【勝手に】仮面ライダー龍騎EPSODEFONAL【補完】

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110(SP)シザース誕生
「お姉ちゃん!お姉ちゃん・・・。なんで?どうして?」
姉の遺体にすがって少女は泣きじゃくった。
少女の傍らに立つ須藤の耳に悲痛な叫びがいつまでも残った。
「酷いよ、お姉ちゃんを返して!返してよお!!」

煙草をくわえたまま火も付けず、疲れきった声で警視庁捜査一課の長は浅倉威の新たな凶行について報告をまとめた。
ざわざわとため息混じりの私語を漏らす刑事達。
「あいつは怪物だ・・・」
「何かやらかすたび残虐さを増してるな。ありゃ異常だ。うちの若いもんが何人も再起不能にされた。須藤が無事にあいつを捕まえられたのも、今思えば奇跡みたいなものだったし」
「でもな。何度捕まえても逃げ出すし、脱走するたび被害者は倍に増える。そのたびこっちが非難されるときた。文句あるなら直接浅倉本人に言えっての。こちとらいい迷惑だよ」
「できるならよ、こっそり撃ち殺したい所だぜ。なあ?」
茶の缶を両手に抱えたまま眉を上げる須藤。
「たとえそれがどんな相手でも、殺して良い事などありません。犯罪者を捕まえ司法の裁きを受けさせるのが私達の役目ですから」
「冗談判んないかねえ、マサやん。バカ真面目なのもほどほどにな?」
「須藤さん、あんた甘いよ。世の中にゃ生きる価値の無い奴も居るんだよ」
そういうものですかと返す須藤に笑いかけるおやっさんが、署の中で見る最後の姿になった。
111(SP)シザース誕生:02/10/13 04:17 ID:pF58SB4c
張り込み中の須藤の目の前に、血まみれの鉄パイプを振りまわす男の姿があった。「あ・・・浅倉?!」
浅倉の足元に転がる赤に染まったおやっさんを見て、須藤の中で何かが弾けた。

「ははは。いいぞ。こんな所で出会うとはな。俺に手錠を掛けやがった、あの糞野郎に!」
いきなり浅倉に飛びかかられ、パイプの攻撃は避けたものの蹴りを受け須藤はよろめきかけた。
すかさずパイプを打ち下ろそうとする浅倉に向かい、銃を抜くとためらわず浅倉の眉間に狙いを定める須藤。
ひとつも怯えることなく笑いながら浅倉は睨み返してきた。
邪悪な視線が須藤を正面から捕らえた。
静かな怒りが心の底になければ、浅倉の邪悪な眼差しに気圧され銃を奪われていただろう。
(できるならよ、こっそり撃ち殺したい所だぜ。なあ?)
頭を振り須藤は銃を遠くに投げ捨てると、一瞬視線が逸れた浅倉の腹に拳を思いきり打ち込んだ。
防御がガラ空きになった顎にもう一発。
姿勢が崩れかけた所に更に手刀が決まり、緩んだ浅倉の手が凶器を取り落とす。
肩を掴み膝で蹴りをいれあげるうち、浅倉の動きが鈍くなった。

浅倉が落とした鉄パイプを拾い上げると、このまま滅多打ちにしたい衝動を抑え、後ろ手に手錠を掛けた。
おやっさんの様子を調べまだ息があるのを確かめ、安堵しながら携帯で連絡を入れた。
救急車を待ちながら血の気の引いたおやっさんに止血のハンカチを巻いている須藤に耳障りな音が入ってきた。
浅倉の笑い声だった。
唇から血を流し浅倉はゲラゲラ笑い続けた。
「いいな・・・最高だ。もっとわくわくさせろよ?」
「残念ですがあなたと遊ぶ暇などありません。あなたは逮捕されました。今度こそ監獄でその罪を償いなさい」
「つまらないな、お前。俺と遊ばないなら消えろ・・・」
自らのポケットを噛み裂く浅倉。懐から何か落ちると瞬時に浅倉の姿が変った。
112(SP)シザース誕生:02/10/13 04:18 ID:pF58SB4c
あっと思うまもなく須藤は巨大な蛇に襲われていた。
世界が反転し、見知ったはずの全ての物が左右逆になった場所に引きずり込まれた。
紫色の異形の姿に変った浅倉は手錠を引き千切ると、須藤の胸倉を掴み勢い良く殴り飛ばした。
圧倒的な力の差の前に須藤は成す術も無かった。
ぐったりと転がる須藤を前に浅倉が合図を送ると蛇が大きく口を開けた。

突如爆音が響き蛇は素早く跳ね逃げた。蛇が避けた地面に大きく穴が開いていた。
大砲の様な物を抱えた緑色の怪人物が現れると、須藤を無視し浅倉を攻撃し始めた。
そのまま二人とも争いながら遠くへと走り去った。

よろめきながら起き上がろうとして須藤は驚愕した。
腕が砂の様に消えて行く!

