてください!」キレる男。驚く町長と担当者。眼鏡の男が押さえにかかる。
結局今日はそこで切り上げ、明日以降に本題を議論することとなった。
足早に町役場を出て行く男。「さ、事業所にいきますよ。どの辺ですか?」
「・・・・・、それが、私にも、まだ良く・・・」頬が引きつる男。取り合えず駐車場へ向かう。
夕方。少年達の帰り道。おかしは皆怪獣達にやってしまった。「どうだ、面白かっただろ?」
と、話の途中で皆が歩みを止める。来た時道だった所に長い建物が出来ていた。
「あいつらだよ」確かに少しづつ動いている。「ま、待ってりゃ退いてくれるさ」
空を見上げる。夕焼け空の中、カラスが一羽。
突如後ろからブレーキ音。車が一台止まっていた。窓から顔が出る。「ありゃ、まただ・・・」
「あ、父さん!」少年が叫ぶ。「お、お前どうしたんだ?」眼鏡の男が驚いた。
帰り道である事を話す。すると車内から無愛想な声。「早く行きましょう。この道は通れない」
「じゃな。夕飯までには帰れよ〜」車は後ろのT字路までバックし、別方向へ走っていった。
「あ〜あ、あっち進行方向じゃねえか・・・また道無くなるぞ」太った男子が云う。
見ると怪獣が退いたらしく、道がまた出来ていた。「さ!行こうぜ」
迫る夕闇の中、一番星が向こうの空に瞬いていた。
翌朝。家を出る準備をする少年と父親。「・・・お前、もう友達出来たんだな・・・」髭を剃る。
「もうこの町、慣れたのか?」歯磨き粉を絞る。「ううん。でも、すっごい楽しいよ!」
「そうか。ま、程々にしとけよ。道に迷って帰れなくなったら大変だしな」
そんな事はどうでもいい。今日は、あの怪獣に乗れるというのだ。
男は事務所で目を覚ました。町外れの再開発地区の新築のビル。その7階。
結局借りたアパートにも帰れず、男はここで一夜を過ごしていたのだ。
窓から外を見る。同じ新築のビルが6っつ。計画書ではビルは3っつの筈だった。
「これだから、この町は・・・」悪態をつく男。
「ほら、あれだ」放課後の少年達。山際の林の中。鉄塔が傍にある。
鉄塔を見上げると大きな頭が降りてきた。少年を見つめる。「新入りだからな、興味あんだろ」
今日はこいつに登るのだという。木登りの様に上まで登る。頂上に着いた。少年が云う。
「・・・でもこれじゃ、ただ高い所なだけじゃ・・・」「へへ、見てな」リーダーが前に出る。
「ほ〜れほれほれ・・・」鉄塔に何かしている。と、鉄塔がぐらりと揺れた。動き始めたのだ。
「くすぐってやったのさ。さ、行くぜ!」鉄塔は、町を目指して歩き始めた。
町並みが下に見える。人々が歩き、車が走る。小さな怪獣達も蠢いていた。興奮する少年。
「よ〜し・・・」痩せた男子が更にくすぐる。鉄塔が加速した。「わわ・・・速いって!」
鉄塔に捕まる少年達。見ると目の前に真新しいビルが有る。「おい・・・ヤバくないか?」
「やばいって!」止まらない。ビルが迫る。「止まれ〜!」「止まれってば〜!!」
ふと外を見る男。何かが近づいてくる。大きな、巨大な、鉄塔が、走ってくる!!
「わ──────!!!」 ガシャシャ───ン・・・・・
ぶつかってしまった・・・・・。やっと止まった鉄塔。少年が捕まった鉄柱にへたり込む。
「あちゃ〜。ま、よくある事だよ。気にすんな!」鉄塔が馬の様に身震いする。
見ると、鉄塔が部屋の中の男を見つめていた。男はへたり込んでいる。
「ああ、あの人も新入りか」リーダーが後ろを向く。「お〜い!おまえら〜!!」
なんと後ろの新しいビル四つに皿の様な目玉が出来た。「新しいお隣さんに挨拶しとけよ〜」
ビル四つがうんうん頷く。何処かかわいい。「じゃ、すんません!失礼しました〜」
鉄塔を再びくすぐって方向転換。その場をのしのし離れていく。
「ウワアアアアぁ〜・・・」見るとビル四つが体を曲げてぶつかった部屋を覗き込んでいた。
あれは怖いだろうな。そう思いながら、少年は鉄塔に揺られていった。
夕方、ご機嫌で帰宅する少年。自宅の扉を開けると、両親の声が聞こえてきた。
「・・・いきなりだよ。相当ひどい目に遭ったらしくて・・・」「それにしても急ねえ・・・・・」
「お父さん?」少年が話し掛ける。「ああ、お前か」どうも急な出張に出るらしい。
2、3日帰ってこないそうだ。挨拶もそこそこに出て行ってしまった。
父の不在などどうでもいい。宿題をやりはじめる。明日も皆と、怪獣と遊ぶ為だ。
翌日も皆と遊ぶ少年。怪獣の背中に乗ったり、人懐こいのと鬼ごっこしたり。
何より、この街は飽きる事が無かった。毎日町並みが変化していく。明日はどんな街だろう。
それを楽しみに、毎晩布団に潜る日々。
ある日、街中で妙な連中に声を掛けられた。テレビ番組を撮っているという。質問された。
街の事、人々の事、そして怪獣の事。「怪獣がうろついているんだよ。恐くない?」
にやにやしながら質問してくる。変だ。この人は変だ。
「恐くないよっ!」そう云い捨てて、少年は走り去った。恐いもんか。楽しいんだ。
それから数日。テレビを見て愕然とした。この街が出ている。怪獣の事も。
何処となく否定的な内容だった。怪獣についての住民のインタビュー。知らない人ばかりだ。
「怪獣のせいで家が壊されて・・・」「恐くて外も歩けません」痩せた中年女性が答える。
余った野菜を怪獣にやる八百屋のおじさんは?庭の怪獣と茶飲み話をするお婆さんは?
続いて識者の解説。「この怪獣達は以前退治された、ゴルバゴスという怪獣に類縁と・・・」
やはり否定的だった。何なんだ!?この知ったかぶりは!!識者が話を閉める。
「いずれにしても、ここまで放置した行政の責任が問われる事でしょう」
翌日、学校ではテレビの話題で持ちきりだった。どの局も同じような内容だったらしい。
誰かがインターネットのHPのプリントを張り出していた。携帯でそれを見ている奴もいる。
どうもこのHPが発信源とのことだった。どことない不安を抱えながら授業を受ける。
父親はあれ以来、まだ家に帰っていない。
放課後、友達の家のラーメン屋で集まる。今日はどうするか話をした。
ここ数日で急に街中にマスコミ関係者が増えた。あちこちでカメラやマイクが動く。
怪獣達も迷惑そうだった。相談していると、向こうから騒音と悲鳴が聞こえた。
しばらくして救急車。どうもマスコミが怪獣にちょっかいを出して尻尾で追い払われたらしい。
「いらねェことするからだよ、バカもん共が」常連のおっちゃんが悪態をつく。
頭上のTVでは、この街と怪獣についての国会答弁が中継されていた。
翌日、学校は臨時休校になった。ついに自衛隊が出動する事になったのだ。
避難途中、母親の知り合いからついに怪獣が退治されると聞く。少年は走り出した。
避難途中の友達とも出会う。しかし話もそこそこに、再び走り出す。
自衛隊を止められる訳でも無い。何故走るのか。ただ、怪獣達に会いたかった。
横を装甲車が走り抜ける。街の広報車が避難のアナウンスをして廻っている。
「君、危ないじゃないか」誰かに腕を捕まれた。男だ。あの鉄塔が突っ込んだ部屋の。
「ああ、君は・・・あいつの息子さんだね。お父さんが心配するよ」「誰・・・?おじさん」
「君のお父さんの知り合いだよ」そんな事はどうでもいいと、振り払う手を捕まれる。
「止めなさい。今から怪獣退治が始まるんだから」
「怪獣退治なんて・・・させるもんか!」叫ぶ少年。「無理ですよ。私が手配したんだから」
はっと男の顔を見る少年。「ネットにHPを作って、マスコミにリークして・・・・
上司や社長から野党に働きかけて。結構苦労しましたよ。怪獣退治をしむけるのに」
「何でだよ!なんで怪獣を退治するんだよ!!」半泣きで叫びかける少年。
背後で自衛隊が動き始めた。
「君や町の人達はいいかもしれない。しかし外から来た人や慣れられない人はどうなる?
「あの怪獣達に辟易してるんだよ。事実私もそうだ。だからこの街を出たんだ。
「街を発展させ豊かにするには、外から人々を集めなくてはね。なら怪獣達は邪魔だ。
「町長さん達も、納得してくれてるよ。皆納得済みなんだ」
街の上空に自衛隊のヘリが飛ぶ。街の上空で何か爆発した。
「そんなはず無い!」泣き叫ぶ少年。「卑怯だ!お前ら皆卑怯だ!!」
「卑怯で結構」冷静な男。
「この世は卑怯者が創ったんだ。卑怯が嫌なら原始人に戻りなさい」
「くそー!!」ついに振りほどく少年。止める男の声など顧みない。
土煙が舞っている。少年は走り抜ける。あいつ等は?怪獣達は?
どうも道が綺麗だ。ごみごみしてない。変わりにあちこちに赤い塊がうろついている。
怪獣達だった。体表に赤い染料を掛けられ、姿を表しているのだ。どこかで発砲音。
小さな怪獣を見る。弱っているようだ。目も耳も鼻も染料で塞がれ、必死で口で呼吸している。
あれは?あの鉄塔は?山の中腹で、ロケット弾が打ち込まれ鉄塔がよろめいていた。
煙突を背中に連ねた怪獣が短い尾を振って必死に自衛隊に応戦している。
真っ赤になった四つのビルが、道路でもがき苦しんでいた。
見ると、先程の小さな怪獣に、自衛隊員が銃口を向けている。
「やめろーっ!」飛びつく少年。「な、何だ!?」振り払う自衛隊員。
「なんで民間人がうろついている!何をしてるんだ、確保しろっ!」
その時、地鳴りがし始めた。「な、何だっ?」驚く自衛隊員の手を振り解き、再び走る。
土煙が晴れた。赤く染められた怪獣達が、地面に潜り始めている。逃げ始めたのだ。
「逃げるぞーっ!逃がすな!」自衛隊員の声が響く。
鉄塔が。煙突が。四つのビルが。神社の森が。土煙の中に沈んでいく。
足元を見ると、さっきの小さな怪獣が必死に穴を掘っていた。こいつは見たことが有る。
一番最初に怪獣に会いに行ったとき、初めてチョコをやった怪獣だ。
ポケットをまさぐる。キャンデーが一個入っていた。剥いて怪獣に差し伸べる。
怪獣は染料に濡れた顔を上げ、じっとキャンデーの方を見ると、
キュウと一言鳴いて。
地面の中へ潜っていってしまった。
少年は悲しくなった。悲しくなって涙が出た。キャンデーを取り落とし、土埃の中、号泣した。
行ってしまった。彼等は行ってしまった。もう戻ってこない。
民間人確保の連絡をする自衛隊員の横で、少年は泣き続けた。
少年は扉を閉めた。また、引越しをするのだ。父親が再び転勤になったのである。
町の風景を見る。妙に小ざっぱりしていた。この前新開発地域で式典があった。
小奇麗な物が建っていた。何かデパートらしい。参加した町の人達は笑っていた。
父も笑っていた。あの男も笑っていた。事業の成功を祝っていた。
でも、彼等はもういない。
街の住民は呆然としていた。しかし、やがて動き始めた。町の外の時間の中で。
もう道が出来るのを待つことは無い。いつも決まった道が有る。建物が有る。
もう彼等は居ない。この街は普通の街になってしまった。
あれから友達とも疎遠になった。見送りにも来ないだろう。
「まさか街に擬態した怪獣と暮らしてたとはなぁ・・・まあ退治されて、よかったよかった」
父親の話など聞こえていない。車が動き始めた。後部座席から街を見る。
変わらない。味気ない。つまらない。其れは今まで幾度も見てきた、
見知らぬ街と同じだった。
峠に差し掛かり、街の遠景が見えた。動く物を捜す。風景は沈黙していた。
寂しくなった少年は、動く物を捜しながら、見えなくなるまで街を見つめていた。
126 :
第X話:05/02/09 01:30:40 ID:RGUVZY5a
>>115すんません何となく考えているんですが固有名詞は余り使いたくないんで・・・
訓練所片手剣ムリポage
「おい、ちょっと待てって」暗闇に数人の男女の声。「何引いてんのよ、早く早く」
夜の森の中。懐中電灯が揺らめく。その先に、建造物。「ほら、これだ」
大きな洋館。相当古い。あちこちひび割れ、蔦が這っている。廃墟のようだ。
「ここが、穴場・・・?」「そ。出るらしいぜ、ヤバイのが」扉のノブに手を掛ける。
鍵は掛かっていない。キイと鳴って開く。中に入る面々。「お〜・・・広いな・・・」
階段。暖炉。ろうそく立て。全て蜘蛛の巣が掛かっている。砕けたシャンデリアが落ちていた。
何組かに分かれ、屋敷内を散策することになる。
二階の廊下を歩く男女。と、横の部屋の中から音が聞こえた。「・・・な、何?」
男が扉のノブに手を伸ばす。するといきなり扉が開いた!!「ウガ──!!」
クモの顔をした人間が襲い掛かってくる!「うわああああ───!!!」ビビる男。顔を覆う。
「・・・何やってんの?」女は白けていた。
「何?単なる肝試しだった訳?」入り口に集まる面々。どうも他の組も同じ目に遭ったらしい。
「いや〜盛り上がるにはやっぱ出ないとね〜」蜘蛛の面を被っていた先輩が言う。
女が一言。「だっさ・・・」気まずくなる男連中。と、そこでもう一人の女が気付く。
もう一組足りない。帰ってきてないのがいる。
屋敷内を捜す。確か地下室が有るとのことで其処に行った筈。扉を見つけ、階段を下りる。
「うわぁ・・・・」降りた其処は、白銀一色。壁も床も、氷で出来ていた。しかも澄んでいる。
まるで水中トンネルの様。周りを見ながら進む男女。と、右手に動く物が有る。
金魚だった。ゆらゆらと泳いでいる。白銀の壁の向こうを。・・・これは氷じゃないのか!?
と、金魚の向こうから人影が近づいてきた。水中に浮いているように。壁に手をつく。
それは居なくなった一組の女だった。氷壁に顔を近づけ微笑する。その眼には、
黒目しか無かった。
高速道路を走る車の中。雑誌記者が運転している。後部座席には友人の変人女。
「・・・・・で?あたしを何処に連れて行こうって訳?」両手を背もたれに掛けて煙草を吸う。
「編集長直々でさ、断れなかったんだよ。スミ先生からも御声がかってるし。だから・・・」
「何処だって聞いてんのっ!」怒鳴るバカ女。「・・・山梨県。富士五湖の辺りだよ」
「ふーん、あっそ」そっぽを向いてしまった。どうも機嫌が悪い。起こすんじゃなかった・・・。
古びた旅館に着く。車を降りてバカ女を起こす。「んー?」矢張り機嫌が悪い。
と、旅館から誰か出てきた。編集長。デブに眼鏡の男。そして口髭の長身の男。
「やあー久しぶりだね調子はどうだい?」口髭の男が息継ぎ無しで一気に話す。
「久しぶりです住之江先生」挨拶する記者。「で、えー噂の有望新人女流作家さんはいずこ?」
「・・・どうも〜・・・」バカ女が這いずり出てきた。「ほー君かね君かねどうぞよろしく、で・・・」
一人で何かまくし立てている。「・・・これがあの『スミ先生』?」「そ」「あたし自信無いわ・・・」
デブ眼鏡はTVのプロデューサーとのことだった。
旅館の中で早速ミーティングが始まる。「えー、今回の取材はこの周辺で噂になっている・・・」
「・・・取材だったのコレ?」呟くバカ女。「気付かなかったか?」答える記者。
今回の取材は、地元で噂になっている廃洋館の調査との事だった。何人も屋敷に入って
行方不明になっているらしい。由来について奇妙な話もついて回っているらしい。
そして、TV番組とバカ女がレポートを、スミ先生が小説を書くというタイアップ企画だそうだ。
「スミさん小説家だったの?」呟くバカ女。「知らなかったのか・・・」呆れる記者。
「そこのお嬢さんに由来話は説明してあげましたかね君?」スミ先生が呼びかけた。
「え?いえ・・・」驚く記者。「よろしいワ〜タシが説明してあげましょうよく聞きなさいネ?」
「ウザイ・・・」うつむいて小さく呟くバカ女。
昔々。といっても戦前の話。この通称「氷室の屋敷」には一帯の大地主が住んでいた。
西洋かぶれで屋敷を西洋風の洋館にした位だが、何故か妙な風習を頑なに守っていた。
曰く屋敷の奥に氷室が有り、其処に氏神をお祭していたと。しかし有る時、
アメリカ帰りの息子が奇妙な事をし始めた。氏神様と直接会って話をするという。
その為か様々な機械が持ち込まれた。お祭の前日に何か決行されたらしい。
そしてお祭当日。お屋敷内から全ての人間が消えた。
「という訳で現在まであの洋館は廃墟のままとなってるワケですね〜どうでした?」
ヤバイ。この女寝てやがる。「は〜、不気味ですねェ」バカ女を突付いて起こす。眼を開けた。
取材は明日にして、今日は旅館に一泊する事となった。・・・・コラまた寝るなよオイ。
予習ということで、予備調査したスタッフの撮った映像を見ておく事となる。
普通の廃墟だった。演出次第ではイイ感じになるかもしれない。ハイライトは氷室の場面。
そこに古い神棚を設置する予定だそうだ。結局ヤラセか。ジュースを買う雑誌記者。
スリッパでペタペタと自室に戻る。自室ではバカ女がまだビデオを見ていた。
見ると同じ場面を何回もリピートしている。「おいいいかげん部屋に戻れよ。眼でも醒めたか?」
「ねえ・・・これ、どう思う?」氷室の場面だった。幻想的だが異常は無い。「・・・何が?」
「コレ」氷室の壁に紅い点が有った。汚れか?バカ女がコマ送りにする。
紅い点が動いていた。生き物だろうか。「大きな・・・・虫?ゴキブリとか」
いや、不自然だ。バカ女が呟く。
「コレ、金魚に見えるんだけど、気のせい?」
あの……落としものですよ?
.∧__,,∧
(´・ω・`)
(つ夢と)
`u―u´
あなたのすぐ後ろに落ちていましたよ?
翌日の昼。旅館の前で撮影が始まる。スミ先生とデブ眼鏡が入り口で話をしている。
スタッフも何人か居るようだ。「ああ〜お嬢さん早く来なさい始まりますよ撮影?ささ」
スミ先生の声。メイクの人が待機している。しかしバカ女は廃洋館の下見に行くと云う。
「編集長、こいつ借りてきますよ?」同行させられる雑誌記者。
洋館に着く。既に何人かスタッフが居る。撮影用意をしているようだ。中に入る。
「どしたんだよ?急に」周りを見渡すバカ女。「ん・・・・・ちょっとね」「あの映像か?気にすんなよ」
気にせず階段を上がっていくバカ女。付いて行く記者。二階の突き当たりの部屋に入る。
どうも書斎の様だ。「ここか・・・」聞くと、昨夜の映像に此処が映っていたらしい。
散乱した書籍の山。未だ並べられた皮革の背表紙。全て洋書の様だ。
目を転じると、部屋の片方に妙な金属や硝子製の器具が並んでいる。
「此処の主は、科学者か何かだったのかね・・・」一つ本を取り出し開くバカ女。図面が有る。
どんな図面か確認する間も無く、ボソリと真中から裂けて落ちた。
その時、表から声。「先生方が着きましたよ〜」
既に夕方になっていた。いよいよ廃洋館の撮影に掛かる。芸能人らしいレポーターが居る。
そろそろと廃洋館に入っていく面々。しかし記者は留守番だ。「ま、気を落とすなよ!」
デブ眼鏡が背を叩いた。「何なら氷室を先に見てくかい?準備手伝ってくれたらね」
「この屋敷の下には富士山の火山活動によって出来た氷洞がありまして・・・」スミ先生の声。
最後部で周りを見渡すバカ女。・・・何か、違和感がある。昼からずっと。ぬぐい切れない。
「どうしましたお嬢さんご気分でも?」撮影の終わった先生が覗き込む。
「いえ」無視を決め込むバカ女。
「うわ・・・」「どう?凄いでしょ」白銀一色の洞穴。驚く雑誌記者。噂の氷室だ。震える記者。
「ま、天然冷凍庫だからね。我慢してね〜」進んでいくデブ眼鏡。スタッフも付いて行く。
手には木材。設置した古い神棚に、思いつきで追加をするらしい。小道具も持っている。
ひたひたと進む三人。スタッフが足を止めた。「どした?」「いや・・・氷の中に何か見えて」
「んー?」目を凝らすデブ眼鏡。「気のせいだろ!」更に進む。この先が神棚だ。見えた。
「さ、とっと作るぞ!」作業を始める。 ・・・と、デブ眼鏡が神棚の向こうを見る。
「おい!誰だこんなガラクタ置いたの!」見ると大きな機械が有る。「いや、それは前から・・・」
スタッフの説明。溜息をつくデブ眼鏡。「邪魔だな・・・おい、見えない所にかたしとけ」
恐る恐る機械に手を掛けるスタッフ。ガコガコ揺らす。重量が有る様で動かない。
背景の氷壁に何か見えた。赤い物がヒラヒラ動いている。
スタッフが丸盆の様な所に乗った。・・・───機械から、キューという僅かな音。
「今、何か聞こえませんでした?」レポーターが反応する。悲鳴のようだ。
「お、まさかラップ音が!?」はしゃぐスミ先生。「あっちからの様ですね」冷静なバカ女。
その方向へ向かう一行。地下への階段の前に来た。下から声が聞こえる。
カメラマンの説明。「此処・・・この後撮影予定の氷室ですよ」
氷室に降りる。声は奥からだ。「この声は・・・プロデューサーですか?」スミ先生が云う。
奥でデブ眼鏡と雑誌記者が座り込んでいた。デブ眼鏡は震えている。
「消えた・・・人間が、消えた!」呆れるスミ先生。「何をバカな・・・」目配せするバカ女。
「本当?」「ああ、消えた」応える雑誌記者。
喚き続けるデブ眼鏡。「それより」記者が声を絞り出す「早、く、逃げるぞ」
はっと気付き周りを見渡すバカ女。氷壁に、黒い影。いや、人影だ。モノトーンの人間。
さっきのスタッフだ。女性らしき人影も居る。壁に手を当て、こちらをしげしげ見る。その眼は、
黒目のみ。
「いやあああっ!」突如レポーターが転倒した。何かに引きずられていく。
いや、氷床の下から、モノトーンの人間が捕まえている。届いてもいないのに。
機械からキューという音。機械の方向に引きずられていく。「くそっ!」飛び出すバカ女。
レポーターを捕まえる。「スミ先生!」は、と気付き参戦する先生。記者も手伝う。
しかし止まらない。見るとバカ女や記者の下にもモノトーンの人間が。「や、止めろっー!」
ついに引き離され丸盆の上に乗るレポーター。ヒュンという僅かな音と共に消えてしまった。
あっけに取られる面々。バカ女が叫ぶ。「逃げるよっ!」皆気付いて駆け出す。
入り口へ。兎に角あの階段へ。角を曲がる。しかし階段への氷床には、人影が群れていた。
別の出口は!?今来た道を後戻る。どの氷床にも人影。結局あの機械の所に戻る。
周りを囲まれた。万事休す!
その時、人影が散らばり始めた。その間を縫ってじりじり進み始める。
機械の後ろに、石造りの部屋が有った。目配せするバカ女。応える雑誌記者。
「こっちです!」バカ女の掛け声を合図に皆で走り出す。石造りの部屋まで後少し。
一瞬、床に紅い物が見えた。金魚だ。それも気にせず走り抜ける。
最後のスミ先生が部屋に倒れこむと、バカ女が勢いよく扉を閉めた。
「ここは・・・?」其処は、上階の書斎を更に酷くしたような部屋だった。立ち並ぶ書籍、器具。
「奴等は?」デブ眼鏡によると追って来ずに、散りぢりになったようだ。だが数体がうろつく。
閉じ込められた。腰を降ろす記者。横ではスミ先生が泣いている。
見ると、バカ女が机上の紙に釘付けになっていた。横から見る。何かの図面。
「・・・あのの機械だわ」そのようにも見える。バカ女は卓上の本を漁る。「・・・有った」
ノートの様だ。注意深く捲っていく。図面に何か文字が書いてある。「何て読むんだ?」
「『物質転送機』よ」バカ女の応え。・・・何だと?「あそこに有るのはその亜流だけどね」
バカ女曰く、あの機械は物質をある種の波動に置換して送信、再構成する機械。
その内、再構成する部分を取り外した物だと云う。・・・・・何の為に?
「コレの為よ」ノートの一頁。紅い金魚のスケッチ。その横にメモ。『氏神様』何か文章も有る。
「コイツはある種の波動で構成された定在波で構成された波動生物だそうよ」
よく分からない。「ま、電波の幽霊みたいなもんとでも思って」
「屋敷の由来話、覚えてる?」必死に思い出す。氏神様と直接話を・・・・・・それでは!?
「息子はあの機械を使って自ら波動生物に成り、氏神様に会いに行ったって事」
じゃああの人影達は、あの機械で波動生物に成った人間なのか!?
その息子はどうなったのだ?その疑問を、外を見張っていたデブ眼鏡が答えた。
さっきから人影が幾つかその場で消えているという。バカ女と外の氷室を見る。人影が一つ。
紅い金魚が寄っていくと、人影が薄くなっていく。「そうか・・・」バカ女の声。
「あの人影からエネルギーを吸収してるのね」人影が消えた。それは、即ち。
「喰われたのよ。金魚にね」
スミ先生が呟く。「馬鹿な・・・波動生物だと?ならば何故見える?音波も電波も見えんぞ」
「多分・・・この氷洞が視覚化させているんでしょう。ブラウン管みたいに」バカ女の答え。
「馬鹿な・・・馬鹿な!認めん!認めんぞ!!こんな事態も、お前みたいな女も!!」
すすり泣く先生。バカ女がす、と立ち上がり先生の方に向かう。「スミ先生・・・・」
ひざまづくバカ女。「一つ、私に策が有ります。協力して頂けませんか?」
キ・・・とゆっくり扉を開く。バカ女が出てきた。片手にはあのノート、もう片手に工具箱。
後ろには雑誌記者、カメラマン、音声スタッフ。最後尾にデブ眼鏡とスミ先生。
全員で連なり前の人間の体を掴んでいる。人間の命綱だ。「早く、しろよ・・・」「ラジャ」
バカ女があの機械に手を掛ける。蓋を外し、ツマミを、配線をいじり始める。
早速人影が掴みに掛かった。「こいつら何で波動なのに、俺等や機械を触れるのかね?」
「判らない・・・」バカ女の応え。「実体に影響を与える、未知の波動なのかもね」
人影が増えてきた。あちこちから掴まれる。「まだか・・・!」「あと、ちょっと・・・」
バカ女が呟く。「よくこんな複雑なシステム、アナログだけで扱えたもんだわ・・・」
と、右前方の人影が避ける。紅い点。金魚だ。近づいてくる。離れていく人影。
金魚にはまだ直接襲われていない。しかし・・・!「早く!」「待って!!」もう目の前だ!
「OK!いくよっ!!」機械に閃光!その瞬間、氷室全体に紫の波が走った。
「皆、出口まで走るよっ!」互いに手を振り解き、走り出す一行。
周りでは人影が形を保てず揺らめいている。「お嬢さん、一体何を・・・」最後尾の先生の声。
「ノイズです。波動のノイズを走らせたんですよ。強力な奴をね」
氷床を走る。あの角を曲がれば出口が見えるはずだ。「うわっ・・・」スミ先生の声。
と、急に足元が真っ赤に染まる。血ではない。大きな、紅い、紅い布の様な、巨大な『金魚』。
「おい!何だよこれ!」「ノイズの、影響かも・・・」「聞いてませんよこんな事!」
「扱ったのは未知の波動よ!?分かりっこないわよこんな事!!」
走る。階段まで後少し。足元に金魚の頭。いや、頭は───頭は無い。
只ぽっかり空いた穴から、次々と紅い布をずるずると後部へと吐き出していた。
階段を駆け上がる。女、記者、スタッフ、デブ、スミ先生。上げた先生の足の下を金魚が過ぎる。
一階に辿り着き、一息付く。と、下から轟音。「走って───外へ!!」
てんでバラバラに、足を縺れさせながら外へ走り出す。外には他のスタッフが。
「ああ、プロデューサー!一体何が?」話し掛けられるが息が切れて答えられない。
最後にスミ先生がふらふら走り出てくる。そのすぐ後ろで、廃屋敷が中から閃光を発する。
2、3度閃光を発すると、ビュンという音を最後に屋敷が消え去った。
僅かな土台しか残っていない。尻餅をつくスミ先生。秘書が駆け寄る。
「おい・・・大丈夫か?」バカ女に歩き寄る記者。「は、まーね」バカ女も腰を落とす。
「何なんだ、今の・・・」「もしかしたら、あの機械で、金魚が、屋敷を消し去ったのかもね」
「ほんとか?」「知らないわよ、あ〜!もう、疲れた!」大の字になった。
「判らない事、だらけだったな・・・」腰を降ろす雑誌記者。「あの機械創った奴、何者だ?」
「さあ、ね・・・」バカ女が図面を置いた。どさくさに紛れて持ってきたらしい。
図面の端に三つサインがしてある。二つは英語。一つは日本語だった。その名は、
『 綾 窪 修 太 郎 』
聞いたことが無い。「併記してるのは、トマス・エジソンとニコラ・テスラよ」バカ女の声。
「よっぽどの、大物なのは確かでしょうね」
あの金魚も、一体何だったのか。聞こうとして、やっぱり止めた。
忌まわしい屋敷も、あの氷室もすべて消えてしまった。それでいいんじゃないだろうか。
「明らかにしなくったっていい物も、この世にゃあるわよ」
見透かしたように、天を仰いだバカ女が呟いた。
138 :
第X話:05/02/17 02:13:39 ID:KEe+3uND
>>130 差し上げます。私が未練がましく持っているよりは良いでしょうから。
願わくば貴方の人生の糧にならんことを。
age
あるビルの一室。薄暗がり。ブラインドが唯一の光源。男がPCのモニタを見ている。
画面には幾つもの表。その中の数値が次々と自動的に更新されていく。
その数値の変動を見ながら、次々と別のウインドウを開き、操作していく。
「よォ、ボスからの連絡は有ったか?」長身の白人男性が入ってきた。手にはコーヒー。
「今日はまださ」PCを見ながら応える。東洋系の顔。「一昨日のが最後だよ」
横の椅子に座り、ネクタイを緩めながら画面を覗き込む。コーヒーをすする。
「にしても最近、変動が激しいよなぁ。今日は?どうだ?」「いや。特に無いな」
「今日も又、空飛ぶ円盤様のお出ましかねェ」背伸びをする白人。「何だそれは?」
「知らね?ジンクスだよ。毎週木曜日、上空に円盤が現れるとコレに大変動が起こるって」
一笑に付す東洋系。「何だよ信じねェのか?」口を尖らす白人。「じゃあ賭けるか?」
「私は嘘に10セントだ」東洋系が云う。「じゃ、俺はほんとに10セント」
と、数値が激しく動き始めた。「お、来たぞ」座り直し、素早く対応していく東洋人。
「お前もそっち使って手伝ってくれ」OK、と答え後ろのPCを操作し始める白人。
と、ラテン系の眼鏡顔がドアから顔を出した。「おい、お前等、ちょっと来て見ろ」
「っせーな、今重要な仕事中なんだよ!」怪訝な顔の眼鏡。「いいから来て見ろよ」
仕方なく席を離れ、ドアの外に出る二人。白人はブツブツ云っている。
しかしそこの光景を見た途端、満面の笑みに変わった。「・・・俺の、勝ちだな」
ち、と小さく舌打してコインを弾く東洋系。白人が空中で掴む。「さ、再開するぞ。大分ロスした」
ニヤニヤ顔で部屋に戻る白人。背後でTVが臨時ニュースを伝えていた。
「こちらNYウォール街証券取引所前です。本日正午過ぎ上空に空飛ぶ円盤が出現し・・・」
140 :
円谷関係者:05/02/18 06:44:41 ID:vRYvdhIV
早く続きを!
