【勝手に】仮面ライダー龍騎EPSODEFONAL【補完】
白い十字架が並び建つ、海の見える丘の上。そこには手塚海之が眠っていた。
海のほうから吹きつける風は、この前此処を訪れた時よりも幾分冷たく、
月日の流れを否応なく感じさせられる。
手塚が亡くなってから、いつの間にか季節は移ろい、3ヶ月という長いような、
短いような月日が流れていた。彼が亡くなった直後は、ひどく塞ぎ込んでいた真司だが、
優衣や蓮を始めとする周囲の人々の助力もあって、次第に笑顔を取り戻しつつあった。
勿論、仮面ライダー龍騎として、ミラーワールドから次々と現れ出るモンスターたちから
人々を守る為に戦う、という当初の目的も忘れてはいない。そして。
『止めてくれ。俺と一緒に』
あの時差し出された、手塚の手の熱さを思い出す。自分は確かに、その手を強く握り返した。
ライダー同士の不毛なバトル・ロワイヤルを止める、そのために仮面ライダーライアと化し、
望まぬ戦いに身を投じて散っていった手塚の願いをも、叶えなくてはならない。
仮面ライダーゾルダ=北岡秀一や、仮面ライダー王蛇=浅倉威といった、己が欲望を満たす為だけに
ライダーと成った者たちが居る限り、それはひどく困難なことのようにも思われたが、
その孤独な状況の中で、真司は、一筋の光明を見出してもいた。
このライダーバトルを仕組んだ張本人・神崎士郎がかつて在籍していた清明院大学401号
江島研究室―――中心人物である神崎の失踪と、江島教授の死により凍結されていた
この教室と研究を、継承している者が居た。真司はその人物・香川英行の口から、
『ミラーワールドを閉じる方法がある』という言葉を聞き出していたのだ。
ミラーワールドが無くなれば、何の関係もない市井の人々がモンスターに襲われることもなくなる。
また、ライダーに変身することも出来なくなるのだから、ライダー同士が戦って傷つけあうこともない。
部外者である、ということを理由に、その時はそれ以上のことを教えては貰えなかったが、
目的が同じである以上、話し合えば必ず理解(わか)って貰える、と、真司は意気込んでいた。
今日も、手塚の墓参りを済ませた後、3人で香川の元へと赴く予定になっているのだ。
尤も、ライダーバトルに勝ち残って、望みを叶える力を手に入れ、意識不明の恋人を救う、
という目的を持つ蓮は、余り乗り気ではないようではあったが。
(手塚…俺、絶対に止めてみせるよ、この馬鹿馬鹿しい戦いを……)
「何だ、未だこんなトコに居たのか、お前ら」
不意に背後から声を掛けられて、真司は、びくり、と肩を震わせた。振り返ると、いつの間にか、
遅れて来た筈の蓮が、2人に追いついていた。蓮は呆れたような表情で、ふう、と溜め息を吐くと、
優衣の手から花束を取り上げ、それを肩に担ぐようにして歩き出した。
「行こ、真司くん」
優衣に促され、真司は頷いて、蓮の後を追った。
↑スマソ、上は(2)です。
丘の上の墓地には、彼ら以外に人の姿は無かった。
出入り口のところで、黒い服を着た茶髪の女性と擦れ違ったのみだ。
静かな墓地の一番奥、他のものと比べると一回り小さい十字架の下が、手塚の眠る場所だった。
「手塚くん…」
その場にしゃがみ込んで、十字架の台座に填め込まれた墓碑の真鍮板を、優衣はそっと撫で擦った。
「…あれ?」
優衣の隣に並んで跪き、瞑目しようとした真司は、持ってきた花束を捧げている蓮の手許を見て、首を傾げた。
―――花が供えられている。それも、つい今しがた供えられたかのような、真新しい花束だ。
大輪の深紅の薔薇と、可憐な白いカスミソウとを組み合わせ、白いレースのリボンで束ねてある。
「まただ……」
小さく呟いた真司の言葉を聞き咎めて、蓮は怪訝そうな表情を見せた。
「どうした?城戸」
「ああ…ここんトコ、いつもなんだ…俺たちの他に誰かが、こんなふうに、手塚の墓に花を置いてくんだよ」
1ヶ月ほど前に訪れた時もそうだった。かなり朝早い時間だったにも拘らず、
真司が来た時にはもう、辺りは綺麗に掃除され、花が捧げられていた。
やはり、深紅の薔薇とカスミソウとを白いリボンで束ねたものだった。
その時には、余り気にも留めていなかった真司だったが、つい10日ほど前に
取材の帰途に立ち寄った際にも、同じことがあったのだ。