混乱している須藤めがけ、捻じ曲がったカンガルーのような奇妙な生き物が飛びかかってきた。
最初の攻撃を転がり避ける須藤の目に、握ったままこの世界に持ち込んでいた鉄パイプが映った。
とっさに鉄パイプを掴むと牙を受け止め、肉を食いちぎられる事は免れた。
襲いかかる牙から細い鉄の棒だけで身を護るのは容易ではなかったが、辛うじて致命傷を避け、砂の様に少しづつ消えながらも須藤は抵抗を続けた。
化け物にむざむざ食われるぐらいならこのまま消えた方がましだと思ったその時、いつの間にか須藤のすぐ隣に見知らぬ男が立っていた。
男は怪物を見ても恐れず、眉ひとつ動かさずに須藤の様子を眺めていた。
「消すには惜しい、お前はいい目をしている・・・。お前の中には、不屈の闘志と血を求める欲望が潜んでいる・・・」
男が片手を振ると怯えた様に怪物は逃げ出した。
113(SP)シザース誕生:02/10/13 04:22 ID:pF58SB4c
男に短く礼を言った後、矢継ぎ早に須藤は質問を始めた。
「あなたはあれが何か判りますか?浅倉は・・・あの人達は一体何なんですか?ここはどこなんですか?」
「死ぬべきお前が知る必要など無い・・・。もっともライダーになる気があれば別だが・・・」
「死ぬ?私が?」
「お前にはもう時間が無い・・・。ライダーにならない限り、ミラーワールドで生存する事は不可能だからな・・・。浅倉はライダーだ・・・。あそこに居るのは浅倉の『仮面ライダー王蛇』と北岡の『仮面ライダーゾルダ』・・・」
「ライダーとは何です?あの異形の姿の事ですか?」
「そうだ・・・。モンスターと契約しその能力を手にした者には大いなる力への道を得られる・・・。それが『仮面ライダー』だ・・・」

宣言された死への恐怖よりも、さっき浅倉に示された超人的なパワーへの素直な驚嘆と、泣き崩れる少女の涙、浅倉への怒りが須藤の心を占めた。
王蛇と五分五分で戦うゾルダを指差して須藤は尋ねた。
「『仮面ライダー』になれば、あの人みたいに戦えるのですか?」
「ああそうだ・・・。だが、一度ライダーになればもう後戻りは出来ない・・・。お前は普通の人間ではいられなくなる・・・。
ライダー同士で殺し合い、死ぬまで怪物と戦い続ける事になるだろう・・・。ライダーになれば、お前に安息の時は無くなる・・・。
このまま死を受け入れたほうがましだったと思うぐらい過酷な日々がお前を待ちうける・・・。それでも良いならライダーになるがいい・・・」
須藤は異形同士が戦う様を見つめた。刃物と銃弾、毒蛇の牙と鋼鉄の腕がぶつかり合う様は通常の人間なら畏怖させるのに充分だった。
「いいでしょう。何もかも受け入れます。私をライダーにして下さい」

血の匂いに引かれたのか、甲羅を持つ怪物が鋏を振りかざしながら走り寄ってきた。
勢い良く差し出された鋏が眼球に刺さる寸前、須藤は契約のカードを怪物の前にかざした。
金色の光に身を包まれ、徐々に身体が硬い殻に覆われていくのを感じながら須藤は立ちあがった。
異質な冷たい金属の感触が左腕に走った時、自分はもう元に戻れないと実感しかすかに涙を流した。
114(SP)シザース誕生:02/10/13 04:23 ID:pF58SB4c
ゾルダは王蛇に圧倒されていた。
至近距離からの拳と蹴りの乱舞を受け、ガクっと膝を落としたまま固まってしまった。
『ファイナルベント』
王蛇の身体が紫の弾丸となって動きが取れないゾルダをめがけ放たれた。

『ストライクベント』
シザースピンチを構えた須藤が真横から王蛇を突き飛ばす
脇からの攻撃にもろくも姿勢を崩し地に倒れる王蛇。

「浅倉!観念しなさい。あなたはもう逃げられません」
「誰だお前?いい所で邪魔をするな。お前から先に死ぬか?」
「私は警視庁捜査一課の須藤雅史!浅倉威、あなたを逮捕します」
「須藤?はぁ?さっきの刑事か・・・。お前もライダーだったのか。お前なんかがライダーになっても・・・」
ベノサーベルで斬りかかる王蛇。
「この俺に勝てると思うのかぁ!」
『ガードベント』
須藤の取り出したシェルディフェンスが、刃の直撃から身を護る。
しかし、APの差から完全にはその身を護れず、須藤は後ろに突き飛ばされた。
115(SP)シザース誕生:02/10/13 04:24 ID:pF58SB4c
ベノサーベルを振りまわす王蛇の猛攻を大鋏と盾でギリギリで防ぐ須藤。防戦一方で攻撃を仕掛ける隙が無かった。
更に悪い事に、生身で殴られた傷と、怪物に噛まれた傷がじくじくと痛み出した。
盾を取り落としそうになった須藤の隙を狙い、王蛇はベノサーベルを須藤の肩に突き刺した。
苦痛の声をあげる須藤に「終わりだ」と告げ、ベノサーベルに全体重を掛け始める王蛇。