薬缶が沸騰している。慌てて火を消し、カップラーメンに注ぐ。箸を重しにして、一息付く。
「何だ?随分しょぼい飯だな」編集長がやってきた。「いや〜、競馬ですっちゃいまして」
椅子に座る雑誌記者。「給料日まで当分コレですよ」「そうか、じゃあ久々におごってやるか」
「本当ですか!?」喜ぶ記者を遮る編集長。「条件がある。あちらのお客さん、相手してクレ」
見ると二人来客用のソファに座っている。「たのむぞ〜ぅ」その場を去る編集長。
若い。二人とも大学生辺りだろうか。ラフな格好だが髪は染めていない。
長髪の方が切り出すが、はっきりしない。ようやく聞き出すと、怪現象の調査依頼らしかった。
携帯を差し出す。「これに掛けてくる発信者を見つけてください」
「うちは探偵社でもNTTでも警察でも無いよ」腰を上げる記者。ラーメンが伸びてしまう。
袖を眼鏡を掛けた方が掴む。「お願いです!明らかに、おかしいんですよ!!」
「・・・で?何であたしな訳?」猫背でラーメンをすする変人女。「便利屋と勘違いしてない?」
「違うのか?」「当然」一気に啜り込んだ。「ケータイを逆探しろっつってもねェ・・・・・」
やっぱり無理か。「警察じゃ無いんだから」ぐいっと一飲み。ハラヘッタ・・・
着信履歴を見る。全て非通知設定だ。「大体何で発信者の事知りたい訳?」
「それは・・・」長髪が言い出したその時、着信音。ビビる二人。「・・・丁度いいじゃん?」
バカ女が電話に出る。「もしもし〜、あんた誰?」少々の沈黙。そして、機械合成の様な声。
「・・・・・ワタシハ、5605マン7048ドル32セント」
「はぁ?」バカ女の奇声と同時に、通話は途切れた。「・・・何コレ」
「えーと、じゃ、後は頼むよ」荷物を片付ける記者。「速めに帰社しないといけないんで」
バカ女の制止の声を無視して帰る記者。昼飯も食ってない。これから編集長のおごりだ!
・・・会社で待っていたのは、退社した編集長の書置き「ちゃんと食えよ」と、
伸びた昼のラーメンだけであった。
翌日。休日なのにすきっ腹抱えて寝ている記者。そこに変人女からの電話。
「ちゃんと最後まで面倒見なさいよー」どうも会いに来いということらしい。
変人女の部屋へ入ると、妙に神妙な顔をして座っていた。あの二人が居ない。
「逃げたわよ。このケータイ押し付けて」そんなにあの着信の主が恐ろしいのか。
変人女の話。「あの二人、ネット売買での株のトレーダーだったそうよ、やり手だった様ね」
彼等によると、株の売買は実はこの携帯からの指示で行っていたと云う。
ある時、小包で出し人不明で送られて来た。その携帯に着信が入り、あの謎の声。
そしてトレーダーの依頼。元々趣味で株をやっていた二人は強く興味を惹かれた。
其の指示は面白い様に当った。かなり儲けた。何分の一かは指定の口座に振り込む。
だがその内、二人は奇妙な事に気付き始める。株式市場の様子がおかしい。
それは、まるで彼等二人を儲けさせる為に動いているといった有様だったそうだ。
あの電話の主は一体何者か?更に、二人は気付いた。見張られている。
一度入金が遅れた時、扉に焼印の様な警告文が刻まれていたそうだ。
そして窓の外には、常に。
「円、盤?」素っ頓狂な雑誌記者の声。「そ、空飛ぶ円盤に見張られてたって」
携帯を弄ぶ変人女。「つまりこの着信の主は、宇宙人!だそうよ」鼻で笑う。
雑誌記者も鼻で笑う。「真ッ逆、宇宙人が株に興味を持ってるなんてなぁ〜」
その時、着信音。ビクッとしながら覗き込む。「・・・・俺が出ようか」記者が電話を取る。
「はい、もしもし〜」・・・眉間に皺を寄せて、変人女に渡す。「・・・何だこれ、宇宙語?」
変人女が出る。其れは英語だった。
『君達、危険ですから今すぐ其処を離れなさい。円盤が狙っていますよ」
変人女が急に身支度を始めた。最小限の物を掻き集めてバッグに詰める。
「おい、どうした?今のは・・・」言いかけた記者を引っ張って外に出る。
「走るよ・・・!」小走りになる変人女。「おい何だよ」その瞬間、背後から閃光、轟音。
振り返ると変人女の部屋辺りが吹き飛んでいた。「早く!」走り始める二人。
急に辺りが翳る。上を見上げると円盤が飛んでいた。自動車位はある。
また走り始める二人。再び着信。物陰に隠れて出る。またさっきの英語だった。
『地下へ逃げなさい。彼は狭い所が苦手ですから』近距離で爆発。光線を打たれている。
近くの廃墟ビルへ。入り口すぐ近くの階段を下る。踊り場を曲がった所で止まった。
壁に背を付け、様子を見る。外から気味の悪い轟音が響く。入り口の外をゆっくり円盤が通る。
やがて円盤が消え、静かになった。着信がまた入る。変人女が出た。
『・・・無事の様で何より。今日は一晩其処で過ごす事です』
息を殺して変人女が叫ぶ。『此処に居たって、アレがうろついてたんじゃ一緒でしょ!?』
『大丈夫ですよ。明日は金曜日ですから』
『・・・は?』呆れる変人女。『それって──』言いかけた台詞に被る。
『私はエド。禿鷹エドと申します。この携帯は捨てなさい。彼に気付かれるでしょうから』
そう云って、携帯の声はふつりと途切れた。
『・・・禿鷹エドの居場所?そんなもん知ってどうすんだよ。第一ありゃ・・・』『OK、もういい』
電話を切る。「米国の知り合いでも知らないか・・・」椅子に座る変人女。「・・・みたいね」
二人は翌日の朝まであの廃ビルの地下で過ごした。確かに円盤はどこかへ去っていた。
その後、雑誌記者の部屋へ行き、あの電話の主を捜し始めたのだ。誰かはすぐに判った。
エドワード・ロジス、通称『禿鷹エド』。一昔前話題になった『ヘッジファンド』の鬼子。
金融工学技術を駆使し、市場を自在に操って巨万の富を得た男だった。
しかし有る時その技術力のあまり世界的金融危機を招きかけ、数カ国に訴訟を起こされる。
裁判は敗訴。多額の賠償金を支払った後、失踪。行方は様として知られていない。
「何でそんな奴から・・・大体アメリカ人だろ?」変人女が昨日の携帯を取り出す。
「これ、衛星回線を通じて通話するタイプね。昔有ったやつよ」再び電話を掛ける。
「何処に?」「友人の友人の知り合い。ほぼ他人だけど『禿鷹エド』の知り合いだったって」
かかったらしい。英語で話す変人女。反応は芳しくないようだ。
『・・・またか。モノ好きに話すような事は無いよ』『お願いします。何か知っている事があれば』
『全く、何故君達がエドの居場所を知る必要が有る?』
『・・・・・円盤に、追われています』
145 :
第X話 木曜日の円盤:05/02/23 01:50:36 ID:ihwIF+8p
少々の沈黙。『・・・君達は、エイリアン・トレーダーかね』 妙な事を云った。
何でも、最近宇宙人からの指示で株取引を行っている連中が居るらしい。しかも沢山。
更に世界中に。このところ株式市場が大きく揺らいでいるのは彼らの動向のせいだという。
『飽くまでも噂だがね』『私達は違いますが、それらしき者と接触しました』更に続ける。
『宇宙人との通信機器も保有しています。そのせいで円盤に追われていますが』
鼻で笑われる。『ならば、のんびりしている暇は無いんじゃないか?早く逃げたまえ』
『いえ、禿鷹エドから、今日は金曜日だから大丈夫だと・・・・・」
声色が少し変わる。『・・・円盤に追われたのは、何時の話だ?』『昨日、木曜日です』
今度は長い沈黙。『・・・・・・よろしい。居場所とまでは云わないが手がかりを教えましょう』
つい先日、エドから手紙が届いたという。出人記載なしだが筆跡がエドだったそうだ。
発送国は日本。手紙にはオクチチブ、ヨツミヤガダニの気候について書いてあった。
「奥秩父・・・」変人女が呟く。『参考になるかね?』『ええ、有り難うございます』
切り上げようとすると、電話の声が制止した。
『最後に彼の事を教えておこう』禿鷹エドの、その後の話。
『彼はあの裁判の後始末が終わった後、身辺整理をして放浪の旅に出たのだ。
『そう、世界中を彷徨っていた。だが彼は孤独では無かったよ』電話の声声が唾を飲み込む。
『彼は、円盤を飼っていたのだ』
146 :
円谷一族:05/02/24 22:54:20 ID:ekKGsfzf
面白いっ!!
続きプリーズ
長い田舎道。山の際にバスが止まる。走り去るバスの後に、変人女と雑誌記者。
「本当に此処でいいのか・・・?」「奥秩父、四宮ヶ谷。古い地名だけどこの先らしいわ」
田舎道を歩き始める。「腹、減ったな・・・」あれから一週間位まともな食事をしていない。
途中の林道で老人に尋ねる。この谷の集落の奥の林の中に、変な外人が住んでいるらしい。
「ビンゴ、ね」ニヤリと笑う変人女。
杉林の奥にログハウスが建っていた。似つかわしくないアンテナや電線が並んでいる。
扉を叩く。数回叩く。返事が有った。そっと扉を開け、中に入る。白髪の老人が立っていた。
外人の為か背が高い。背筋も伸びている。「・・・どなたかな?」流暢な日本語。
『貴方が・・・・・『禿鷹エド』ですね」にこりと笑う老人。「よく、探し当てましたね」
椅子を促され、座る二人。コーヒーをワゴンで持ってくる老人。一口啜り、変人女が口を開く。
「貴方は・・・何者ですか?」「私は───『禿鷹エド』。ヘッジファンドの鬼子。経済の魔王」
老人がワゴンに向いて、二杯目を入れる。「そして──」振り向いた、その顔は───
「───宇宙人、とでも思いましたか?」老人の顔だった。「れっきとした地球人ですよ」
では、あの円盤との関係は?口にする記者に老人が答える。
「そう、私は───あの円盤を飼っていた。あの円盤は私が育てた」顔を見合わせる二人。
含み笑いの老人。「あの円盤は、生物だ。円盤の形をした宇宙生物なのだよ」
続ける老人。「アレはね、私が未だ駆け出しの頃、古道具屋で見つけて購入したのだ」
すぐには気づかなかったが、やがて電子機器を通じて話し掛けてきたそうだ。
PCモニタで、ラジオで、電話で。話し掛ければ反応する。面白かった。色々教えた。
只奇妙なのは彼の一人称。『・・・ワタシハ75ドル20セント』それは、買ってきた時の値段だった。
また、彼に自分の仕事を教えた。彼は異常に興味を示した。貪欲に知識を吸収した。
「其れが、何故・・・」立ち上がる老人。部屋の奥へと向かう。カーテンと、TV。
「判らん。只確かなのは───」TVを付けた。テレビがニュースを伝えている。
其れは、各国の株式市場が一斉に異常変動を起こし始めたというものだった。
「彼は世界中のマネーを食い尽くすつもりだ」
ある日、円盤は異常な行動を取り始めたという。『禿鷹エド』の金融工学技術、人脈、
あらゆる物を駆使して、数カ国の株式市場を大混乱に陥れたのだ。
「私は驚いたよ。すぐに止めさせたが後の祭。相当な被害を出してしまった」
その後、裁判もそこそこに円盤を連れて飛び出した。これ以上被害を出さぬ為に。
だが円盤の手は予想以上に伸びていた。何処へ行っても何がしか活動している。
やがてある日の木曜日、円盤は何処かに出かけたまま、戻ってこなかった。
「そうして私は、こんな辺鄙な場所で、行く末を見守っているという訳だ」
TVを指す。「見給え。彼もこの世の終末を見届ける積りだ」緊急ニュースが入っていた。
『本日午後1時半頃、NYウォール街上空に巨大な円盤が出現したとの情報が・・・』
149 :
第X話 木曜日の円盤:05/02/28 01:15:36 ID:rzISZBYj
「それで・・・如何するんですか」「見守るさ」「・・・それだけですか?」詰め寄る変人女。
「己の生み出したこの世の終末を黙って見ていると!?」笑う老人。「既に手は打ったさ」
カーテンを開け放つ。其処には幾つものPC、モニタ、配線。画面の数値が変動している。
椅子に座る老人。「後は見守るだけだ」問い掛ける変人女。「それだけで・・・大丈夫だと?」
「私を誰だと思っている。禿鷹エドだぞ!」声を荒げる老人。
変動していく株価の数値。「おい・・・どうなんだ?俺にはさっぱり」小声で聞く記者。
「詳しくは解らないけど、このまま行けば、全世界同時大恐慌ね。再起不能の国も出るかも」
証券取引所の上空に円盤が勝ち誇るように浮いている。と、鋭い爆音。
「来たか」戦闘機だ。2、3度上空を通り過ぎる。そして機関砲による攻撃。通じていない。
株価の方は以前大変動が起きている。このまま行けば数十分後には危険水域だ。
円盤から小さな円盤が飛び出した。戦闘機に襲い掛かる。光線を発射した。
この前襲ってきたヤツだ。老人は眉一つ動かさない。変人女が急に前に出た。
「どいてっ!!」椅子から老人を突き飛ばし、椅子に座る。「おい、何を・・・」「どうにかする」
「はぁ!?」「どうすればいいのか解んないけど、何もしないよりマシでしょ!?」
「若いですなぁお嬢さん」老人がゆっくり立ち上がる。「年寄りは黙ってて」睨む変人女。
「若い人はせっかちでいかん。魔王の見えざる手は既に伸びた後だ。ホラ、見たまえ」
PCモニタを指す。数値の変動が止まっていた。
やがて、ゆっくりと変動が始まる。「株価が・・・逆に動き始めた!?」驚く変人女。
TVでも爆音。見ると銀の吹雪の中、円盤にミサイルが打ち込まれていた。
どうもチャフを撒かれたらしい。「互いの電磁波通信を遮断すれば、防御力は著しく低下する」
老人が呟く。「私が進言したのだよ、国防長官にね」命中するミサイル。爆煙。
煙を上げる円盤は、ゆっくりと、ふらふらとTV画面から退場していく。興奮しているレポーター。
「だから云っただろう。私はエド。『禿鷹エド』。」老人が振り向いた。
「円盤など、魔王の歯牙にも掛からぬということさ」
夕刻。老人に促され裏の杉林に入っていく変人女と雑誌記者。樹間の坂道を縫っていく。
老人の背には猟銃。黙々と登る三人。「一体、何を・・・」呟く記者。木の葉が輝く。
と、先導していた老人が立ち止まった。「・・・───矢張り、帰ってきたか」
黄金の光条に囲まれて、林の空き地の中に円盤が居た。
TVで見たほどの大きさは無い。各部に焼け焦げた傷やヒビが入っている。
殻の隙間から、弱々しい燐光を時節輝かせた。「判ってたんですか?」変人女が聞く。
「私は始終こいつを連れまわしてたがね。毎週木曜日だけは自由に飛ばせていた。
居なくなったのが木曜日、今日も木曜だったから、もしやと思ってな」
急に鳴る着信音。変人女が上着のポケットを探る。あの携帯だった。
驚く雑誌記者。「・・・お前、まだ持ってたのか!?」老人が貸すように促す。電話に出た。
「・・・・・ワタシハ、9755マン29ドル11セント」「そうか・・・」老人が哀れむように呟く。
「だがもう其れは過去の数字だ。お前の預金は封鎖されたよ」肩から銃を下ろした。
「お前はもう一文無し、負けたのさ」弾倉を確認し、円盤に向けて銃を構える。
円盤から、哀れを請うように触手が伸びた。引き金に手が掛かる。
「禿鷹は、所詮神にはなれんのだ」
幾度もの銃声。暮れかけた杉林の中に鳴り響く。
銃声が止んだ後、円盤の隙間の燐光は消えた。
立ち尽くす老人。「・・・・・あの・・・」何か声を掛けようとして止める雑誌記者。
独白の様に老人が呟く。「こいつは、君たちに対して自分は何だと云っていた?」
「確か、何万何千何百ドル何セントと・・・」「其れは、こいつ名義の財産の総額だ。
「財産の数字ばかりを名乗りに替え、ついに私の付けた名前は使ってくれなかったよ・・・」
その後老人が何かを呟いた様だったが、二人には聞き取れなかった。
夜の駅前で缶コーヒーを飲む、変人女と雑誌記者。
その後老人は麓からタクシーをわざわざ呼び、二人を日が暮れる前に帰したのだ。
「一人にして良かったのかね・・・」「一人だからこそ、よ」コーヒーを飲む。「にしても・・・」
記者が疑問を口にする。何故宇宙生物が人間の経済などに興味を持ち、なおかつ
自分を表すのに財産総額などを使ったのか?変人女が仮説で答える。
古道具屋で出会った話から、最初に拾われてから結構な人々の手を渡っただろう。
その間円盤に話し掛ける者は無く、有るのは彼を表す『値段』という数値のみ。
その数値によってヒトが行動を変えていく所を、円盤は何度も見ていた筈だ。
「・・・で?」「だから、あの円盤は『マネー』こそ人類共通言語だと思ったんじゃないかって」
如何なる者であれ、人類であるなら金によって話が通じる。たとえそれが命であろうが。
そして『禿鷹』に出会い、それを増殖させる術を学ぶ。それは己の価値が高まる事と同義。
「そして『禿鷹』の力によってこの星の神を目指し始めた・・・・・」
「それこそ、何で?だよ」答える変人女。
「さあね?成ってみたかったんじゃない?この星のバカ共差し置いてさ」
「さて・・・どうする?」時間は夜10時過ぎ。「家に帰る?まだ終電じゃないけど。それとも・・・」
駅前に赤提灯が光っていた。「一杯、食ってく?」
急に思い出す雑誌記者。そうだ、腹減ってた。「・・・そうだな、食うか」「じゃ、あんたの奢りね」
笑いながらヘイヘイ、と頷く記者。伸びてないラーメンなど何日振りだろう。
ふと立ち止まった変人女。まだあの携帯がポケットに入っている。
見つめた後、一息ついて笑い、横のクズカゴへと放り込んだ。
何処かの暗闇。着信音が鳴っている。誰も出ない。出る様子も無い。
だが着信音は鳴り続ける。出ようが出まいが構わぬ、とでも云う様に。
と、着信音が途切れる。誰かが出た。
「・・・・・・────もしもし?」
「・・・・・・・・ワタシハ、190ドル59セント」
153 :
第X話:05/03/05 00:43:20 ID:3KbJKrl9
これまでのビジュアルイメージも晒したいが暇と道具が無い。
金と技術は有るんだがorz
アト恐るべしインフルエンザage
(゚Д。)
ここって第X話さんがずーっと書き込んでいるのか?
タロウスレみたいにいろんな人のも読みたいんだが・・・。
155 :
第X話:05/03/05 19:12:32 ID:LnR/2YTv
誰も書き込んでくれないので必死こいて書き込んどります。
私も他の人の読みたいです。
でもまだネタ一杯溜まってる・・・・・
>>155 ここで書いてもほとんど読まれてないんだから、
どっかに投稿した方が有意義だと思うんだけど
157 :
第X話:05/03/05 21:57:08 ID:z8HCw+Mu
・・・・・此処に投稿するのは邪魔でしかありませんでしたか。
158 :
名無しより愛をこめて:05/03/05 22:02:21 ID:I8Pwmdpw
俺は楽しく読まさせてもらってるよ。
159 :
第X話:05/03/05 23:44:23 ID:pQiwUHML
取り合えず、もう少し続けてみます。
東京、歌舞伎町。夜の盛り場を、老婆が手押し車を押しながら歩いている。
スカーフを深く被り、ショールや何やら着込んでいる。と、横を通る若者に突き飛ばされた。
「・・・っ!気を付け」そこまで云って言葉が詰まる。老人の顔が異常だった。
サングラス、鷲鼻、白い肌。白粉でも塗っているかの様。口には紅がさしてある。
何も云わず逃げるように去る若者。その方向を見つめる老婆。人込と、僅かな植え込み。
人影の中を何かが走った。背は低い。丁度犬かネコ、30cm位か。
人々は気付かない。何かは幾つも走ってくる。いつの間にか植え込みに登った。
植え込みを揺らし近づいてくる。その方を見つめ続ける老婆。微動だにしない。
後2m位の距離と思った瞬間、『ガコッ』と云う音を最後に近付く音が全て消えた。
その方に近付き、見下ろす老婆。其処には小さめの下水の蓋が有った。
突如向こうから轟音と悲鳴。その方に向き直る老婆。何かが来た方向だ。
1ブロック先、道の左側の大きな雑居ビルが、赤々とネオンを瞬かせたまませり出していた。
いや、性格には傾いている。ゆっくりと、しかし確実に。窓を破り様々な物が地上に落ちる。
本、机、観葉植物、人間。やがて反対方向へ傾き始める。いや、沈んでいる。
少しづつ地面に飲み込まれているのだ。少しづつ傾きつつ、ゆっくりと沈み込むビル。
電線がちぎれ、火花が飛びネオンが消える。そして少し沈むスピードが速まったと思うと、
雑居ビルは地面の中へ飲み込まれていった。
白い面の老婆が、口の端をくいと上げている。その後ろ、下水の蓋。少し持ち上がっている。
その下の闇から、いくつかの小さな視線が騒乱を見つめていた。
ていうか、まじおもしろい。嫉妬すら覚えるよ。こんなすみっこで書いてないで、どっか出したら?…って、漏れも具体的にどうしたらいいかわからんが。
age
東京の街中、ある喫茶店。「どうも、お久しぶりです博士」会釈する雑誌記者。
相手は先日、『磐古岳』で取材させてもらった工学博士。雑誌の記事についての相談である。
挨拶もそこそこに本題に入る。「で、今回はどんなネタですかね?」
「先ず、これを見て欲しいんだが」ノートPCを取り出した。デスクトップのファイルを開く。
目盛の付いた画像と横の数値表。「また『AGLS』の調査結果ですか?」「またとか云いなさんな」
『AGLS』とは、振動波により地質状況を観測し、判り易く視覚化できる観測装置である。
以前『磐古岳』の調査に使用し、見事地下の怪獣の姿を映し出した実績を持つ。
映し出されたのは奇妙な影だった。市街地を表す地図上を、変形しながら進んでいく。
「埼玉県の川越市、伊佐沼付近で観測した物だがね・・・」少々進んで、影は画面から消えた。
偶然だったらしい。川越市付近で井戸水の異常の原因調査中に観測したそうだ。
「この後、半日程追跡したが見失ったよ。どうだね?怪しいと思わんかね?」困る記者。
ホンの顔合わせの積りだったが、本格的になってきた。言葉を濁し席を立とうとする。
この後、変人女との雑誌記事の打ち合わせがあるのだ。博士がPCの蓋を閉じた。
「ま、編集長に宜しく云っといてくれ給え。費用さえ出れば本格調査するよ。そうそう・・・」
博士がニヤリと口の端を上げる。「この影、東京方面に向かっていたよ」
都内の古い洋館。ベルを鳴らす記者。家政婦が出てくる。「お嬢様なら、お庭ですよ」
矢張りあの変人女、いいとこのお嬢さんなのか?・・・庭では、お嬢様が穴を掘っていた。
聞くと何か植物を植えるらしい。ともかく地雷原の庭から屋内に入り、打ち合わせを始める。
先日の円盤事件以降、彼女は一応持ち家のここに寝泊りしているのだ。
「前みたいにイイ所、なかなか無くてね〜」・・・・・イイ所だったのかあの怪鳥の巣は。
164 :
第X話 東京テレストロイタス:05/03/13 01:46:24 ID:/gxb7Xq/
本題に入る。今回の記事は、知り合いの建設業者から仕入れた『謎の地下都市』。
場所もいつかも誰がかも不明だが、あるとき地下工事中に奇妙な空間を掘りぬいた。
其処に有ったのは・・・「・・・───小さな、『街』?」「そ」
それこそ人形遊びにでも使えるような小スケールの街が有ったらしい。何でも有った。
車も、街路樹も、信号も。ビルの中には椅子も、机も、鉛筆まで有ったそうだ。
ただ、人間が居ない。何処も荒れ果て、もう何年も使用されていない風だった。
天井は広く高く丸い。上方にライトらしき物も見つかった。都市は相当広かったらしい。
向こう側が見えなかったそうだ。しかし、それ以上調査はされず一端引き上げたそうだ。
「何で?」「何か、居たんだって。それも沢山」で、その地下都市はどうなったのか?
「判んないわよ」地下都市を掘りぬいた業者は、何故か数週間で潰れてしまったらしい。
・・・─────まあ結局、使用してやる事にした。彼女も部屋探しに入用らしい。
原稿料の振込みの期日を伝えて、その日は引き上げる。
コンビニで弁当を買い、自宅へと帰る雑誌記者。暗い夜道。カタ、ピシ、キイ。
階段を上がり、鍵を開けようとする所で、扉に何か挟まっているのに気付く。
形態から宅急便の不在票かと思ったが、何か違う。『再度お伺いしますのでご希望の・・・』
裏を返す。『東京都清掃局 特定廃棄物埋設室』カタ、ピシ、キイ。
何だこりゃ?妙に思いながら部屋へ入った。さっきから妙な音が鳴っている。
電気を付ける。と同時に、窓のすりガラスの向こうを人影が走った。カタ、ピシ、キイ。
身体が強張る。何だ今のは?人影?いや、待て。今のアレは。カタ、ピシ、キイ。
小さ過ぎる。20cm程しか無かった。 ・・・───カタ、ピシ、キイ。
カタ、ピシ、キイ。 ・・・・───静かに窓に近付き、そっと開ける。
街灯の下、手押し車を押した老婆が此方をじっと見つめていた。
…わくわく。8/1に繋が(ry
薄暗いエレベーター。初老の白髪の男と鞄を抱えた若い男。ピッとスーツを着こなしている。
エレベーターが止まった。背の低い眼鏡の男が乗り込んでくる。頭が少々薄い。
「───お久しぶりです」「どうだったかね、『清掃局』の連中は」ハンカチで頭を拭く。
「矢張り封鎖地区S−15から埋設物流出があったということで、活動を広域化しています」
「『埋設物』か・・・で?今回は」「警戒態勢は第4種・・・」「!?実害が出るのか?」
「既に発生しています。先週から連続している建造物沈下現象がそれだと」
「連中にあんな器用な真似が出来るか?」「何らかの兵器を獲得している可能性も有ると」
「・・・解った。引き続き頼む」「了解です」同時に到着のベル。眼鏡の男を残して降りる。
広い廊下。片側に大きな窓が続く。「・・・都知事」若い男が呟く。「何だ」
「先程からの懸案に関連するモノと思われますが」雑誌を差し出す。真中辺りで折られている。
そこに有った記事。『東京の地下を迅る巨大怪獣の姿を捉えた!』
「だぁ〜からしょうがなかったんだって!」真昼間のバスの中。雑誌記者の声が響く。
携帯で変人女と話して・・・いや喧嘩している。『なーんであんなベタ記事なのよっ!』
半ば弁明しながら話を終わらせようとする雑誌記者。「今から博士の所に用があんの!」
バスが到着し、話しながら降りる。「また後でそっち行くから、じゃな!」強引に切った。
そのまま歩を進める。校門を潜った。博士の研究室のある大学の門だ。
事務室でアポを取る。研究室に居るらしい。スリッパでペタペタと向かう。渡り廊下で外を見た。
空が曇り始める。雨でも降るか?校門の方から拡声器がうるさい白いバンが入って来た。
研究室の前。相変わらず様々な物が積み上げられている。何かパタパタ走る音がした。
167 :
第X話 東京テレストロイタス:05/03/17 01:20:32 ID:JllF7ha7
「博士〜」引き戸を開ける。更に雑然とした部屋。いつもは学生が何人かたむろしている。
しかし今日は誰も居ない。そのまま部屋に入る。「博士〜?」机の向こうで何か動いた。
「あ、ああ。よく来たね」博士だった。席を促される。「コーヒーでも入れようか」
妙に親切な博士をいぶかしみながら話す。先日の雑誌の記事、あの怪獣の事だ。
新たな事実が判明したという。「先ずあの怪獣の行動だが、主に地下水脈を移動しているな」
『AGLS』観測データでは、怪獣はその姿を一定に保たず、流動体の様に移動している。
しかし稀に固体化したとしか思えない反応も示す。即ち固体化も液体化も出来るらしい。
「体組織を構成する分子を随意に分離・結合できるんだろう」「・・・そんな生物が?」
どうも、1973年4月頃多摩川周辺に似た性質の怪獣の出現記録が有るという。
「で・・・その怪獣は今、何処に?」「え?」驚く博士。「判ったから呼んだんじゃ無いんですか?」
「ああ、んー・・・未だ、判らんよ」立って窓へ向き、コーヒーを啜る博士。外は異様に暗い。
「・・・・・──君」「はい?」「仕事も溜まってるだろう、早く帰り給え」いきなり何を?
「いやでも、もう少し話を・・・」「帰れと、云ってるんだ」声が震えている。「博士、一体──」
立って博士に近付く。何かが爪先に当った。下を向く。 ・・・人間が、倒れていた。
「怪獣は、この真下だ」顔を上げる記者。「早く、逃げなさい」
瞬間、耳元で囁き。
『シネ』
その瞬間、突如地響き。「おわ・・・」「早く!早く逃げろ!!」叫ぶ博士。揺れる研究室。
分厚い本に躓いて転ぶ記者。歪めながら顔を上げる。目の前にダンボールと本の隙間。
・・・───その隙間に、人の顔。小さな顔。驚き飛び起き尻餅をつく。
ロッカーの隙間に、ダンボールの蓋の陰に、本の間隙に、人の顔。小さな顔。
標本の上に、木箱の後ろに、小さな顔。人の顔。背後の物置に、機材の影に。
部屋のあらゆる隙間に、影に、人の顔、小さな顔。「うわ・・・・うわわわわぁぁっッ!!」
よろけながら研究室を出、廊下を走る。濡れる足元。水道が破裂し泥水を噴出している。
水道だけではない。あちこちの隙間から泥水が湧き出している。更なる振動。
建物が傾いた。低い方から大量の泥水。階段を見つけ駆け上がる。走りながら外を見る。
外が無い。一面真茶色。窓枠から漏れる泥水。今にも破裂しそうだ。
更に駆け上がる。三階の窓には外が有った。窓に張り付き下を見る。迫る泥の海。
窓を開ける。一瞬の躊躇。───意を決し、外へ飛び降りる!
泥飛沫。手に何か掴む。倒れた木の幹。這い上がり、ひたすら泥から離れる。
乾いた地面に着いた。くず折れむせる記者。前を見ながら立ち上がろうとし、再び膝をつく。
呆然とする記者。顔に雨粒が当る。建物が無い。泥水が広がるばかりだった。
雨が降り始めた。サイレン音。煩い拡声器の声。白い服の男達がうろついている。
へたり込んでいる記者。その周りを白い服の男達が取り囲む。気付いて立ち上がった。
無言で迫る白服達。包囲が狭まる前に駆け出す記者。どしゃ降りの中を走る。
169 :
第X話 東京テレストロイタス:05/03/20 15:34:33 ID:1Fsfw8QV
何だ。何が起こっているのか。混乱した頭を抱えて走る記者。───そうだ。あいつは?
陰に隠れ携帯をいじる。あの変人女の番号。『・・・もしもし〜?』出た。「ああ、ちょっと時間、」
破裂音と共に砕ける携帯。向こうで白服が銃を構えていた。・・・・・殺す気か!!
