前回はとうとう、女子小学生まで蜂女に改造してしまった鬼畜王、BeeFreakです。
ええっと、
>>674-679の流れがちょっとビミューなんですが、漏れはまだ、このスレに
書き込みしてもいいんですよね?
どうやら319さん、325さんの新作もまだのようだし、とりあえず、今回もSSをUPさせ
ていただきます。
今までで一番の長編になってしまいました。本当はもっとおとなしい話を書きたかったの
ですが、前回のような動きのある話の方がこのスレの皆さんにはお気に召すようなので、
とっておきのこの話をUPすることにします。
ひたすら長いですが、しばらくお付き合い下さい。しかも、読んでいただければわかる通
り、鬼畜度も群を抜いています。
決してスレ違いの内容にはなっていないと思いますが、今回、メルダンフェル(地獄の蜜)
という組織によって蜂女に改造されてしまうのは、高校生ではなく23歳の女刑事、榊由季
ちゃんです。23歳ですが処女です。いい子です。
それでは。お楽しみ下さい。
東京、六本木。
オープンしたばかりの複合ファッションビル「ラピータ」は、若い女性を中心に、今日も
多くの客でにぎわっていた。カップル、家族連れ、仕事帰りのOLたちの群れ。制服の女
子高生たちの姿も見うけられる。
時計が7時の時報を告げた。すると、カップルで楽しそうに歩いていたひとりの若い女性
が急に立ち止まり、しゃがみ込んだ。
「…ん? どうした梨香子?」彼氏が心配そうに顔をのぞき込む。
女性は無表情のまま身体をガタガタと震わせた。すると、彼女の背中がムクムクと盛り上
がり、ベリッと衣服を切り裂いて、4枚の巨大な羽根が姿を現わした。
「…梨…香子…?」
驚く彼氏を無視して、女性は高くジャンプした。飛びながら衣服を脱ぎ捨て、手や胸を覆
っていた人工皮膚をむしり取った。そしてエントランス広場の中央に立つ時計塔の頂上に、
ふんわりと降り立った。
その姿は、人間のものではなかった。頭部こそ美しい20歳前後の女性のままだが、全身は
濃いブルーの皮膚で覆われ、そそり立った双つの乳房は、蜂の腹部のような黄色と黒の同
心円模様で覆われていた。そして額からは、2本の真っ赤な触角が伸びていた。
「は、は、蜂女だ!!」「イヤーッ!! 殺されるッ!!」
人々の間に、驚愕と混乱の波が広がっていった。女性は群集を見下ろし、よく通る声で叫
んだ。
「このビルは、この瞬間からメルダンフェルが占領しました! 全員その場から動かないこ
と! 逆らう者は容赦なく処刑します!」
蜂女の彼氏だった男が、オロオロと歩み出た。「梨香子ぉ…お前どうしちまったんだよお…」
蜂女はニッコリと微笑み、こう応えた。
「梨香子? それはわたしの昨日までの名前よ。ゆうべあなたと別れた後、さらわれて無理
やり改造されたの。今のわたしは、メルダンフェルの改造人間・蜂女!」
蜂女は、男をキッ、とにらみつけた。胸の同心円がぷるん、と震えたかと思うと、小さな
鋭い針が乳首から勢いよく発射され、男の胸に刺さった。
「梨香子…? う、う、わあああ!!」絶叫と共に、男の身体は泡を立ててグズグズと崩れ始
め、衣服だけを残してすっかり溶けてしまった。
「キャアアアアアッ!!」群集の間に、すさまじい悲鳴が次々と巻き起こった。
同時に、ジリリリリリリ!!!!!と、非常ベルの音がけたたましく周囲に轟いた。
蜂女はその音に顔をしかめると、ふいに舞い上がり、群集の上を滑空した。プス。プス。
プス。溶解毒の針が乳首から次々と撃ち出され、ベルを鳴らした警備員や、ビルの管理職
員たちが、次々と泡を立てて消えてゆく。
群集の狂乱はピークに達した。われ先を争うように出入り口に殺到した彼らの前に、突如
地面から涌き出すように、影のような無気味な人型が幾つも出現した。顔がなく、実体す
らおぼつかないような無気味な影どもは、一人もここから逃がすまいと手を広げて、群集
の前に立ちはだかった。
群集の中に、急にしゃがみ込む女性が何人か現れた。「めぐみ? めぐみ! どうしたの!?」
「おお…美雪…一体どうしたんだい!?」家族や友人たちの呼びかけを振り切って、彼女た
ちは続々と、羽根を広げ、衣服を脱ぎ捨て、蜂女としての正体を露わにしていった。
「…それは昨日までの名前よ。さらわれて無理やり改造されたの。今の私は、メルダンフ
ェルの改造人間・蜂女!」
美しい女性の頭部を持った異形の蜂女たちは、羽根を広げて舞い上がり、群集の上を飛び
交いながら黒い人影に命令した。
「さあ、蟻戦闘員アントロイドたちよ、人間どもを一箇所に集め、素材の選別を開始しな
さい。」
エントランス広場に、ビルのすべてのフロアから数千人の人々が集められた。黒い人影は
その中から、若い女性たちを何人か選んではひきずり出し、ひとところに集めた。OL、
女子大生、女子高生、いずれも素晴らしい美人ばかりだ。
昨日まで梨香子だった蜂女が、群集に冷たく言い放った。
「ここで選ばれた幸運な人たちは、わたしたちと同じ蜂女に生まれ変わってもらいます。
そうでない者は、今ここで、全員処刑します!」
群集の中から、すさまじい、阿鼻叫喚の悲鳴が巻き起こった。「いやああああああ!!!!!」
ガシャーーン!!
