【勝手に】仮面ライダー龍騎EPSODEFONAL【補完】
「蓮ッ!蓮ッ、しっかりしてよおッ!!」
現実世界に戻ると、優衣が半分泣き出しそうな表情で、蓮に取り縋っていた。
蓮はきつく目を閉じてクルマのバックシートに横たわり、荒い呼吸を繰り返していたが、
震える手を伸ばすと、優衣の細い背中を優しく叩いた。
「大丈夫だ…泣くな、優衣……」
それから薄らと目を開け、その場に立ち尽くしている真司に気づくと、
口許を歪めて、皮肉っぽく呟いた。
「まさか、お前に殺られるとは、思ってもみなかったぜ、城戸……」
「ヤなコト言うなよッ、不可抗力だろッ」
唇を尖らせながらも、真司は蓮に駆け寄り、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「蓮…」
「何だよ…お前までそんなカオするコトないだろうが……」
「だッ…だってッ……」
涙声で言葉を詰まらせる真司の顔を見上げて、蓮は淡く微笑む。
「斬られたのは腕だぜ…?大丈夫だ、大したコトはない、安心しろ」
「でも、出血が酷いからね。病院に行って、ちゃんと診て貰ったほうがいいよ」
不意に背後から掛けられた声に、真司は弾かれた様に振り返り、蓮は繭を寄せる。
そこには、ほっそりと華奢な体躯を黒い衣服で包み、明るい茶色に染めた長い髪を風に揺らめかせた青年が立っていた。
その声が、先刻ミラーワールドで自分たちの危機を救ってくれた謎の戦士のものであること、
そして、その姿が、墓地で擦れ違った女性のものであることに、真司は驚愕の色を隠せない。
(男…だったのか……)
だが、女性と思い込んでしまったのも無理はない、と思えるほどに、青年は甘く整った顔立ちをしていた。
大きな瞳を縁取る睫は長く、透ける様に白い頬に、蒼い翳を落としている。
その所為か、幼いともいえる容貌の割に、何処か寂しげな雰囲気が漂っていた。
「君、悪いけど、これで彼の傷口を縛ってくれないかな」
その形の良い唇に穏やかな微笑を浮かべながら、青年は手にした数枚のタオルを真司に向かって差し出した。
手渡されたそれの柔らかな感触に、真司は我に返り、慌てて蓮に向き直る。
「蓮くん、だっけ?服、自分で脱げる?無理だったら、そのままでいい」
顔を顰めながらTシャツの裾を捲り上げ、袖から抜き出された蓮の右腕には、
ドラグセイバーの鋭い刃に切り裂かれ、鮮血を噴き出す傷が、ぱっくりと口を開けていた。
それを見て、優衣は顔を引き攣らせ、真司は思わず目を伏せて、唇を噛み締めながら俯く。
「ごめん…蓮…」
「謝るのは後にして。そのタオルで傷口の少し上…腕の付け根を縛って。少しキツいくらいでいい」
青年に促され、真司は震える手で、彼の指示通りに蓮の右腕にタオルを巻きつけ、その両端を強く結んだ。
「取り敢えず、これで出血は治まる筈だから。後は病院で処置して貰ってね」
「あッ、有り難うございましたッ」
滲んだ涙の雫を指先で拭いながら、優衣は深々と頭を下げた。だが、蓮はゆらゆらと首を横に振った。
「病院には行かねえ」
「蓮ッ?!」
「嫌いなんだ、病院。どうしてこんな怪我をしたのか、説明すんのも面倒臭いし。……それより、お前」
顔を上げて、蓮は青年を睨みつける。
「一体、何者だ?神崎が選んだ、新しいライダーか?だったら…やろうぜ」
「なッ、何言ってんだよ、蓮ッ?!この人は、俺たちを助けてくれたんだぞッ?!」
「助けてくれと頼んだ覚えはない。お前は黙ってろ、城戸」
「蓮ッ!」
カードデッキを取り出そうとする蓮の左手を優衣と2人で必死に抑えながら、真司は青年を振り返る。
今の蓮の状態では、あの見事な剣技を誇る青年に勝てる筈もない。
どうか、蓮の挑発に乗らないで欲しい、と、真司は祈る様な思いで青年を見遣った。
「…悪いけど…僕は君と…いや、君たちと戦うつもりはないよ。それに」
青年は困った様に細い肩を竦めて苦笑いながら、ゆっくりと蓮に歩み寄った。
そして、その優しげな風貌と口調とを厳しいものに変えながら、徐に、蓮の目前に己が右腕を突き出す。
「病院には、必ず行って。僕みたいになりたくないなら、ね」
蓮だけでなく、真司と優衣も、思わず息を呑む。左手でシャツの右袖のボタンを外し、
袖口を口に咥えて捲り上げた青年の右腕には、あるべき筈の肘から先の部分が無かった。