古い建物の中に逃げ込む。一階の階段横、荷物が積み上がった所に隠れた。寒い。
膝を抱え振える。雨音の轟音。時節人の叫ぶ声。何かが軋む音。カタ、ピシ、キイ。
顔を上げる記者。この音は?カタ、ピシ、キイ。聞いた事がある。カタ、ピシ、キイ。
近付いてくる。震えが酷くなる。───カタ、ピシ、キイ。真っ白な顔がこちらを覗いた。
「おやおや、どうなさったの?」奇妙に甲高い声。老婆だった。手押し車を押している。
「あ、あの・・・」声が出ない。「外の子等に、追われているの?」震えながら頷く。
「じゃあ、逃げないといけませんねえ」階段横の奥に老婆が進む。古ぼけた扉が有った。
老婆が鍵束を弄くり、扉を開ける。「それでは、こちらから逃げましょうか」
其処は古い地下道だった。あちこちにレンガ造りの壁が見える。老婆が闇をまさぐった。
パチン、との音と同時に薄暗い灯りが灯る。「まだ生きてたみたいねえ。眩しいけど」
歩きながら老婆と話す。泥の海、白服達、そして小さな顔。老婆はうんうん頷くのみ。
「あの子達も、必死だからねえ」階段を上がる。今度は老婆の事を聞いた。
昔、ある国の特殊工作員をしていたらしい。「仏蘭西人に成りすまして日本に潜入したりねえ」
するとフランス人では無いということか。化粧についても聞いてみた。白粉。口に挿した紅。
「昔事故に遭ってねえ。その傷を隠してるの。見てみたい?」「い、いえ・・・・・」
そういえば幾つも階段を上り下りしてるのに、老婆に苦労の様子が無い。何故だろう?
需要が限られた少数民族スレなんだからマッタリsageとけ
カタ、ピシ、キイ。老婆の手押し車が軋む。カタ、ピシ、キイ。・・・・・一体、此処は何処だろう?
カタ、ピシ・・・音が止んだ。立ち止まる老婆。じっと前を向く。何か気配がする。
「駄目よ?この人は部外者」前方に闇。「手を掛けたら規則違反よ?全部終り」
闇が退いた。「さ、行きましょう」再び歩き始める、老婆と記者。
幾つか階段を上がった。いつしか壁はコンクリートとなり、針金が天井から垂れ下がる。
『立入禁止』の黄色い看板。錆びた梯子。「着きましたよ。ここから上にお上がりなさい」
上はマンホールらしい。「あ・・・有り難うございます」「さ、早く」梯子に手を掛ける。
「あの・・・」「それでは、またいつかどこかで」歩み去る老婆。とりあえず梯子を上る。
重いマンホールの蓋をずらし出る。其処はまだ地下だが明るい。地下鉄か何かの様だ。
突如、後ろから光。眼をつぶりながら振り向く。「・・・──お、おお?おい、あんた!?」
見覚えのある声。見覚えのある顔。・・・博士だ。博士!?無事だったのか!?
驚き喜ぶ工学博士。抱きついて背中を叩く。その向こうから背の低い眼鏡の男が覗きこむ。
「・・・お知りあいで?」「ほら、先日の事件で行方不明になった知り合いの雑誌記者だ!」
「おお、それは・・・」向こうには見覚えのある顔が幾つも有る。研究室の学生達だ。
兎に角地上に出る事になる。途中、眼鏡の男が通信機の様な物を耳にあてた。
外に出るなり、眼鏡の男が云う。「お会いになられたい方が居る。来て頂けるかね?」
カレードゾー
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ニヤニヤ
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ウンコー 人
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│__|⊂ : つ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
人 Y (● )
何処かの小奇麗な料亭。身支度を整えられ席に座る雑誌記者。横には工学博士。
「・・・あれから何日ですか?」「2日だよ。一体何処うろついてたんだ?」そんなに地下を?
「私はあの後すぐ、あの眼鏡の人達に助けられたんだよ。学生達も一緒に」
此処が何処なのか聞く間も無く、スーツ姿の男達が席に着いた。眼鏡の男も付いている。
「彼、かね」中心に白髪の男。東京都知事だと眼鏡の男の紹介。その横はその秘書。
眼鏡が口火を切った。「さて・・・先ずは『埋設物』の現状について説明させて頂きます」
料亭のくせに何も出ない。さっき聞いた『2日』の言葉で睡魔が襲う。子守唄の如く続く説明。
「・・・の通り封鎖地区Sは1〜19まで存在しており、内S13地区は昭和34年に・・・」
「・・・元S−15住民は何らかの手段で地盤液状化を起こす怪獣を獲得していると・・・」
つついて起こされる。「で、こちら二人は雑誌記事のせいで彼等に狙われた訳です」
「記事内容は?」「信用の置ける研究です。『清掃局』にこのまま渡すのは如何かと」
「『清掃局』・・・?」目覚ついでに博士に聞く。「良くは知らんがね・・・」白装束達の事だと云う。
眼鏡の男は、その白装束達の中に潜り込んで内偵しているらしい。
突然、警備の黒服が機器を持って入って来た。眼鏡と2,3言葉を交わす。「な・・・!」
眉を顰める都知事。「如何した?」「つ・・・通信が・・・・・」僅かに震えている眼鏡の男。
「警戒態勢第5種発令・・・」「何ィ!?」「報道管制及び戦闘地域制限解除・・・・・」
「正気か!?『清掃局』は!!相手はあの小汚い地下の小人共だぞ!?」
聞き覚えの有る言葉にはっとする記者。何時、何処で聞いた言葉か。
突如、眼鏡の男の胸ポケットから通信音。そして音声。
『ダレガ、ウスギタナイッテ?』
「お前!シーバーは!?」警備の黒服が胸をまさぐる。眼鏡の胸のシーバーから更に声。
言葉を反芻する記者。『地下の小人』地下の』小人』小さな』小さな』小・・・・・
「博士、地下の小人って・・・」「君もあの時見ただろう。彼等だよ。封鎖地区S15の住人だ」
シーバーからの声。か細いが低い。『オ前タチニハ、ワレワレニタイスル犯罪ヲオオヤケニスル義務ガアル』
都知事の反論。「何が犯罪だ。モデル地区入居時はお前たちも同意済みだったろう!」
『ユートピアトイウ甘イ餌ノセイデナ。ダガ管理サレタ楽園ナドニセモノダ。ワレワレノ反乱ヲオマエタチハ封殺シタ。
埋設物ノ名ニオイテ!』「当然だ。お前達には戸籍すら残ってはいない!実験廃棄物だ!」
『ナラバ、沈ンデイタダクゾ』その言葉と同時に、前後の障子に人影。その枠一つに収まる程の。
次々と群れ集う。障子の外に蠢く小さな人影。手を障子に突き、ハタハタと叩き廻る。
『ヤナノ餌にナリタクナケレバ、認メヨ』声を荒げる。『認メヨ!1/8計画ノ悪夢ヲ!』
「認めません」突如部屋に響く声。同時に外で爆発音。シーバーから悲鳴が数回し、途切れる。
続いて外で大勢が上がりこんでくる音。障子の影は何時の間にやら消えていた。
障子が開かれ、白装束の男達が乗り込んでくる。白い煙が立ち込める。ガスか何かか?
秘書が立ち上がる。「皆さん御苦労様でした。後は我々が引き継ぎます。」驚く都知事。
「き、君、一体・・・・・」微笑む秘書。白装束が敬礼し、秘書も敬礼で応える。
「東京都清掃局特定廃棄物埋設室室長、堀部と申します。どうぞお見知りおきを」
すいません。前、「8/1」と書いた者です。→1/8…ですね。
でも、テレスドンと絡めるとは
脱帽です。って言うか、早く続きを!
悩内で映像化してますから…。
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日没後、霧雨は急に強さを増した。大型トラックの荷台の中、何かの機材やモニターの光。
左右を白装束に固められた記者。白装束に着替えた堀部。「先程は失礼しました」
睨む博士。「我々を如何する積りだ?」「ご安心を、危害は加えません。只貴方々は──」
「その目撃した情報の重要さ故に─」正面のモニターに画像。地図上を移動していく影。
「我々の監視下に置かせて頂きます。ご協力、お願い出来ますか?」目線の逸れる博士。
「待て、その画像、『AGLS』の・・・」「ああ、貴方の初歩的な装置とは訳が違いますよ」
手元の球体を指先で廻す。3D画面に影が映し出された。他の埋設物も表示されている。
「これが貴方々を襲った怪物、『ヤナ』と云います。川越市伊佐沼付近で眠っていたのを
S−15埋設物、『小人』共が操っている様ですね。川越城の守護神だというのに」
「1ヶ月前に活動を確認、その直後『道灌の地下水路』を通って東京都下に侵入。
以後周辺を暴れ廻り、現在位置は・・・・・──形態を変えたか?観測フィルタ、変更しろ」
次々と下される命令。堀部と名乗る男はその中でご丁寧に解説をしてくれる。
どうも生来の教えたがり、ひけらかし屋らしい。余計な知識までも説明している。
「目標確認。丸の内、皇居のお堀。固体化しているもようです」白装束の一人が報告する。
「動きは?」「見られません。ほぼ停止しています」「別荘でお休み中か・・・」ニヤリと笑う堀部。
「叩き起こしてくれる。全車両伝達、『バスターソナー』機動開始、及び攻撃準備」
「なっ、あんた其処は・・・」驚く博士に対し、頬を歪める堀部。気持ち悪い笑顔。
「残念ながら、我々の命令系統の上位に日本政府は存在しません」
堀部の背後で、様々な機材が、いや大型トラック自体が唸り声を上げて変形していく。
178 :
名無しより愛をこめて:2005/03/31(木) 14:48:31 ID:cVpxst9s
けーんじ!はい!けーんじ!はい!やーすひこ!はい!やーすひこ!はい!
堀部の説明。『バスターソナー』とは指向性音波の同時発射により、ある一点に
いわゆる『三角波』と同じ現象を引き起こす装置だという。これで地底怪獣を攻撃するのだ。
「以前S−15埋設物『小人』共の前哨基地を全滅させた実績も有りますよ」
「それですよ!何なんですあの小人達は!?埋設物って、1/8計画って!?」
「貴方、家族は?友人は?」冷めた眼の堀部。「え?家族は八王子に、友人あいつ・・・・」
「東京に棲む一般人なら、知らない方がいいというものですよ」
東京の各所。交通規制された道路や敷地の中、変形した大型トラックが止まっている。
まるで銀色の五重塔の様。ライトと赤色灯に照らされ、闇の風雨に浮かび上がる。
「『バスターソナー』全12機展開完了。全機目標皇居お堀の物体、『ヤナ』」白装束の声。
「カウント開始。5,4,3,2,1、・・・・・・」腹に響く爆発音。ビビる博士。腰を抜かす記者。
目標到達時間のカウント。押し黙って画面を見つめる。あと数秒・・・・・
轟音。同時に雄叫び。お堀に上がる巨大な水飛沫。驚きもんどりうって転ぶ中年。
「命中確認」「目標の状態は?」「・・・・・移動しています。付近をランダムに」
「もがいてるな。移動パターンは掴めるか」「行動範囲の限定だけなら」「よろしい」
顎のマイクを摘む堀部。「送信した範囲に限定し連射。攻撃パターン丙型、面で圧倒する」
続いて連続した爆発音。何処かリズムに乗っている。立とうとしてまた転ぶ記者。
雨の中起き上がった中年。傘が裏返っている。見ると目の前で水飛沫。
マンホールが飛び、アスファルトが剥れ、駐車車両が踊っていた。あっけに取られる中年。
乱れ飛ぶ表示。突如白装束が叫ぶ。「・・・・・目標、攻撃範囲から消失!」「攻撃止め!」
必死で画面を操作する白装束。「・・・これは?」「──地下用水路!?データに有りません!」
地下用水路の測定データが表示される。「・・・・目標発見!北西に猛スピードで移動中!」
「いかん!」堀部が前に出て何かスイッチを押す。「『ルースター』総員退避!離れろ!」
通じない。「・・・目標、『ルースター』に到達、『ルースター』沈黙しました!」
地図上の12の光点の内、左上の一つが消えた。「目標は?」「南南西に転進・・・あ!?」
再び地下水路の表示。「またか!?『シープ』退避しろ!『シープ』!」数秒の沈黙。
「『こちら『シープ』、全員脱出するも車両全壊、『バスターソナー』使用不能」
「目標再び転進!また水路です!」「我々の未知の水路が・・・!?」何か考えている堀部。
「・・・そうか、道灌か!?」堀部の指示。「本部データベース繋げ。『道灌の地下水路』で検索」
「有りました、24件」「全て地図上に表示」東京周辺地図に、網の目のような表示が映る。
「これは・・・」「通称『太田道灌の地下水路』。太田道灌が発見した関東一円に広がる水路だ」
驚く博士。「そ、そんな物誰が・・・」「不明だ。我々ですら把握しきれていない」
渋い顔の堀部。「──東京の地下に関しては、ヤツの方が一枚上手という事か」
「目標更に転進!方角は──東南東?此処『スネーク』です!」「何ィ!?」驚く堀部。
慌て始めている。「残り10機、攻撃パターン丁型!3:3:4で各個予測進行ルートへ攻撃!」
何が起こったのか問う記者。「『ヤナ』がこちらへ向かっている。ヘタすりゃ死ぬぞ」
夜の商店街。地響きが道路の下を走る。驚く女子高生と自転車のオヤジ。
追う様に地面が、タクシーが跳ね上がる。パチンコ屋にヒットして電飾が全て消えた。
「目標命中無し!速度弱まりません!」怯える白装束達。堀部が口を開く。
「全機、目標の『スネーク』到達時最大出力攻撃の準備。『スネーク』もゼロ距離から攻撃参加」
数秒の間を置き、「・・・『スネーク』、各自準備終了次第退避開始」
白装束が慌てて外へ逃げ始める。連れられて出て行く博士と記者。堀部は操作を続ける。
「堀部さん!貴方は?」「ギリギリまで人力で操作せねばならん。最後まで残るよ」
何か云ってやる間も無く、外へ連れ出される二人。
雨が強い。白銀の五重塔は風で揺れていた。横で白装束のカウント。
「目標到達まで5,4,・・・」遠くで水煙。地響きが近付く。「3,2,1、」!
第轟音と共に跳ね上がる白銀の五重塔。部品を散らばらせながら着地する。
目の前のアスファルトにヒビ割れ。みるみる泥水が噴出し泥の海に。その中から、
錨型の巨大な頭。長い首。巨大な胴。幾つものヒレ。小さいが鋭い眼光。姿を現す怪物。
「・・・『ヤナ』だ・・・」後ろの白装束が呟く。身体の各部から泥水を噴出している。
弱っているようだ。ゆっくりと口を開き白銀の五重塔に向ける。と、その時轟音、泥飛沫。
『バスターソナー』だ。もがき苦しむ『ヤナ』。それでも目前の敵を倒そうと動く。と、五重塔が唸り、
第轟音、泥の水柱。堀部のゼロ距離攻撃だ。口から泥の泡を吹く『ヤナ』。
首を上に向け、のけぞるような姿勢になると、『ヤナ』はやがて動かなくなった。
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( つつ'@. |
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いつしか止んだ雨。『ヤナ』の口から泥水の泡が溢れる。奇妙なオブジェの様。
「・・・堀部、さんは?」「終了、ね」奇妙に甲高い声。同時に地響き、そして揺れ。かなり大きい。
白装束の持つ無線機から通信。「・・・・地底よ・・・体の移動体・・・・地底怪獣の恐れ・・・・」
「な、何だありゃ!?」声の方向に振り向く記者。地底より這いずり出て来る巨大な影。
上顎の長い嘴状の口。輝く眼。体節の有る身体。横から、背後からも轟音。
幾つもの巨大な影が現れてゆく。三日月の如き角を持つ巨獣。
蛇腹状の体表を持つ怪物。黒曜石の棘の山脈。巨大な花弁の中央に覗く醜悪な顔。
二叉の角と鞭状の腕。仮面の顔に肩の触角。長い首の先の単眼。
「皆さん、お付き合い有り難う御座います」手押車の老婆が傾いたトラックの上に居た。
「あ、貴方は・・・」「また会ったわね、坊や」宙に舞い上がったと思うと、記者の目前に着地した。
「こちらの方はお返しするわ」手押車の上の大きな白い塊。堀部だった。小さくうめく。
堀部を抱える白装束達。老婆と対峙する記者。「貴方は、一体───」
「審判、よ」口の端をくいと上げる。「小さな子達は、どうも地底に暮らすのが納得出来なくてね」
故に行ったのが今回の事件。地上に己らの存在を認めさせる事。拒否し制圧にかかる地上。
故に必要な武力。兵器となる怪獣、移動路の情報の提供。もし失敗すれば───
「───小さな子達は地底の住人に成る。もう地上には戻らない。そういう約束よ」
「・・・何ですかソレ!?小さな子ってあの小人ですか!?第一貴方は───」
去ろうとする老婆の手を取る記者。老婆が傾き、サングラスが落ちる。「坊や──」
振り向く老婆。「私達は地底の住人。地上に有ってはならぬ物」其の貌には──
「──あらゆる過去を塗り込める街の住人なら、それ以上は野暮でありましょうに」
眼が無かった。
再び轟音。『ヤナ』の死体の下から泥水が湧き出てくる。沈み込んでいく死体とトラック。
周囲の怪物たちも地下へと潜っていく。足元がいつしかぬかるんでいた。よろめく記者。
微動だにしない老婆。背後のマンホールの蓋がボンと飛んだ。
「それでは地上の皆様ごきげんよう!素晴らしき日々を!!」
同時に老婆が穴に吸い込まれる。直後、降ってくるマンホールの蓋。ガロンガロンと廻る。
回転が終了しぴったりと嵌ると同時に、轟音も怪物も泥の海も『ヤナ』もトラックも老婆も、
全て消えた。
「でェ?それが言い訳なわけェ?」変人女の声が古本屋街にこだまする。
数日後。あれからドサクサの内に白装束達から開放された記者と博士。
帰ると同時に会社からの電話。音信不通の叱責と仕事の山。変人女の小言。日常に戻った。
今日はこの前の記事の件でのお詫びに、変人女の古本漁りに付き合っているだ。
「う、ソじゃない、って!」本の山を抱える記者。「ま、いいわ、次ココね!」店に入る変人女。
奥から声。「そこで待っててね〜」荷物を降ろし一息付く。横には本棚、ワゴンが並ぶ。
ぼんやりと背表紙を眺める。並ぶくすんだ色。下段の端まで見て、ふと違和感を感じる。
端から三番目。背表紙のタイトル。それは、覚えのある文字列。
『 1/8計画 万城目 淳 』
背表紙を見つめる記者。そっと手に取った。鼓動が高鳴る。
其れは、1/8計画の行われたS13地区へと迷い込んだ女性の証言の記録だった。
都市の人口過密を解決する為の、人も物もすべて1/8にする計画。
過去は全て捨て去り思うままに生活出来る一方、番号にて呼ばれる恐るべき管理社会。
紆余曲折の末証言者の女性は元の生活に戻る。多少錯乱していた様だが。
其処まで斜めに読み、終わりと思って頁を捲る。まだ章が有った。
『第九章 1/8計画の崩壊とその後』
正式なページではない。小冊子として挟んであった。恐らくガリ版刷りである。
タイトルを見つめる記者。頁を摘みかけ、放す。そのまま本を閉じ、本棚に戻した。
この街に住むなら。今まで通り平穏に穏便に、何事も知らぬ振りで暮らしていくなら、
これは見てはならぬ歴史だ。
「何やってんのー?早く行くよー!」変人女の声。慌てて荷物を掴み声の方へ走って行く。
我等の棲まうこの大都市。此処は本当に我々の物なのか。揺ぎ無く存在するのか。
この大地は、本当に我々の大地なのか。
通り過ぎた排水溝。その格子の蓋の下。
闇の中に二つの小さな光点が有ったと思うと、小さな水音を立てて掻き消えた。
186 :
第X話:2005/04/07(木) 01:21:34 ID:pEVQhJVX
一ヶ月も掛けんなよこんな話に・・・・・
しかもやたらと長いし・・・・・オマージュもいい加減にしろよ・・・・・orz
もう年度末カンベンシテage
白い路。静寂の街。樹にも家にも電線にさえも積もる夜。
その一角の喧騒。乱暴に扉が開き、投げ出される様に出てくる少女。手には青い煙草の箱。
間違えるなよとの声と同時に閉まる扉。薄汚れた運動靴で鉄の階段を降りる。
滑りながら進む轍。車が通り、横の雪の中へ倒れるように除ける。鼻をすすり立ち上がる。
毛玉だらけのカーディガン。汚れたスカート。足には靴下も履いていない。
立ち止まり見上げる少女。古ぼけた煙草の自動販売機だ。背伸びをし、お金を入れる。
そこで己の手の中を見て固まる少女。煙草の箱が無い。あれが無いと銘柄が判らない。
ポケットをさぐり、通ってきた道を眺める。見当たらない。無くても判るかと見上げる少女。
判らない。青い箱は有る。しかしもし違っていたら。『父親』に。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。目蓋に溜まる涙。
『そこがめのこ、なんでないとる?』どこからか、不思議な声。頭の上からか。
『なあ、なんでないとるんな?』優しいおじいさんの様。
何で泣いてるんだろう。『父親』が怖いからか。される事が怖いからか。指先が冷たいからか。
お使いも満足に出来ない悔しさか。今この現状を自分でどうにも出来ない情けなさか。
何で泣いてるのかも判らない。情けなくて又涙が出た。変わらぬ口調の声。
『なくのはいやか?』目を擦る少女。『いやなんか?』少女は頷く。
『なら、なかんでええとこいこうや、なあ』 少女の上から、舞い降りるモノ。
その雪の夜、少女の足跡は煙草の自動販売機の前で消えた。
人 ∩ 人
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ヽ__)_/ ≡ ◎-ヽJ┴◎ " ̄ ̄ ̄ ̄"∪
出版社。雑誌記者がPCを操る。暫らくして一息、横の缶コーヒーを飲む。
激しく音を立てて変人女が帰ってきた。編集長とスミ先生と一緒に物件を見に行っていたのだ。
「あ〜、疲れた・・・」ぼやく変人女。「どうだった?」モニタに向いたまま聞く記者。
芳しく無かったらしい。「だめねェ〜、何処も立派過ぎて」「で、編集長とスミ先生は?」
「めんどいから途中で抜けて来たのよ。別の物件見に行ってんじゃない?」何ちゅう女だ。
応接ソファに転がってTVをつけた。お昼のワイドショーが流れる。眠たい午後。
「何やってんの?」ビビる記者。「・・・こないだの山梨の氷室の事件の調査、だよ」
あの怪事件。その中心に有った機械の設計図に有った日本人の署名、『綾窪修太郎』。
この人物、屋敷の住人の名前では無かった。屋敷の持ち主はそのまま『氷室』一族。
周辺に『綾窪』の苗字は無い。では一体誰なのか?其れを調べていたのだ。
「結局、今日まで成果無し。何処の誰かも判らん」
「ふ〜ん・・・」横の椅子に座る変人女。「ま、頑張って〜」そのままTVの方へ滑って行った。
──全く、何を考えているのやら。TVでは東京タワーに登る変人の生中継をやっている。
切り替わるTV。少女の失踪を伝えている。学校のトイレから居なくなったらしい。
「・・・最近多いよね、子供の失踪って」TVに向いてコーヒーを飲む記者。「ん─、まぁな」
「しかも続報って聞いた事無くない?」確かに。TVで失踪情報が流れてそのまま、な気がする。
TVがまた切り替わった。東京タワーの頂上に男がすがり付いている。旋回する警察ヘリ。
それをカメラが望遠で撮影しているようだ。「・・・何やってんだか」ぼやく記者。
男は腰から弁当箱大の物を取り出すと、塔のてっぺんに取り付けた。そして。「あ・・・!」
手を放す男。塔から離れ、空中で少しづつ回りながら。「落ち───」
「──たよ、な?」彷徨うTV画面。追っていた落下物が、画面から消えていた。
彼方から聞こえてくる歌。民謡のようだ。向こうから歩いてくるのは、子供。白い子供。
その中心に、笠を被った僧形の男。顔は笠に隠れて見えない。歌が響きを増す。
「・・・目ェ、醒めた?」記者の声。起き上がる変人女。「・・・───ん─・・?」車内だ。
「もう少しで物件に着くから起きててくれよ」「物件・・・?チョーとスミ先は?」寝惚けている。
「仕事で来れないから俺が代わりに付いて来てるんだろ!?」「ああ、・・・そだっけ」
「大体お前が我侭過ぎんだよ、引越し先編集部に探させといて・・・」
鍵を借りてきた記者。大家さんは来ないらしい。曰く「気味悪い」からだそうだ。
何でも数ヶ月前、夫婦と娘一人が住んでいたが娘が失踪、すぐ後夫婦は引っ越したらしい。
それから此処には白く光る子供の幽霊が出るという。「いわくつき、ね」
「お前が東京タワーが見える所がイイ何て注文するから・・・」「え〜?面白そうじゃん」
あんま関係無いらしい。ドアを開け、中に入る。「オジャマシマ〜ス」「どうぞ〜」「まだお前んじゃねえだろ」
窓を開ける。ホコリっぽい空気に入る風。東京タワーが見える。「んむ!いい角度」
「風呂トイレキッチン完備、この広さでこの値段だ。どう?幽霊は無視して・・・」
変人女が止まっている。「・・・どした?」視線の方を覗き込む記者。
白く光る少女が立っていた。
腰を抜かす記者。声が出ない。少女はこちらを見て少々困った顔で小首を傾げ、ふいと消えた。
前に一歩踏み出す変人女。その足に何か触れた。視線を下へ落とす変人女。
足元に、弁当箱程の銀色の箱が落ちていた。
「特殊な超短波ジアテルミーね」「は?」夜の編集部、一室を借りて箱を分解する二人。
変人女曰く、本来は人間の体内電位を操作し正常に戻す機器。しかしこの箱のモノは
逆に体内電位を狂わせるモノだという。「狂ったら・・・・どうなるんだ?」「幽体離脱が起きる」
「は?」「そこまで行かなくても、かなり起き易い条件が整うわね」ではあれは、生霊か?
・・・取り合えず、残業しに外へ出る記者。鼻歌を歌う。「待って・・・その歌。その鼻歌、何?」
「ああ・・・、最近スミ先生に教えてもらった民謡だよ。何でも次回作のネタだって」
みなみなきやれ、みなきやれ、ととうもかかあもおいてゆけ・・・・・
笠被りの僧がゆらゆらと歩いていく。後ろには白い子供の列。高圧電線の上を。
「おい君!寝ちゃあ駄目だよ」スミ先生に怒られた。目を覚ます記者。「さ、行くよ後少し」
そうだ。スミ先生の取材に同行していたんだった。山登りの休憩中にうたた寝したか。
「見えてきたよ、あれが『小槍神社』だ」古ぼけた鳥居。苔所か草生した石段。
スミ先生曰く、ここは要らない子供を『間引く』神社、だそうである。社もボロボロだ。
「おかしいなあ、此処に通う人が居るって聞いたんだけど勝手にお邪魔しますか?」
社を覗き込む。空っぽだ。御神体すら無い。「君!こっち」スミ先生。裏手に廻る。
石で塞がれているが、どうも横穴が有るらしい。「怪しいと思いませんかキミ?」
その時、後ろから子供の声。振り向くと神主のような格好の男子二人。
「何をしてるんですか?」「何をしてるんですか?」
「な、何だね君達!?」ビビるスミ先生。身体はデカいのにこういう事には弱い。
「僕達は留守番役」「此処に入れるなとお坊さんとおじさんに云われた」妙にシンクロした台詞。
「ああ〜そうか、ごめんね?でもちょっとだけ入らせて?」「駄目」「ね、ホンのちょっと」
無理矢理石を動かそうとするスミ先生。すがりつく男子。「止めろ!」「止めろ!」
見ると、先生の背後ですがりつく男子の数が増えている。三人、四人、五人・・・・・
横の石垣の上に、銀色の弁当箱が見えた。そっと手に取る。男子は十人以上に増えていた。
地面に箱を叩き付ける。と、消え去る男子達。「どしたの?ん?あれ、子供達は?」
先生は気付いて無いらしい。「──いえ、何でも」
横穴に入って聞く神社の由来話。此処はある僧侶の庵が起源だそうだ。
子供が好きでいつも遊んでいるお坊さん。ある年の飢饉で、死にそうな子供達を守る為に
隠れ里へ連れて行ったという。そのまま子供も僧侶も帰らなかったが、
彼等を祭る為に神社が建てられ、子育ての神様として信仰されているという。
「・・・『間引き』の話は?」「ああ其れは私の推測だよ?由来話からだが面白いだろう?」
罰当たりめ。横穴の奥に着いた。観音開きの扉がある。スミ先生が手を掛けた。
「まあ見てなさい、この奥には子供の『間引き』の恐るべき、証拠、がっッ!!」
ゴン───・・・開いた扉の先には、
丸い部屋。中央に奇妙な像。床に這いまわる奇妙な蔦。そしてその下に────
子供。子供。夥しい子供の身体。まるで死んだような顔色。
「わ──────────────────ッッ!!」先生と記者の絶叫。
「ああ・・・暫らくここで足止めだよ。スミ先生も人事不肖だし」携帯で連絡する記者。
ライトに照らされた境内。「・・・ああ、見つかった子供は全員生きてたよ。意識不明だけど」
『で、本当なの?行方不明になってた子供達が皆其処で見つかったってのは』
「本当だよ。それより、重大な事が・・・」『何?』「超短波ジアテルミーが此処にも有った」
変人女の溜息。『・・・・・でしょうね』「何だよそれ」『あたしも調べてみたんだけど──』
『その箱、全国にばら撒かれているらしいわよ』
変人女もこっちに来るという。警察の取り調べもあり足止めとなる記者と先生。
夜まで事情聴取を受け、フラフラで取り調べ室を出る。一応ホテルの手配はした。
病院の一室。子供達が寝かされている。響くのは心電図の音。シーツを整える看護婦。
しゃん。金属音。顔を上げる看護婦。気のせいか。作業に戻る。しゃん。金属音。
はらもこころもみなみたせ、うきよのものなどすてておけ・・・・・
今度は歌まで聞こえてきた。しゃん。近付いてくる金属音。しゃん。病室の前で止まる。
扉が音も無く開く。其処には、僧形。笠をかぶり、杓杖を持つ。
僧形が何かを投げた。病室に散らばるそれは真っ青な『鞠』。それを誰かが手に取った。
白い子供。何人も。次々と眠る体から抜け出てくる。隣の病室からも。
白い子供達を連れ、僧形は病室を横切る。窓がまた音も無く開いた。
窓から飛び出て、外の電線に乗る。それに習ってついて行く白い子供達。
列を成して歩いていく。窓にすがり付き見送る看護婦。歌が変わっていた。
こよいこのばんうきよをいぬる、みなみなまいれ、みなまいれ・・・・・
翌日。スミ先生と朝食を摂る雑誌記者。子供達が生きていた事を知った途端元気になったのだ。
だが取材は続行不可能。古老にでも話を聞くか。と、隣から何か割れる音、そして口論。
廊下に出たらしい。聞こえる声。「貴方があんなに殴るから──」「お前だって放っといて──」
「何だね朝っぱらから全くモウ」箸を置く先生。「ちょぉっと仲裁入ってきますよ」止める記者。
「まあまあ私に任せなさいってねフフフ」出て行った。ドアから見える廊下を見つめる記者。
数秒後、「あ゙───ォ!!」見事に廊下を飛んでいくスミ先生。廊下を覗く記者。
若い男女が申し訳無さそうに立っていた。
この二人、夫婦に見えたが結婚はしてないらしい。なら一応『夫婦喧嘩』では無かったのだが。
喧嘩の原因を聞く記者。言葉を濁していたが、「・・・子供、です。失踪した」
最近よく聞くヤツだ。それで夫婦仲を悪くして・・・と、男の方の携帯が鳴る。電話に出た。
子供達の収容先の病院。男女に刑事が伴い、病室に向かう。男が何か小声で云った。
其れを聞いて女がなじり、口論に。刑事がたしなめる。病室に入った。「では───」
医者がカーテンを開ける。眠る女の子。「・・・お子さんの、大熊綾香ちゃんに間違い有りませんか」
男が膝を崩した。顔を覆い震えている。女が答えた。「・・・・・はい」やはり震えている。
見つめる記者。「よ」変人女もやって来た。「──何やってんの?」「身元確認、だよ」
刑事曰く、他の親御もこの様な有様だという。「ふうん・・・・・」男女を見つめる変人女。
「それよりお前は?」何でも病院関係者に、子供達の検査結果を見せてもらっていたという。
体内電位バランスの変化、生体反応の微弱化、そして微量の薬物反応・・・・・
「この薬物がね─────メチルマンダリン酸Ntてのがね」
195 :
第X話 伽歌聖:2005/04/17(日) 22:57:32 ID:pYD9klHo
「この薬物、マンダリニア・ヘキサブラキウム、通称マンダリン草って植物から抽出されるんだけど・・・」
この植物、地質時代に既に絶滅しかけており、日本の高山に少数生息していたものの
明治時代に絶滅してしまったという。「こんな薬物を誰が・・・・・それに、この病院」
あの銀の箱が、各患者の枕元に一つづつ据え付けてあるらしい。
と、病室から悲鳴。振り向いて病室を覗く記者と変人女。男が腰を抜かしている。
病室の中心に───白い子供。あれは──さっきの身元確認の。そして、あの物件に居た。
「あの、女の子・・・!?」歩み出す女の子。男に近付き手を差し伸べる。「──やめろっ!」
男が叫んだ。「許してくれ!来ないでくれ!頼むから・・・・・」小首を傾げ、困った顔。
女の方へ向く女の子。「御免なさい、御免なさい、お願いだから・・・・・」ひたすら謝る女。
少女は更に困った顔。今にも泣き出しそうな顔。差し伸べた手が下りる。
『めのこがこわいか?』老人の声。『おのれらのめのこがこわいか?』
白い少女の背後に黒い影。僧形。『なあ、こわいかあ?』少女が一歩前へ出た。
後ずさる男女。少女の頬に一筋。床に落ちる前に消えた。
『なら 』僧形の笠が上る。 『 い ら ん わ な あ─────』
笠の下に、頭は無かった。有るのは只虚ろな暗い孔。其処から触手の様な物が伸び──
眠る子供達の身体に絡むと、あっという間に飲み込んでしまった。
悲鳴。泣き叫ぶ男女。僧形の上った笠の裏に、光が巨大な両眼の様に渦巻く。
『めのこのすがりもむだなれば、とくとくゆこうぞあちらまで』白い少女が僧形の方へ向く。
『そがかのおとこののぞみなれば─────』振り向きながら、僧形の方へ歩いていく。
僧形は立ち消えるガス火の様に、しゅるりと消えた。
後には数枚の枯葉と、軽快な音を立てて転がる、銀の箱一つ。
このスレtateta(⌒ω⌒) このスレtateta(⌒ω⌒) もう DA ME PO! YEAH!