その時、ビルのガラス壁を貫いて、発煙筒のようなものが幾つも、外から投げ入れられた。
煙を吸った群集は、バタバタとその場に倒れていった。煙はどうやら催眠剤らしい。飛び
上がって難を逃れた蜂女たちは、ビルの周囲がサーチライトに固められていることを見て
とり、空中で臨戦態勢を取った。
凄まじい轟音と共に、警察が用意した重機によってビルの正面玄関が破られた。盾を持ち、
重武装をした特別機動隊が数百名、一気に内部に突入してきた。SWAT訓練を経た猛者
ばかりの部隊である。
機動隊は、蜂女たちに向かって次々と発砲した。銃弾は幾つも蜂女たちに命中したが、彼
女たちは何事もなかったかのような平気な顔で、機動隊の上を滑空しては溶解毒の針を次
々と打ち込んだ。プス。プス。プス。「ひいい、ぐわわわわ!!」「ギャアアアッ!!」プロテ
クターのすき間に針を打ち込まれた者たちが、次々と溶けてゆく。
機動隊はネット砲を放った。蜂女たちはそれを悠々とかわす。続いて、白い煙をもくもく
と立てる発煙筒のようなものが放たれた。「!?」蜂女たちは顔をしかめ、煙から避けよう
とする。「よし! 忌避剤は効くようだぞ!」
その頃、一箇所に集められた選ばれた美女たちは、周囲を黒い人影によって取り囲まれて
いた。人影の輪郭は少しずつおぼろになり、まるで押し寄せるゼリーのように彼女たちを
包み込んだ。「キャアーーッ!」
彼女たちの足元に、黒い大きな穴がじわじわと開いていった。美女たちはゼリー状物質に
くるまれたまま、穴の内部にズブズブと飲み込まれていった。
美女たちの姿が消えたのを確認した蜂女たちは、機動隊から離れ、群集たちの方に飛んで
いった。そして、彼ら目がけて溶解毒の針を雨あられとばかり打ち込み、そのまま割れた
窓をくぐり抜けて、夜空の彼方へと消えていった。
「…死者566名、うち民間人502名。拉致された者48名。捕縛できた蜂女の数は…ゼロ。
これが昨夜起こった、蜂女による4回目のテロの結末だ。」
一同に会した13名の男女を前に、中谷警視長は吐き捨てるように言った。ここは警視庁の
『改造人間連続テロ事件特別警戒対策本部』の本拠である。誘拐された女性が次々と蜂女
に改造され、テロの実行犯になるという一連の事件に対応するため、各部署のエキスパー
トを集めて2日前に発足したばかりの部屋だ。
「連中に銃は効かない。ネットももはや通用しない。まさに打つ手無しだな。」
庁内でも敏腕で知られる、後藤刑事が嘆息した。
「連中のボディは、外骨格、即ちカラの表面を薄い皮膚が覆っている構造なんですよ。こ
の外骨格ですが、ゆっくりとした外部刺激には人間の皮膚同様の柔軟性を見せるんですが、
銃弾のような速度の早い刺激に対しては、チタン合金なみの強度に変わるんです。我々の
銃弾程度では、かすり傷すら負わせることができません。」
科警研から出向してきた、滑川技官が眼鏡を直しながら答えた。神経質そうなその動作に、
内面のイライラが現れている。
「こないだ冗談で言った、殺虫剤は効かなかったのかい?」これは小男の久保田刑事。
「残念ですが…ピレスロイドはまったく効果無しだったようですね。連中の神経系は昆虫
ではなく人間のものを使っているんでしょう。けど昆虫忌避剤のディートは効いたみたい
ですから、そこから何かのヒントが得られるかも知れません。」
「で、蜂女にされた女性たちの素性は、判明したんですか?」
こう尋ねたのは、警察官2年目の23歳、榊由季刑事だ。警察学校主席卒業のエリートキャ
リア、父親は警視長というサラブレッドである。1年目から石上刑事とのコンビで数々の
殊勲を上げ、今回、本人の強い希望でこの本部に配属されてきた。まだ子供っぽさが残る
愛くるしい顔は、正義感に燃えて紅潮している。
「それは峰くんが調べてくれた。松村くん、説明してくれたまえ。」「はい。」
中谷本部長の指示で、松村沙也加警部補がファイルを広げ、読み始めた。松村警部補は若
干29歳。プリンストン大学ほかで28の学位を取った才女で、容貌、プロポーションにも
恵まれたスーパーレディ。この本部のブレーンである。榊刑事にとっては憧れの先輩だ。
「目撃者の証言を総合しましたところ、最初に蜂女の正体を現わしたのは高木梨香子。21
歳・大学生です。続いて出現した蜂女は年齢順に、坂本千鶴美・28歳・OL。加納純子・
26歳・OL。青木めぐみ・23歳・OL。森下美雪・22歳・家事手伝い。竹内葉子・20歳
・女子大生。畠田由加里・19歳・女子大生。小島美紗・17歳・高校生。以上の8名です。
この中には、過去3回のテロ事件で拉致された者は含まれていません。事件の数日前に人
知れず拉致され、あらかじめ改造されていたものと考えられます。」
「…ここで注意してもらいたいんですよ。」
敏腕だがいつも口数の多い峰刑事が口をはさんだ。
「この中の森下美雪、っていう22歳の女性なんですが、これが筋金入りの良家のお嬢様で
ね。一日一時間、犬の散歩をする以外に外出することが無い、というんですからね。家に
いる間はメイドたちの目が行き届いてます。つまり、彼女が拉致改造されたとしたら、そ
れはわずか1時間の犬の散歩の時間以外にはありえないわけですよ。たった1時間。たっ
た1時間で蜂女への改造は済んでしまうんです。こりゃあ、女性の独り歩きを禁止にでも
しない限り、被害拡大を防ぐのは至難の技ですね。」
「もう! そうやって女性の自由を奪う発想はやめて下さい!」
榊刑事が気分を害したように叫んだ。
「わたしたちが一刻も早く、改造本拠地の場所をつかんで壊滅させればいいんですよ。」
「榊くんの言う通りだ。」中谷本部長が言った。「これ以上の被害者を出さないために、
一刻も早く連中の本拠をつきとめ、壊滅させる。それが我々、特別警戒対策本部の使命な
のだ。」
「はい!」場にいる全員が一斉に応えた。
「それでは、もう一度事件を最初から振り返ってみよう。松村くん、頼む。」
「はい。それじゃひかりさん、映像をお願いね。」「はい。」
松村警部補の指示で、オペレーターの立花ひかり巡査がきびきびと動いて、スクリーンに
投影する映像を用意する。彼女は24歳。情報処理のエキスパートとして本部に配属された、
少しおっとり気味の美女である。
「まずは5日前に東京駅で起こった、最初の事件からね…」
「5日前の11月1日、午後7時45分、東京駅中央改札八重洲口付近で、本庄真由美という
24歳のOLが突然、蜂女に変身し、群集の前に姿を現わしました。目撃者の証言では、自
分は昨夜誘拐されて無理やり改造された、と確かに語ったそうです。蜂女に続いて、蜂女
がアントロイドと呼ぶ影のような人型物体が30体ほど現れ、駅を封鎖し、人質たちの選別
を開始しました。午後8時17分、特別機動隊が突入。民間人176名を含む、235名の犠牲
者を出しましたが、蜂女は空を飛んで逃走。この際、60名の若い女性がいずこともなく拉