言葉もなく自分の右腕を凝視する3人に、青年はシャツの袖と口調を元に戻しながら、柔らかく微笑む。
「解かったら、早く行って。さあ」
「あッ、あのッ」
踵を返しかけた青年の背に、いち早く動揺から立ち直った真司の声が飛ぶ。
眉を潜めて怪訝そうに振り返った青年は、その大きな瞳を瞬かせて、真司を見た。
「あんた…先刻、墓地で会った…よな?」
「…それがどうかした?」
妙に固い声と表情で、青年は答える。
「手塚の墓に花を供えてくれたのは…あんた、なのか?手塚とは…その…どういう……」
「昔の知り合いさ」
真司の問いを、冷たいとも思える態度で素っ気なく遮ると、青年は再び背を向けた。
だが、真司にはその背中がやけに小さく、寂しそうに見えた。
緩やかなカーヴを描く坂道を、青年はゆっくりと歩いて下っていた。
利かん気の強そうな、蓮、と呼ばれていた彼を病院に行かせる為だったとはいえ、
この右腕を見せてしまったのは、少々悪趣味が過ぎたかな、と、
3人の驚愕の表情を思い返し、青年は苦笑する。
いつもは義手を着けているのだが、今日ばかりは、在りのままの姿の自分でいたかったのだ。
大好きだった“彼”に逢いにいく、この日だけは。
(海之……)
自分の代わりに望まぬ戦いの中に身を置き、逝ってしまった親友のことを思う。
本当なら、戦って死ぬのは手塚ではなく、自分だった筈だった。
あの時、神崎士郎の誘いに応じていたなら、カードデッキを受け取っていたら、
こんなにも早く手塚が逝くこともなかった。今でも、生きて、幸せに暮らしている筈だった。
手塚から未来を奪ってしまった、という苦い後悔が、青年の胸を衝く。
(僕は…馬鹿だ……自分のことしか考えずに…きみを……)
その時、1台のクルマが青年の目の前で停まった。助手席側のウィンドウが開き、
メタルフレームの眼鏡を掛けた、神経質そうな細面の中年男性が顔を覗かせる。
「やはりここでしたか」
「…教授(せんせい)…」
その男性は清明院大学教授・香川英行であった。
運転席では、香川の研究室で助手を務めている学生・東條悟が、いつもの仏頂面でハンドルを握っている。
香川は後部座席のドアロックを外すと、青年に、クルマに乗るように促した。
「先刻の戦闘の映像データ、届きましたよ。いや、実に見事な戦い振りでした」
「いえ……」
シートに凭れ掛かりながら、青年は睫を伏せる。
「すみません、黙って出掛けたりして……」
「構いませんよ、今日は彼の…仮面ライダーライアの月命日でしょう?
君と彼は親友同士だったと聞いていますから」
「僕の親友は、手塚海之です。ライアじゃない」
香川の言葉を、らしからぬ強い口調で遮ると、青年はふい、と横を向いた。
失敬、と呟いて、香川は肩を竦め、東條は眉を潜めて、バックミラー越しに青年を睨みつける。
「教授に向かって、その口の利き方はないんじゃないかな。教授が居なければ、
君なんか、とっくの昔にモンスターに食われて死んでるところだったんだよ?もう少し…」
「東條くん」
香川に窘められて、東條は不満そうな表情ながらも、口を噤んだ。
「そんなことは、殊更言わなくても、彼だって解かってますよ。
だからこそ、彼は進んで私たちの崇高な目的の為に、危険を冒してまで協力してくれているんです。
感謝するのは私たちのほうですよ」
(違うな。僕が戦うのは、貴方たちの為なんかじゃない)
胸の内で呟いて、青年は嘲笑う。
戦うのは、ただ、手塚の為。
自分の身代わりに戦って死んでいった、何よりも大切な親友の為だ。他の誰の為でもない。
「―――どうしました?」
怪訝そうな香川の声に、青年は掠れた声で答える。
「すみません、少し疲れました…眠ってもいいですか?」
「どうぞ。着いたら起こして差し上げますよ」
「有り難うございます」
心地良い震動に身を任せて、青年は瞼を閉じる。その目から、涙の雫が零れ落ちた。
きみのため 僕が戦うのは ただ きみのため―――
とりあえず、第1部終了です。
>>442さん
>ひょっとして紙に書いたものを打ち込んでいるんだろうか・・・
いや、コレの作者はフリーメールを持っているので
ネットカフェで一気に打ち込んで私の方に送ってるんです。
私は流すだけ〜♪
>>444さん
ありがとうございます。この話を作者に話したら
「反響があると頑張れる」、と言ってました。
まだまだ続くので今後もおつき合いよろしくお願いします。