Comin' up check it up !も う だ め PO ! YO HEY YO HEY mou Da me PO !
も・う・ Da me PO!
∧_∧ ♪
♪ (´・ω・` ) キュッキュッ♪ さぁさぁみんなで(´・ω・` ) も・う・ Da me PO!
____○___\ξつヾ __
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騒乱の病院内。ベンチに座る記者と変人女。「何なんだよ一体・・・」記者がぼやく。
「嫌な予感がする」溜息をつき、記者がが立ち上がった。「ジュースでも買って来るわ」
二人分の神コップを手に戻ってくると、病院のTVに人だかり。変人女もいる。
険しい表情。「・・・どした?」「見て」顎でTVを指す。中継中のハプニングらしい。
変人女が呟く。「例の、子共達を見つけた神社。連れてってくれる?」
不慣れなスタッフの解説。手ブレの激しい画面。其れに映る物。
夕暮れの高圧電線の上に白い影の群。長々と続いている。その先頭には───あの僧形。
はしゃぐ白い群。其れは居なくなった子供達の陰姿。
「すいません刑事さん」「10分だけだぞ?その後は署まで直行だ」運転する刑事。
変人女と記者、そしてあの男女。とりあえず警察署へ帰る途中、あの神社に寄ってもらうのだ。
「あそこにまだ何かあるってのか?」「恐らく─────」変人女が答える。「元凶、が」
と、ラジオから奇妙な声。何処かの民謡。おいてゆけ。おいてゆけ──────
あの神社の民謡だ。記者が気付くと同時に急停止する車。「な・・・・・なんだありゃ・・・・・!」
郊外のバイパスから望む夕闇の街。その上空に。
影。影。影。影。白い影。風に弄ばれる凧の様に白い人影が幾つも舞っている。
いや、弄ばれているのではない。真実、遊んでいるのか。全て子供のようだ。
「始めたか・・・・・」眉間に皺を寄せる変人女。
車のラジオが伝えている。
「今日午後6時頃、県内のあちこちで子供達が同時に多数倒れたという情報が・・・・・」
停車すると同時に飛び出す変人女。手には大きな荷物。「おい!足元気ィつけろ!」
記者が懐中電灯を付け、坂を登っていく。見送る刑事。ラジオが更に速報を伝える。
子供達の意識不明現象の全国規模展開。街々の夜空を舞う白い子供の影。そして。
「えー先程入ったニュースによりますと、本日午後6時前後、白い影の群と僧の姿の男が
「東京タワーを登坂中との情報が・・・・・・・」
あの横穴の中。変人女が中央の奇妙な像と対面していた。蔦の絡まった異形。
「根っこね・・・・・これ」頭を上に上げる。幾つも垂れ下がる蔦。「・・・・・上か」
「お〜い・・・・・」記者がやっと入って来た。「出て!更に登るわよ」「へ?!」
見ると変人女の頭にはヘッドライト。「お前、それは?」「持ってきたのよ。作業に必要だから」
坂を登り山頂に出る。あの横穴の真上だ。其処は小さな平地になっていた。
生い茂るは奇妙な蔦。風にそよぎ奇妙にうねる。その中央に、銀色の巨大な花。
「コレつけて」ゴム長に軍手、帽子にタオル。「気ィつけないと、マンダリン草の毒でやられるわよ」
東京タワー。てっぺんに取り付けられた銀の箱に乗る僧形。周りに集う白い子供達。
足元の街路では、動かなくなった子供を抱えた母親が呆然と光景を見つめていた。
銀の花の底には銀の装置が有った。「一種のアンテナよ、これ。」変人女が螺子を回す。
「アンテナ?何で──」「この下の穴、何だか判ってる?冥府、よ」蓋を外した。
黄泉。常世。根の国。浄土。隠れ里。「そういう『あちら側』を体現した場所ね」
ペンチを渡す。「其処に日本全国の銀の箱やこの装置を使い、子供達の幽体を───」
バキン。何かを無理矢理外した。
「『あちら側』へと連れ去る。そういう仕掛けよ」
「連れ去るって、何で!?それにあの坊主の格好の化け物は!?」又何か外した。
「さあね。笛吹き男の役だけど、案外本当に妖怪変化の類かもね」言葉も無い記者。
「いざやゆこうぞ、とこよへと───」僧形の笠が上がる。光点渦巻く笠の裏。
そこから一条の光が地平線へと放たれた。
銀の花に光が差し込む。「・・・!まずい」舌打ちする変人女。「お願い、下の穴の中に行って」
「!?どうすんだ?」「この機械と地下のあの像はマンダリン草の根で繋がってる。
「あの像をどうにかすれば、この機械も止まるかも」「かも、って・・・・・」
「早く!この世の子供が皆連れ去られてもいいっての!?」「・・・解った」走り去る記者。
穴に入る。偶像は相変わらず鎮座していた。太い根を引きちぎり像を押す。動かない。
「く・・・」蹴りを入れる。体当たりもする。しかし動かない。膝をつき息を整える。
「記者さん」背後から声。子供の男親が立っていた。「それが・・・元凶ですか?」
「・・・らしいよ」再び体当たりする記者。出て行く男親。──と、「・・・・・退いてください」
異様に広がった僧形の袖や裾に入っていく白い子供達。その度に光が脈動する。
「早、く、壊れて、よっ──!!」必死の変人女。基盤にドライバーを突き刺す。
手には松明状にした木の枝。偶像にかざす。───火が付いた。「燃えろ」
驚き飛びのく記者。「燃えてしまえ」あちこちに火を付ける男親。火の周りが速い。
「お、おい!」呼びかけに応じない。「もういいだろ!早く!」「燃えてしまえ!!」
落ちてくる燃えた蔦。そして砂。穴が轟音とともに崩落を始めた。逃げ出す記者。
ボッ。塔の上の僧形に火がつく。光を出しながらうめき、苦しむように身体を揺らす。
揺れに気付く変人女。装置から這いずり出て逃げ出す。装置を中心に亀裂が出来た。
同時に轟音。地面が陥没し、装置もマンダリン草も飲み込んでいく。
世にも恐ろしいうめき声を上げて、遂に東京タワーから落下する僧形。消える光条。
落ちながらバラバラに分解し、地上に落ちるまでに火の粉となり消えていく。
僧形の姿が消え去った時、白い子供達の姿もまた消えていた。
土煙の中、よろめきながら出てくる記者と変人女。「大丈夫か───?」刑事の声。
その横には、呆然と見上げる女親。振り向いてみる記者。
神社の横穴辺りが丸ごと崩れ去っていた。
変人女の洋館の書斎。脚立の上で本を読んでいる。「・・・で、どうだった?」
「どうも。普通だったよ」 ─────あの後。崩落後からは殆ど何も見つからなかった。
装置も、群生したマンダリン草も、あの男親の死体も。見つかったのはあの奇妙な偶像のみ。
焼け焦げたマンダリン草の根を取り除いたそれは、地蔵だった。
その地蔵に改めて作られたお堂を見に、記者が行っていたのである。
「変わった所は何も無かった。只の石地蔵さ」「そ」何処かそっけない。
「・・・・・──あの穴が冥府だったのは確かよ」間引く子供をマンダリン草で眠らせ、
あの穴の中に閉じ込めて、緩やかなまどろみの中で死へと旅立つ。お地蔵さんは
そんな子供達の守り神のようなもの。本を読みながら解説する変人女。
「じゃあ、何でそんなお方がこの世の子供全てを導こうなんて・・・・・・・」
「唆されたのかもね」「・・・・・誰に?」「・・・・・──あの、銀色の箱の事だけど」
部品の特徴から生産された所はすぐに割れた。其処は小さな町工場。
ある男に設計図を渡され依頼された物だという。代金は先払い。納品は無し。
作ればいつの間にか無くなっていたという。設計図は紛失していた。
「でもね、切られた領収書の控えに名前が残ってた──────『綾窪修太郎』って」
良く考えれば、東京タワーに銀の箱を取り付けたあの男。
寂れた神社に通う男。子供達に留守番を頼んだ男。僧形に望みを託した男。
一体、何者だったのだろうか?
「また、引越ししそこねたなぁ・・・・・」見ると変人女が呼んでいるのは引越情報誌である。
「まあ、今回のは・・・しゃあないだろ」「まあ、ね」
東京タワーの見えるアパート。女が料理を作っている。
「あやちゃん、ごはんだよ、でておいで、おごちそうだよ、おとうさんもまってるよ・・・・・・・」
三人分のお膳。いただきますの声。食するはその女一人。
東京タワーの鉄骨の上に、白い子供が一人。そのアパートを見ている。
ちょっと困った顔で小首を傾げ、
あちらへ振り向くと同時に、すうと消えた。
202 :
第X話:2005/04/24(日) 05:04:01 ID:aCVplKIs
鬱age
204 :
第X話 空の王様:2005/04/25(月) 01:06:34 ID:xm8qeAOL
スコーンと晴れた青空。広い空き地。何処かで小鳥が鳴いている。
その中の一本道を走って行く自転車。小学生が立って漕いでいく。デコボコの砂利路。
一心不乱。通り過ぎた有刺鉄線の柵の看板。『(有)葉山航空』
倉庫のような所で自転車を止めた。開いた扉の隙間から声を掛ける。「じーちゃーん!」
埃っぽい倉庫内。中に入る小学生の少年。作業中で止まった工具や部品。
湯気を立てるコーヒーメーカー。その上の板には、古い幾つもの写真。腕組みをする男達。
その背後には、一機の航空機。
何かに気付いた少年。裏手で声がする。走っていって覗き込む。其処は広いコンクリートの広場。
飛行場だ。その隅に男達が座り、空を見上げて歓声を上げる。「三谷のおっちゃーん!」
走り寄る少年。「お!ケータ!やっと来たかぁ」浅黒い顔が笑う。「じいちゃんは?」
「遅かったな」顎で指し示す。「上だ」「・・・早いよう〜ゥ」膨れる少年。
「しゃあねえだろ?お相手のご機嫌次第なんだから」浅黒い顔が空を見上げる。
高い高い空。入道雲。その中を、一機のレシプロが飛んでいる。只飛んでいるのではない。
その動きは緩急極まる。宙返り。捻り込み。そしてたまに、発砲。ペイントが地面を走る。
そして。「あ!」「ああっ!!」「あ〜・・・」急に翼の片方の端が折れた。というか、切れた。
ふらふらしながら戻ってくるレシプロ。「また不時着かよ〜」着陸地点へ向かう男達。
「かいちょ〜!」コクピットが開く。白い顎鬚の老人。「は〜、やられたやられた!」
「じいちゃん!」「おー、来とったかケータ!」「どうだった?」「駄目駄目だな─!ハハッ」
笑いながら空を見上げる老人。「かなわんなぁ、王様にゃあ」瞳に映る蒼空。
───────入道雲を背景に、空を横切ってゆく、白い『機影』が一つ。
∧__∧
(´・ω・`) 保守ageやがな
.ノ^ yヽ、
ヽ,,ノ==l ノ
/ l |
"""~""""""~"""~"""~"
飛行場の脇の土手の上。白髭の老人が座って煙草を吸う。今時珍しいパイプ。
「じ〜いちゃ〜ん!」少年が駆け寄ってきた。手には菓子パンが二つ。
「事務の大森のおばちゃんが、おやつだって!」「おお〜、すまんなぁ」一つ受け取る老人。
老人の横に座る少年。早速菓子パンを頬張る。煙草をふかす老人。
「・・・・・ねえ、じいちゃん」パンを食べながら覗き込む少年。「王様、やっぱり強い?」
「───まあ、な」「何時になったらやっつけられる?」「───お前が大人になる前にゃ、な」
「ふ〜ん・・・・・」また黙々とパンを食べる。と、何か思いついた。「!じいちゃん!あの話して!」
「ん?」「王様と出会った話ぃ!」「何だ、また聞きたいのか?」頷く少年。
「しゃ─ないなぁ・・・・・」溜息から立ち上る、小さな入道雲。
其れは六十年以上前の話。老人はまだ十代の若者だった。
空が好きで、高いところが好きで、飛行機乗りを目指していた。そんな時の、あの戦争。
時が経つに連れ居なくなる先輩達。そして来た『特攻隊』。自分も志願した。
それでよかった。大好きな空で、お国の為に死ねるのだ。それ以上の本望は無い。
旗を振られながら零戦に乗り出発。天候は快晴。時刻は夕方。
其れは無茶とも思える『夜襲』特攻。月は三日月。暗い夜。天地すら判然としない。
やがて誘導により辿り付いた敵艦。一機が他の機の目標にと早速特攻。
火柱に浮き上がる艦橋。空母だ。他の機も特攻体制に移る。と、横から機銃。
爆散する友人の機。敵編隊だ。早過ぎる。レーダーか、情報漏れか。散開する編隊。
敵味方すら判らない。入り乱れる両軍。意を決し機体を急上昇させた。
目前に大きな弧月。このまま、敵艦に、真上から。
────────三日月よ、介錯を頼む。
その刹那。弧月の中、闇の月面に白点。瞬時に大きな白影と化し、過ぎる自機体の横。
追う目線に確かに捕えた。あれは、何だ?
宙返りして向かう戦闘空域。彼方此方で爆発。墜落する機体。混乱する両軍。あいつは?
左側面を通過した敵機。鋭く重い金属音。同時に縦に真っ二つに切れ堕ちた。
前方に白い機影。あいつだ。奇妙な姿。羽と本体の後ろに脊椎の様な尾を引いている。
突如異様な軌道で左前方へ旋回した。というより、平行に移動した。
目の前に味方の零戦。衝突の瞬間、あの金属音と共に斬られる機体。そのまま爆散。
そいつの右翼が下がる。全体像が見えた。奇妙な羽。鎌の様。弧の腹の方を前に向けている。
また敵機が切断された。切断の瞬間、両翼を前方に動かしている。まるで大鋏だ。
本体部分は左右面とも大きな眼窩の如く陥没し、中央に宝石の様な物が見える。
突然、その宝石から赤い光。照らされる自機。次の瞬間、跳ね上げた左翼の下で金属音。
背後にあいつ。狙われている!?必死に逃げる。捻り込んで機銃を撃つが、当らない。
時折ありえない軌道と速度で前方に回り込まれる。その度の必死の回避。もう燃料が無い。
いきなり大型機銃の横槍。空母だ。あいつを狙っている。艦橋が赤い光に照らされた。
空母の真正面から接近する白影。機銃掃射。残存敵機の援護。
その全てを翼を閉じ、ありえない軌道で狂々とかわしていく。背後に連なる機銃の水飛沫。
大鋏の翼が開く。次の刹那、カン高い鋭い音と同時に、白影が消えた。
一拍置いて、空母の左右がズレた。まるで断ち割られた薪の如く両側面に倒れる。
空母の内部から爆発。機関室だろう。海上の自機から呆然と眺める。
─────何て奴だ。空母まで斬りやがった。
暁の光と共に、そいつは空の彼方へと消えていった。
208 :
第X話 空の王様:2005/05/02(月) 21:21:37 ID:MYNmGPru
「ほぁ〜・・・」少年の溜息。「すごいねえじいちゃん!そんなに強いのとずっと闘ってるんだ!」
「ああ・・・・・その後米軍に拾われて、終戦後飛行機会社創って、それからずっとだな」
「じゃあやっぱじいちゃんも強いんだ!」目線を落とす老人。「・・・・・いや、強かないさ」
煙を吐く。「機銃掃射に突っ込んで、弾全部かわしながら空母を切断するような奴だぞ?
「手加減してもらってんのさ、多分な。王様にとっちゃ遊び半分なんだろう」
「じゃあ・・・・・何でじいちゃんは闘ってるの?」─────無表情。答えない老人。
パイプの煙だけががゆらゆらと天に立ち登る。
ある空港内。アナウンスが航空便の遅れを伝える。そんな中、黒いコートの痩せた老人。
入国ゲートから出てくる。背の高い白人。白髪のオールバック。サングラスを掛けている。
『お迎えに上がりました』中背の白人が前に居た。サングラスを取る老人。目が青い。
横に眼を向ける。中止になった便の客が係員に掴みかかっていた。
『随分な出迎えですな』『申し訳ありません、本日のテストで彼がはしゃぎすぎまして』
『ほう?あの空域から此処まで?』『はい』『それは結構。上々ではないですか』
背後の喧騒をよそに、二人は揃ってエスカレーターを降りていく。
『本日午後、羽田空港に着陸予定の旅客機が謎の航空機を目撃した件の続報です』
午後のワイドショー。ぼんやりとTVを眺める少年。「じいちゃん、まだ降りてこない?」
「まだだろうな」エンジンを分解しながら答える男。「今日は王様、出てこないのに?」
「日頃の訓練も大切なのさ」「ふうん・・・・・」どこか煮え切らない、といった声。
TVのニュースが変わる。『次は、航空機に大変革をもたらす発明をした博士の特集です』
ま…まだ、やってたのか
今日は雲が多い。操縦桿を引く。浮かぶ雲の横に出る。風は無い。穏やかな天気。
雲間に何か見えた。───鳥か?────いや、人工物。ならば、航空機?
この周辺を飛行する航空機など無い筈だ。では───
移動中の車内。『で、今彼は何処に?』『現在、上空にて飛行待機中です。戻らせますか』
にやりと笑うコートの老人。『・・・・・いや、ご挨拶に行きましょう。あの男の所に』
突如自機の横を何かが横切る。今のは?航空機ではない。鳥並の大きさだ。
直後、目前の雲から黒い機影が飛び出す。やはり航空機か!大きさはセスナ程度。
後ろに薄い気体の尾を引いた。ジェットか?しかし見たことの無い機体だ。形も奇妙。
翼の形態が一様ではない。機動も異様な角度で動いている。いつの間にか後ろに付かれた。
旋回しようと下げた左翼の上を光と爆音が通り過ぎる。今のは!?後ろから消える機影。
何処だ?と、左下から先程の光。紙一重。機影は無い。間髪無く右上の雲からも光。
右翼端を削られる。複数か!?その瞬間、目前に黒刃の翼。
外で爆音。同時に墜落音。作業員がはっと気付く。少年が頬杖から転げ落ちた。
「おいおい・・・・・!」「何!今の!?」駆け足。見上げる空。老人のレシプロが堕ちていく。
「じいちゃん!」「大丈夫です。死なせませんよ」流暢な、不自然な日本語。
振り向くと背の高い白人の老人が立っていた。何か顎のマイクに命令している。
やがてレシプロが降りてきた。真っ二つのエンジン。翼の下にジェット噴射をする何か。
出てきた顎鬚の老人。前に出る白人の老人。「・・・・・葉山航空会長、葉山勘太郎様ですね」
「あんたは?」「私はアーノルド・グリンビレッジ。航空力学・工学のDr.です。そして──」
背後に真っ黒な機影が降りて来た。ジェットの風圧。レシプロの翼下から何か飛び出た。
「我がパートナー、自律型戦闘航空機『ルドラ』です。お見知り置きを」
葉山航空の飛行場を動く巨大なトレーラー。何台も停まり、資材を下ろしていく。
「米軍の接収ってどういう事です!?」「接収じゃない賃貸ですよ。第一我侭言える立場?
「あんたんとこの会長さんの遊び、縁故で見逃してもらってたの判ってる?」
役所の担当者の言葉に、何も云えない現社長。
「レシプロ戦闘機とは、また古いですね」工場の中。周辺を見渡すDr。「・・・・・まぁな」
エンジンをいじる会長。機体名を聞くDr。「独自設計だ。名無しだがいい機体だと思っている」
「レシプロ如きで、あの怪物を殺れるとでも?」目線を向ける会長。「・・・あんた、何が目的だ」
「聞きましたよ。カミカゼ中にあの怪物と出会ったんだそうで?」応えず見つめる会長。
「60年前私も出会ってるんですよ。フィリピン沖、真夜中の空母『アーカムヒル』の上で」
驚く会長。「あんた、まさか───」にやりと笑うDr。
次々と堕ちていく友軍。はげしい機銃掃射。直後、傾く船体。待機していた甲板上から落ちる。
破片に捕まりながら見上げる上空。弧月を横切る、死神の大鋏。
アレを倒す為。アレを堕とす為。一介の技師見習は生き残り本国へ帰還する。
大学に通い、博士号をとり、軍に取り入り、新型戦闘機を開発し。更に速く。更に強く。
全てはあの一晩中夜空を見上げて魂に焼き付けた、『三日月の大鋏』の為。
「そう、あの怪物『クレセントシャーズ』を倒す為にね」
蚯蚓が土手で鳴く夜。ガレージのTVで特集をやっている。映るはあの『ルドラ』だ。
「・・・・・この様にグリンビレッジ博士の航空機は従来の航空機になしえない機動性を・・・」
レシプロの機体の下に潜っている会長。横に寂しそうに立つ少年。「じいちゃん・・・・・」
其処に仕事を終えたDr。「しつこいですねぇ、日本のマスコミは」
「あれだけか?機体の説明は」作業を続ける会長。「・・・特ダネが欲しいですか?」
鼻で笑うDr。「・・・・・あの光は荷電粒子砲です。計4門。内2門は両翼下から分離して
単独で行動・攻撃可能。運動性能は本体並です。翼はその硬度と鋭さから体当たりによる
破壊活動に使用可能。動力は核物質で、連続して250時間の活動が可能ですよ」
「─────まさに超兵器、だな」機体の下からの応え。「あんた・・・・・、空ってどう思う?」
窓を見るDr。「ああ、今日はあまり良くなかったですね。ではまた明日」事務所へ歩いていく。
機体の下から出てくる会長。「じいちゃん、あの・・・・・」少年の頭に置かれる、汚れた手。
「心配すんな」煙草を吸いながら、外へと歩いていく。耳障りな程の蚯蚓の鳴声。
天を仰いだ。カシオペヤ座がはっきり見える。「───晴れるな。明日は」
アラーム音。「来ました。奴です」朝霧の中、ガレージ内が動き始める。
「・・・何だぁ!?」寝惚け眼の葉山航空の従業員。『ルドラ』スタッフが慌しく走り回る。
寝巻き姿の会長。煙草をふかす。「来たかい?『空の王様』は」
スーツをパリッと着こなすDr。鋭い目付。「来ましたよ。怪物『クレセントシャーズ』が」
スタッフのカウント。3・2・1・・・「『ルドラ』、Go」Drの号令と共に垂直に離陸する『ルドラ』。
空中で体勢を変え、空へと駆け上って行く。レーダーを見る。光点が二つ。
『奴は?』『上空を旋回中。こちらには気付いていない模様』『成程』天を仰ぐ。雲が多い。
『────手頃な天気だ。ぬかるなよ、ルドラ』
雲間を飛ぶ白い刃翼。突如前方から光条。白翼の居た所を交差した。再び光条が迅る。
『雲に隠れながら右機動砲座と同時攻撃。本体からは片方づつ撃て。位置を悟られるな』
翼を開閉しながら逃げ回る白翼。空中を幾つも光条が交錯する。
『左機動砲座は空中停止。極力ステルス化。本体と右で真正面まで追い込め!』
天の騒乱を顧みずにガレージへ戻る会長。それを見つけ、追いかける少年。
ガレージ内で煙草を吸う会長。「じいちゃん・・・・・?」緑のシートをわし掴み、はぐる。
追い立てられる白翼。真正面に積雲。直進コース。Drの眼が見開く。『────やれィ!』
光条。間一髪上昇する白翼。左右に別れ回避する『ルドラ』と機動砲座。外した。
『フォーメーション再構成。立て直せ・・・・・?如何した!?』左機動砲座の反応が無い。
上空から落下物。機動砲座だ。別れ際に翼で一撃もらったらしい。
『何て奴だ・・・───!?いかん!』本体に赤い光。見つかった。背後につく白翼。
右機動砲座が白翼に絡み付き光条を放つ。『ルドラ』本体が雲間に消えた。
回避に足止めを食う白翼。その上空に黒影。一直線に落下してくる。『ルドラ』だ。
『そのカミソリ翼の横っ腹、叩き折ってやれ!────』──────高く響く轟音。
きりもみ状態の『ルドラ』。その艶やかな黒刃は、対象性を失っていた。
『右翼破損!翼形変形、バランス調整します!』『ルドラ』の翼が変形する。右翼が動かない。
『機動性45%まで低下』次々と入る報告に震えるDr。『・・・・・・馬鹿な!ルドラが・・・・・』
雲間に追われる『ルドラ』。白翼の機動性に翻弄される。歯軋りするDr。
「危ねェみてえだな?」振り向くDr。轟音を上げるレシプロ。其の上に装備万全の会長。
睨むDr。口の端が引きつる。「何の積りだ」「何、俺も混ぜてもらいたくってな」
「我々の勝負だ。引っ込んでて貰おうか」「いいじゃねえか、助太刀しちゃるって」
「必要ない。エンジンを止めろ」「冷てェなあ・・・・・俺も空で遊ばせてくれよ。な?」
『黙れ!』切れるDr。スタッフが一斉に振り向く。「貴様に何が解かるジャップ!!
「この60年私がどんな思いで生き抜いてきたか判るか!?奴だ!奴を倒す、只其れだけだ!
「貴様の様に日々をのらりくらり遊び暮らしてきた人間に理解ができるか!?」
煙草に火を付ける会長。「・・・・・・───激しいねェ」鼻で笑う。
「それが空を目指す理由かい。俺にゃ無理だわ」一気に吸い、煙を吐く。渦巻く紫煙。
「ならば貴様は?奴を倒す為に飛ぶのでなければ、何だ!?」
煙草を捨てる会長。「さあ、知らん」操縦席に乗り込む。滑走路に移動する。
「おい!貴様!!」追いかけるDr。滑走路に着いた。「そうだなぁ、無理矢理云うなら──」
ゴーグルを掛ける。「飛ぶの好きだしなァ、俺」
一段と高くなる轟音。レシプロが滑走路を走り始めた。
215 :
第X話 空の王様:2005/05/09(月) 00:35:46 ID:ZL3xo8Tb
白刃に追われる黒刃。既に低下した機動性。右の機動砲座で迎撃するが当らない。
一瞬の隙を突かれ出し抜かれる機動砲座。大鋏の弧刃が『ルドラ』に迫る。
突如下から機銃。一瞬で横に移動し回避する白翼。雲に隠れた。通過するレシプロ。
『ルドラ』の横に並んだ。「よォ、大丈夫か──?」『ルドラ』の黒い表面を幾つも光が走る。
「お前確か自律型何とか・・・・・あ─、自分で飛んでる飛行機なんだろ?」
表面の光の動きが鈍る。光点がレシプロの方で止まった。ああ、こいつには意思がある。
「早い話、共闘しねェか?ケガ人にロートル。二つ合わせて一人前だ。どうだ?」
光点が一点を向いた。放たれる荷電粒子砲。レシプロの真横を過ぎる白翼。
一拍、光点がレシプロの方に向いたと思うと、一斉に前方に集中し、次の瞬間、加速。
雲間に消えた白翼を追う『ルドラ』。「へっ」満面の笑みの会長。
「そぉうこなくっちゃなあ───!」更にレシプロも追う。
『ルドラ、応答しろ、ルドラ!』反応が無い。『一体どうなっている!ルドラに何が起こった!?』
『この前と同じです』スタッフが応える。『この前?』『Dr.が来日された日のテストです』
『電子頭脳の暴走、というよりも、まるではしゃいでいるような────』
「見えたぞ!」掛け声に上を向くDr。雲間を飛ぶ影が三つ。
交錯する白刃。上昇してかわすレシプロ。追尾しようとする白翼を光条が追う。
送れて機銃。軽々とかわす白翼。と同時に機体が赤く照らされる。
異様な機動で背後に回り込む白翼。そこへ『ルドラ』の攻撃。また回避に回る白翼。
目まぐるしく変わる攻守。白翼に攻撃する暇は無い。雲間から降りてくる。
急降下する三機。機首を上げない。「おい・・・・」「おい、来るぞ、こっち来るぞ来るぞォー!」
飛行場端で機首上げ。白翼を先頭に三機が地上スレスレを迅る。目前にトレーラー。
『いかん、逃げろ!』『総員退避──!!』あわてふためくDr.とスタッフ。
迫る機影。轟音。鋭い音。巻き起こる衝撃風の中でトレーラーが真っ二つに割れた。
上空を見上げると、白翼が二機から離れて上昇している。
「何て奴だ、トレーラー使って後ろの二機引き離しやがった・・・・・」
「やりやがんなァ」会長の悪態。並んで飛ぶ『ルドラ』とレシプロ。
『ルドラ』の光がレシプロを向く。そしてレシプロの前に付いた。ピッタリと一定の距離。
離れようとしない。眉をひそめる会長。「・・・・・何、考えてんだ?」
「・・・・・ん?」『何をしてるんだルドラは?』上空を見上げる観衆。目立った攻撃は無い。
白翼から見る黒翼。時折牽制の様に光条を放つ。遠く離れ雲間に消える。
レシプロの姿が見えない。また雲に隠れての奇襲だろうか。
遥か遠くに黒翼が見えた。機首を真っ直ぐこちらに向けている。旋回する白翼。
『おい、これは、真逆・・・・・』「ヤバイって、チキンレースする気か!?」
『ルドラ』真正面の白翼。互いに速度を緩めない。小さな白翼の機影。
白翼正面の黒翼。更に速度が上がる。積乱雲を背景に見える黒点。
『ルドラを止めろ!早く強制停止信号を打て!』『やってますが受け付けません!』
『止めろルドラ───!!』叫ぶDr。口を開けたまま見上げる少年。
迫る黒翼。あの光条は放たれない。最高潮の速度。もう、回避不可能─────────
突如90度傾く黒翼。其の背景に、回転体と、もう一つの翼───即ち、レシプロ。
放たれる機銃。上昇回避する白翼。同時に真上から光条。
衝撃。傾く白翼。───────小さな円形にはつられた、『三日月の大鋏』の翼。
レシプロの追撃。「いけええェえェえぇぇえぇ─────」放たれる機銃!!
