498 :
ぽち2号 ◆W3Dalda6Ig :
潮に濡れた砂を巻き上げながら、ビオプランターは突き疾った。
目指すは正面にいる、緑色の怪人。
カマキリジークは不気味に鈍く光る両手の鎌を震わせ、迎え撃つ
態勢を見せた。そのようすからは、これまでの戦闘で傷を負ってい
るとは思えない、鋭く強い気迫が溢れ伝わってくる。
ダルダは太股でビオプランターのタンクをやや強く挟み込み、体
勢を崩さぬよう構えながらも、さらにアクセルを開く。
「ビオちゃん、行くよ」
「OK!」
ビオの返事とともに、エンジン音が甲高く跳ね上がった。
同時に、ダルダの全身が光り輝いた。
眩く白い光の中で、紫の体が青みを増していく。そのシルエット
も同調するように変化した。
サファイア・フォームだ。
499 :
ぽち2号 ◆W3Dalda6Ig :02/12/12 11:43 ID:/aLsEZTk
ダルダはベルトのステッキを抜き取ると、サッと斜め下に構えた。
「サファイアフルーレ!」
鋭い叫びを受けて、ステッキは青い輝きをまとって、くんと細く
伸び、レイピアを形成した。
彼我の距離が、急速に狭まっていく。
その時だった。
カマキリジークの背が、バッと開いた。
現れた羽が、激しく羽ばたく。
直後、カマキリジークの身体がグンと宙に舞った。
そのまま、ダルダの頭上を飛び越えようとする。
「ッ!」
ダルダはとっさに、サファイアフルーレを振り上げた。
しかし。
「甘いッ!」
カマキリジークの低く強い声とともに、二本の鎌が一閃した。
一方はサファイアフルーレの切っ先を軽やかに弾き、もう一方は
ダルダの頭頂を狙った。
「クッ!」
ダルダはとっさに頭を脇へと振り、襲い来る鎌を避けた。
だが、それが災いした。重心が崩れたのだ。
ハッと気付いたときには、ビオプランターのタイヤは砂上を斜め
に滑っていた。
慌てて片足を突き出し、それを軸にして勢い殺さず、そのまま車
体をターンさせた。
しかし。
「海だ!」
ビオの声に、ダルダは視界を巡らせた。
──海上に、カマキリジークの飛び去っていく姿がある。
500 :
ぽち2号 ◆W3Dalda6Ig :02/12/12 11:44 ID:/aLsEZTk
「この勝負、ひとまず預ける」カマキリジークの声が、波の音を踏
み分けるように響く。「この次はダルダ、お前が傷を負う番だ!」
ダルダは去っていく相手の姿を見据えながら、サファイアフルー
レを握る拳を震わせた。
「ビオちゃん! ビオプランターは泳げないの!?」
「お、泳ぐ??」
「だって、このままじゃ……ここで逃がしたら、またみんなが襲わ
れちゃうよ!」
リカの悲痛な叫びに、ビオはなぜか、幾分弱々しく答えた。
「方法がない訳じゃないけど」
「けど?」
「人間界でそれをすると、ボクの力、かなり使い切っちゃうんだ。
だから、その方法を使うと、しばらくはビオプランターになれなく
なってしまうかもしれない」
「それでもお願い。その方法を! ちゃんとここで仕留めるから!」
「……わかった!」
返事と同時に、ビオプランターの車体が、黄金色に輝いた。
501 :
ぽち2号 ◆W3Dalda6Ig :02/12/12 11:44 ID:/aLsEZTk
ボディが幾分宙に浮き、前後のタイヤが吸い込まれていく。
フォークが伸び、展開され、蹄のような先端を見せる。
カウルの中からは、前方へ向けて頚のようなものが姿を現した。
──そして。
「う……馬!?」
ダルダがさすがに、素っ頓狂な声をあげた。しかし
「驚いてる暇なんてないよ! あいつを追いかけるんだろ!?」
言うが早いか、馬の四肢が砂を蹴った。
そのまま波を蹴り散らし、沖へと向かっていく。
「しっかりつかまってて!」
鋭く言われて、ダルダはうんとうなずいた。
その間にも、どんどんと沖へ踏み入っていき……そして。
「お、泳いでるっ!!」
まさに海中で、四肢が水を掻いていた。
前方ではカマキリジークがそれに気付いたか、ふいに振り返った。
「バ……バカなっ!?」