致されています。」
立花巡査が映し出す資料映像に合わせて、松村警部補がてきぱきと説明する。
「翌日、11月2日の午後9時5分。さくらテレビ本社ビルにて第2の事件が勃発。徳永り
えという女性アナウンサーが、生放送中、突然蜂女に変身。全国の視聴者に対して、自分
は昨夜メルダンフェルという組織によって誘拐され無理やり改造されたこと、メルダンフ
ェルの目的は改造人間による人類支配であること、そして組織の現在の目的が、改造人間
に仕立てる優秀な素材の確保にあることを、はっきりと宣言しました。ほぼ同時に、TV
局内に侵入していた14体の蜂女が姿を現わしてビルを完全に占拠。この際、ビデオに残さ
れた蜂女たちの映像から、蜂女たちの中には前日東京駅で拉致された女性が、複数名含ま
れていたことが判明しています。蜂女たちはTV局内にいた女性を選別し、ちょうど事務
所の特別番組に備えてスタンバイしていた人気アイドルたちを中心に、タレント、女優、
女性アナウンサーなど、14歳から34歳までの計47名を拉致しました。9時57分、特別機
動隊がさくらTV本社ビルに突入。激しい戦闘の末、蜂女1体を抹殺、3体を捕獲すること
に成功しましたが、残る11体は逃亡。死者は民間人91名を含む、171名に及んでいます。」
滑川技官がここで口をはさんだ。
「…1体抹殺、と言ってもそれは、クレーンの落下という偶然の出来事によるもので、特
機の手柄ではありません。また3体の捕縛も、たまたま油断に乗じてネット砲が効を制し
たわけですが、この方法は以後は通用していません。」
中谷本部長が困ったような身振りで滑川技官を制止し、松村警部補が後を続けた。
「さくらTVはこの事件のために、現在も放映停止状態が続いています。そして翌日の11
月3日、文化の日、午後7時14分。第3の、今度は同時多発のテロ事件が発生しました。
MHKを含みさくらテレビを除いた、在京TV局5社を、47体の蜂女が同時に強襲しまし
た。で、この47体の蜂女というのが…」松村警部補はここでブルッ、と身震いした。
「…前夜拉致された、47名のアイドルやタレントたちの、変わり果てた姿だったわけだ。」
後藤刑事が吐き捨てるように呟いた。
「…その通りよ。突然全国の視聴者の前に、自分のよく知った人物が、それも、自分がフ
ァンだったかも知れない女性が、変わり果てた姿になって登場したのよ。…メルダンフェ
ルという組織の示威行動として、これほどまでに効果的なものは無かったでしょうね。そ
の衝撃は全国で大きなパニックを引き起こし、数箇所では暴動まで起こったと言うわ。」
警部補は気を取り直し、後を続けた。
「この日は同時多発テロで、しかも過去2回の戦闘で特別機動隊が大きなダメージを負っ
ていたこともあって、戦闘はいずれも小規模なものに留まりました。5箇所を合わせての
死者は民間人312名を含む396名。また女性タレントを中心に、123名が新たに拉致され
ました。翌11月4日は、特に動きはなく、翌11月5日、つまり昨日の午後7時00分に、
ラピータビルにおける第5のテロ事件が起こったのはご承知の通りです。まとめますと、
過去4回のテロ事件による死者は民間人1,101名を含む、1,368名に及んでいます。確認
された蜂女の数は全部で71体。事件で拉致された女性の数は278名ですが、これ以外にも
人知れず拉致改造された女性の数は、相当数に及ぶものと思われます。」
「…ご苦労。現在特別機動隊は、300名近い隊員を失い現在大きなダメージを受けており、
隊員の士気の低下もはなはだしいと聞いている。これ以上のテロ活動が続けば、応戦自体
が困難になりかねない。我々警戒対策本部が、一刻も早くメルダンフェルという謎の組織
の本拠地を暴き、その野望を基から叩き潰さない限り、都民は安息の日を迎えることがで
きないのだ。困難も多いだろうが、頑張ってくれたまえ、諸君!」
「了解!」人望の篤い中谷本部長の放った重い言葉に、13名のメンバーは力強く一斉に応
えた。
「…それにしても…」榊刑事が素朴な疑問をこぼした。「誘拐されて蜂女に改造される女
性の基準って、いったい何なのかしら?」
「そりゃ、べっぴんさんばかりを集めてるんだろ?」
榊刑事とコンビを組む、石上大介刑事が茶化すように答えた。ちょっと軽薄な印象のノン
キャリア、42歳。数年前に起きた、民間人の犠牲を出したテロ事件の責任を取って巡査長
の身分に甘んじているが、その実力は庁内でも折り紙付きだ。特にオリンピックにも出場
したという射撃の腕は、警視庁でも1、2を争うものとして定評がある。榊刑事にとって
は頼れる先輩であるが、その軽薄さが時折り鼻につく。
「もう! また石上さん、セクハラ発言!」
「いや、俺ぁマジだよ。なぁひかりちゃん、今までに拉致された女の子たちと、蜂女に改
造された子たちの顔写真を、集めて見せることはできるかい?」
「はい…こうですね。」スクリーンに表示された画像を見て、一同は感嘆の息を漏らした。
「…確かに…こりゃ…すごい美人揃いだ。」「やはり奴さんたち、面食いなのかね…?」
石上刑事が真面目な顔で呟いた。「こりゃ、うちの本部もひょっとすると危ないぞ。何し
ろ警視庁きっての美女が、3人も揃ってるんだからな。」
「もう…!」
榊刑事だけでなく、松村警部補、立花巡査も困った顔でお互いを見つめ合った。
「いや、榊くん。本当に気をつけてくれたまえ。松村くんや立花くんは基本的にここを離
れることは少ないが、きみはいわば、敵のふところに飛び込んでゆくわけだからな。捜査
中はくれぐれも一人にならぬよう、充分注意をするんだ。」
「はい。榊由季巡査、これからは充分注意して行動します!」榊刑事は本部長に敬礼した。
「…面会ですか? ご冗談を。あれは、一般の人間が面会できるようなシロモノじゃありま
せん。」
西都警察病院の敷地内に密かに作られた特別地下病棟。そこには、2回目のテロ事件で捕
獲された3体の蜂女が監禁されている。由季と石上の2人は、誘拐時の手がかりを求めて、
蜂女たちとの面会を担当医師の奈倉に求めたのだった。「…どういうことです、それは?」
奈倉医師は、特別病棟の映像を映し出しているモニターの前に、2人を案内した。
「これが捕獲した3体です。人間だった時は、それぞれ岩崎莉枝子・25歳、野村まどか・
22歳、そして藤島亜里須・17歳という名前でした。」
ベッドが置かれただけの殺風景な部屋の中で、3体の蜂女が無言のままくつろいでいる。
「ここに収容して以来、連中はひと言も言葉を発しません。けれども時折、触角を震わせ
て互いに交信しているようです。どんな手段なのかわかりませんが、ひょっとしたら外部
と連絡を取っている可能性もあります。」
モニターごしであったが、由季は初めて、蜂女というものを間近で見た。無表情だが、格
別美しい女性の頭部を持った3つの生き物。だがそのボディは、確かに人間とはほど遠い