瞬間。トンボ返りする白翼。後ろに引いた尾椎が、伸びて────────
口を開けて見上げる観衆。白翼の前で飛び散るペイント弾。傾くレシプロと『ルドラ』。
宙に舞うレシプロの右翼と『ルドラ』の左翼。其の背後に、一拍置いて、
縦に割れた入道雲。
そう。あの時見た王者の神技。忌まわしき魔王の刃。空母を割った三日月の刃。
降りてくるレシプロと『ルドラ』。レシプロの欠けた右翼下に機動砲座が付いている。
「かいちょー!大丈夫ですかかいちょー」『ルドラ!おい、ルドラ!』駆け寄る人々。
無事着地したレシプロから顔を出す会長。メットを外す。「ぷあ──!やられたなぁー!」
スタッフにあちこち調べられる『ルドラ』。「よう!面白かったか『黒っち』ぃ!?」
『クロ・・・・・!?』変な顔して引きつるDr。嬉しそうに光が跳ね回る『ルドラ』のボディ。
218 :
第X話 空の王様:2005/05/14(土) 01:14:21 ID:DrkSQDyu
上空を見上げるDr。白翼が旋回している。『化物め・・・・・』
「悔しがんなよ」機体にもたれて煙草を吸う会長。
「遊んでた空の王様に本気出させたんだ。イイ結果じゃねえか」「それが如何した」天を睨むDr。
「倒せねば意味が無い。其の為に私は生きてきた。倒してやる。今度こそ、必ず・・・・!!」
「熱いねぇ。ま、それもいい生き様だ」煙草を棄てる会長。
「黙ってろ」一心に天空を見つめるDr。
「じいちゃん!」走り寄る少年。「お〜!ケータか!どうだった!?」「うん、凄かった!王様が」
少しズリ落ちる会長。「でも、じいちゃんも黒いのもかっこよかったよ!すごい!」
「だとさ!『黒っち』!」『ルドラ』の光が跳ねている。
『フン』鼻で笑ってそっぽを向くDr。
白翼が旋回した。雲の向こうへと飛び去っていく。空の彼方へ還るのだ。
「お〜い!空の王様よ〜う!また一緒にあそぼうやぁ────〜!」見上げる会長。
レシプロ。斜に見上げるDr。光のはしゃぐ『ルドラ』。少年。葉山の従業員。『ルドラ』のスタッフ。
高い高い蒼空。積雲達を背景に、くるりと白い尾を引いて、
『空の王様』は、空の向こうへ消えていった。
219 :
第X話 空の王様:2005/05/14(土) 01:18:25 ID:DrkSQDyu
エボリューションは最強の怪獣映画ですなage
220 :
姫野大路:2005/05/14(土) 02:13:54 ID:vkbiNkwF
面白かったです。頑張って下さい。
自分ももうすぐ作品書いてここに出すかもかもしれません。
221 :
姫野大路:2005/05/14(土) 03:11:36 ID:vkbiNkwF
リスト作ってみました。
即効でプロット≫3
虹の翼 石の羽≫5〜7
五郎と吾郎≫10
星喰星≫12〜14
逆光の都市≫15〜21
地脈線の恐怖≫24〜31
スナムシヨオドレ≫37〜48
ノビラを追え!≫50〜58
QDFX話≫61〜64・68〜69
侵略する海≫79〜88
アルケミストの天体≫91〜99
夜光樹≫101・103〜112
見知らぬ町≫116〜125
氷の中≫127〜137
木曜日の円盤≫139・141〜145・147〜152
東京テレストロイタス≫160・163・164・166〜169・171・173・174・177・179・181・183〜185
伽歌聖≫187・189〜195・197〜201
空の王様≫204・206〜218
無線通信が聞こえる。小雨に煙ぶる夜の町。眩しいとも暗いとも云えない、街灯の多い町。
只今日はどこか騒がしい。配備された警官。赤く光る霧雨。何処かで鳴るサイレンの音。
『おい、9号車!?』「あ、こ、こちら9号車、異常有りません」慌てて答える若い警官。
何かがドアを叩いた。見ると少女が覗き込んでいる。短いツインテールの髪の毛。
窓を開く。「?何?」「おとしもの」手を出した。受け取る警官。手の平に落ちる10円玉。
「おばあちゃんが、おとしものはけいさつにとどけろって」そう云うと、雨の中を走り去った。
溜息。露を垂らす10円玉。しげしげ眺める警官。さて、こいつを如何するか。
雑音。『本庁ーより連絡アマノミからと思われる回線侵入開始』無線に向き直る警官。
『立体映像投下の可能性大各自警戒せよ』「ヤベッ・・・」外へ出る警官。中途半端に着る合羽。
突如、天空から落とされる光の柱。「ちょ、ちょマジかよおい!」拡声器を取り出す警官。
『ぷぴ〜・・・・・』「え?アレ!?」音が合わない。光柱が広がってゆく。もう一つ光の柱。
大きく光柱が広がっていき────やがて、其々の中に現れる怪物の姿。
一方は巨大な腕。棘だらけの背中。もう一方は巨大な翼。共に極彩色でド派手だ。
『ボンボンボン』OKだ。『え〜周辺住民の皆様にお知らせします。只今怪獣出現により
周辺地域は避難命令地域となります。速やかに避難を・・・・・・・・』目前に下りる怪獣の脚。
腰を抜かす警官。逃げてくる人々。老警官が走ってきた。「何やってたんですか!?」
「すまん!びっくりした!あーびっくりした!!」息を切らす。人の波が切れてきた。
老警官に後を任せ怪獣達へと走って行く。既に怪獣同士の戦闘が始まっていた。
「おーい!誰か居るかー!?」呼びかける警官。と、怪獣達の方から手押し車を押す人影。
先程の少女だ。「おい!何やってるんだ、早く──」「おとしもの」手押し車を置く少女。
鍵。財布。携帯。上着。タオル。ラジオ。毛布。まくら。鉢植。バスケット。そして赤ん坊。
無表情の少女。「おばあちゃんが、おとしものはけいさつにとどけろって」
「クマノミ?」「違う、『アマノミ』だって」街中の交差点。横断歩道を渡る雑誌記者と変人女。
「で、そのアマメハギとかがどしたって」「いや、『アマノミ』だって・・・・・」聞いていない。
物件雑誌を捲りながらスタスタ歩いていく変人女。今日は何処に連れて行かれるのだ?
「ん?おばあちゃんの所」おばあちゃん?肉親なぞ居たのか。
暗いガード下。浮浪者のねぐらだ。「おば〜ちゃ〜ん!来たよ〜」
遠くで返事がした。近くのダンボールから誰か出てくる。老女だ。丸い顔の、人の良さそうな。
「おやお久しぶり。如何したの?」「ちょっとね。はいコレお土産」ビニール袋を渡す。
世間話が始まった。手持ち無沙汰の記者。周囲を見渡す。幾つものダンボールの家。
其の向こうから小さな影。少女だ。手に何か持っている。記者の前で立ち止まる。
短い双尾髪。袖の伸びすぎたセーター。袖の手の部分に穴を開け、指を出している。
記者を見る瞳。円らな瞳と云うより、団栗眼と云うより─────そう。ギョロ眼だ。
じっと見つめる少女。─────いや、見つめると云うか─────
「あらチーコちゃん、お帰り」老女の声。走り寄る少女。持っていたのはペットボトル。
水を汲んできたらしい。「や、チーコちゃん」変人女も知っているらしい。孫か?
「さて───ちょっと待っててね」老女の雰囲気が変わる。眼を見開いた。
暫らくして、「・・・・・ふう、そうね。コレなんかいいんじゃないかしら」物件を指し示した。
「ん、アリガト」丸を付けてページを折る変人女。「何だ、もしかして今の占いか?」
「そよん?その為に来たんだから」こいつ、科学の使徒じゃ無かったのか。
「おばあちゃんの占い、当るんでその筋じゃ結構有名だからねェ」ニコニコ笑う老女。
「まあ当り過ぎるからこんな生活してるんだけど。この前も変な人達が訪ねて来たし」
224 :
第X話 ガイアスカタス:2005/05/18(水) 01:40:43 ID:OYz7MKFY
「えー?大丈夫?」「ええ、大丈夫。チーコちゃんも居るしねえ」
少々の雑談をし去る記者と変人女。「ほら、チーコちゃん」老女に手を振らされる。
だが其の眼は────────そうだ───見られている。見透かされている。
帰り道の駅の構内。変人女によると、あの娘はあの老女が冬の公園で拾ったのだという。
年齢不詳。小さいから『チーコ』。小学校前だろうが───いいのだろうか。
「んで?オナモミとか云うヤツの話は?」急な話題のすり替え。判らない記者。
数秒経って気付く。「ああ・・・・・『アマノミ』ね・・・・・」・・・・・既に原型が無いぞオイ。
先日あの老女と少女の居た辺りで起こった騒ぎ。立体映像の怪獣同士の戦闘。
それの首謀者が、その『アマノミ』というネット集団だという話だ。
元々は単に怪獣同士を成長させ、闘わせるありふれたネットゲームだった。
しかし数年前、其れに違法改造を加えられたモノが出回ってから状況は一変した。
用意されたメモリ上でだけではない。全く別のメモリ上を乗っ取って戦闘出来る。
そこから更に改造を加えられ、既に一種のクラッカーツールと化したのである。
それにより1グループがネット内を自在に暴れ回った。まさに熱病の如く。
一時期警視庁のサーバーを占拠した事も有る。そして最近の傾向。───リアルへの現出。
TV回線占拠から始まり、現在はイベント用の商業用立体映像投下衛星を
NASDAサーバをハックして占拠、怪獣映像を直接現実の町へ投下し始めたのだ。
此処へ来てついに行政による本格的な対策が開始。メーカーの営業停止、役員の逮捕。
しかし既にユーザー達に運営が移行しており、依然ネット内に潜伏し活発に活動している。
「ふ〜ん、で、そのアメフラシがどしたっての?」「・・・・・・・・───モーイイ・・・・・・・」
うなだれる記者。次の仕事の話だってえの・・・・・。
225 :
名無しより愛をこめて:2005/05/24(火) 00:49:59 ID:L8mQj0uY
age
闇夜。足音。誰かが騒ぐ声。何か倒れる音。空き缶が飛んだ。
「あらあら」群れる足音。「あら?」囲む足音。「あらあらまあ・・・」足音が止まる。
「渡せ」男の声。「何を?」老女の声。「ガイアスカタスだ」「所持しているのは判っている」
溜息。「さ。この人達に付いてきなさい」小さな足音が数回。
金属音。「削除開始。お疲れ様でした」そして、発砲音。
「ねえ、あたしネットって嫌いなんだけど」変人女の声。編集室の一角、大型PCの脇。
妙なゴーグルを掛けた変人女が脚を組んで座っている。其の横に眼鏡の小男。
「まあ云いなさんな。これもいい経験だ」ヒヒッと笑う小男。「おかじー、準備まだ?」記者が問う。
「マダー?ったくもー」変人女も問う。「まだ!今サーバに登録申請中だよ」
「編集会議で『ネットの怪異』特集って決まったんだ。ネタふってんだから感謝してくれ」
「ヤなもんはヤーよ・・・・・」ブツブツ云っている。「先方もお前のファンらしいぞ?」
「寒気がするわ」やがて手続き完了。「では!、バーチャルインタビューいってらっしゃい!」
妙な和室。中心にコタツ。下座に変人女。上座に和服の文人風優男。
キョロキョロする変人女。「・・・・・コンニチハ」「こんにちわ」にこりと笑う文人男。
「こういうバチーャルネットは初めて?」「苦手なだけよ、あんたが『骨酔』さん?」
「ええ、どうですみかんでも」「とっとと本題、入りましょ?」目線を逸らす変人女。
横の障子が開く。其処には小さな庭。其の向こうに、闘う怪獣。『アマノミ』の中継だ。
「今日も元気ですよ連中は」現在、都庁屋上で破壊光線デスマッチを行っているらしい。
他にも世界数箇所で行われている。「これがどしたの?」くさる変人女。
「まあコレだけでも迷惑なんですが・・・・・・・・・」次々切り替わる怪獣の戦闘。
「コレ全部ブラフだと云ったら、どう思います?」
暗い階段。早い足音。其の頂上の鉄の扉を押し開ける。少し霞んだ青空。
向こうの端に座る人影。近付き見下ろす。変人女だ。携帯からイヤホンを付けている。
「────よお」雑誌記者の声。「コーヒー、どうだ?」缶コーヒーを置く。
黙って受け取る変人女。「・・・・・如何したんだよ?」向きもしない。景色を見つめる変人女。
「一昨日のインタビュー、何か有ったのか?」矢張り答えは無い。「・・・・・聞いてない、か」
「聞こえてるわよ」片手で缶を開ける変人女。
目の前をサイレンが通り過ぎた。今日の市内は警察が多い。
「なあ・・・・・本当に如何したんだ?」無視する変人女。携帯の液晶を見る。「・・・そろそろね」
天空から光。3本だ。「なっ!?」「本日のプログラム、怪獣3体による巴戦よ」
火炎の山の如き四足獣。細長い六脚の甲殻獣。不可思議な角を持つ巨人。
手前のビルの拡声器から各々の咆哮が聞こえる。同時に警察の避難指示。
「な!?お、おい!」驚く記者。「立体映像に実害なんて無いわよ。見物しましょ」冷静な変人女。
光線の応酬。遠距離は四足獣が強い様だ。無理矢理近接戦に入る六脚獣。
変人女がゴーグルを掛けた。「あら・・・・?更に4体乱入参戦?あらま〜」光の柱。
巨大な剣を持つ男と機械の羽を持つ娘。巨大ロボットに空中戦艦。既に怪獣ではない。
「『アマノミ』じゃーないわね。多分模倣者・・・・・本家に挑戦するつもり?」
楽しげな口調の変人女。「これじゃー人工衛星の回線パンクしちゃうでしょうにねー」
「ほ〜・・・・・」記者の溜息。「初めてリアルタイムで見たけど、すげェな・・・・・」
変人女の掛けるゴーグル内。現実と同じく展開される怪獣その他の戦闘。
目線をずらす。ビルの谷間、古びた乾物屋の屋根の上。白いぼやけた人影。幽霊の様だ。
巨人の片腕が飛んできた。瞬間、視界から消える幽霊。横へ振り向く。目の前に立っていた。
また消える。次はあちらの電線の上。ゴーグルをずらす。─────現実には、その姿は無い。
ゴーグルを掛け直し上空を見る。小さな銀色の飛行物体。またゴーグルを外す。
──────「投下映像には、含んで無い訳ね」変人女の、独言。
「────如何云う事?」「囮、ですよ」『骨酔』が手元の何かをいじる。
庭の映像が拡大した。「何処かに居る筈ですが────」と、横の障子に白い物。
其れがそろそろとこちらを覗き出てくる。其れは白い───────幽霊?
「いっ!?」変人女が驚くと、其れはふぃと消えた。「ああ、目の前に来てくれましたか」
『骨酔』の説明。あれは一種の検索ツールだという。『アマノミ』がネット中に放っているのだ。
相当圧縮・簡略化されておりメモリに影響は殆ど無し。プログラム上必要な画像も最小限。
「────で、彼らの探し物って?家の鍵でも落としたっての?」
「───かも知れませんね。探し物は、怪獣『ガイアスカタス』だという事です」
「おい!?」記者の声。「ん、何?もう終わった?」「いや、何かお前が止まってるからさ・・・」
六脚獣が倒されている。戦艦と巨大ロボットが爆炎を上げ、剣の男が羽の娘を庇っている。
巨人と四足獣が圧倒的だ。「うわ、すげ・・・・・」雑誌記者の声。
「・・・で?何?『ガイアスカタス』って」「伝説ですよ。究極の『アマノミ』の怪獣です」
「銀行口座操ったり、核ミサイル発射したり出来る訳?」「さあ、そこまでは」
睨む変人女。ミカンを剥く『骨酔』。「・・・・・─────あたしに、情報提供した訳は?」
「貴方のお知り合いが巻き込まれている様なので。お婆さんに、目付の悪い娘、ですよ」
229 :
第X話 ガイアスカタス:2005/05/30(月) 01:39:59 ID:icGj7ucu
「・・・貴方、何者?」「ハンドルネーム以外は伏せる、というのが約束ですよ」
ミカンを頬張り始める『骨酔』。「後、コレを進呈しておきましょう」なにかのファイル。
「『アマノミ』初回限定版の取扱説明書です。ご一読を」
携帯を操作。ファイルを読み込む。取り込んだ画像そのままの『アマノミ』取扱説明書。
『アマノミ。それは雨を呑む者。命を吸い、血を奪い、活力を奪い去る者。
また其れは天を呑む者。星を啜り、月を齧り、日輪を隠す者。
ドラゴン。狼男。吸血鬼。魔女。フェンリル。あらゆる怪物の原初の姿。
求めよ。退廃した舞台衣装では無く。幼稚な人類の友人では無く。愚かな心理の比喩でも無く。
あちら側の使いであるが故。怪物が、怪物であるが故。ガイアスカタスであるが故───』
「───ふざけてるわね、この開発者」変人女の、独言。
「おおっ?」記者の声。映像を見る。勝負が付いたようだ。なんと四足獣と巨人が逃げ出している。
羽の娘に駆け寄る剣の男。─────と、羽の娘の背後に、映像投下。
其れは────短い双尾髪。袖の伸びすぎたセーター。ギョロ眼。あの少女だ。
少しづつ羽の娘に近付き、手をかざす。「な!?チーコちゃ」変人女が全て口走る前に、
怯えた男の巨大な剣が、少女の上半身を切り飛ばした。
「お、おい?今のって───」声を掛ける記者。変人女の方を見る。
変人女は、ゴーグルを放り出し硬直していた。
眩い世界。溢れかえるフォント。イコンの洪水。照らされる光は闇と同義。
『ダメだったか、外部模倣データでも』『カタイよなプロテクト、何でだろショボイのに』
『あのコード解析釣りじゃないのか?』『そもそもこいつ本物かどうか判らんしな〜』
『取り合えず今回は仕舞だ、監視以外はログアウト』『了解、乙です』
眩しい世界。白紙の部屋。静寂の洪水。降り積もる闇は光と同義。
少女が一人。目線は彼方。浮かぶ文字列。『大人しくしてなよ、お嬢ちゃん』
「あい」
郊外の団地。階段を上がる記者。『岡島』の表札前でチャイムを押す。「勝手にどーぞ〜」
ドアの中は機械の山。其の中に小男。「・・・・・なんだよこれ、おかじー?」
埋もれながらブツブツ云っている。どうも変人女が指図したらしい。当の本人は?
更なる奥、安楽椅子にすわり、ゴーグルを被って座っていた。一体何を始めるのだ。
「『アマノミ』に会わせろ、ってんだよ」キーボードを出す。「な・・・・・一体何で?」
「昨日、おばあちゃんの所行ってみた」変人女の声。「もう、何も無くなってたわ」
あの老女に何か有ったとしか思えない。其れに『アマノミ』が関係している。
だからって何で其処まで?「少なくとも、幼女誘拐略取の可能性は有るでしょ?」
「でも、どうやって『アマノミ』に会うんだ?」「取り合えず、暴れてみるわ」
おかじーが何か創っている。覗いてみた。「おわっ!ヤメロスケベエロチカン!」
誰だお前。
ほの暗い世界。数本の流れ。『FA厨の連中、警察とつるんだって本当か?』
『おかしか無いさ、マスターズ、銀鉄大戦に米軍がコンタクト入れてるって話だ』
『それよりもホレ』動画が出る『面白い新人がやってきたぞ』
数日後。まだ変人女は頑張っている。岡島の部屋に泊まりこみだ。
そっと部屋に入る。岡島が居た。「どう?調子」「まあ、ぼちぼちだよ。今対戦中だ」
画面を見る。中世の城の様なロボットと対戦しているのは・・・・・「・・・・・・何で、棒人間?」
彼女がグラフィックは最小限でいいと云ったからだそうだ。代わりにスペックは凄いらしい。
「知り合いのゲーム作家連中に創ってもらった改造品だからな!違法だけど」
これで『アマノミ』系MMOを荒らしまわる。これで対戦好きな『アマノミ』を誘い出す。
さて。これに『アマノミ』が乗ってくれるか。
揺らめく世界。踊るフォント。イコンの嵐。廻る輝きは暗りと同義。
『一昨日はマスターズ、昨日はファンタジー・アルティメット』『そして今日は銀鉄大戦か』
『節操も何も有ったもんじゃないな』『明日はペイル・ルナとだとさ、なめてんじゃねえ?』
『なめてるのは我々だ、あれは挑発だ』『じゃあ、乗ってヤルのが礼儀じゃん?な?』
「・・・・・・来た!」メールだ。差出人印に『アマノミ』の文字。
対戦申込だ。同時に世界8ヶ所同時中継映像投下の提案。場所は長野のPC会社のサーバ。
返信を送る。「さて───」変人女が封筒を出した。「コレ、放り込んできて」
宛名は─────────『警視庁SRI第6分局 電脳犯罪対策室 電網課』
競技場。其のグラウンドの中央。光るアイコン。正面スクリーンに文字列が走る。
『ようこそ、アマノミへ』其の瞬間、スタンドにアイコンの列がズラリと並んでいく。
歓声の如き文字列の滝。何かズラズラ流れているスクリーンに、変人女が話し掛ける。
「御託は結構。さっさと始めましょ」
「お、来たぜ」ハンディTVに映るニュース速報。国立競技場に舞い降りた、棒人間。
その光景に含み笑う記者。「かっこワリィ・・・・・」残念がる岡島。
先ずは小手調べ。銀色の巨人。愛嬌の有る顔の四本角。襟巻きの有る恐竜。
数十秒と掛からず倒す棒人間。次は巨大な海蛇。巨翼のドラゴン。魔方陣が敷いてある。
「FAユーザも交じってんのね・・・・・」同士討ちにより撃破。
次は巨大な合成怪獣。何処かで見た怪獣のパーツが見える。カウンター撃破。
「すげ─────・・・・・」「何処が?おかじー」説明されるが、良く判らない記者。
絶賛の嵐。『素晴らしい!では最後の対戦だ。我々の本命、ですよ』
競技場の上の芝生。その上に、小さな双尾髪。ギョロ眼の少女。一瞬、たじろく棒人間。
『ええ、彼女が我々最強のアマノミ、です。遠慮なくどうぞ』
動かない棒人間。『如何しました?早くやってくださいよ、先程の様に』
「彼女の名前は?」『名前は────────────────ガイアスカタス、ですよ』
「ねえ」少女が聞く。「おばあちゃん、どこにおとしちゃったのかな」
両手の平をかざす。天空より、白い幽霊達が、飛行物体が舞い降りる。掌に小さく渦を巻いた。
あの『アマノミ』の検索ツールだ。この少女が放っていたのか。
「けいさつにいってもしらないっていうし、だれにきいてももってないっていうし」
掌の白い渦を、少女が両の眼に注ぎ込んだ。
「どこかに、おとしたままなのかな」
『さあ、斗って下さい。そしてガイアスカタスを呼び出してください』スクリーンの文字列。
文字列がアイコンを象り─────そして像を結ぶ。其れは、和服の文人男。
233 :
第X話 ガイアスカタス:2005/06/04(土) 01:17:07 ID:KXx+IQES
コール音。「お、『田中36世』か?」どうもおかじーの仲間かららしい。「やった」
何と、警察が逆探知で少女を保護したらしいとの事。場所は秋葉原のネットカフェ。
改造型携帯端末で全身を拘束されているらしい。取り外せないそうだ。
「やった─────一件落着じゃないか」変人女を見る。・・・・・様子がおかしい。
夜の帳が降りた外。町並みの向こうに、一条の光が下りた。
渦巻くフォント。揺らめく文字列。コールを行う群集の如くイコンが踊る。
斗え。斗え。斗え。斗え。軍靴の如く。嵐の如く。静寂に佇むのは少女と棒人間。
『斗わないのですか』棒人間の横に現れる和服の文人男。それは、あの『骨酔』の姿。
「あんた、何者?何が目的?」『さあ、私が何で何をしたかったのか、まるで忘れてしまいました』
横を指し示す。『それより、如何します?アレ』その先の少女。
瞳の中に渦巻くのは、漆黒のみ。
「おおお?何だと?」驚くおかじー。警察が少女を収容するのが遅れている。
その理由。盗聴結果のメディアファイル。『少女──・・・・・─・・・・・・立体映z・・・』
「闘わない」少女に歩み寄る棒人間。手を差し伸べる。「さ、帰ろ」少女の瞳を見る。
眩い瞳。伽藍堂の眼窩。───────────瞬間、其の中から。
別の紅い瞳が、こちら側を見つめていた。
「ヒッ」小さく息を呑むと同時。変人女の操る棒人間により、少女の頭半分が斬れ飛んだ。
残った口が喋る。「おばあちゃん、みいつけた」
警告音。変人女が反り返った。「な!?」「おい、如何した!?」そのまま痙攣している。
押さえつける二人。「おい、何だよコレ!!」「判らん!何かショックがあったとしか」
やがて治まる。変人女が小声で口走った。「盗られた・・・・!見透かされた・・・・」
「おかじー!」「はひっ!?」「『骨酔』を至急調べて!早く!」慌てて画面に向かうおかじー。
『無駄ですって』『骨酔』を睨みつける棒人間。『それにしても下らん偽装だ』
着流しの袖がゆらりとゆれる。『NPC如きがあちら側なんぞに行くからだな』
「何なの、今の・・・・・・」息の荒い変人女。『簡単ですよ』
『攻撃時発生するセキュリティホールから、貴方の脳内にハッキングを仕掛けたんです』
「は・・・?」あっけに取られる変人女。馬鹿な。ネットと自分の生体脳はリンクしていない筈。
『そういう機能も有るんですよ?暗号化されてジャンクに偽装してますがね』
ならば。ならば生体脳なぞに潜り込んで、何を見た?何を盗んだ?
『トロイ化されたガイアスカタスの最後の一部。おばあちゃんの思い出に紛れた、ね』
「おい!」おかじーだ。「判った!?こいつの正体、その居場所!」
「判らん!!」「な・・・」「というより、こいつはログオンしていない!『アマノミ』のNPCだ!」
『というよりも────────』『骨酔』が両手を翳す。イコンの群が立ち上がっていく。
『我々アマノミは、開発者人格の圧縮劣化型コピーなんですがね。彼女も含めて』
少女へ視線を向ける。斬れ飛んだ少女の頭蓋から、黒い闇が染み出していた。
音も無く。
競技場のグラウンドが観客席ごと消えた。残るのは眩い穴。
其の穴の中。地獄の亀裂の様に紅い眼と口蓋が開き、歯を剥き出して笑った。
頭と上半身の半分を持っていかれた『骨酔』が高らかに詠う。
『さあ御覧の全人類の皆様、世紀の大怪獣の降臨です。愉しもうではありませんか』
慌てる刑事。警察官。繁華街の道の真中に立つ、前身拘束少女。
其の少女を中心に異様な立体映像が投下されていく。裂け目の様な巨大な口が開いた瞬間、
街の全ての灯りが瞬時に消えた。
また音も無く、今度は競技場の反対側が削られた。更に外部へと侵攻する闇。
逃げ惑うアイコンの群。其の只中に集う『骨酔』と幾つかのアイコン達。
『全く、ババアには手を焼かされた─────いや、あれも又開発者の意思か』
云うが早いか、瞬間、闇に押し潰された。
「いかん!」おかじーが慌てる。「ログアウトだ!回線切るぞ!!」
強く拒否する変人女。「まだよ。チーコちゃん助けて無い!」「俺のPC吹っ飛ばす気か!?」
「大丈夫!迷惑掛けないから続けて!」沈黙、後舌打ち。
「本当に危なくなったら強制終了するぞ、いいな?」「OK、あんがと」
外の夜景が揺らめいている。窓を開ける雑誌記者。
「お、おかじー・・・!!?」「・・・・・こっちも、『田中36世』から報告入った」
夜景の只中に現れる巨大な闇。紅い眼と口蓋。口が夜の街を飲み込む度、人の灯が消えていく。
怪物が、現実の街をも喰らい貪っている。
「チーコちゃん!」呼びかける変人女。棒人間の前に広がる巨大な眩い穴。
「チーコちゃん!?」再度の呼び掛け。返答は無い。無力に潰されていくプログラム達。
其の時、かすかな返答。
「・・・・・あい」
「おかじー、隔離ファイル作れる?大容量の」驚くおかじー。「な、何する気だ?」
又一つコミュニティが飲み込まれた。闇の上を飛ぶ棒人間。離れた高台に着地。
おかじーのサーバだ。闇に語り掛ける。「チーコちゃん、聞こえる?」
闇が眼を剥く。紅い亀裂が三本、こちらを向いた。 「・・・・・・・・・あい」
「久しぶり!おばあちゃんは如何した?」 「・・・・・・・・さくじょされた」
「何で?」 「・・・・・・・・うらぎったから」
「誰を?」 「・・・・・・・あまのみを」
語り掛ける度、接近してくる闇の顔。
「ヤバイって!これ以上うちに近づけるな!!電プチするぞ!?」おかじーが切れている。
「お・・・おかじー!おいって!!」慄く記者。街を喰らう怪物が、こちらに向かっている。
次々と街を貪りながら迫ってくる。人々の悲鳴が聞こえてきた。
「チーコちゃん、こんなのどうやって創ったの?」 「・・・・・・つくってない」
「じゃあ、どうしたの?」 「・・・・・ひろったの」
「何処で?」 「・・・・・あちこちで」
高台に迫る闇。崖を這いずり上がり始めた。
独り言の変人女。叫ぶおかじー。肩を揺する記者。団地の目の前まで怪物が来た。
巨大な紅い口が、そして紅い眼が、窓の前を通過していく。
「じゃあ、どうにかしなきゃ」 「・・・・どうやって」
「おばあちゃん、云ってたよね?」 「・・・あい」
「落し物は?」 「けいさつへ」
瞬間、闇が消えた。驚くおかじー。窓を見る記者。
「おかじー、この隔離ファイル保管して。厳重に、外部記録装置のみにね」
おかじーの返答を待たずに席を立つ変人女。記者の脇を抜け、玄関へ向かう。
崖の上。迫る闇は消え、其処に立つのは棒人間と、そして。
変人女がゴーグルを取る。手袋を外し、ポケットへ入れる。玄関を開けた。
其処には、全身を端末で拘束された少女が一人。
変人女が、少女のゴーグルを外す。大きな眼が瞬いた。
「お帰り、チーコちゃん」
「・・・・・・・あい」
其の少女は、元々児童保護施設に居たそうだ。原因は親の育児放棄。
食料のみを買い与え、教育はもっぱらPCのAI。その後あの老婆に引き取られたらしいのだが・・・
「おばあちゃん、元々養護施設の痴呆老人だったらしいわ」変人女が語る。
施設内でのレクリエーションからネット依存症になり、ある日施設を抜け出て失踪。
捜索願も出されていたが、家族は野たれ死んだものと思っていたそうだ。
全て、後日の警察発表からである。
「そうそう、警察と云えば」あの怪物、ガイアスカタスの隔離ファイルの入ったディスク。
一応事前タレコミした警察に送付した。匿名だったが。
彼女曰く、「後で色々めんどいじゃん?取り調べとか」だそうである。
青空のある朝。古いアパートの一室の前に立つ記者。ドアを叩く。「はぁーい」
勝手に入れとの事で勝手に入る。中に居るのは変人女と、「チーコちゃん?何で?」
結局、変人女が引き取る事になったらしい。両親とも行方不明、血縁者ナシだからだそうだ。
「はーい顔洗ってらっしゃーい」少女を洗面台に向かわせる。
「さ、今日はやってもらうわよん」そう、今日は変人女の荷物の移動に来たのである。
やっと引越し先が決まったのだ。
「チーコちゃん、大丈夫?」コーヒーを飲みながら聞く。「大丈夫、上手くやってる」
その内あの事件の話題へ。警察の分析では、『ガイアスカタス』はありふれたウイルスだったらしい。
被害は1市3町に跨り、数十の会社や浄水場、変電施設も有ったらしいが、意外と小さい。
現行OSのセキュリティホールを突いてココまで被害を出したのは見事なのだが。
だが、おかじー他あの時の協力者からは待ったく別の報告を聞いた。
どうも、ネットのあらゆる所にあの時刻、何者かが大容量のデータを流した痕跡が有るという。
「大山鳴動鼠一匹、でも本当にそれが鼠だったかどうか、覚えてる人間は居ないわよ」
そして、山に鼠のようなものを放ったのは何者なのか。もう、何も残っていない。
「できた」少女が出てきた。ランドセルを背負っている。小学生だったのか。
「栄養状態が悪かったせいで、こんなにちんまいけどね。おくれは取り戻せるわよ」
玄関で靴を履く。「一人で、行ける?」しゃがんで聞く変人女。「あい」
「ん!じゃ、いってらっしゃい」「あい」ドアを開け、走って行く少女。
見るとアパートの下に軽トラが止まっている。おかじーが顔を出した。
「おらー!持って来たぞ!はよ降りてこい!」「はぁ〜い待ってて、1時間ぐらい」
「フザけんなコラー!」やれやれ、変人女の犠牲者がまた一人。
おかじーが携帯をいじっている。其の横に、下まで降りて学校へ向かう少女。
ふ、 と少女がおかじーの方を向いた。其の眼は携帯にて焦点を結ぶ。
焦点が、ズレた。携帯を抜け、おかじーを抜け、軽トラを抜け、街を抜け──────
其処まで見て、少女は目線を逸らし登校していった。
向こうの空に広がる雲。やがて、季節は梅雨。
240 :
第X話:2005/06/06(月) 02:42:28 ID:WY7u2E/D
しかしよくこれだけ話が思いつくなぁ・・・。せっかくだから専用サイト立ち上げたら如何?