「あ、ねえ、もしかして、手塚くんのお墓参りに来てるのッて、さっきの女性じゃない?」
「入口のトコで擦れ違った女か?」
不意に優衣が発した言葉に、蓮が言葉を続ける。
「だって、ここへ来る途中で、あの人以外には誰にも逢わなかったでしょ?このお花、
凄く新しいみたいだし、少なくとも、1時間より前ッてコトはないと思うわ」
「……俺、ちょっと行ってくるッ!」
言うなり、真司は踵を返して、脱兎の如く駆け出した。あっけにとられて、その背中を
見送った優衣と蓮だったが、ふ、と我に返り、慌てて真司の後を追う。
「ね…ねぇ、真司くんッ…!あの人に逢ってッ…どうするつもりなのッ……!?」
「どうもしないッ!!」
立ち止まりも、振り返りもせずに、真司は答えた。
―――彼女が手塚にとってどんな存在であったのか、気にならない、と言えば、勿論そんなことはない。
もしかしたら、彼の昔の恋人であったのかも知れない。手塚の話をすることで、彼女を傷つけてしまうかも知
れない、とも思う。
だが、それでも、真司は彼女に逢いたかった。手塚のことをよく知る誰かと、
彼のことを語り合いたかった。そして、手塚がどんなふうに生き、逝ったのか、
彼の最期に立ち合った者として、伝えなければならない、と思った。
手塚は決して運命に敗北して死んでいったのではない、ということを、知って貰いたかった。
「……いない……」
丘の下の駐車場まで一気に走り抜き、息を弾ませながら、真司は忙しく周囲を見回した。
彼岸も過ぎ、平日の昼間だということも相まって、ここにも人影はなかった。
今しがた到着して、これから墓参しようかというような風情の老夫婦が1組、突然走り込んできた真司を訝しげに凝視めているだけだ。
「…何処行っちゃったんだろ……」
がっくりと肩を落として、真司は項垂れた。ちょうどその時、後から追いかけてきた2人が、駐車場に姿を見せた。
「し…真司くん…あの人は……?」
「いない…いないんだよ、何処にも……」
「も…もう帰ったんじゃ…ねえのか……?」
ぜいぜいと息を切らしながら、蓮は駐車場のフェンスに凭れかかり、ずるずるとしゃがみ込んだ。
そして、革のパンツのポケットからエビアンのペットボトルを取り出すと、蓋を開けてから、優衣に手渡した。
「俺…あの人に、手塚のコト話したかったのに……」
「けど、お前、あの女がホントに手塚の墓参りに来てたッて確証はないだろう。もしかしたら、全く違う奴の墓参りに来てたのかも知れないし」
優衣から返されたペットボトルの中身を貪るように飲み干し、幾分落ち着きを取り戻しながら、蓮が言う。
そう言われてみれば、そうかも知れないな、と、真司は更に項垂れた。その肩に手を置きながら、優衣は申し訳なさそうに謝罪の言葉を発する。
「ごめんね、真司くん…私が考えなしなコト言ったばっかりに……」
「…いや…優衣ちゃんの所為じゃないよ……」
「その通りだ、気にするな、優衣。考えなしなのは、そっちの馬鹿だ」
「蓮ッ!」
情け容赦なく言い放つ蓮に、優衣はキツい眼差しを向ける。真司は力なく苦笑って、顔を上げた。
その時。
耳障りな、だが、聞き慣れた金属音が、3人の鼓膜を揺るがせた。そして、悲鳴。
「蓮ッ!」
「あっちだッ!」
3人は、悲鳴の上がった方向へと再び駆け出した。駐車場の出入り口、
そこに停められていた漆黒のベンツの車体から、モンスターが3体飛び出し、鋭い鉤爪を振り上げている。
襲われていたのは、先刻の老夫婦だった。老婆のほうは、腰を抜かしてしまったのか、
その場に座り込んで動けない。男性のほうは、妻を守るかの様にその前に立ちはだかり、
及び腰になりながらも、モンスターに向かって杖を振り回していた。
「はあッ!」
気合いと共に、真司は、老人に向かって今まさに爪を振り下ろそうとしていたモンスターを蹴り飛ばした。
振り向き様、今度は標的を真司に切り替えて飛び掛ってきた1体の腹に、固めた拳を叩き込む。
残るもう1体は、蓮と渡り合っている。そして、優衣は老夫婦に駆け寄ると、老人と共に老婆を助け起こし、駐車場から退避させた。
モンスターたちは、じりじりと後退しながら、今しがた自分たちが飛び出してきた車体から、彼らの世界―ミラーワールドへと逃げ込んでいった。
その鏡面の様に磨き上げられたウィンドウに己が姿を映し、真司と蓮はカードデッキをかざして叫ぶ。