ものだった。黄色と黒の島模様に彩られた双つの乳房は、まるで別の生き物であるかのよ
うに絶え間なく蠢き、膨張収縮を繰り返している。濃いブルーの皮膚はなめし皮のような
光沢を見せており、手首と足先だけが手袋とブーツのような白い色をしている。指先には
爪がなく、また足先はハイヒールのブーツ状に変形している。にもかかわらず、それは明
らかに着衣ではない。全裸であることがわかるのだ。特に由季をとまどわせたのは、彼女
たちの股間だった。毛がすっかり抜け落ちたなめらかな恥丘の中央に、くっきりと溝が刻
まれているのがわかる。しかもそれは、ナメクジのように絶えずヒクヒクと蠕動している
のだ。由季は思わず、顔を赤らめた。
「…まだ驚いちゃいけませんよ。驚くのはこれからです。」
奈倉医師は意地悪に微笑んでいる。
蜂女たちは、水族館で使われるようなぶ厚い強化アクリルで二つに隔てられた、大きな部
屋の一方の側にいる。部屋のもう片側に、奇妙なヘルメットを着用した女性看護士が姿を
現わした。トレーの上に巨大な注射器を3つ、乗せて運んでいる。
「あのヘルメットは何です?」石上が尋ねる。
「連中は、触角から発する何らかの電磁波のようなもので、近づいた人間の脳波をかき乱
して失神させることができるんです。あのヘルメットは、その影響を防ぐためのものです。」
「あの注射器は?」「あれは…連中の食事ですよ。」「食事?」
部屋を隔てるアクリル壁の一箇所に、郵便局の窓口のような細い窓が開いている。看護士
はそこから、注射器の乗ったトレーを蜂女たちに差し出した。蜂女たちはゆっくりと歩み
寄って注射器を手にすると、ベッドに腰かけた。そして、自らの股間に、注射器をゆっく
りと挿入し始めた。
「ん…ああ…」注射器は浣腸等に用いられる、太さ5センチほどの太いものだ。膣の奥深
くまで注射器を差し込んだ蜂女たちは、ゆっくりと、蜂蜜で満たされた注射器のピストン
を押し込み始めた。「あ…あ…ああっ…はあっ!」蜂女たちは顔を紅潮させ、恍惚の表情
を浮かべている。脚をそろえ、大きくのけぞりながら、最後の一滴まで蜂蜜を、自らの膣
の中に注ぎ込んだ。
「…連中はああやって、膣から栄養を摂るんですよ。連中に注射器を要求されて、最初あ
れを見た時は驚きました。死亡した蜂女の解剖の結果、蜂女は人間のような消化器官を持
たないことがわかっています。要するに連中はもう、人間じゃないんです。」
「何て…あさましい…!」石上が苦々しげに呟いた。
由季はおぞましさや恥ずかしさよりも、憐憫の感情をおぼえていた。「可哀想に、こんな
身体にされてしまって…」3体のうちのひとりはどう見てもまだ高校生だ。おそらく処女
だったに違いない。それが、膣に注射器を差し込んで悦びにあえぐという、あさましい姿
を晒していようとは。由季は改めて、メルダンフェルという組織に対する怒りを覚えるの
だった。
「もうおわかりでしょう。連中は人間じゃないんです。これまで色々尋問を試みてきまし
たが、まともな会話になったことはありません。人間だった時の記憶はあるようですが、
極めて強力なマインドコントロールを受けているらしく。人格すら変容しています。残念
ですが、ここはお引き取り願った方がよろしいかと思いますよ。」
奈倉医師の言葉に、由季と石上は互いの顔を見合わせた。
モニター室を出たとたん、奈倉医師は一組の中年夫婦に詰め寄られた。
「先生! うちの娘は、亜里須は、いつ人間に戻れるんですか?」「早く、一日も早く、亜
里須を元の身体に戻してやって下さい。お願いします! お願いします!」
「…ああ、お父さん、お母さん。そんなに興奮なさらないで。我々もいま必死で、その研
究を進めているところです。いつの日か娘さんは必ず、人間に戻れます。それまで、もう
少し辛抱して下さい、ねえ。」
哀れな両親が去った後、奈倉は由季たちに、ボソッと呟いた。
「…無理ですよ。いったいどんな方法で改造したかすら、皆目見当がつかないんです。彼
女たちを元の身体に戻すなど、現代の医学ではまったく不可能なことなんです。」
面会できなかった代わりに、蜂女たちの尋問記録や、改造前の素性データなどを受け取っ
て、由季たちは石上の車に戻った。
資料をパラパラと繰りながら、由季はふと思いついたように運転中の石上に尋ねた。
「…ねぇ石上さん。もしもメルダンフェルの本拠地をつきとめ、そこの科学者を捕縛でき
たら、あの子たちを人間に戻せるかも知れませんよね!」
「そうかもな。それにはまず、彼女たちがどこに、どうやって誘拐されたかを確かめる必
要があるな。」
「…石上さん…」「何だ?」
「お願いがあります。もしわたしが、あんな身体に改造されてしまったら、わたしを遠慮
なく撃ち殺して下さい!」
「榊…お前?」
「お願いします。わたしは、あんな姿になってまで生きていたくありません。」
石上はいつになく真面目な顔で頷いた。「…わかった。必ず楽にしてやる。約束しよう。」
由季たちは、住宅地から区の児童公園へと向かう坂を何度も往復して、丹念に周囲を調べ
ていた。
「今のところ、拉致された場所と時間をいちばん明確に特定できるのはここなんだ。改造
手術に1時間かかると仮定して、11月1日の午後9時から9時15分までの間に、この公
園の付近で拉致されたことは間違いない。」
「でも、ここは夜間でも結構人通りがある場所らしいんですけど、その時刻の不審な車の
目撃証言は、まったく挙がってないんですよ?」
石上は考え込んだ。「待てよ? …俺たちは、娘をさらった車がアジトに向けて逃走したと
ばかり考えているが、ひょっとしたら娘は、この場所から動かなかったのかも知れん。」
「それ、そういうことですか?」
「娘はこの場所で、蜂女に改造されたのかも知れんということさ。いったいどんな方法で
改造するのかわからんが、ひょっとしたら停車中の普通自動車や、ホームレスのテントの
中ででも改造できるのかも知れない。もしそうなら、推理は一からやり直しだ。」
石上はそう言って、タバコを取り出して火をつけようとした。
「あ! ダメですよ石上さん! タバコは、健康に良くありません!」
「またかよ、この小姑が。車の中では我慢してるだろ! こういう時くらい、一本だけでも
吸わせろよ。」
石上は由季から逃げるように、20メートルほど離れた電柱の陰に走り去り、コソコソとタ
バコに火をつけて吸い始めた。その仕種を見て、由季は仕方ない、といった顔で微笑んだ。
煙をふかしながら、石上はふと、由季の方を見た。そして思わず叫んだ。
「榊! 危ない!」
「え?」由季の背後に、いつの間にか、影のような人型が迫っていた。人影は由季に抱き
つき、手で口を覆った。
「ん!…んんん!」人影と由季の足元に、黒い穴がじわじわと開き、由季は人影に抱きつ
かれたまま、穴の内部にズブズブと飲み込まれていった。
“ダメ! 助けて、石上さん! わたし、蜂女に改造されちゃう!!”