242 :
第X話:2005/06/09(木) 00:01:36 ID:87oN/70E
立ち上げ方知らんし・・・・・仕事の合間である以上そんな暇無いし・・・・・・・・
ネット環境無いようなトコに転勤話来てるし・・・・・
だが妄想は湯水の如し。ダメダメジャァ
よしお前の才能をそっくり移植させてもらう
転勤話断れ!もう読めなくなるだろ!
真夜中の山中。葉々の雨垂の音。黒々とした水面が垣間見える。
四駆が泥水を撥ねて走る。激しいワイパーの音。
「おぉい・・・先が見えんぞ、大丈夫か?」「ん?ああ、大丈夫大丈夫」四駆が大きく跳ねた。
「でもダムの連中如何したんだ?事故か?」「寝てるんじゃねえのか、案外」
「お、県道だ」「やっとかよ・・・・・」広い道に出る。目の前は湖。
やがてダムが見えてきた。錆びた交通標識。『礼根沼ダム』
振られる灯り。既に何人か到着している。警察も居る様だ。しきりに水面を探している。
「お〜い」何人か振り向く。「ああ、ご苦労さんです」合羽着の男が応える。
「管理所や艇庫にも人影は有りません」「車は?」「そのままです」
だが合羽は幾つか無くなっていた。何処かに外出したのは確からしい。
水面を見る。「やばいんじゃないの水位?」「ええ、各所には連絡済です。警報はこれから」
と、無線通信。「──え?流木は?大丈夫か!?」繰り返される応答。
無線を切る。「網場の網が、破れているそうです」
この大雨時に?「大丈夫なのか?放流は」「ええ、何とかしないと・・・・・」
「オーイ」向こうから掛け声。灯りが振られている。「何か浮いているぞ〜!」
「コレは────」一瞬、転覆したボートかと思った。違う。『脚』が有る。『鋏』が有る。
巨大な甲殻類の腹だ。車程も有るだろうか。「蟹?か?」どうも死んでいる様だ。
一人が良く見ようと岸辺へ下りる。と、ダム湖の中心から水飛沫の音。
「何だ!?」張り出した枝が邪魔で良く見えない。樹の向こうへ向かう面々。
「おお・・・・・!?」「何だありゃ・・・・・」礼根沼ダム湖中央。雨中の灯りに照らし出されたのは、
水面高くうねり狂う、長い長い幾つもの蛇の様なモノ。
246 :
第X話 怪しい水底:2005/06/14(火) 23:44:51 ID:ez/jFGmL
しとしと降る雨模様。玄関先に雑誌記者。その前には、上目遣いの少女。思いっきり睨まれている。
「おい・・・・・まだか?」「もうちょっと待ってよ〜」奥から変人女の声。風呂場からの様だ。
変人女と一緒に会社に行く約束なのだが、朝風呂との事で待たされているのだ。が・・・・・
「入って座る位───」「女二人だけの秘密の花園に立ち入る積り〜?」
どーでもいーが机の上に昨晩のコンビニ弁当が出しっぱなしだ。床の上にも物が散らばる。
引っ越したばかりでどうやって此処まで散らかせるのだ?
溜息をついて少女を見る。「おはよう」「あい」「元気?」「あい」「中入っていい?」「・・・・・」
駄目か・・・・・───────と、変人女が出て来た。凄い剣幕。
「水、 止 ま っ た」
「───で、髪洗ってんのかあそこで」「はあ・・・・・」会社の編集部。給湯室から水音。
結局朝風呂しそこねたらしい。笑う編集長。「ま、女だからな。綺麗好きはしゃーない」
いや、アレは風呂好きだが綺麗好きでは無い・・・・・しかし、何故断水?梅雨だと云うのに。
と、給湯室から超音波の咆哮。ビビって振り向く編集長と記者。開くカーテン。
立っていたのは頭から泡を吹いた変人女。「ま た、 止 ま っ た」
怒り狂う変人女。女性事務員がなだめにかかる。と、外から拡声器の声。
何か断水がどうとか云っている。此処でも断水?TVに緊急ニュースのテロップが入る。
『本日午前10時東京都水道局発表によると、一部上水道水より
高濃度の有機砒素化合物を検出、緊急措置として断水を実施
断水地域は以下の通り・・・・・・・・・』
すごい頑張ってるとは思うんだけど、寂しくならないか?
248 :
名無しより愛をこめて:2005/06/14(火) 23:59:13 ID:3FTCnXyy
半年間、ほとんど一人で書き続けてるってすごい・・・
何者!
ウルトラQにこだわってるってことは、かなりの年齢!?
おじさんになってる俺でさえウルトラQはリアルタイムでみてないからねー
ネタの続くかぎりがんばってくれ!
俺もそのうち一つ位、書いて参加したいが・・・
249 :
名無しより愛をこめて:2005/06/15(水) 01:05:29 ID:wJ+DZkCE
このスレは公安Qちゃんが制圧した!
ドライヤーを掛ける変人女。結局髪は買って来たミネラルウォーターで洗われた。
「にしても何で水道に砒素なんか・・・・・」「そらー、現代社会の病理に侵された人間がだなー」
要するにテロ、か。確かにマスコミはどこも其れを想定して報道している。
「ふーん・・・・・」セットし終わった変人女。何時もにも増して髪がボサボサだ。
新聞の夕刊を読んでいる。「なーんか、妙ねェ」納得して無いらしい。
「取りあえず今日は帰るわ。ほら、あんたも」え?驚きながら連れて行かれる雑誌記者。
何かと思えば、給水車の水を運ばされる記者。「お〜い、持って来たぞ〜」
ポリタンクを持って戸を開けた。変人女は奥で何かしている。
「調べ物か?」「んー、断水地域の事なんだけどねー」地図を出してきた。色が塗ってある。
「この広がり方、どう思う?」どう、と云われても・・・・・
周辺に今回の砒素汚染の原因となる上水施設が無いか確認していたのだという。
だが。「浄水場とか取水口とか一切無し。まるで何処からか湧いたみたいね」
小学校がこの騒ぎで休校になったらしい。変人女と共に少女を迎えに行く。
校門前で律儀に微動だにせず待っていた。「や、チーコちゃん!待った?」「あい」
・・・・・変人同士、息が合っているのかいないのか。兎に角一緒に下校する。
途中、「チーちゃーん!」同級生。犬を連れた母親も一緒だ。「あーどーもいつも家の娘が・・・」
雑談。意外と変人女は話を合わすのが上手い。犬が増水した用水路を見ている。
と、用水路に何か、うねるモノ。流れに任せている様で、そうでない。鰻が、蛇か───
犬がしきりに鼻を鳴らす。モノが顔をこちらに向けた。
水音。悲鳴。「あらあらふざけちゃ駄目よー」お母さんがたしなめる。
「それじゃあ、また」「バイバーイ!」同級生親子が帰ろうとした時。縄が重い。
縄を引く。先を見る。その先には、飼犬だった死骸。
同級生の飼犬の死因は、急性砒素中毒。何処かで水道の水を飲んだのだろう、との事。
しかしあの時周辺に水道など無かった。有ったのはあの用水路。下水にも致死量の砒素が?
「水道水に急性中毒起こす様な量、含まれて無いわよ」とは変人女の弁。
やがて数日、当局の必死の中和作業により騒ぎは終息していった。
発生源の不明という、不可解な点を残しながら。
「ちゅーす」編集部のドアを開けて入る変人女。「───あれ?あいつは?」
雑誌記者が居ない。話では取材の為出張中だそうだ。「ふう〜ん・・・・・」
つまらなそうな変人女。手にはMDが一つ。
雑誌記者の運転する車。棚田を過ぎ、林道を抜け、砂利の横道に入る。
門柱に大きな文字。『おいでませ摩訶不思議の里へ』・・・・・────不安がよぎる記者。
着いた先は、安っぽい遊園地の様な建物が並ぶ。『礼根沼みすてりあすぱあく』
奥にちょっとまともな日本家屋が有った。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・────ゴメンクダサァイ?」
「ううぉうびっくりさせんなよおい!!」背後にじいちゃん。ビビッたのはこっちだよ!
不安的中。このじいちゃんが今回の取材相手だった。しゃがれた声は大きいが支離滅裂。
「うぉ〜らこれみてみ〜なんせな〜」アクセル全開になる前に奥さんがフォローする。
「見て貰うのはこっちじゃないでしょ?」「うお〜じゃそうじゃそうじゃ」
向かった先は、倉。相当大きい。入り口上に、『秘宝館』・・・じいちゃん、解ってんのか?
中に入り電気を付ける。「おおお・・・・・」感嘆する記者。驚いた。これは凄い。
硝子張りの通路。硝子の向こう側には、異形の剥製の群。
252 :
第X話 怪しい水底:2005/06/16(木) 01:18:38 ID:zqgQK0zD
そう、これだ。これが今回の取材の目的なのだ。怪物達の剥製。
通路を歩きながら眺める。鹿角の兎。有翼の黒猫。三ッ頭のブルドッグ。脚の有る二枚貝。
じいちゃんが何事か喚きたてる中、奥さんの解説を聞く。
どうもここの家は大昔、こういった『怪物』の剥製を造ることで生計を立てていたらしい。
じいちゃんは反発からか剥製を造る事を止めてしまったが、定年で仕事を辞めてから
こういった剥製を集め出したらしい。それこそご先祖の仕事をなぞる様に。
双頭環蛇。毛の生えた鱒。人面の馬。背鰭の有る鰐。何故かカモノハシが混じっている。
「お?」角の有る木乃伊。鬼だ。河童、天狗、おなじみ人魚の木乃伊も有る。
「これが我が家最大の怪物の剥製です」「どうじゃあ?すごいじゃろ〜!?なあ!」
目前の壁一面。レリーフの様に張り付いているのは、多頭蛇の剥製。巨大だ。
まるで植物の様に扇状に伸びる首。その先の恐ろしい顔。全部で八本。───いや、九本?
頭の先が無いのが有る。奥さんに尋ねてみた。昔、無くしてしまったらしい。
じいちゃんが静まりかえっている。一言、「・・・・・・兄ちゃん、まだ許してくれんか」
今日は停まり。予約していた旅館に宿を取る。やけに節水の張り紙が多い。
聞くとここは全て別の街から特別に水を引いているという。ディーゼルポンプまで使って。
「え?じゃああのダムみたいなのは?」ここに来る途中、山中でダム湖らしきものを見た。
そこへ行くらしい横道は看板とバリケードで通行禁止になっていたが。
「ああ、あそこは使えなくなってんですよ。ええ、前にちょっと事故があったらしくてねえ」
事故で廃棄されたダム?聞いた事が無い。好奇心が疼く。
山道を登る。一応舗装してあるが劣化が激しい。道脇から雑草がはみ出している。
だが道の中央には雑草は無い。見るとアスファルトの割目から雑草が抜かれている。
地図を見る。その先は高等線のみ。眉をひそめながら藪を抜ける。
煌く水面。───────有った。地図からも消されているのか。
岸辺の道路を歩く雑誌記者。長い間手入れはされていない様だ。所々劣化している。
だがその割りに雑草の繁茂は無い。間違いない。頻繁に人が出入りしているのだ。
と、向こう岸に人影。───遠くからエンジン音。茂みに隠れる雑誌記者。
先ずジープ、そして大型のタンク車が通り過ぎた。ジープの中に銃器類が見える。
向こう側でタンク車は停車。周辺を何人かが警戒する中、水面にホースが下りる。
もっと良く見ようと移動する記者。何らかの薬品を湖内に投入しているようだ。
と、水滴の音。ふ、振り返る記者。奇怪な顔と眼が合った。
「ひいっ!?」驚き後ずさる。顔、と思った。ぬるりとした表面。口らしき裂け目。
上下顎の縁に黒い斑点が並んでいる。────────コレは、顔、なのか?
軽い空気音と共に開く口。寝ていた針状の歯列が連動しぞろりと立った。
思わず駆け出した記者。間違いない!襲われる!なりふり構わず舗装道路を走る。
横の水面から連続した水音。横目に見ると、さっきの奴が次々と水中から『生えて』くる。
け躓く記者。足元を見ると巨大な節足。湖面から巨大な甲殻類が這い出してきている。
足元に迫る怪物。節足。這いずりながら逃げようとする記者。
と、発砲音。甲殻類の表面が削れる。火炎放射までも行われる。怪物達は湖中へと逃げた。
見慣れた制服。ああ、警察官だ。礼を云おうとした刹那向けられる銃口。無線通信の声。
「あー不法侵入者一人発見現行犯で逮捕、これよりそちらへ連行します」
255 :
第X話 怪しい水底:2005/06/19(日) 01:55:14 ID:fjd99nh6
呆然とした表情で椅子に座る記者。目の前では刑事が調書を取っている。
その横では背広姿の男達。お偉方らしい。刑事達と幾つか話をすると出て行った。
「キミは山道の途中で頭を打って気絶していたんだよ?」・・・・・・・そんな、馬鹿な?
取り調べ最中、面会者の知らせが入る。しかしあっさり刑事に拒否された。
拘置所に拘留される記者。呆然と見上げた窓には満ちるまで後少しの月。
渋い顔の偉そうな男。その前には変人女。「・・・・・で、そちらの条件とは何だね」
「出ろ」促されるまま出て行く記者。警察の入り口まで行くと、「───え?」
「や、久しぶり」変人女が居た。「ったく酷い顔ねまあ〜」・・・・・・何で此処に?
後ろで偉そうな男が云う。「約束は果たした。データを渡して貰おうか」
「ん〜・・・・・・」惚ける変人女。「足りないわね矢張り。もう一つ条件呑んで貰おっかな?」
いきり立つ刑事をスーツが止める。「何だ。・・・・・────早く云え!!」
「怪 獣 退 治」変人女を見る記者。変人女が目線を合わせ、ニヤリと笑った。
変人女は遊びがてら、雑誌記者の行方を追って此処まで来たらしい。
すると何故か不法侵入の罪で警察のご厄介になっているというではないか。
成り行きだがしょうがない。自分の手持ちのデータを元に取引を持ちかけたのだそうだ。
「・・・・・データ?」変人女が手持ちのMDを見せる。この前の水道砒素汚染事件のものだ。
汚染地域の中心。チェックが入れてある。『葛立上水跡』
「大昔の遺構よ」昔、礼根沼ダム浄水場から『貰い水』する予定だった上水道だという。
一度は開通したものの落盤が相次ぎ、途中で放棄されたのである。
即ち──────「水道砒素汚染の原因は、この『礼根沼ダム』ってことね」
たなごころ〜
完
暗い部屋。背後からの光。正面に画像が映し出される。水中映像だ。移動する画像。
逆光に映るのはあのお偉いさん、スーツが2,3人。反対側に変人女と雑誌記者。
水底がライトに照らされる。更に前進。薄暗がりに何か照らし出された。変人女の眼鏡が動く。
長い鰻の様なモノが幾つもうねる。前進する毎に数が増す。全て水底から生えている様だ。
幾つか株を構成している。うねる株の間には、大型の蟹に似た甲殻類。
「我々はこいつを『ヘビノキ』と仮称しておる」お偉いさんが口火を切った。
1年数ヶ月前の初秋の大雨の晩、突如としてダム湖に出現したそうだ。
ダム管理所の当直五名を全て殺害、緊急事態に出動した警察・消防・水道局人員にも
多大な被害を与えた。「だが、問題はそれだけでは無かったのだ」
「有機砒素化合物による汚染、ですか?」口を挟む変人女。驚くお偉いさん。
先日の東京都での砒素汚染。その最中、当局が件の怪物の死体を回収しているという。
「即ち、ひた隠してきた怪物の存在は既に外部に漏れてるんですよ。如何します?」
脱力するお偉いさん。「ち、町長・・・・!?」慌てるスーツ連中。
ああ、このおっさん町長だったのか。
旅館に泊まる変人女。持ってきた資料と町長から提供された資料を照らし合わせる。
何故か相部屋の記者。「お前・・・・・大丈夫なのか?怪獣退治何て、勝算有るのか?」
「さ、どうだか」嘯く変人女。「そんな────お前、じゃあ何で」
「あんたを、助ける為よ」そう云って振り向く変人女。真剣な視線。
「ばぁ───か」デコピン。はにかみながら額をさする記者。
258 :
第X話 怪しい水底:2005/06/23(木) 00:36:11 ID:qgFViKOv
「これまで得られた情報を総合するに、この『ヘビノキ』は腔腸動物の一種と考えられます」
変人女の解説。珊瑚の様な群体性で造礁し、獲物を捕らえて成長する。
問題は、常に検出される─────有機砒素化合物。
「コレは、彼らの生体反応において最も重要な元素なのです」驚く面々。
彼らの体細胞内において、通常生物にとって酵素反応阻害要因となる砒素が
逆に重要な酵素構成元素となっているという。砒素が毒では無く必須栄養素なのだ。
ゆえに彼らの生息域には必ず排出物の砒素化合物が蔓延することとなる。
「恐らく、彼らは大量の砒素の存在を前提とした生態系の出身でしょう」
また、獲物の捕獲や外敵の駆逐には更に毒物として特化した砒素化合物が使われる。
「砒素世界の住人でない我々にとって、それは最強の毒物と成り得ます」
「で・・・・・、対応策は?駆逐出来るのかね」「一応、2,3の案が有ります」変人女の返事。
激昂する町長。「一応だと!?そんなあやふやな────」
「効果が上がらないにも関わらず水域封鎖と中和剤投入を続けるよりはマシと思いますが」
淡々とした反論。静かな凄みに反論できない町長。
闇夜に浮かぶダム湖。轟音を立てて重機が動く。見下ろす高台の上、日本家屋の縁側。
老人が初物の西瓜を食べている。食べながら、目線は彼方、湖の反射光。
「すいか、食べすぎですよ」奥さんの声。口元に有った西瓜が、膝の上に下りる。
ボソリと一言。「にいちゃん、そろそろかねぇ」
259 :
名無しより愛をこめて:2005/06/27(月) 00:35:46 ID:7xiGtaQF
age
その日は午前中から雨が降り始めた。うっすらと小雨に煙ぶるダム湖の風景。
ダム湖中央に無人のボートが一隻。時折エンジン音を立てて移動する。
ソナーの警告音。ボートに蛇状物体が絡み付き、水中に飲み込まれていく。
「おい!」「大丈夫。データ取得間に合ったわ」変人女がヘッドホンを外す。
ダムの岸辺。変人女の呼びかけに走る記者。と、横から「・・・・・すんましぇん」
あの剥製のじいちゃんだ。用件を聞く。曰く、「あのダムのお化けの首、頂きたいんですけども」
首?新たな収集物にするのか。「ああ、全部駆除したらどれか一本」じいちゃんが口を挟む。
「死なない首が欲しいんですわ」何だそりゃ。笑いか嘆きか、複雑な顔のじいちゃん。
「死なないから、『お化け』でしょうになあ」
「湖内で確認できたコロニーは全部で九つ・・・・先ずは、東の浅瀬の一つからです」
機材から放物線に投げ込まれる物体。一個所に集中して沈む。
「中和剤が効かなかったのは、彼らと共生関係にあるあの甲殻類です」
あの大型甲殻類には、中和剤を無効化する酵素を鰓細胞に含んでいるという。
その他、『ヘビノキ』に対する様々な害を取り除く役割を担っているのだ。「でも─────」
彼らも又、蛋白質基系の生物。「ならば、コレは如何でしょうかね────」
白く泡立つ湖面。一箇所だけ沸き立つ。やがて巨大な甲殻類が腹を見せて浮かび上がる。
真っ白になり漂う蛇状物体。間違いなく死滅している。感嘆する町長他面々。
「生石灰を主成分にした『水中高圧加熱剤』です」
水中に投下すると、局所的に一定時間高温高圧を作り出す薬品。
通常の生物ならば間違いなく死滅させる事が可能だろう。そう、『通常』ならば。
次々と湖面が白く沸き立つ。次々と投入される水中加熱弾。「・・・・・これで七つ目」
難しい顔をして脚を組む変人女。記者が空を見上げる。「雨足、強くなってきたな」
傍らのラジオが前線の接近を伝えていた。
轟音。そうとしか云い様が無い。凄まじい雨足。張られたテントから小さな滝が落ちる。
「まだ続行するのかねェ─!」叫ぶ町長。双眼鏡を覗く変人女。「まだです!今八つ目が─」
蛇状物体の浮かぶのを確認。これでコロニーは後一つ。ダム湖最深部の最も巨大な群体。
「町長」何事か耳打ち。「キミ、怪獣退治は中止だ」「───は?」
「大雨洪水警報が発令された。土石流や地滑りの危険性がある。至急避難し給え」
「馬鹿な」一蹴する。「残るコロニーは後一つ、今遣り遂げず如何しますか」
無線を手に取る。「最後です。第9コロニーへの水中加熱弾投下お願いします」
何時からだろう、遥か彼方から遠雷の音が聞こえる。
軽い破裂音と共に弾体が発射された。よく見えないが湖面の一部が一団と沸き立つ。
「・・・・・!?」眉をひそめる変人女。変だ。甲殻類しか浮いてこない。蛇状物体は?
対岸から破壊音、悲鳴。何と攻撃地点からまるで離れた所から蛇状物体が出現している。
破壊される弾体発射装置。「────何だと!?何故だキミ!」「移動したんでしょう」
相手はまがりなりにも『動物』だ。造礁するとはいえ移動能力が有ってもおかしくは無い。
「如何するんだ!一体───」「少し黙ってて下さい」
沈黙。雨音。いずこからかの遠雷。
無人ボートによる再探知。やはり移動しているらしい。しかし、この方向は?
「町長」再び耳打ち。「何!・・・・まさか、やはりか!」町長がマイクを分捕り握る。
「諸君、作業中止だ。全員高所へ退避しろ!」「ちょっとあんた、何を───」
変人女の抗議を跳ね除ける町長。必死の表情。
「キミには聞こえんのか!あれは地鳴りだ!山津波の前兆だよ!」
「いくらあんたの作戦が有効としても、これ以上人命を損なう訳にはいかん」
湖面に面した峰のあちこちでひび割れ、及び濁り水が湧いているという。
雨中に響くサイレン。退避する作業員達。道々に真茶色の渓流が出来ている。
その人々の前で──────────濁った水面から潜望鏡が生えてきた。
驚き立ち止まる作業員。その目の前で次々潜望鏡の群が伸び上がる。そして、
静かに荒れる湖面に立ち上がる、蛇状群体。
一本の太長い身体から何本も触手が整然と伸び揺らめく。例えるなら直立した軟体百足。
触手の先には全てあの口。身体の先端には、楕円形の巨眼と切れ込んだ目立たぬ口蓋。
身体を支えるひょろ長い触手をゆらりと動かし、移動し始めた。
「何だアレは!?あんなのモノ居なかったハズだぞ!」喚く町長。
誰かが独断で水中加熱弾を発射した。怪物に命中。触手が数本千切れ飛ぶ。
しかし千切れる端からじわじわ再生していく。仕舞いに口蓋が出来元に戻る。
「水中でないと打撃効果のみです。加熱効果は期待できません」
それにしても凄まじい再生能力。「攻撃するな!千切ればそこからまた増えるぞ!」
傷口から触手が二本、三本と枝分れして生えていく。破片からも蛇状のモノが。
「キミ達も早く逃げろ!」促す町長。微動だにしない変人女。突如、重低の打撃音。何度も響く。
「町長」指差す変人女。その先ではあの怪物がダム壁に這いずる様に体当りしている。
何処からかミシミシという音。あがく蛇状群体。雨の向こうで異形の影が揺らめく。
「『ヘビノキ』が、湖を出ようとしています」
この音はダム壁が軋んでいるのだ。
もし。この状況で山津波など発生したら。この水量でダム壁に更に衝撃が加わったら。
「砒素汚染された大量の土石流が、下流域全体を飲み込むでしょう」
頭を抱える町長。「・・・・・貴方達は避難してて下さい」厳しい顔の変人女。
その前に取り付ける約束。用意してあった送電の開始と、ディーゼル発動機の起動。
「おい!」雑誌記者の呼び掛け。「まだ何かしでかすのか?死ぬ積りか!?」
「ん〜・・・・・・・・・・」目線を宙に投げる変人女。肩に何か長い機材。「かもね」
「かもねって・・・・・・お前」「御免、危ないから避難してて。ケガしない様に」
ダム壁に向って歩き始める変人女。何処か、道化けている。
「あんたの再生力の源は大量に存在する未分化細胞。熱殺傷すれば再生出来ない」
スタンドを組み立て、コードを繋げ、スイッチを付ける。唸り声を立て始めた。
「なら──────コレはどうかしらん?」
閃光。湖面を光条が走った。かすった木の枝が爆ぜる。それを見た町長が大騒ぎしている。
「あいつ、一体何を───」記者の呟きに、「見に行きましょうや」あのじいちゃん。
「あれじゃあ、お化けは倒せませんよう」さした傘に雨垂れが落ちる。
巨大な銃座。スタジオカメラの様な台車に乗り、各部にコードやチューブ、スイッチが並ぶ。
また光が走り、蛇状物体を切断する。水面に落ちても再生しない。支えを失って揺らめく蛇状群体。
「『焼き』きってるからね、元にゃ戻らないわよ」今度は身体を薙ぎ払う。
─────────再生した。何故だ?矢張り雨中での使用は無理があったか?
再度攻撃。しかし再生。他の触手には効くのに身体部分は再生する。
焦り。そのスキに触手による足払い。「あ・・・!」思わず眼をつぶる。銃座ごと倒れる!
・・・・──眼を開ける変人女。倒れていない。銃座の下に記者。直前に滑り込んだのだ。
「ったく───」ズシリと元に戻す。「危なっかしすぎだ!」「あんた・・・・・」
「何なんだこの珍物体!?」「大口径レーザー銃。知り合いの大学研究室からの借りもん」
「無理矢理、が抜けてるだろ」「ごぉめいとぉう」・・・・・・──ああ、いつものノリだ。
「にしてもあんた、何で来たのよ!危ないのはあたしだけで────」
「お前を助ける為だからな」口の端を上げる記者。「悪いか?」
ムッっとした顔の変人女。
顔をそむけた─────と思った瞬間、振り下ろされる触手。水飛沫が飛ぶ。
「で!?あんたが来て状況が如何変わる訳!」「それだがな────」
記者は、あのじいさんの発案した作戦を伝えに来たのだ。爺さんが山の何処かで発煙筒を炊く。
其処をレーザーで撃って欲しいという。「山?何の仕掛けが!?」
「判らん!確かな事は一つ、爺さんはコイツの正体を知ってる!コイツの名前は────」
雨風がコンクリートを薙ぐ。
「・・・・・・何其れ、本当?」「ああ、確かにそう云っていた」迷走する変人女の目線。
「真逆、・・・・・いや、そうか────それなら──・・・」と、記者の呼び声。
山中の赤み掛かった光。発煙筒だ。「え!?あそこは──」ディーゼルが有る場所だ。
撃てば爆発、山津波を誘発しかねない。「おい・・・・」「成る程ね」
銃口を発煙筒へ向ける。「待てよ!撃ったらダムが」「持つかどうか、一かバチか」
小声の変人女。「撃つと同時に逃げるわよ。いい?」記者が頷く。トリガーを引く。
嵐の山肌に一条の光。その瞬間、轟音。爆炎。一拍置いて、大きくなる地鳴り。
バキバキミシミシと音を立てて、山肌が広範囲でズレ堕ちていく。少しづつ加速。
ダム壁上を全速で走り出す二人。背後から轟音。飛沫。小石。赤土。濁流。
ダム壁に到達した山津波。飲み込まれる蛇状群体『ヘビノキ』。あっさりと消え去った。
ガードレールに乗り上げて見ている町長。開いた目と口が塞がらない。「町長!危険ですから」
ダム湖が、あっさりと飲み込まれた。谷間全体を赤茶けた水煙が覆う。
晴れた暑い日。再びダム壁の上に立つ二人。その目前には、あの忌まわしい水面は無い。
広がるのは赤茶けた地面。そう、あの山津波でダム湖は全て埋まってしまったのだ。
それから暫らくは水と混ざって泥沼化していた。しかし、今夏訪れた全国的猛暑。渇水。
地形変化により流れ込む水も減ったのか、みるみる乾燥しこの有様だ。
そして、衆人環視の中、山津波にて運ばれた大岩が撤去される。
「────そろそろね」クレーンにより、岩が持ち上がる。警戒する作業員達。
岩の下。カラカラに乾いた木の枝の様なモノ。枝先には、萎びた口蓋。
そう。あの怪物の死骸のミイラだ。
結局、あの怪物は山津波に飲み込まれ、酸欠になったらしい。だが、死んではいない。
大学研究室での解剖の結果、乾燥状態でも中の細胞が生きていたという。
又、表面には幾つもの米粒状のモノ。あの甲殻類の耐久卵だ。
もしこのままミイラを水中にでも放り込めば、すぐに活動再開するだろう。
しかしそのミイラは研究室の倉庫で保管はされない。今はあのじいさんの倉の中だ。
手を合わせるじいさん。あの欠けた九番目の首の位置に、あの蛇状物体のミイラ。
「昔、兄ちゃんが跡取だった頃、悪戯してこの首が取れてなぁ」
如何しても首が繋がらず、思案の末、祟りの噂のある古井戸に放り込んだそうだ。
怪物と祟り。互いに相克してくれるだろうと。幼い子供の拙い妄想。
その後兄が戦争で死に、戦後村が水底に沈んでからも気懸りだったらしい。
「その古井戸、砒素が溶け込んでたんでしょうね。恐らく」
その砒素を手懸りに、60年以上。井戸の底からダムの底。そして上水道管へ。
彼らは少しづつ、勢力圏を広げていったのだ。
剥製の傍らにラベルが張ってある。相当古い。文字も擦れて殆ど見えない。
「ラテン語、ね」変人女が訳す。「おじいちゃんの証言の裏付け、といった所か」
『 ヒ ド ラ ギリシア産 ベネチア商人から購入 レルネー沼跡の大岩下から発掘との事』
暑い。それにしても暑い。冷房の壊れた会社の一室でPCを叩く記者。
「よほーい、あっついわね〜ンモ〜」変人女が遊びに来た。気だるげに挨拶する記者。
どっかと座る変人女。どうも涼みに来たらしい。・・・・・と、メール着信。開く。
「何ソレ?」変人女が絡んできた。「ああ、DNA分析結果だよ」「何の?」「・・・・・・・」
「おばけのやつのぶんせきけっか」びっくりした。チーコちゃんも来てたのか。
「へえ?あのおじいちゃんの剥製コレクションの?」「・・・・・そうだよ。記事のネタにな」
まあどうせ、現生動物と同一なのだろうが。レポートを読む。
『・・・・・サンプル29個の内17個は現生動物との一致を確認。▼ファイルA
しかし他12個に関しては一致及び類似するDNAが認められず。▼ファイルB
・・・・・・・既知の生物種とは明らかに異なり、新種の可能性有。詳細分析を要す』
沈黙。「 ・・・・・・─────────、マジか?」
ジュースを飲む少女。ストローを鳴らす。目の前のTVからチャイム音。速報字幕が映る。
『・・・・・県礼根沼町箆呉峠付近にて大規模な地滑りが発生
家屋数件が飲み込まれたもよう 現在老人一人が行方不明・・・・・』
地の底深く。地の底深く。とある隙間に、何かの塊。
彼方から、濁った濁流。塊が滑り落ちる。
轟音。轟音。轟音の群はやがて静寂へと墜ちて行き、完全な無音の瞬間、
水撥ねの音。
267 :
第X話:2005/07/05(火) 22:49:43 ID:RrjwoUbP
怪獣の描写が判り難い。ハルキゲニアから姿を想像して下さいorz
ギリシャ神話知らないとネタ判んない。ダメダメジャンorz
現在とある島から書き込んでいます。転勤ではなく長期出張扱いでした。
まあ辛いのは変わり無いですがage
>>248 私自身は80からティガの間、第一・第二・平成世代いずれでもない『空白』の世代です。
周りはキン肉マンとかドラゴンボールとか、ちょっと後はエヴァとか言っていた
そういう世代です。
268 :
第X話 魃槌:2005/07/11(月) 00:52:59 ID:wg9+wVjR
乾いた街。吹き荒れる強風。時節飛んでいく塵。新聞紙が張り付く看板。その文字は漢字。
埃だらけの薄暗い廊下に声が響く。罵倒するような男の声。
『─────だから云っているだろう、無理だ!中央が感づいている!』
煤けた部屋。巨大な本棚、獅子の置物、調度も間取りも豪華なのに霞んで見える。
窓が震える。外を砂埃が、塵が飛んでいく。更に男が声を荒げる。
『駄目だ、もう付き合い切れん。支援は打ち切らせてもらう。いいな!?』
『了解しました。ならば最後の依頼を』其れは電話の向うの声。『捨石になって頂きます』
『・・・・・─何だ其れは?カミカゼでもしろと?何時から東鬼子の門人になった?』
『あんなに優しか無いです』鼻で笑っている。『例うなら、薪を燃やす炊き付けかと』
断線を告げる信号音。眉を顰める男。開け放した両開き扉の向うに、
ちりん。鈴の音。角に消える紅い布。
顔を上げる男。緊張した顔。────来たのか、奴等。引き出しから銃を取り出す。
廊下を進む。建物の窓全てが騒ぐ。窓の外は砂埃。建物が大風に震える轟音。
ちりん。紅い布が階段を降りる。警戒しながら少しづつ後を追う。
ちりん。階下の廊下。角を曲がり銃を向ける。
ちりん。軋む玄関扉の音を残し、紅い布が表へと消えた。
外へ警戒しながら出る。居ない。誰も居ない。巻き起こるのは土埃。唸るのは緩い電線。
静かだ。いや、静か過ぎる。人っ子一人居ない。降ろされたシャッター。棄てられた様な車。
じゃあん。突如銅鑼の音。はっと見上げる男。街の建物の屋上に何か有る。
旗だ。紅い旗。我が国の国旗か。いや、隅に星が無い。ならば────────
じゃあん。又銅鑼の音。八百屋の屋根にも紅い旗。じゃあん。電信柱に紅い旗。
じゃあん。其処にも此処にも、じゃあん。街中全てに、じゃあん。紅い紅い旗の群。
じゃあん。旗が揺らめく。うっすらと浮かび上がるのは奇怪な饕餮文。是は、彼らの。
じゃあん。一段と風が強い。眼を庇って後ろを向く。その男の眼に入る風景は、
遥か天蓋まで立ち昇る、赤茶け渦巻く雲塊の城塞。
269 :
第X話 魃槌:2005/07/16(土) 01:12:26 ID:NCFfNuWL
「え〜まずゥあちらに見える古めかしい建造物は日帝時代に────」
スミ先生の声が響く。大げさな身振りで遠くの建物の解説をしているらしい。
中国南部の地方都市。繁華街を歩く一行。並ぶのは色とりどりの食材。
変人女が憂鬱な顔で歩いている。其の後ろには雑誌記者、編集長、他編集者や作家が数名。
「ねえ」「ん?何」「あのオッサン、何で此処にいんの」「・・・主催だから、今回の旅行の」
背後でスミ先生が声高に熱弁している。困るガイドの男性。
「ねえ」「何だよ」「オッサン沈めんなら黄河?それとも長江?」・・・・・こらこら。
「あたしならタクラマカンに放置かな──・・・」・・・・いかん、ヤバイ妄想にふけってやがる。
「スミノエさん、申し訳ないですがあれは経済開放以後に立てられたホテルです」
申し訳無さそうに逆襲するガイド。薄い栗色の髪。丸眼鏡。そうみえないが中国人らしい。
「ああ、じゃあ皆さん此処でお土産解散です。40分後に集合して下さぁい」
掛け声と共に列がばらける。意外そうな顔のスミ先生も編集長に連れられて行く。
残るのは変人女、記者、ガイド。「・・・・・・・ジュースでも買って来ましょうか?『月の女王』」
「あ゛?」ダミ声の変人女。「・・・・・・お久しぶりです、大学以来ですか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・「・・・・・────────もしかして、『夢観屋』ぁ?」
このガイド、昔変人女と大学で同級、同研究室に居たらしい。・・・ってゆーか、何処の?