「変身ッ!」
現れたベルトにデッキを装着すると、強化スーツが2人の体を包み込んだ。
仮面ライダー龍騎とナイト、姿の異なる2人のライダーは一瞬顔を見合わせ、力強く頷き合うと、
ウィンドウを通じ、モンスターの後を追って、ミラーワールドへと進入する。
「大丈夫ですかッ!?」
「な…な…なんじゃい、今のは……」
目を丸くして絶句する老夫婦に、どう説明したものか、と思案している優衣の視界に、こちらに向かって駆け寄ってくる人影が飛び込んできた。
黒い衣服に身を包み、長い茶髪を潮風に靡かせたその人物は、老夫婦に何ごとか声を掛け、更に安全だと思われる場所に誘導していく。
そして、優衣のほうに向き直ると、呆然としている彼女を優しく押し退け、
先刻2人が消えたクルマを凝視めた。その左手を見て、優衣は驚愕の声を上げる。
「あッ…貴方はッ……!?」
そこは、先刻の駐車場をそっくりそのまま反転させた場所だった。
モンスターの姿はないが、何処かに隠れ潜んでいるらしく、異様な気配をひしひしと感じる。
「油断するなよ、城戸……」
「分かってる」
それぞれの武器―――ドラグセイバーとウイングランサーを構えながら、ゆっくりと周囲を睥睨する。その時。
ケケケケーッ!!
奇声を上げて飛び出してきた影に、真司=龍騎は慌てて剣を振るう。だが、手応えはなく、影は再び嘲笑うかの様な声を上げて、姿を消した。
「馬鹿野郎ッ、油断するなと言っただろうッ!」
「悪かったよッ!」
蓮の罵声に怒声を返して、真司はドラグセイバーを構え直した。
「ちッくしょー…何処行きやがったんだ…」
呟きながら、横目でチラリと蓮を見遣る。不意に、その蓮の背後の何もない筈の空間が、一瞬、陽炎のように揺らめいた。
「蓮ッ、後ろだッ!」
「何ッ?!」
慌てて振り向いた蓮の鼻先を、鋭い鉤爪が風を切って掠めていく。
すんでのところでそれをかわした蓮は、ウイングランサーを突き出すが、やはり手応えはなかった。
「あーあー、何やってんだか」
「うるさい」
先刻怒鳴られた意趣返しだと言わんばかりの真司の嫌味を蓮は鋭く遮り、舌打ちをした。
「ちッ…厄介なヤツに当たっちまったな……」
再び背後を取られるのを避ける為に、背中合わせになりながら、モンスターの気配を探る。
どんよりと澱んだ虚空の下、響き渡る奇声は次第に大きくなり、やがて、その数を増していった。
現実世界に現れたのは3体だったが、その声が聞こえる方向から推察するに、少なくとも5、6体は居るだろうと思われた。
(こりゃ、ちょっと…ヤバイ…かな……)
嫌な汗が、強化スーツに覆われた2人の背中を冷たく濡らす。数自体はどうということではないが、自在に姿を消し、思いも寄らぬところから襲いかかってくるのが厄介なのだ。
「そう言えばさあ、昔、そんな映画あったよなあ。あれはモンスターじゃなくて、宇宙人だったッけ?」
「そんなコト言ってる場合かあッ!!」
戦いの最中だというのに、のんびりした口調で場違いなことを言う真司を、蓮は怒鳴りつける。
その時、不意に足下の空間が再び蠢いて、そこから出現した手が、真司の足首を掴んだ。
「うわッ!」
「城戸ッ?!」
無様に引っくり返った真司の足を掴んだまま、モンスターが全身を現す。
それは蛙と蜥蜴を掛け合わせて直立させた様な姿をしており、濃い緑色の皮膚をぬらぬらと光らせた、全く気味の悪い奴だった。
不格好に節くれ立った長い指の先には、吸盤ではなく、鈍い銀色に光る大きな鉤爪がついており、
一杯に開かれた口の中には、鋭く尖った細かい歯が無数に生えている。
「あ、あんまりお近づきにはなりたくねえなあ…なーんて、言ってる場合じゃねえけどッ」
転んだ拍子に投げ出されていたドラグセイバーを掴み、真司は、生臭い瘴気を吐き出すモンスターの口の中に、その剣先を突き出す。
「ッしゃあーッ!」
今度は、肉を切り裂く鈍い感覚がしっかりと伝わってきて、真司は思わず拳を握り締めた。
だが、しかし。
「うああーッ!!」
「蓮ッ?!」
苦痛に溢れた蓮の声に、彼のほうを振り向いた真司は、愕然となった。血の筋を引きながら、
右肩を押さえて転がった蓮の直ぐ側の、何もない筈の空間から、確かにモンスターの口の中を貫いた
ドラグセイバーの刃先だけが突き出していたのだから。
ケケケケーッ!!
