クライシスとの戦いから十年…南光太郎は旅を続けていた。
クライシスが滅びてからも、ライダーの力を人々を守るために使うことは何度かあった。
未確認生命体やアンノウンと称される謎の敵。鏡の中から現れるモンスター。
そして、灰色の体色をした謎の怪人などと戦う際には、変身を余儀なくされた。
光太郎は危険を察知する自らの体質を利用し、いち早く人々の危機に駆けつけ、それら謎の敵と戦い続けていた。
そして、光太郎は不吉な予感を感じ、ある地方都市を訪ねていたのだった。
冬の気配を感じさせる冷たい秋風が、ぼろぼろに読み古された新聞紙を弱々しく吹き飛ばす。
「自衛隊の対アンノウン治安出動疑惑」「広がる未確認生命体被害」新聞紙面には、そんなことが記されていた。
色づく街路樹に囲まれた車道を、一両のバイクが走る。それに跨るのは、南光太郎だった。
―――見た感じ、普通の街だな…
光太郎がこの街を知ったのは、テレビのニュース番組がきっかけだった。
この街で起こる連続猟奇殺人が取り上げられ、それに言い知れぬ不安を感じたのだ。
未確認生命体やアンノウンとは違う、もっとどす黒く、そこの見えない闇のようなものを…。
―――俺の気のせいなら良いんだが…
一瞬、歩道の人影とバイクがすれ違う。
白い、人影。
―――なんだ?
すれ違った刹那、光太郎は妙な違和感を感じた。
何の変哲もないこの街の中で、そこだけが「浮いた」ような、
例えるなら、出来の悪い合成写真を見た時のような違和感を感じたのだ。
とっさにバイクを急停止させ、後ろを振り向く。
そこには誰もいなかった。ただ、紅葉が舞い散るだけの歩道が、どこまでも続いていた。
つづく
光太郎は独自に調査を進めていたが、依然として何の手がかりも掴めないでいた。
そうする内に日は暮れ、街は闇に包まれた。
外気はすっかり冷たくなっていたが、光太郎にとっては大した苦痛ではない。
宿を取る手間を惜しんで、公園のベンチに寝転がる。
改造人間であるが故の、強靭な肉体…以前はそれが、とてもおぞましかった。
子犬を抱いても、普通の人間と同じ感覚で力を入れれば、子犬は簡単に潰れてしまう…。
そんな自分の肉体が、ゴルゴムの醜い怪人と同じとしか思えない時期もあった。
だが、今は違う。
10人の先輩ライダーや幾多の人との出会い、そして別れが、光太郎を強くした。
この体を、力を、正しい道に使うことを、彼らは教えてくれたのだ。
今の光太郎にとって、この体は誇りだった。
暫く休もうと、光太郎は目を閉じる。
そして、夜は更けていく。
つづく
どこからか、犬の遠吠えが聞こえた。
はぁ、はぁ、はぁ―――
男は、闇夜の路地をひた走る。走り難いスーツのまま、なりも構わずに必死の形相で、走る。
電柱にくくりつけられた電灯が弱々しく光る以外、全くの闇。その中を一人、走り続ける。
はぁ、はぁっ、はぁっ―――
男の後を追うように、電灯が消えていく。闇が、じりじりと迫り来る。
はぁあ、はぁっ、はぁあああああ―――
振り向かずとも、男には解った。
闇が、すぐ後ろにいることが。
そして、闇の中から伸びた腕が、男の首を掴んだ。
獲物に飢えた闇が、その体内に男を引きずり込んでいく。
う、あ、ああああああああああああああああっ―――!
絶叫がこだました。
その時
「とおっ!」
飛び蹴りが闇の腕に打ちつけられ、解放された男は道に倒れこんだ。
着地した人影は、闇に向かいながらも男の方へ目を配った。南光太郎だった。
「大丈夫ですか!」
光太郎の呼びかけに対しても、男はただ怯えるばかり。これでは逃げることも出来ないだろう。
「アクロバッター!その人を安全な場所へ!」
爆音と共に駆けつけたアクロバッターに男を乗せると、光太郎の指示に従ってアクロバッターは走り去った。
光太郎の対峙する相手は、闇の中で身を潜めていた。光太郎の視角を持ってしても、その正体は掴めない。
ただ一つ、相手が人間ではないことだけは、明らかだった。
―――こいつ…ゴルゴムかクライシスの生き残りなのか…?
身構える光太郎の周囲に、異様な気配が増えていく。辺りの気配に意識を配ろうとした瞬間、光太郎に闇が飛び掛った。
二体、三体、四体…続々と襲い掛かる闇に、光太郎の体が覆われていく。
だが、その攻勢も一時のものに過ぎなかった。眩いまでの光が、強い衝撃と共に闇を吹き飛ばした。
その光の中から立ち上がる、一つの影。太陽の力をその身に湛える、仮面ライダーBLACK RXだ。
RXの目は、光太郎の時よりも鮮明に敵の姿を映し出す。その姿は、人間そのものだった。
だが、それらには決定的に欠けたものがあった。命の息吹が、全く感じられないのだ。
「生きる屍…彼らも犠牲者なのか…」
哀れみの視線を屍達に向けるRX。だが、彼らを放置することは出来ない。
自ら望まずに、偽りの生を与えられた者達。彼らを救うには、方法は一つしかない。
「キングストーンフラッシュ!」
RXのベルトから発せられた太陽の光が、屍達に降り注ぎ、その体を暖かく包んだ。
一瞬、苦しむ素振りを見せた屍達だったが、やがて穏やかな表情を浮かべ、土くれとなって崩れ去った。
「すまない…せめて、安らかに眠ってくれ…」
自分自身への無力感、そして彼らを屍に変えた真の悪への静かな怒りが、RXの胸に渦巻く。
「へえ…変な奴が紛れ込んだみたいね」
離れた家屋の屋根の上から、RXの姿を捉える白い影。
それは暫くRXの四肢を眺めた後、元から存在すら無かったかのように、消えた。
つづく