「MIT。云ってなかった?」・・・・・聞いてない聞いてない。マジかよ!
最初に呼び合ったアレは其の頃の渾名らしい。『月の女王[アルテミス]』と『夢観屋[ドリーマー]』。
「じゃあねェ〜」服屋の試着室に入る変人女。さっきの再開ですっかり機嫌が直った。
それにしても・・・・・一人苦笑いする記者。変人女が『月の女王』?似合わない。
「あの〜・・・」ガイドの声。「彼女、何時もあんな感じですか?」
270 :
第X話 魃槌:2005/07/16(土) 02:00:26 ID:l8SocOuJ
何時も何も、変人女はアレで平常だ。「変わったなあ、昔と────」
ガイドの昔話。研究室に居た頃、年若い位で今と殆ど変わらない格好の変人女。
だが其の性格は、冷酷。非情。というより───「───純粋な使徒、とでも云うか」
身分立場関係無く、科学の理においてあらゆる物を切り捨てる。付いた渾名が、
「無慈悲な夜の女王、即ち『月の女王』です」何とまあ、御大層な。あのバカ女がねェ・・・・・
「・・・・・ところで、彼女遅いですね?」確かに、服一つ試着にしては遅い。
店に入る。試着室の前。「おーい?」返事が無い。カーテンを叩く。矢張り無い。
靴はそのまま。だが─────記者が思い切ってカーテンを開ける。其処には、
記者を見つめる記者の虚像。
突如外からサイレンの音。ビクリと反応する記者とガイド。「・・・!!まずい!」
携帯を操作するガイド。記者の携帯からコール音。旅行中決めていた緊急の合図だ。
慌てて記者を連れ出すガイド。伽藍堂の試着室は見えなくなる。「ちょっと!何───」
彼らだけではない。廻り中が慌てている。急いで店仕舞する店の従業員。
買い物客が落ちる果物もそこそこに走り出している。何かから避難しているのか?
解散していたメンバーが見えた。同僚、作家。スミ先生がハヒハヒ云って女走りして来る。
「早いですってェチョーさぁんハァハァ」編集長は肥満気味なのに意外と小走りが早い。
「皆さん、早くこちらに!シェルターが有ります!」ガイドの声。確かに目の前に両開き扉。
軍人らしき人が脇を固め人々を誘導している。「何々です一体!これは───」
「注意報が出ていたのに、キャンセルすべきでしたね、申し訳有りません!」
謝られても判らない。「ですから!金蜃龍ですよ!ヤツが出たんです!」
其の瞬間、背後で轟音、何かが崩れ、何かの咆哮。
「ああ、学名パゴタトータス、確か日本語では──────────」
はみ出た牙。二本の角。蛇腹の背中。「───────そう、パゴスでしたか」
まだこのスレあったのか…
272 :
第X話 魃槌:2005/07/18(月) 00:23:02 ID:G6nUq8fm
暗闇。足音だけが響く。「ねえ、今何処歩いてんの?」前方を歩く黒服は、無言。
「曲がった方角と歩数、全部記憶してるけどイイ?」振り向く黒服。目隠しをされた変人女。
「ジョーダンよ」くすくすと笑う。無言のまま歩き出す黒服。
やがて広い場所。床が絨毯。目隠しが解かれると視界に紅い風景が飛び込む。
「お待ちしておりました」紅い絨毯。紅い壁飾り。饕餮紋の刺繍。其の前の太った禿頭。
「非礼はお許しを、内密にお呼びしたかったもので」細い目に、じっとりとした視線。
『洪 関竹』と名乗る禿頭。用件を聞く変人女。「用が無いなら帰りたいんだけど」
禿頭が合図を送る。暗くなる部屋。目前に中国全土の地図が映る。光点が五つ。
「慌てなさんな、『月の女王』殿」にやりと笑う禿頭。眉を顰める変人女。
「ん〜・・・・」ガイドが悩んでいる。「矢張り時期が悪すぎましたねェ・・・・・」
田園地帯を走る車両。その前後に装甲車。人民解放軍の護衛だ。
現在、極東地域で四体の怪獣が確認されているという。内一体は先程のパゴス。
ウィグル自治区でマグラ。日本との領海境界付近でペスター。攻撃権で揉めているらしい。
それより。そう、変人女だ。彼女は何処に?一応警察と大使館には連絡していが・・・・・
「申し訳有りません、この混乱です。先ずは皆様の安全が第一かと」
「そんな無茶な───」云い掛けた瞬間の急停車。見ると前方を特殊戦車が通過している。
「人民解放軍の部隊かぁ?すごいねー」スミ先生が感心している。しかし、「───いいえ」
妙な旗が翻る。「コレは、『怪獣傭兵』の一団です」
「率直に云いましょう。我々は貴方を同志として迎え入れたい」意外な言葉に驚く変人女。
組織内から強力な推薦が有ったらしい。其の為の試験、ということか?
「思い出した」禿頭を見据える変人女。「人民解放軍に於ける非公式部隊『黒隊』───」
禿頭がにやにや笑う。「怪獣迎撃専門傭兵団、通称『朱猟軍』、ソレでしょう?」
273 :
第X話 魃槌:2005/07/19(火) 00:47:55 ID:SUifgdUq
「怪獣傭兵?」ガイドの解説。『怪獣の撃退・討伐』を主目的とする営利集団だそうだ。
怪獣に対して対抗手段を持ち得ない国家や公共団体が、法外な賃金で雇い入れる。
契約内容により、怪獣の退治は元より、捕獲や死骸の処理なども行う。
怪獣は存外利用価値が高い。撃退に掛かる軍事経済効果。新兵器開発における知的財産。
死骸から採れる希少物質。ゴルドンの金、パゴタ科のウラン等が代表的だ。
また捕獲研究による生化学・行動学等の分析。ペスターの回遊は海底油田開発に欠かせない。
『怪獣傭兵』、それは怪獣そのものを資源として利用する企業なのだ。
「カネになるんですよ、怪獣って云うのは」
ガイドの遠い目。地平線の向うで煙が上がっている。
丘の上から地平を望む。白煙の中に怪獣がもがいている。周辺に展開する部隊。
あれ?確かパゴスは・・・・・「生体風化爆雷なんか使ったら、死骸が劣化するでしょう?」
生体捕獲。其れが怪獣で最も儲かる方法なのだ。──────・・・「・・・あっ?」
農村一つ踏み潰して、パゴスが地下へと逃走していく。
「貴方に一体、怪獣を退治して頂きたい」中継映像を見る変人女。向い側に禿頭。
「パゴスなら1950年以降、中国では膨大なデータ蓄積があるハズだけど?」
「『金蜃事件』ですか」地図上を移動する『金蜃竜』の名の光点。
「見違わぬ様」杖で別の光点を指し示す。「こいつが、今回の目標ですよ」
急に天候が悪くなってきた。遠雷が聞こえる。カーラジオが必死で何か伝えている。
「局地的な強い低気圧の発生?んなバカな・・・・・」ぼやくガイド。
前方の山地の向こう側で、巨大な砂色の入道雲が立ち登っている。
274 :
第X話 魃槌:2005/07/20(水) 00:38:09 ID:LvWVAL4+
停車する車。今朝からの避難強行軍だ。久々の休憩。大衆食堂に入る。
人々がTVの前に群がっている。聞いてみるガイド。「・・・・・『金蜃竜』の中継らしいですね」
緊急番組らしい。周辺地図に移動予測範囲、其れに伴う避難注意報・警報が出ている。
遠雷。砂色の入道雲からだろうか。と、飯台上のコップが揺れる。
TVからコール音。最新情報。出現予測地点が特定されたらしい。騒ぐ人々。
「あれ?」ガイドが居ない。辺りを見回す。店の外で一人で立っていた。
声を掛ける。「・・・───ああ、いえ」向いていた方向には砂色の入道雲。再び遠雷。
「おお〜ゥいガイドさぁン!」スミ先生だ。「いやちょっとタイヘンなんですがねホラあのネ」
「TV中継がとんでもない事になっている。君も見たまえ」要点を掴んで云う編集長。
中に入り人々の背中越しに。『怪獣傭兵』傘下TVクルーのパゴス出現予測地点生中継だ。
何故かTV画面が紅い。紅い何かが─────いや。是は、「溶岩、だろう?」
舐めるように移動する画面。突如黒山のような物体が映し出された。
・・・────蛇腹。──前足。───双角。────長牙。コレは。この物体は。
「・・・───パゴス?」溶岩に浮かぶ。微塵も動かない。「死んでんのか?」
と、突如画面が乱れ始めた。乱気流らしい。揺れ動く画面内にまた別の物体が映し出された。
紅味がかった白金色。表面には複雑な紋様。形は何処か─────漸く安定する画面。
「何だ?」「・・・・・・金色の、亀?」そう見えた。巨大な亀。瞬間、画像が再び乱れる。
横倒しになった。どうも設置カメラが転倒したらしい。縦に映る其の物体。
紅白金色に輝く亀。ただ甲羅前部が衝角の様に張り出している。表面には饕餮紋。
「四川省北西部の古代遺跡から出現した怪獣だ」禿頭の解説。
全身から凄まじい高温を発し、地殻を融解させて其の中を移動。地上出現時は高温により
周辺に上昇気流が発生、小規模だが強大な低気圧を発生させる。
「名は『魃槌』。遺跡周辺の伝承から名付けた。貴方の倒さねばならぬ『怪獣』です」
モニターの中継映像。焼き殺されたパゴスの死体を脇に、地殻へと前進沈降していく『魃槌』。
275 :
第X話 魃槌:2005/07/25(月) 23:56:13 ID:F3ALXo0v
「それでは皆さん、私はここまでです」空港ロビー。新聞記者の一行。ガイドの挨拶。
「申し訳有りません・・・・・」事態について謝るガイド。もう2、3言葉を交わし、別れる。
目の前に大使館の手配した航空機。安全地帯への退避。──────変人女を残して。
うなだれる編集長。「彼女は一体、何処に───」と、スミ先生の奇声。「あれェ?」
雑誌記者の姿が無い。
あの繁華街に響く声。片言の中国語。罵声とともに飛び出したのは雑誌記者。
あの時、変人女は此処で消えた。手懸りを得るには此処しかない。
だが何処の店だったか───次の店に向う記者。と、何かに躓く。ガラの悪い男が三人。
裏路地に連れ込まれ、殴られる記者。意識を失う寸前─────目前を舞う白衣。
ちりん。鈴の音が鳴った。
「綺麗な髪ですね」髪を梳く女性が呟く。「下ろした方が美しいですよ」
「煙草、吸われるんですか?」粉をはたく女性が呟く。「きめ細かい肌なのに、勿体無い・・・・・」
「生憎、キレイなのは大嫌いだから」金刺繍をひらめかせ立ち上がる女。
「応援、してますよ」小声で呟く女達。
「ほぉう・・・・・」感嘆する禿頭。チャイナドレスを着た変人女。不機嫌な顔。
「戦場行く服装じゃないわよコレ」禿頭に付いて行く。成程、行き先は戦場ではない。
VIPルームだ。居並ぶのは偉そうな男達。幹部連中といった所か。
挨拶もそこそこ、早速説明。前部スクリーン。手元のモニタ。まるで司令室だ。
手元から、展開している部隊を思い通りに操作できるそうだ。だが─────
「操作マニュアルは?」無し。「部隊、及び装備データは?」無し。「『魃槌』の既知データは?」
「其れらは貴方がこれから自ら掴むべき事。期待していますよ」
────────目尻を僅かに歪ませる変人女。
276 :
第X話 魃槌:2005/07/27(水) 00:38:16 ID:i8ZZGMIF
「『朱猟軍』目標地点に展開開始」 田園地帯を踏破し展開する戦車の一団。
「『黒鵬』より『白澤眼』投下開始」 天空に航空機の編隊。ばら撒かれる何かの装置。
指示を出しているのは変人女ではない。目前のモニターだ。画面左上に『白澤』の文字。
中国全土に渡るスパコン網であり、これに対怪獣処理の大部分を任せているという。
「君はまあ、あの怪獣の正体でも考えて居給え」痩せぎすの老人の弁。厭味だ。
凭れ、目を閉じ、耳をすます。「あの連中の推薦など・・・」「何もさせねば、此処で終りだ」
────────成程。内輪紛めの茶番。己はその生贄か。
『目標現出』大きな赤文字。一斉に一方向を向く戦車の砲塔。
片田舎の神廟から蒸気が上がる。やがて火を噴き、崩れ、赤熱する岩盤が飲み込む。
一帯が灼熱する溶岩と水蒸気に覆われ、其の中に紅白金色の影。『魃槌』だ。
号令と共に砲撃開始。────轟く跳弾音。飛び散る火花。煙が渦巻く。
映像を見てざわめく男達。徹甲弾が効いていない。航空支援攻撃にも進路を変えない。
「方向は?」「大丈夫、進路上だ」男達の呟き。溶岩の海から揚がる『魃槌』。
周辺の気象が悪化。降り出す雨。湧き上がる砂色の入道雲。周辺から退避する部隊。
。頬杖を突き、腐っている変人女。「早いわねェ〜、逃げ足」厭味を一言。
「違うな、画面を見たまえ」 ・・・────怪獣進路方向に、何かの漢字表示。
突如、画面がホワイトアウト。直後に砂嵐。遠距離からの映像に切り替わる。
拍手し歓声を上げる男達。 「『太歳』。対怪獣用自律型地雷だ」
遠距離映像も衝撃波で乱れる。凄まじい。ちょっとした核兵器程度の威力だろうか?
「良かったじゃないか、これで貴方もお払箱だ」禿頭の弁。にやにや笑う。
古代遺跡からの怪獣。超古代文明の遺産の価値に花を咲かせる男達。
警告音。『注意:熱源反応有』映された文字に驚く男達。回復する映像。────『魃槌』だ。
一部装甲が剥げているものの原型を保っている。歩み出した。「馬鹿な!?」男達の罵声。
『魃槌』。その装甲の間隙には、まるで懐中時計の中の様な歯車がぐるぐると廻っていた。
277 :
第X話 魃槌:2005/07/28(木) 01:41:24 ID:2MIKWIc/
・・・・・────ちりん。鈴の音。目を開けると、コンクリートの天井。
勢い良く起き上がる記者。周りを見回す。殺風景な部屋。一応シーツの掛かったベッド。
「お加減、如何ですか」はためく白いカーテンの向こうから声。栗色の髪。丸眼鏡。あのガイド。
「・・・・・此処は?何で」後頭部に痛み。「無茶しすぎですよ、彼女の為とはいえ」
カーテン越しの強い日差し。此処は何処か。ガイドが外を指し示す。
外にはテント。兵員。砲塔。そして建物の向うに、大気に白む巨大な紅白色の影。
『・・・・・・───現在調査班対象まで20mに接近、特に異常無し』
無線連絡。VIPルームのざわめき。正面スクリーンに『魃槌』。停止している。
先の攻撃の後数分でこの状態に。しかし間隙の歯車は依然回転している。死んではいない。
『魃槌』表面に辿り着く調査班。ナイフで表面を叩く。辺りに響く澄んだ金属音。
「生体では無かったのか・・・」「やはり古代兵器の類か?金属製だな」男達の雑言。
「サンプルを。そう、表面と、あと内部歯車状部分のもね」変人女も指令を出す。
「TVの奴か・・・・・仕留めたのか?」反応しないガイド。「───いえ。そろそろ頃合、かな」
ガイドの手に小さなモノ。ヒモが付いた小さな鈴。手に持ち翳し、ちりんと一振り。
澄んだ、それでいてよく響く、しかし目立たない音。気付く兵員も居ない。
「待って、今の音は?」反応する変人女。僅かだが妙な音。澄んだ金属音────
異変に気付く調査班員。『魃槌』が音を発している。共鳴し、大きくなり、表面が振動し、
「調査班至急作業中止。現場撤退を最優先。急いで!」変人女が気付いた。
「何!?」「いかん、まずいぞ!」遅れて気付き慌てる男達。『魃槌』が起動し始めた。
『魃槌』に接近していた装甲車達が慌てて後退していく。既に陽炎にゆらむ怪獣の姿。
「さ、行きましょう。歩けますか?」起こされる記者。脚は大丈夫だ。しかし───
階段を降りる。玄関。外は退避する兵員と軍用車で一杯。其の中をガイドは気にも留めず進む。
「彼女、助けたいですか?」振り向くガイド。「もう、諦めなさい。彼女は既に────」
ガイドの背景。砂塵の渦を巻き始めた『魃槌』。「この『怪獣の世界』に取り込まれたのですから」
278 :
名無しより愛をこめて:2005/07/29(金) 16:46:09 ID:MN32AmEY
ageてみた
279 :
第X話 魃槌:2005/07/31(日) 01:26:31 ID:9bIsfX0a
並ぶデータを眺める変人女。「・・・・何だ是は?」VIPの内、サングラスの男が騒ぐ。
サンプル含有成分グラフ。何処で間違えたのか?騒ぎを制止する変人女。
手に持つ光沢のある歯車。サンプル現物。叩くと、妙に軽い音。
「間違い無いく人工樹脂製─────しかも、工場に於ける大量生産品です」
その他のサンプルデータの表示。「これらも同様、未知の技術の産物は一切認められません」
それでは、あの饕餮紋の怪獣は。「・・・───超古代の遺物などでは無い。
「極最近建造された人工物、そう考えるべきでしょう」
竹林の中を歩む記者とガイド。長い坂。「────諦める気は、無いんですか」
「当り前だ」一瞬の問答。再び沈黙、坂を登る。「────貴方にとって、彼女は何ですか」
何って────────・・・・・詰まる記者。心には有る。言葉には無い。顕せない。
「助ける考えに、変わりは無い」そう答えた記者に、投げられる白い布。
「ならば、同朋になって頂きましょう」坂の頂上。竹林の向うに崖。見える景色は先程の町。
ちりん─────────先程の澄んだ良く響く鈴の音。と、後ろの藪から音。
白い導師服。奇妙な仮面の四人。二人ずつに分かれ、各々銅鑼と撥を出す。
じゃあん。廃墟の町に響く音。煙を上げる倉庫に、折れた電柱に、血塗られた家屋に。
じゃあん。音に誘われるが如く、人影。そこかしこから何人も。皆白い布を身に纏う。
じゃあん。突如、首を掴まれる記者。ガイドの眼鏡の反射。白い布が目前を覆った。
「役に立って頂きますよ」
「『太歳』全機配置完了」「全部隊配置完了」第二次作戦準備の報告が入る。
アラーム音。不正アクセスが有ったらしい。「日常茶飯事だよ」『白澤』に対応を任せる。
やがて目標攻撃地点到達。攻撃開始。砂色の積乱雲に砲撃が開始される。
再びアラーム。「何だ?今日はやけに多いな」念の為『白澤』自己診断走査が開始される。
280 :
第X話 魃槌:2005/07/31(日) 23:32:39 ID:d+/abppE
猛烈な嵐の中を中心部へ向う幾つかの砂煙。『太歳』だ。
編隊を組んで暴風圏に侵入。内2機が怪獣に迫る。「泰山府君の御許へ逝け、怪獣」
『魃槌』は止まらない。『太歳』機関停止。脚を踏み出し、閃光が──────
────『太歳機能停止、応答無し』
「不発だと!?」驚くVIP。もう一機を向わせようとした所、閃光、爆発。同時にアラーム音。
『白澤』に侵入者。複数箇所からの同時アクセス。ファイアーウォールが効いていない。
再びアラーム音。何と、後方待機中だった『太歳』が起動している。
担当班に連絡。起動は『白澤』からの指令通りだと云う。だが次の瞬間、移動を始めた。
『各部隊より連絡、電子機器系統に異常が起こっている模様』通信班からの連絡。
赤く警告を発する自己診断走査。その下では正常な顔をして異常行動を起こす『白澤』。
間違いない、『白澤』が乗っ取られている。
「侵入速度が速すぎます!」「命令系統変更、『白澤』を情報網から隔離の後、電源を落とせ!」
「命令拒絶!『白澤』外にも侵入の模様」擬似情報により各部隊が転進し始めた。
防空レーダーに反応。近隣空軍基地から支援戦闘機『窮鬼』5機が上がっている。
砂色の積乱雲を旋回する戦闘機『窮鬼』。前進する戦車『刑天』。『太歳』の砂煙。
乗っ取られた。完全に、『朱猟軍』が乗っ取られた。そして、部隊の行く方向は────
「待て、この方向は?」「真逆────」使用中作戦案ファイルの検索。間違い無い。
作戦案白23号。進行方向は──────────────北京。
「おい、あの女は?」皆が一斉に振り向く。其処には空席が一つ。
VIPルームから、変人女の姿が消えていた。
281 :
第X話 魃槌:2005/08/01(月) 01:25:21 ID:/yjrutgr
廊下を歩く変人女。脇の電子板に矢印。其の方向に進む。暫らくして丁字路。
真っ直ぐ行こうとすると隔壁が降りる。「・・・・ヘイヘイ、行くなってんのね」
暫らくして向うから人の気配。脇の部屋に入り、ロッカーの陰に隠れる。警備兵だ。通り過ぎる。
────と、警備兵の声。発砲音。倒れる音。すろすろと進む音。見えた。
白い導師服に奇怪な仮面。両手に装剣銃。ふ、と此方を見て、再びすろすろと去る。
驚きつつ、近くにあった箒を握り締める。何だ今のは!?
「探せ!まだ敷地内に居る筈だ!」叫ぶVIPの男達。懸命に変人女を探す。
其の間にも状況は悪化。着実に北京へ近付く砂色の積乱雲。このままでは拙い。
「中央へ連絡を─────」と云った禿頭に突きつけられる銃口。
白い道服。妙な文様の羅羽織。「無理ですよ」云ったのはあのガイド。歯軋りする禿頭。
「御前の仕業か・・・・・李 連開同志」
暗がりを走る変人女。おかしい。兵士でない者がうろついている。一般人の様だ。
皆頭や肩に白巾を巻いている。だが、先程からの誘導により直接遭遇はしていない。
又電子板に矢印。微笑する変人女。「全く・・・──あんたのお名前、何てェの?」
背後から到着音。エレベーターだ。扉が開く。身構える変人女。扉の向うに、異形の顔。
「な・・・・・!」異様に飛び出た瞳。黄金の仮面。纏われる白巾。変人女に飛び掛る。
のし掛かられ倒れる。目前に蛮刀。箒の柄で必死で止める。男の腹に蹴りを入れ、離れる。
男と向き合う。息が荒い。そうだ。この仮面何処かで見たことがある。確か─────
男の突き。変人女も同時に突く。男の一撃を必死にかわし、肩に一撃。
「『縦眼仮面』!?何者よあんたら」───男が空いた片手にもう一つ蛮刀を出す。
殺られる──────其の刹那、軽い破裂音。男がよろめき、倒れる。
侵入者用のスタントラップだ。微塵も動かない仮面の男。仮面がズレている。小突いて外す。
其の素顔は──────「へ?」・・・・・雑誌記者。白眼を剥き泡を吹いている。
「ちょ・・・・何・・・こんなトコで文化財被ってテロってんのよ!コラぁ────!!」
282 :
第X話 魃槌:2005/08/01(月) 23:27:52 ID:AYuqWkKe
「目的は何だね」葉巻の首を飛ばす禿頭。VIPルームには白い影が四つ。いずれも銃を構える。
李が段を降りる。「判っておられるのでは?」ふわりと羅の裾が舞う。
葉巻に火を付ける禿頭。「・・・・・・『朱猟軍』の占拠、そして掌握」李の流し目。「・・・・・それで?」
目線が合う。しばしの睨合い。笑い出す李。「やはり判って居られない様だ、よろしいか?」
目的は、『朱猟軍』による北京中央の転覆。そして───「革命か?流行らんぞ今時」
「革命?骨董品を弄ぶ趣味など有りませんよ」両手を掲げる李。
「我等の、目的は」両の手の間に、モニターの『魃槌』が映りこむ。
「檻の破壊。鎖の断裁。楔の抜砕。万物の破戒────────」眼鏡の奥、鳶色に光る瞳。
「そして、天地は原初の霧中へと立ち戻る」
手を下げ、禿頭に近付く。「────で、貴方に質問です。彼女は、何処ですか」
ホールの放送室の中に隠れ、一息付く変人女。引きずられる記者。まだ気絶している。
窓から外を覗く。白い布を被った者達がうろついている。────と、妙だ。
片腕をだらりと垂れ下げながら歩いている者。腕というより、手提げ鞄の様な────
「彼女?『月』のお姫様の事かね」ご名答、といった表情の李。あの変人女を、何故?
「────彼女は、私と同じだ。同じ魂の主だ」────故に、共に。
「お前の推薦したあの女か。逃げたよ」するり。「嘘は、良くありません」ちりん。鈴が鳴る。
モニターから閃光。アラームが鳴る。『太歳』が北京近郊北西部で爆発したのだ。
天安門広場。観光客が突如の轟音に振り向く。其の方向にキノコ雲。
其の背後には、うっすらと砂色の積乱雲。いや、もう既に其れは───────
積雲の壁。稲妻の柱廊。其れは恐るべき雲塊の城塞。
283 :
第X話 魃槌:2005/08/02(火) 01:05:07 ID:GS8X+lZB
「さあ、彼女は?」鈴を掲げる李。す、と口の端を上げる禿頭。「・・・・・『夢観屋』君」
葉巻を吸う。「矢張り御前は解ってないな、『朱猟軍』がいかなる物か」暗室の一筋の煙羅。
『朱猟軍』を始めとした怪獣傭兵は対怪獣を想定した集団。怪獣には強いだろうが───
「猟師がいくらいきがっても、ヒト狩り専門集団に勝てると思うか?」
其の瞬間、跳ね飛ぶ李の身体。砕ける鈴。機関銃音。倒れる白衣の仮面導師達。
黒い戦闘服の男達が乗り込んでくる。幾つもの足音。無線の声。銃声。
倒れ伏した李。見開く瞳。見下ろす禿頭。「そォら、英雄たちのお成りだ」
助け出される変人女と雑誌記者。変人女の前に戦闘ヘリ。火焔輪の文様。
「ああ・・・・・」人民解放軍対テロ特殊部隊。「・・・────『那托』、か」
目を覚ます記者。「・・・・?これは・・・・・」「大丈夫、休んでな」目前の車両に乗る。
倒れ伏している白衣の男達。裾から覗く機械の腕。────そうか。彼らはロボットだったか。
発信する車両。其の背後には、煙を上げる『朱猟軍』基地。
病院。向うから掛け声。見ると編集長とスミ先生。心配して残っていて報せを受けたらしい。
「?彼女は?」「ああ、ちょっと、友人の所に─・・・・」
戸を開ける黒服。「事態は急を要します、手短に」「わーってるわよ」病室に入る変人女。
白いシーツ。点滴。人工呼吸器。鼓動のモニター音。横たわる、『夢観屋』。
脇の椅子に座り、ベッドに肩肘を突く。『夢観屋』が薄眼を開けた。」
「や」 ・・・・・・────ああ
「・・・・・・・どんな、気分?」 ・・・・・────悲しい様な、満足な様な
「解かり難いわね、昔と変らず」 ・・・・・────ごめん
284 :
第X話 魃槌:2005/08/04(木) 00:00:07 ID:4T3hO/tf
「貴方が、あの怪獣を創ったのね」 ・・・・・────ああ
「何故、そんな事を?」 ・・・・・────そう、何故、この国、
・・・・・────この世界には、怪獣が居ない
・・・・・────1950年以来、幾度も怪獣達に見舞われたこの世界、
・・・・───襲われ、克服し、刻を重ね、捕らえ、利用し、
・・・・・────やがて全て日常と化し、怪獣もまた日々の生活の糧へ
「我慢、できない?」 ・・・・・────悲し過ぎる
・・・・・────日常世界の一部、其れはもう怪獣ではない
・・・・・───君も、そう思うだろう?
・・・・・────悲しい顔を、するのだね
両手を重ね、顎を立てる。
「只座して来訪を待つモノ、それが彼ら。ヒトの貴方が創るモノなら、其れもまた日常の欠片よ」
『夢観屋』の瞳が、ゆっくりと閉じる。拍動の波が平らかになった。
促され部屋を出る変人女。少し振り向き、「・・・────バイバイ、『夢観屋』」
病院の外に出る。強風。砂埃が舞い目も開けられない。スミ先生がウヒョーとか喚く。
変人女が出てきた。「・・・・あ、如何だった」「御免、まだ用事あるから待ってて」
黒服に連れられ、大型軍用指揮車へ向う変人女。目前には雲塊の城塞。
「お急ぎを、将軍と主席がお待ちです」
昔々あるとこにウルトラマンとオバケのQ太郎がいました。
二人はホモに走ってウルトラQが出来ました。
きゅっきゅっきゅっ
うるとーーらQ!
