僕にも『ウルトラマンタロウ』の話は書ける

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◆頭上で組み合った手を渾身の力で押し合うキングジョーとタロウ。お互いに一言も口にせぬままの
力比べではあったが、タロウの強靭な筋肉も、大出力を誇るキングジョーの駆動系も、限界ぎりぎり
のせめぎ合いに悲鳴を上げつつあった。だがマシーンであるがゆえに痛覚とそれを現す表情を持たぬ
キングジョーは、自らの限界を悟られることなく冷徹に相手を観察することが出来た。そして最後に
はその一点が両者の明暗を分けることになったのだ。
「・・・・・・・・・・・ッッ!!」
延々と続く緊張に筋肉が限界に達したタロウが思わず首を打ち振った瞬間、待ち構えていたキング
ジョーのコンピュータはコンマ数秒間だけ駆動系にオーバーロード(過負荷)を命じた。即座に反応
したメカニズムがさらに数%の出力を絞り出し、応じきれなかったタロウの両手はキングジョーと
組み合ったままジリジリと下がり始めた。
「ウッ、ヌゥッ・・・・・・・・・・・!」
両腕をブルブルとわななかせながら、圧力を撥ね退けようと懸命に踏ん張るタロウ。しかし疲労した
彼の筋肉は徐々に力を失い、もはや出力を100%以下に戻したキングジョーの膂力にさえ抗しきれずに
組み合った体勢のままアスファルトの上を後退し始めた。全く衰えぬキングジョーの握力に捕えられ
た手を振りほどくことも出来ず、焦るタロウ。さらに胸のカラータイマーがゆっくりと点滅を始めた。
(なんとかしなくては・・・・・・・)
じりじりと退がるにつれて自分の踵が路上に放置された自動車を押しのけ転覆させていくのを感じ、
タロウの焦燥は嫌が上にも深まっていく。
                                       〔 つづく 〕
62名無しより愛をこめて:04/05/18 21:34 ID:HlPVsNrY
◆ズ、ズンッ・・・・・グわン!!
転覆の衝撃で飛んだ火花が漏れたガソリンに引火し、足元でたて続けに小爆発が起きる。思わずそれ
を見ようとして生まれた隙をキングジョーは見逃さなかった。やおら振りほどかれた右手が瞬時に
硬く握り締められ、猛烈な勢いでタロウのボディにめり込む。
ゴオ゛オ゛ォ〜〜〜〜〜〜ンッッ!!
巌のように鍛えぬかれた筋肉に激突した宇宙合金の塊は足元の爆発など掻き消すような轟音を響き
渡らせ、それに被さるように絶叫がタロウの口からほとばしる。
「ディエあア゛-------------------------------ッ!!!」
背骨まで貫き通すような衝撃に続いて、焼け爛れた棒杭を内臓に突っ込まれ掻き回されるような激痛が
真紅の戦士の体内を駆け抜ける。ガクリと膝をついて倒れ込もうとするその身体を、ペダンの凶戦士は
強引に引き起こし追い討ちの蹴りを叩き込んだ。
「うグワアアァ〜〜〜〜ッ!!」
爆発的な痛みに激しく目を明滅させ、転げ回って悶絶するタロウ。七転八倒する自分の身体が周囲の
建物を破壊していくのを、追い詰められた正義の戦士はどうする事も出来ずにいた。
                                       〔 つづく 〕
63名無しより愛をこめて:04/05/18 21:35 ID:HlPVsNrY
◆「ガフ!ゴヴォ・・・・・ッ」
傷付いた内臓から逆流した鮮血が口から溢れ、銀白色のマスクを染めてゆく。それでも懸命に闘志を
奮い起こし、立ち上がろうと泥にまみれた四肢を大地に踏ん張るタロウ。
「ま・・・負けるわけに・・・・・・かない・・・・・・・たしが負けたら・・・・・ゅうは・・・・・・・・・・・」
若輩の自分を地球防衛の大任に就けてくれた父や兄達の為にも、宇宙警備隊の誇りにかけても屈する
事は出来なかった。赤い警報を発し続けるタイマーを無視して立ち上がり、どうにかファイティング
ポーズを取ったタロウだったが、心を持たぬ戦闘機械はあくまでも冷静に相手の現状を観察していた。
顔面の吐血(内臓損傷の可能性高し)及び両脚の痙攣(瞬発力の大幅な低下)、それに胸部のエネル
ギーゲージとおぼしき器官の点滅・変色等から類推して、コンピュータはタロウの戦闘能力が脅威と
ならぬレベルに低下したと判断し、とどめの攻撃に移るコマンドを発した。大地に根を下ろしたかの
ように佇んでいたその脚がゆっくりと動き出し、タロウ目指して歩き始める。
(捕まったら最後だ・・・・・・・・・)
タロウは残されたエネルギーを全てその両手に集めると、渾身のストリウム光線を撃ち放った。虹色の
光芒があやまたずにキングジョーの胸板に突き刺さり、大音響とともに炸裂する。
「・・・やっ、た・・か・・・・・・・・・・・・?」
すでに限界までエネルギーを消耗し、爆発の残響にまぎれてしまいそうなほどにタイマーの警報音も
小さい。傍らの高層ビルに倒れかかりそうになるのを必死に堪えながら、煙の向こうを見透かそうと
眼を凝らすタロウ。だが、ようやく風に吹き払われた煙の中に、怪ロボットの残骸は無かった。
(そんな・・・・・・・・・・・・!?)
