そんなことより、
じつはわたくし佐藤亜紀は、本当に確信犯で盗作をしました。
今夜こそ告白します。別ジャンルから複数ネタを盗作して
混ぜ合わせれば絶対バレないと計算したんです!
許してください。田舎の高校の文芸部で、才能もなく頭も悪かった私は
たまたま図書館でカフカを読もうとして手にした
世界文学全集で、運命のヨーゼフ・ロートに出会ったのです。
ヨーゼフ・ロートの『ラデツキー行進曲』それが全ての躓きの始まりでした。
作品そのものよりも作家の数奇な運命と「知られざる大作家」という形容に惹かれ
ロートを読みました。
ところが「ロート」を話題にしても、誰も知らない
「誰、それ?」と言うばかり。それまで肩身の狭い思いをし
今に見ていろ、と思っていた見栄っ張りの私佐藤亜紀は、内心ほくそ笑みました。
人が知らない作家の作品を自分は読んだ…ただそのことだけが
私佐藤亜紀の頭の悪さも才能の無さも補って余りあるほど、自尊心をくすぐったのです。
それからすっかりハマりました、
あまり知られていない作家を漁れば優越感に浸れる…と。
田舎の高校から、頭悪いなりに在京の大学に進学し、それからも
私佐藤亜紀はその方向を守りました、
つまり、なるべく人の行かない方へいけば目立てるかも…と。
その間ロートはいつも、頭の悪い私佐藤亜紀が唯一自尊心を確かめるよすがとして
存在し続けました。
創作力は勿論、ただの文章力もないことは、田舎の高校の文芸部で
いやというほど自覚させられていましたが、
見栄っ張りだけで生きていた私佐藤亜紀は、なんとしても
優秀な同窓生や有名校に進学していったクラスメートを見返してやりたいと
執念のように念じていました。
名前を売りたい、そのためには賞を取らなければ…私佐藤亜紀は
そのことだけを考えるようになりました。
そこで眼をつけたのが、創設されたばかりの
「ファンタジーノベル大賞」でした。なによりも賞金の金額に最初に
惹き付けられたのです。それに、いくら頭の悪い才能のない私でも
ラノベだったらばなんとかなる…そんな気がしました。
いいえ、
なんとしても賞を取る、どんなことをしても!と私佐藤亜紀は決心したのです。
最初のヒントは、学生時代からハマって夢中になっていた少女漫画です。
萩尾望都の『アロイス』一つの肉体をもつ双子、この設定が物語の柱になる…
そうすれば
ファンタジーに必要な展開がいくらでも可能になる…私佐藤亜紀はまず
これをパクることにしました。
計算は緻密に立てました。まず審査員が誰かを調べ、彼らを完全に欺かなければ
なりません。頭に浮かんだのは勿論、私佐藤亜紀の貧しい自尊心を
支えてくれたヨーゼフ・ロートです。
ロートの訳者柏原兵三によるロート像だけしか知らなかった私佐藤亜紀は
ホテルを渡り歩いていたというロートの足跡を辿り
客死したというホテルのカフェを見て愚かな感傷に浸ったりもしました。
そんな体験が、ロートを盗むことに拍車をかけたのです。
翻訳された『ラデツキー行進曲』しか読んでいなかったので、続く作品
『皇帝廟』はなんとしても読む必要がありました。
ファンタジーノベル大賞を取るには、ロートの描く世紀末オーストリアの
独特の雰囲気や世情や時代背景など細緻な描写から盗むしかなかったからです。
日本では未訳だった『皇帝廟』を苦労して読み、
そしてまさか未訳のこの本を審査員の誰も読んでいるはずはない、
盗作は成功すると、確信しました。
ロートだけでは足りません、他にも、日本ではあまりポピュラーでない作家を
探し、たまたま読んだことのあるイーヴリン・ウォーの『ブライヅヘッドふたたび』が
ファンタジーにピッタリだと思い当たりました。
盗作の元ネタは決まりました。
萩尾望都の少女漫画『アロイス』が物語の基本設定、
そして未訳の『皇帝廟』を含むヨーゼフ・ロートの作品、
さらに貴族世界の諸々に関してはイヴリン・ウォーから。
審査員の顔ぶれを見ると、これら盗作元を全部詳しく読んで知っているはずはないと
確信できました。それ以上に
盗作ネタをいかに組み合わせ混ぜ合わせて、盗作がバレないようにするか、
そこに渾身の力を注ぎました。頭の悪さも才能の無さも克服して
賞を取って世間を見返すには、それしか方法がなかったからです。
そして
安野光雅氏ら、いかにも出来たてのファンタジーノベル賞らしいのどかな
審査員に盗作を見破られることなく、
別ジャンルからの複数盗作で盗作元を曖昧にごまかしてしまう私佐藤亜紀の
一世一代の大芝居、確信犯盗作は、みごとに成功しました。
賞と賞金を得て、私佐藤亜紀は有頂天でした。
内心にいつも怯えを隠していたので、必要以上に突っ張り、偉そうな物言いと
知恵あるフリをし続けることがをれからの私佐藤亜紀の生活の全てになりました。
