今日読んだSF/FT/HRの感想 6冊目

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925ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2
ジェフリー・A・ランディス「火星縦断」        
セールス用の帯には火星繋がりでアーサー作品の「火星の砂」等が挙げられているが、
テースト的には、むしろ月を舞台にした「渇きの海」がパニック小説的側面においては
共通性を持つと言えるし、一番類似している古典はジョン・Wの「月は地獄や」であろう。
ただし、タッチ(注 南ちゃんが出て来る野球漫画ではない(w )は、
ぐっと現代風、クルーの中にDQNまがいの若者がいたり、
クルー同士に性的関係があったり等、最早、アーサーたちのストイックな世界観が
懐かしい感さえある。
作者は、MITで物理学の学士号と電子工学の学士号・修士号、ブラウン大学で固体物理学の博士号を取得し、NASA火星プロジェクトで下働き(ここは笑うしかないものが
あるが)をしているだけあって、火星に関する科学的な考察(砂塵嵐、プラズマ放電等々)は読ませるものがあるし、サバイバル小説としての意外性がある展開も面白い。
サバイブすると思っていた船長と若手のクルーが中盤で死亡し、(アーサーあたりなら、
ラドコフスキー船長が過去のトラウマを克服し精神的復活を遂げるという展開にしたのではないか、また、DQNな若者トレヴァー(実は弟のブライアンの成り済ましのうえに、
「機動戦艦ナデシコ」のルリルリと同様な出生の秘密が明らかになる)の成長談と
いう書き方も有り得る)、
当初は捨てキャラぽく見えたオタク傾向がある科学者ライアン(逆に終盤にかけては
船長に代わってリーダーとなり、その専門性を活かして大活躍する)や
女性クルー2人(こちらは当初はしたたかでタフに見えたエストレラが、
負傷後は意気消沈し、影が薄くなってしまうのが意外。
逆に一児の母であるターナ(黒人クルー)の存在感が増して来る)が共に
サバイブ(火星に残るエストレラの方は微妙な結末ではあるが)するのもやや意外だし、個性的で魅力あるキャラ、チャムロング(タイ人)の早々の退場(事故死)
は惜しい感がある。