                                       〔 つづく 〕
   
64名無しより愛をこめて:04/05/18 21:36 ID:HlPVsNrY
◆ふらつく足で2、3歩前に出た次の瞬間、タロウの背後でブゥゥゥン・・・・・・・・という微かな音がした。
「何ッ---------------------!」
振り返ろうとしたその腰に、またもや超合金製の拳が打ち込まれる。
「グアアァ!!」
爆発の閃光と大音響に紛れて空中に舞い上がり、背後に回り込みながら着地する。ただそれだけの単純
な戦術に、エネルギー不足で判断力の落ちたタロウは引っ掛かってしまったのだ。
最後の力で放ったストリウムの直撃を受けてもなんら変化のないボディを陽光に煌かせ、銀色の巨人は
がっくりと膝をついてしまったタロウに迫る。
「ウウッ・・・・・・・・・」
激しく痛む身体に鞭打って逃れようとするタロウ。しかし度重なる攻撃を受けた為にその動きは自分で
も歯痒いほどに緩慢だった。何とか立ち上がりかけたところで彼の手首はキングジョーの大きな掌に
がっしりと掴まれてしまった。
  〔 つづく 〕
65名無しより愛をこめて:04/05/18 21:36 ID:HlPVsNrY
◆膂力において自分を圧倒する相手の出現に、若きウルトラ戦士はパニックに陥りかけていた。
「は・・・放せっ・・・・・・・・・・」
自らの血潮で染まった口から震えを帯びた声が漏れる。回答は無言の拳によってもたらされた。唸りを
上げて飛んできたごつい手の甲が、過たずにタロウの顎を捉える。何度目かの激突音に被さるように、
ぼぐンッ!という異音が響いた。
裏拳の当たった勢いで遠ざかろうとするタロウの身体を、そうはさせじとばかりに反対側の手で強引に
引き戻すキングジョー。正反対のベクトルでせめぎ合った巨大な力は、タロウの肩関節にその妥協点を
見出したのだ。
「ディへエ゛エ゛エぇッッ-----------------!!」
一瞬のうちにタロウの左腕が伸びた。脱臼したのだ。途方もない痛みに絶叫するタロウ。
その伸び切った左腕をなおも引っ張られ、タロウは狂ったように頭を打ち振って叫ぶ。
「ディ、ア゛!ア゛ア゛ッ!!や、止め・・・・・・・・・・!」
体力の尽きかけた自分に対して、これほどまでに容赦の無い責めを続ける相手から放射される、明確で
強固な意志。怒涛のようなその意志にの前に、若いタロウの闘志や戦士の誇りが、地球防衛の使命感が
突き崩され押し流されていく。そして空洞になった胸の内には、ドス黒い原始的な恐怖が流れ込んで
きた。それは傷付いた身体の痛みを増幅し、筋肉の躍動を妨げた。
                                   〔 つづく 〕
66名無しより愛をこめて:04/05/18 21:38 ID:HlPVsNrY
◆足をもつれさせ、何度も倒れ込みそうになりながら、手綱に御される馬のように相手の周りを引き回さ
れる恥辱にも、老人のように腰を曲げた姿勢で従う他はないタロウ。その身体が引きずられるままに周囲
の建物にぶつかり破壊していく。
激痛と、地球の守護神たる身が憎むべき破壊者の役割を演じさせられる屈辱という二重のストレスに耐え
かねて瞬間意識が遠のき、足をもつれさせたタロウはとうとう大地に倒れ込んだ。
「ウ、うッ・・・・・・・」
真紅のボディは今やコンクリートの破片や火災の煤煙にまみれて薄汚れ、ビルとの衝突で無数の傷口が
開き、鮮血を滲ませている。
それでも本能的に右腕一本で懸命に身を起こそうとするタロウに、なおも無慈悲な責めが加えられる。
ごァアンッ−−−−−−−−!!