「さかきィッ!」石上はとっさに拳銃を構え、人影の頭部を撃ち抜いた。ぺしゃっ、とい
う軽い音とともに人影の頭がはじけ、まるでゼリーのようにくだけ散った。解放された由
季は、あわてて穴から這い出そうともがいた。だが新たな黒い影が2体現れ、背後から由
季に襲いかかった。
「さかきィィィィ! 後ろだァァァァァッッ!」
全力で走りながら、石上は2発目の銃弾を放った。
人影がひとつ、くだけ散った。だがもう一つの影が、由季に飛び掛かり覆い被さろうとし
た。「キャアアアアッ!!」由季は振り向き、胸元のホルスターからとっさに取り出した拳銃
を、無我夢中で撃った。
「…ハァ、ハァ、ハァ」
影は3つとも消え去った。この間わずか数秒の出来事だった。由季は石上に穴から引き上
げてもらい、ようやく人心地をつけることができた。心臓がバクバクと鳴り、今にも胸か
ら飛び出しそうだった。
「危なかったな、榊。」「はい…ありがとう…ございました!」
由季が這い出してきた穴は、徐々に小さくなって、やがて消えてしまった。石上はそのよ
うすを食い入るように眺めていたが、ふと思いついたように由季に呼びかけた。
「榊、ちょっと手を貸せ!」
二人で車に戻り、バールを持ち出してきた石上は、渾身の力を込めて、さっき穴が開いて
いた場所をバールで叩いた。何度も、何度も叩くうちに、アスファルトの表面が少しずつ
へこみ始めた。
「よし! いいぞ!」やがてアスファルトの表面に、ボコッと穴が開いた。石上はポケット
懐中電灯を取り出し、中の空間を丹念に調べた。やがて石上は立ち上がり、由季に向かっ
て言った。
「この穴だ。連中はこの穴を通して、女性たちをアジトまで運んでいるんだ。やつらはゼ
リーのように溶けることができる。誘拐した女性をすっぽりと包み込み、チューブの中を
走る超特急のようにアジトまで運んでいるんだ。」
「…まさか、この穴って、東京中に張り巡らされているんでしょうか?」
「わからん。俺はもう少しこの穴を調べてみる。榊、お前は本部に至急このことを連絡し
ろ。」
「はい! あ、それなら石上さん!」由季は携帯を取り出しながら、ふと思いついたように
叫んだ。「わたし、もう一度さっきの病院に向かいます。この穴のことを、蜂女にもう一
度聞きただしてみたいんです!」
「ダメですよ。危険すぎます!」奈倉医師は強硬に反対した。
「お願いです! どうしても、話をしたいんです!」由季も必死に食い下がる。意地と意地
の応酬がしばらく続き、やがて奈倉医師は諦めたように手を振った。
「それじゃあ、許可しましょう。ただし、不注意なまねは絶対にしないで下さい。連中か
らは必ず、50センチ以上の距離を置いて。連中に何かを渡すとか、受け取るとかは御法度
です。」
奈倉はそう言って、看護士を呼んだ。「三宅くん、脳波遮断ヘルメットをこの人に渡して
やってくれ。」
三宅と呼ばれた美人の看護士が、ヘルメットを由季に手渡した。由季には少し大きめだ。
ベルトを調節していると、看護士は一本の注射器を取り上げ、由季に言った。
「この注射を受けて下さい。蜂女たちは脳波だけでなく、人間の心臓電位にも干渉できま
す。急性心不全を起こさないよう、この注射が必要なんです。」
由季はおとなしく、看護士の指示に従った。
ヘルメットを被り、由季は看護士に案内されるまま、強化アクリルで隔てられた蜂女たち
の部屋に入った。マイクを通して、奈倉が由季に呼びかける。
「いいですか、連中が少しでも妙な素振りを見せたら、即座に面会を中断して戻って下さ
い。」
由季は、椅子に座ってファイルを繰りながら、蜂女たちの中でも最も年長の、かつて莉枝
子と呼ばれていた女性に話しかけた。
「ねえ、あなた? 少し教えてくれない?」
蜂女はフフン、と鼻で笑ったものの、おとなしく由季の前に向かい合って腰をおろした。
「さっき、わたしは穴を見てきたわ。狭くて長い、真っ暗な穴。」
蜂女は妖しい笑みを浮かべている。何を考えているのかわからない。
「そう、あなたが蜂女に改造される前、あなたがさらわれた時に、通ってきた穴よ。…あ
なたは街を歩いていた…そしたら急に、黒い影が襲いかかってきた…黒い影はあなたを包
み込み、あなたは狭い穴の中に引きずり込まれた…そうしてあなたは、メルダンフェルの
アジトに運ばれたのよ。蜂女に、改造されるために。」
蜂女の顔から、次第に笑みが消えていった。
「どう? 思い出したでしょう? あなたの無意識の奥底に、トラウマになって残っている、
人間としての最後の記憶よ。」
蜂女は、真顔で由季の顔を見つめている。
「あなたは…暗い長いトンネルの中を運ばれた。そうして、気がついたらアジトの中にい
た。手術台か何かの上にいた。ねえ、それはどんなところ? あなたはそこで、何を見たの?」
蜂女が、初めて口を開いた。
「…教えてあげてもいいけど…」「…いいけど、何?」「ここじゃあ、嫌。」
そう言って蜂女は、天井の隅にあるテレビカメラを指差した。
「じゃあ、どうすれば話してくれるの?」
蜂女はニッコリ笑い、さっきトレーに乗せて注射器を手渡すのに使った、細い窓を指差し
た。「あそこで、耳打ちしてあげる。」
由季は一瞬ためらったが、やがて意を決した。
「…いいわ。あそこで聞かせてもらいましょう。」
「榊さん! 何をしているんですか! やめて下さい! 危険です!」
マイクから流れる狼狽した奈倉の声を無視して、由季は窓に近寄り、耳を窓のすき間に当
てた。「ダメです! 榊さん! やめて下さい!」
蜂女は、耳打ちするように、アクリル越しに由季に近づいた。蜂女の唇がゆっくりと動き
、由季は耳をそば立てた。
次の瞬間。
蜂女は細い窓から素早く腕を伸ばし、由季の首をからめ取って裸締めに絞り上げた。
同時に、由季を別室から見張っていたモニターの電源がぶつん、と落ちた。奈倉の狂乱し
た声が響いた。
「榊さん! 何があったんですか! 答えて下さい! 榊さん!」
「ウ…グググ…グ」女性の腕とは思えないようなすさまじい怪力だ。由季は身動きひとつ
取ることができない。しまった。甘く見ていた。相手が人間ではないということを、甘く
考えすぎていた。まさかあんな細いすき間から、腕を伸ばすことができるなんて。激しい
後悔に苛まれている由季の前に、ドアを開けて三宅という先程の看護士が近づいてきた。
由季は助けを求めて、看護士に向かって必死に手を伸ばした。
看護士は、ニコニコ笑いながら由季に近づき、そして言った。
「まあ、やっぱりおバカさんね。あれほど注意されてたのに捕まるなんて。」
そして看護士は、手にした電子ロックのキーを使い、部屋を隔てていたアクリルの小さな
扉を開け放った。2人の蜂女が、扉から這い出てきた。
“看護士さん…あなた…一体…?”驚いて目を見開いた由季の前で、看護士はナース服を
脱ぎ始めた。
「わたしが三宅茉莉奈だったのは、今朝までのこと。出勤途中、さらわれて無理やり改造
されたの。今のわたしは、メルダンフェルの改造人間、蜂女!」
ナース服を脱ぎ捨てた彼女の胸には、黄色と黒の同心円模様がはっきりと刻まれていた。
由季を人質に、4体の蜂女たちは扉を開けて廊下に出た。とたんに、駆けつけた奈倉たち
と遭遇した。蜂女たちは眉ひとつ動かさず、乳首から毒針を打ち出した。
「ぐ…がああああ!」奈倉たちはその場にグズグズに崩れて溶けていった。
非常ベルが院内に鳴り響いた。由季を捕らえている、かつて莉枝子と呼ばれた蜂女を除い
た4体は、羽根を広げて院内に散っていった。犠牲者を探しに行ったのだ。莉枝子と呼ば
れた蜂女は、由季をうしろ手に拘束したまま、屋上に向かって歩ませた。病院のあちこち
で、鋭い悲鳴が次々と上がるのがわかる。
5階建ての第2病棟の屋上は、洗濯物でいっぱいだった。蜂女は由季を連れて、警察病院
の周りを取り囲んでいるパトカーの群れを手すり越しに眺め、フフンと笑った。
「見ろ、榊君だ!」「人質に取られてるのか?」
警戒対策本部の仲間が、心配そうに屋上を見上げているのが見える。由季は恐怖を感じる
よりも、自分の立場があまりにも情けなく、どこかに消えてしまいたいほどだった。
「わたしを盾にする気?」
「盾? 違うわ。わたしたちは強いんだもの。そんなもの必要じゃない。これからここに集
まってもらうのは、皆、わたしたちの仲間になる者たちよ。そう、あなたもそのひとりなの。
あなたももうじき、わたしたちと同じ姿になるのよ。」そう言って蜂女は無邪気に笑った。
このままじゃやばい! 由季は必死で拘束を解こうとしたが、蜂女の力は強く、どうするこ
ともできない。
その時だった。バリバリバリバリ、という鋭い轟音とともに、警視庁のヘリコプターが屋
上に接近してきた。とたんに強い風が巻き起こり、羽根を広げていた蜂女は風を避けよう
と思わず身をよじった。一瞬、由季の拘束が解けた。
今だ! 由季は弾かれたように駆け出した。迷っている暇はない。由季は洗濯物の中に突入
し、布団を両手に2枚抱えたまま、手すりを乗り越えた。一か八かだ。運がよければ助か
る。由季は布団を持ったまま、5階建ての屋上から地上めがけて飛び降りた。
バサッ、ドン!!
