700 :
ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :
田中聡「江戸の妖怪事件簿」 5点
ホラー関係の書籍はこの板のカテゴリーに含まれるということなので、
このスレに論考を上げておく。
200頁の新書ということもあって、
江戸時代の妖怪談の紹介に過ぎない内容かと思いきや、
さにあらず、現代と江戸時代人の怪異への対処の差を通じて、
その思考分析にまで及んでおり、読むのに意外に骨が折れる部分さえある
面白い著作であった。
しかし、幽霊の存在を否定しながら狐狸の変化は肯定するという近世の江戸時代人の
通念は頭では理解出来ても「不可思議」という実感は拭い切れないものがある。
全6章から成るが、特に面白いのは第3章「ゴシップとしての怪談」と
第5章「妖怪のいる自然学」。
前者では、ゴーストスポットの家に見物に押しかけたうえ、
投石、尾鰭をつけた噂を垂れ流し、被害者たる住民を圧迫する人々の姿に、
著者も記しているとおり、まさに「人の心に妖怪を見る」気がする。
これは現在の犯罪報道や芸能報道を想起させる面もあって、
これはいつの時代も変らぬ悲しい人の性なのか。
また、後者で多くの怪奇現象をこじつけとも思える陰陽の気の原理で説明せんとする
学者の姿勢は、良く見かけるDQNな2ちゃん論客そのものなのが笑える。
ここにも時代は変っても人は変らないという悲しい事実を確認出来るやに思う。