ワナワナと震えながら踏ん張っていた右肘にキングジョーの爪先がめり込み、関節が粉砕された。
「でぃヤああああァ!!」
      〔 つづく 〕
67名無しより愛をこめて:04/05/18 21:39 ID:HlPVsNrY
◆多彩な技の大半を繰り出すその両腕を潰され、正義の若武者は身も世もなく叫びながら芋虫のように
身体をうねらせてのたうち回る。その様子を、キングジョーはじっと見下ろしていた。
------- 目の前のウルトラ戦士からほぼ完全に戦闘能力を奪うことに成功した -------コンピュータは
そう判断し、遠い母星で建造された時に与えられた命令を確認した。
プログラム次第で破壊のみに全力を尽くすことも出来る戦闘ユニットではあったが、制圧後に植民星
とする為には天然及び労役の為の資源は最大限に残さなければならない。だからこそ破壊活動は最も
強力な戦力(この場合はウルトラ戦士ということになるが)の出現までと限定し、原始的な内燃機関を
使って資源を無駄遣いしたうえに環境を悪化させている移動体のひしめく都心部に送り込んだのだ。
そしてウルトラ戦士が現れた時はこれと交戦し無力化する事・・・・・・・・・「撃滅」ではなく「無力化」と
いうところがこの命令の眼目だ。
原住民の抵抗の意志を挫く為に、彼等が守護神とも頼むウルトラ戦士を叩き伏せ、体力を使い果たし
て惨めに消滅していく様子を見せつけるのがキングジョーに与えられた使命なのだ。敵のあらゆる攻撃
を平然と撥ね退け受け流し、そのうえで圧倒的な力の差を見せつけて勝利する・・・・・・・・ つまりここまで
の展開は命令の半分が遂行されたに過ぎない。これからが仕上げなのだ。
                                        〔 つづく 〕
68名無しより愛をこめて:04/05/18 21:40 ID:HlPVsNrY
◆もはや転がり回る力も使い果たしたか、動きを止めて大地に長々と横たわったタロウに悠然と歩み
寄ったキングジョーは、その脇の下に爪先を差し込むとゴロリとタロウの身体を仰向かせた。彼の胸板
で体力の消耗に連れて点滅を早め警告を発していたカラータイマーは、今や時計の秒針よりも緩い間隔
で明滅しており、どうかすると光の無い時間の方が長くなっていた。タイムリミットが近づいている。
キングジョーは屈み込んでタロウの身体の下に手を差し入れると、軽々と肩に担ぎ上げた。そして手近
な距離にあったツインタワーの超高層ビルの前に立つと、まずタロウの右の膝頭を掴んで自分の頭より
高く振り上げた。強大な握力に膝の骨がメシメシと握り潰され、痛みに意識を取り戻しかけたタロウが
呻き声を上げて肩の上で身じろぐのを無視したキングジョーは、振り上げたタロウの足を右のタワーに
突き刺した。
ボゴォンッッ−−−−−−−−−!!
右脚は膝までタワーに突き刺さり、躯体を突き抜けた足首がタワーの裏側に飛び出す。反対側の脚も
隣のタワーに突き立った。そうしておいてキングジョーが担いでいたタロウの身体から肩を抜くと、
真紅の戦士は両脚を大きく開いた無様な格好でツインタワーの間に逆さまにぶら下がった。潰された
両腕は力無く垂れ下がり、肩を外された分だけ伸びた左手の指が辛うじて道路に付く。その指を銀色の
足が踏み付け、骨の砕け散る不気味な音が響いたがタロウはもはや身動きひとつしない。事は成った。
間もなく彼の身体は霞のように掻き消えることだろう。母星から遠く離れた異郷の星で消耗し尽くした
ウルトラ戦士の、それが定めなのだ。その瞬間を迎えるまで、タロウを晒し物にする必要がある。
キングジョーはツインタワーの傍らに回ると衛兵よろしく仁王立ちになり、静かにその時を待った。
次に彼の前に立ちはだかるのは誰か、その相手とどう戦うべきか、母星で与えられたファイルを参照
しながら・・・・・・・・・・・・・・・・・

( この項 了 )