ブログや2chの自スレで自作自演で自画自賛する毎日へつながる日々が
その時から始まったのです。
審査員たちは欺ける。そして賞さえ取れば
ラノベを読むような読者たちは、田舎の文芸部でも知らなかったロートや
ウォーの純文学など読むはずもない。読者にバレるはずは絶対にない、と
タカをくくっていました。
ところが、絶版になっていたウォーの『ブライヅヘッドふたたび』が
ドラマ化されWOWWOで流されたのは
賞を盗った翌年のことでした。それが、盗作がバレる最初のきっかけだったのです
萩尾望都の『アロイス』との類似は、賞直後から指摘され、私佐藤亜紀は
それは予測していたので計算通り、影響を受けたことを自分から語り、
萩尾自身に擦り寄ることで、危機を回避しました。
萩尾望都は自身のオリジナルの言葉やセリフに関してはじつに厳しいが
発想の類似や自分の作品に触発された低位後発の諸々に関しては
巨匠らしい寛大さを見せる作家だったからです。
案の定、萩尾対策はうまくいきました。
もう一つの危機は、ヨーゼフ・ロートの作品が翻訳&出版され始めたことでした。
作品集は鳥影社から順次
出版されました。その動向を私佐藤亜紀は、内心の怯えを抱えたまま注目していました。
忘れもしない1997年暮れに『皇帝廟』を含むロート小説集第4巻が
出版され、私佐藤亜紀は早速本屋へ走りました。
それを買って読んだ時の、なんともいえない感情を忘れることができません。
その時の、激しい気の滅入りようは、無論盗作した事実に起因しているのですが、
それを表明するわけにいかず、
さらに絶対に盗作を気付かれてはならないと思った私佐藤亜紀は
「原因不明の気の滅入りよう」「ロートは好きだがあんまりしっくり来すぎて
気が滅入る」と書くしかありませんでした。
盗作したことからくる、内心の異様な怯えと鬱屈する心理を
貧しい表現力ではそんな風にしか表わせず、そんなふうにごまかすしか方法が
なかったのです。
盗作の事実が少しずつ知られるようになったところへ
『皇帝廟』の翻訳が出回り、
私佐藤亜紀が工夫に工夫を重ねて、絶対にバレないと踏んだ複数盗作の基盤が
どんどん揺らいでいきました。
ハッキリと萩尾望都の『アロイス』と
ヨーゼフ・ロートの『皇帝廟』『ラデツキー行進曲』そして
イーヴリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』を指摘し、
私佐藤亜紀が
審査員を欺いて賞を盗んだ『バルタザールの遍歴』は
それら既成の作品を組み合わせただけのシロモノに過ぎないと、
厳しく指弾する声もあがりました。
それら一切を、聞こえないフリをして今日まで生きて来たのです。
様々な人々の、冷たい視線から逃げ
ブログに閉じこもって、自画自賛の妄想の中に住むようになりました。
かつて、盗作の事実から内心の怯えを気取られまいとして
反動的に突っ張っていた態度が、裏目に出て
多少は眼をかけてくれた人からも反感をかいました。
ブログで妄想を肥大させ、自分は盗作したラノベ作家ではない、と
思いこもうとしました、その一つの手段が、ラノベ板ではなく文学板に
自分のスレを立て、自作自演で自分を誉め続けることでした。
同時に、私佐藤亜紀がずっと抱えている強い学歴コンプレックスから
ラノベのスレを立ててマンセーすることや
純文学作家を貶めるレスを書くことに、精力を傾注しました。
完全なネット中毒患者で、一日中PCの前で2ちゃんねるを開いていなければ
気が狂うほどです。
文学板をアラシて、糞レスを撒く愚かな「盗作ラノベ婆」として
すっかり定着してしまった私佐藤亜紀ですが、
背景には、以上のような暗くて哀れな複数盗作の事実があったのです。
生涯の汚点であり、死ぬまで消えることのない記憶です。
たとえ他者が責めることがないとしても、盗作してしまった自分からは
一生逃げることはできません。
私佐藤亜紀は、墓場までこの重い事実を背負って逝こうと思います。
どうしようもなく気の滅入るのは
内心の怯えが毛羽立つ時です。そんな時は文学板に張り付いて、
純文学の作家たちを貶し罵倒する思い切り下劣なレスを書き散らすことで
どうにか精神のバランスを保っているのです。
私佐藤亜紀は、もう44歳です。恥多い半生でした。
少しでも悔い改めて、まっとうな生き方ができる日を、それでも
心のどこかでは願っています。
どうかアワレな私佐藤亜紀を許してください。確信犯盗作の消えない罪は
一生背負っていきますので。
文学板の皆さま、完全板違いの私佐藤亜紀の
日々繰り返す愚かな行為を、どうかお許しください。
どうしようもない深い病なのです。哀れんでください。