「ハンカチを使っていいですか?」。証言台で女がすすり泣き始めた。「人の物を盗むのは
いけないと分かっているのに、自分を抑えられない」と嗚咽する。弁護士は「心の病気です」と
心神耗弱を主張し、責任能力を争う構えだ。
被告は、東京都大田区に住む赤松ひろ子(48、仮名)。今年1月17日午後3時半、
近所のスーパーで女性客のバッグから現金1万2000円とキャッシュカード2枚が入った
財布をそっと抜いた。だが、警戒中の女性警察官に見つかり、現行犯逮捕と相成った。
ひろ子は山梨生まれ。高校卒業後に結婚したが、2児の母となった30歳ごろから、
スーパーやパチンコ店でスリや万引を繰り返すようになった。窃盗の前科は4犯。
昨年1月に刑期を終え、給食を作る仕事に就いたが、月給11万円では借金返済で手いっぱい。
同居中の元夫に無心しても「犯罪者はこの家から出ていけ!」と罵倒された。逮捕時の所持金は、
わずか55円。前回の逮捕と同じ店だった。
「盗みを始めたのは、育児ノイローゼにかかってから。今回も元夫と喧嘩したのが原因で…」。
ひろ子は精神面の問題をアピールしたが、検察官の「金に困ってなくてもやるのか?」という
質問には「そんなことはない」と、ポロリと本音を漏らした。
犯行時にマスクで顔を隠したのは「職場からインフルエンザ予防のために着用するよう
言われたんです」と弁解。だが、この一言が致命傷に…。
「職場の指示を忠実に守っているんだから、心の病気はないでしょう!」。裁判官はバッサリと
切って捨てた。求刑は3年6月。累犯前科ありなので執行猶予はまず付かないだろうが、
あきらめない。「私を変えさせてください。新しい男性と幸せな家庭を作りたいので、執行猶予を
下さい。お願いします!」
最後まで身勝手な言い分だった。
(文・安藤健二、画・松橋犬輔)
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20100325/dms1003251511003-n2.htm