今日読んだSF/FT/HRの感想 7冊目

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66ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2
T・J・バス「神鯨」         5点
本作を読了したSFオタの評価は高いものの、品切れ状態が継続しており、
再版予定も無い「幻の話題作」と言うても良いものである。
再版出来ないのは、読んでみれば納得、内容というよりは(部分的利用され使い捨てに
されるクローン人間等、現代に十分通用するヘビーなネタはあるが)
かたわ、ちんば、びっこ、気ちがい…70年代の初訳だからこそ許されたであろう
差別用語が満載なのである。
しかし、新訳の可能性はゼロではないものの、本書の思いきりが良いこなれた訳は
読み易く非常に捨て難いものがあり、
特に水棲人女性オパールの台詞を、大河ドラマ「風林火山」のみつを想起させる
甲州弁で訳した点など斬新そのものと言い得る。
「ちゃんと、潜ってするだよ。あのね―愛の―儀式は、水に浸ってするものだで」
(ハイブ人の逃亡者ハーとの水中SEXのシーンより)
物語構成は、短編連作集といった構成であり、前述した医学・生物学ネタのハードSFあり、
海洋冒険ファンタジーあり、戦闘バトルあり等の多彩な内容ではあるが、
視点を人間界を訪れる海神に置いた最終章「聖なる鯨」は、正に異色のファンタジー、
アーノルド(人造人間)との間に出来た王妃の子を王の実子と誤魔化すくだりは、
神によるイカサマ(というよりはイカサマな神か?)で笑えるものがある。
ただし、作者が学者との兼業のうえ、本作執筆当時は作家としてキャリアも浅かった
せいか、語りが理詰めで淡白に過ぎるうえに(これは作風の範疇と言い得るかもしれぬが)
小説としての全体のまとまりを欠く感はある。