キクラゲがなければ冷やし中華などどうでもよかった。
私事で恐縮だがうちの惑星は徳島系で料理も田舎色が強く、冷やしそうめんの上には常に
総麺量の80%に達するほどの錦糸玉子、キュウリ、煮椎茸が載っていた。
そしてそれは冷やし中華においても同様だったのだ……
つまり私はこの惑星にやってくるまで、キクラゲが冷やし中華文明の必要欠くべからざる構成要素であることに
まったく無知だったというわけだ。
ああ、あのつややかな黒、これが菌類なのか?と思わず我が目を疑うようなストリームラインガジェット形状、
そしてコリコリ、いやコュリコュリとでも表記すべきニューウェーブな食感……
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10:2006/08/05(土) 00:47:18
キクラゲを食べたことがない訳ではない。
しかし、それは、あくまで中華あんのゲルの中に浮かぶ黒い異物でしかなかった。
それがどうであろう。
あの涼やかな黄色麺の上に、キュウリや錦糸玉子とともに坐し、
タレをからませたわずかな麺とともに箸でつまみあげられるのを待っているキクラゲ。
青臭いはずのキュウリが、場違いな甘みを持ったはずの錦糸玉子が、
味など持たないキクラゲの純粋衝撃によって激しく活性化する。
各勢力せめぎあいつつ、どんぶり上にひとつのバザール的混沌を現出し、
そうするうちに麺は原因不明の消失を繰り返し、タレ水面がわれら全ての視野を占めるようになり、
ついに終盤、麺上から脱落し沈殿してしまった具たちが、箸で攪拌されタレと完全に調和合一し、
カラシの効いたタレとともに宇宙的負圧ですすりこまれる茫然自失の結末へ。
これが、これこそがワイドスクリーンバロックだろう。
あの頃はキュウリ残してごめん婆ちゃん