鈍い音とともに、布団を身体に巻きつけた由季が着地した。頭がくらくらするが、どうや
ら無事のようだ。
「榊くん!」「無茶しやがって! 大丈夫か!」警戒対策本部の仲間が駆け寄ってくる。由
季は立ち上がり、本部長の顔を見るなりワッ、と泣き出した。
「すいません、すいません…わたし!」
「もういい。君は何も言わなくていい。松村くん、榊くんを救急車の中にでも寝かせてく
れたまえ。」
沙也加先輩が、由季の肩を優しく抱きながら、救急車の中の担架に由季を寝かしつけ、毛
布を掛けてくれた。「しばらく、ここで休んでなさい。」
あまりにも多くのことがめまぐるしく起こったためか、身体が熱い。由季はぐったりとな
ったまま、外の音に耳を傾けた。どうやら特別機動隊が投入されたらしい。激しい怒号、
ガラスの割れる音、何発もの銃声。由季の頭は混乱し、何が何やらわからなくなっていた。
ふと、由季は身体に不調を感じた。なんだか身体全体が、むず痒いのだ。特に乳房が、堪
えがたいほど熱くなっている。どうしたんだろう。由季は毛布の中で上着をはだけて、自
分の乳房を見た。そして、愕然となった。
由季の乳房に、いつの間にか黒い同心円の模様が浮かび上がっていた。蜂女と同じ乳房だ。
乳房の周囲の皮膚も、青い色に変色しつつある。由季は血の気が引いた。
嘘。信じられない。蜂女になりつつあるっていうの? いったいなぜ? いつの間に? 由季
にはまったく心当たりが無かった。いや、無かったわけではない。ひとつだけあった。蜂
女に変身した、三宅という看護士に打たれたあの注射だ。あの注射が、自分の身体を蜂女
に変えつつあるのに違いない。いけない。このままじゃ。何とかしなくちゃ。
由季は起き上がり、救急車を出てヨロヨロと仲間がいる方に歩み始めた。とにかく誰かに
見てもらわなければ。そうだ。沙也加先輩がいい。沙也加先輩なら、何とかしてくれつか
も知れない。
力なく歩く由季に、沙也加が気付き駆け寄った。
「由季ちゃん! 駄目じゃない。そんなフラフラで! ちゃんと寝てなくちゃ!」
「せ…先輩…!!」由季はボロボロと涙をこぼした。「わたし…わたし…!」
「わかってるわ。もうしばらく、じっとしてなさい。あと20分もすれば、立派な蜂女に生
まれ変わることができるわ。」
その言葉は、由季を凍りつかせた。「先…輩…? …いったい?」
沙也加はクスクスと笑い、制服の胸元を少しはだけて見せた。黄色と黒の同心円模様が、
くっきりと浮かび上がっていた。
「今日のお昼、食事に出かけた時にさらわれて、無理やり改造されたの。今の私は、メル
ダンフェルの改造人間・蜂女。そしてあなたも、もうすぐその仲間入りをするの。あなた
に注射したのは、人間を蜂女に変えるナノマシンが入った液体なの。あなたは第1号の被
験体なのよ。」
由季は目の前が真っ暗になった。まさか、先輩が…先輩までが蜂女に改造されていたなん
て! 由季の身体はグラリ、とくずれ、沙也加に抱き止められた。気を失ってしまったのだ。
「もう少し、眠っていなさい。ちょっと効きはじめるのが遅かったようだけど、目覚めた
時にはあなたはすっかり、蜂女に生まれ変わっているはずよ。」
この日の、4体の蜂女による西都警察病院におけるテロ事件は、死者488名を数える大惨
事となった。アントロイドによって病院から拉致された女性は11名。4体の蜂女は無傷の
まま、夜の空に飛び去って行った。
警戒対策本部の本拠にも、重苦しい空気が漂っていた。
「結局、忌避剤も効かなかったな。ヘリコプターが起こす風に弱い、というのは発見だっ
たが、そういつもいつも屋上にいてくれるとは限るまい。」
松村沙也加が、由季を連れて部屋に現れた。
「榊、もう大丈夫なのか?」
石上が心配そうに由季の顔をのぞき込んだ。由季は無言のまま、椅子に腰をおろした。
沙也加が尋ねる。「本部長、蜂女関係の資料は、このコンピュータの中と、こちらの書類
ラックで全部なんでしょうか?」
「君が知ってる限りで全てのはずだが…どうして急にそんなことを聞くんだ、松村くん?」
「それは…こうするためです!!」
沙也加が手刀で、立花ひかりの目の前にあったパソコンの筐体を貫いた。「キャーッ!!」
「何をするんだ! 松村くん!」
「もちろん、資料をすべて消し去るためですわ。ここに残っていると、わたしたち蜂女に
とって都合が悪いですから。」そう言って沙也加は、制服の上着を脱ぎ捨てた。蜂の乳房
があらわになった。
「いやーーッ!!」ひかりが絶叫した。刑事たちは反射的に拳銃を構え、沙也加目がけて発射
した。弾は次々とはね返され、跳弾が部屋にこだました。沙也加はニッコリと笑い、かつ
ての仲間たち目がけて溶解毒の針を次々と撃ち出した。後藤が、岸が、中谷本部長が、次
々と倒れてはぐすぐすの泡になって消えていった。
「榊! 何をしてる! 早く逃げろ!」
石上の声に、由季はゆっくりと立ち上がった。そして、制服をバサリと脱ぎ捨てた。
蜂女だった。由季の愛くるしい顔を持った、蜂女がそこにいた。
「…榊! お前までが…!」石上は由季に銃口を向けた。由季と交わした約束が頭をよぎる。
“もしもわたしが蜂女に改造されてしまったら、遠慮なく撃ち殺して下さい”
由季は両手で自分の乳房を掴み、乳首の先を石上の方に向けた。そして、ニッコリと微笑
んだ。石上が知っている、この世で最も愛らしい笑顔だった。
石上の銃口は、由季の眉間を確実に捉えていた。だが、銃弾は発射されなかった。
「榊…!」石上は、銃をがっくりと降ろした。由季の乳首から、毒針が幾つも発射された。
「…さか…き…」石上の身体はポロポロと崩れ、そして消えてしまった。
沙也加はそれを見て、驚いたように言った。「あら、結局撃たなかったのね、石上さん。
この子は少量のナノマシンで身体が変化しただけで、まだ本改造を受けていないから、撃
てばその銃弾でも、致命的なダメージを与えられたかも知れないのに。」
