栄光の40年 疾走する知性 聖人高本秀行

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102大原良子 19歳 独身 ◆DlZytycL/U
音楽評論家聖人高本秀行先生に捧げる詩

 ある才能が紡いだ言葉――彼にはいつも零れるような才能があった――僕は撫でている、文字列を、素敵な明朝体を。
 音楽が僕の胸をすり抜けていく、何かを奪っていくかもしれない、けれど取りかえす気にはならない、肺には必要な正の数がないから。
 そして朝食を供にしよう、僕の胃、口、喉も。僕とはまるで違ってラムネ色の肌。透明なカレイドスコープが彼の首の後ろ、三つ目の眼。
 だから彼に出逢うと策略は無駄になる、挨拶の必要はない、代わりに怒りは蒸発する、彼の頭のてっぺんから、僕たちの握手のつなぎ目を通って。
 彼を叱ることなんて出来はしない、まっすぐに床に落ちてしまう、何を食べたかったのかな、腹に縫い目のある狼、男だったかもしれない。
 僕は床を撫でている、白いチョークの粉を舐める、本当に追い詰められた人間は、「助けて」なんて書いたりしない、ある才能が紡いだ言葉。
 心霊を信じる人間は、幽霊の物体を、あのあたたかな、皮膚の触れあうノートの文字、ただ想う、あの黒いインクの微小な、アツミ、を、待ち望んでいる――そうだ、良く見てみるんだ。確かにあるはず、刺青されたそれが証