13 :
ミステリ板住人 ◆22RAaWR.nE :
引き続き僕の論考をお楽しみください。
まず、読者の便宜のため前スレ終盤の論考をコピペしておきましょう。
各人、心して読め!!
975 :ミステリ板住人 ◆22RAaWR.nE :2008/04/12(土) 22:04:28
ダン・シモンズ「ザ・テラー 極北の恐怖」 4点
あえてジャンル分けすれば冒険小説の要素が濃い作ではあるが、
「ハイペリオン」の作者でもあり、怪獣小説=ホラーの要素もあるので、
あえてこの板で紹介しておきたく思う。
フランクリン卿率いる北極探検隊遭難(全滅したと言われるが、本作ではテラー号艦長の
クロウジャーのみイヌイット娘に助けられてサバイバルする)という歴史的事実をネタに
迫り来る極寒、壊血病の蔓延、食料不足によるカニバリズム等々血生臭いリアルな描写が
積み重ねられると共にダン作品らしいホラー&ファンタジーの世界も展開されている。
ただし、食料不足、反乱等のリアルな問題の前に売り物であるはずの探検隊を襲う謎の
極北の怪物(イヌイット伝説に登場する怪物、この辺のファンタジックなオチがダンらしい)
の存在感がじょじょに薄れてゆく感があるのが惜しい。
また、主要登場人物の過去をハイペリオン・シリーズ等でもおなじみの濃厚なエロ描写有りの
色事等をまじえて挿入しているのは、スケベでアホなSFオタへのサービスの意図もあろうが、
話がやたら長くなる上に、肝心の冒険談のテンポが落ちるという弊害が見て取れるのも
頂けないものがある。
結果的にアリステア・マクリーンの「北極戦線」のような迫力ある冒険談、あるいは、
「影がゆく」の如きサスペンスフルなホラータッチの作等を期待すると、
長いわりに非常に中途半端な印象の作に終わっていると言い得る。
まあ、「イヌイット娘のエロキター!!」とか「イヌイット娘のエロまたキター!!」等々、
いちいちウインドーをオープンにして絶叫しているアホなSFオタの長い夜のための読物と
しては最適かもしれぬ(w
またその程度に評価しておけばよろしい作かと思う。
14 :
ミステリ板住人 ◆22RAaWR.nE :2008/04/13(日) 21:44:19
976 :ミステリ板住人 ◆22RAaWR.nE :2008/04/12(土) 22:05:15
ロバート・J・ソウヤー「フレームシフト」 2点
俺はSFオタの言うことなど滅多なことでは信用しないが、質問スレで紹介されて読んだ
「ゴールデン・フリース」は本当に面白く、今まで読んだベスト15に入れることも差し支えない
ものであった。
だが、行きつけの古書店(例のナッキーに似た子がいるショップである)で同じ作者ということで
ゲットしてみた「ターミナル・エクスペリメント」はネビュラ賞作品のわりには、いまいちという感が
強く、本作では更にその感を強くした。
「ターミナル・・・」以上に舞台設定が現実に即し過ぎSFの魅力のひとつである飛翔感が弱いこと、
メーンのネタが刊行当時はともかくヒトゲノム解読が終了した現時点ではやや時代遅れなものと
なりつつあること、ネオナチとこれに絡む戦犯追跡(保険会社会長ダニエルスンの正体、
多額な保険金支払いが必要となる遺伝病患者の抹殺を指示している)のエピが
メーンなネタとのミスマッチ感があること等弱点ばかり目立つ。
人工受精によるネアンデルタール人のクローン(アマンダ出生の秘密)作成という発想は
今でも十分に面白いのだが、育ての親(借り腹でもある)母モリーもテレパスという異端者で
あることから、無理やりなハッピー・エンディングには白けるものを感じざるを得ない。
この作者は「ゴールデン・・・」の悲劇・鬱エンド志向を、なにゆえ放棄してしまったのであろうか?
15 :
ミステリ板住人 ◆22RAaWR.nE :2008/04/13(日) 21:45:00
977 :ミステリ板住人 ◆22RAaWR.nE :2008/04/12(土) 22:05:48
筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ」 採点不能
世紀末の5年間(90年代後半頃)にはやや低迷した感があった鬼才筒井堂であるが、
新世紀に入るや「恐怖」(2001年)「ヘル」(2003年)「銀齢の果て」(2006年)
「巨船べラス・レトラス」(2007年)とエンタメとしても面白い作を連発、
まさに衰えを知らないものがあり、
「新世紀」への突入が筒井堂にとって作家としての回春剤となったかのような感がある。
本作は、あえてエンタメ性を捨て(ゆえに、タイトルから全盛期の超ドタバタぶりを期待すると
外すので注意)、
美術評論家であるおれ(渡真利)の日常を取り巻く絶え間ない反復と混迷・・・
かなりの読書人をも苦闘せしめるプルースト、ジョイス、フォークナー等の作に列なる
人間の記憶・意識の世界を筒井流のドタバタと嗜虐性をスパイスにして描いた作ゆえ、
難解、かつ、読み難いものとなっている。
物語終盤ではシミュレーション技術発達による虞犯罪というSF的ギミックは登場するものの、
(ミステリ的趣向としては、義息の元愛人殺しの犯人は渡真利の娘である妻の凱子だとわかる
ネタがあるが、犯行の詳細は無く作品の軽いスパイス程度)
「文学性」といったものには無縁なまま、宇宙船、レイガン、半裸の美女等々に
萌えなアホなSFオタが、果たしてこの作を読了し得るか否か、非常に気がかりではある。