平成ライダーに昭和ライダーが出る話を考えよう!

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509『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA
「此処は……何処だ?」
彼の意識は、混濁していた。
それが思考を司る電子回路の摩耗によるものか、それとも彼の脳を支配している「蟲」が衰弱している
ためなのかは定かでなかった。ただ、想像を絶する体験がこの混乱をもたらした事だけは確かだった。

彼はこれまで、いずことも知れない次元の狭間を彷徨い続けていた。
身体に組み込まれた瞬間移動装置は、まったく反応を示さない。
それは、あまりにも怖ろしい事実を物語っていた。
大首領の危機を救うため、彼が最終決戦の場に向かったまさにその時。瞬間移動装置を管理していた
マザーコンピュータが停止したのだ。そして、それはすなわち大首領の死−−彼が属していた組織が
地上から永遠に消滅した事を意味する。
(俺は、敗れたのだ−−戦わずして敗れ去ったのだ)

彼がこの歪んだ牢獄に囚われていた間にも、地上では幾度もの激しい戦いが繰りひろげられていた。
平和を脅かす侵略と破壊、それに立ち向かう仮面の戦士達。
尽きることのない死闘によって次元は軋み、やがて綻びが生じた。
そして−−彼は再び、この地上に帰還したのだった。
510『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA :02/11/08 02:10 ID:fCedRPqA
洞窟を徘徊するうちに、彼はやがて奇妙な場所へと辿りついた。
狭い部屋に鎮座している、円柱状の電子頭脳。大首領が操っていたマザーコンピュータの残骸である。
崩壊した基盤の隙間から、彼は小さな円盤を摘みあげた。
組織の紋章が刻まれたペンダント。
彼は、吸い寄せられるようにペンダントを眺め続けた。
最高幹部の証……裏切者の処刑……ペンダント奪回の指令……そして、組織の命運を賭けた最終決戦。
やがて、彼の記憶はひとつに繋がった。
「そうだ、此処は……俺の城だ」
時の流れは、あまりにも残酷な現実を彼に見せつけた。
蔦や苔に侵食され、完全に廃墟と化した秘密基地。再生手術を施される予定だった同胞達の屍体は
そのまま無惨な鉄屑となって朽ち果て、無言のまま最高幹部の帰還を出迎えていた。
呼び声に応える戦闘員の一人すらいない無人の洞窟で、彼は吼えた。
「俺は、この屈辱……決して忘れぬぞ!」
鋼鉄の鋏が打ち震え、真紅の瞳が妖しく燃えあがる。
「俺は……ブラックサタンの最高幹部、デッドライオンだ!」
511『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA :02/11/08 02:11 ID:fCedRPqA
ギィィアァァァ……ギィィアァァァ……。
邪悪な唸り声をあげて迫りくる鋼鉄の獅子。応戦する警官隊の銃弾は特殊合金の皮膚にことごとく阻
まれ、血塗られた鋏が振りあげられるたびに一人、また一人と警官が倒れていく。
「…こちら栃木県警…未確認生命体事件発生……至急応援願う! 繰り返す…こちら…うわぁぁっ!」
無線にしがみついた刑事ごとパトカーを放り投げ、デッドライオンは悠然とバリケードを突破した。
(人間どもは、あまりにも弱すぎる)
かつての彼は、脆弱な人間を踏みにじるのが堪らなく愉快だと思っていた。
しかし、すべてを失った孤独な獅子にとっては警官隊相手の戦いなど退屈な遊戯でしかなかった。
戦闘員の相手すらつとまらないただの人間どもと戦うことに、何の価値があるだろう。
(地上では、どれほどの時間が流れ去ったのだろうか?)
(ライダーストロンガー、ジェネラルシャドウ−−奴等、好敵手はいまだ世に在るだろうか?)
(もし、もはや大首領の復讐も叶わず、人類征服の野望も潰えたとすれば−−)
(俺はいったい何のために生きていけばよいのか?)
サタンのペンダントを握りしめ、デッドライオンは自問自答を繰り返す。
(俺は−−戦わずして敗れ去った)
次元の狭間で噛みしめていた悔しさが、いつしか強敵を求める気持ちへと変わっていた。

戦闘に対する餓えを満たすことも出来ぬまま、さすらい続けるデッドライオン。
(そろそろ、東京だな……エネルギーを補充しなければなるまい)
黄金のたてがみを揺らして獅子が向かった場所は、関東一円に電力を供給する変電施設であった。
512『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA :02/11/08 02:12 ID:fCedRPqA
(妙だな?人間どもの抵抗がまるでないとは)
デッドライオンは首をかしげた。これほどの重要施設に侵入したにも関わらず、警備員の一人にも
出逢わないというのは不自然すぎる。周囲を警戒しつつ、変電室へと向かう。
やがて、彼の瞳に奇妙な物が映る。
細く開いた変電室の扉、その隙間から覗いているのは−−横たわる人間の脚だ。
数えきれぬ屍体の山を築いてきた彼は、一目でそれが既に息絶えた警備員であることを理解した。