ぼくはオヤジのQ太郎
頭のてっぺんに毛が3本屁が3ボン
だけども僕はトベルんんだ。
主題歌できました平成のウルトラQで使ってね
287 :
第X話 魃槌:2005/08/05(金) 01:02:44 ID:J8gTsF4d
暗い車内。目前に積乱雲。背後に黒服。「君か、あの男の同窓というのは」其の先にはスピーカー。
「では見せて頂こう、我々政府、及び人民を救う術を」又別のスピーカー。姿は、無い。
目前に砕けひび割れた鈴。コードが繋がる。変人女の解説。
「『魃槌』の命令系統は、恐らく特定物質同士の共振に関係するものでしょう」
鈴の音波と『魃槌』の一部を共振させ、命令を伝える。其れを利用するのだ。
鈴に特定の命令を連続的に伝達させ、『魃槌』を暴走。発生温度を際限なく上昇させる。
其の先は、メルトダウン。「駆動源すら判明していない現状では、これが唯一の可能性です」
「─────よろしい、始め給え」其の声と共に、起動する装置。
闇の中に鈴の音。蝉が鳴くような、機械的で耳障りな音色。
モニターを見つめ、鈴を見つめる。やはり破損個所による雑音。発生音域を変える。
あまり変化はない。『魃槌』の影が雲間に見える。「─────忘れたのかね?」姿無き声。
「其処は怪獣進路の最前線だ、君も、連れも生きて帰れんぞ」───歯軋り。
と、モニターの片隅に矢印。何処かで・・・・・そう、脱出時の、あの案内者のモノ。タッチする。
『刻 至らずして 鈴の主は彼岸へ消ゆ』
一瞬、澄んだ鈴の音色。響いたと同時に飛散する鈴の欠片。思わず眼を庇う。
響く共鳴音。『魃槌』からだ。同時に白く輝き白熱していく。「───!出してください。早く!」
車両が動き現場を離れる。「『魃槌』から半径20kmから人払いを。後───・・・・・」
揺れに身体を支える。「彼──────李 連開の、居る病院へ」
車両から降りる。病院の方が騒がしい。「おい、大変だ!あの男が────」
軍関係者の蠢く病室に入り、カーテンを開ける。其処には伽藍堂の、真っ白なベッドが一つ。
暑く白い風がカーテンを波立たせ、病室を吹きぬけた。
288 :
第X話 魃槌:2005/08/07(日) 00:09:43 ID:XkUpNbjp
騒めき。遠いアナウンス。受付を済ませ、小走りに移動する雑誌記者。
空港のロビー。細く立ち昇る煙。椅子に座りTVを観る変人女。天安門広場からの中継映像。
大分治まってきたようだ。首相による終息宣言も予定されている。
北京郊外にてメルトダウンした『魃槌』は、凄まじい低気圧を発生させながら沈下。
自重で自ら発生させた溶岩中に沈んだ。やがてマントルまで突き抜け分解されるだろう。
沈下開始時は低気圧の激しさの為北京から政府関係者の脱出まで行われたそうだ。
「よォ」記者が声を掛け、チケットを渡す。「?後の二人は?」
空港職員に捕まっている。どうも禁輸品をお土産にしていたらしい。今事務所で取調べ中だ。
「まぁたあの先生は・・・・・」呆れ笑う変人女。だが目線はTVを外れない。
「・・・・・気になるか、未だ」応えない変人女。思うのは恐らく、あの男。
あの時消えた『夢観屋』の遺体。軍警察の大捜索にも関わらず発見されなかった。
何処に消えたか。そもそも生死は。「────まぁ、ね、大丈夫」煙草を吸う。
「おお〜い!」編集長とスミ先生だ。「いやはや全く、すまん」「何持って帰ろうとしたんです?」
「パゴスの鱗ですヨン」・・・・・呆れて物も云えない。兎に角全員揃った。搭乗口へ───
と、TVによる速報。『魃槌』の地下20kmでの反応消失を告げた。歓声を上げる人々。
其の横で変人女が固まっている。「?どした?」眉をしかめ、一言。「・・・・・・・・・浅すぎる」
「は?」「───んにゃ、何でも無い」振り返り、搭乗口へ急ぐ。
飛び立つ旅客機。窓に変人女の顔。翼は雲を抜ける。雲海に何処かの山嶺。
山頂に何かの廟。門前に立つ白道服の男。丸眼鏡。薄い栗色の髪。天を仰ぐ。
廟の背後の霧が晴れる。其処には────茶銅色の大亀。生える木々の間に饕餮紋。
振り向き、廟の中へ入っていく白い男。風が吹き───────全て、雲海の中へ。
289 :
第X話:2005/08/07(日) 00:22:13 ID:XkUpNbjp
島の生活はきつかとです
最も恐るべきは女性事務員が皆腐女子だった事です(´A`)ノage
290 :
名無しより愛をこめて:2005/08/07(日) 23:04:29 ID:BnVfs5iG
>>289 がんばれ!
逆境こそ作家に名文を書かせる好機会!!
と・・・変な励ましを・・・
夕闇の林道。瞬く街灯に羽虫が纏う。草叢には虫が鳴く。其の向う、峠の頂上。
箱バン、軽トラ、4WD。バイクが数台。群れ騒ぐ人々。親子連れ、カップル、大学仲間。
「ねぇ、まだ──?」「も少し待てって」大学生が携帯をいじる。「そろそろだろ。日も沈んだし」
やがて釣瓶落としに日は沈む。星が出てきた。と────「あっ!あれ!!」
峠から見える谷間に灯が見えた。杉林の間をゆっくり動いている。どよめく人々。
灯は高度を上げ、空中へ飛び出した。上がる歓声。見ると、谷間の彼方此方に似たような灯。
首乗峠、通称『貫玄さんの見晴台』。
此処最近、毎晩此処では謎の光が谷間を飛び廻るという怪現象が起こっていた。
正体については皆目不明。只、現象がネットで紹介され少しずつ見物人が現れている。
今度は地元TVも来ると云う。後少しで観光地化するのだろうか?そんなある夜─────
「──────ねえ、あれ何?」指差す其の先。いつの間にか杉林の中が光っている。
其の光を逆光に、奇妙な人影が動いていた。上半身を上下させ、地面を何か探す様な。
どうも人形かロボットじみた、ぎこちない動きだ。「あれ───もしかして、宇宙人?」
「マジ?俺見たの始めて」見物人達が騒ぎ始めた。戯れにライトを向ける者も居る。
「でかいよな、アレ」確かに近くの古看板に比して大きい。4,5m程?間違いなく人ではない。
「おい、ヤメロッテば」響く高い音と共に、人影に向けて花火が打ち込まれた。遠くで破裂音。
同時に、奇妙な人影を照らしていた光が消えた。宙を舞うあの灯も居ない。
人々の溜息。と同時に背後の林から強烈な光。「え?ひえええっ!?」
逆光に照らされた巨人の影。其れと共に、虫の声の様な、電子音の様な音。
泡を食って逃げ出す人々。車に乗り込み急発進。次々に峠を下る。一台バイクがこけた。
起き上がって振り向くと、逆光の影が此方に蠢いている。バイクを置いて走って逃げた。
光も人影もすうと消えると、あの灯がふわりと現れ、谷の方へ飛び去った。
292 :
第X話 異棲人来訪す:2005/08/11(木) 01:49:14 ID:oc203wDe
ブラインドの下りたオフィス。キーを叩く音のみ響く静寂。「おかじー先輩聞いてますぅ?」
音は休まない。「もうヤなんですよあの子ぉ〜」一方的に話す女性。頬杖を突くショートカットの顔。
「じっと天井の端っこ見つめたり、変な所に話し掛けたりモウきしょいんですよぅ」
「ヒマだからって一人でダべんな、もう6時廻ってるぞ早く帰れ」冷たくあしらう。
「え〜、だってぇ・・・・・」まあ判る。なるべくあの子に会いたくないのだ。
しょうがない、と帰り支度を始めた。ネットカフェにしけこむらしい。「──それじゃ〜」
と、開けた扉の向うに人影。 「・・・・・おむかえにきた」引きつる女性の顔。
つぶやくおかじー。「よかったじゃねーか、小坂」
晩の帰り道。前方に双尾髪の少女、後ろにおかじーと飯嶋。公園緑地内を近道する。
変人女達の中国旅行。其の間のチーコちゃんの面倒をこの小坂は任されたのだ。
行きたいイベントがあったので旅行を辞退したらこの始末。「・・・あんまりですよぅ〜」
留守番を任されたおかじーはその愚痴をここ数日聞かされているのだ。
「恨むなら自分を恨め、あと其の口調止めろ」「何ですかこのチビハゲクソオタ」
雰囲気が険悪に・・・・・と、チーコちゃんが立ち止まっている。茂みに片手を入れていた。
「あれ?どしたの〜?わんこでも居たぁ〜?」小坂精一杯の猫撫声。「ん、ちがう」
茂みから手を離す。と、ずるずる。ずるずるずる。ずずずずず。
「待った!チーコちゃんいいから!ゴミはいいから!」ボロのシートを引きずり出してきた。
「このひとがたすけてくれって」理解できない二人。「かえりみちおしえてくれって」
指差すチーコちゃん。眉を顰める岡島と小坂。
其の先には、枯葉のついた小汚いブルーシートが有るばかりであった。
293 :
第X話 異棲人来訪す:2005/08/15(月) 00:09:46 ID:Zd+Ok1iz
「で───あれからずっとか?」「そーなんですよも───考えられますぅ?」
小坂の部屋。背後で遊ぶチーコちゃん。手にはあのブルーシート。
何でもそのシートを相手に会話しているらしい。「もういいかげん───あの、聞いてます?」
「今な、来客中。愚痴はもーいい」携帯を切る。
「で、何でしたっけ───弓取サン」来客ソファに座る男。背広だがネクタイをしていない。
「ああ、あのニュース、知ってるかい?」TVニュース。首乗峠の怪光パニック事件の続報。
怪光出現の見物に来た人々が巨人の影に追われ、パニックで数人の怪我人が出たのだ。
「如何思う?」そりゃあ、まあ───「宇宙人、ですかね」「ご明察」笑う弓取先生。
「1947年のアーノルド事件以来、宇宙人来襲の話は枚挙に暇が無い。だが────」
今回の宇宙人らしきものは未だ正体不明。「其処で、だ。その正体とやら、突き止めてみんか?」
編集長もスミ先生も、あのウザい変人女も不在。好き勝手も出来よう。
「彼らのハナを明かしてやろうじゃないか!」
繁華街の裏道。とある飲み屋。「・・・・・・・で、何で飲み会になるんですか」
「親睦会も兼ねた会議だよ」何人も集まった関係者、というか同好会、というより魑魅魍魎。
弓取サンの挨拶もそこそこ、早速酒が進む面々。小説家、ライター、漫画家、研究者(自称)。
漸く本題に入る。「で、アレの正体なんだが・・・・・」「まあ、宇宙人だろうな」
「宇宙人たってピンキリだ。俺はアレはバルタン星系だと思うね、瞬間移動するし」
「分身してねーじゃん!第一有りふれてんだよバルタン系は。セミ面は見飽きた!」
「私はプラズマ生命体の一種だと思う。本体はあの光球で巨人の影はダミーだろう」
「ベムラーじゃ有るまいし。探査ロボットの線は?無いか?」 「ウンモ星人だろ」
「亡霊の一種とか。確か昔防衛基地に入り込んだのが居たな」 「ウンモ星人だって」
「地球産てオチは?」「オメガファイルか?ありゃヨタ話だろうに」 「ウンモ星人は〜?」
「黙れ」 「黙れよ」 「黙ってろボケ」
「ヘイ」
ちんちんいれすぎてまんまんガバガバ
好きなんだけど・・・結構面白いと思うんだけど・・・
何か小難しいよ!もっとこう・・・カネゴンのような・・・。
296 :
名無しより愛をこめて:2005/08/15(月) 17:08:13 ID:9hCeRiz0
ウルトラQの脚本を書いた山田正弘氏が亡くなりました。74歳
ペギラもカネゴンも、育てよカメも、鳥を見たもみんなこの人。
合掌。
結局、会議は平行線、というより酒が進んで話が進まず、そのまま解散となった。
夜の歩道橋。おかじーとうずくまる弓取サン。「う、うううん・・・・」「ちょ、こんなトコで・・・・・」
手摺にもたれる弓取サン。目の前には公園の緑地帯。あちこちに街灯の灯り。
と、其の中の一つがゆっくり動く。「・・・・・うぁ?」弓取サンが気付く。
木陰に揺らめく灯。おかじーも気付く。やがて緑地帯の一角に─────
「おお・・・・・!?」「ま、まさか・・・・・」逆光に照らされた人影が蠢き始めた。
「ミンナ非常召集だああああああああああああっっっっ!!!!!!」
翌朝、会社の会議室に集められた昨夜の面々。張り切る弓取サン。うつむくおかじー。
「いいか皆!ついに昨夜この東京都下、しかもえらい近所で宇宙人が目撃されたっ!
「千載一遇!まさにチャンス!私はこれより『ヒトダマ宇宙人捕獲作戦』を提案するっっっ!」
誰も聞いていない。何せ皆二日酔いなのだ。一人ハイテンションの弓取サン。
「日下部先生、確か宇宙生物捕獲ケージの開発をされてましたよねっ!」
「あ──・・・・、まあ使えん事も」「そんな半端使えんのかぁ──?」「な・・・何を云う多田!」
「失敗は許されんぞ?ま、珍発明してもナぁ」「大丈夫に決まってる!俺の発明だ!特許も取ってる!」
・・・・・・・・・何か皆さんハイテンションになってまいりました。
会議室を出るおかじー。接客ソファにブルーシート。チーコちゃんだ。「・・・・あれ?学校は?」
「夏休みですよぅ」小坂の声。かなり弱っているらしい。シートに話し掛けるチーコちゃん。
「おかじまさん」突如の呼び掛けにビビるおかじー。チーコちゃんだ。「な・・・・・何?」
「このひともほかくさくせんにいきたいって」
『エイエイオー』会議室から面々の掛け声が響く。
298 :
第X話 異棲人来訪す:2005/08/19(金) 17:01:37 ID:zdMGb34W
夕方。外で弓取サンの大声。例の捕獲ケージが来たらしい。「・・・おおい、大きすぎるぞー」
軽トラの周りで騒ぐ面々。夕日の差し込む編集室。見下ろすおかじー。
「行かないんですかぁ?」「これ以上付き合ってられるかって」・・・・・帰り支度をする小坂。
「え?おい、この子は?」「すいません、今日合コンなんで頼みます〜」「おい!ちょ」
止める間も無く行ってしまう。横目に見る。ブルーシートと遊ぶチーコちゃん。
溜息をつき、椅子に座る。「────そいつと遊ぶの、愉しいかい?」
頷くチーコちゃん。「そんなに愉しい?」「いろんなことができるから」説明するチーコちゃん。
──例えば。豆粒程に小さくなったり、ビルよりも大きくなったり。
──天高く飛び上がったり、驚くほど高速で移動したり、分身したり。
まるで宇宙人だ。いや?元々そういう設定だったか?「・・・へええ?どんな奴なの」
山型に盛り上がったブルーシートをつまむ。捲くると──────
──────虚ろな瞳がこちらを見つめた。
尻餅をつく。・・・・今のは!?
鈴虫が鳴いている。夜の公園。茂みに隠れる弓取。サラリーマンが避けて通る。
ゴーグル、迷彩服、ヘルメット。背後の軽トラに満載の謎装置。ニヤリと笑う。二人帰ってきた。
「準備完了」「OK!来るなら来いフッフッフッフッ」バカップルが驚き飛び退く。
緑地帯を通るバカップル。茂みに入り抱き合う。顔を近づけ─────照らされる二人の顔。
輝く光球が二人の頭上に降臨していた。
「来た────────!!!」喜ぶ弓取。「よーし先ずは・・・・何だっけ、北川先生」
「矢張り先ずはコミュニケーションを」「正体の確認が目的だ!捕獲捕獲!!」
「野蛮だな」「うるせー、よ毎度毎度キレキレテとか役立つか!」「やはり此処はウンモ星人に」
「煩い」 「うるせー」 「小煩い」
「ヘイ」
299 :
怪獣大戦1:2005/08/19(金) 20:40:33 ID:v8pYwgr5
ここはマンモス都市、東京である。
突然、道路に亀裂ができた。そして、1対の長い目をもった巨体があらわれる。
「ぎゃおーーーーー」
その巨体はナメゴンだ。ナメゴンは目から光線を発射し、車を焼き尽くす。
ずががーーん。ずががーーん。
ビルヂングを押し倒しながら進むナメゴン。
東京は地獄と化してしまったのだ。
300 :
怪獣大戦2:2005/08/19(金) 20:41:06 ID:v8pYwgr5
ナメゴンの存在に気がついたのか、地中から2体目の怪獣が現れる。
毛で覆われたその怪獣はモングラーだ。
「ぐおーーぐおーーー」
モングラーは地響きするような大きな声で鳴き、ナメゴンに突進する。
どかーーーん。
2体の怪獣は激突。お互い倒れてしまう。
先に起き上がったのはモングラーだ。
モングラーは倒れているナメゴンの目をつかむと、蝶々結びにしてしまった。
これはたまらないナメゴン。
ナメゴンは地中に帰って行った。
「ぐおーーぐおーーー」
モングラーは勝利の雄たけびをあげた。
301 :
怪獣大戦3:2005/08/19(金) 20:41:54 ID:v8pYwgr5
そこに到着したのは万丈目淳の車である。
車から万丈目淳と銀色の銃を持った一ノ谷博士が降りてきた。
「万丈目くん、この銃で怪獣を倒せるはずだ」
「分かりました」
万丈目は博士から銃を受け取ると、モングラーに銃口を向けた。
ビビビ・・・・・・・!
銃口から勢いよく光線が発射された。
光線は宙を切り裂き、モングラーに命中した。
「ぐおーーーーーー・・・・!」
モングラーの断末魔だ。モングラーは燃え尽きたのだった。
こうして、万丈目と博士で怪獣は撃退されたのだ。
チャンチャン
公園の中心に舞い降りる光球。光が地表へ放たれ、巨人が降り立った。
錨型ないし茸型の頭部。虚ろな瞳が輝く。逆光に照らされる身体。猫背で周辺をうろつく。
「いいか、捕獲!捕獲するぞ!準備は?」「何時でも・・・・・おお!?」
光球から再び光。巨人が降り立つ。これで合計3体。「おい・・・如何する?増えたぞ」
「装置に問題は?」「無い。複数体でも捕獲可能だ」「よし・・・・・スイッチ入れろ!」
公園各所から光。ビビるバカップル。脈動する緑の光輪が出現し、瞬時に縮小する。
縮小した中心部に────あの巨人達。縮小する輪に押さえられ移動する巨人の身体。
只どうも意に介さない様だ。慌てるそぶりは無い。
「やったっ!」「よーし!ケージスタンバイ!捕縛光輪焦点合わせろ!」更に縮小する光輪。
と、巨人たちが背を向け、一箇所に集まった。────いや、というより────
「へ?」数回閃光。と共に、「わ?おわ!?おああ!!?」巨人がゆっくり起き上がる。
「じゃ、そいつはあの宇宙人の仲間なんだね?」「うん、そ」夜の道路。
軽四を運転するおかじー。助手席にチーコちゃん。「迷子になったから仲間のトコに、か」
「うん、そ」しかし何故、宇宙人が迷子になってブルーシートなぞに化ける?
「モギサンがヘバネってモルモルモルったとどうじにウメポジーになったから」
「・・・・・はぁ?」「げんごやにがいとうたんごがそんざいしないからせつめいできないって」
「・・・・・はぁ」まあ取りあえず、弓取サン等の居る公園に行けば何か────
そろそろ横に見えるハズ。
───高架から見える公園緑地帯。40mは有ろうかという宇宙人が猫背で立っていた。
あっけに取られるおかじー。「・・・・・・・・うそン」
はしゃぐ弓取サン。「おー!巨大化したぞー!流石宇宙人!!」「弓取サン、あの」
「何よ」「ヤバい」「ん?」巨大な宇宙人が両手を上げる。いとも簡単に弾け飛ぶ光輪。
ぽかんと見上げる面々。猫背の宇宙人が此方を向いた。両掌をヒラヒラさせている。
虫の声の様な、電子音の様な音。脚を踏み出してきた。
「え」二歩目。「、に、」三歩目。「・・に」宇宙人が腰を曲げて此方を見降ろして来た。
「逃げろ────────!!」号令と共に散り逃げる面々。
何と弓取サンは宇宙人の股の間を通って逃げた。其れを眼で追いもんどりうって倒れる宇宙人。
やっと公園につくおかじー。入り口に赤色灯。既に警察が着いているらしい。
樹々の向うで巨大な宇宙人が暴れている。「うわ、やば・・・・」何処から入るか。
と、其の横のフェンスの破れから女が出てきた。「・・・・・あれー?先輩?チーコちゃんも?」
「小坂?お前何で」「デートしてたんですよココでぇ〜そしたら、こんなんだしんも〜」
「彼氏は?」しばし沈黙。「・・・・・・あ」
ヘロヘロになって逃げる男。其の横に付く弓取サン。「おーさっきの色男!大丈夫か!?」
男が加速した。「オイ待てよ、大丈夫!宇宙人は」・・・・・振り向くと後ろに付いて来ている。
「わー!付いて来んな!」手を振り上げる宇宙人。樹やベンチを持ち上げ投げてきた。
「だ〜っはっはっは!当るかそんなもん!」次に持ち上げたのは、公衆便所。
「ウわや─め─て─!それだけはやめて──!?」
走るおかじー、チーコちゃん、小坂。ブルーシートがずるずる音を立てる。
向うに巨大な宇宙人。其の前を走るのは、「───弓取サン!」「おお!岡島君!」
・・・・・何か汚れている。「ムわクサッ」「ごめん、ちょっと当ったの」
前に出るチーコちゃん。ブルーシートを構える。「お?何この子?」「ええ、あのシート・・・」
シートの中の宇宙人が、巨大化した宇宙人を説得してくれると云う。「・・・・マジかっ!?」
巨大な宇宙人が迫ってきた。砂場の滑り台の上でシートを掲げるチーコちゃん。
「チーコちゃん!今だ早く!」声と同時に、巻かれていたブルーシートが開く!
ひらん、ひらん。ブルーシートの中から現れたのは、
無邪気な宇宙人の落書き。
「・・・・・・・・は?」・・・・・・皆、開いた口が塞がらない。
見下ろす巨大宇宙人。目の前の滑り台上で、落書きがひらひら振られている。
虚ろな瞳が細くなった。と、腰を上げ、上を向く。光が照らされた。あの光球だ。
宇宙人の身体が持ち上がり、光球に吸い込まれていく。
完全に宇宙人を吸い込んだ後、ドクリと一回脈動して、光球は北北西の空へと去って行った。
あっけに取られる面々。弓取サンの仲間も集まってくる。
ひらん、ひらん。滑り台の上では、チーコちゃんがまだシートをひらひらさせていた。
真夜中の編集室。「───成程、眼のトコに蛍光塗料が使ってある」弓取サンがシートを調べる。
「でもコレを本物と間違えるとはネぇ」「・・・・・もう勘弁して下さいって」
多田サンと北川が酒とツマミを買ってきた。既に出来上がっている。呑み散らかす面々。
「でも何で落書きで治まって帰ったのかね?あの宇宙人」「言語的な意味があんのかね」
「降伏とか?仲間だとか?モチツケとか?」「ホントに仲間と間違えたとか」「アリエナーイ」
「何で居る小坂!?」「いーじゃんデート潰されたんだからー」「ほー夜の公園でかホー」
「塗料に嫌いな物質が有ったとか」「それともエネルギー切れとか」「ウンモ星人とか」
「お前な」 「テメエな」 「オマエな」 「お前等な」
入り口に立つ編集長。「・・・・・・・・・・一体会社で何やっとるんだ?」
ガチャン。鍵が開き扉が開く。「は〜ああ、疲れた疲れた」ベッドに横たわる変人女。
大荷物を抱えて入ってくる雑誌記者。「・・・・・はああぁ、ツカレタ」荷物を下ろす。
「お、荷物持ちごくろーサン!帰っていいわよ」・・・・・少し位休ましてくれ・・・・・・
と、「?チーコちゃんは?」「ベランダ。何か『かたづけ』だって」
ベランダに立つチーコちゃん。手にはブルーシート。東の空が白んでいる。うっすら青い空。
シートを広げる。宇宙人の落書き。一度はためかせると、朝方の澄んだ空気へと押し出した。
地上に堕ちずふわりふわり。少しづつ上昇していく。其の先には明けの明星。
やがてブルーシートは、朝の空に溶けて見えなくなった。
「ばいばい」
変人女の声。「チーコちゃーん、ちょっとでも寝ときなー」
「あい」 振り向くと、小走りに室内へと入って行く。
瞬いた明けの明星。
ゆっくりと円を描くと、やがて白む天蓋の彼方へと飛び去っていった。
306 :
第X話 異棲人来訪す:2005/08/23(火) 00:02:16 ID:8Yqr6X0o
>>295 恐らく、自分にカネゴンは出来ません。
>>139『木曜日の円盤』みたいになります。
挑戦はしてみますが・・・・・・
ポケモンキライダカラナァ('A`)ノage
307 :
名無しより愛をこめて:2005/08/23(火) 12:41:04 ID:hvQfdkrI
>>306 なんか・・・あれでしょ?小難しいこと書いてる自分が好きなんでしょ?
ってか、いちいちageなくていいよ
とかいいながら、自分がageちゃったよ。ぶへ。
ここは、一ノ谷博士の研究室である。
一ノ谷「怪獣の中には、変わったものを食べるやつがいるんだ」
「例えば・・・?」
一ノ谷「放射能や石油などを食べる怪獣もいるんだ。他にはな・・・」
一ノ谷博士はパソコンを立ち上げ、2ちゃんねるという巨大匿名掲示板を開き、
『おまいらウルトラQの脚本を創ってください。』というスレを探し出した。
万丈目「『おまいらウルトラQの脚本を創ってください。』・・・?なんですか、このスレは?」
一ノ谷「うむ。見ていたまえ。もうそろそろ現れるぞ・・・。レスを食べる怪獣が!」
万丈目「レスを食べる怪獣ですって・・・!?」
一ノ谷「・・・ほら、現れたぞ」
ムシャムシャ・・・
ムシャムシャ・・・
ムシャムシャ・・・
ムシャムシャ・・・
ムシャムシャ・・・
>>307 小難しいこと書けるだけでもたいしたもんです。
ageるのは、他の書き手を開拓するのに是が非でも必要です。
夜の庭。其処彼処で鳴くコオロギ。茂みの傍らにベンチ、そしてオブジェ。
ベンチに座る男。くたびれたネクタイ。煙草に火を付けふかす。広がる赤煙。
庭全体が赤色灯に照らされている。其の度、闇に浮き上がる幾つもの奇妙なオブジェ。
「警部」もう一人。「配置完了。警報装置も設置しました」「・・・・・そうか、行こう」
「しかし───本当に来るんですかねぇ、奴は」「さぁ、な」中庭を出、廊下を歩く。
「だが『予告状』が打ち込まれてたんだ、来ないってのも無ぇだろうよ」
無線による確認。『警報装置に異常無し』ブツリ。・・・・・何だ、今の無愛想なのは?
「ホラ、あれですよ『分局』の」────ああ、あいつ等か・・・・「えーと、便所何処だっけな」
「奥行って右です」「ん、すまん」通路の奥へ。赤色灯が消え、緑の非常灯。
用をたし出てくる。と、廊下の隅、クズカゴの影に何か塊。確か、此処は────
塊を拾う。確認し、無線を取る。「────総員警戒態勢。至急内部を確認しろ」
ぶら下がるコード。「警報装置が破壊されている。侵入者の可能性が高い」
展示室に走り込む。並ぶ展示物。「警部!───」台座のみの展示。───やられた。
照らされる床。乱れた敷物。大理石の破片。何者かが争った跡が有る。
何人か警備の警官が昏倒していた。其の上、渡り廊下に─────黒い外套の人影。
「待てっ!」見えなくなる人影。階段を上がる警部。後姿が見えた。
狭い廊下を追う。曲がり角毎見失う姿。右に曲がった直後、ガラスの割れる音。
廊下の端、割られている窓ガラス。・・・・・・逃がしたか。息を切らせる警部。
───と、背後からキチキチと軋む音。振り向くと、黒い外套の男。
両手を構え近付いてくる。手はミトンの様な黒い手袋。先が尖り黒光りしている。慄く警部。
「く・・・来るなっ!」銃を構える。制止も聞かない。男がバケツを蹴飛ばす。瞬間、銃声。
「警部!」部下の声。男の眉間から煙。打ち抜いたらしい。だが男は微動だにせず───
────首が、ズレて落ちた。陶器の様に砕ける。首無し男が、振り向いた。
足元の男の口だった部分は、歪み笑っていた。
「野村様・・・・・ですか?」編集室の入口。応対している雑誌記者。相手は初老の男。
「生憎編集長は今出払ってまして────」名詞を眺める。
『警視庁SRI第6分局 情報整理室 野村・・・・・・』「じゃあ、待たせて頂けませんかね」
はあ、と気の抜けた声の記者。と、廊下から騒がしい声。昼飯から編集長が帰って来た。
「・・・おお!野村サン!久しぶりじゃないか!」「や、暫らくぶり」「如何したんだ急にー」
何か事情が有るらしい。二人で階段を上がっていく。
すれ違い様、変人女が入って来た。「チャーす、どったのチョーさん?」
「来客。古い知り合いらしいけど」ふうん、と気の無い返事。「それよりさ、相談なんだけど」
・・・・・・・飯おごれ、だそうだ。こないだの代原の原稿料は如何した?
テナントビルの屋上。座り煙草を吸う二人。「────何年ぶりかな」
「5年ぶり、位か」「そんなに経つか。皆如何だ?シロー爺さんは元気か?」
「亡くなったよ、おととしな」「──ん、そうか」煙草の灰が落ちる。
最後までSRIへの公的資金投入に反対していたらしい。犬に真実は捕らえられん、だそうだ。
「爺さんらしいや。で、何の用だ?今日はまた」煙草を吸いきり、床に落とす。
「ある捜査に、協力してほしいんでな」
「おばちゃーん!特盛りネギチャーシュー!あ、餃子セットで」「オマエ、遠慮しろよ」
「まーまーまー」溜息一つ、新聞を広げる記者。一面に大きな見出し。──ああ、又か?
横から覗き込む変人女。「ふうん、これで何回目だっけ?」
『 怪 盗 首 無 し 男 羽田風人記念美術館に侵入』
320 :
第X話 黒い貝殻:2005/09/01(木) 00:19:35 ID:Cug9yNxG
怪盗『首無し男』。
此処最近、世界中を騒がせている謎の怪人である。
博物館、美術館、画廊、大学研究室、古美術商、個人宅に至るまで、ありとあらゆる所へ侵入。
美術工芸品を盗み出すのだ。神出鬼没、正体不明。只一つの特徴は────
首が無い。いや、一応侵入時は首が有るのだがいとも簡単に取れてしまうのだ。
ある時は自ら外したり、落としたり。首が180度廻って笑われたという報告もある。
そうして盗まれたモノは、これまで一度たりとも発見されていない。
「だが、コレは公表してないんだが────『首無し男』、コイツは予告状を出すんだ」
長い、50cm程の黒光りする貝殻。其れが美術品の傍に張り付いているという。
一体何故そんなモノを使うのか。全くもって判らない。
「『今回の件はSRIが出動したにも関わらず、大立ち回りの上取り逃がした』ふむぅ〜ん」
「お前、ちゃんと前向いて食えよ」「SRI、国主導になってからパッっとしないわね」
「止めろ、カレーラーメンの汁まけるだろが」「ンなもん食うのが悪いんでしょー」
乗り出してくる変人女。「むわ!止メ、まけるっ」
「如何だ、頼めるか」「ていうか、何でだ?何故一介の雑誌編集長の俺に頼む?」
沈黙。「──────牧サンの遺志、かな」「?」遠くを見る野村。
「今の警視庁SRI分局は最悪だ。能無ししか残ってない。俺みたいな、な」
入口へ歩き始める野村。「託してみたいんだよ。あの頃の俺達みたいな、民間組織にな」
「解かった。やってやるよ」背を向けながら手を振る野村。もう一本煙草を付ける編集長。
「────ああ、後な」大声で呼びかける、後姿。
「妙な謙遜なぞすんな。経験こそ貴重な才能だ」
きゅーきゅーきゅーっ!浅野温子だきゅー!