ふいに散発的にパラパラと撃ち込まれる弾丸。「北岡!邪魔だ!俺をイライラさせるな!」
須藤はそのわずかな間を見逃さなかった。
シザースピンチでベノサーベルを挟み込み、王蛇に蹴りを入れその身を弾き飛ばした。
肩に刺さる刃を抜き捨てた反動で大鋏を王蛇に叩きつけた。

だが、まるで痛みを意に介さない様に動きを鈍らせる事無く王蛇は殴りかかってきた。
鋏を難なく避けつつ繰り出される王蛇の攻撃。
刀を失っても王蛇の蹴りと拳は盾を揺るがすほどの威力があった。
「どうした?ふらふらじゃないか?俺を捕まえるんじゃなかったのか?あん?」
「ええ、そうです。あなたはもう私の手の内にありますよ」
そう言うと須藤は、浅倉が須藤の動きに慣れた鋏でなく、盾を王蛇に叩き付けた。

『ファイナルベント』
次の瞬間、須藤の身体が宙に舞った。
シザースアタックが、既に大技のカードを使い防御の余裕の無くなっていた王蛇を直撃した。
116(SP)シザース誕生:02/10/13 04:38 ID:pF58SB4c
意識を失った浅倉の身体は砂状になって消え始めた。
(須藤さん、あんた甘いよ。世の中にゃ生きる価値の無い奴も居るんだよ)
須藤は浅倉に向かって手を伸ばすとその喉を掴んだ。

泣きながら須藤の胸をこぶしで叩く少女の姿を思い出す。
(警察なんてあてにならないよ!私が自分で!この手で!お姉ちゃんの仇を取る!)
あなたがその手を血に染める必要はありません。
この男には、人生を引き換えにするほどの価値は無いですから・・・。
我知らず喉を掴む須藤の腕に力が掛かっていった・・・。

浅倉を引きずる須藤にゾルダが声を掛けてきた。
「何をしてるんだよ。とどめを刺んじゃなかったの?」
「殺しはしません。この男は連れて帰って逮捕します。それが私の望みですから」
「ふーん。あんた、ライダーになったばっかりなんだね?」
浅倉をライドシューターに押し込める須藤の後頭部をバイザーの銃口が捉えた。
「・・・甘いよ!」

振り向かず浅倉の肩に右手を置いたまま、ぶんと左腕を一振りする須藤。
衝撃がバイザーの蓋を閉ざし、予め差し込まれていたカードの名を読み上げた。

『アドベント』

瞬時に現れたボルキャンサーがマグナバイザーを叩き落とした。
ゾルダがひるむ隙にライドシューターは現実世界へと帰還していった・・・。
117(SP)シザース誕生:02/10/13 04:39 ID:pF58SB4c
立ち去るパトカーの音を聞きながら病院のベンチに腰を降ろしたままで須藤は風に当たっていた。
満身創痍で疲れていたが、心地よい満足感にもう少し浸っていたかった。
「これで良かったのですね・・・。もうこれであの娘も涙を流さずに済むでしょう・・・」

背後からかすかな笑い声が聞こえた。
「綺麗事を言えるのも今のうちだけだ・・・。すべてのライダーは己の欲望を充たす為に互いに戦い殺し合う・・・。いずれお前もそうなるだろう・・・」
「そんな事はありません。ひとがひとを殺す事など認めるわけにいきません。あなたがそう主張するなら、私がそうでないという証拠になります」
「証拠?」
「少なくとも私は浅倉と戦う為に変身する・・・犯罪から誰かを守る為だけに変身しますから」

怪物の放つ金属音に引き寄せられ、話の途中で一礼すると須藤は鏡の中に踏み込んだ。
従順なしもべとなったボルキャンサーが須藤を出迎え、一緒になって怪物の追撃を始めた。
怪物を捉え、双の刃で切り裂き重い鋏で叩き潰すうちに、奇妙な高揚感が須藤の身体の芯から湧き上がってきた。
望みは叶った。だがこの虚しさは何だろう?
もっと戦いたい。戦う相手が欲しい。歯ごたえのある強い相手が・・・。

「お前はすぐに染まる・・・お前の本性は、お前が最も厭う浅倉と同じだからだ・・・」
怪物の血で汚れた鋏を目の前にかざし、陶酔する須藤の姿。
その様子を見ながら男は満足げな忍び笑いを浮かべた。
118(SP)シザース誕生・完:02/10/13 04:43 ID:pF58SB4c
SP版解禁記念。
スペシャル須藤はもともと正義感強い奴だったらしいんでその補完。
浅倉よそ見し過ぎ(笑

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・・・どうして私は・・・あの時の気持ちを忘れてしまった・・・のか・・・。
致命傷を負い、爆炎と共に消えて行く中で須藤は思った。

もっと早く思い出せば良かった・・・
城戸さん・・・
私はあなたと一緒に戦うべきだったのかも・・・しれませんね・・・
あなたなら出来るかもしれない・・・どうかその望み・・・叶えてください・・・。
さようなら・・・
コア・ミラーを・・・壊せる事を・・・祈っています・・・。