更に口を大きく開けて、モンスターが真司に迫る。
その時だった。
『ソードベント』
無機質な女声が響き、刹那、白銀の閃光が真司の視界を横切る。
その目映いばかりの光が収まった時、今まさに真司を喰らおうとしていたモンスターの巨体が、地響きを立てて、ゆっくりと横倒しになった。
「ふん…獲物に気を取られて、油断したな」
倒れたモンスターの後頭部から、閃光の正体―――刃を引き抜きながら、“それ”は笑った―――
笑った様に見えた。その姿に、真司は目を見張る。
「て…手塚ッ……?!」
ドラグセイバーに引き裂かれた右腕を庇いながら、よろめきつつ立ち上がった蓮も、茫然とその姿を凝視める。
それはまさしく、二度と現れる筈のない、仮面ライダーライア=手塚海之だった。
―――否。
(違う…何だ、コイツは……?!)
ライアではなかった。そこに居たのは、ライアと同じ色の強化スーツを纏った、見慣れぬ姿の戦士だった。
優美な曲線を描く頭部の前面には、昆虫の触角を連想させるアンテナが2本突き出している。
そして、その右腕には、先刻モンスターを貫いた鋭い刃が煌めいていた。
これもまた、2人が見たこともない様な形状をしており、剣、というよりは、寧ろ槍に近い。
「…来るよ」
戦士の言葉に、2人は、ふ、と我に返る。気がつけば、3人の周囲を、5体のモンスターたちが取り囲んでいた。
「はッ!」
短い気合いの声と共に、振り向き様、戦士は右腕の武器を真司の背後に向かって突き出す。
すると、蓮の真正面に居たモンスターが、その腹部から青黒い体液をしぶかせて仰け反った。
「なッ…何だ、今のはッ?!」
「コイツらの特殊能力さ!コイツらは空間を歪ませて、自由に操るコトが出来る!」
目を丸くして絶句する真司に、戦士はそう答えた。
「実に厄介な力だけど、それにも一定のパターンがあってね!
そいつを読み取ってしまえば、実に簡単なコトなのさ!」
解説している間にも、戦士は澱みなく刃を繰り出し、恐るべき正確さで、
モンスターたちを薙ぎ倒していく。その動きには一切の無駄がなく、実に優雅で、華麗なものだった。
真司だけでなく、蓮ですらも、放心した様になって見とれている。
(…綺麗な…音楽みたいだ……)
ふと、真司の頭の中を、そんな思いが過ぎった。
「…さて…と。残るは1匹だけか」
刃に纏いついたモンスターの体液と脂を振り払いながら、戦士は真司の右隣で立ち竦んでいるモンスターに向き直る。
だが、そいつはひと際大きな声を上げると、高く跳躍した。
戦士の頭上を飛び越え、周囲の景色に体を同化させながら、消えてしまう。
その気配は消え失せ、辺りにはただ静寂と、荒涼とした風景が広がるばかりだ。
「逃がしたか……」
忌々しそうに舌を打つと、戦士は刃を収め、未だその場に座り込んで呆けている真司に向かって、左手を差し出した。
その手を借りて、真司は漸く立ち上がる。
「あ…あんたは……?」
「話は後だ。君ら、そろそろ時間切れじゃないのか?」
「えッ」
戦士の言葉に、真司は慌てて己が体を見下ろした。
彼の言う通り、強化スーツに覆われた全身から、細かな粒子が音を立てて溶け出す様に流れ出している。
戦士は蓮に歩み寄ると、失血の為に意識が飛びかけてふらついている彼の体を肩に担ぎ、徐に、目の前のクルマのボディを通り抜けて、現実世界へと戻っていく。
「あッ、おいッ、待てよッ」
真司も慌ててその後を追った。
友人がネタ倉庫で見たオルタナ02の設定に触発され、この話を書いてくれました。
ただ友人は携帯も自分のPCもなく、週に1回のネットカフェでしか書き込めない環境なので、
続きが出来次第私が代わりに載せますのでしばらくよろしくお願いします。