仮面ライダーを噛ませ犬にするな!

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151名無しより愛をこめて
クライシスとの戦いから十年…南光太郎は旅を続けていた。
クライシスが滅びてからも、ライダーの力を人々を守るために使うことは何度かあった。
未確認生命体やアンノウンと称される謎の敵。鏡の中から現れるモンスター。
そして、灰色の体色をした謎の怪人などと戦う際には、変身を余儀なくされた。
光太郎は危険を察知する自らの体質を利用し、いち早く人々の危機に駆けつけ、それら謎の敵と戦い続けていた。
そして、光太郎は不吉な予感を感じ、ある地方都市を訪ねていたのだった。

冬の気配を感じさせる冷たい秋風が、ぼろぼろに読み古された新聞紙を弱々しく吹き飛ばす。
「自衛隊の対アンノウン治安出動疑惑」「広がる未確認生命体被害」新聞紙面には、そんなことが記されていた。
色づく街路樹に囲まれた車道を、一両のバイクが走る。それに跨るのは、南光太郎だった。
―――見た感じ、普通の街だな…
光太郎がこの街を知ったのは、テレビのニュース番組がきっかけだった。
この街で起こる連続猟奇殺人が取り上げられ、それに言い知れぬ不安を感じたのだ。
未確認生命体やアンノウンとは違う、もっとどす黒く、そこの見えない闇のようなものを…。
―――俺の気のせいなら良いんだが…
一瞬、歩道の人影とバイクがすれ違う。
白い、人影。
―――なんだ?
すれ違った刹那、光太郎は妙な違和感を感じた。
何の変哲もないこの街の中で、そこだけが「浮いた」ような、
例えるなら、出来の悪い合成写真を見た時のような違和感を感じたのだ。
とっさにバイクを急停止させ、後ろを振り向く。
そこには誰もいなかった。ただ、紅葉が舞い散るだけの歩道が、どこまでも続いていた。

つづく
152名無しより愛をこめて:04/01/18 20:09 ID:sEDe9R/c
光太郎は独自に調査を進めていたが、依然として何の手がかりも掴めないでいた。
そうする内に日は暮れ、街は闇に包まれた。
外気はすっかり冷たくなっていたが、光太郎にとっては大した苦痛ではない。
宿を取る手間を惜しんで、公園のベンチに寝転がる。
改造人間であるが故の、強靭な肉体…以前はそれが、とてもおぞましかった。
子犬を抱いても、普通の人間と同じ感覚で力を入れれば、子犬は簡単に潰れてしまう…。
そんな自分の肉体が、ゴルゴムの醜い怪人と同じとしか思えない時期もあった。
だが、今は違う。
10人の先輩ライダーや幾多の人との出会い、そして別れが、光太郎を強くした。
この体を、力を、正しい道に使うことを、彼らは教えてくれたのだ。
今の光太郎にとって、この体は誇りだった。
暫く休もうと、光太郎は目を閉じる。
そして、夜は更けていく。

つづく
153名無しより愛をこめて:04/01/18 21:01 ID:sEDe9R/c
どこからか、犬の遠吠えが聞こえた。
はぁ、はぁ、はぁ―――
男は、闇夜の路地をひた走る。走り難いスーツのまま、なりも構わずに必死の形相で、走る。
電柱にくくりつけられた電灯が弱々しく光る以外、全くの闇。その中を一人、走り続ける。
はぁ、はぁっ、はぁっ―――
男の後を追うように、電灯が消えていく。闇が、じりじりと迫り来る。
はぁあ、はぁっ、はぁあああああ―――
振り向かずとも、男には解った。
闇が、すぐ後ろにいることが。
そして、闇の中から伸びた腕が、男の首を掴んだ。
獲物に飢えた闇が、その体内に男を引きずり込んでいく。
う、あ、ああああああああああああああああっ―――!
絶叫がこだました。
その時
「とおっ!」
飛び蹴りが闇の腕に打ちつけられ、解放された男は道に倒れこんだ。
着地した人影は、闇に向かいながらも男の方へ目を配った。南光太郎だった。
「大丈夫ですか!」
光太郎の呼びかけに対しても、男はただ怯えるばかり。これでは逃げることも出来ないだろう。
「アクロバッター!その人を安全な場所へ!」
爆音と共に駆けつけたアクロバッターに男を乗せると、光太郎の指示に従ってアクロバッターは走り去った。
154名無しより愛をこめて:04/01/18 21:04 ID:sEDe9R/c
光太郎の対峙する相手は、闇の中で身を潜めていた。光太郎の視角を持ってしても、その正体は掴めない。
ただ一つ、相手が人間ではないことだけは、明らかだった。
―――こいつ…ゴルゴムかクライシスの生き残りなのか…?
身構える光太郎の周囲に、異様な気配が増えていく。辺りの気配に意識を配ろうとした瞬間、光太郎に闇が飛び掛った。
二体、三体、四体…続々と襲い掛かる闇に、光太郎の体が覆われていく。
だが、その攻勢も一時のものに過ぎなかった。眩いまでの光が、強い衝撃と共に闇を吹き飛ばした。
その光の中から立ち上がる、一つの影。太陽の力をその身に湛える、仮面ライダーBLACK RXだ。
RXの目は、光太郎の時よりも鮮明に敵の姿を映し出す。その姿は、人間そのものだった。
だが、それらには決定的に欠けたものがあった。命の息吹が、全く感じられないのだ。
「生きる屍…彼らも犠牲者なのか…」
哀れみの視線を屍達に向けるRX。だが、彼らを放置することは出来ない。
自ら望まずに、偽りの生を与えられた者達。彼らを救うには、方法は一つしかない。
「キングストーンフラッシュ!」
RXのベルトから発せられた太陽の光が、屍達に降り注ぎ、その体を暖かく包んだ。
一瞬、苦しむ素振りを見せた屍達だったが、やがて穏やかな表情を浮かべ、土くれとなって崩れ去った。
「すまない…せめて、安らかに眠ってくれ…」
自分自身への無力感、そして彼らを屍に変えた真の悪への静かな怒りが、RXの胸に渦巻く。

「へえ…変な奴が紛れ込んだみたいね」
離れた家屋の屋根の上から、RXの姿を捉える白い影。
それは暫くRXの四肢を眺めた後、元から存在すら無かったかのように、消えた。

つづく