そっと扉を開いたデッドライオンが、思わず息を飲む。
異様な男が、其処にいた。変電器の高圧ケーブルで自らの肉体を縛り、凄まじいまでの電流に耐え
抜いている男。纏っている軍服を焦がし身体を震わせるほどの高圧電流を浴びながら、彼の表情は
苦悶を超越した不敵な笑みを浮かべていた。
「貴様……人間ではないなァッ!?」
自分たち奇っ械人ならばともかく、普通の人間になせる所業ではない。恐怖にも似た感情を抱きつ
つも、声を荒げて詰問するデッドライオン。男はゆっくりと視線をあげ、その姿を視界に捉える。
「リントの戦士か……ギジャ、ダザンビンギョグバ?」
未知の言語で呟く軍服の男に、デッドライオンは奇襲を仕掛けた。
ケーブルを引きちぎり、振りおろされた巨大な鋏を素手で受け止める謎の男。
「やるな! ……俺はデッドライオン、ブラックサタン最高幹部!」
「ゴセパ、ザバギンバシグラ…ゴ・ガドル・バ!」
男の身体が、漆黒の外骨格に包まれていく。
513『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA :02/11/08 02:15 ID:vJcSb9ey
漆黒の怪人は、ゆったりとした構えをとった。
「俺の実力を、推し量ろうというのか?」
面白い。鋼鉄の獅子が襲いかかる。素早い動きで繰り出される鋏。ガドルの甲殻化した腕が殴りつけ
られるたびに、激しく火花が散った。グロンギ族最強の戦士は、この猛攻を最小限の動作だけで捌い
ていた。間合いを支配され、デッドライオンは必殺の一撃を与えることができない。
だが、彼の内心にはその苛立ちよりも、強敵を獲たことに対する悦びが強く沸き上がっていた。
攻撃を叩き込みながら、一瞬の隙を窺う。
そして−−ガドルが、わずかに体勢を崩した。
無敵を誇る肉体といえども、変電室での荒行で蓄積されていたダメージは少なくなかったのだ。
その好機を逃さず、デッドライオンは一気に攻勢に出る。
「ゆけぃ!デッドハンドよ!」
掛け声とともに右手首が離脱し、宙を舞う。巨大な鋏はガドルの喉元を捕え、ぎりぎりと締めあげた。
しかし次の瞬間−−ガドルの瞳が紫に輝き、裂帛の気合とともにデッドハンドを引き剥がす。
慌てて腕を回収したデッドライオンの眼前に、ボウガンのような武具を構えたガドルの姿があった。
瞳の色は、鮮やかな碧。ボウガンから疾風の弾丸が射出された。
「ふん…甘いわァッ!」
右腕を振るい、空気弾を払い落とすデッドライオン。間合いを詰め、拳を叩きこむ橙の瞳のガドル。
制御盤に吹き飛ばされたデッドライオンの口から呻きが漏れる。
「これまでか? 異種族の戦士。」
大剣を構えたガドルが、悠然と歩を詰めていった。
514『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA :02/11/08 02:16 ID:vJcSb9ey
制御盤にめり込んだデッドライオンが、よろめきながら上体を起こす。
その時、胸にさげたペンダントが微かに振動した。キィィィィン−−次第に高まる振動音とともに、
ペンダントが発する妖光がデッドライオンの姿を鮮血の色に染めていく。
(デェッドライオン!)
聴こえるはずもない大首領の声を耳に、手負いの獅子は立ちあがった。ノイズ混じりの歪んだ視界に
浮かぶのは、漆黒の甲冑を纏った戦士。機械の頭脳はその姿に仇敵の幻を見たのだろうか。
「……ライダァァァッ!」
絞り出すような雄叫びをあげ、デッドハンドを放つ。
大剣の一振りで巨大な鋏を弾き返したガドルはそのまま高々と振るった剣を地に突き立てた。
その衝撃波は地疾りと化し、コンクリートの床を噛み砕きながら獲物目掛けて突き進んでいく。
同時に、デッドライオンも切り札を放った。たてがみが頭部から離脱し、宙を舞う。
特殊金属の繊維で編まれたたてがみは、無数の鋼線となってガドルの五体を縛りあげた。
そして−−地疾りが炸裂した。
515『獅子の最期』 ◆TiDEAD3eoA :02/11/08 02:17 ID:vJcSb9ey
ギィィアァァァ……
爆煙の中から立ちあがったデッドライオンは、無惨な姿を呈していた。
装甲は剥がれ、露出した電子回路は火花を噴いている。自慢の牙は何処かに吹き飛んでいた。
それでも、ぎこちない歩調で進むデッドライオン。その身体を支えるものはペンダントの妖光に喚び
覚まされた妄執か、それとも勝利を求める本能なのか。
粉砕されたデッドハンドを左手で掴み、狂気の獅子はただひたすらに敵を殴り続ける。
身動きのとれぬまま、ガドルはただ黙してデッドライオンの殴打を受けていた。
闇雲なその打撃は、もはやガドルにとって児戯に等しかった。重量こそあれ、熟練の闘士に致命傷を
与えうる攻撃ではなかった。それでもなお、憑かれたように殴り続ける姿は哀しくすらあった。

ガドルはゆっくりと息を吸い、精神を集中した。

鋼糸に包まれた身体に、かすかな燐光が浮きあがる。ちりちり、と特殊金属の繊維が焦げていく。
そして−−すべては一瞬だった。
ガドルが凄まじい気合を込めて息吹を発する。蒼白い雷撃の炎が全身を駆け巡り、呪縛の糸を跡形
もなく灼き尽くす。カッと見開かれた両瞳が黄金に輝き−−
電光を纏ったガドルの拳は、獅子の胴体に深々と突き刺さっていた。
両断されたペンダントが床に墜ち、乾いた音をたてる。

獅子は、頽れた。忠誠を誓った組織への万歳を叫ぶこともなく、ただ静かに倒れた。
すべてから解き放たれた戦士の亡骸が其処にあった。ガドルは黙したまま、その姿を一瞥した。
やがて起きた爆発を背に、ガドルは再び振り返ることなく去っていくのだった。 

                                     (了)