由季もボソッと呟いた。「可哀想な…石上さん」だがその瞳には、どんな感情もこもって
はいなかった。
本部のメンバーが全滅したのを確かめると、沙也加は、机の下に隠れてガタガタ震えてい
た、立花ひかりの腕を掴んで立ち上がらせた。そして、優しく微笑みながらこう告げた。
「あなたはこれから、わたしたちの仲間になってもらうわ。改造手術を受けて、蜂女に生
まれ変わるのよ。」
ひかりは絶叫した「いやあああーーーーッツ!!」
東京の地下、二千メートルの場所に築かれた、メルダンフェルの地下アジト。無数に並ん
だ手術台のひとつに横たわって、榊由季は、完全な蜂女になるための本改造を受けようと
していた。世話役の蜂女がひとり、由季にパイプのようなものを手渡した。先端が男根を
摸して作られたそれは、人間の女性を蜂女に変える改造ナノマシンを次々と供給する、改
造ノズルであった。
蜂女への改造手術は、外科的なものではなく、改造ノズルを女性の膣に挿入し、子宮を経
由して全身に改造ナノマシンを送り込むことによって行われる。その間わずか30分。由季
は脚を広げ、両手でノズルを握り、愛液で濡れ始めている自らの膣孔目がけて挿入する準
備を整えた。
由季は23歳だが、まだ男を知らなかった。学生時代につき合った相手はいるが、最後の一
線を越えさせなかったのだ。ナノマシンの注射によってひととおり改造されているとはい
え、今だ何物も受け入れたことが無い汚れ無き秘裂に、太さ5センチはある改造ノズルを
挿入するのは、女性にとってとても勇気のいることだった。
由季は意を決して、膣孔にノズルの先端を当て、ゆっくりと、だが力を込めて、ノズルを
自らの体内に挿入していった。「ウッ!…痛ッ…アアッ!」処女膜が裂け、蜂女独特の真
っ青な血が手術台にしたたり落ちた。由季は苦痛に顔をしかめながら、それでも挿入の手
を止めることはなかった。先端から20センチほどが体内に消えると、ノズルの途中に付い
ている突起が、由季のクリトリスを両側からはさみ込んだ。いよいよノズルが蠕動を開始
した。ぐおんぐおんと波打っては、由季の膣壁を刺激する。クリトリスがピクピクと刺激
され、えも言えぬ快感が由季の身体を電撃のように貫いた。「あ…あ…ああッ!」由季は
思わずノズルを放り出し、あお向けにのけぞってあえぎ始めた。手が、自然に乳房へと延
びる。由季は自分の改造された蜂の乳房を、両の手で激しく揉みしだきながら、身をくね
らせてあえぎよがった。「あン…あン…はああン…」ノズルの先端から、生暖かい液体が
次々と、由季の胎内に注ぎ込まれてゆく。下腹部に蠢く、今まで味わったことのない不思
議な快感に身を任せて、由季は一匹の牝となり、手術台の上をのたうち回った。
「嫌ッ!いやッ!やめて…助けて!ママ!!」
由季のすぐ隣では、誘拐されてきた立花ひかりの改造手術が、今まさに執り行われようと
していた。2体の蜂女が恐怖に震えるひかりの身体を押さえつけ、別の1体が、改造ノズ
ルをひかりの膣孔に押しつけた。彼女の身体を押えている蜂女は、美人若手女優の羽田あ
きらと、美人アナの瀬戸内結花の顔をしていた。そして改造ノズルを持つ蜂女は、人気絶
頂の巨乳アイドル、笹川ミクの変わり果てた姿だった。
激しく抵抗するひかりの秘孔目がけて、ミクは改造ノズルを無慈悲に突き刺した。
「ひいッ! あッ…痛い痛い痛い!」
ひかりは、既に処女ではなかった。男性経験は2度ほどあった。相手はサークルの先輩だ
ったが、相手を悦ばせる余裕もなく、一方的に突き進んで果ててしまったため、ひかりに
はセックスといえば苦痛と屈辱の印象しか残っていない。あんなに痛くて苦しくて不潔な
ことを、なぜみんな夢中になってしているのかしら? 軽度のセックス恐怖症になったひか
りは、その後5年間、男に身体を許すことはなかった。ほとんど処女のようなものであっ
た。その肉体が、今、妖しく蠕動する悪魔のような改造ノズルによって貫かれたのだ。
激しく泣きじゃくるひかりの胎内に、ノズルは奥深くまで挿入された。ノズルが活動を開
始し、ひかりの全身にこれまで味わったことがない、快楽のパルスを送ってゆく。
「あ…あ…あああ…うわあっ!」ひかりはノズルを両手で掴み、膣から引き抜こうと必死
になったが、ノズルは奥深くまで挿入されたままびくともしない。やがて絶え間なく打ち
寄せる波のように押し寄せる快楽に負けて、ひかりはのけぞったまま、腰を浮かせて打ち
揺すりながら、色っぽい嬌声をあげ始めた。
「あうン! あうン! はうッ!はうッ! アッ、アッ、アアアッ!!」
由季とひかりの周囲でも、拉致されてきた女性たちが、続々と改造手術を受けていた。あ
ちこちで響いていた苦痛と恐怖の悲鳴が、徐々に、喜悦と快楽の嬌声へと置き換わってい
った。
…30分後。すっかり改造を終え、新しく生まれ変わった蜂女たちが手術台から次々と起き
上がった。由季は自分の膣から、改造ノズルをずるり!と引き抜いた。トロリとした液体
が糸を引いて流れ、手術台の上にこぼれ落ちた。由季は自らの愛液で濡れたノズルの先端
を愛おしそうに眺め、それから、それを口にふくんで嘗め始めた。隣の手術台では、すっ
かり蜂女の姿になったひかりが、改造手術の余韻をもっと味わいたいといったように、既
に動きを止めた改造ノズルを両手で握り、膣にくわえ込んだまましきりに激しいピストン
運動を行っていた。やがて2人の目が合い、由季とひかりはお互いに妖しく微笑み合った。
メルダンフェルの地下アジトにある広大な広間に、これまでに改造された160体の蜂女た
ちが集められた。彼女たちの頭上にある巨大スクリーンに、男とも女ともつかない、奇妙
なシルエットが映し出された。メルダンフェルの支配者『大帝』である。
居並ぶ蜂女たちに、長さ15センチほどの、白く細長い卵のようなカプセルが2個ずつ配ら
れた。
『大帝』が、優しく威厳のある声で蜂女たちに告げる。
《今日はいよいよ、我がメルダンフェルの蜂女計画が本格的にスタートする、記念すべき
日です。先程お前たちに手渡したカプセルには、お前たちの乳首の針に仕込み、打ち込ん
だ相手を約半時間で蜂女に変えてしまうことのできる、改造ナノマシンが詰まっています。
昨日、女刑事を相手に行った人体実験で、その効果は立証済みです。お前たちはこれから
都内全域に散り、この改造同化針を使って、仲間をどんどん増やしてきなさい。今日一日
で、1万人を越える蜂女が誕生することでしょう》
蜂女たちは手にしたカプセルを、自らの膣の中に挿入し始めた。膣から補給した毒針は、
自動的に蜂女の両の乳首に装填されるのだ。
「んッ…ああッ!」甘い溜め息とあえぎ声が、あちこちから漏れた。
《ただし気をつけなさい。同化針は片側の乳房に44発ずつ、全部で88発しかありません。
どの女性を仲間に迎え入れるか、よく考えてから撃たねばなりません。どういう相手を狙
えばいいか、おわかりですね?」
蜂女たちは一斉に頷いた。
《では行ってらっしゃい。可愛い子供たち。帰ってくる時、仲間が100倍近く増えている
ことを期待していますよ》
かつて榊由季だった蜂女は、羽根をはばたかせ、都内にあるミッション系女子校を目指し
た。生徒が美少女揃いなので有名な学校だ。
空から校舎に取りつき、窓の外からそっと内部を伺う。ホールの中ではちょうど、全校生
徒が揃っての礼拝が行われているところだった。
ガシャン! 天窓のガラスを破り、由季は少女たちの前に降り立った。蜂女に生まれ変わ
った肉体を、誇らしげに披露する。
「キャーッッ!!」「は、は、蜂女よ!!」「早く逃げないと改造されるわ!!」
生徒たちはパニックになり、われ先に出口目がけて殺到した。
由季はニッコリ笑って、宙に舞い上がり、あわてふためく少女たちの上を何度も滑空して、
目星をつけた美少女めがけて同化針を、乳首からプス、プスと次々に発射した。元警官だ
けあって射撃の狙いは極めて正確。狙った獲物は決して逃がしはしなかった。針を受けた
少女は昏倒し、地に倒れ伏したままうめき声をあげるばかりだ。
教師やシスターたちも、混乱して右往左往していた。由季は彼女たちの前に舞い降り、そ
の中の数名を選んで針を打ち込んだ。
「今、私の針を打ち込まれた者は、30分後にわたしと同じ、蜂女として生まれ変わります。
選ばれた幸運に感謝しなさい!」
「い、イヤーッッ!! ねぇ、るみか、るみかってば! しっかりして!」「ねえ起きて、起き
てよ沙菜!」「ダメよ唯、蜂女なんかにならないで、お願い!!」
友人たちの願いもむなしく、昏倒した少女たちの身体はみるみるうちに変貌してゆく。
由季は、いち早くホールから逃れた者を探しに、天窓から外に出た。触角を震わせて少女
たちの居場所を探る。「見つけた♪」校舎の影に隠れてガタガタ震えていた少女の前に降
り立ち、針を打ち込んだ。運動場を横切って逃れようとした少女の上空から、針が襲いか
かった。体育倉庫の中に潜んでいた少女をひきずり出し、針の洗礼を施した。
“これで88発。ふぅ…全部使い切っちゃったな”
パトカーのサイレンがけたたましく響いた。校舎を取り囲むように待機する特別機動隊の
中に、由季はかつての父親、榊警視長の姿を見つけた。“え…お父さん?”
由季は機動隊から自分の姿がよく見えるよう、正面庭園の中央にある時計塔の上に降り立
った。
「おお…由季…なんて姿になってしまったんだ…」
父親の声を聞いた由季は、誇らしげな声でこう叫んだ。
「榊由季? それは昨日までの名前よ。昨日、騙されて無理やり改造されたの。わたしはも
う、人間じゃない! 今のわたしは、メルダンフェルの改造人間・蜂女!!」
そい言い放つと同時に、由季は父親目がけて溶解針の雨を放った。
「榊部長、危ない!!」父は逃げなかった。娘の放った毒針を全身に受け、そのまま崩れるよ
うに溶けてしまった。
「う、撃て!」一斉射撃が始まった。由季は銃弾を意に介せず、機動隊の上を滑空しては
彼らの上に溶解針を、雨あられと降り注いだ。
“…そろそろ、仲間たちが目覚める頃ね”
由季の予想通り、ホールや廊下に横たわっていた、針を打ち込まれた少女たちが、無表情
で次々と起き上がった。友人たちの驚きを尻目に、彼女たちはセーラー服を脱ぎ捨て、羽
根を広げ、蜂女に生まれ変わった肉体を誇示した。
あわてて逃げ出す友人たち目がけて、生まれたばかりの蜂女たちが毒針を発射する。
「やめて! 和美!やめてよ!私がわからないの!?」「お願い! 美帆! 元に戻って! お願
い!」校内は、いたるところ阿鼻叫喚のるつぼと化していた。
ようやく混乱が静まった頃、由季の周りに、生まれ変わったばかりの蜂女たちが、続々と
舞い降りてきた。“ちゃんと88人、いるわね。それじゃあ、あなたたちをアジトに案内す
るわ。あなたたちはそこで本改造手術を受けて、完全な蜂女に生まれ変わるのよ!”
少女たちは一斉に頷いた。由季を先頭に、89体の蜂女たちが空に舞い上がった。
由季たちは、東京の空を滑空していた。都内のあちこちから、たくさんの蜂女たちが舞い
上がり、空を黒々と染めていった。その数は、1万体を優に越えているだろう。
由季たちは、東の空に向かって滑空を続けた。積乱雲の中に隠された、地底へのワープル
ート目指して飛行を続けた。
どうやら、自衛隊と戦闘を行った蜂女たちがいるらしい。繁華街の真ん中に、自衛隊のヘ
リコプターが墜落してもうもうと黒煙を上げている。
今日、都内全域で1万体を越える蜂女が誕生した。明日は、全国でもっとたくさんの蜂女
が誕生することになるだろう。そして明後日は…。由季は、胸が高鳴るのを覚えた。改造
人間が人類を支配する理想の世の中が、間もなくやって来る。その日が来るのが今か今か
と待ち遠しい。
由季の隣に、かつて松村沙也加だった蜂女と、立花ひかりだった蜂女が肩を並べて飛んで
いる。由季は、いや、かつて由季だった蜂女は、ニッコリと微笑んで彼女たちに手を振った。
(おわり)